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失われた雀羽・ストーリー

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失われた雀羽

第一章-協力

陰に陽に鎬を削る

南離印館

書斎

 光耀大陸で最も盛大に催される神君継承式典までまだ少し時間があるが、南離印館では着々と朱雀神君継承の複雑な儀式の準備が進められていた。

 京醤肉糸(じんじゃんろーす)が朱色の木の椅子に座りながら、部下から提出された資料を読み進めていた時、コンコンと扉を叩く音が響いた。

 松の実酒は扉を押し開ける。眉間には皺が寄せていた。京醤肉糸は顔を上げず軽く笑って口を開いた。

京醤肉糸:どうしたんだ。

松の実酒明四喜(めいしき)の方から神物に関する新たな情報が届きました。

 京醤肉糸はそれを聞くと、その内容を既に知っていたかのようにゆっくりと手の中の筆を置いた。

松の実酒:秋山の古い遺跡の中に埋められているそうです……ただ……

京醤肉糸:それが偽の情報だと心配しているのか?

松の実酒:あの男の言葉を鵜呑みには出来ないので……

京醤肉糸:心配するな。この情報は、こちらも把握している。

松の実酒:それは……

 松の実酒の話途中、扉の外に微かに人影が見えた。隣にいた京醤肉糸は目を細め、無意識に口を噤んだ。

 来訪者は掴みどころのない笑顔を浮かべた。優しそうなその表情の裏にはまるで未知なる危険が潜んでいるかのようだった。

明四喜:お二方の邪魔になってしまったようですね。

京醤肉糸:副館長はこの件のために来たんだろう。

明四喜:館長様御明察です。来たる神君継承式典について、館長はきっと何かお考えがあるのでしょう。

京醤肉糸:ただ私たちの考えが一致しているかどうかはわからない。はっきりさせようじゃないか。

 京醤肉糸は扇子を開いて言い放った。彼を見ていた明四喜の視線が一瞬止まって何かを考えているようだった。しかしすぐにいつもの様子に戻った。 

明四喜:館長がそこまで仰るのなら、不才もこれ以上隠し立ては致しません。神物はそもそも希少なものです。このような機会は滅多にございません――

明四喜:もし此度の機会を掴む事が出来れば……不才が口にせずとも、館長様はおわかりになるでしょう。

 松の実酒は沈黙したまま隣に立っていた。二つの力が声も顔色も変えずに均衡したまま対峙しているのを感じていた。

京醤肉糸:朱雀様の神物を探すのは確かに大事だ、そして貴方の情報もとても貴重だ。

明四喜:お役立て出来たのなら光栄です。此度の目的地はそれほど遠くはありませんが、遺跡の中にどのような危険があるのかわかりません。ヤンシェズはきっと少しばかり力になれるでしょう。

京醤肉糸:私は異議はない。むしろ貴方の部下を煩わせてしまうな。

明四喜:問題ございません。では旅のご無事をお祈り致します。

 明四喜の姿が視野から完全に消えてから、扉の方を凝視していた松の実酒の視線は徐々に緩和され、張り詰めていた気持ちも落ち着いて来た。

 京醤肉糸は何も言わず、強張っている松の実酒を見た。扇子の裏で少しだけ笑い声が漏れた。

 松の実酒京醤肉糸の笑い声を聞いて、先程までの緊張した気持ちが一気に崩れた。深呼吸をして、どうにか怒りを抑えようと試みた。

松の実酒:協力関係を結んだという事ですよね。ヤンシェズを遣わせたのは、どう考えても私たちを監視するためですよ。

京醤肉糸:同じ目的をもっているのなら、協力する価値はある。それに、監視できるのは彼らだけではないだろう?

 京醤肉糸は軽く扇子を揺らしながら、意味深に神物の位置を示している地図を眺めた。

第二章-出発

全員揃った、出発しよう!

南離印館

書斎

 ギシギシ――ギシギシ――バタッ――

松の実酒:何の音でしょうか……

京醤肉糸:二人とも、出てきなさい。

 京醤肉糸は地図を見ながら、突然口を開いた。松の実酒は彼に訝し気な視線を送った。

 東側の窓の方からボソボソとした声が聞こえて来たと思ったら、すぐに、のそのそと二人が入口から入ってきた。

松の実酒:どうして……二人がここに?

京醤肉糸:いつからいたんだ、話したらどうだ。

 親に問い詰められているかのように、蟹醸橙(しぇにゃんちぇん)と彫花蜜煎(ちょうかみせん)は俯きながら、ごにょごにょとお互いを推しあっていた。体についていた雑草は床に落ちた。

蟹醸橙:ぼ、僕たちは、ほ本当に盗み聞きしたかった訳じゃ!

彫花蜜煎:そ、そうよ……通りかかっただだけ、まさかこいつの機械が茂みに引っかかるなんて……

京醤肉糸:何が聞こえたんだ。

蟹醸橙:な、何も聞いてない!!神物とか……

彫花蜜煎:絶対言いふらさないわ!

