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ヤンシェズ・エピソード

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ヤンシェズのエピソード

一匹狼で無口なように見えるが、実際のところ世間知らずであるため他人と交流する事を苦手としているだけ。純粋な一面もある。過去の出来事によって人間不信になり、人間に対する警戒心が強い。動物が好き、色んな動物の世話をした事があり、よく話しかけたりする。

Ⅰ.小さな友達

……

誰?

どこからか微かに音が聞こえて来た、カサコソと、まるで僕の心の中から聞こえて来ているみたいに。

聞き間違い?

僕は耳を澄ませてみたけれど、自分の呼吸音しか聞こえなかった。


「ザーザー」

「誰かいる?」


僕は我慢できなくて口を開いた。暗闇の中で鳴っていた音は止んだ。


陽の光さえ届かない地下陵墓は再び静まり返った、しかし感覚は研ぎ澄まされていく。


重苦しさ、暴虐さ、悔しさ……


また来たーー


強烈で複雑な感情が、暗い墓室から届いて来る、震えが止まらない。

周囲の冷たい空気によって僕は圧迫され、閉じ込められているのに、深淵に


方向が定まらない、動けない、ただ暗闇の中落ちていく事しかできない。

もしかしたら、僕はこのまま俗世から離れた所で浮かんだまま、忘れ去られるのか。


今までと同じように……


「ザーザーザー」


隅から聞こえてくる物音によって現実に引き戻された。その音は素早く近づいて来た、僕が反応する前に、指に軽い痛みを感じた。

痛みに襲われた瞬間どうしてかホッとした。


ふぅ……

生きてる感覚は、良い……


地底の奥深くで、僕には新しい小さな友達が出来た。

僕は自分の霊力を使ってそれを養おうとした。

僕の善意を感じ取ったのか、どんどん仲良くなっていった。


彼は僕の手の平でちょこまかと歩くのが好きみたいだ。

暗闇の中、僕は彼の姿を見る事はできない。感覚だけで、おおよその姿を確認した。


硬くて、冷たくて、強張っている。長い尻尾があって、そして、僕を刺したハサミがあった。


記憶の中の、絵巻で見た耀州狼蠍みたいだった。

群れで生活している筈の狼蠍がどうして一人ぼっちでいるのかわからない。もしかしたら、僕と同じで仕方なくここにいるのかも。


狼蠍は霊力を摂取した事で、どんどん大きくなっていき、僕が知っている姿から大きく変わっていた。


「うっ……こんな姿……だったかな?」


「いいや……どうでもいい……よ」

大きな体は銀狼にも似ているようだった。


銀狼はもう一人の友達、僕と離れた時は大人になったばかりだった。

今銀狼がどうしているのかは知らない、少し会ってみたい。


霊力を消耗していく内にどんどん疲れが溜まっていった、意識がはっきりとしている時間がどんどん短くなっていく。

狼蠍に十分な霊力を与えないと、彼は生きていけない。


眠りについて唯一の仲間を失う事が、僕は怖かった。

僕が出来るのは、本能として絶え間なく狼蠍に霊力を注ぐ事だけ。

Ⅱ.存在意義

大きな雑音と強烈な震動によって呼び起こされる前、僕は長い夢を見ていた。


夢の中で、僕は御侍の故郷に戻っていた。邸宅は長年修繕されていなくてボロボロだったけど、辺りの景色は縞麗だった。

僕はかつてそこで多くの友達と出会って、銀狼と一番仲が良かった。


夢の中、友達は皆いて、狼蠍もいた。彼はその巨大な体以外、想像通りの姿で僕の前にいた。

冷たくて、銀狼みたいに柔らかくてふわふわな毛は生えていなかったけれど。

寡黙だったけど、いつも僕の傍に居てくれた。


彼の事を、黙と呼ぼう。


地面は大きく揺れた。目覚めたばかりの僕は、朦朧として頭上の暗闇が切り開かれていくのを見ていた。それと同時に光が刃のように僕の目を射して来た、焼かれるような痛みを感じたけれど、僕は勿体なくて目を閉じる事は出来なかった。

落石によって砂ぼこりが巻き上がって、大きな影が僕を遮ったーー狼蠍の黙だ、夢の中と同じぐらい……


いや、夢の中よりも大きかった。

黙の体の周りには霊気が漂っていた。僕と同じぐらいの大きさの彼は、怖そうな見た目なのにとても親しみを感じた。


僕たちの間には繋がりが生まれていた、寄り添い合って、離れない。

食霊は召喚された時自分の伴生獣を持つ事があるのは知っていた。だけど後天的に伴生獣を持った人は聞いた事がない。


僕は彼に向かって微笑もうとしたけれど、顔の筋肉が固まっていて、喉も嗄れて声すら出ない。


「ほお、食霊ですか?」


優しい男の声が聞こえて来た。春のような、そよ風が吹いて来たような。


声がする方に目を向けると、開けられた天井から光が入って来ていて、その光と共に僕より背の高い青年が入って来て、僕はその人を見上げた。


御侍?

