魚介スープ・エピソード
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魚介スープのエピソード
自発的に何かをする事はない、やらなければならない事であっても、全力でやる気はない。彼はいつも自分の弱さと無力を強調する。他の人と意見が食い違う時、彼はすぐに折れる。争いに巻き込まれたら、すぐに逃げる事を選ぶ。口癖は「好きにして」。
Ⅰ 過去
海にいる時、時間の概念がよく曖昧になる。いつの間にか、夜は静かにやってくる。
最近、天気はあまりよくない、稲光が瞬き雷が落ち、続けて土砂降りの雨が降り注いだ。
モヒートはもう部屋に戻っていた。僕も漫画を片付けて、甲板から立ち去った。
ドアと窓を全部閉めると、僕はベットに寝転び、目を閉じて、雨の音と共にぐっすりと眠りに落ちた。
雨の日になると、僕は毎回同じ夢を見る。
夢で僕たちは大事なものを守るために、全てを賭けて戦った。
でも……結局負けた。
夢の中の全てはこんなにもリアル……
海軍の一員になった理由は、僕の御侍にある。
旦那は凄く頼りになる士官で、迫力はあるけど威張った事はなくて、自分の部下を困らせた事もない。
旦那からは、様々な戦い方やどういった風にスキルを使って凶悪な海軍に対峙して勝利するのかを教わった。
僕は真面目にそういった知識を覚えた、毎日甲板の上で練習した。
あの頃の僕はずっと、いつか一人前の海軍になりたいと思っていた。
休みの時は、僕は仲間たちと一緒に食べながら話し合ったりする。僕はあまりお酒が好きじゃないから、いつも代わりにスープを飲んだりする。
みんなは僕の事を静かすぎって言うけど、無理やりペースを合わせろとも言ってこない。
こんな風にみんなと一緒にいる心地良い時間を楽しんでいた。
僕にとってこの船は第二の家、仲間たちは僕の家族だ。
海の生活はみんなとの大事な毎日、こんな日が永遠に続けばいいのにと思っていた。
Ⅱ 落雷
毎度の戦いはいつも僕に命の重さを教えてくれる、そしてみんなとの絆もますます強くなる。
怪我人は避けられない。でも勝利した後、生き残った喜びは、人に目の前の事をもっと大切させる。
──努力すれば、どんな事も好転する。
これは僕の甘い考えだった。
でもこの一切は、あの夜に滅ぼされた。
あれは静かな夜だった。僕たちは一日のパトロールを終えて、各自の部屋に戻った。
突然大きな爆発音が鳴り響き、甲板から忙しない足音が聞こえてきた、仲間たちの叫び声もその音の中に混じっていた。
僕は急いで甲板に出た。船の上に広がる狼藉によって、僕たちが夜襲を掛けられた現実を突きつけられた。
相手の猛攻を受けた僕たちはすぐに風下に立った。
海賊たちが長い間企んでいた事明らかだった、目的は僕たちの防衛線を徹底的に潰す事。
目の前に広がる支離滅裂な光景から、もう取り返しのつかない事になっている事に気付いた。
どうしよう……切羽詰まった僕はみんなの方を見た、このまま諦めるのか?
空で雷が鳴る、土砂降りが降り注ぐ。悪天候の中、海賊の勢いは更に増していった。
僕はあの狂妄な海賊共方へと向かった、自分の力を解放し、彼らの戦力を削った。
空は……いつになったら晴れるの?
僕の努力で……本当に全員救えるの?
