遠山越しの記憶・ストーリー
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目次 (遠山越しの記憶)
遠山越しの記憶
プロローグ
絹糸のような春雨は道を行き交う人たちの熱情を止められない。
彼方から吹く風が淡いよもぎの香りを運んできた。町の人々は一年に一度の河神祭のために色々な準備をしていた。
人々は皆嬉しそうな笑顔を浮かべていた。よもぎを使ったこの時期特有の食べ物を作る人もいれば、平安と無事を祈願する五色組紐を編む人もいる。
ドォーン――
巨大な爆発音が湖畔小舎の安寧を乱した。琴を弾いていたロンシュースーの指が震え、弦が切れた。
ロンシュースー:……またか?きりのない!
ロンシュースーは弦が切れてしまった琴を抱え、ぶつぶつと文句を言いながら、事の修理に出掛けようとしていた。
庭で西湖龍井と対局していた子推饅は爆発音の方を一目見て、仕方なく首を横に振った。
子推饅:……また失敗したのですか。
西湖龍井:フンッ、毎日のように騒がしくて、なんとみっともない。
子推饅:あはは……雄黄酒は疫病の件を解決しようと焦ってるんですよ。
二人が話していると、また大きな音が響いた。何か重たい物が落ちたような音だった。
慌ただしい足音の後、ロンフォンフイは部屋を飛び出して庭にやって来た。
ロンフォンフイ:どうしたどうした?!敵襲か?!
服と髪が乱れているロンフォンフイの様子を見た子推饅は呆れて額に手を当て、隣の西湖龍井はすぐに顔を背けた。
ロンフォンフイ:服?あぁ、急いでたからな!別に大した事ないだろ、男しかいねぇし!
西湖龍井:そのだらしない身なりを早く整えてください!
ロンフォンフイ:わかった、後で直すから。さっきの音はなんだったんだ!
ドォーン――!!
大きな音がした部屋の扉が開くと同時に、黒い煙が物凄い勢いで押し出された。
一つの影が煙から飛び出し、手で煙をかき分けながら庭に向かって走ってきた。
雄黄酒:ゴホッ……ゴホゴホッ!
西湖龍井:自分で連れてきた人は、自分で面倒をみてください。
西湖龍井は立ち上がり、だらしないままのロンフォンフイをチラッと見て怒りながら去っていった。子推饅は仕方なく散乱した碁石を片付けた。
雄黄酒:ゴホゴホッ……ゴホッ……だ、大丈夫です。もう少しで成功するところでした……
子推饅は部屋に戻って研究を続けようとする雄黄酒を引き留めて、ロンフォンフイに押し付けた。
子推饅:もう何ヶ月も外出してないですよね?いくら疫病のためとは言え、無理をし過ぎです。
子推饅:ちょうど河神祭の時期です。ロンフォンフイ、雄黄酒を連れて行ってあげてください。これ以上彼を引きこもらせないように、私も彼の部屋を片付けたいですし。
雄黄酒:しかし……
子推饅:異論は認めません!
ロンフォンフイ:いいから子推饅の話を聞いとけ!この前オレがオメェの菖蒲を全部摘んじゃったからな!新しいの買ってやるよ!
雄黄酒:なっ?!また貴方は……!あれは薬に使うものですよ!
ロンフォンフイ:(やべぇ!口が滑った!)
雄黄酒:待ちなさいっ!逃げないでください!
ストーリー1-2
河神祭が近づくにつれ、町によもぎの香りが溢れるようになった。忙しない春を過ごした人達も、祭りの時期は町に出て賑やかな雰囲気を楽しんでいた。
――人生は短い、だから祝える時に祝って喜びを感じとかねぇと。そうすれば、辛い時に笑顔の思い出を糧に頑張っていけるから。
どうしてか、雄黄酒は突然ロンフォンフイが言ったこの言葉を思い出していた。人々の笑顔を見ていたら、彼の強張っていた表情は少しずつ弛んでいった。
雄黄酒の傍にいるロンフォンフイもホッとした。疫病に対抗できる薬の開発は難航し、雄黄酒はもう長らく休んでいなかった。
ロンフォンフイは、これは雄黄酒の贖罪である事は知っている。だから彼は止めなかった。
ロンフォンフイ:(よし……思ってたより元気そうだ)
雄黄酒はロンフォンフイが自分を見ていた事に気付き、無意識に手元の菖蒲を抱き締めた。
雄黄酒:私の菖蒲はあげませんよ!これは薬の材料にするんです!