一瞬、僕の御侍なのかと思った。


だけど僕の御侍はもういないだろう。契約を失った喪失感にはとっくに慣れていた。

しかも、相手は人間じゃない。同じ霊力を持つ者のように感じた。


「どうしたんですか?どうしてこんな所にいるんですか?」


良い扱いを受けて来なかった僕は、顔色を伺う事だけは覚えていて、人の気持ちや表情に敏感だった。

この時、その青年は懐かしいような、心配しているような顔で僕を見ていた。まるで僕は彼にとってとても大事なように。

こんな扱いを受けたのは初めてで、何も言えなかった。


「不才に貴方の境遇を教えてはくれませんか?」

僕はどう答えたら良いかわからなくて、沈黙を続けた。


青年の綺麗な眉毛は少しだけ顰められ、目に浮かんだ喜びは消えて行った。取って変わられたのは、少しの憂いだった。

外から続々と人間が入って来た、その人たちは青年の事を明四喜様と呼んだ。


この静かな墓室の中にいすぎて、 僕は声に敏感になっていた。

その人たちはあちこちを探し回って、騒々しい声を出して僕の心を乱した。そしてその背の高い青年は終始僕の傍に立っていた。


明四喜様、価値のありそうな手掛かりはもうなさそうです」

「わかりました、物を持って先に出ていてください」


先頭を歩いていた人たちは互いに視線を交わした後、僕を睨んだ。


「なんです?」

明四喜と呼ばれた青年は落ち着いた口調で言っていたけれど、その言葉からは逆らえない力を感じた。

「何ボーっとしてるのですか!」


「はい!申し訳ございません!」


墓室の中はやっと静かになった、そして僕と青年しかいない。


ますます御侍に似ている気がしてきた。


同じように優雅で落ち着いていて、同じように自信があって眩しい。

違う所と言えば、目の前の青年は僕に微笑んでくれる。


これは御侍から貰った事のない物だった。例えお世辞であっても、お茶を濁されても、偽物の笑顔だとしても。


「貴方は自由です。行きたい場所、やりたい事はありますか?もしかしたら、お手伝い出来るかもしれません」

明四喜は真っすぐ僕の目を見つめて、口角を上げた。


僕は彼が言った言葉を反芻した。自由?何がしたい?

こんな事……考えた事もなかった。

食霊の存在意義は、御侍の命令に従う事じゃないの?


「僕は……」


僕は唐突に、人間に敬われている同類である者に、食霊は何のためにあるのか聞きたくなった。

聞こうとしたけれど、残ったのは沈黙だけだった。


「それなら……わかりました、何も思いつかなくても良いですよ。不才と共にここから出てくださいますか?」

「うん」


Ⅲ.秘密を守る人

今の日付を知った僕は、残った最後の希望も消え去った。


百年が過ぎた。古い邸宅と古い友人たちは、もういなくなっているだろう。

僕だけが、時間の狭間に忘れ去られていた。


僕は最終的に明四喜の質問に答える事は出来なかった。


戦闘は突然始まった、陵墓の処理を終えて、近くの町に戻ったら待ち伏せされた。

相手は長い間待っていたみたいで、準備万端な様子だった。しかし僕という存在が増えている事は予想外だったみたい。


驚いたのは、元々体内の毒素を制御出来ず、そのせいで御侍を傷つけそうになっていた僕は、狼蠍の黙のおかげで、今までにない力を発揮できるようになった。

拡散した毒素は黙によって吸収され、僕はもう毒素が漏れ出る事を心配しなくて良くなった。

手の中の曲刀を握り締めて、思うままに敵に切りつけた。まるで本来こうであるべきだったかのように。

戦闘は緊迫した場面はあったけれど順調に終わって、勝利を勝ち取った。


明四喜は秩序だって部下に後片付けを命令していた。その人間の部下たちが僕を見る目もなんだか変わって、居心地の悪さを感じた。


「貴方がいて良かったです」

書斎に戻った明四喜は僕の横に座った。


「正式に自己紹介をしていませんでしたね。不才は明四喜、南離印館の……副館長です。貴方の名前を聞いても?」

「……ヤンシェズ


僕は南離印館の事は知らない。たださっきの戦闘で、この青年は僕のために最初の攻撃を防いでくれた。

もしかしたら、他の人たちみたいに明四喜様って呼ぶべきだろうか?