Ⅲ 犠牲
この夜はかつてないほどに長く感じた。敵は十分に準備してからやって来ていたため、攻勢は衰えを見せない。
本来、海賊を撃退出来れば、みんなが生き残れるチャンスがあると思っていた、でも──
堕神が現れた。
攻勢はもっと厳しくなった、人間の弱い命は堕神の前ではひとたまりもない。
僕は冷静になって、自分の全ての力を解放して堕神に対抗した。
こんな状況になってしまった以上、仲間も海賊だって、なんの罪もないただの人に過ぎない。
──どれだけ頑張っても無駄だよ。
──誰でも救えない。
──あなたは役立たずだ。
──だからいっそ……何もしない方が良い……
僕は黙って必死に堕神を倒している過去の「僕」を見ていた。
僕は振り返って、この戦いで怪我をした旦那、残りの仲間たち、そして海賊を見ていた。悲しいが、まだ希望はある。
──せめて、一部でも守れた。
──いや……何をしても……無駄だ……
僕は黙って「僕」が油断した瞬間を見ていた。その瞬間、自分の顔が血に染った。旦那の胸が鋭いナイフによって貫かれていた。
海賊は旦那を刺した後、乾いた笑いを上げていた。まるで共倒れ出来た事を喜んでいるように、狂ったように笑いながら倒れていった。
雨が土砂降りの夜に、僕がかつて大切にしていた全てを失った。
僕がやった事に……一体なんの意味があったの……?
Ⅳ 足を止めた
悪夢から目を覚ましたら既に正午に近かった、今日の天気は割と良いみたい。
晴れ空を見ていると、過去がもたらした憂鬱とした気分は少し拭われた。
窓から外を見ると、モヒートが甲板で新しい一日の作業をしていた。
「おい、何度も言っただろ、漫画をテキトーに置くな!」
僕を見て、モヒートは怒りながら言ってきた。
「……あっ、元々あそこに置いてあった物だよ……っていうかどこに着いたの?」
モヒート……いつも元気満々で……
あぁ……良いな……
「おいおいっ!お前!期限切れてんじゃねぇか?!昨日食わせたのこれじゃないだろうな!?あ!?」
大きな声が僕の意識を現実に引き戻した。モヒートは怒りながら僕を睨んでいた。
「大丈夫だよ……どうせ食霊の僕たちはどんな物を食べても死なないから……」
「はぁ?」
「落ち着いてよ……何もしなくても、何も変わらない……」
「お前さ、また変な話して、どうしたんだ?」
「なんでもない──そうだ出掛けるなら漫画買ってきてよ」
「はぁ!?知るか!自分で買えよ!!」
「えーモヒート、酷いよ!」
「パタンッ──」
「あっ、行っちゃった……まあいいや……」
目を閉じて、二度寝をしようとしていたら、またドアを開ける音がした。
「おいっ!欲しい漫画とやらはどれだ?!」
「うん?さっきは……買ってくれないって……」
「お前の死にそうな様子見てたら何もしない訳にはいかねぇだろ?!何もしないで船は片付くのかよ?!……で、どんな漫画が欲しいんだ!」
「……あの週刊漫画」
「わかった!俺が帰った時にまだ片付け終わってなかったら!見てろよ!」
ドアは再び大きな音を立てて閉じられた、僕は少し固まってしまった。
閉じられたドアを見て、僕は再びソファーに寝転がって、悠々と回る天井のファンを見ていた。
さっきのモヒートが言っていた言葉は、まだ耳元で鳴り響いていた。
何もしない……訳にはいかない……か
Ⅴ 魚介スープ
どう見ても、魚介スープとモヒートは永遠に交わらない平行線のような関係であるはずだった。
モヒートと知り合ったのは、海で起きた小さな出来事が発端だった。
昼寝をしていた魚介スープは、近くから聞こえて来たうるさい雑音によって起こされた。漫画を落として、雑音の先を見ると、龍のような青年が埠頭でパトロールしていた海軍の隊員よって縛られていた。
あの眼立つ青年は陽の光と共に彼の目に移った。
狼狽した姿で大きな怒声を飛ばしても、その青年の気迫は衰える様子はなかった。