ロンフォンフイ:オレをなんだと思ってんだ!ウサギじゃねぇし食わねぇよ!
ロンフォンフイ:オメェ――!まあいい。オメェ河神祭初めてだろ、兄貴分として案内してやる!
雄黄酒はロンフォンフイに急に引っ張られ、睨みつけた。でも彼は別にこのような賑やかな場が嫌いな訳ではない。以前は世間から遠ざかった生活をしていたため、祭りの全てが珍しく見えていた。
突然、雄黄酒は見覚えのある姿を見つけ、立ち止まった。
魚香肉糸:北京ダック、その子らを連れてこないでと言ったでしょ、迷子になったらどうするの!
北京ダック:吾がこの子らを抱いているではないですか、落ち着いてください。
魚香肉糸:……居なくなって、私に泣きつかれても知らないわよ!
魚香肉糸:だからこの子らの面倒はそなたが見てくれるのでしょう?そなたはきっと助けてくださいますよね?
魚香肉糸:連れ出したのは貴方だから、自分で責任を取りなさい!酸梅湯、行くわよ!
北京ダック:なっ――そんな!
談笑している北京ダックと魚香肉糸が雄黄酒の傍を通る。久しぶりに見た北京ダックの柔らかい笑顔に、雄黄酒は彼の後ろ姿から目が離せなくなった。
北京ダックが「聖教」に潜入していた頃、雄黄酒は彼の仮面のような作り笑いしか見ていなかった。こんな笑顔を見たのは初めてだった。
雄黄酒:(彼は、こんな風に笑うのか……)
ロンフォンフイは北京ダックたちに気づかなかった。彼が振り向くと、そばにいたはずの雄黄酒がいつの間にか遠くにいる事に気付く。彼はすぐ雄黄酒のそばに行き、彼の前で手を振った。
ロンフォンフイ:おいっ、何を見てる?
―――
わたくしは……
・<選択肢・上>昔の知り合いを見かけただけです……
・<選択肢・中>……何でもないです。
・<選択肢・下>旧友を見かけただけです……
―――
ストーリー1-4
ロンフォンフイは他者の気持ちを察するタイプではなかったが、今の雄黄酒の表情からホッとした気持ちを読み取れた。
ロンフォンフイ:(まあいい。)
ロンフォンフイはそれ以上気にせず、両手を後頭部にあてながら闊歩し、雄黄酒についていった。
しばらくして、雄黄酒は花屋の草花から薬の材料になれる植物を発見し、目を光らせながら向かっていった。
友達と遊んでた子どもが、気付かない内にロンフォンフイにぶつかった。
ぶつかられたロンフォンフイはなんともなかったが、その子どもは衝撃で尻餅をついた。少年は口を尖らせながら、自分のお尻を撫でていた。
少年:うわっ!誰だよ――体硬すぎじゃない!
ロンフォンフイ:小僧、ぶつかってきたのはオメェだろう?何で文句言ってんだ。大丈夫か?
少年:あっ!雄黄酒先生!あの先生のパシリ!
ロンフォンフイ:誰がこいつのパシリだ!大人しくロンフォンフイ先生と呼べ!
少年:フンッ、雄黄酒先生は僕たちのために、治療してくれるし、薬も作ってくれる。あと堕神が残した瘴気も消してくれる良い人だ!お前はただ薬箱を運ぶだけのパシリ!パシリ!
ロンフォンフイ:おい、小僧――!
この少年はよく湖畔小舎に手伝いに来ていたため、二人とは顔なじみだった。ロンフォンフイは彼の頭を掴んで、撫で繰り回した。二人がじゃれていたら、彼の腕の五色紐にロンフォンフイは興味を惹かれた。
ロンフォンフイ:お?これはなんだ?前から付けてたのか?
少年:これ?これは「五色紐」、お守りだよ!綺麗だろ!母ちゃんの手作りだ!手作りが一番効くんだって!へへっ!
ロンフォンフイ:(ほお…………五色紐……)
少年:あっ、友だちが待ってるから!じゃあな、パシリ!
ロンフォンフイ:おい!小僧!戻れ!!
少年:やーだーねー!
ロンフォンフイ:(お守りか――)
ロンフォンフイは花を選んでいた雄黄酒を見て、すぐに終わらないと踏み、色んな露店で何かを探し始めた。
ロンフォンフイ:(これはダセェ、ねぇわ!あーこれは色が変!おっ!これは悪くねぇ!)
ロンフォンフイ:すみません、これはいくらですか?