「貴方は凄い、そして特別です。不才たちの仲間になる気はないですか?」


この時、明四喜様の護衛が、派手な服を着て顔に痣がある中年男性を連れてきた。


明四喜様、こいつらは近くに住む貴族です。こいつらは陵墓の事を知っていて、俺たちを狙ってきました」

「ほお?」


明四喜様は興味津々に囚われの貴族を見た、彼は涙で顔を濡らしながら、土下座して命乞いをしていた。


「食霊様お許しを。陵墓の秘密を知ってます。陵墓の下には玄武大帝が隠した宝があり、そこを掘れば……」

「ダメ、宝じゃない、法陣だ」


すんなりと口から言葉が出た。長らくきちんと話してこなかったからか、声は擦れて聞き取りづらい。今はそれどころじゃないけど。

この人間の言葉を信じて、法陣を掘って、あの恐怖の力を漏らしたら、大変だ。


「いや、そんな訳はない!どうしてそれを知ってる!お前は誰だ!」

愚かで騒がしい人間は、手足を振り回しながら、自分の言葉が嘘である事を裏付けていた。


明四喜様が僕を見る目に驚喜が含まれるようになった。そして暴れ疲れた貴族の男をチラッと見てから、背後にいる護衛を見た。

「ほお?この件を知っている人は少ないんですね?」


貴族の男はまた尊大な態度をとりだした。


「もちろんだ、これは貴族代々伝わってきた秘密だ!」

「なら、法陣についてどれだけ知っているか、教えてもらおうか?」

「先に俺を放してくれ、安全な場所に連れて行ってくれたら、教えてやる!」


この人間はしてやったりの顔を浮かべながら、恐れる事なく顔を上げて僕たちを見ていた。

明四喜様は笑った。彼は声を出さず柔らかく笑っていた。顔を少しだけ傾け、長い髪が肩から落ちて、僕の方を見た。


「貴方はどう思いますか?」


僕?僕は、彼らが玄武陵墓を使って法陣を隠している事しかしらない。僕がいた場所は法陣の一つの入口に当たる場所だった。

僕は生きた命を陵墓の奥深くに連れて行くのを見た事がある、そして誰一人出てくる事は無かった。


「法陣は危険、残虐で、血生臭い、抑圧を感じる。あと、強い力」


目を閉じるとその感覚を思い出せる、あの法陣はまるで生きているようだった。僕は明四喜様が話していた情報から、まだ不確かな事を補足した。


「こんな場所、一か所だけじゃない……と、遠い。だけど、お互いに影響、する」


明四喜様は僕を少し見てから、俯いて何かをぶつぶつとつぶやき始めた。


「そうですか……」


顔を上げた彼は手を上げた。貴族の男は表情が強張り、声と共に横にいた護衛も倒れた。


「それなら、秘密を守ったまま死ねば良いです」


その光景を見ても僕の心が揺れ動く事はなかった。昔、僕の御待もこうだったから。


「この秘密は、外に漏れたら、不才たちの身も危なくなります」


明四喜様は再度僕に近づき、大きな体で眩しい光を遮った。


ヤンシェズ、不才と共にこの秘密を守ってくれませんか?」

……


Ⅳ.探りを入れる

僕は明四喜様の新しい護衛になった。彼と共に南離印館に行った。

ここは面白い場所。広いから、僕が嫌いな騒々しさを避ける事ができる。


明四喜様は毎日忙しい、いつも僕を傍に置く訳ではない。

僕は資料館に隠れるのが一番好きだ。何もせず、ただ静かに一日待つだけ。


「おや、貴方が選ばれた少年か!」

ボーッとしていたら、背後から話しかけられた。振り返ると二人の食霊が立っていた。話しかけてきたのは目を細めている青年だった。彼は扇子を使って口元を隠しながら、クスクスと笑っていた。