 京醤肉糸は厳しい面持ちを装っていたが、怒られないか怯えているのに胸を張っている二人の様子を見ていたら、すぐに笑いがこらえられなくなった。

 京醤肉糸が本当に怒っていた訳ではない事に気付き、二人はようやく胸をなでおろした。しかしすぐにまた強気に口を開いた。

彫花蜜煎:館長……朱雀様の神物は……本当にあるの?

蟹醸橙:僕も知りたい!話は聞いた事あるけど、見た事はないからな。

彫花蜜煎:神物を探しに行くなら、うちらも連れてって!絶対に迷惑かけないから!

蟹醸橙:僕の機械術は上達したし!何か役に立つかもしれない!

 京醤肉糸松の実酒の方に視線をやる。反対意見はないようだった。扇子を揺らしながら頷いた。

京醤肉糸:これが貴方達の狙いだろう。まあ良い、これは貴方達を鍛錬する良い機会だ。

松の実酒:戻って準備をして来てください、明日出発します。

 興奮した歓喜を上げながら、二人は満足そうに軽い足取りで部屋を出て行った。

翌日

南離印館

 早くから門の所で待機していた蟹醸橙彫花蜜煎は、遠くからやって来た京醤肉糸松の実酒を見て、彼らに向かって手を振った。

 待ちきれない程の荷物を持った二人を見て、松の実酒は思わず眉間に皺を寄せた。

松の実酒:こんなに荷物を持って……旅行に行くつもりですか?

蟹醸橙:本にはこう書いてあったんだ!神秘の宝物を探しに行く人は、十分な荷物を持っていかなきゃいけな……ええっ!松の実酒兄さん待ってーー!

 松の実酒蟹醸橙の言葉が終わる前に、荷物の「整理」を始めた。お菓子、服、雑貨が一つずつ投げ出されていく様子を二人は眺めるしかなかった。

 数分後、松の実酒は整理を終えたのか、立ち上がって身だしなみを整えた。しかし京醤肉糸は相変わらずゆるやかに扇子を揺らしていた。

蟹醸橙:まだ行かないのか?

京醤肉糸:揃ったら出発する。

彫花蜜煎:全員揃ってるよ?

京醤肉糸:ほら、言った傍から彼が来たようだな!こっちだ。

蟹醸橙:は?彼?……えっ……まさか……

 話している二人の間に黒い影が過った。一つの人影がその場にいる全員の前に現れ、紫色の瞳は全員を見た後に、京醤肉糸に向かって頷いてから、また消えた。

 全ては一瞬のうちに起きたかのようだった。蟹醸橙彫花蜜煎は呆気に取られてその場から動けなくなっていた。それをよそに、京醤肉糸は扇子を閉じて率先して進み出した。

京醤肉糸:行こう、説明は道中でしよう。


第三章-再認識

どんなことでも自分の目で確かめなければ。

秋山

山道

蟹醸橙:本当について来てるのか……?どうして見えないんだ……

彫花蜜煎:もしかすると、次の瞬間「シュッ」ってあなたの前に現れるかもよ。

蟹醸橙:フンッ、驚かすなよ。さっきまでずっとキョロキョロしてたのはどこのどいつだ。

彫花蜜煎:……忠告したわよ、彼はうちの館内で一番凄い暗殺者の一人!もし彼の曲刀に切られたら、すぐにあの世行きよ……

 彫花蜜煎蟹醸橙は小声でぶつぶつと話していた。話し合いに夢中になっていた彼らは、前方が楓林で塞がれている事に気付かない。ヤンシェズは姿を隠すのを止め、彼らの前に再び現れた。

彫花蜜煎:わあーー!刀刀刀!……ふぅ……ヤンシェズいつ現れたんだ?!あーー!

ヤンシェズ:……

 背後の彫花蜜煎は真っすぐヤンシェズの背中にぶつかった。鋭利な刃は彼女の前髪を掠り数本断ち切った。その瞬間彼女は驚いてよろめいてしまった。

 無意識に彫花蜜煎を支えようとしたヤンシェズだが、伸ばした手を一瞬止めてすぐに引っ込めた。少しだけ離れていた京醤肉糸はこの光景を黙って見ていた。

 彫花蜜煎はどうにか自分で立ち直ったが、横にいた蟹醸橙は笑いが止まらなくなっていた。

蟹醸橙:おうっ!あはははーー!!!

彫花蜜煎:……蟹醸橙

蟹醸橙:な、なんで刀を掲げてるんだ!

彫花蜜煎:笑うな!あなたと話してなかったらぶつかってなかったわよ!

