明太子・エピソード
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明太子のエピソード
崇月(シュウゲツ)のリーダーであり、一見凶暴そうに見えるがとても子供っぽい一面も。
人類からしたら恐怖そのものだが、一通り切れた後にそばにその人を引っ張ってきて、優しくしたり、守ったりするような性格の持ち主。
正義感はとても強く、恥ずかしい時は、殻の周りの魚卵が弾け飛ぶ。
Ⅰ.天下一
くっ、オレは天下一の明太子。
うん、天下一だ!
何故ここに逆さ吊されているかって聞かれると、もちろんあいつらに敵わないわけじゃねぇ。
……ただ手加減してただけだ。
も、もしオレが本気出したら!
あいつらは全員恭しくオレのことを親分って呼ぶぞ!
「親分、あれ……親分は?」
入ってきたやつは雲丹だ。スカートを履いて弱っちくみえるけど、弱虫な女の子だと思うなよ、あいつはオレの頼りになる子分だ。
嘘ついたら針千本呑ますって聞いたことあるか、嘘をつく野郎にはあいつなりのやり方がある。
「親分は少し冷静になりたいと言っていました。なにか用ですか?」
この見た目は優しそうな白髪のやつはオレの軍師だ。
あいつはすごいんだぜ、オレの崇月がどんどん強くなったのは、ほぼオレの英明な指導のおかげだけど、あいつの謀略も不可欠なんだ。
「……彼また何かしたの?」
「今回は私ではない、紅葉だ」
「え!姉御?彼はまた何したの?」
「紅葉は絵を描いていたんだ、彼は……」
「また壊したのか?!」
「いえ、彼は……題字を加えた」
おいおいおい、雲丹その目はなんだ!
オレの題字はとても貴重なんだぞ!
将来オレが桜の島の主になったら!
この絵は千金にも値する!いや!万金だぞ!
「親分、もし絵の勉強をしたいのなら直接言えばいいのに……」
オレの首筋ひやっとした。
もがいて体の向きを変えたら微笑んでいるホッキガイがいた。
彼女は人間から 「紅葉」って呼ばれている、昔何をしたのかオレは深く追究したくない。
オレが子分たちを連れて攻めに行った時、彼女は重傷を負っていた。
元々彼女にはしっかり休養させて、再戦の機会を与えようと思ったのに、まさかどうでもいい世間話をした後、彼女は自分の部下を連れて崇月に下った。
む……当然オレはこれを自分のカリスマ性のおかげと思うほど自惚れてはいない。
だってホッキガイはすごく強い、オレの相手として十分に値する存在だ。
でも人には言いたくない過去もある。
もし彼女が言いたくないなら、オレも当然問い詰めはしない。
オレの度量は自分の部下を信じないほど小さくはない。
あいつらは底意地が悪いかもしれないし、裏切ろうと企んでる可能性だってある。
でもあいつらがまだオレの部下である限り、オレはあいつらを完全に信じる。
オレらは同じ目標がある。
オレが信じて、そしてあいつらも信じていれば。
――脱朱いつかオレは桜の島の主になれる!
