酔龍の唄・ストーリー
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酔龍の唄
目次 (酔龍の唄・ストーリー)
第一章-酔錦安
酔錦安Ⅰ
新王様のおなーりー!
北朔王朝
光耀大陸
凍頂烏龍茶:余の辞表はここにございます。
北朔皇帝:義兄、これは……
凍頂烏龍茶が辞表を差し出すと、小さな皇帝は慌てて立ち上がり、焦りを見せた。
凍頂烏龍茶:そのように慌てるでない、気持ちを顔に出し過ぎです。さもないと、今後どのようにして他の大臣たちを統帥するおつもりですか?
北朔皇帝:し、しかし朕にとって義兄は大臣ではなく、家族だ。
凍頂烏龍茶:皇帝であるなら、この国の全てを家族と思わなければなりません。余から習った事をもうお忘れでしょうか?
北朔皇帝:……わかった。
小さな皇帝は少しずつ落ち着きを取り戻した。
北朔皇帝:……わかっている。ここ数年、義兄が朕を補佐してきたのは、母上の命令であってこそだ。母上が死去した事で、契約が解除され、義兄を束縛する物はもうない……其方はずっと母上の事を許せなかった、そうであろう?
凍頂烏龍茶は背筋を真っすぐ伸ばし、平然と笑いながら口を開いた。
凍頂烏龍茶:その通りでございます。余は確かに彼女を許す事は出来ません。
凍頂烏龍茶:しかし、彼女を理解してもらいます。
北朔皇帝:……何だと?
凍頂烏龍茶:誰でも執念を持っています、そして自分の執念を叶える方法も持っています。彼女は天に祈りを捧げた事で余の力を得て、貴殿を玉座に押し上げた。これは彼女の凄さだ。余は彼女を責めているが、納得もしています。
凍頂烏龍茶:今、余がここを離れようとしているのは、彼女を責めているからではありません。余にも自身の執念を持っており、それを成し遂げようとしているのです。
凍頂烏龍茶:食霊と人間は異なります。余の欲しい物を天が叶えて門前に持ってくてくれやしません、それを自分で追い求めなければなりません。
北朔皇帝:義兄の執念とは……?
凍頂烏龍茶は瑠璃鏡の縁を撫でた、何千何万回も同じ動作をしてきたような自然さを持って。
北朔皇帝はこれ以上問いたださず、凍頂烏龍茶が出した辞表に火を点けて燃やした。
凍頂烏龍茶:なんだ?
北朔皇帝:義兄がここを出たいのなら、朕はその意思を尊重しよう。しかし、朕がこの玉座に座ってこの天下を統治している限り、ここには永遠に義兄の居場所はある。
北朔皇帝:義兄が自らの執念を叶えられた暁には、北朔王朝はいつだって其方の帰りを歓迎しよう。
宮門外
北朔王朝
宮門前に豪華な馬車が止まっていた。凍頂烏龍茶はある腰の低い宦官と話をしていた。
凍頂烏龍茶:陳よ、余は言ったであろう、欲しいのは馬であって馬車ではないと。
宦官:新王様怒りをお鎮めください。この馬車は、太后様のご命令で用意致しました。
凍頂烏龍茶:お?
宦官:太后様が仰っておりました。新王様は国を守り、摂政もなさってきて、苦労を重ね、功績を上げてきました。此度の休暇は思い切って羽を伸ばしておいで、と。
凍頂烏龍茶:彼女の『気遣い』がなければ、余はもっと気持ち良く過ごせただろうな。
宦官:……
宦官はこれ以上話を続けられず、額に浮かんだ汗をしきりに拭き始めた。
凍頂烏龍茶:まあ良い、彼女の好意に対して礼を言っておいてくれ。
凍頂烏龍茶は二つの黒い宝珠をいじりながら、意味ありげに馬車の閉じられた暖簾を見つめた。
そして馬に跨り、手綱を握り締めた。
凍頂烏龍茶:行けーー!
宦官:新王様の、おなーりー!
雲をも突き破る龍の如く、凍頂烏龍茶は振り返る事なく馬に乗って去って行った。
酔錦安Ⅱ
はぐれた足手まとい。
郊外
北朔王朝
馬車は郊外まで出た。
厳重に警備された王城は既に見えなくなっていた。
凍頂烏龍茶:止まれ――
凍頂烏龍茶:いつまで隠れているつもりだ?
周りはとても静かで、誰も問いには応えない。
凍頂烏龍茶:良かろう、ではもう宮中に戻るとしよう。
エンドウ豆羊かん:待て!
馬車の暖簾が乱暴に開かれ、綺麗な格好をしている十二、三歳程の女の子が下りてきた。
エンドウ豆羊かん:帰るな!南に行くのじゃ!
凍頂烏龍茶:人使いが荒いぞ。どうして宮中で姫の生活を満喫しないんだ?
エンドウ豆羊かん:なんじゃ、其方は宮中から出て良いのに、妾は遊びに出たらダメなのか?
凍頂烏龍茶:太后様は許可したのか?
エンドウ豆羊かん:うるさい!妾は既にここに座っておるではないか!それはもちろん――
エンドウ豆羊かん:……許可されてない。
エンドウ豆羊かんは気まずそうに服の裾を引っ張った。しかしすぐに偉そうな態度を見せた。
エンドウ豆羊かん:妾を連れ戻すな!さもないと、さもないと、全員に其方がかつてやった事をバラしてやる!
凍頂烏龍茶:貴殿のおかげで、北朔王宮の中に、上から下まで余の黒歴史を知らない者は存在しない。お嬢ちゃん、前にも言ったが、切り札は持っておかないと意味がない。
エンドウ豆羊かん:……とにかく妾は帰らん!
エンドウ豆羊かんは駄々をこねて、馬車を掴んで離さない。
凍頂烏龍茶:付いてくるのは構わん。ただ貴殿も知っている通り、余は利用価値のある者としか付き合わない。
三十分後。
エンドウ豆羊かん:やあ!やあ!おい、良い馬じゃ、言う事を聞け……おいっ、こっちじゃ、こっち!
凍頂烏龍茶は馬車の中で揺られていた。彼はぶつけた頭を揉みながら、ため息をついた。
凍頂烏龍茶:(彼女に御者(ぎょしゃ)になってもらったのは……自分の首を絞めただけでは?)
数日後……
とある山谷
光耀大陸の中心部
陽ざしが強く、山道は進みづらい。
馬車の車輪は辛うじて一周回ったが、もうこれ以上動く気配はなかった。
エンドウ豆羊かん:ふぅ、疲れたじゃろ!
エンドウ豆羊かんは馬の背を叩いてから馬車を跳び下りた。手に持っている地図と周囲を見比べていた。
エンドウ豆羊かん:凍頂烏龍茶、其方が行こうとしていた場所はもうすぐじゃ!だかこの山は高すぎる!面白い物、良い酒と肉がある『錦安城』ってのは、本当にこの山の後ろにあるのか?
凍頂烏龍茶:信じないなら、付いてこなくて良い。
エンドウ豆羊かん:フンッ、ここまで来たからには、途中で抜けたりせん!其方が言う『天符の国』とは一体どんなもんか、見せてもらおうか!
凍頂烏龍茶:……うっ……
エンドウ豆羊かんが活き活きと話をしていると、突然凍頂烏龍茶の顔が青白くなって胸元を抑え始めた。
エンドウ豆羊かん:おや?どうしたのじゃ?
凍頂烏龍茶:……いかん、古傷が痛む。
エンドウ豆羊かん:えっ?
エンドウ豆羊かん:古傷?なんの古傷じゃ?
凍頂烏龍茶:『三年前、神を祀る祭典で余が凶霊を追いかけて崖から落ちた』……この話は、貴殿が人に会う度に話している事ではないのか?
エンドウ豆羊かん:えええ?あれは本当の話じゃったのか?
凍頂烏龍茶:嘘だ、全て余が仕組んだ事で、今のもわざとだ。
凍頂烏龍茶は弱々しく馬車に寄り掛かって、腹を立てて顔を背けた。彼は水筒で水を飲もうとしていたが、中は空っぽだった。
エンドウ豆羊かん:……こんな時ですら口が減らないのか其方は!待っておれ!妾が水を汲んで来てやろう!
エンドウ豆羊かんは水筒を奪い取って、近くの林の中に入って行った。
凍頂烏龍茶:……
エンドウ豆羊かんが離れていくのを見て、凍頂烏龍茶の顔色は元通りになった。
彼は馬車を降りて、自分の服を整えてから、何事もなかったかのように前に進んだ。
凍頂烏龍茶:(地図、馬車と路銀も彼女に残して、義理は十分に立てた。この先の道は、足手まといを連れて行きたくはない。)
凍頂烏龍茶:(遊びに行く訳ではない……)
凍頂烏龍茶:(ロイヤルゼリー……余の推測通り、故郷に帰っているのだろうか……此度ここへやって来たのは運試しと言ったところか。)
凍頂烏龍茶:(しかし、許してくれるだろうか……あのように真心を持って余に接してくれたにも拘らず、最終的に駒としてしか見ていない事を知って……)
凍頂烏龍茶はここまで考えて、足を止めた。
凍頂烏龍茶:……まあ良い、エンドウ豆羊かんは騒がしいが、せめて錦安城まで連れて行かなければ。その後は、彼女の勝手だ、余には関係ない。
凍頂烏龍茶はそんな事を考えながら、踵を返して足早に馬車の方へと戻っていった。
しかし彼が戻った時、馬車はあったが、エンドウ豆羊かんの姿はなかった。馬車に近づいて見ると、離れた時に暖簾に付いていた葉っぱはそのままだった。
凍頂烏龍茶:……つまりエンドウ豆羊かんはまだ一度も戻ってきていない……水汲みにどれだけ時間を掛けてるんだ。
酔錦安Ⅲ
錦安城で怪しい事件が。
凍頂烏龍茶とエンドウ豆羊かんは伝説の天府の城『錦安城』に向かっていた。
山谷を通った所で、水を汲みに行ったエンドウ豆羊かんはいつまでたっても帰ってこない……
無名の渓流
山谷
凍頂烏龍茶:いない……
彼は周囲を見渡し、最後に視線を先にある渓流の方に向けた。
凍頂烏龍茶:(周囲に野獣や霊怪が出現した痕跡はない。水を汲みに来ただけで、何か起きるのか?改めて現場を確認して、何か手掛かりはないか探ってみよう。)
凍頂烏龍茶は渓流の傍まで近づき、かがんで手で水を汲んで口元へと運んだ……
凍頂烏龍茶:(……この水……酒の匂いがする?)
君山銀針:やめろ!
凍頂烏龍茶が考えるより先に、遠くから声が聞こえてきた。彼が後退すると、目の前に銀色の光が過った。立ち止まって地面の方を見ると、そこには銀針が一本刺さっていた。
もし彼が後退していなければ、その銀針は彼の手に刺さっていただろう。
彼は銀針を拾い上げた。下流の方を見ると、女性が衣服を翻しながら、水面を駆けてくるのが見えた。すぐに、その女性は傍までやってきた。
彼女は険しい顔で彼に話しかけた。
君山銀針:その水は飲んではいけません。
凍頂烏龍茶:暗器が目の前にある故、飲む気にもならん。
君山銀針:そなたの命を救うため、このような行動を取った。気を悪くしたなら申し訳ない。
凍頂烏龍茶:貴公は?
君山銀針:某(それがし)は君山銀針。君山とは、雲夢沢の君山だ。
凍頂烏龍茶:……?
凍頂烏龍茶:では、雲夢沢とは?
君山銀針:雲夢沢とは、錦安城の雲夢沢だ。
凍頂烏龍茶:……
凍頂烏龍茶:つまり、錦安城の傍には雲夢沢という大きな湖があり、そこには君山という山がある。貴公はその君山から来たという事か?
君山銀針:まさにそうでございます!
君山銀針:それではそなたはここの水を飲もうとしたのか、この場所について良く知らぬが故に。
凍頂烏龍茶:その言い方だと、何かあったのか?
君山銀針:怪奇現象だ、これ以上怪奇な事は無い程に。
凍頂烏龍茶:詳しく聞こう。
君山銀針:この件は君山から話し始めなければ……君山には道観があり、某と師匠はそこに住んでいる。近くの人々は某らを神仙と見なし、祈祷によくやってきた。
君山銀針:数日前、某はいつも通り道観で掃除をしていたが、突然『助けて』と大声で叫びながら、数人が一人を担いでやって来た。
君山銀針:しかし、よく見ると担がれていた者は顔が赤く、熟睡していた。病気と言うよりは、まるで……
凍頂烏龍茶:酔っていた?
君山銀針:そうだ!その人らは錦安城から来たと言っていた。ひと月前のある日、朝起きると城内にある最も大きな井戸からお酒の味がするようになったと。
君山銀針:錦安城は元よりお酒もお茶も美味しい所だ。皆はこれを珍しくは思ったが、気には留めなかったそうだ。だが、日が経つにつれてそのお酒の味はより一層濃くなっていった。更にあらゆる水脈まで広がっていったという。度胸ある者が味見をしてみたところ、目覚めなくなったそうだ……
君山銀針:城内にお酒の匂いがどんどん満ちて行き、お酒に弱い者は匂いを嗅ぐだけで昏倒していくようになった。そこでいよいよおかしな事態になったと思った彼らは、君山に助けを求めに来たと言う。某はそれを聞いて、下山しこの件の調査に参った。
凍頂烏龍茶:なるほど。
凍頂烏龍茶:ここに居るという事は、錦安城の状況とこの場所が関係しているからか?
君山銀針:そうだ、こちらをご覧あれ。
君山銀針は袖から地図を取り出した。
酔錦安Ⅳ
破壊された方陣。
無名の渓流
夢回谷
君山銀針は袖から地図を取り出し、凍頂烏龍茶がそれを受け取った。
君山銀針:これは錦安城の水脈の地図だ。このお酒の味は源流から来ている筈だと思う。それはここから遠くない場所にある。
凍頂烏龍茶:(……この山は龍脊山……この山谷は夢回谷……雲夢沢は前にあり……錦安城は中央、龍脊山は後ろに……)
凍頂烏龍茶は地図を観察していくと、ある事に気付いた。
凍頂烏龍茶:錦安城は近頃何か改修してはいけない場所を改修していないか?