 一行は引き続き前に進んだ。進めば進むほど周囲は静かになっていく。

 前方に濃く深い黒い霧を纏った楓林が現れた。先程までの景色と全く違う。黒い霧は林を全て呑み込み、更にその周囲にまで広がっていた。道は完全に霧によって塞がられて、何も見えない。

 冷たい風が林の中から吹いて来た。風はゆっくりと茂みを通り、まるで怨霊の唸り声が周囲から聞こえてくるかのようで、鳥肌が立つ程恐ろしい。

 蟹醸橙は冷たい風に煽られ冷や汗が止まらなくなった。慌てて半歩後ずさると、誰かにぶつかった。振り返って見ると、そこには無表情なヤンシェズがいた。

ヤンシェズ:……

蟹醸橙:……あはは……ご、ごめんなさい。

 フゥーーフゥーー

 冷たい風の音はまるで悲鳴のように鳴り響く。その音を聞いて蟹醸橙は唾を飲み込んだ。彼は誰かの腕を掴んで気持ちを落ち着かせようとしたが、次の瞬間彼に掴まれた人が反応し、冷たく光る蠍の尾を本能的に彼に刺そうとしたが、彼の顔に刺さる直前で動きを止めた。

蟹醸橙:うっ!

 驚かされた蟹醸橙は急いで掴んでいた腕を放して、よろめいた。ヤンシェズも少しだけ驚き、手を伸ばして蟹醸橙を掴もうとしたところ、蟹醸橙はよろよろと近くの楓の木にぶつかった。

 次の瞬間ーー

蟹醸橙:うわあああああーー虫がいっぱいーー!!!

 濃霧の中で揺れる楓の木から密集した黒い虫が落ちてきた。生臭い液体がその毒虫たちの口から出ていて、まるで大きな網のように蟹醸橙の方に襲い掛かった。

 危機一髪の瞬間、どこからか飛んで来た蠍の尾が蟹醸橙の腰に巻き付き、彼を毒虫の攻撃が届かない所まで引っ張った。毒液は地面に落ち、その瞬間あたりの草は全て腐蝕された。

 京醤肉糸は目を光らせ、手を上げて扇子を振った。数本の光が過り、空中にいた毒虫たちは全て地面に落ちた。蟹醸橙はまだ取り乱した様子で地面に座り込んだ、正気に戻った後、自分の命の恩人の方へと走って行った。

蟹醸橙:うわーー!兄弟、助けてくれてありがとうーー!

ヤンシェズ:……

彫花蜜煎:何を怯えてるのよ、精々皮が一枚めくれる程度でしょう、何ビビってるの?

 蟹醸橙彫花蜜煎のからかいを無視して、真剣な表情でヤンシェズを捕まえた。

次の瞬間にはヤンシェズの太ももに抱き着いて泣きわめきそうな勢いだった。

 ヤンシェズは突然熱烈な感情を向けられて、体が固まり、頬が熱くなった。思わず手を振りほどいて、影に潜った。

蟹醸橙:えっ、ヤンシェズどうして逃げるの……まだちゃんとお礼言えてないだろ!僕を助けてくれたから、これからは兄弟だ……

彫花蜜煎:ーーあなたの事なんてどうだって良いのよ、ほんと危なっかしいわね。

 林からおかしな物音が聞こえて来た。薄気味悪い風が彫花蜜煎の耳元を撫で、彼女は驚いて悲鳴を上げた。

蟹醸橙:さっき僕を笑ってたのによく言うよーー

松の実酒:程ほどにしなさい、これからは慎重に行動するように。二人とも声を抑えてください。

 松の実酒はどうしようもなく、二人の頭を叩いた。

第四章-楓林

黒い霧の中……

秋山

楓林

松の実酒:この林はなんだか怪しいです。皆さんーー特に貴方達は気を付けてください。

 松の実酒は真剣な顔で果てない黒い霧を見ながら言った後、後ろにいた二人をチラッと見た。

 隣りにいる京醤肉糸は慌てる様子もなく前に進み、ある所で歩みを止めた。その険しい表情は、何かを観察しているようだった。

京醤肉糸:これは……

松の実酒:何か見つけたのですか?

 京醤肉糸は扇を畳み、扇の先に霊力を集め、自分の足元の地面に向かって手を伸ばした。扇の先で触れた地面はゆっくりと赤い光を放ち、その光は徐々に四方に向かって流れて行った。

松の実酒:これは法陣ですか……?

 松の実酒の質問に答えるように、一つの方陣が少しずつくっきりと地面に現れた。

赤い光は土の下にある複雑な紋様に沿って広がり、黒い霧を貫いて天を指した。

松の実酒:そういう事ですか。この林の異常はこの法陣によるもの……

京醤肉糸:私達二人で協力してこの法陣を破るのは、難しくない。

 松の実酒は頷くと京醤肉糸の隣に行った。しばらくすると、二人は見事に法陣を破った。

 赤い光は徐々に暗くなり、林を囲んでいた黒い霧もゆっくりと散った。楓の赤が広がり、秋色を映し出した。

彫花蜜煎:綺麗――!

蟹醸橙:あっちを見ろ、道がある!