Ⅱ.軍師
そういえば、オレの「妖怪」部下はみんな強い戦闘力を持ってる。
――月見団子以外は。
あいつは「妖怪」が持つ力で比較的弱い治療能力しかない。
かつての桜の島だと、こんな「妖怪」は大変な目に遭うだろう。
かつての桜の島は、人間にとってだけじゃない、オレたち「妖怪」にとっても煉獄と一緒だ。
オレのような横暴な力を持つ「妖怪」ならまだしも。
少なくとも人間はオレの力を恐れる、喜ばしい事じゃないけど、怪我することもない。
だけどあいつのようなやつだと、あいつらの苦手な「怪物」と向き合う以外に、時には怪物よりも恐ろしい人間と向き合うこともある。
怪物たちが傷つけるのはあいつらの体だけで、人間が傷つけるのは、いつだってみんなの心だ。
肉体の強さは一部の強さだけで、心の傷は肉体の傷よりもっと治りにくいって、ある奴が教えてくれた。
人間には強い力はないけど、この土地ではあいつらが大多数だ。
オレ達みたいな「妖怪」に対して、オレのような力を持っていないと、あいつらは怖がったり、恐れたりしない、でもそれは恐れ敬っているとは言えない。
ましてや「怪物」から自分の身を守る事すら難しいあいつらが、人間からどう扱われてるか、それは言うまでもない。
十分な武力を持っていないと負ける未来しかない事は分かっている。でも力のない同胞たちの事が嫌いっていう訳でもない。
自分が生まれ持った力、外見、欠陥によって残忍な扱いを受けるのはおかしい。
オレは全員と同じ決闘を申し出た。
勝負の賭けは彼の屈伏だ。
「あんたがオレの子分になったら、オレがちゃんと守ってやる。これがこのオレ明太子のあんたへの約束だ」
「ではこれからよろしくお願いします、親分」
「えっ????」
「うん?」
自分の袴をはたいて立ち上がり、手を差し伸べる男を見て驚いた。
前までは戦闘に関して「弱い」「妖怪」だとしても、自分が勝てないと分かっていても、逃げたり、もがいたりしてた。
だけどあいつのように、流れるように手を差し伸べて負けを認めたやつは……
初めてだ……
「私は戦うのが苦手で、痛いのも苦手です。親分はそれでも大丈夫ですか……見下しますよね……」
「えっと、も、もちろんそんな事は……でも、ちょっと意外だ……うん……とりあえず、これからはオレが守ってやるよ!」
オレはあいつの腕を叩いた。
うん、やっぱり背が高い以外、やせ細った弱いやつにすぎないな……
でも、あいつはもうオレを親分と認めたから、これからは苦手なことはもうさせない。
「親分、私たちの組織に名前はありますか?」
「えっ?」
オレは頭をかいてぼんやりと月見団子を見たが、あいつは戦闘が強くない以外は本当に完璧な部下かもしれない。
あいつは面倒な事を全部オレの代わりにやってくれた。
オレが苦手な雑事のことまで手配してくれた。
「私たちの組織には名前が必要だと思います」
「……そうだな、どんな名前がいいんだ?天下一はどうだ?」
「…………」
「……なんだその目は!!!!いいよ、こういうの苦手なのわかってっから、お前が1個考えてみろよ」
「私ですか?」
「そりゃそうだろ、他の奴もお前みたいな学力はねぇから」
月見団子は外の赤みが差した空を見上げて、あいつはいつもこうやって顔を上げて見てる。
何かもう空にないものを見ているような。
「では、崇月はどうでしょう」
Ⅲ.崇月
崇月の壮大なスピードは非常に速く、いつの間にかもう小さな部屋に収容できる人数ではない。
どうすればいいかと首をかしげながら考えていたら、部屋の契約がオレの前に届いた。
「……えっこれはどこから来たんだ?」
「極楽のボスはお金を貸してくれます。先に小さな庭を買いましょう」
月見団子は本当に有能だと言わざるを得ない。コイツが来てからは、戦闘以外のすべてのことは心配しなくてもよくなった。
そしてコイツはいつも強いヤツを見つけて、ソイツラを見つけて、ソイツラを倒して、崇月に加入させる。
コイツがいなければ、崇月もそんなに強くならなかった。
「あら、明太子が来ました。来たのは今月のみかんです。最近のみかんは大又の甘いのです。たくさん食べてください。体にいいです。あなたも背が高くなります」
「あっ、明太子兄さんが来たよ。お母さん! 明太子お兄さんが来たよ」
「えっ!早く彼の牛乳をあげな」
桜ノ島の夜がオレたちに分けられてから、この土地はだんだん一つのブロックに分けられた。俺たちの違った「妖怪」によって保護される。
もちろん無条件ではない。無条件の守護は、人間をますます貪欲にして助けを忘れさせるだけだ。だからオレはいつもソイツらの条件によって一定の報酬を求める。
ある時は果物一かご、牛乳何本かだけかもしれないが。
だけど、このような報酬はアイツらに覚えられる。オレたちの支払いは無条件ではない。
ただ……
「髪を揉むな!!!」
「へへへ、明太子のお兄さん、私はみんな背が高いと思います。まだ全然長くないですよ」
「えっ、うるさい。黙れ!!!」
こいつらはオレを心配しないで、いつもオレを子供のように思っている。
オレは善人ではない。アイツらが十分なお供えをしないとアイツらを保護できない。ばかやろう!
