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ヴァイスヴルスト・エピソード

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ヴァイスヴルストのエピソード

気さくでユーモアのある医者。

高い医術と強い責任感を持ち、裏方の作業を真面目にこなす。仕事以外の時も優しく、プレッツェルをからかう事がある。

プレッツェルと他の人の仲をとりもつ役割をいつも果たしている。ブラッドソーセージとは医療に対する見解の違いから、言い争いが絶えない。



Ⅰ選択

医学とは、奥深い学術である。

そして他人の命を救える学術でもある。


より多くの者がこの技術を使いこなす事が出来れば、きっと絶望の淵に立たされているより多くの者を救えると、僕は信じている。


そのため、僕は医学院の誘いを受け、医学教師になった。

優しい校長先生は、僕に素敵な住居も提供して下さった。彼の善意に報いるため、僕は学校医も兼任する事となった。


教師というのは、神聖な職業と言えよう。

活力に満ち溢れている学生たちは僕の指導のもと、傷を癒し、命を救う医者となる。

彼らの両手は食霊のように堕神を倒す事はできないが、堕神に傷つけられた人たちを救う事は出来る。


血で染まったこの両手などで、本当にこの仕事を全うできるのか気掛かりだった。

ある卒業生が学院に来た時までは。


学生時代の彼は、決して良い学生ではなかった。

多くの若者と同じく衝動的で無鉄砲、しかし若者だけが持つような情熱を持っていた。

学院から抜け出し授業をサボっていた彼は、あの頃の青さはもう見る影もなく、得意げな顔で僕に告げた。


「先生、ありがとうございました。初めて自分の両手で命を救った時、ようやく本当の意味で先生が言っていた医者の責任を理解する事が出来ました。先生の指導を決して忘れません、俺はこれからもこの道で歩き続けます!」


廊下に立たされていた時に比べ、今の彼の言葉からは落ち着きが見て取れる。

そして、彼の瞳から放たれた揺るぎない光を見て、僕の目頭は熱くなった。


メガネを外し、目をこすりながら彼の肩を叩く。

あの日、僕は彼と夜になるまで色々な話をした。最後、僕は彼を学院の正門まで見送った。


「先生さよなら!また来ます!本当にありがとうございました」

「先生もあなたに感謝していますよ」

「え?」

「いいえ、もう遅いので早く帰りなさい」

「はい!じゃあ、また今度!」


僕の選択は、間違っていなかったのだ。

Ⅱ 陽ざし

医務室に戻ると、見覚えのある姿がその入り口に立っていた。

その様子から、長い間待っていた事が伺えた−−

床には血だまりが出来ておりそして彼の腕の傷を見て、頭が痛くなった。


プレッツェル、次また血まみれでここに現れたらあなたを追い出すと言いましたよね?」

プレッツェルは僕の言葉を聞くと、俯いてやっと血だまりに気づいたようだった。

「すまない、次は気をつける」

口では謝罪しているが、表情からは謝罪の気持ちが一切感じ取れない。


痛む頭を抑えながら、僕は手を伸ばして自分の傷を何とも思わない奴の背中を押して医務室に押し込んだ。


「何度も言いましたよね。例え食霊であっても、傷口から細菌に感染したり、悪化する事があると」

「法王庁には、任務に随行できる自衛能力のある医師はいない」

「……法王庁には行きませんよ、あなた方が怪我をしたらいつでも受け入れますよ。しかし、話題を逸らさないでください!僕が渡した常備薬はどうしたんですか?」

「邪魔だったから、捨てた」

「あなた……!」


力を込めて止血用の包帯を締めた。前回彼のために調合した特別な消毒スプレーがある事を思い出して、少し冷静になった。

僕は棚から可愛らしいスプレーを探し出し、問答無用で彼の深い傷口に掛けた。


「い゛っ……」


攻撃を受けても顔色一つ変えないプレッツェルが、僕の消毒液で顔面蒼白になっている様子を僕は満足げに見ていた。こういう忠告に耳を貸さない奴は少し痛い目を見ないと覚えないものだ。