魚香肉糸:この五色紐、とても綺麗ね!
北京ダック:すみません、これはいくらですか?
店主:……えっと、あの……
二人ともばつが悪そうに手を離した。北京ダックの後ろから顔を出した魚香肉糸を見て、ロンフォンフイは後頭部を掻いた。
北京ダック:この方が先に目を付けていたので、彼にあげてください。
ロンフォンフイ:いや、そのお嬢さんが気に入ったんなら、彼女にやる。
ロンフォンフイ:(あとで自分で編んでやるか、手作りの方が効くと言ってたしな……)
雄黄酒は自分が欲しい花を買い終えたが、ロンフォンフイの姿を見失った。
周辺を見渡すと、遠くで人と対峙している彼の姿が見えた。雄黄酒は彼が喧嘩をし出すのではないかと心配し、急いでその場に向かった。
北京ダックは突然現れた雄黄酒に驚き一瞬固まったが、彼を一目観察してからすぐに優しい笑顔を浮かべた。
北京ダック:……お久しぶりです。良い顔をするようになりましたね。最近はいかがお過ごしでしょうか?自分が求める物を見付けられましたか?
―――
……はい。
・<選択肢・上>おかげさまで。
・<選択肢・中>貴方のおかげで、自分の行きたいところを見つけました。
・<選択肢・下>いつも助けてくれる人がいるおかげで。
―――
ストーリー1-6
北京ダックが魚香肉糸が選んだ五色紐を買った後、三人は何故か肩を並べて歩き始めた。ロンフォンフイは北京ダックの横顔を見て、眉をひそめた。
ロンフォンフイ:(こいつ……どっかで見た事がある気が?)
北京ダック:吾の顔に何かついているのですか?
ロンフォンフイ:いや!何でもねぇ!ただ少し見覚えがある気がしただけだ!
北京ダック:そうですか、少し見覚えがあるだけ……
ロンフォンフイ:えっ?
北京ダック:いいえ、吾はこの町に来たばかりです。とても素晴らしい所ですね、昔の知り合いにも会えましたし。雄黄酒、吾に案内をしてくれませんか?
ロンフォンフイ:……
雄黄酒:……
北京ダック:あぁ!もし他に用事があるのなら、また今度でも構いません。
ロンフォンフイは笑顔の北京ダックを見て、急にかつて「悪都」で血を浴びていた人物であると気付いた。
ロンフォンフイ:(何をするつもりだ?)
―――
わかりました。
・<選択肢・上>わたくしの知り合いなので、心配しないでください。
・<選択肢・中>先生、案内はわたくしに任せてください。
・<選択肢・下>先生と話がありますので、先に帰っていてください。
―――
ロンフォンフイ:……
雄黄酒:ロンフォンフイ、悪いが先に菖蒲と離花を持って戻って頂けると。わたくしもすぐに戻ります。
ロンフォンフイ:わかった、早く戻れよ!
雄黄酒:……はい、できる限り。
ロンフォンフイは雄黄酒が袖の中で拳を握り締め、唇を噛んでいる様子に気付いた。
ロンフォンフイが去った後、北京ダックも竹煙の仲間を遠ざけた。残った二人が湖のほとりを歩いていたところ、雄黄酒は急に足を止めた。
振り向いた北京ダックは、立ち止まっていた雄黄酒の顔色が良くない事に気付いた。彼が疑問を口に出す前、雄黄酒は突然片膝をついて北京ダックに大きく一礼した。
北京ダック:何をしているんですか?!
雄黄酒:先生、自分の罪深さは重々承知しております、一時でも見逃してくださったのはひとえに先生の寛大さによるものなのも分かっております。先生が御侍のために復讐したいのは当たり前の事です。ですが、ですがもう少しだけ生きながらえる事を許してくださいませんか?
雄黄酒:わたくしは皆と約束しました……共に河神祭を過ごすと……可能でしたら……疫病の薬を作り出すまで待って頂けないでしょうか。
北京ダックは雄黄酒の蒼白な顔を見て、彼の考えている事をやっと理解した。
北京ダック:フッ――
胸騒ぎがしていた雄黄酒は北京ダックの笑い声を聞いて、呆気にとられ顔を上げて彼を見た。
雄黄酒:あの……先生?
北京ダック:早く立ってください、みっともないですよ。あの騒々しいロンフォンフイと共に生活しているのに、どうしてそのように堅苦しいのですか?
雄黄酒:あの……先生?貴方は……わたくしを探しに来たのでは?