 一行が蟹醸橙が指した方向を見ると、綺麗な小道がそこにはあった。

松の実酒:待って……

 松の実酒の話がまだ終わらない内に、彫花蜜煎蟹醸橙は既に待ちきれなくなって走り出した。松の実酒は思わず眉をひそめる。隣の京醤肉糸も気持ちよさそうなくつろいだ表情を浮かべていた。まるで遠足に来たみたいに。

蟹醸橙:おいっ――――館長!副館長!早く来て!前にも道があるみたいだ。

松の実酒:…………

京醤肉糸:もう異常はないみたいだし、私たちも進もう。あのガキ共二人の説教は後からでも間に合うだろう。

 楓林の小道を通っていくと、遠くで微かに、大きく静かな山荘が徐々に浮かび上がってきた。

 一行は松の実酒の指示のもと、ゆっくりと山荘の門に近づいた。

 荒れ果てた山荘は、寂しそうに坂の上に建っていた。先程の色鮮やかな楓林と比べると、まるで色をなくした絵巻のようだった。

第五章-荒廃した山荘

荒地の奥底に。

荒れ果てた山荘

正門

 京醬肉糸は目を細めてこの荒れ果てた山荘の観察を始めた。門には蜘蛛の巣と埃が被っており、扁額(へんがく)に彫られていた字もかすれて、山荘の名前を読み取れない。全てが怪しい雰囲気に包まれていた。

 それでも、京醬肉糸が握っている玉佩(ぎょくはい)はますます眩しい光を放ち始めていた。まるで彼らをこの怪しい山荘に入るよう促しているようだった。

蟹醸橙:ほ、本当に入るのか……どう見ても怪しいんだけど……

彫花蜜煎:何、怖がってるの?

蟹醸橙:そ、そんな事ねぇよ!何があっても叫ぶなよ!

 ギシッ――

 古く腐っている木の門が開けられた。案の定、前庭も荒れていた。

 一行が歩き始めた瞬間、元々静かだった庭にどこからともなく冷たい風が吹き始め、地面に散乱している枯葉と枝を巻き上げた。そしてあたりから怪しい声が聞こえて来た。うめき声に笑い声が混じり、まるで魑魅魍魎があたりにいるようだった。

???:えへへへへ~~~~ははははは~~~

???:ああーーああーーああーーああーー

蟹醸橙:ここここれはなんだーーーー!!!

京醤肉糸:うむ、人を脅かすための細工だろう。

京醬肉糸は輝き続ける玉佩を更に強く握る。今の彼は普段のだらだらした様子に比べて完全に別の人だ。他の人も彼の後ろに付いている。

蟹醸橙:え~~!早すぎるよ、待ってくれ!

 次の瞬間、蟹醸橙は躊躇なく自分の蠍の尾で道を拓いていくヤンシェズの後ろに張り付いた。ヤンシェズは一瞬だけ足を止めた。

蟹醸橙:へへっ!君の傍は比較的安全な気がする!僕たちはもう兄弟なんだし!気にしないよな!

ヤンシェズ:……うん……

蟹醸橙:えっ?!喋ったか?!そんなに早く歩かないで!待って――

 一行は真っすぐな一本道を進み、更に広い庭に辿り着いた。いくつもの庭の景色は違うはずなのに、どうしてか見覚えのある感覚に襲われた。

蟹醸橙:おかしい……こんなに庭があるのか……

彫花蜜煎:なんかここは来た事がある気がする……

松の実酒:……常識的に考えて、山荘はこのような作りをしていないはずです。

京醤肉糸:確かにそうだ、ただこの山荘は変化を繰り返している。

蟹醸橙:えっ?じゃあどうすればいいんだ?このままぐるぐる歩き続けるのか?うっ……

松の実酒:……早く正しい道を見付けなければなりません。

京醤肉糸:恐らく、そんなに簡単ではない。

 突然四方から怪しい物音が響き、地面に徐々に亀裂が入っていく。その亀裂は規則正しく、まるで格子を描くように広がっていった。おかしな現象を前に、京醤肉糸ですら眉を顰め始めた。

松の実酒:気を付けてください!

 次の瞬間、天地が崩れるかのような巨大な音が鳴り響き全ての物音をかき消した。周囲の石は高速に複雑に移動、上下を繰り返していた。どうにか振り落とされないように全員が必死で踏ん張っていた。

 巨大な石が砂ぼこりを巻き上げていたため、ヤンシェズは曲刀を近くの大樹に引っかける事しか出来なかった。

 彼が蠍の尾を伸ばして一番近くにいた仲間を引き寄せようとする前に、大樹の下の地面も裂けた。墜落する時の強烈な浮遊感によって、ヤンシェズは眩暈がして、周囲にいた仲間に視線を定められなくなっていた……


山荘内

祭壇

 バンッ――

 埃が舞う中、ヤンシェズは体に乗っていた石を押しのけ、残骸から立ち上がった。

ヤンシェズ:ゴホゴホ……いっ――

 体の痛みで彼は息を呑んだ。辺りを見回すと、寂れていた台の横には模様が彫られている石柱が数本立っていた。

 突然、地下から不思議な波動が伝わってきて、彼の五官を刺激した。

ヤンシェズ:(……!)