特製の救急セットを彼に押し付けた。


「また捨てたら、次は消毒液どころじゃありませんよ。そう言えば、教授から聞いたのですが、彼らは傷口に入り込み唾液で血肉を縫い合わせられるナメクジを見つけたらしいですよ。次はそれを試してみましょう」

「……帰ってクロワッサンに報告しなければならない。先に失礼する」


僕は眉を上げてプレッツェルに別れを告げた。顔色はいつも通りだったが、明らかに来た時よりは足早になっていた。


僕の望む平穏な生活は続いた。


いつも僕を怒らせるこの旧友以外、新学期が始まってからは、この医務室に騒がしく頭を抱える二人が増えた。


フィッシュアンドチップス!あなたのお菓子を医務室に持ちこまないように!」

「えっ!しかし先生こちらは本当に美味しいですよ!わざわざ先生のために持ってきました!」

「アンディ!どうしてあなたまで彼と一緒に騒いでいるのですか!」

「ハハハッ、先生これは本当に美味しいですよ。食べてみてください!」


太陽のように明るくそしてバカっぽく笑う二人は、隣にある騎士学院の学生らだ。

アンディは騎士である他、料理御侍でもあった。


彼らは没落貴族出身だが負けず嫌いで、貴族の子息らに出生を笑われても、屈服する事はなかった。


以前一度こっぴどく彼らを叱った時、ついでにあの鬱陶しい貴族の子息らに「特効薬」を付けた後、こ奴らはこれを機に僕に絡むようになった。


「先生!俺らはきっと法王庁最強の騎士になります!」


彼らは騎士学院を首席で卒業した。卒業式の日、彼らの笑顔は陽射しよりも眩しかった。


彼らの存在は、僕にこの世界には陽射しが満ち溢れていると感じさせた。


Ⅲ 平静

もしフィッシュアンドチップスとアンディがこの世界の光を代表しているのなら。


ブラッドソーセージは闇の代名詞だろう。


彼女は偽装が上手かった。最初は彼女の異変にまったく気付く事が出来ずにいた。

彼女は医学にとても興味を持っている女の子にしか思えず、だから彼女は主人に仕えるという名目で毎回僕らの講義に出席していた。


彼女は学生らの実験材料の処理も積極的に請け負ってくれていた。


あの日、僕が実験室に忘れ物をしなければ、もしかすると永遠に彼女がそれらの残骸にあのような事をしているのに気付く事はできなかっただろう。


カーリーは才能のある学生だった。彼はいつも温かい笑顔を浮かべていた。

彼は自分の力を使って全ての人を救おうとしていた。診察費を支払えない貧しい人も含めて。


しかし、彼はブラッドソーセージの主人でもあった。僕はブラッドソーセージのせいでカーリーの経歴に傷がつく事を恐れた。

もし他の誰かにカーリーの従者がこういった存在であると知られてしまえば、カーリーの医師としての未来は灰色になってしまうだろう。


僕は彼女に警告した。彼女は僕が彼女の本当の姿を主人に伝えるのを憚っていたためか、少しは大人しくなった。


人間が学生でいられる時間は短い。

短い学生生活の後、皆自分の先生、仲間から離れ、未知の未来へと進んでいく。


例え僕がどれだけ彼女がカーリーに悪影響を及ぼすか心配していたとしても、カーリーはすでに卒業しなければいけない年齢になっていた。


彼は成績優秀だった。彼の家族は首席を取ったご褒美に、彼のために綺麗な病院を建ててあげた。


彼は自分が選んだ道を迷わず突き進んでいくと、僕に言ってくれた。


カーリーの病院は評判が良かった。彼は診察を受けられないような人を多く受け入れ、そして多くの難病を治した。


彼はブラッドソーセージの影響を受けなかった事に、僕はすっかり安心した。


彼が無事過ごしている事で僕は心のつかえが取れ、教鞭を取る事に専念した。


プレッツェルは昔から変わらない。ただ彼は以前よりは自分の生死を気にするようにはなった。