君山銀針:……どうしてそれを?
君山銀針の驚いた表情を見て、凍頂烏龍茶は自分の推測が正しいのだと確信を得た。
凍頂烏龍茶:地図を見ろ。
凍頂烏龍茶:龍脊山、夢回谷、錦安城、この三か所は天地人の三霊に対応している。雲夢沢という水脈によって三つが繋がり、大きな『陣』になっている。
凍頂烏龍茶:もし余の推察が合っているなら、ここには何か『邪な物』が抑えられていて、錦安城の人が勝手に改修を進めた事で、その何かが抑えきれなくなったのでは。
君山銀針:……
君山銀針:錦安城は山と湖に囲まれ、守りが固く攻めづらい。ここの人々の生活は豊かとは言えないが、平穏なものではあった。
君山銀針:しかしここ数年、その平穏な日々から抜け出そうとしている商人らが、龍脊山に穴を開けて北朔までの山道を作ろうと画策している。
君山銀針:その山道は……ひと月前に工事が始まったばかりだ。
凍頂烏龍茶:原因ははっきりした。
凍頂烏龍茶:水源はもう探らなくても良い。商会に行き山道を作るのを止めて、山を元通りにすれば良い。大陣を修復すれば、どんな怪奇現象であっても力を失い、元に戻るだろう。
凍頂烏龍茶:まだ用がある、失礼する。
君山銀針:待ってくれ!
凍頂烏龍茶:?
君山銀針:山を掘るのは容易だが埋めるのは難しい、根治する方法ではあるが焦眉の急を解決する事はできない。錦安城は今まさに危機に面している、何が災いしているのかを見つけ出したい。
君山銀針:烏龍殿とは知り合ったばかりではあるが、短い会話だけでたくさん学ばせて頂いた、どうか某に手を貸して頂きたい!
凍頂烏龍茶:……
以前であれば、凍頂烏龍茶は自分と関係のない事を気にする事はなかった。
しかし北朔を離れ、陰謀好計から距離を置いた今……別の生き方を試してみるのもありかもしれない。しかも、エンドウ豆羊かんの失腺はこの件に関係している可能性もある。
凍頂烏龍茶:良かろう、共に調べてやる。
酔錦安Ⅴ
滝の向こうに、何かがある。
滝
夢回谷
君山銀針と凍頂烏龍茶は手を組んで、錦安城酒酔事件の真相を調査する事となった。
地図に導かれ、二人は大きな滝の下までやって来た。耳に滝の音が響く。
凍頂烏龍茶は口と鼻を覆い、目を細めて滝の上方を見た。
霧が舞っているため、何もみえない。
凍頂烏龍茶:(酒の匂いが酷い……)
君山銀針:滝の上に行かなければ、事の真相がわからないようだな。
君山銀針は左右を見渡した後、岩を足場に滝の上まで登ろうとしていた。しかし岩壁は険しく、苔も生えているため、何度試してもうまく上まで上がれなかった。
凍頂烏龍茶:……
岩壁と格闘している君山銀針とは違い、凍頂烏龍茶は周囲の地形を観察していた。
彼は平々凡々に見える宝珠二つを空高く投げた。宝珠は空中まで浮かび上がると、火花が散り中から現れたのは――
凍頂烏龍茶:天雷、地火、滝の後ろに何があるか見て来てくれ。
二匹の小さな龍は声を上げながら滝の方へと飛んでいった。純白の水幕の前で立ち止まらず、真っすぐ突っ込んでいき、姿が見えなくなった。
君山銀針は驚きながら先程の光景を見ていた、凍頂烏龍茶は意外には思っていない様子だった。
凍頂烏龍茶:行くぞ、入ってみよう。
滝の内部
夢回谷
君山銀針:滝の後ろに洞窟があったなんて……どうしてわかったのだ?
凍頂烏龍茶:天は人を死に追いやる事はしない。
君山銀針:どういう意味だ?
凍頂烏龍茶:ここの地脈は絶っていないにもかかわらず、天然の塹壕(ざんごう)が立っていた、裏に何かが隠されていると。他に道がないのなら、最も無さそうな場所に、自ずと道がある。
君山銀針:なるほど!また学ばせて頂きました。
この洞窟は深く、光源は彼らが立つ人口しかなかった。前方は薄暗くなっており、どこまで通っているのかわからない。
凍頂烏龍茶:天雷、地火、道を案内しろ。
凍頂烏龍茶は二匹の小さな龍を呼び戻そうとしたが、次の瞬間彼は眉をひそめた。
君山銀針:どうした?そなたの伴生獣が見えないようだが?
凍頂烏龍茶:……
凍頂烏龍茶は自らの掌を見た、二匹の小さな龍が無事である事は感じ取れた。しかも危険はなく、機嫌も良い事も伝わって来ていた。
凍頂烏龍茶:(呼び戻せない状況は過去に無かった訳ではないが、いつも原因は……)
凍頂烏龍茶:!
凍頂烏龍茶:まさかあ奴が……
君山銀針:誰の事を言っているのか?
凍頂烏龍茶:……
凍頂烏龍茶は右目の上にある瑠璃鏡を上げて、前方に広がる未知なる暗闇を見た。
凍頂烏龍茶:いや、入ってみよう。
第二章-夢回谷
夢回谷Ⅰ
奇跡の出会い
未知の洞窟
夢回谷
光は徐々に消えていき、濡れている岩壁しか感じ取れなくなっていた。
凍頂烏龍茶は落ち着いて歩いているように見えるが、思っている以上に慎重に歩いていた――全ての人は、北朔の摂政(せっしょう)王は計略に長け、弱点のない食霊だと思っている。しかし、彼の致命的な弱点はその両目だった。
彼は召喚されてから、ずっと夜盲症に掛かっていた。薄暗い場所にいると、何も見えなくなる。
北朔で計略をめぐらしてきたが、一人しかこの弱点に気付く事はなかった。そしてその人がずっと彼の夜の目の代わりになっていた。
しかし、その後……
君山銀針:出口だ!
凍頂烏龍茶:ああ。
凍頂烏龍茶は光源を感じ取る事は出来なかったが、足を速めた……
滝の裏
夢回谷
二人は足早に進んでいくと、外に出る事が出来た。目を細めて陽の光を見上げて、凍頂烏龍茶がこっそりとホッと一息をついた。
ここは開けた山谷だ。『巨木』が洞窟の前にあったが、既に『枯れて』いた。遠くない所に、広い庭園が見えた。古き良き姿をしており、炊事の煙が立ちがっていた。
君山銀針:ここに人家があるとは?
君山銀針は驚きながら進んでいたが、目に見えない何かにぶつかった。
君山銀針:おっと!
凍頂烏龍茶が一歩前に出て、霊力を使って触れると――透明な空気に光の波紋が広がった。
君山銀針:これは食霊の結界!
凍頂烏龍茶:……
凍頂烏龍茶の体は、手を下ろす事すら忘れて固まった。
凍頂烏龍茶:(天雷や地火に認められる食霊は、あ奴しかおろん……しかもあ奴の故郷……)
君山銀針は凍頂烏龍茶の様子に気付く事はなく、ぶつけた頭をさすっていた。
君山銀針:ここに住んでいる人が錦安城の事件と関りがあるかもしれない……む?誰かが出てきたぞ!
『ギシッ』と軋む音が聞こえて来て、庭園の門は少しだけ開いた。
君山銀針:ボーッとしている場合ではない!敵か味方かわからぬ今、一先ず隠れよう!
凍頂烏龍茶は門に背を向け、無意識に呼吸を止め、振り返る事すら恐れた。
金思:ふぅ、重いな‥…おかしな日だ、変わった霊物ばかり拾うなんて!
君山銀針:あれ、女子だ……烏龍殿、彼女が持っているのは其方の伴生獣では……
凍頂烏龍茶:……
凍頂烏龍茶はやっと体の向きを門の方に向けた。
門は大きく開いており、見知らぬ白い服を着た少女が両手で籠を持っていた。籠に入っている金と黒はまさに凍頂烏龍茶の籠だった。その龍たちは、誰かに結ばれたのか絡まって、解けなくなっていた。
凍頂烏龍茶:(……あ奴ではなかったか)
凍頂烏龍茶はホッとしたが、落胆しているのか喜んでいるのか自分でもわからなくなっていた。
彼は手を握ると、薄っすらと汗が浮かんでいた。
凍頂烏龍茶:(考えすぎだ、こんな偶然に出会う事なんてある訳がないと、分かっている筈……)
ロイヤルゼリー:俺が処理する。
凍頂烏龍茶:!!!!!
君山銀針:む?もう一人出てきましたぞ!
金思:やめてください、ロイヤルゼリー。きっと貴方の事が好きだから絡んでいるんですよ……主人はいるのでしょうか……逃してきますよ。
ロイヤルゼリー:逃せばもう来ないのか?
金思:えっと……
ロイヤルゼリー:やっぱり殺そう。
金思:えっ!?
君山銀針:待て!早まるな!
黒い服の青年が鋭い刃物を持ち出したのを見て、君山銀針は慌てて跳び上がり、ついでに木の後ろに隠れていた凍頂烏龍茶も引っ張り出した。
君山銀針:烏龍殿!早く何か言ってくだされ!そなたの伴生獣が殺されそうになっておりますぞ!
凍頂烏龍茶:……
しかし、この時凍頂烏龍茶の頭は真っ白になっていた。
一方で、君山銀針は庭園にいる二人の注意を見事に引いた。
夢回谷Ⅱ
予想していた事は何一つ起きなかった。
ロイヤルゼリー:……
凍頂烏龍茶:……
夢回谷の空気が固まったようだった。
ロイヤルゼリーと目が合った瞬間、凍頂烏龍茶の脳裏に無数の予想が過った。
凍頂烏龍茶:(余はどういう反応をする?どういう反応をすればいい?ここまで来たのはたまたまだと言うのか?しかしあ奴を探しに来たのも確かだ、本当の事を言って逃げられたらどうする?いや、既に天雷と地火を見ている……余を殺そうとするのだろうか?)
しかし、彼が予想していた事は何一つ起きなかった。
ロイヤルゼリー:……
ロイヤルゼリーは淡々と彼を一目見てから、籠を破って、絡まっている天雷と地火を解き、何も言わずその場に立っていた。
龍たちは束縛から逃れても、ロイヤルゼリーの元から離れようとしなかった。凍頂烏龍茶は慌ててそれらを呼び戻し――龍は再び二つの宝珠に戻った。握ると、手を焼く程に熱かった。
金思:あれ?主が探しに来たのでしょうか?
龍たちが凍頂烏龍茶に呼び戻されたのを見て、女の子はハッとした。
金思:龍たちは貴方の霊獣ですか?ちゃんと見ていてくださいね、また迷子になってここまで入ってきたら、もう私にはロイヤルゼリーを止められませんよ。
凍頂烏龍茶:……感謝する。
金思:いいえ、大した事はしていません。早く離れてください、ここは貴方たちが来るべき場所ではないです。
君山銀針:お待ちを!某らがここに来たのは、霊獣を探しに来ただけではありません!
金思:……では何のために?
君山銀針は錦安城で起きた事件のあらましを全て話した。
金思:……そんな事が起きているのですね……だから今日拾った「昏睡した食霊」もきっと酔っぱらっていたのでしょう!
凍頂烏龍茶:……それは、もしや黒と金の服を着た、十三、四歳の女子ではないか?
金思:まさにそうです!あれ?まさか彼女も貴方の連れですか?
凍頂烏龍茶:……恥ずかしながら。
落燕居 庭
夢回谷
金思:私は金思。私と一緒にエンドウ豆羊かんを助けたのは冰糖燕窩です、私たちはずっと夢回谷に住んでいます。
金思:こちらです。
金思は結界を消し、凍頂烏龍茶と君山銀針を連れて廊下を歩いていた。
中庭にやって来た時、全員の背後で一つの人影が過った。
凍頂烏龍茶は足を止めて、振り返ると――黙ってついてきていたロイヤルゼリーが、何も言わず梁の上まで上がり、消えていなくなった。
凍頂烏龍茶:……
君山銀針:あの方に何か急用でも?
金思:ああ、彼はロイヤルゼリーです。知り合ってからずっとこうです。ちゃんと歩きませんし、一人でいるのが好きで、気にしないでください。
君山銀針:……ああ。
凍頂烏龍茶:…………
三人は歩き続け、ある部屋に辿り着いた。
その部屋の扉は薄く開いており、そこから薬の匂いが漂ってきていた。
金思:主、客人が来ています、そのお嬢さんを探しに来た者だそうです。
???:……入るといい。
金思はそっと扉を開けた。屏風の奥の寝台にエンドウ豆羊かんが横たわっていた。
ある女性が三人に背を向けたまま、エンドウ豆羊かんの治療を試みていた。
君山銀針:初めてお目にかかります、突然伺って申し訳ない。
女性は振り返って、静かに二人の方を見た――
冰糖燕窩:……嘘をついていていますね。貴方たちは彼女のために来た訳ではない。
夢回谷Ⅲ
まさかもう気にしていないとか……
薬房
落燕居
冰糖燕窩:貴方たちは彼女のために来た訳ではない。
凍頂烏龍茶:……
凍頂烏龍茶:(彼女の目は……余たちの考えを読み取れるのか……)
金思:えっ?悪い人たちなんですか?!
君山銀針:いや、決して悪者ではない。
冰糖燕窩:怖がらなくていいですよ、彼らには別の目的があるけれど、悪意はないみたいですし。
君山銀針:ふぅ……その通りです!
金思:良かった……冰糖燕窩のように食霊だったから入れたんです。人間だったら話すら聞きませんでした。
冰糖燕窩:食霊なのに、人間の事で尋ねてきている……まあ良いでしょう、何事にも因果がある、このお嬢さんが眠っている事にも関係のある事でしょう。聞かせて頂きましょう。
冰糖燕窩:……
冰糖燕窩:己の欲のためだけに、山を開いて道を作り、水脈を壊し、最終的にこのような事態に……何年経とうと、人間は悔い改める事を覚えようとしないものですね。
君山銀針:その通りだが、誰しも過ちを犯す事はあるでしょう?