 かつて墓室に閉じ込められていた頃の記憶が蘇り、今の感覚と当時のそれがほぼ一致していた。ヤンシェズは頭を抱えて無理やり過去の苦しい記憶を抑え、懐から小さな鏡を取り出した。

 指先で鏡を撫でると、弱い光が放たれた。聞き覚えのある声を確認した後、ヤンシェズは口を開いた。

ヤンシェズ:ここには……同じ墓がある。手がかりが……あるかもしれない。

???:わかりました。貴方のお陰です、お疲れ様。

第六章-機関

怪しい地下宮殿には何かが隠されている。

地下宮殿

某所

蟹醸橙:誰かいるか?――助けて――

彫花蜜煎:諦めよう、館長たちが聞こえていたらとっくに来てるぞ……体力を無駄にしないで、どうやって脱出するかを考えよう。

蟹醸橙:脱出の方法を知ってたら、叫んでないよ……

彫花蜜煎:ああ――ダメ!こんな罠にうちらが閉じ込められるなんて!

 彫花蜜煎はイライラして髪の毛をかきむしりながら、悔しそうに前に進んだ。

蟹醸橙:おい待って……僕も一緒に行く!

 二人は再びきつく閉じられた門の前にやって来た。どんなに体で押し開けようと、霊力をぶつけても、黒鉄の門はビクともしない。

 彫花蜜煎は焦りながら狭い部屋の中でうろうろしていたが、蟹醸橙は門の前にしゃがんで、持っていた夜明珠(やめいしゅ)を綺麗に拭いて、ある一点を凝視し続けた。

蟹醸橙彫花蜜煎!早くこっちに来て!

彫花蜜煎:何に気づいたのですか?

蟹醸橙:夜明珠を持っててくれ、どうやって脱出すればいいかわかった!

 蟹釀橙は真剣な顔で門の上にある出っ張った装置を弄じり始めた。彫花蜜煎はこんなに真面目な蟹釀橙を今まで見た事がなく、彼の邪魔をしないよう無意識に息を止めた。

 カチャッ――

蟹醸橙:おおお!!開いた!!!!!

 蟹釀橙の歓声と共に、黒鉄の門はゆっくりと開いた。

蟹醸橙:へへっ!この下にまさか孔明鎖(こうみんそう)があるとはな、気付けて良かった! この孔明鎖って言うのは……えっ待ってまだ話は終わってない!行くな待って!ちょっとぐらい褒めてくれたって良いじゃねぇか!僕がいなかったら出られなかっただろ!

彫花蜜煎:はいはい、じゃあ早く館長たちを探しに行こう。


 門から出ると、そこには暗く長い地下通路があった。どんよりとした石壁に圧迫されて息が苦しい。二人は細心の注意を払って前に進んだ。地下通路の突き当りには開けた空き地があり、そこからまた四方に通路が延びていた。

蟹醸橙:えっ……次は道が四本もあるのか……どれを選べば良いんだ?君が選んでくれない?僕はあまり運が良くないんだ。

彫花蜜煎:慌てないで、まずは様子を見てみよう。

 二人は全ての通路を観察しながら進んだ。そして空き地の中心に辿り着いた時――

 カチッ。

彫花蜜煎:ねぇ……何か聞こえなかった……?

蟹醸橙:何か踏んだのか?!

 二人はすぐに俯くと、踏んでいた所が円状に窪んだ事に気付いた。

彫花蜜煎:……

蟹醸橙:……

 ゴロゴロ――――――

 四方の壁から金属が線路の上を移動するような音が聞こえて来た。

 ドン――――

蟹醸橙:うわっ――――!!!彫花蜜煎!後ろ後ろ!!!

 彫花蜜煎の背後にある壁に突然大きな門が開かれた。青銅の兵士らが中から出てきて、手にはそれぞれ長い槍や刀剣などを持っていた。鉄の盾を持っている者もいた。

彫花蜜煎:蟹釀橙!あなたの後ろも!!!!

 四方八方から押し寄せてくる兵士らの顔は強張っていて生気が感じられない。二人に向かってくる彼らは、まるで敵影を捕捉したかのように、容赦なく刀剣を振り回してきた。

蟹醸橙:どうしてここにこんな機関が!気を付けろ!

彫花蜜煎:いっ――平気!

 腕に槍の攻撃を受けた彫花蜜煎は地面に転んだ。二人は背中を合わせて大量に湧いて出た青銅の兵士に対峙した。通路は全て兵士たちによって塞がれているため、脱出するには強行突破しかなかった。

 容赦なく刀剣を刺してくる兵士たちに対して、彼らは武器を持ってなんとか防御していた。だが、傷を負った彫花蜜煎の限界がそろそろ近づいて来た。その時――

 キンッ――

蟹醸橙ヤンシェズ

 見覚えのある人影が素早く彫花蜜煎の前に現れ、曲刀を空中で回転させ鋭い衝撃を放った。さらに硬い蠍の尾で兵士たちを地面に倒した。

彫花蜜煎:あっ!ヤンシェズが来てくれた!

 ヤンシェズは小さく頷くと、また兵士たちと戦い始めた。蟹釀橙と彫花蜜煎も再び自信を取り戻して、武器を握り直した。

 青銅の兵士は身体は大きいが、行動は機械的で鈍い。二人がヤンシェズの動きに合わせた事で、しばらくすると兵士たちのほとんどが破壊され、一面に散乱した。

蟹醸橙:ふっ、ふぅ……こいつら結構やるな。ヤンシェズ、君のお陰だ、ありがとう!