手にしたお供え物を後ろの弟の手に捨てて、崇月に帰った。
月見団子はホッキガイのために酒を注いでいるが、二人は軒下に座って外を見ている。
「親分、お帰りですか?一緒に飲みませんか?八岐からの酒です」
「八岐?あのタコが来たのか?!!どこだアイツと決闘する!!!!」
「彼は海草を届けさせました。えっと、前回夜行の時に見たのですが、まだ正式に見たことがないでしょう。海草さん、うちのボスに会いに来ました。えっと、人は?」
雲丹は振り返ってしばらく探してみたが、気の利いた顔でドアの後ろから、あの気の知れない男を引っ張り出した。
「こんにちは、中華海草です。代わりに八岐様にお酒を届けに来ました」
中華海草は頭を下げて、両手は絶えず自分の衣服の角をかき回して、下唇を噛み締めて緊張している様子。
「あら、緊張しないで。うちのボスは人を食べません」
「えっと、いいえ、ちがいます。僕は……僕は……」
オレは立ち上がって中華海草のそばに行って、目でソイツをじっくり見た。
ドンと――
ふん、うちの部屋の棚の質はまだ足りない。
「えっ?ど、どうしましたか?」
「ええ、大丈夫です。あなたも彼より背が高いと彼は気づきました」
「えっ?」
「慣れればいいです。大丈夫です。飲みにきてください」
Ⅳ.百鬼夜行
歌舞伎町はオレたちが決めた停戦区だ、オレたちが夜を手に入れてから話し合う場として決めた場所でもある。
しかし、歌舞伎町で話し合ってもいつも答えは出なかった。
「おいっ――九尾、何してんだ!それはオレの油揚げだ!」
「知らねぇよ、オレ様が取った物はオレ様のだ!」
「八岐それはオレの磁器だ!おまえの壺じゃねぇ!出てこい!」
「……」
全ての常連たちが頼りないからか、ここで話し合っても大した結論は出ない。
こう見ると、オレの軍師は一番有能かもしれない。
いくつかの乱闘と宴会を経て。
笑顔の月見団子は全員に彼の意見に同意させた。
こういう所で、オレは本当にあいつには敵わない。
あの日から、紅夜は、百鬼夜行の逢魔ヶ時になった。
百鬼夜行はオレたち「妖怪」の間で決めた約束だ。
オレたちの力は強すぎた、毎日争っていても自分たちも休む暇がない、そして無実の人間にまで被害が出てくる。
紅夜にオレたちは約束した場所で縄張りを振り分ける。
それぞれの縄張りの人間は、その区域を獲得した「妖怪」によって守られる。
どんな報酬を受けて、ちゃんと守るかどうかは、それぞれの縄張りの首領が自分で決める事だ。
首領によっては自分の気分で決める奴もいる、あとは……何もしない奴もいる。
オレは人間じゃないから、自分が手出し出来ない位の巨大な力に直面して絶望した事はない。
オレもあいつらじゃないから、あいつらがどんな事を経験して、何もしない、更には危害を加えるという選択肢を取ったのかわからない。
オレたちは同じ「妖怪」だ。
月見団子みたいに説得する事は出来ないけれど、お互いの過去の経歴が違うせいでちゃんと交流できないというのなら、オレは自分の力を使ってオレの決意を見せつける。
いつか最後の勝利を掴んで、桜の島の主になる。そしてオレは、おまえたちに最高の世界を見せてあげる。過去によって苦しまなくて良い、自分が他と違うからって敵視されなくても良い、弱いってだけで生きられないなんて事がなくなる世界を。
オレは天下一の明太子様だ、そしてオレの崇月は桜の島を全て覆い、桜の島の主になる。
Ⅴ.明太子
「この野郎、くそタコ早く出てこいや!!!!!」
いつものように怒鳴り声が崇月の敷地上空にこだました。
庭に座ってお茶を淹れているホッキガイがそっと中華海草の髪を結って、桜をあしらった簪を挿した。
「いいね。」
「あの、あの……姉御…僕……僕は男の子です…」
「男の子がどうかしたのかい、雲丹だって和服を着てるじゃないか、似合ってるだろう?」
「……」
「月見月見!この服はどう?」
「あなたはやはり派手な色の方が似合いますね。とても綺麗ですよ、雲丹」