君山銀針:某らであっても、過ちを犯す事はある。この件を通して、悔い改められるよう導ければ良いではないか。
凍頂烏龍茶:……
凍頂烏龍茶は話を聞いていると、心に掛かっていた靄(もや)が晴れていくような感覚がした。
彼は冰糖燕窩の方を見て口を開いた。
凍頂烏龍茶:錦安城の水源は夢回谷入口の崖の上にある。事態がこのまま進めば、夢回谷にも被害が及ぶ可能性がある。この谷の主として、状況を把握するべきではないか。
冰糖燕窩:……黙って見過ごす事はしません。明朝、滝の上までご案内します。
冰糖燕窩:金思、彼らを客室まで案内してあげてください。
夜
夢回谷
その夜、月明かりは白々と光り輝いていて、部屋に銀色の光が満ちていた。
凍頂烏龍茶は目を閉じたまま、肌寒さを感じていた。
彼は寝台に横たわっていたが、眠気はなかった。脳裏ではロイヤルゼリーと再会した場面が幾度となく繰り返されていた。
凍頂烏龍茶:怒る事なく、逃げる事もなく、知らないフリをされた……
凍頂烏龍茶:まさかもう気にしていないとか……
凍頂烏龍茶は人の心を熟知しており、「気にしている」かどうかが大事になってくる。もし心が死んでいるなら、彼がどんな手を使ってももう為す術はない。
凍頂烏龍茶:(この夢回谷も妙だ……ロイヤルゼリーは群れる事を嫌っている筈だが、ここに滞在しているのは……冰糖燕窩と金思は何者だ、ここで何をしている……)
――コンコンコン。
この時、扉を叩く音が鳴り、凍頂烏龍茶は目を開いた。
金思:金思です、薬をお持ちしました。
凍頂烏龍茶:……部屋を間違えたのだろう。エンドウ豆羊かんは君山銀針の部屋にいる。
金思:彼女とは関係ありません。全員飲まなければならない薬です、扉を開ければわかります。
金思はこれ以上語ろうとしなかった。小さな影が月光によって扉に映され、少し怪しい雰囲気を纏っていた。
夢回谷Ⅳ
彼女は上古の霊族?
深夜の夢回谷、凍頂烏龍茶は眠りにつくことが出来ないでいたところ、突然金思が訪ねて来た。
金思:早く出てきてください、貴方が飲み終えたら他の人にも届けに行かなければなりません。
凍頂烏龍茶は袖の中で宝珠を掴んだまま、扉を開けた。
金思:遅いですね、はいこれは貴方の分です。
扉を開けると、先程までの怪しい雰囲気はなくなった。金思は昼間と何一つ変わった様子はなかった。彼女はお盆を持っていて、そこには黒い薬湯が置いてあった。
凍頂烏龍茶:苦労をかけた、それは何の薬だ?
金思:これは主が配合した薬湯です。夢回谷には「瘴気」があり、長時間ここにいると体が耐えられなくなります。明日どうなるかわからないので、この薬湯を飲んで瘴気への抵抗力を強めてください。
凍頂烏龍茶:……瘴気?それは一体?
金思:瘴気は瘴気です、古来から存在していますよ。本来それを抑えるのは私の一族の責任でしたが、意気地がなく手違いが生じました。主が来てくれたおかげで、何とか守れています。
ここまで聞いて、凍頂烏龍茶は警戒して金思の方を見た。
凍頂烏龍茶:失礼だが……金思嬢は……食霊ではないのか?
金思:あら?気付かれました?
金思は隠そうとするそぶりをしなかった。
金思:私は確かに食霊ではありません。我が一族は「血飛燕」と呼ばれ、「南離族」の霊族の一つです。
凍頂烏龍茶:南離……上古四大氏族が一つ、南方の「朱雀神」が管轄している氏族か?
金思:はい。
凍頂烏龍茶:……上古の霊族だったか……余が知っている限り、上古の霊族は人の世から姿を消していたとばかり。まさかここで会えるとは、失敬。
金思:姿を消した訳ではありませんよ、霊力がなくなって死んでいっただけです、それで見つかる訳がありません。
金思は自嘲気味に笑った。
凍頂烏龍茶:……
金思:他に質問はありますか?
凍頂烏龍茶:……冰糖燕窩とロイヤルゼリーはどうして一緒に暮らしているんだ?
金思:その質問はおかしいですね。二人は兄妹なので一緒に暮らしているのは当然かと?
凍頂烏龍茶:兄妹?
金思:そうですよ。しかし、ロイヤルゼリーはずっとここに住んでいる訳ではありません。彼は「三年」前ここに来ました、何があったかわかりませんが、帰ってきたばかりの頃は「傷だらけ」でした。
凍頂烏龍茶:……なら、彼は貴公らに何があったか話した事はないか?
金思は首を横に振った。凍頂烏龍茶が心の中でホッと一息つくまえに、金思は口を開いた――
金思:何を聞いても無駄ですよ、過去の事は全て忘れているみたいで、何も思い出せませんから。
夢回谷Ⅴ
覚えていない?
夜
夢回谷
凍頂烏龍茶は聞いたその話を信じることが出来なかった。
凍頂烏龍茶:(覚えていない?どうしてこんな事に?)
彼は目を閉じて俯き、荒れ狂っている内心を隠した。
凍頂烏龍茶:……感謝する、他に聞きたい事はない。
金思:わかりました、もう行きますね。薬湯は熱いうちに飲んでください。
金思は空になったお盆を持って、飛び跳ねながら去って行った。
凍頂烏龍茶は部屋の入り口に立ち、金思が曲がり角を曲がって見えなくなってから、薬湯を全て花壇の中にぶちまけた。
夜 別の庭園
夢回谷
草花が生い茂った庭園、月光の下全ての花が幻想的な輝きを放っていた。
黒と金の影は稲妻のように花々の中に入って行った。それらがこの美しい景色を壊す前に、素早く回収されていった。
凍頂烏龍茶:(……まさかこんな所にいるとは。)
道案内をお願いしていた天雷と地火を回収し、凍頂烏龍茶はロイヤルゼリーの庭に立ち入った。
――この世で、目に見える物が真実とは限らない、噂は更にそうだ。
本当かどうが、自ら確認し、向き合わなければならなかった。
薄暗い夜、周りは静かで人影はなかった。凍頂烏龍茶は歩きながら、心の中で数えていた。
凍頂烏龍茶:(……三、二、一。)
キンッ――
黒い服を着た人影が彼の予想していたタイミングで現れた。ロイヤルゼリーは鋭い刃物を持って、凍頂烏龍茶の首元を刺そうとしていた。
凍頂烏龍茶は微動だにせず、相手の眼を見つめていた。
――攻撃している時は、本当の気持ちを隠す事は難しい。
凍頂烏龍茶:(教えてくれ、本当に過去の全てを忘れたのか?)
ロイヤルゼリー:……
ロイヤルゼリー:ここは俺の庭だ、道を間違えてる。
凍頂烏龍茶:……
まさか、侵入者の顔を確認した後、ロイヤルゼリーは武器を収め、静かに話した。
凍頂烏龍茶:……ああ、失礼。夜になると目が見えづらくなる故……金思嬢に茶碗を帰しに厨房へ行った帰り、客室に戻ろうとしたが、ここまで来てしまった。余は凍頂烏龍茶、北朔から参った……
ロイヤルゼリー:客室はここから出て、左に曲がって廊下を二本挟んだ先にある。
凍頂烏龍茶:……感謝する。
ロイヤルゼリーは話終えると離れていき、これ以上話す気はないようだった。凍頂烏龍茶は言いかけた言葉を飲み込んで、会釈をしてからその場を離れる事にした。
凍頂烏龍茶:(……普通の表情、余の名前、薬、北朔に対しても反応がない……本当に忘れたのか……)
ロイヤルゼリー:待て。
凍頂烏龍茶:!!!
背後からロイヤルゼリーの冷たい声が聞こえてきて、凍頂烏龍茶はその場で固まってしまった。
凍頂烏龍茶:(思い出したのか?)
足音が徐々に近づいてきた、大きくないその音は、何故か凍頂烏龍茶の心を軋ませた。
ロイヤルゼリーは静かに彼の横を通り過ぎて、前に進んだ。
ロイヤルゼリー:灯りがないから、連れてってやる。
凍頂烏龍茶:……ああ、助かる。
第三章-天池の龍
天池の龍Ⅰ
主は焦っている。
翌日
夢回谷
凍頂烏龍茶:(……余に何が?)
凍頂烏龍茶は耳元で響く大声によって起こされた。
一晩夢も見ず、寝台にただただ身を委ね――ここ三年で、初めてこのように深く眠る事が出来た。
彼はゆっくりと目を開いては閉じて、陽ざしに照らされて宙に浮く塵を見ていた。
凍頂烏龍茶:(床に落ちている。)
何の予兆もなく、彼の心の声はこう話した。
君山銀針:どうしたんだ?起きてこない!まさか何かあったのでは?
ロイヤルゼリー:昨晩送った時は普通だった。
君山銀針:え?どこに行かれたのですか?
ロイヤルゼリー:どこにも行ってねぇ。
君山銀針:なんだ?
凍頂烏龍茶:(……彼が全てを忘れたのは悪い事ではないかもしれない。)
凍頂烏龍茶は静かにそこまで話を聞いて、深呼吸してから立ち上がり扉を開けた。
凍頂烏龍茶:おはよう。
ロイヤルゼリー:もうはやくない。
ロイヤルゼリーはそれだけ言って去って行った。
君山銀針:やっと起きた!早く、急いで出発しなければ!冰糖燕窩は既に滝の方へと向かっている!
凍頂烏龍茶:何が起きたのか?
凍頂烏龍茶はロイヤルゼリーの背中を見つめながら、こめかみを揉んだ。
君山銀針:金思も被害に遭った!
凍頂烏龍茶は動きを止めて、表情が険しくなった。
君山銀針:今朝、冰糖燕窩が彼女を探しに行った時、彼女も昏睡している所を見つけた。症状はエンドウ豆羊かんと同じだ。
凍頂烏龍茶:しかし、彼女はあの水に触れていない。
君山銀針:故に冰糖燕窩は心配している。早く滝へと向かおう、彼女に何かあったら遅い。
凍頂烏龍茶は何かがおかしいと気付いていたが、君山銀針は彼を引っ張ってすぐ走って行ったためそれ以上考える事はできなかった。
滝
夢回谷
滝を通ってすぐ、凍頂烏龍茶の耳元には水の音と別に、うるさい声が聞こえていた――
君山銀針:これらは……燕か?
飛燕の群れが崖の傍で旋回し鳴き声を上げていた。
凍頂烏龍茶が目を凝らしてみると、崖の傍で簡易的な梯子(はしご)が徐々に出来上がっていた。冰糖燕窩は崖の下に立って、顔色一つ変えず燕を指揮していた。
君山銀針:……本当に焦っているようだ。
この時、ロイヤルゼリーが前に出た。
ロイヤルゼリー:先に行く。
冰糖燕窩:ああ。
冰糖燕窩が頷いた。そして彼女が袖を振るうと梯子を残して全ての燕は消え失せた。ロイヤルゼリーは岩壁を踏み、身を翻し、数度跳ぶと崖の頂上まで上がって行った。
君山銀針:素晴らしい身のこなし!
君山銀針は思わず声を上げたが、凍頂烏龍茶は眉間に皺を寄せた。
凍頂烏龍茶:(どうして直接飛んでいかなかった?……これ程時間が経ったにもかかわらず、背中の傷はまだ治っていないのか?しかし余が手を下した時は……手加減はした筈だ……)
凍頂烏龍茶がそれ以上考え込む前に、崖の上にいたロイヤルゼリーの一瞬固まった様子を見た。彼は何か変な物を見たようだった。彼は凍頂烏龍茶の方に振り返ると、人差し指を口に当てて、声を出すなと指示した。
ロイヤルゼリー:シー。
天池の龍Ⅱ
龍ではないのなら、一体なんだ?
滝
夢回谷
ロイヤルゼリー:シー。
君山銀針:なんだ?上に何かあるのか?
凍頂烏龍茶:登ったらすぐわかるだろう。
凍頂烏龍茶も梯子を登った。
凍頂烏龍茶:これは……!
彼は理解した、ロイヤルゼリーがみんなを静かにさせた理由を。
崖の頂上、滝の源は雲霧が揺らめく天池があった。しかしその池の隣には、体をぐるぐると巻いている巨大な黒龍がいた!
龍は庭園程度の大きさがあった。今は寝ているが、その呼吸だけで強い風が吹いた。
君山銀針:それは……
冰糖燕窩:……
君山銀針:凍頂烏龍殿、そなたは見識が広い、これをどう考える?
凍頂烏龍茶:……龍は光耀大陸の伝説の神獣、上古時代の戦争で亡くなったはず。現在まだ生きている神君「青龍」であっても、青龍の神格を得て誕生した人間にすぎない。
君山銀針:青龍神君……彼の事は一先ず置いて。しかし、凍頂烏龍殿の伴生獣の天雷と地火も龍の姿をしていた。
凍頂烏龍茶:天雷と地火は龍型の霊獣だが、本物の龍ではない。あ奴らは成長しない、そして伝説の龍のような力も持ち得ていない。
凍頂烏龍茶:余が知る限り、千年前に霊族がなくなった原因は世の霊脈が急に涸れたから。あの状況で、このような大きな龍が生き残るのはどう考えても不可能だろう。
君山銀針:しかし我々の目の前に確かにいる……龍でないのなら、一体なんなんだ?
凍頂烏龍茶:余も知らぬ、ただ……
凍頂烏龍茶は自分の宝珠を撫でていた。彼は、天雷と地火が出たくなさそうにしているのを感じ取った。
凍頂烏龍茶:(龍ではないにしても、天雷と地火をここまで恐れさせるなど……恐らく本物の龍と関係があるのだろう。)
君山銀針:足元を見て!