北京ダック:本当に偶然ですよ。ちょうど河神祭が行われていましたし、魚香肉糸は祭り好きなので、彼女に付き添ってきました。まさかそなたに会うとは。
雄黄酒:しかし……
北京ダック:吾は復讐をしに来た訳ではないですよ、安心してください。
北京ダックは雄黄酒を引っ張り上げて、汚れた彼の膝を軽くはたいた。
ストーリー2-2
雄黄酒の困惑している顔を見て、北京ダックは一つため息をついた。
北京ダック:どうしてそなたはこうも頭が固いのですか。
北京ダック:吾が後悔するような人に見えるのですか?
雄黄酒:いいえ!しかし……しかし……
雄黄酒はどんどん俯いていった。
北京ダック:どうされました?
雄黄酒:わたくしは……何と言っても先生の御侍を殺した元凶の一人です。自分の本心ではございませんでしたが、あのような結末を招いたのは紛れもなく……
北京ダック:やはり吾の人を見る目は悪くない。
雄黄酒:えっ?
北京ダック:いいえ、なんでもないですよ。良い仲間が出来たみたいですね、昔のそなたはこんな事を考えない人でしたから。なら、そなたはもう自分のやりたい事を見つけたのですね。
雄黄酒:はい、ロンフォンフイ達には何回も助けられました。前のわたくしが知らない事を多く知る事が出来ました。だからこそ……あの事件の落とし前はきちんとつけなければならないと考えています。
北京ダックは手を上げて雄黄酒の話を中断し、彼の険しい表情を見て苦笑いをした。
北京ダック:確かにそうですが、しかしそなたは道具として利用されたに過ぎません。
雄黄酒:うっ!
北京ダック:そなたと吾は同じく食霊として生まれた。御侍の契約からは、絆の他に、更に逆らえない因果があるのは分かっています。
雄黄酒:……
北京ダック:神様の寵愛かもしれません、吾は賢明な御侍を持つ事が出来ました。そして吾に比べ、そなたは不幸だったと言えましょう。
雄黄酒:先生……
北京ダック:そなたはもう覚えていないかもしれませんが。あの日、そなたが自分の御侍のために身を挺していた時、あの者もそなたを盾に致命の一撃を防ごうとしていた。あの時のそなたの目から恨みは見えませんでしたが、光もなく死んだも同然の目をしていました。
北京ダック:吾は知っています。あの時、そなたたちの最後の絆が擦り潰されてしまったのを。そして、当時の雄黄酒がその時死んだのも。
北京ダックは雄黄酒の顔を見ていない。彼は顔を上げて、懐かしむような表情をしていた。
北京ダック:吾の仇は既にあの者の血で洗い流された。そなたへの恨みも、そなたが倒れた瞬間に終わりました。そなたの命を残す事で、多くの命を救える。この取引は、悪くはないです。
―――
わたくしは……
・<選択肢・上>この雄黄酒必ずや先生のご期待に添えます!
・<選択肢・中>自分が背負っている物を決して忘れたりしません!
・<選択肢・下>必ずや贖罪を果たします!
―――
昔とは別人になっている雄黄酒を北京ダックは見つめた。今の雄黄酒の目からは迷いは一切なく、自分の意志を最後まで貫こうとする光が見える。
雄黄酒を見逃した後、北京ダックは彼が本当に生まれ変われるのか、はたまた過ちをまた犯すか、分からなかった。でも、今の彼を見てやっと胸のつかえが取れた。
北京ダックは雄黄酒と色んな世間話をした、夜色で青空が染まるようになるまで。そして、二人はやっと名残を惜しんで別れた。
北京ダックは少しスッキリとした雄黄酒を見送った後、背後の茂みに隠れている影の方を見た。
北京ダック:これで安心したでしょう?吾は彼に手を出すつもりはありませんよ。
盗み聞きがバレたロンフォンフイは少し気まずくなった。雄黄酒のためでなければ、彼は決してそのような事はしなかった。舌先で乾いた唇を潤し、口を開いた。
ロンフォンフイ:……あー盗み聞ぎをしようとしたんじゃねぇ。ただあいつが心配だったから。っていうか、オメェがあの時あいつをオレに任せた奴か?!
北京ダック:吾が誰だったのか思い出したようですね?彼の事を鬱陶しく思うのなら、吾に返すのはどうでしょう?吾に竹煙質屋ではちょうと薬師を探していたので。
ロンフォンフイ:思い通りにさせるかよ、あいつはまだオレに恩を返してねぇ!