フィッシュアンドチップスとアンディは夢を叶え、法王庁の騎士となった。彼らはたまにとんでもない事をしでかすが、なんだかんだでいつも良い結果をもたらしていた。


ただフィッシュアンドチップスプレッツェルの関係には頭を抱えた。性格が全く違う二人は知らない内に犬猿の仲になり、会えばすぐに喧嘩していた。


ただ毎回喧嘩した後は、フィッシュアンドチップスとアンディたちに連れられて、僕も学院近くのバーで酒を飲む事が恒例となっていた。


何も言わずにフィッシュアンドチップスと飲み比べを始めたプレッツェルを見て、僕はグラスを持ち上げてアンディと乾杯した。


「先生、献杯させて頂きます!」

「はい?何に対してですか?」

「素敵な未来?平和な今?まあ良いじゃないですか。とにかく俺はこの世界が好きです」


そうですね。あなたたちがいるこの世界は、どれだけ過ごしても飽きる事はないでしょう。


Ⅳ 嵐

まさか全ては嵐の前の静けさに過ぎないとは、思いもしなかった。


最初に異変が起きたのは法王庁。


クロワッサンに付かず離れず常に一緒に居た奴はどうしてか法王庁を裏切り、クロワッサンの身体に消えない傷を残した。


フィッシュアンドチップスプレッツェルも酷い怪我を負い、僕が駆け付けた時、フィッシュアンドチップスは生死の境をさまよっていた。

プレッツェルは、フィッシュアンドチップスが彼を庇わなかったら、彼の命はもうないと言っていた。


僕にはこの異変の意味がわからなかった。

クロワッサンに会った回数はそれほど多くは無いが、ただ毎回彼の隣でニコニコと笑っている奴の姿は印象に残っていた。


彼らに会った時、時々木陰で休憩をする姿を見かけていた。ラムチョップはいつも木の上で寝ていた、陽ざしが彼の格好良い顔に注がれている姿は道行く女性たちの足を止め、視線を奪った。


クロワッサンは彼に比べると大人しかった。いつも木の根元に座り、幹に寄り掛かっていた。膝にはいつも彼のチェックが必要な書類が置かれていて、顔には淡い笑顔を浮かべていた。


ラムチョップが先に目を覚ますと、じっとしていられない奴はいつも葉っぱでクロワッサンの目を遮るか、クロワッサンの鼻をつまんだりして、いたずらを働いた。


二人は仲が良く、誰も彼らが離れ離れになるとは思ってもいなかった。


彼らが共に過ごした姿を見た事があるからか、目の前にいる黒い炎を纏う人物がまさか女性たちの頰を赤らめるあのラムチョップだとは信じられなかった。


クロワッサンが目を覚ました後、彼は事の顛末を僕たちに話そうとはしなかった。僕たちも彼の傷を広げるような事はしたくなかった。


クロワッサンは強い。法王庁を満身創痍にした戦いの後であっても、すぐに法王庁を立て直す事が出来た。しかも能力のある者を多く集め、より勢力を強くした。


ラムチョップが離れた事が導火線となり、平和な日々は打ち破られた。堕神が暴れまわり、数えきれない程の救援要請が法王庁に届いた。

言い知れぬ恐怖が世界中に蔓延した。


法王庁が忙しくなってから、長らくプレッツェルフィッシュアンドチップスに会う事はなかった。


しかしある晩、プレッツェルはある資料を持って僕の住居に訪ねて来た。彼は無言だったがその目からは憂慮が伺えた。


視線を資料に落とすとカーリーの写真を見つけた。その途端、寒気が止まらなくなった。


カーリー……結局は……事件が起きてしまったのか……


Ⅴ ヴァイスヴルスト

法王庁での戦いの前、クロワッサンラムチョップは再三ヴァイスヴルストを法王庁に入るよう誘っていた。


しかしヴァイスヴルストは頑なに戦いの日々に戻ろうとしなかった。


彼と仲の良いプレッツェルフィッシュアンドチップスたちはよく知っていた。ヴァイスヴルストは自分の食霊としての力を使う事に激しい抵抗を覚えている事を、彼はずっと自分の医学知識を駆使して他人を救ってきた事を。