凍頂烏龍茶は君山銀針が指す方向を見た――煙の中、爪の下にある壺のような物から液体がどくどくと天池に注がれていた。
ロイヤルゼリー:酒壺。
隣のロイヤルゼリーはすぐに気付いた。
君山銀針:つまり、錦安城の水はこの酒壺の酒に汚染されたのか?これは一体どんな怪物なんだ?
冰糖燕窩:わかりません、しかし解決しなければなりません。
凍頂烏龍茶:焦るな、まだ相手の実力がわからないうちは、しっかり計画を練ろう。
冰糖燕窩:しかし……
ロイヤルゼリー:俺も賛成だ。
凍頂烏龍茶は少し驚いた。彼は振り返ってロイヤルゼリーを見たが、ロイヤルゼリーの目はあの龍を見つめていて、まるで何も言っていないかのような表情をしていた。
冰糖燕窩:……では今のこの状況はどうすれば良いでしょうか?
凍頂烏龍茶は視線を戻した。
凍頂烏龍茶:金思は突破口かもしれん。
凍頂烏龍茶:川の水に触れずに意識を失ったのは彼女だけ。だから彼女に何があったのかをはっきりさせなければならない。
冰糖燕窩:……
冰糖燕窩:わかりました。夢回谷のある場所に生霊が近づくと、時間を遡る事が出来ます。それを利用すれば、昨夜の金思の行動を調べる事が可能かと。
凍頂烏龍茶:そうしよう。長居は無用だ、彼を起こさないように一旦撤退しよう。
他の三人も凍頂烏龍茶の提案に賛成し、撤退しようとした瞬間、突然――
エンドウ豆羊かん:ここは高すぎなのじゃ!登っただけで疲れたのじゃ!
凍頂烏龍茶:(しまった。)
何故エンドウ豆羊かんがここに現れたのか考える余裕はなかった、凍頂烏龍茶は振り返って見たところ、やはり――
元々ぐっすりと寝ていた酔龍の髭が少し動き、ゆっくりと瞼を開いた……
天池の龍Ⅲ
目が醒めたようだ。
酔龍はゆっくりと瞼を開いた。その真紅の目は凍頂烏龍茶たちの方向を見た。
危機一髪の瞬間、黒い影が一閃し、ロイヤルゼリーはエンドウ豆羊かんの口を抑えた。
エンドウ豆羊かん:うううっ!
ロイヤルゼリー:黙れ!
エンドウ豆羊かん:……
ロイヤルゼリーが小声で唸った所、エンドウ豆羊かんはやっと黙った。他の者も息を殺したところ、酔龍は再び目を閉じて微動だにしなくなった。
エンドウ豆羊かん:ぷは――!
エンドウ豆羊かんは窒息しそうになっていた。彼女は息を吸いながら、やっと今の状況を理解した。
エンドウ豆羊かん:なんじゃ……これは幻覚か?何故こんなに大きな龍が?
冰糖燕窩:貴方はどうやって目を覚ましたのですか?金思は?彼女はどうしていますか?
エンドウ豆羊かん:えっ?あの白い服を着たお姉さんか?
冰糖燕窩:まさに。
エンドウ豆羊かん:元気じゃよ、妾を呼び起こしたのも彼女じゃ。そして彼女が妾に早く其方たちを探しに来させたのじゃ!
冰糖燕窩:どう言う事でしょうか?
エンドウ豆羊かん:ううう……頭がくらくらする……うん?綺麗なお姉さん?其方は誰じゃ?
金思:詳しい説明は後でします。お願いします、私が言った場所に行ってください。凍頂烏龍茶はあそこにいます、一つ重要な事を彼らに伝えてください!
エンドウ豆羊かん:えっ?
金思:エンドウ豆羊かん、早く!
凍頂烏龍茶:……
エンドウ豆羊かん:妾も何が起こったのかわかっておらぬ!ただ其奴のために水を汲みに行った途中で意識を失った。一体何があったのじゃ?凍頂烏龍茶、行き先は錦安城であったろう?ここはどこじゃ?
凍頂烏龍茶:金思はどんな伝言を?
エンドウ豆羊かん:えっと……待っておれ……そうじゃ、彼女は「絶対にあいつを起こさないで」と!
凍頂烏龍茶:……
君山銀針:……
冰糖燕窩:……
ロイヤルゼリー:目が醒めたようだ。
大地が震えた瞬間、全員が振り返った。黒龍はいつの間にか再び目を開けていた。そして彼は雲霧の中、龍の尻尾を持つ少年へと姿を変え、一つ背伸びをした。
暴飲王子:うん……あああ!良い夢を見た!貴様たちは誰だ?俺様と一緒に酒を飲みに来たのか?
彼は尻尾を振って、勢いよく全員に襲い掛かった!
未曽有の死闘が始まる……
天池の龍Ⅳ
俺は絶対にてめぇの事を許さねぇ!
天池
夢回谷
エンドウ豆羊かん:うわ!強すぎる!どうすればいいのじゃ!
暴飲王子:あ~あ――俺様は怒った!一緒に酒を飲みに来たんじゃないなら、何をしに来たんだ!
エンドウ豆羊かん:それもそうじゃ!何故其奴と戦わなければならないのじゃ?
君山銀針:そなたは何者だ?何故ここにいる?
暴飲王子:うるせぇ!俺様はここで生まれた、この山の主だ!
君山銀針:そなたの酒が滝に流れたせいで、麓にある城の人が全員酔いつぶれた。
暴飲王子:おっ!良いじゃん、酔ったら悲しい事も困る事も全部なくなる!
君山銀針:他の人が貴方と同じように物事を考えていたなら、日常が乱されるだろう!
暴飲王子:俺様と関係ねぇ!おいもう一度聞くが俺様と一緒に飲まないか!?
凍頂烏龍茶:話を聞かない奴だ。
暴飲王子:酒を飲みたくないんだな、じゃあつまみになれ!
暴飲は酒壺の酒をごくごくと飲んだ、じろじろ凍頂烏龍茶を見つめて――
暴飲王子:貴様美味しそうだな、じゃあ貴様から頂こうか……
暴飲は口元を拭くと、巨龍の姿に戻った。彼は空から急降下し、大きな口を開けて凍頂烏龍茶に襲い掛かった。
凍頂烏龍茶は急いで崖の縁まで後退した。
暴飲は怒って地団駄を踏むと、崖に亀裂が出来た。凍頂烏龍茶は足を踏み外し、割れていく岩と共に下に落ちていった。
間一髪のところ、誰かが彼の手を掴んだ。
ロイヤルゼリー:……
凍頂烏龍茶:……
耳元では風の音が鳴っていた。君山銀針たちは必死で黒龍の攻撃に抗っていた。凍頂烏龍茶は目の前の光景を昔の記憶と重ねた……
三年前、同じく崖の縁で、落ちそうになっていた彼の手をロイヤルゼリーが掴んでいた。
ロイヤルゼリー:どうしてだ?
凍頂烏龍茶:……貴公は殺し過ぎた。新皇帝が玉座に座るため、貴公が最も相応しい供え物だ。
ロイヤルゼリー:俺はてめぇのため人を殺したんだ!
凍頂烏龍茶:この全てを手配したのは、余だ。
ロイヤルゼリー:俺を裏切った事を認めるのか?
凍頂烏龍茶:はい。
ロイヤルゼリー:……これは最後のチャンスだ。
ロイヤルゼリー:俺がてめぇの計画の一部だと言えば、てめぇを引き上げてやる。
凍頂烏龍茶:……無い。
凍頂烏龍茶:……他の計画はもうない、最初からずっと貴公が狙いだった……早く手を放せ、さもないと追っ手が来る。放せ、長年の助けてくれた礼として、最後に逃げるチャンスをやる。
ロイヤルゼリー:……
ロイヤルゼリー:俺は絶対にてめぇの事を許さねぇ!
追っ手の叫び声の中、凍頂烏龍茶は崖から落ちていった……
ロイヤルゼリー:おい!しっかり掴め!
ロイヤルゼリーの声で、凍頂烏龍茶の意識は昔の記憶から戻ってきた。黒龍はまだ咆哮していた。凍頂烏龍茶はロイヤルゼリーの腕をしっかりと掴んだ。
第四章-四方の神
四方の神Ⅰ
ここは神廟。
凍頂烏龍茶:……感謝する。
ロイヤルゼリーは何も言わず、黒龍との戦いに戻った。
全員が必死で抵抗していたが、ここに存在するべきではない上古時代の黒龍を前に、食霊だけの力では太刀打ちできない。
凍頂烏龍茶たちの力がまもなく限界になろうとした時、突然天池の後ろの空き地に空から光が注がれた。
その眩しい光の中に、一つの神秘的な寺が現れた。
金思:皆!早くこっちに来てください!
全員すぐ寺の方へと走って行った。
冰糖燕窩:燕よ、来なさい!
冰糖燕窩が召喚した無数の燕が飛んで来た黒龍の視線を遮った。その隙に食霊たちは逃げる事が出来た。
重い山門を閉めると、黒龍は外に閉じ込められた。
寺の中
崖
龍の叫び声が消えた。
エンドウ豆羊かん:はぁ……驚いた!綺麗なお姉さん助かったのじゃ!
金思:無事で良かったです。
君山銀針:金思嬢、一体どういう事だ?そしてここはどこなんだ?
金思:説明する前に、まず入りましょう。
寺の四方に四つの彫像が置かれていた。彫像の間には多くの赤い線が繋がっていた。
凍頂烏龍茶:寺というより、ある意味「法陣」と呼んだ方が的確か……
エンドウ豆羊かんは凍頂烏龍茶の傍に引っ付き、辺りをキョロキョロと見回していた。
凍頂烏龍茶:(こ奴も怖がったりするのか?まあ知らない場所で目覚めてから、色んな目に遭ったな、こ奴が一番信頼しているのは余なのか……)
凍頂烏龍茶:(まあ良い、今回はからかわないでおこう。)
凍頂烏龍茶:これは四方の神君だ。
エンドウ豆羊かん:なんじゃそれは?
君山銀針:古くから光耀大陸が祀ってきた四神だ――東の青龍、西の白虎、北の玄武、南の朱雀。全て天地と共に生きている霊獣だ。
凍頂烏龍茶:そうだ、しかし四神の信徒たちは自分の縄張りを切り分け、お互いに争いが続けてきた……この寺は、同時に四神を祀っているなど……余の予想通りなら、この寺は……伝説の「神廟」であるな。
君山銀針:「神廟」、だと?
エンドウ豆羊かん:それはまた何じゃ?
君山銀針:師匠から……神廟の話を聞いた事がある……上古時代の光耀大陸、まだ堕神も食霊もいない時代、霊族はこの世を支配していた。
君山銀針:四体の最強の霊物は光耀大陸の東南西北を占拠し、彼らは縄張り争いを繰り広げ、お互い譲事はなかった……ある悪魔が出現するまでは。
君山銀針:あの時、ある神々の戦いの後光耀大陸の神は全員眠ってしまった。あの悪魔はその機に乗じ光耀大陸に現れ……その後、数多の命が散り、霊族も堕化した……
君山銀針:危機的状況の時、師……青龍神君が世に降臨し、再び四方霊族の力を集め、あの悪魔を鎮圧した。
「神廟」とは、彼が四方の力を集めた場所。
凍頂烏龍茶:神廟の所在は、光耀大陸の中心であるここ――龍脊山。
凍頂烏龍茶:そうでしょう?金思嬢。
金思:……
四方の神Ⅱ
散り散りになった飛燕たち。
神廟
龍脊山山頂
凍頂烏龍茶たちは龍脊山の山頂で酔龍と戦い、途中で神秘的な寺に撤退した……
状況を確認すると、ここは伝説の青龍神君が千年前に建てた「神廟」の可能性が高かった。
凍頂烏龍茶:そうでしょう?金思嬢。
金思:……そうです、仰る通りです。
金思は南の朱雀神君の彫像を見ながら、遙かな昔を見ているようだった……
金思:我が一族は、元々南離の朱雀の民です。
金思:あの悪魔が出た後、多くの霊族が堕化し、殺さなければいけなくなりました……ずっと争っていた四方の霊族も初めて力を合わせました。
金思:青龍神君は四方霊族の残存者を集め、光耀大陸の中心部に神廟を建て、悪魔に宣戦しました。我が血飛燕一族は、それほど強い力は無いが、その呼びかけに応えました。
金思:青龍神君が強い霊族たちを率いて、光耀大陸の中央であの悪魔と数か月間戦いました……
金思:結局、陣法で彼を地下に封印する事しか出来ませんでした。
金思:悪魔を完全に消滅させるのは不可能でした。封印も絶え間なく修復していかなければならず……
金思:我が一族は治療の力を持っているため、あの悪魔に侵食された植物を治療するために、代々この夢回谷に住んできました。
金思:しかし、千年経て、外からの誘惑は益々多くなる一方……多くの仲間は人の姿に化け、夢回谷から離れていき……人間の世界で自由に生きています……今、ここに残っているのは私だけ……
金思の言葉を聞いて、凍頂烏龍茶は滝の後ろで見た枯れた巨木の事を思い出した。
金思:我が一族の治療がなくなり、悪魔を封印する植物たちが徐々に枯れていきました。そして封印の力が弱まったため、悪魔の瘴気が夢回谷に満ちました……ここ数年、冰糖燕窩の協力がなければ、人間の世界はとっくに滅びていたかもしれない……
冰糖燕窩:私はただこの土地を心配しているだけ、そこまで深い事は考えていません。
金思:しかし本当に多くの命を救ってくれました。
凍頂烏龍茶:待て、その話と外にいる酔龍と何の関係が?
四方の神Ⅲ
夢回谷の事はお願いします。
金思:あの酔龍も神廟の計画の一部です。
金思:青龍神君は霊族の守りに限界があると気付きました。なので、神廟は夢回谷を守る霊族が「最後の一人」になると、自動的に新たな守護霊を「産む」事になっていました。
エンドウ豆羊かん:どういう事じゃ?
エンドウ豆羊かん:つまり、この神廟はまだ働いているという事か?