「あんたら!よくもこのモヒート様にこんな仕打ちを?!」
(あぁ……モヒートって言うのか……)
モヒートと言う青年は魚介スープの事に気付いていた。彼は目を丸くして自分を見ている魚介スープを睨んだ。
その瞬間、モヒートは少し興味が湧いた、そのだらだらとやる気のなさそうな奴も、自分と同じく食霊のようだと。
モヒートは魚介スープが同じ食霊のよしみで自分を助けてくれるのを期待していた頃、魚介スープはまるで彼の事を完全に無視したかのように、自分の小舟に横たわってまた漫画の続きを読み始めた。
その瞬間、無視された怒りよりも同胞からの冷たい対応から来たイラつきから、彼は額に青筋を浮かべて脱出を試みた……
夕方、空は赤くなったばかり。海風がもたらす淡い香りは、魚介スープが海上での日々に別れを告げた心残りでもあった。
漫画が読み終えた魚介スープは、いつもこの時間に新刊を買いに行き、そして海に戻り、ゆっくりとそれを読む。
途中の路地で、彼の行く手は午後見た青年に阻まれた。
「あんた、よくも俺の事を無視したな?!」
「……すみません、誰ですか?」
「ちくしょう!俺様はモヒートだ!よく忘れたとか言えたな!」
「あぁ……すみません、本当に忘れてました。すみません、じゃあ他に用事がないなら、道を譲ってくれませんか?」
魚介スープはため息をついた。
この気の強い青年は面倒事の象徴であると気付いていた。彼に絡まれたら最後、面倒事に事欠かなくなるだろうと。
今後面倒事巻き込まれるより、今どうにかして彼を追い払った方が良い。
微妙な雰囲気になった。モヒートは先程言っていた以上の文句以外に、言いたい事はなかったようだ。
彼は先走ってしまうタイプのようだ。
モヒートは自分の後頭部を掻くと、落ち着いた感じで自分と会話する魚介スープを見た。
彼は……魚介スープを問いただしに来た訳ではない……
ただ自分の衝動を抑えきれず、興味が湧いたやつに逢いに来ただけ。
気まずい雰囲気が路地に漂う。モヒートは俯いて、自分の半分あるかないかの食霊を見定めていた。
彼はボロボロな服を着ていた。食霊として、霊力が高くなくとも、簡単な堕神退治でもすれば、まあまあな生活は遅れるはず。
しかし目の前のこいつは……ボロボロな服に……人の行き交う埠頭のボロボロな小舟に住んでいた。
魚介スープは明らかにこれ以上モヒートと話したくない様子だった。彼はモヒートの脇の下を通って逃げようとしたが、モヒートに襟元を摘まれた。
少しも抵抗しない魚介スープを訝し気にみるモヒート。話下手なモヒートは再び自分の後頭部を掻いて、話題を探してしばらく唸った。
「服がボロボロだ、どうして着替えないんだ?」
魚介スープは黙っていた。明らかにモヒートと会話をしたくない様子だった。
「俺はモヒート、あんたは?」
「……」
「ちくしょう!いつまで無視出来るのか見てやるよ!」
ここで、魚介スープは失策したと気付いた。
あれから、彼は大きな面倒事を引き連れる事になった。
あれは、星がない夜だった。魚介スープは自分の古く、小さな船に戻っていった。でも珍しく、いつも船に座っている怒りんぼな青年はそこになかった。
彼はモヒートのために持ってきた、最近モヒートが夢中になっていた航海漫画を下ろした。
──つまらなくなったから……離れたんだろう……
そう考えながら、一体これを喜ぶべきかそれとも残念に思うべきか迷っていた所、大きな汽笛の音が彼の世界に乱入してきた。
彼は振り返って、轟音の源を見た。
一隻の巨大な船に、あの龍の角を生やした気の強そうな青年がいた。見知った笑顔を浮かべていた。
「おい!あんたも食霊だろう!だからいつまでそこで燻ってんな!俺と一緒に失われた財宝を探しに行こうぜ!」
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