彼は酷い潔癖症で、彼の部屋はまるで病室のように真っ白だった。更には解剖の授業の時、防護服を何枚も重ねて着ていた。

鮮血の赤色は、彼を狂気に陥れる色だった。


しかし誰もそうなった原因を知らない、誰も彼を説得する事はできなかった。


彼の友人として、プレッツェルフィッシュアンドチップスは彼がやりたくない事を無理強いしたくはなかった。

彼の世界は、彼らによって守れば良い。


法王庁とはこのために存在している。そうでしょう?


しかし……訳もなく失踪した人たちの行き先を突き止めるまでは。


クロワッサンは手に入れた情報をプレッツェルに渡した。プレッツェルは資料に載っている、ヴァイスヴルストがよく口にしていた学生の姿を見て、黙り込んだ。


「僕が彼に会いに行こう」


行動前夜、ヴァイスヴルストは一睡もできなかった。


次の日、突入予定時間が迫っていた時、プレッツェルは目の前にいる眉間に皺を寄せているヴァイスヴルストを見ていた。


「私が一人で行っても構わない」

「これは僕の罪です。僕の手で終わらせなければ」


この日プレッツェルは初めて知った、ヴァイスヴルストには彼らに負けない程の戦闘力を持っていた事を。


ヴァイスヴルストは白衣を脱いでそれを静かに下ろし、袖を捲った。


「失礼、お待たせしました。ふふっ先生はどうして上着を脱いだんですか?窮屈だったから?」


あの頃と同じく可愛らしく活発なブラッドソーセージは、甘い笑顔を浮かべていたが、暗闇の中でそれは冷たく感じた。


「他人を傷つける際はこの白衣を身に纏う資格はありません」

「あら、それは感動的なお話ですね……」


プレッツェルヴァイスヴルストはカーリーを丁寧に埋葬した。


カールの墓には名前は刻まれていなかった。彼の家族は彼の墓を建てる事すら憚った。彼が悪名高い殺人犯、血に染まったDr.カーリーだから。


「ごめんなさい、僕があの時あなたに伝えていたら……」

「例え彼に伝えても、同じ道を辿る可能性はある」

「……プレッツェル、ありがとうございます」


ヴァイスヴルストは顔を上げた。カーリーを埋葬した日は小説の中みたいに雨は降っておらず、澄み切った青い晴れ空に綿あめのような雲が浮かんでいた。


プレッツェルクロワッサンに伝えてください。しばらくしたらそちらに伺うと。まず学院で退職手続きを済ませなければなりません。僕の部屋も用意しておいてください。出来ればフィッシュアンドチップスと離れた部屋が良いです。彼はうるさいので」

「……そこまでしなくとも良い。私たちに任せてくれれば」

「安心してください僕は大丈夫です。ただ、もう見たくないんです……僕が助けられる人が目の前で死んで行くのが……あなたたちの誰かが傷を負うのが」


プレッツェルはそれ以上彼を止める事はなかった。ただ静かに彼の傍に立っていた。


その後の数日間は、誰もヴァイスヴルストの行き先を知る事は無かった。


彼は一人で故郷に戻っていた。申し訳ない気持ちと花束を携えて、彼の御侍の墓の前に立っていた。


「御侍様……僕はやはりこの力を使い続ける事にしました、あの時あなたを守っていたように。誓いを破ってしまって、申し訳ございません。僕は自分の力で仲間を守り、あなたが好きだったこの世界を守ります。例え、この両手が再び鮮血に染まるとしても、僕は構いません。天にましますあなたの魂よ、かつてあなたの白衣を鮮血に染めた罪人を許して頂きたい……僕はきっとあなたの期待に応えます……」



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  • 最終投稿日時 2020年08月19日 00:16
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タイトル FOOD FANTASY フードファンタジー
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  • RPG(ロールプレイング)
ゲーム概要 美食擬人化RPG物語+経営シミュレーションゲーム

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