金思:はい。
金思:この神廟の本質は法陣であります。しかし、産み出した守護霊の攻撃性はこれ程に高くない筈。
金思:しかし錦安城の人間がここの地形を破壊したせいで、守護霊は瘴気を吸い込み、暴飲という堕神が誤って誕生しました。
金思:暴飲は錦安城の人間の「酒を飲んで楽しみたい」欲望の影響を受けて今の様子になりました。なので、お酒を飲む事しか考えておらず、全ての人が酔えば良いと思っています。
エンドウ豆羊かん:なるほど!
君山銀針:事の顛末を知っても、依然として暴飲の問題を解決する事はできない。
金思:心配いりません、私に良い考えがあります。
金思:……私は青龍神君の言伝を受けました。あの方は私にエンドウ豆羊かんを呼び起こす方法を教えてくださった。そして、暴飲に私の命令に従ってもらい、ここから離れる方法も教えてくださいました。
エンドウ豆羊かん:本当か?良かった、これで助かる!
金思:この後山門を開け、彼と会話してみます。貴方たちは先に避難してください、もう彼を怒らせないでくださいね!
金思は振り返って、冰糖燕窩の手を掴んだ。
金思:主、影響を最小限にするため、私は暴飲を誘導して遠い場所に行って参ります……長い間帰って来られないかもしれません……夢回谷の事はお願いします。
凍頂烏龍茶:……
凍頂烏龍茶:待て。
金思:どうしました?他に聞きたい事があるんですか?
凍頂烏龍茶:貴公は嘘をついている。
四方の神Ⅳ
金思嬢、貴方は嘘をついている。
凍頂烏龍茶:金思嬢、貴公は嘘をついている。
金色は少し慌てた表情をした。
金思:……いいえ。
凍頂烏龍茶:それならいくつか聞きたい事がある。
金思:……こんな時に、どうしてそんなに質問が?
凍頂烏龍茶:どうやって暴飲と会話するのか?彼が貴公の指示に従う保証は?行き先は?具体的にどれ位時間が掛かるのか?
金思:それは……
凍頂烏龍茶:……答えられない、だろう?
金思:……わ、私はどうしてこのような詳細を貴方に教えなければならないんです!
凍頂烏龍茶:秘密の核心を告白した者が、他の細部を説明しない事はないだろう。
凍頂烏龍茶:貴公が言いたくない理由は……嘘だからだ。
凍頂烏龍茶は一歩前に迫った。金思は慌てて後ずさった。
凍頂烏龍茶:彼を他の場所に誘導して行くつもりではない……余たちを遠ざけようとしているだけ……どうしてだ?
凍頂烏龍茶:貴公が次にしようとしている事はここにいつ人の思惑とは異なる。貴公は知っている、この人たちは絶対貴公の意のままにさせないと。
凍頂烏龍茶:――もしかして貴公は、暴飲と共に錦安城の人たちに手を出そうとしているのではないか、君山銀針に阻止されるのが怖いのか?
金思:デタラメを言わないでください!
金思は興奮して大きな声で叫んだ。
凍頂烏龍茶は心の中で一つため息をついた。
凍頂烏龍茶:(こんな簡単な挑発で……やはり余の予想通りか。)
凍頂烏龍茶:……それなら、可能性はただ一つ。
凍頂烏龍茶:貴公が本当に遠ざけたいのは冰糖燕窩。貴公は余らが知らない方法で……あの暴飲と「共倒れ」しようとしている。
その瞬間、金思の顔は真っ青になった。
四方の神Ⅴ
真の意志?
神廟
龍脊山山頂
金思:ふざけないでください!わ、私は霊族、神廟の継承者。私が暴飲の問題を解決します。わ、私は彼と共に死ぬ気はありません!
凍頂烏龍茶:では一体どうするつもりだ?
金思:どうしてそんなに聞いてくるんですか?私が全ての問題を解決出来れば良いだろう!
金思の強がっている様子を見て、凍頂烏龍茶はまるで三年前の自分を見ているように思えた。
凍頂烏龍茶:……独りよがりで、人のためについた嘘は嘘ではないと思っているのか?
凍頂烏龍茶:自分を犠牲にしようと嘘をつき、仲間が真実を知れば貴公のことを許してくれると思っているのか?
凍頂烏龍茶:あるいは……仲間は自分を許さなくても構わないと思っているのか?
凍頂烏龍茶:大間違いだ。
凍頂烏龍茶は目を閉じて、金思に、そして過去の自分に向かって言った。
凍頂烏龍茶:これからの夜、過去の全てが貴公の夢に入り込み、追いかけてくるだろう。
凍頂烏龍茶:自分の成果を繋ぎ止めるため、全ての辛さを全部自分で抱え込む覚悟を本当に出来ているのか?
凍頂烏龍茶の話はナイフのように金思の最後の足掻きを貫いた。
冰糖燕窩:金思……お願いです、真実を教えてください。
しばらくして、金思は自分の顔を覆い隠した。
金思:申し訳ありません、主……
金思:事態がこんな事になるなんて、本当に思っていませんでした……
冰糖燕窩:……
金思:一ヶ月前、私は夢を見ました。夢には一つ影があり、彼は私をある寺に連れて来て、一つ箱を開けました。彼は私に告げました、箱を開ければ、夢回谷の瘴気の問題は解決できると……私たちの仕事を誰かが変わってくれると……
金思:目が醒めると、私はこの崖にいました……どうやって登ってきたのかもわからない、ただ怖くて逃げて、誰にも言いませんでした……
金思:あれから数日間ずっとビクビクしていました。夢回谷に異常はなかったので、少し安心しましたが……昨日になってやっとわかったんです、夢回谷ではなく、錦安城に問題が生じたと。
金思:主、私はわざと神廟を起動し、暴飲を解放しようとした訳ではありません…封印のため必死に頑張った貴方を心配したから……ただの夢を見たのかと……
冰糖燕窩:そんな事が起きて、どうして私に言わなかったのですか?
金思:本来、今日一緒に調査して、あの夢との関連性を確認してから伝えようとしていました。しかし今日の午前……私は「真の意志」を受け継ぎました。
エンドウ豆羊かん:真の意志?
金思:青龍神君です……寝ている間にあの方に会いました。彼は私に教えてくれました、あの暴飲を解決しないと、法陣そのものに危害が及び、最終的にあの悪魔が再び大地に現れるかもしれないと。今唯一の方法は、暴飲の意識の代わりに私のを使う事です。
金思:主、全ては私の責任です、ですので自分で抱えなければなりません。もし私が暴飲の意識を乗っ取る事が出来れば、今回の事件だけでなく、これからも夢回谷の瘴気を封印する力を得られる……
冰糖燕窩:ダメです。
冰糖燕窩はきっぱり金思の提案を遮った。
冰糖燕窩:瘴気に関しては私の封印で事足りています、あれの手を借りる必要はありません。
冰糖燕窩:この世は、食霊という身分ですら危険を招くのに、堕神になったらもっと大変な事になります。
金思:悪い事をせず、ここをきちんと守れば、私をどうにもできないと思います。
冰糖燕窩:人間の欲望に際限はありません。そして中身より見た目を重視します、貴方が実際にどうしているのかは関係ありません。いくら良くしても、いつか貴方の力を脅威に感じれば、どんな手を使ってでも、色々な口実で地獄まで貴方を駆逐するでしょう。
金思:……
冰糖燕窩:とにかく私は賛成しません。この場にいる皆さんも同じ考えでしょう。
冰糖燕窩の声はあまり大きくはないが、軽く視線で全員を見ただけで、彼女の迫力は全員に伝わった。
君山銀針:もちろん、金思嬢を犠牲にする訳にはいきません。夢回谷の瘴気の封印に力が必要なら、某も残って手伝います!
君山銀針:まず、暴飲を解決しなければならない。そうでないと、錦安城の水は全て汚染され、封印が解け……いよいよ大事になってしまう!
凍頂烏龍茶:金思嬢、ここまで来たら言ってはいけない事はもうない。この神廟はどうやって霊物を産んだのか?これを知れば、暴飲を倒せるやもしれん。
凍頂烏龍茶:教えろ、核は何だ?
金思:……わかりました。
第五章-昔を遡る
昔を遡るⅠ
俺はてめぇと知り合いなのか?
凍頂烏龍茶:水が濁っている……方向がわからない……
凍頂烏龍茶:しまった……昨日金思からもらった薬を飲んでおけば良かった……頭がクラクラし始めた……このままではダメだ……事件はまだ……
突然、誰かが彼を引っ張った。
凍頂烏龍茶:!
パシャパシャと水しぶきが舞い、ロイヤルゼリーと凍頂烏龍茶は水面から出てきた。
凍頂烏龍茶:……天池の下にまさか本当に秘密があるとは。
一時間前、神廟にて。
金思:暴飲の核は、青龍神君が神廟に置いていった龍の鱗です。もし暴飲の巣に入り龍の鱗を神廟に送り返せれば、暴飲は消えるかもしれません。
金思:暴飲の巣は天池の下にあります。暴飲の属性は陽、彼に気づかれないためには、ロイヤルゼリーと凍頂烏龍茶しか入れません。
金思:そしてそこは瘴気が最も濃い場所でもあります。昨日飲んだ薬があっても、少しの間しかもちません。意識を失えば、永遠に目が覚めないかもしれません!
凍頂烏龍茶:(また共に行動する事があるとは、思わなかった……)
ロイヤルゼリー:先は安全だ。
凍頂烏龍茶:行こう。
ロイヤルゼリーは無意識に頷く。次の瞬間、彼は自分の先程の反応に困惑し、足を止めた。
凍頂烏龍茶は戸惑いの視線を彼に送った。
ロイヤルゼリー:……俺はてめぇと知り合いなのか?
不意打ちによって、凍頂烏龍茶は一気に緊張が高まった。
昔を遡るⅡ
傷は治る。
ロイヤルゼリー:俺はてめぇと知り合いなのか?
凍頂烏龍茶:……まだ来たばかりだ、もう酔ったのか?知り合いなんて当然の事だろう。
ロイヤルゼリー:いつからだ?
凍頂烏龍茶:昨日から今日まで、二十四時間しかないが、既に共に色々経験した、そうであろう?
ロイヤルゼリー:……
ロイヤルゼリーは黙って前を向いた。凍頂烏龍茶はホッと一息ついた。
凍頂烏龍茶:(危ない……もう少しでバレる所だった……)
二人は引き続き前に進んだ。しばらくして、ロイヤルゼリーは止まった。
前方に一つの祭壇があった。祭壇の上には、皿程の一枚の金色の龍の鱗が浮かんでいた。そして黄色く発光していた。祭壇の横には、すき間なくびっしりと何かが並んでいた。
ここは暗いため、凍頂烏龍茶ははっきりと見えなかった。
ロイヤルゼリー:酒呑童子だ。
凍頂烏龍茶:暴飲の眷属か……
ロイヤルゼリー:戦うか?
凍頂烏龍茶:いや、今回の目的は龍の鱗だ、出来る限り戦いは回避した方が良い。
ロイヤルゼリー:数が多すぎる、戦いは回避出来ねぇ。
凍頂烏龍茶:策がある。祭壇は中心に、酒呑童子の数と位置を教えろ。
ロイヤルゼリー:午未に三十五、酉に十七、午が最も多い……
凍頂烏龍茶は石を拾い、地面に祭壇の大体の輪郭を描いた。そしてロイヤルゼリーの観察に基づいて、簡単な地図を完成させた。
凍頂烏龍茶は少し考えて、地図に最良の潜入と撤退の路線を描いた。
凍頂烏龍茶:これは中策だが、出来るか?
ロイヤルゼリー:どうして中策を見せたんだ?上策はないのか?
凍頂烏龍茶:空中から飛び降りて潜入する策だ、しかし貴公の背中の傷は……
ロイヤルゼリー:てめぇ、どうして俺の怪我を知ってる?
凍頂烏龍茶は固まった。目の前の問題を解決するために精一杯だったため、北朔の頃を思い出し、口が滑ってしまった。
凍頂烏龍茶:……崖にいた時、貴公は身を翻して跳んでいた。怪我がないのなら、直接飛び上がれたと思った。
ロイヤルゼリーはじろじろと凍頂烏龍茶を見て、言葉の真偽を図っていた。凍頂烏龍茶の顔に動揺はなかった。
凍頂烏龍茶:もしあの怪我が他人に知られたくない物なら、謝ろう。
ロイヤルゼリー:どうだっていい。
ロイヤルゼリーは視線を地図に移した。
ロイヤルゼリー:確かに怪我はある、治らない物ではない。
ロイヤルゼリーはぶつぶつと独り言を発した。彼は自信ありげだったが、凍頂烏龍茶は複雑な気分になっていた。
ロイヤルゼリーの怪我の由来については、彼は誰よりもわかっていた。あの時北朔で、彼が堕化食霊を倒すという大義で――ロイヤルゼリーを刺したからだ。
――ロイヤルゼリーが唯一信頼できる、背中を預けられる相手が、裏切ったのだ。
今でも、当時のロイヤルゼリーの信じられないという表情を覚えている。
凍頂烏龍茶:グッ……
心臓が急に痛み出し、凍頂烏龍茶は苦しい顔を見せた。
昔を遡るⅢ
昔の夢を見た。
暴飲の巣
天池の下
ロイヤルゼリー:どうした?
凍頂烏龍茶:……ここに長居するのは得策ではない、急げ。
凍頂烏龍茶:(金思の薬を飲まなかったと言うのはダメだ。)
ロイヤルゼリー:わかった。
ロイヤルゼリーは地図を崩すと、最後の準備をし始めた。
ロイヤルゼリー:てめぇは頭が良い、そしていつも冷静だ。暴飲を倒した痕も、まだ夢回谷の瘴気の問題がある。俺には長期的に協力してくれる者が欲しい。
ロイヤルゼリー:俺に協力してくれねぇか?