北京ダック:ハハッ!想像通りの面白い人ですね!
ロンフォンフイ:フンッ、しかし……ようやくオメェがあいつを助けた理由が分かった。
北京ダック:良い商売人としてリスクを恐れてはいけません。何と言っても、ノーリスクノーリターンですから。そしてこの取引、吾は別に損をしていないでしょう?
ロンフォンフイ:チッ、オメェら商売人は本当に計算が上手だな、感服したぜ。でも、ありがとうな!
ロンフォンフイは雄黄酒のようにたくさん過去の思い出がある訳ではなかったので、すぐ北京ダックに別れを告げた。
ただ、彼は何歩か歩いた後、突然振り返った。
ロンフォンフイ:そうだ、今夜オレたちは集まって食事する予定だ。オメェも良かったら仲間を連れて来ねぇか?子推饅は風土について詳しいから、オメェの仲間の役に立つだろう!
北京ダック:わかりました。ではお言葉に甘えて。
北京ダック:一体……誰が誰に感服するべきですかね……
北京ダック:(何と言っても、あの頃の吾ですら彼を救うか否かと迷っていました。しかしそなたは恨みを捨て、彼を救っただけではなく、彼により多くを救うよう教えた)
北京ダックは二人が離れていった方向を見て、手中の煙管を回し、口角を上げ柔らかく優しい笑顔を浮かべた。
ストーリー2-4
話に興じて時間を忘れた雄黄酒は、急いで小舎に帰った。まだ庭先に足を踏み入れないうちに、馴染みのある喧騒が聞こえてきた。
ロンシュースー:ロンフォンフイ!それ以上わたくしの糸を切るなら、ぬしの手を縫い合わせてやろうぞ!
ロンフォンフイ:おいおい、そんなに気にするなよ、ただの糸だろ、もうちょっと明るい色にしようぜ!
ロンシュースー:誰もがぬしのようだと思うてるのか?!この色こそ彼に相応しい。
ロンフォンフイ:オレの話を聞き入れて色を変えろよ!
ロンシュースー:なら自分でやるがいい!
ロンフォンフイ:ロンシュースー様お願いだから!変えてくれよ!
ロンシュースー:今の方が良い。ふざけるのはおやめなさい!早く片付けよ!雄黄酒が帰って来てしまうぞよ!
雄黄酒:ただいま戻りました。ん?何をしているんですか?
雄黄酒は入口で言い争っている二人を見ていた。ロンフォンフイは慌ててロンシュースーの手元にあった物を背後に隠した。
ロンフォンフイ:いや、なんでもねぇ。
雄黄酒:……では、わたくしの菖蒲はどこに?
ロンフォンフイ:ああっ――!!
ロンフォンフイはハッとして、先程雄黄酒達の後を追うため、二鉢の花をどこかに置いて来てしまった事を思い出した。
ロンフォンフイ:あーあれは……
雄黄酒:……どこです?
ロンフォンフイ:あーっと、子推饅が夕食の準備をしてるから、オレも手伝いに行ってくる!――あっいたたたつねるなやめろ!殴るぞ!本当に殴るぞ!
ロンシュースーは袖で口元を覆い、ロンフォンフイの姿を見て笑っている顔を隠した。ロンフォンフイの腕は雄黄酒につねられて赤くなっていた。そして雄黄酒は彼が後ろに隠していた服を見つけた。
――あれは五つ毒物が縫われている錬丹服。懐かしい造形、懐かしい五種類の毒獣。かつて「聖教」にいた頃に来ていた服と似ているが、全く異なるところもある。
元々恐ろしい獣はロンシュースーの手を経て生き生きと可愛くなっていた。また吉祥を象徴する五色の紋が加えられていた。そのため、元の暗い色合いも明るく見えた。
雄黄酒:これは……
ロンフォンフイ:ああああ――バレちまった……まあいい、オメェへの贈り物だ!
雄黄酒はロンフォンフイに渡された服を見てから顔を上げると、そこには顔が少し赤くなったロンフォンフイがいて少しぎょっとした。
雄黄酒:わたくしへの……贈り物?
ロンフォンフイ:ああああめんどくせぇ!全部西湖龍井の仕業だ!あいつが言ったんだ、河神祭の時は全員五毒の飾りがついた服を着て、五毒を避け、福を祈るんだと!