彫花蜜煎:あの、ありがとう!

ヤンシェズ:うん……

 ヤンシェズは淡々と応じた後、通路の入り口を塞いでいた青銅の兵士たちをどかした。いつものように何も話さず黙々と動いていたが、今回は彫花蜜煎たちが怖がる事はなかった。二人は気を取り直して、すぐに彼の手伝いを始めた。

 蟹釀橙に至っては少し前にヤンシェズの冷たさに怯えていた事を忘れ、冗談を言い始めた。

蟹醸橙:この槍や剣とか持って帰れないかな。見た感じ良さそうだから、高く売れるかも。

ヤンシェズ:……

蟹醸橙ヤンシェズこの兜を見てくれ、似合ってるよ!

ヤンシェズ:……

 蟹醸橙は言いながら兵士の兜を剥ぎ取りヤンシェズに合わせようとしたが、ヤンシェズは頭をずらして避けた。ヤンシェズは一瞬わかりづらいが顔が赤くなっていたのを彫花蜜煎は気付いて、我慢できずため息をついた。

彫花蜜煎:死者が身に着けていた物かもしれないのに、よく触れるね。

蟹醸橙:あーーじゃあやっぱいーらない!

第七章-黒服

もう一方。

山荘の外

某所

 火のように熱い太陽は空高くかかっており、忙しなく動く人らの影を映した。黒服の人々は整然と進み、大きな山荘の前を横切り、青石で出来た道を踏みながら、裏口から入って行く。

 黒い服を着た者達から遠くないところで、赤い服を着ている人が目の前の全てを観察している。

黒服のリーダー:上からの指示だ。滅多にない機会を逃してはならない。成功しか許さないとな!聞こえたか!!

 黒服のリーダー的存在が一喝すると、それに応えるかのように揃った大きな声が響いた。

黒服のリーダー:お前たちは陵墓の入口を探せ、早くしろ!

 話し終えてすぐ、黒い服を着た者達は四方に散った。まるで影のように山荘内を縫って行った。

黒服のリーダー:アレを壊すなよ。完璧な状態で持ち帰るよう上から言われているのだからな!

 乱雑な足音、マントを引きずる音が鳴り響き、静かだった山荘は喧騒に包まれた。

黒服の人:カシラ!入口を見付けました!

黒服のリーダーは声の方へと向かった。ボロボロな祭壇を通ると、埃だらけの石板で出来た入口がそこにはあった。

黒服のリーダー:良くやった!すぐに入ろう!逃がすな!

 黒服のリーダーの高ぶった声から興奮が滲み出ていた。すぐに隊列を指示し始めた。


 一方――

黒服の人:おおおれはあいつらに付いて来ただけだ、何も知らない!

明四喜:貴方達の言う「あれ」とは一体なんですか?

黒服の人:聖主様に捧げる物である事以外わからない……聖主様を迎えるための……

明四喜:(聖主様……)

明四喜:どうやってこの陵墓を見つけたのですか?

黒服の人:聖、聖女様が教えてくれた……

黒服の人:他の事は本当にもう知らない!お願いですから許して……くださ……

 黒服の人は続きを口にする前に、瞳孔が開き、空気が抜けた風船のようにふらつきながら倒れた。

明四喜は思う所があるような表情で、石板で出来た地下通路を見て、前に進んだ。

第八章-救援

助太刀に入る。

地下宮殿

某所

 「ドタドタ」と足音が山荘内で鳴り響く。先程までのおかしな物音は既に消え、周囲は再び静寂に戻った。

 彫花蜜煎と蟹釀橙はヤンシェズの後ろにぴったりとついて、細心の注意を払いながら首を伸ばして辺りを見回していた。

彫花蜜煎:長い間歩いた気がするけど、どうしてまだ館長たち見つからないの……

蟹醸橙:まさか彼らは……痛っ!

彫花蜜煎:バカな事言うな!

蟹醸橙:人の話を最後まで聞けよ、彼らもなんかの罠にハマったんじゃないかって言いたかったんだ。

彫花蜜煎:あの方たちは賢いから、もうとっくに神物を見付けているかもしれない。

ヤンシェズ:……あっち。

 ヤンシェズは足を止めた。前方の曲がり角から微かに長身の影が見えてきた。京醤肉糸ヤンシェズの後ろに雛のようにくっついている二人を遠くから見て、思わず眉を上げた。

 彫花蜜煎蟹醸橙は見慣れた姿を見て、嬉しそうに飛んで行った。

彫花蜜煎:館長!無事だった?

京醤肉糸:平気だ、貴方達はどうだ?

蟹醸橙ヤンシェズのおかげでなんともない!そうじゃないとまだ出て来れなかったかもしれない!

京醤肉糸:迷惑を掛けてしまったな。

 蟹醸橙がキラキラとした目でヤンシェズを見ていた。全員の注目を浴びたヤンシェズは、不自然に頭を横に向けた。松の実酒は本題に入った。

松の実酒:先程玉佩(ぎょくはい)の力で神物の在処は地下であると分かりました。地下に通ずる道を発見していませんか?