凍頂烏龍茶:……
ロイヤルゼリー:今すぐ答えを出す必要はない、ゆっくり考えろ。
話が終わるとロイヤルゼリーはすぐ酒呑童子たちの間を縫って、祭壇の方へと向かった。
神廟
龍背山山頂
この際に、聖堂にいる君山銀針たちは待ちわびている。
エンドウ豆羊かんは少しだけすき間を開けて、暴飲の様子を監視していた――暴飲はまだ寝ていた、大の字になって泥のように眠っている様子からして、恐らく凍頂烏龍茶とロイヤルゼリーが既に彼の巣に潜入した事にはまだ気付いていない。
エンドウ豆羊かん:ふぅ、よく寝てる……君山姉さん、心配しなくても良い!あの凍頂烏龍茶、見た目は頼りないが凄いのじゃ!とにかく頭は悪くない!
君山銀針は眉をひそめながらその場を行ったり来たりしていた。
君山銀針:……何か重要な事をあの二人に伝えなかった気がしている……
エンドウ豆羊かん:重要な事?金思姉さんは全てを言ったじゃろう?
君山銀針:いや、あれとは関係ない……
君山銀針はとても慌てていた――彼女には食霊の仲間たちに教えていない秘密があった――彼女の師匠こそ、あの伝説の青龍神君であると。
今回君山銀針が下山したのは、青龍神君が旅に出る前、彼女に雲夢沢付近の動きに注意し、問題が出たらすぐに下山するよう言われたから。
君山銀針:(師匠よ師匠……『面倒な事が起きるかもしれん』とはこのような大変な事とは思いませんでした……)
君山銀針:(全ての鍵は師匠の龍の鱗にある……あれを壊せば問題を解決できる……しかしこの龍の鱗の作用はそんな簡単な物ではないはず、昔師匠から聞いたような……)
君山銀針:(しかし師匠の話はいつも嘘が混ざっている……ただの伝説だと思いきちんと聞いていなかった……あぁ……全部本物だと知っていたなら、もっと真面目に聞いておけば良かった……一体どこで聞いたのやら……)
君山銀針が悩んでいると同時に、冰糖燕窩は金思に説教をしていた。
冰糖燕窩:今度また何かあれば、必ず正直に私に教えてください。貴方を夢回の地まで連れて検査させようとしていましたよ。
金思:反省しています。あそこは鬼の叫びと泣き声がこだましていて、そんな恐ろしい場所に連れて行かないでください……
君山銀針:夢回の地……そうだ!思い出した!
回想始まり
君山銀針:師匠、雲夢沢の隣の夢回谷には、以前の記憶を見られる能力がある、だからこの物語にこの名前がついた。これは本当か?
青龍神君:本当じゃ。夢回谷には私の鱗がある、あれはこの世で最も真実を映し出せる鏡じゃ。
君山銀針:そんなに凄いんですか?それなら、あの宝物を欲しがる人も多いでしょう?
青龍神君:私の鱗が簡単に取られるはずもないだろう?鱗の近くで、その能力によって何か聞こえる程度ならまだ良いが。触ってしまえば、前世の記憶がその瞬間に怒涛に押し寄せてくる……軽症者は夢を見る程度じゃが、重症者はボケてしまうじゃろう……
回想終わり
君山銀針:……まずい!
暴飲の巣
天池の下
ロイヤルゼリーは俊敏な動きで進んで行った、彼の背中に傷がある様には見えなかった。
凍頂烏龍茶:(もしかすると……あ奴の言う通り、その傷は治るかもしれん。余とあ奴との関係も、元に戻るやも……)
ロイヤルゼリー:……グッ!
凍頂烏龍茶:どうした?
ロイヤルゼリーが龍の鱗を触った瞬間、彼の瞳孔は急に拡大し、数歩後退した所、積んであった酒壺が倒された。
酒呑童子:うっ……なんだ?……酒泥棒だ!
昔を遡るⅣ
まあ……時間はたっぷりある。
酒呑童子:酒泥棒!死ね!
突然、酒呑童子全員が目を覚ました。彼らはゆらゆらと立ち上がると、手元の酒壺をロイヤルゼリーに向かって投げた。
凍頂烏龍茶:天雷!
黒龍は稲妻を帯びてロイヤルゼリーの前に飛び、彼の代わりに最初の攻撃を食らった。
ロイヤルゼリー:……
ロイヤルゼリーは苦しみながら片手で鱗を握り締め、もう片手で頭を抑えた。覚束ない足取りで、歯を食いしばりながら凍頂烏龍茶の所に向かおうとするが、固まった。
凍頂烏龍茶:先程の騒ぎのせいで、酒呑童子の位置が変わり、退路が塞がれた。
酒呑童子:泥棒!あいつを殺せ!
凍頂烏龍茶:(ダメだ、このままでは逃げられない……ならば……)
凍頂烏龍茶:地火、連れて来い!
火龍は叫びながら現れた。明るい火花を散らし、最も目立つ存在になっていた。
その瞬間酒呑童子たちも引き寄せられた。
凍頂烏龍茶:先に行け!鱗を持ち出せ!
ロイヤルゼリー:……
ロイヤルゼリーは躊躇なく龍の鱗を持って外に向かって走って行った。
凍頂烏龍茶は遠ざかっていくロイヤルゼリーを見て、心の中で安堵した。
凍頂烏龍茶:(あとは鱗が神廟に届くまで、この酒呑童子たちと対峙するだけ……)
凍頂烏龍茶:!
強い眩暈に襲われ、天雷と地火は悲鳴を上げると、宝珠になり地面に落ちた。
凍頂烏龍茶:(やはり……昨日金思の薬を飲まなかったから……瘴気の影響が想像以上に強い……)
凍頂烏龍茶:(まさか……誰も信じず、用心深く生きてきた事が……ここに来て仇となるとは……)
………………………………
……………………
…………
エンドウ豆羊かん:ほら、言ったじゃろう?災いの元がそう簡単に死ぬ訳がなかろう!
凍頂烏龍茶:……
凍頂烏龍茶は辛そうに身体を起こした。自分の身体がバラバラになって再び作り直されたような錯覚に陥った。
凍頂烏龍茶:暴飲は?
君山銀針:ああ、二人のお陰で解決した!龍の鱗も本来の位置に戻され、再び封印された。錦安城の水脈も普通の水になった。
君山銀針:しかし、暴飲はまだ消えていない。普通の堕神になり、人間を攻撃する傾向を持たず、自分の来歴や、自分が今まで何をしてきたかも覚えていないらしい。
君山銀針:冰糖燕窩はそいつを夢回谷に連れ帰り、色々と教育しようとしたが。二日目に、こっそりと酒蔵に潜り込んで、谷のお酒を全部飲み干してしまった!故に追い出された……
凍頂烏龍茶:そうか……余は一体どれくらい寝ていた?
君山銀針:五日だ。
凍頂烏龍茶:……
凍頂烏龍茶:(そんなに長いとは……余の計算なら、最悪の状況であってもこのような怪我をするとは思えん……)
君山銀針は首を横に振った。
君山銀針:怪我をしていないが……ただ……
凍頂烏龍茶:ただなんだ?
君山銀針:凍頂烏龍茶殿……ロイヤルゼリーに何か酷い事をしていないか?
凍頂烏龍茶:…………
庭
夢回谷
この庭の、草花は以前から変わらず生い茂っていた。昼間は、蝶々と蜜蜂も飛んでいて、なんとも平和な景色が広がっていた。
――突然飛び出した鎌や壺を無視すれば。
凍頂烏龍茶:まず落ち着け。
ロイヤルゼリー:失せろ。
凍頂烏龍茶:怪我している余を思いやってはくれんのか?
ロイヤルゼリー:あいつらが止めなきゃ、てめぇはとっくに死んでる。
凍頂烏龍茶:……
ロイヤルゼリー:だから、早く出てけ。
またナイフが一本飛んで来た、凍頂烏龍茶は慌てて部屋を飛び出た。
バンッ――!
扉は力任せに閉められた。
凍頂烏龍茶:……わかった。
凍頂烏龍茶はため息をつくと、自分の部屋に向かって歩いて行った。
歩いている内に、彼の足取りは段々と楽になっていき、顔にも笑顔が浮かんだ。
君山銀針から聞いた話だと、ロイヤルゼリーは鱗を持って帰ると、凍頂烏龍茶を救いに行ったらしい。しかし救い出してから、ボコボコに殴って、暴飲と一緒に夢回谷から追い出すと言い出した。
凍頂烏龍茶:(原因はわからないが、ロイヤルゼリーは過去の事を思い出したようだ。だが、余は逆に安心した……)
満身創痍の凍頂烏龍茶は夢回谷から出た。彼は慣れた様子で、梯子に上って崖の頂上まで登った。既に元通りになった天池の隣には、酔っている暴飲がまだいた。
暴飲王子:ん〜貴様は俺様と酒を飲むためにここに来たか?
凍頂烏龍茶:いや、これからここは余の居場所だ。
暴飲王子:はあ?おいっ!俺様を離せ!――――
暴飲は天雷と地火によって崖の下に捨てられた。凍頂烏龍茶は後ろ手を組んで、天池の後ろにある神廟に向かって歩いた。
凍頂烏龍茶:(龍の鱗が封印され、法陣も解除された、ここは既に遺棄された建物だ。少し工事をしておけば住めるだろう、のんびりやるとしよう。)
凍頂烏龍茶は崖の下に広がる緑色の山谷を見つめた。
凍頂烏龍茶:(まあ……時間はたっぷりある。)
「酔龍の唄」・完
エピソード-夢回谷の日常
印象の点数
関係を修復しなければ
天池の上
夢回谷
北朔太后:『エンドウ豆羊かんの面倒をきちんと見るなら、どれだけ工匠を要求しても、全部手配してやろう。』
凍頂烏龍茶は届いた手紙に火を付けた。
エンドウ豆羊かん:おい!凍頂烏龍茶、妾は其方と話をしているのじゃ!どうしてこんな所におって、こんなに手紙を読んでいるのじゃ!
二人は凍頂烏龍茶が建てた臨時の亭に座っていた。凍頂烏龍茶はお茶を飲みながら、跳ねているエンドウ豆羊かんを見た。
エンドウ豆羊かん:おい!ちゃんと妾の話を聞け!これは大事な事じゃ!
凍頂烏龍茶:この夢回谷に残るため、貴殿の身元を秘密にする事だろう?
エンドウ豆羊かん:わかれば良いのじゃ!
エンドウ豆羊かん:後で君山姉さんに会ったら、妾は其方が旅の途中で出会った食霊、成り行きで一緒に旅をするようになったと言え、余計な事を言うな!
凍頂烏龍茶:何故だ?
エンドウ豆羊かん:なんだ?
凍頂烏龍茶:何故余が貴殿の身分を秘密にしなければならない?貴殿のために嘘をついて、何の利がある?
エンドウ豆羊かん:何でもかんでも利益を計算するつもりか?
凍頂烏龍茶:誰も皆利益のために生きている。余は自分のため計算して、何がおかしい?
エンドウ豆羊かん:屁理屈はもうたくさんじゃ。単刀直入に言え、今回何をして欲しいのじゃ?
凍頂烏龍茶:余の記録官になるか?
エンドウ豆羊かん:何の官?
凍頂烏龍茶:夢回谷に住むなら、毎日ロイヤルゼリーの観察日記を書いてもらおうか。毎日何をやっていて、好みについても。
エンドウ豆羊かん:……イヤじゃ!
エンドウ豆羊かんは鳥肌が立ち、クズを見るような目で凍頂烏龍茶を見た。
エンドウ豆羊かん:おい!こんな監視するような手段を使いおって、ロイヤルゼリーは永遠に其方の事を許さんぞ!
凍頂烏龍茶:お?
エンドウ豆羊かんはぷんぷんと怒りだして、凍頂烏龍茶に説教しようとした。しかし次の瞬間、彼女は何かを思い出したように笑い出した。
エンドウ豆羊かん:だが、思いついたのじゃ!妾は其方を怖がる必要はないのじゃ!妾の秘密を誰かに言えば、其方が北朔でやって来た事を全部ロイヤルゼリーに言ってやる!
凍頂烏龍茶:それなら、夜は貴殿がここにいる事を皇太后様に報告してやろうか?
エンドウ豆羊かん:共倒れすれば良いのじゃ!妾も其方の秘密を握っている。ふふっ、切り札という物は、最後まで取っておかなければいけない、これは其方から学んだ事じゃ!
凍頂烏龍茶は内心笑っていたが、表面上困った顔を作って見せていた。
凍頂烏龍茶:まさかここまで成長出来たとは。わかった、何かをする必要はない、貴殿の身元については余は誰にも言わない。
エンドウ豆羊かん:それでこそじゃ!そろそろ君山姉さんが来る時間だ、彼女に見られたら大変じゃ。失礼するぞ!
エンドウ豆羊かんは戦に勝ったかのように、ドヤ顔で立ち去って行った。
凍頂烏龍茶はのんびりとお茶を飲んでいた。
彼の本当の目的は記録官を頼む事ではない。夢回谷にエンドウ豆羊かんがいるという事は、彼女とロイヤルゼリーの距離が近い事は厄介だった。
エンドウ豆羊かんの性格から、もしロイヤルゼリーと仲良くなれば、彼女は彼に北朔で凍頂烏龍茶がやった事を話してしまう可能性が高い。そうするとロイヤルゼリーとの絆を修復するのは大変になる。
今日エンドウ豆羊かんが自主的にこの話をさせ、自らこの秘密を話す事がないよう仕向けた。彼女はこれを切り札として見ているため、勝手に話す事はほぼなくなるだろう。
凍頂烏龍茶:人にとって利益があれば、人はそれを手放さない。これこそが――誰しも利益のため生きている、という事だ。
山を埋め、陣法を修復
言い方を間違えている
彼女は急いできたようだった、心配そうな顔をしていた。
凍頂烏龍茶は顔色を変えず、彼女にお茶を注いだ。
君山銀針:感謝する、しかしお茶は結構だ。凍頂烏龍茶に会いに来たのは、頼みがあるから故。
凍頂烏龍茶:どんな事だ?