ロンフォンフイ:オメェ持ってねぇから、ロンシュースーに頼んで一着を作ってやった……形はオメェがいつも見てるあのボロボロの服を元にしてる。
ロンフォンフイ:これであのボロボロの服を捨てられるな!前はあんなダサい服を着てたから運気が良くなかったんだよ!捨てろ!縁起がわりぃ!
温めた酒を持って来た子推饅は、髪を乱しながら話してるロンフォンフイをからかうように言った。
子推饅:ロンフォンフイ、普段ははっきり物を言うのに、どうして贈り物を送る時だけそんなに慌てるんですか?
雄黄酒:……これは、わざわざわたくしのために?
ロンフォンフイ:うるせぇ、早く着てみろよ!
―――
わかりました。
・<選択肢・上>ありがとうございます、気に入りました!
・<選択肢・中>どうしてこの服の事を思い出したのですか?
・<選択肢・下>あ、ありがとうございます。
―――
ストーリー2-6
雄黄酒は周囲が期待している中、ロンフォンフイ達が用意した新しい服に着替えた。普段厳しい顔しか見せない西湖龍井も彼を見て頷いた。
雄黄酒が着替え終えてすぐ、北京ダックと竹煙の仲間達も湖畔小舎にやってきた。
魚香肉糸:この周辺にはこの地を守る龍神像があるみたい。だから伝説の龍神もここにいるでしょうね。
北京ダック:魚香肉糸、先程も言ったでしょう。今日は昔の友人を訪ねに来たのです、どうしてまた研究してるのですか。
魚香肉糸:ごめんなさい、扉にある彫刻を見てつい。
既に北京ダックたちの声が庭まで届いていた。ロンフォンフイは入口付近で躊躇っている雄黄酒を引っ張って出迎えに行った。
ロンフォンフイ:おいっ!悪徳商人!こっちだ!
北京ダック:……一応、褒め言葉として受け取りましょう。
新しい服を着た雄黄酒を見て、北京ダックは少し驚いて、笑顔で観察した。
北京ダック:明るくなりましたね。
雄黄酒:……ありがとうございます。
竹煙の人たちはすぐにロンフォンフイたちと仲良くなった。少し飲みすぎたロンフォンフイは北京ダックの首にがっちり腕を回し、言葉にならない何かをつぶやいていた。
隣に座っている雄黄酒は、この賑やかな光景を見て微笑んだ。
一つの影が音もなく雄黄酒に近づいてきて、彼は振り返った。
雄黄酒:龍井?
優しい子推饅、豪快なロンフォンフイとは異なり、この龍神として扱われている男はずっと雄黄酒の一挙一動を観察するような目で見ていた。
でも雄黄酒は西湖龍井の事を別に恨んではいない。この男はただ他の大事な人たちを守るために警戒をしているだけであり、そして彼の信頼を得るために雄黄酒もずっと頑張ってきた。
西湖龍井:あなたがこちらに来たばかりの頃、私はあなたがまた同じ轍を踏んで、再び災いを起こすのではないかと心配していました。でも、それは杞憂だったようですね。今日まで、お疲れ様でした。
雄黄酒:……ありがとうございます。
西湖龍井の横にいた子推饅が咳をして、何かを促しているようだった。
子推饅:ゴホッ、まだ何か言う事がありますでしょう。
西湖龍井:……ゴホン、その服、よく似合っています。
西湖龍井は感情を表に出すのが得意なタイプではない。その言葉を口にした後、彼はすぐにその場から立ち去った。雄黄酒は彼の耳が少し赤くなっていたのが見えた。子推饅は笑いながら雄黄酒の隣に座った。
子推饅:龍井は自分の感情を表に出すのは得意ではないため、貴方に対して不満を持っていると、貴方は誤解した事でしょう……
雄黄酒:いいえ!そんな事はありません。龍井はただ貴方達の事を心配して、わたくしがまた何かをしでかすと……
子推饅:理解して下さって何よりです……彼はいつもそうです、何も言わず全ての責任を一身に背負って。
子推饅:まだ知らないでしょう。その服、思いついたのはロンフォンフイ、作り手はロンシュースー、飾りを探してきたのは私
子推饅:そしてこの毒を防げる布地を探すため、龍井は随分力を入れたそうですよ。
雄黄酒は驚いて自分の服を見た。その後、彼は自分の袖をしっかりと握り締めて頷いた。
子推饅:きっとそれこそ、貴方を私達の仲間として受け入れた証だと思います。
雄黄酒:わたくしは必ずその気持ちを裏切らず、二度を過った道に進みません……本当にありがとうございました!