「失礼な言動は慎んでください!」

右の青年はどうしようもない表情を浮かべてから、僕に向かって丁寧に一礼をした。


松の実酒と申します。南離印館の副館長を務めております。こちらは館長の――京醤肉糸様です。貴方がヤンシェズでしょうか?」

僕は礼の仕方を知らないから、頷いて応えた。

「やはり貴方がそうか、強いって聞いてなあ。明四喜よりも私の護衛になるのはどうだ?」


これが、館長様?僕は不思議に思いながらも頭を横に振った。隣の松の実酒は何かが爆発しそうなのをぐっと我慢しているように見えた。


「館長、体面を損なう言動はやめてください」

続いて、松の実酒は申し訳なさそうに僕を見て言った。

「気にしないでください。しかし、近頃確かに面倒事が起きております。もし宜しければ、手伝って頂けると幸いです」


僕が答える前に、よく知っている気配を感じた。明四喜様も来たみたいだ。


「新しい遺跡を探す予定があるのでヤンシェズの力が必要です。館長はまた別の人にお願いしてください」

明四喜様が僕の隣に来てくれて、ホッとした。どう対応したら良いか考えなくて済む。


「これは、明四喜じゃないか。雨燕村に行ってたんじゃ、早いお戻りで?」

雨燕村、そこは御侍様の実家では?明四喜様を見ると、彼は微笑んだ。


「瑣事です。館長の心配には及びません」

「まあまあ、しかしヤンシェズとやらは私と気が合うような気がしたのだが……」

「館長は知らないかもしれませんが、この子は不才の傍から長く離れると、問題が起きます」

「ほお、だから雨燕村に行ってたのか……」


松の実酒は我慢の限界のようだった。京醤肉糸様の話を遮った。


「副館長が彼を貸してはくれないのなら、また別の算段を考えましょう。館長様、まだ確認して頂きたい書類がございます」

松の実酒がいれば良いだろう。館長である私が自ら出る事は……ああ、わかった、行こうか」


ここから離れる前、松の実酒は意味深に僕の方を一目見た。なんだか憚っているように見えた?


「軽々しい奴め!」

明四喜様の呟きが聞こえてきて、顔を上げると、彼の顔色は良くなかった。

その瞬間彼がそう言った相手は館長様であると気付いた。悪い人には見えなかったけれど、確かに……まともな館長にも見えなかった。


ヤンシェズ、不才らも行きましょう」

「うん」


住む場所の近くに戻ると、突然動悸が走った。庭に入ると、そこには三頭の狼の子どもがじゃれて遊んでいた。その銀白の毛並みに見覚えがあった。


「これらは、雨燕村に行く最中、偶然助けた子らです。毛並みが似ていると思い……貴方が以前言っていた友達の……」


明四喜様の話を最後まで聞く事はなかった。僕は本当に嬉しかったんだ。

まるで雨燕村に戻ったみたい、あの一番楽しかった時間に。


僕と狼の子たちはすぐに仲良くなった。彼らは黙にも興味津々で、傍でずっと匂いを嗅いでいた。


ああ、まるで夢の中にいるみたいに楽しい。


「これが彼らが思う、不才の最も冷酷で無情な殺し屋か……ふっ……」

「何か、言った?」

「……いや、楽しそうにしている様子を見ていたら、不才の気分も良くなりました」


明四喜様の少し困ったような笑顔は、あまり見た事がなかった。


明四喜様についていってから、僕は今まで経験してこなかった事を体験する事が出来た。明四喜様の傍に居ると、僕もとても嬉しい!