「へへ、姉御!和服を贈ってくれてありがとう!気に入ったわ!」
壺から出てきたタコわさびは大きなあくびをして、目の前に連れてこられた和服姿の中華海草を見て、あっけにとられたかと思うと、またいつものような淡々とした表情に戻った。
「おい!タコわさび!!オレを無視するな!バカ野郎!」
気だるそうな青年は寝ぼけたような顔をして、
耳をかき、そばにいる爆発寸前の明太子を見もしなかった。
「うるさい」
「バカ野郎!殺してやる!!!!」
一瞬にして赤い霊力が静かな庭に広がり、赤い魚卵爆弾が狂ったように、物憂げに机の横に寝そべり、ホッキガイによって触手のような長い髪を結われているタコわさびを襲った。
飛び散った赤い魚卵は障害物に触れた瞬間に爆発し、巨大な霊力が破裂して地面が黒焦げになった。
ついでに、庭に植えられていた瑞々しい花たちも萎えた。
「あっ!あれは姉御が大事に育てた花!」
明太子がぎこちなく振り向くと、ホッキガイのキラキラと穏やかな笑顔が、意識を失う前の最後の映像だった。
再び目が覚めた時、やっぱり世界は逆さになっていた。
雲丹は顎をついて廊下の軒下に吊るされた明太子を見てため息をつき、傍らでお茶を淹れている月見団子を振り返った。
「月見さんはどうしてこいつについてきたの?」
「うん?親分のことでしょうか?」
雲丹は軽く頷いた。
「夜を持ってから、人間を守りたい食霊が少なくなったからでしょうかね」
「それだけなの?」
「いや、彼が守りたいのは、人間だけではなく、私たちのような『怪物』もです」
「先生はもっと……うん……もっと深い理由で彼についてきたのかと」
「ある意味そうかもしれません」
「え?」
ゆっくりと身を起こして逆さまになり頭が充血した明太子を軒から降ろした。
「大丈夫ですか?」
「うっ……頭がくらくらする」
焼け付くような日差しはないが、灰色の空は雨が降りそうで蒸し暑い。それでも月見団子の手には白い湯気が漂う湯呑みがあった。
明太子は袖を肩まで巻き、井戸の脇にうずくまる。
彼は雲丹と一緒に、井戸に漬けていたスイカをじっと見つめ、よだれを飲み込んだ。
お茶を飲み、月見団子の視線はその赤色から離れない。
ホッキガイは彼のそばに腰を下ろして、彼が薦めてきたお茶をやんわりと断った。
「まだお湯を飲んでいるなんて、暑すぎやしないか?」
「心が静かであれば、熱気は感じないものです」
「なんで彼に付いてきたんだい?」
ホッキガイの突然の問いに月見団子は固まり、お茶を飲む手が少し止まった。
彼は完璧に笑顔を浮かべて。
「私は彼の保護が必要です」
「詐欺師」
「彼は桜の島で一番いい主人です。誰に託しても、より良い未来はない。横暴で、十分に強い力と強い心があり、全ての人を包み込む広い心がある。まだ未熟ですが、いつの日か、彼はただのリーダーではなく桜の島の王になるでしょう」
「本当にそう思うのかい?」
「もちろんです」
「そうだといいけど」
ホッキガイは立ち上がって井戸のそばに行った。
3人はすぐ他の部下に囲まれてスイカ割りを始めた。
暗い影の中に座ってお茶を飲む月見団子だけが残った。
「桜の島にまだ未来があるなら。あなたが言っていた姿になって欲しいですね……」
夜空の下、目をキラキラさせていた少年は自信を持って自由に、青年の前に立って、持っている太刀で空を指した。
「いつか、オレたちが人間と昼夜を分ける必要がなくなったら。オレたちの間から畏敬や恐怖はなくなる。いつか、全ての人はオレの導きの下で正しい道を歩くことになる!だから、月見団子、オレに力を貸してくれ、オレを桜の島の主にしてくれ」
まだ湯気が漂うお茶がゆっくりと茶托の中にこぼれ、青年は頭を上げて空を見てぼんやりとしていた、突然聞き慣れた呼び声が聞こえていた。
「おい――月見団子!!!早くスイカを食べに来いよ!!!井戸水で冷やしたやつだぞ!!!」
「はい、今行きます」
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