子推饅:私達以外に、感謝するべき人はまだいるでしょう?
雄黄酒は顔を上げて、月の下で酒を飲んでいる北京ダックとロンフォンフイを見ていた。いつの間にか兄弟と呼び合う二人の笑顔に、雄黄酒は見とれていた。
雄黄酒:そうです、感謝するべき人が多すぎますね。
飲み会が終わった後、子推饅は全員に休憩出来る部屋を用意した。
あまり飲んでいなかった雄黄酒は廊下を歩いて部屋に戻ろうとしていた。途中、懐かしい景色が見えたような気がした。新たな気持ちが、そよ風に揺られ、花びらと共に空を舞った。
―――
どこに行けばいい?
・<選択肢・上>庭に行ってみましょう。
・<選択肢・中>もう少しここにいましょう。
・<選択肢・下>早めに部屋に戻りましょう。
―――
北京ダック√宝箱
そよ風と共に庭に入った雄黄酒は懐かしい姿を見た。
北京ダックは雄黄酒の問いに答えなかった。彼は両目を閉じ、晩春のまだ少し冷たいそよ風を享受していた。まるで静けさを感じているように。
北京ダック:良い所ですね……
雄黄酒も何も言わず、静かに北京ダックの隣で、同じく両目を閉じ心地よい風を感じていた。
本来、彼にとって北京ダックの到来は夢を砕く雷でしかなかった。しかし北京ダックは彼のかつての罪を追求するつもりはなかった。
雄黄酒は知っている、命を見逃してもらった事を喜んだ自分は卑怯者だと。しかし、彼は湖畔小舎で経験した全てが惜しかった。
北京ダック:ねえ、雄黄酒よ、知っていますか?あの時の吾はそなたの命を救うつもりはありませんでした。全てを神様に任せようとしました。
雄黄酒は目を開けた。春風が庭に残された酒の香りを吹き散らし、朧月夜の下、北京ダックの表情ははっきりと見えなかった。
北京ダック:そなたと再会するまで、吾はずっと悩んでいました。当時の選択は本当に正しかったのか?更なる悲劇を引き起こすのではないか?と。
雄黄酒:わたくしは……
北京ダック:しかし、今日出会ったおかげで、吾は自分の運に少し自信が持てました。
雄黄酒:運ですか?
北京ダック:まさか吾が深手を負った時に出会ったあの人が、そなたにここまでの変化をもたらすとは。しかも、病床で苦しんでいる人たちにも一縷の希望を与えた。
北京ダック:その全てを見て、吾は「時と運が味方すれば、人を助けられる」というような感慨を覚えました。
雄黄酒:……北京ダックさん、これは運とは関係ないと考えます。
北京ダック:ほお?
雄黄酒:言える立場ではないですが、でも全ては北京ダックさんが善意を撒いたために、善果が実ったのかと思います。
北京ダック:まあこの話はここまでにしましょう。ただ、本当に良い仲間に出会えましたね。
雄黄酒は突然話題が変わった事に驚いて、呆然とした表情をしたため、北京ダックは思わず笑いだした。
北京ダック:この五毒、そなたの幸福を祈る以外に、他の意味があるのをご存じですか?
雄黄酒:……他?ご教授願います。
北京ダック:昔のそなたは悪を助長するために五毒凶獣を身に纏っていました。今のそなたは悪を成敗するため、五毒を着ている。同じ服ですが、意味合いはまったく異なります。
北京ダック:この服でそなたに二度と過ちを冒さないよう戒め、そしてそなたに新たな始まりを与えた……
雄黄酒:異なる道、異なる始まり……
北京ダック:今のそなたを見ていると、吾は少し後悔しています。何故あの時、そなたを傍に置いておかなかったのか。もしかしたら今頃吾の傍にも専属薬師がいたでしょうに。
北京ダック:今は普通の薬師を見つけるのも難しいです。しかもそなたのように薬と毒物両方の知識を持ち得ている人は更に珍しい。雄黄酒、吾の竹煙質屋はずっと薬師を求めています……そなたは……?
雄黄酒:北京ダックさんの御恩は一刻も忘れません。もし何かご用があれば、この雄黄酒は必ず死ぬまで力を尽します!ただ……わたくしはもう帰る場所を見つけましたから。
北京ダックはからかわれている事に気付かず慌てている雄黄酒を見て、我慢できず大声を出して笑った。
北京ダック:ハハッ、何年経っても相変わらず頭が硬いですね!まあいい、でも将来もし吾がそなたの薬を買いに来たら、必ず割引をお願いしますね!