君山銀針:エンドウ豆羊かんから聞いた、凍頂烏龍茶は北朔の新王、今回は旅をするためにここに来たと。
凍頂烏龍茶:余と貴公は同じ食霊である、こんな取るに足らない称号を言わなくても良い。
君山銀針:ふぅ……良かった……
凍頂烏龍茶:なんだ?
君山銀針:錦安城の商会……あの連中を見つけて、山を掘るのをやめて欲しいと言った。しかし、彼らは暴飲の事件は既に解決したと思っているためか、某の話は一切聞いてくれなかった。
君山銀針:故に、凍頂烏龍茶殿の親王という名義で命令を下せば、彼らは従わざるをえないだろう!
凍頂烏龍茶:貴公はどうやってあの連中に相談したんだ?
君山銀針:これ以上龍背山を掘れば、周りの堕神が増え、今回より酷い事件が起こるかもしれないと言った……
君山銀針:何か間違えたか?
凍頂烏龍茶:完全に間違っている。
君山銀針:はい?埋め戻す事こそ根本的な解決方法であると、これは凍頂烏龍茶殿が言った事であろう。
凍頂烏龍茶:間違えたのはこの事実ではなく、言い方だ。
君山銀針はとても困惑していた。
君山銀針:詳しく説明して頂けると助かる。
凍頂烏龍茶:あ奴らにとって、山を掘るのをやめるのは自分の利益を損害する事になる。あ奴らはやりたいと思うか?
凍頂烏龍茶:しかし言い方を少し変えれば良い。例えば、埋め戻して、道の方向を変えると、より多く収入を手に入れられるなどと言えば、あ奴らはきっと認めるだろう。
凍頂烏龍茶:商人たちに、龍背山の景色は美しい、この山を迂回し北朔への道路を造れば、近い将来観光地として開発できると伝
えれば良い……あ奴らは自分で損得勘定をするであろう。
君山銀針ははっと悟った顔をした。
君山銀針:素晴らしい考えだ!今すぐ商会に行って参ります!
君山銀針:そうだ、先程金思嬢に会った。彼女はそなたが今日暇していると聞いて、そなたに会いに来ると言っていた。
凍頂烏龍茶:なんだ?
君山銀針は一礼してから、出ていった。
龍の鱗
責任を取れるのか?
凍頂烏龍茶は少し眠くなっていた。
ここ数日、彼は工匠に指示を出し、神廟で工事を行っていた。やっと少し暇が出来てゆっくりと休もうとしていたが、もう二度も接客をする事になるとは。
凍頂烏龍茶:のんびりとした田舎の生活に慣れたからだろうか。昔の余なら、全然面倒だと思わなかったであろう。
凍頂烏龍茶はぶつぶつと独り言を言っていた。
すぐに、金思がやって来た。
金思:あの……
彼女は亭の回りに様々な建築材料が置いてあるのを見て、何かを言いたそうにしていたが結局何も言う事はなかった。
凍頂烏龍茶:言えば言い、何の用だ?
金思:わかりました――どうして私を助けてくれたんですか?
凍頂烏龍茶は笑いながら瑠璃鏡を直した。
凍頂烏龍茶:別に貴公のためではない。
金思:……もちろん私のためではないと知っています。
金思は意地っ張りな視線で凍頂烏龍茶を見た。
金思:だから、はっきり聞かなければならないのです。貴方はどうしてここに残っているのかを。
金思:鱗と暴飲を出したのは私です。だから、ここに残って鱗を守るべきなのは私です。
金思:ロイヤルゼリーの許しを乞うために、ここに残っているという言い訳は聞きません。
凍頂烏龍茶:しかし、余の目的は確かにこれだ。
金思:そうであるなら、別のもっと良い場所に新しい家を建てれば良いのに。どうして神廟の工事をして、鱗を守っているんですか?
凍頂烏龍茶:自分の代わりにやってくれる人がいるのは、嬉しい事ではないのか?
金思:……貴方の目的は知りませんが、私は二度と同じ過ちを犯してはならない。
金思の言葉を聞いて、凍頂烏龍茶は笑った。
凍頂烏龍茶:貴公の考えは大体わかった。目の前の利益を求めるため、大切な物を失う事を怖がっているのだろう。
凍頂烏龍茶:その意識を持つのは別に悪い事ではない。しかし、余計な心配はしなくて良い。もし余が何かをしたいなら、直接北朔の皇都ですれば良い、このような僻地に来る必要がないだろう?
金思:それなら、どうしてこの鱗を守っているんですか?元々これは私の仕事です……
凍頂烏龍茶:責任を取れるのか?
金思は驚いて、何も言えなくなった。
凍頂烏龍茶:少し考えろ、余以外にもっと相応しい人はいるのか?それとももっと多くの人々に鱗の秘密を教えて、たくさん人を集めて守らせるつもりか?
凍頂烏龍茶はお茶を一口飲み、落ち着いた語り口で続けた。
凍頂烏龍茶:正直、余は別に夢回谷と錦安城の事はどうだって良い、しかしここはあ奴が守ろうとしている土地だ。
凍頂烏龍茶:だから、全ての選択は全部自分のやりたいことではない、いわゆるやむを得ずという事もある。余がここに残る以外に、より良い方法などあるのか?
凍頂烏龍茶:無いのなら、余計な事を言わなくても良い。余の事を疑うより、余に申し訳ないと思うより前に、まず自分の実力を高める方法を考えろ。
金思は凍頂烏龍茶の言葉を聞いて、考え込んだ。しばらくして、彼女は立ち上がって外に向かって歩いて行った。
金思:……永遠に鱗を封印する方法を見つけるまで、それまでは、ここの事をお願い致します。
凍頂烏龍茶:ああ、せいぜい頑張れ。
金思:そうだ、後で主も来るそうです。
凍頂烏龍茶:どいつもこいつも。余は疲れた、もう会わん。
金思:ロイヤルゼリーに関係ある事だそうです。
凍頂烏龍茶:……
凍頂烏龍茶は新しい茶葉を開けて、茶を淹れた。
安寧草Ⅰ
執念は欲から出る物
金思が去ると、すぐに冰糖燕窩もやって来た。
お茶のいい香りが漂っているが、冰糖燕窩は一口も飲む事はなかった。
彼女は座ったまま、帳簿を見ている凍頂烏龍茶を待っていた。
凍頂烏龍茶:わかった、あの日あ奴が壊した物、そしてこれから壊す物も、全て余が弁償する。
冰糖燕窩:その必要はありません。貴方が現れなければ、ロイヤルゼリーは暴れません。
凍頂烏龍茶:他の事なら妥協の余地はあるが、その件はダメだ。
冰糖燕窩:何故ロイヤルゼリーに対してここまで執着しているのですか?
凍頂烏龍茶:執念のためでないなら、ここに来る必要もないだろう。
冰糖燕窩:執念は欲から出た物。執念が深いと、人を傷つけるだけです。
凍頂烏龍茶:主に意見があるなら、どうぞ話せば良い。
冰糖燕窩:……
凍頂烏龍茶はわかっていた。冰糖燕窩の目的は彼がロイヤルゼリーと喧嘩して壊してしまった物への賠償請求ではないと
冰糖燕窩:彼の庭にあった草花は覚えていますか?
凍頂烏龍茶は少しだけ呆気にとられた。
もちろん覚えている、そして少し不思議に思っていた。
北朔にいた頃、ロイヤルゼリーが植物へ興味を示していた様子を一度も見た事がなかった。しかし、夢回谷の彼の住処にはたくさんの草花があった。
あれはロイヤルゼリーが記憶を失った後出来た新たな趣味だと思っていたため、数日前凍頂烏龍茶はわざわざ貴重な品種の菖蒲を注文し、ロイヤルゼリーの所へと送った。
しかし、あの菖蒲は庭に辿り着く前に、ロイヤルゼリーの鋭い棘の餌食となりたい肥となった。
凍頂烏龍茶:草花は新しい趣味ではないのか?他に理由があるのか?
冰糖燕窩:あれは『安寧草』です。
凍頂烏龍茶:……薬草?
冰糖燕窩:はい。
凍頂烏龍茶:背中の怪我を治療するための物か?
冰糖燕窩:いいえ。
冰糖燕窩:体の傷は私にも癒やす事は出来ますが、心の傷は治せません。
凍頂烏龍茶の心で嫌な音が鳴った、そしてずっと自分が見逃していたある事に気付いた。
安寧草Ⅱ
三年前、彼はほぼ堕化した。
凍頂烏龍茶:この『安寧草』は一体どんな効果があるのか?詳しく教えてくれ。
冰糖燕窩:『堕化』を抑制する効果があります。
凍頂烏龍茶:……何だと?
冰糖燕窩:三年前、彼が帰って来た時、体はほぼ堕化し、理性も失っていました。
凍頂烏龍茶:!!
凍頂烏龍茶は知っていた。食霊にとって堕化は最も恐ろしい『病気』だった……ロイヤルゼリーの病気が再発する事に…‥もっと早く気付くべきだった……
凍頂烏龍茶:……その後は?
冰糖燕窩:彼は山谷で派手に暴れました。私が彼を安寧草が群生している場所に連れて行き、ようやく徐々に理性を取り戻しました。
冰糖燕窩:何があったのかと彼に聞きましたが、彼は全部忘れてしまっていました。もし無理やり彼に思い出させようとすれば、彼は興奮して暴走してしまいます。
冰糖燕窩:そのため彼の記憶を取り戻す事を諦めました。彼が住んでいる庭の周りに安寧草を植えたのは彼の理性を保ち、再び堕化させないためです。
凍頂烏龍茶は再び沈黙した。
凍頂烏龍茶:あ奴の苦しい過去を作った元凶は余だ。もし貴公がこれを余に教えたのは、これからロイヤルゼリーとの面会を禁止したいからであるなら、それは不可能だ。
冰糖燕窩:そんな事は言っていません。
凍頂烏龍茶:……
冰糖燕窩:事実、ここ数年、彼は堕化を何回も繰り返してきました。
冰糖燕窩:毎回最終的には意識を取り戻してはいたけれど、堕化が再発したら、また理性がなくなる。
冰糖燕窩:……前回だけは少しだけ違いました。
冰糖燕窩の視線を見て、凍頂烏龍茶は何か真実を聞けるのではないかと感じた。
冰糖燕窩:あの日天池にて、貴方はどうやって助かったと思いますか?
冰糖燕窩:では、彼はどうやって短い間に力を増幅させ、暴飲と酒呑童子たちに勝てたと思いますか?
凍頂烏龍茶:……また堕化したのか?
冰糖燕窩:……そうです。しかし、あの日は完全に堕化しておらず、力は増幅したが、一部の理性を保ってていました。
凍頂烏龍茶:どうしてそう言える?
冰糖燕窩:彼は他の事は覚えていませんが、貴方を救いに行く事だけは覚えていました。
冰糖燕窩:そして貴方を連れ出すと、ずっと貴方を守っていました、誰にも近寄らせずに。
冰糖燕窩:三時間後、彼は突然意識を取り戻しました。そして、自分の隣にいる人を見て……
凍頂烏龍茶:……余を殺そうとした。
冰糖燕窩:そうです。しかし私は彼を止めた。彼は、起こった事を貴方に言うなと言っていました。
お茶はもう冷めていたが、凍頂烏龍茶はそれを飲み干した。
彼はもうお茶の味がわからなくなっていた、ただ自分ののどを潤そうとした。
凍頂烏龍茶:……だが貴公は余に教えてくれた。何故だ?
冰糖燕窩:彼の心の傷を治すため。
冰糖燕窩:正直、私は貴方の事を信用できない。貴方は欲望を持つ人だ。今はロイヤルゼリーとの関係を修復するために全てを捨てても構わないと思っていますが、近い将来別の彼への執念より深い欲望が生じる事だってありえます。
凍頂烏龍茶:……
凍頂烏龍茶は反論しようとしたが、何も言えなかった。
冰糖燕窩:だけれど、私には他に選択肢はありません。
冰糖燕窩:ロイヤルゼリーと私は、同じ血脈をもつ兄弟です。彼の血が誰のために騒ぐのか、私にも感じられます。
冰糖燕窩:貴方は元凶だけれど、堕化した彼は本能的に貴方を守ろうとした。
冰糖燕窩:だから凍頂烏龍茶、貴方以外私は誰に彼の堕化を抑えてもらおうと、期待するべきでしょうか?
凍頂烏龍茶:……余は……
凍頂烏龍茶ののどが詰まった。
凍頂烏龍茶:余に何をして欲しい?
冰糖燕窩:まず、貴方はいつロイヤルゼリーと別れたのか聞きたいです。
凍頂烏龍茶:三年前だ。
冰糖燕窩:具体的な日付をお願いします。
凍頂烏龍茶:……北朔王朝、朝恒三十年、九月一日。
冰糖燕窩:彼が夢回谷に帰ったのは、同年の十二月です。
凍頂烏龍茶は驚いた。
事件が起きたのは九月だが、ボロボロの体で故郷に辿り着いたのはそれから三ヶ月後。ロイヤルゼリーは北朔から離れてから、一体どこに行ったのか?そして何をしてたのか?
言い換えれば――体の怪我、記憶喪失、堕化の再発、そして治らない背中の怪我……全てあの日追われたからか……或いは……別の原因があるのか……
凍頂烏龍茶:……余は、その答えが知りたい。
「堕神」
疲れた。
夢回谷
夕方
夕陽が沈む頃、ロイヤルゼリーが山谷の見回りから帰ろうとしていた。しかし突然ある声が聞こえて来た。
凍頂烏龍茶:今日も堕神は一匹もいない、平和だ。帰ろう。
ロイヤルゼリー:ああ。
ロイヤルゼリー:……
無意識に返事をしてから、ロイヤルゼリーは何かに気付いた。
凍頂烏龍茶:もうこんな時間だ。余が注文した料理はそろそろこの谷の入り口に到着する頃だ、全て貴公の好きな物を用意した。
突然現れた凍頂烏龍茶はロイヤルゼリーの近くでゆっくりと歩いていた。
何歩か歩いてから、まだ立ち止まっているロイヤルゼリーに気付いて、振り返った。
凍頂烏龍茶:どうした?早く帰ろう?