生まれて初めて、存在している事が、こんなに良い事だって思えた。


僕は口角を頑張って上げようとした。明四喜様の優しく温かい笑顔には敵わないけれど。でも、僕は彼に応えたい。


「はあ……まだまだ守らなければいけない子どもですね……」

明四喜様?何か、言った?」

「……」

「耳は良いみたいですね……」

「いや、ただ、皆君の事を凄いと言っていましたよ」


Ⅴ.ヤンシェズ

かつて玄武大帝の臣下にある大臣がいた。風采が堂々としていて、博学で、雄弁で、大帝は彼を高く買っていた。

大臣の息子もとても優秀だった。彼には強い食霊もいて、名を轟かせていた。


しかしその大臣がかつて食霊を召喚した事がある事を、極一部の人しか知らない。

邸宅の古い召使いしか、突然現れたあの少年の記憶はない。


それは外見が冷たく、言葉数が少ない少年だった。大臣は彼を田舎の甥として慎重に彼の正体を隠した。

少年はボーっとしていて、表情も乏しい。寡黙で、誰も彼に良い印象はもたなかった。

最初は彼に優しくしていた大臣も、少しずつ彼の事を疎ましく思うように。


しばらくして、大臣の息子が強い食霊を召喚する事に成功した。全員の注目はこの輝かしい存在に向けられた。

そして少年は、大臣の実家である未開発の雨燕村に送られる事となった。


誰もその寡黙な少年が消えた事に気付く事はなかった。誰も彼が来た事に気付かないのと同じく。

その後、邸宅の人間で彼の事を見た事がある人はいなくなった。


大臣の実家である雨燕村は、風景は綺麗だがとても辺鄙で貧乏な村だった。

古い邸宅は長年修繕されておらず、食料などの供給も途絶えているため、誰もそこにいようとはしなかった。


初めのころは、大臣は時々少年を呼び寄せた。彼に息子の食霊と協力して、堕神に対抗させた。

しかし少年の体には毒があり、制御する事ができずにいた。戦闘が始まると敵味方関係なく傷つけてしまう。一度大きな事故が起きそうになった事も。


大臣は面倒事を引き起こしてしまう彼をその場で殺そうとしたが、他の食霊の心象が悪くなると思いそうする事はなかった。


そうして、少年は古い邸宅に捨てられた。誰とも交流する事はなく、ぼんやりと、静かに、成長した。

元々口下手な彼は、ますます人とどう交流したら良いかわからなくなった。


冥冥の中の存在は、公正で無情だ。

少年は口下手だったが、生まれつき自然からは愛されていた。


花、鳥、虫、魚だけでなく、凶暴な狼、虎などの猛獣も、少年の傍にいれば和やかに過ごす事が出来る。

少年はこれらの小さな生霊と交流する事が出来るようだ。

仲間に付き添われているため、彼はそこまで孤独を感じる事はなかった。


……


どれぐらいの時間が経ったのだろうか、大臣は自ら少年を迎えにやってきた。

大臣は古い邸宅に住みついた動物たちを殺そうとしたが、少年がそれに気付いたため、動物たちは難を逃れる事が出来た。


この件で彼は初めて御侍に逆らった。


そして、少年は閉じ込められた。


玄武大帝は堕神に抵抗するため、光耀大陸を守るため、国力を注ぎ、大陣を造った。そして大量の生贄を必要とした。


大帝の構想では、最終的に自分をも犠牲にしようとしていたため、彼が目を掛けていた大臣ももちろん、生贄の候補となった。

しかし大臣はそうは思っていなかった。


富も、親子の絆も、何一つ切り捨てる事はできなかった。幸いにも、食霊を身代わりにする事ができた。


「この乱世で、息子の食霊は家の存亡に関わる。犠牲にする事は出来ない」

「ではどうしたら良いのでしょうか?」

「あっ、そうだ、彼がいた……面倒事しか起こさないあいつが……」


少年を殺さなかった事を、大臣は喜んだ。

幸いにも、余った食霊を犠牲にする事ができた。


「これは光耀大陸を守るためだ」

「光栄に思え」


光栄?

少年はわからなかった。御侍の命令にただ従うだけだった。


そして、今まで誰も彼に選択の権利を与える事はなかった。

よく考えれば、真っ暗な陵墓の地底も、四季がはっきりしている雨燕村も、なんら大きな違いはなかった。


ただ……

もう二度と友達に会えないかもしれない……


少年はそのような思いを抱いて眠りについた。まさかまた光を浴びる日がやってくるとは。

優しい笑顔を浮かべた青年が彼を地底から世間に連れ戻してくれた。優しく誠実に彼の事を見つめた。


「不才に貴方の境遇を教えてはくれませんか?」

「不才と共にここから出てくださいますか?」

「正式に自己紹介をしていませんでしたね。不才は明四喜、南離印館の……副館長です。貴方の名前を聞いても?」

「……ヤンシェズ

「貴方は凄い、そして特別です。不才たちの仲間になる気はないですか?」

「不才と共にこの秘密を守ってくれませんか?」

……


ヤンシェズは知らなかった、選択するというのはこれ程難しい事とは。なら、彼について行こう――自分を救ってくれた人を、自分に価値と意義を与えてくれた人を信じれば、良い。


彼は何が正しくて、何が間違っているか、そして善悪もわからない。例え同じ結末になったとしても、少なくとも今回は彼自身が選んだ事だ。



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ゲーム情報
タイトル FOOD FANTASY フードファンタジー
対応OS
    • iOS
    • リリース日:2018年10月11日
    • Android
    • リリース日:2018年10月11日
カテゴリ
  • カテゴリー
  • RPG(ロールプレイング)
ゲーム概要 美食擬人化RPG物語+経営シミュレーションゲーム

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