雄黄酒:もちろんです!
ロンフォンフイ√宝箱
少し酒気に染まった雄黄酒が自分の部屋に戻ろうとした時、馴染みある姿が彼の部屋の前に立ち、静かに庭の景色を眺めていた。
普段のロンフォンフイはいつも風来坊のようだが、この時の真面目な彼は、なんだか頼りがいのあるような雰囲気を纏っていた。
この時しか、酔っぱらって意識を無くした時に言っていた話を信じられないでしょうーー彼は昔国を守る猛将であったと。
ロンフォンフイ:あぁ、戻ってきたか!おせーよ、ずっと待ってた。
ロンフォンフイが口を開いた瞬間、先程の頼もしい雰囲気が台無しになった。雄黄酒は思わず笑い出した。
雄黄酒:どうしましたか?部屋に戻らないのですか?
ロンフォンフイは自分の後頭部を掻いた、元々乱れていた長髪が更に乱れた。彼は自分の服から、一つの五色紐を取り出した。
雄黄酒:……これは?
ロンフォンフイ:うるせえ!手を貸せ!
驚いた雄黄酒の手がロンフォンフイに掴まれた。そして、少し歪んでいる五色紐が彼の腕に結ばれた。
雄黄酒は所々弛んでいて、まったく美しくない五色紐を見ながら、笑いながら言った。
雄黄酒:自分で編んだ物ですか?
ロンフォンフイもこの五色紐が美しくない事を分かっていた。恥ずかしいからか、頬は少し赤くなっていて、自分の頬を掻きながらそっぽ向いた。
ロンフォンフイ:文句を言うな!付けてろ!あの小僧が手作りした方が効くつってたからな、そうじゃなければこんなもん編むかよ!面倒くさい!
雄黄酒:ありがとうございます。
意地っ張りな雄黄酒に慣れていたロンフォンフイは、またブツブツ文句を言われてから受け取ると考えていたが、素直に礼を言われて驚いた。
ロンフォンフイ:どうした……急にかしこまって。
雄黄酒:急に思い出したんです、まだきちんと貴方に感謝をしていなかったと……
ロンフォンフイ:あ?何に?
雄黄酒:あの頃、恨みを捨てて、わたくしを救った事について感謝します。
ロンフォンフイは雄黄酒が急に昔の話をするとは思わなかった。彼は部屋の前の階段に腰を下ろし、しばらくしてから返事をした。
ロンフォンフイ:まだ生きている人を見捨てられねぇだろ……しかも……
雄黄酒:しかも?
ロンフォンフイ:あの時、オレも迷った。オメェを救うべきかどうか。何と言ってもオメェはあの悪人共の仲間だから。
雄黄酒:……最後はわたくしを救ってくれた。
ロンフォンフイ:そう!だからあの時決めたんだ!オメェを見続けると!オレは自分がオメェを救わない事を許せねぇし、そしてオレが救った人が再び誰かを傷つける事も許さねぇ!
雄黄酒:……
ロンフォンフイ:あの頃のオメェも確かにあの悪徳商人の言った通りだった。
ロンフォンフイ:あの頃のオメェは自分で何をしたらいいかわからないガキみたいな奴だった。少し可哀想に思っていた。
ロンフォンフイ:だが、オレに助けられたんなら、オメェの面倒を見る事がオレの責任だ。オメェの兄貴分として、オメェがまた間違った事をしないようにちゃんと教えてやるよ!ハハハハハッ!
大笑いしているロンフォンフイに対して、雄黄酒は普段のように突っかかったりしなかった。ロンフォンフイが振り返ると、少し驚いている雄黄酒の姿がそこにあった。
今の雄黄酒の顔に、もう迷いはない。彼の目は真っ直ぐで、覚悟が決まっているように見えた。
ロンフォンフイ:ん?どうした?
雄黄酒:わたくしはまだ償わなければならない、一人では頑張っていけないかもしれない……だから……
ロンフォンフイ:だからなんだ?!諦めるのか?!おいっ!もっかい言ってみろ!殴るぞ!
雄黄酒:……人の話は最後まで聞きなさい……
ロンフォンフイ:おおっ……悪かった、どうぞ。
雄黄酒:だから、お願いします、わたくしの傍で見守っていてください。もしわたくしが再び道を間違えそうになったら、止めてください。
ロンフォンフイ:……わかった!オメェと約束してやろう。このロンフォンフイが生きている限り、オメェが同じ轍を踏む事は決してない!
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