ロイヤルゼリー:……
三十分後、落燕居にて。
エンドウ豆羊かん:ロイヤルゼリー帰ったか!食事じゃ!どこぞの金持ちのお陰でこんな贅沢な料理を食べられるとは。ああ良い匂いじゃ、ほれ早く!
ロイヤルゼリー:空いてねぇ。
エンドウ豆羊かん:ほれ?どうした?外で何かあったのか?
ロイヤルゼリー:堕神とばったり会ったから、疲れた。
エンドウ豆羊かん:えっ?
修練方法
ここまでするとは……
落燕居 庭
夢回谷
君山銀針:皆さん!良い知らせです!――あれ?凍頂烏龍茶殿?どうして自分を土の中に埋めているんですか?これは新しい修練方法なのか?
凍頂烏龍茶:ゴホゴホッ……良い知らせとは?
君山銀針:ああ、商会の連中は山を埋めて道を変える方針に同意してくれました!そなたのお陰で、とても喜んでいましたぞ!
凍頂烏龍茶:なら良い、一件落着と言う訳か。
君山銀針:そうだ!これで陣法の問題も解決された!残りの山谷の瘴気だけになりましたぞ!
凍頂烏龍茶:瘴気と言えば、冰糖燕窩は台所で新しい薬膳を開発しているそうだ。貴公も薬膳に興味があるだろう?
君山銀針:おお!教えてくださって感謝致します、今すぐそちらに伺います!
凍頂烏龍茶:どうぞ。
君山銀針は嬉しそうに去って行った。凍頂烏龍茶はほっと胸を撫で下ろしながら、大きな人型の穴から這い出て、自分の胸を擦った。
凍頂烏龍茶:ロイヤルゼリーの奴……肩を叩いただけで……ここまでするとは……
心配
自業自得……
ロイヤルゼリーの庭の扉が開いていた。ロイヤルゼリーは君山銀針と何かを相談しているらしい。入口に立っている凍頂烏龍茶は羨ましそうな視線で二人を見つめていたが、中に入る事はなかった。
彼は買ったばかりの霊力補充薬剤を入口に置いて、庭から去っていった。
凍頂烏龍茶:(あの日、あ奴との関係を修復するため、冰糖燕窩はあ奴との交流を増やすよう提案してきた。)
凍頂烏龍茶:(実践して何日か経つが、余の怪我が増えた以外に変化はない。)
凍頂烏龍茶:(人と人の関係は謀略や計略を使わずに修復できるものなのか……)
凍頂烏龍茶は歩きながら考えていた。
凍頂烏龍茶:?!
凍頂烏龍茶はロイヤルゼリーの叫び声を聞いた瞬間、風の如く二人の前に走って行った。
凍頂烏龍茶:呼んだか?
ロイヤルゼリー:ああ。
凍頂烏龍茶:ゴホゴホッ、何の用だ?
君山銀針:凍頂烏龍茶、先程ロイヤルゼリーが某に教えてくれたのだ。ここ数日、そなたはずっと彼と共に見回りに行っていたそうだな、本当にお疲れ様です!この薬膳は某が先程作ったばかりの物だ、本来ロイヤルゼリーに送ろうとしたが、やはりそなたにあげようと思う!
凍頂烏龍茶:…………
凍頂烏龍茶は吐きそうな気持ちを我慢して、君山銀針から変な匂いがする器を受け取った。
凍頂烏龍茶:感謝する……
ロイヤルゼリーは無表情で彼の横を歩いて行った。
良い思い出
(泣)
冰糖燕窩:一日三回、ご飯と一緒に飲んでください。
凍頂烏龍茶:感謝する。いっ……
薬を受け取った時、凍頂烏龍茶の腕の傷が痛みだしたため、彼は思わず息を呑んだ。
冰糖燕窩:まだ頑張れますか?
凍頂烏龍茶:当然、良くなってきている。あ奴に近づく時、余の心臓を攻撃しなくなった。
冰糖燕窩:あれは貴方が自分の手で攻撃を阻んだからではないですか?
凍頂烏龍茶は苦笑いした。
凍頂烏龍茶:他の方法はないか?
冰糖燕窩:彼はあなたの好意を受け取りたくないのでしょう……或いは、過去の良い思い出を呼び起こしてみてはいかがでしょうか?
夢回谷にて。
また夕方になった。ロイヤルゼリーは見回りを終えて帰ろうとしていた。
すぐに、彼は周りの物音に気付き、こっそりと迎撃態勢を取った。
ロイヤルゼリー(前よりはうまく隠れてるが、そろそろ出てくるだろう)
予想通り、影が少しずつ接近してきていた……
ロイヤルゼリー:失せろ。
天雷&地火:(泣)
ロイヤルゼリー:……
ロイヤルゼリーは空中に浮かびながら彼を見つめる天雷と地火を見て、動きが止まった。
しばらくして、彼はやっと針を収めて、帰途についた。
昔と今
彼を許すのは不可能だ。
ロイヤルゼリーは水筒を開けて、自分の手に少し出した。
ロイヤルゼリー:飲め。
天雷と地火はおとなしく地面に降りて、ロイヤルゼリーの手から水を飲んだ。
ロイヤルゼリーはしゃがんで、静かに天雷と地火を見ていた。手の平がむず痒かったが、目の前の情景と過去の記憶が重なった。
ロイヤルゼリー:あの時も、俺とてめぇらだけだった。
北朔にいた頃、ロイヤルゼリーは影で凍頂烏龍茶を護衛していた。普段は自分の姿を隠さなければならなかった。
凍頂烏龍茶は自分の実力を隠すため、普段は天雷と地火を宝珠に変化させ、強制的に眠らせていた。
誰もいない時だけ、彼は天雷と地火を解放し好きにさせた。そういった時、彼らと会えるのはロイヤルゼリーだけだった。
長い間、言葉を交わす事が出来なかったが、お互い唯一の友人だった。
今はどうだろう?
ロイヤルゼリー:飲んだら、帰れ。
ロイヤルゼリー:凍頂烏龍茶に伝えろ、これ以上余計な事をするな。あいつを許す事はないって伝えておけ。
言い終わると、ロイヤルゼリーは天雷と地火を遠くまで投げた。
大事な事
俺がてめぇを信じると思うか?
ドンドン――ドンドン――
ロイヤルゼリー:……
深夜、ロイヤルゼリーは目を開けて、眉をひそめた。
ロイヤルゼリー:……喧嘩売ってんのか?
ロイヤルゼリーは立ち上がって、扉を開けた。彼が凍頂烏龍茶を殴りかかろうとした時拳が止められた。
凍頂烏龍茶:待て!用がある!
ロイヤルゼリー:俺と関係ねぇだろ?
凍頂烏龍茶:天雷と地火がいなくなった!
ロイヤルゼリー:…………
あと少しでロイヤルゼリーの針が凍頂烏龍茶ののどを貫こうとしていた。
深夜
夢回谷
凍頂烏龍茶:本当にここか?
ロイヤルゼリー:信じねぇなら俺は帰る。
ロイヤルゼリーは帰ろうとした。
凍頂烏龍茶:そういう意味ではない。
凍頂烏龍茶:あ奴らが危ない目に遭っている感覚だけ感じとれている。貴公も知っている筈だ、夜だと余は何も見えない。だから一緒に探してくれ、頼む。
ロイヤルゼリー:……
深夜、山谷では虫の鳴き声しか聞こえてこない。空は雲に覆われ、雷が轟き、雨が降りそうになっていた。
凍頂烏龍茶:あ奴らを貴公について行かせるのは確かに余だ。しかし、あ奴らが道に迷うなど、そしてこんな形で貴公に話をかけるつもりもなかった。
ロイヤルゼリー:俺がてめぇを信じると思うか?
凍頂烏龍茶:しかしこれは事実だ。
ロイヤルゼリー:どうだっていい。
ロイヤルゼリー冷たく言い放ち、足を速めて前に進んだ。
凍頂烏龍茶:待て!
凍頂烏龍茶の伸ばした手を避けたロイヤルゼリーは、その場に立ち止まった。
ロイヤルゼリー:またなんなんだ?
凍頂烏龍茶:あ奴らは前方にいるのを感じた、しかし……まずい。
ロイヤルゼリーは周りを見渡した。前方には崖があり、月明かりの下。白く輝いていた。前もここに来た事はあったが、凍頂烏龍茶が感じた危機についてはわからなかった。
罠にかける
記憶が怒涛に襲いかかってきた。
深夜
夢回谷
雲はまた増えていった。空には稲妻が光っていた。月は雲に隠され、辺りは更に暗くなっていった。
ロイヤルゼリー:もう動くな。見えないのなら余計な事するな。
ロイヤルゼリーは崖の方へと進んだ。
凍頂烏龍茶は何かを言いたい様子だったが、結局口にせずその場に立ち止まった。
ロイヤルゼリーが少しだけ進むと、崖の下にいる天雷と地火を発見した。絡み合っている二匹は寝ているようだった。そして周囲にも別に危険な物は見当たらない。
ロイヤルゼリーは天雷と地火を摘まんで、凍頂烏龍茶の方に投げた。凍頂烏龍茶はそれらを手元で宝珠に変えた。
凍頂烏龍茶:ふぅ、感謝する。では帰ろう、ここはなんだか怪しい気がする。
この時、空の雲は少しだけ散り、ロイヤルゼリーは月光に晒された。そして雲の中で稲妻が光ると、突然――
『……これは最後のチャンスだ。』
『俺がてめぇの計画の一部だと言えば、てめぇを引き上げてやる。』
ロイヤルゼリー:!!!
凍頂烏龍茶:!!!
月明かりと稲妻の二つの光が合わさって、山谷から吹いて来た風は懐かしい声を乗せて来た――あれは三年前の情景!
凍頂烏龍茶:……行くぞ、ここは夢回の地だ!
ロイヤルゼリー:……また騙したな!
ロイヤルゼリーは狼狽して逃げ出した。しかし記憶の声は二人の耳元で鳴り続けた。
もっと頑張れ
まだ道は長い
夢回谷には、『夢回の地』と呼ばれる場所がある。稲妻と月明かりが共存する珍しい日に、ここを通過した人はある一定の確率で自分の記憶に眠っている最も忘れられない思い出の声が聞こえるという。
落燕居 薬室
夢回谷
君山銀針は簡易的な幕を張った。彼女は心配そうに遠く、雲で暗くなっている崖の上を見た。
君山銀針:主、崖の上は大変そうに見えるが、本当に大丈夫なのか?
冰糖燕窩:私も知りません。
君山銀針:ええ?そんな……
冰糖燕窩はいつも通り調薬していた。顔色一つ変えていない、物凄い落ち着きようだ。
君山銀針:そうだ、ロイヤルゼリーはもうあまり凍頂烏龍茶殿を邪険にしていないみたいだな。某が作った薬を凍頂烏龍茶殿に送っていたぞ!
君山銀針:なのに、何故あの二人はまた喧嘩をしているのか?
冰糖燕窩:……
冰糖燕窩:これを。
君山銀針:この薬は?
冰糖燕窩:私からのお詫びとして、凍頂烏龍茶に贈ってください。そして気落ちしないよう、彼を励ましてください。
君山銀針:おお……わかった。
自業自得
家が出来たが、また壊された。
天池
夢回谷
凍頂烏龍茶:ああ問題ない、薬はそこに置いてくれ。
君山銀針:えっ……あそこというのはどこでしょうか?
周りは廃墟だらけ、元々改造工事が半分まで進んでいた山荘は再びボロボロになっていた。
凍頂烏龍茶は少し落ち込んだ様子で椅子に座っていて、隣の丸椅子を指さした。
君山銀針は頷いて、椅子の上に薬を置いた。
しかし次の瞬間、その椅子は綺麗に真っ二つに裂けた。
君山銀針:……申し訳ない!
凍頂烏龍茶:……良い。今日は早く帰った方が良い。
君山銀針:わかりました!
鈍い君山銀針ですら、雰囲気がおかしい事に気付き、すぐに帰って行った。
凍頂烏龍茶:はぁ……どうすれば信頼関係を修復できるのか?
凍頂烏龍茶はとても悩んでいた。
あの夜、天雷と地火を探すため夢回の地に迷い込み、ロイヤルゼリーの過去の記憶をそのまま垂れ流しにしてしまった。
その後、ロイヤルゼリーはすぐに夢回の地を粉々に砕き使えなくして、あそこから逃げ出した。
ロイヤルゼリーは全てが凍頂烏龍茶の罠だと思い込んだ。彼が追手から逃げた後何をしていたかを調べるため。
凍頂烏龍茶:(嘘をつきすぎると、仇となってかえって来るものだな。)
凍頂烏龍茶は首を振って、未来について心配をし始めた。
裏切り者。
ありえない。
落燕居
夢回谷
ロイヤルゼリーは天池から自分の部屋に帰った。
空気の中に充満した安寧草の匂いで、彼は段々と落ち着きを取り戻した。
昨日の夜、彼は凍頂烏龍茶が何も聞いていない事を知りながらも、夢回の地を破壊した。
つまり、三年前に凍頂烏龍茶は自分が崖から落ちた後、何をしていたかは彼は覚えていないのだ。
三年前、凍頂烏龍茶の裏切りによって、ロイヤルゼリーは半堕化に陥り、一時は理性を完全に失っていた。
しかし、意識を取り戻した頃、既に数ヶ月が過ぎていた。自分は崖の底のある穴に隠れていて、そして隣には昏睡している凍頂烏龍茶がいた。
ロイヤルゼリー:クソ……
彼はあんな自分が嫌いだった――本能しか残っていない状態で、霊力が尽きても、崖の下で裏切り者を守っていた自分が・
だから、彼は凍頂烏龍茶を置いて去って行った。彼は全ての記憶を捨てて、夢回谷に戻ってきた、かつての自分にもうならないために。
しかし今、暴飲事件のせいで、過去の記憶が全て戻ってきた。
ロイヤルゼリー:(……それでも、俺はてめぇに過去の事を教えてやらねぇ、そして過去に戻るなんて絶対に、あ、り、え、な、い。)
ロイヤルゼリーは冷たい顔で、崖に面した部屋の扉を閉じた。
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