蟹醸橙:ん……

 彫花蜜煎と蟹釀橙は真剣に考え始めた。そしてこの隙に、おかしな物音はまた鳴り始めた、先程の音よりももっと激しく。

 鳥肌が立つようなうめき声、四方から吹いてくる冷たい風、物が動いているようなごちゃごちゃとした音、まるでおどろおどろしい地府にいるかのようだった。

蟹醸橙:わわわわわ?なんでまた――

 このような喧騒を聞いて、京醤肉糸は静かに集中して両目を閉じた。乱雑で規則性のない物音は、全てある一点を目指している事に気付く。

 無秩序な波動は一つにまとまった。京醤肉糸はまるで一本の糸を掴んだかのようだった。その糸の先に真相があるかもしれない。彼は迷わず長い廊下を通って山荘の裏へ進んだ。


地下宮殿内

祭壇深部

開けた祭壇の上で、黒服の人々は円を作っていた。それはまるで風すら通さない壁のようになっていた。

 そしてその円の中心には変わった服装の男の子がいた。怒っている彼は数人の食霊によって拘束されていた。黒服の人々のリーダー的存在は綺麗な銅鏡を持って、彼を見下ろしていた。

 京醤肉糸達一行が祭壇に近づいて行くと、その男の子が束縛から逃れようと必死になっている様子が見えた。しかしその行為は、この大きな黒服達の前ではか弱く見えた。

蟹醸橙:誰なんだ?!子どもをどうするつもりだ?!

彫花蜜煎:大勢で一人の子どもをいじめるなんて、恥知らず!

京醤肉糸:どうして子どもなんかがこんな所にいるのか、という事の方が重要ではないか?

蟹醸橙:えっ!それは重要じゃない!まず助けてからだ!

 蟹釀橙と彫花蜜煎は気が立って、拳を握り締めて相手に突っ込もうとしていたが、すぐに松の実酒に止められた。

松の実酒:落ち着いてください。無謀な行動をすると誰かが傷つく可能性だってあります。

 五人はまだ少し距離のある場所に立っていたが、どうしてか男の子の注意を引いた。彼は機敏に黒服達の間を縫って、五人に向かって助けを求めた。

???:助けて!!!!早く僕を助けて!

第九章-妖鏡

新しい仲間

地下宮殿内

祭壇深部

???:彼らは僕を捕まえようとしてる!全員悪者だ――うううう――!

 男の子が突然叫び出すとは思っていなかったのか、周りにいた数人は慌てて彼の口を塞いだ。他の黒服達の視線も一斉に遠くにいた五人に向いた。

黒服のリーダー:お前たち、余計な気を起こすなよ!

???:う、うっ!――た、助け――

蟹醸橙:真っ昼間に、なんで子どもをいじめてんだ!

彫花蜜煎:そうだぞ!どう見ても良い人に見えないわ。早く彼を放してくれたら、見逃してあげるよ。

黒服のリーダー:フンッ、良い度胸じゃねぇか。どうやって助けるのか見物だな!

 カシラが手を振ると、男の子を抑えていた数人は力を強めた。男の子は突如苦痛の表情を露わにした。

 前方にいた黒服の一人がこっそり服の中に手を入れていた。この些細な動きは京醤肉糸に見られ、扇子が綺麗な放物線を描いて、彼の手に当たると、苦無のような謎の液体が付いた暗器が落ちた。

蟹醸橙:や、闇討ちだと!

黒服達のカシラは目論見がバレた事で、眉間に皺を寄せ、すぐさま部下に視線を送った。男の子は力づくで持ち上げられた。彼の痩せ細った四肢は空中でもがき足搔いていた。

松の実酒:逃げようとしています!

 一行は飛んで行き、すぐに戦闘を始めた。ヤンシェズは少し躊躇った後、最終的に加勢した。

 双方の実力差ははっきりしていた。例え黒服達がどんな汚い手を使っても、彼らは依然として抑え込まれていた。

???:鏡!僕の鏡は?!僕の鏡を持って行かせないで!

ヤンシェズ:鏡?

 叫び声を聞いたヤンシェズは、めざとく黒服の一人が持っていた瑠璃銅鏡を奪い取ろうとした。奪い合っている最中、どちらも手を放さず、双方が揉めている内に、瑠璃銅鏡は地面に落ちた。

 パリンッ――

黒服のリーダー:チクショウ!割れるなんて!撤退!

 黒服達がそう言うと、すぐに「パンパンッ」と破裂音が鳴った。周囲は濃霧が立ち込め、彼らはその煙霧の中に消えて行った。

蟹醸橙:ゲホゴホッ、卑怯な手を使いやがって!

京醤肉糸:安心しろ、もう大丈夫だ。

 京醤肉糸は優しく男の子の頭を撫でた。ヤンシェズは少しバツが悪そうに歩いてきた。彼の手の中の瑠璃銅鏡が割れて半分しか残っていないからだ。

ヤンシェズ:ごめん……鏡……

???:大丈夫だよ!あいつらのせいだから!助けてくれてありがとう!恩を返さなければ……えっ――待って――この気配は――朱雀様!!!

松の実酒:……

京醤肉糸:……?

蟹醸橙:???

彫花蜜煎:???

 男の子が突然口にした言葉で、全員が呆気に取られた。その単語の意味すら忘れる程に。男の子は京醤肉糸に抱き着いて、子犬のように嗅ぎ始めて、最後に腰にあった玉佩を掴んだ。

???:これだ!これから朱雀様の気配を感じる!間違いない!

京醤肉糸:朱雀様の事を知ってるのか……?

松の実酒:貴方は一体何者なんですか、どうして彼らは貴方を捕まえようとしたのですか?

妖鏡:おっと失礼、自己紹介を忘れていたよ。僕は元々この鏡の中にいたんだ。目覚めた時から朱雀様と一緒だった。朱雀様は僕を拾った。僕は妖鏡だって教えてくれた。そして朱雀様のお陰で僕は人型になれるようになった。さっきの奴らに関してはまったく知らない連中だ。何故僕を捕まえようとしたのかもわからないよ。

蟹醸橙:じゃあ鏡ちゃん、ここにどれぐらいいたんだ?

妖鏡:うーん……一、二、三、四……もう数えられないや、自分でもどれだけ寝ていたのかわからないし、最近起きたばっかりなんだ……待って、その呼び方は朱雀様だけの物だ!その呼び方で僕を呼ぶな!お前たちは朱雀様とどういう関係なんだ!どうして彼の気配がするんだ!

京醤肉糸:朱雀様は私達南離族にとって至高の神君であり、私達はずっと朱雀様を探している。そしていつかあの方を本来の地位に戻そうとしている。こう言えば、わかるだろうか?

妖鏡:なるほど、君たちは朱雀様の一族なんだね!そしたら今からは僕の友達でもある!僕を救ってくれたから、僕も恩を返さなきゃいけない!何が欲しいの?

第十章-神物

それは昔から色とりどりの光‥…

地下宮殿内

祭壇深部

京醤肉糸:鏡ちゃんは朱雀様の神物がどこにあるか知っているか?

妖鏡:その呼び方はやめてって言ったでしょ。……神物……尾羽の事?朱雀様を探してる時に拾って、墓の中に隠した。まさかこんなに時間が経ってもまだ朱雀様の物を覚えている人がいるなんて、本当に良かった。

京醤肉糸:私達は今も朱雀様の行方がわからない。朱雀様の力はこの光耀大陸の各地に散らばっており、尾羽はその内の一つだ。このような神物を見つける事で、朱雀様はより早くご自分の力を回復させられる。

妖鏡:なるほど……!つまり……その尾羽がないと……朱雀様は帰って来れないって事?

京醤肉糸:ああ、だから鏡ちゃん、尾羽を私達に譲ってくれるだろうか?必ず大事にする。

 京醤肉糸の言葉を聞いて、妖鏡は俯いて、手を弄りながら悩み始めた。

京醤肉糸:問題ない、ゆっくり考えると良い……。それは、貴方にとっても意味のある物だからな。

 京醤肉糸は優しく妖鏡に伝えると、妖鏡はすぐに顔を上げた。

妖鏡:勿論良いよ、朱雀様の大事な物なら。恩を返したいとも言ったし、有言実行しなきゃ。今連れて行ってあげるよ!

 顔を上げた妖鏡の目は、キラキラと輝いていた。一行はやっと神物の在処が判明すると知って、心の中でホッとした。


秋山

古い陵墓

妖鏡:……君たちは朱雀様の勇姿を見た事ないよね、相手をコテンパンにしてとってもカッコいいんだ!朱雀様は戦いは好きだけど、人をいじめる事は絶対にしない。もちろん人をいじめてる朱雀様もカッコ良い!

妖鏡:あの時、僕は朱雀様が一番お気に入りの鏡だった、一日に何回も僕を見るんだ――ああ!朱雀様の羽はこの世界で一番美しい!!特に太陽に照らされて、キラキラと光る感じとか!

 薄暗い地下道の中、松の実酒の手の平にある夜明珠は優しい光を放っていた。そして妖鏡の声は興奮したように止まらない。一方、隊列の最後尾からもブツブツと小さな声が聞こえて来ていた――

蟹醸橙:こんなに歩いたのに……まだ話し終わらないのか……。

彫花蜜煎:彼にとって朱雀様は本当に大切な存在なんだろうね。

妖鏡:朱雀様とはぐれなかったら、あのイヤな皇帝に捕まらなくて済んだのに!朱雀様が失踪する前に、顔を見れたのに……

京醤肉糸:その皇帝とは、誰の事だ?

妖鏡:あの玄……玄なんちゃら。そんなのどうでも良いよ!あいつは自分で一杯法陣を作っといて、力が足りないって……何に使うかは僕にもわからない。あいつの体から朱雀様と似たような気配がしなかったら、騙されたりしたもんか!フンッ!

妖鏡:あいつが僕をあのクソ法陣に閉じ込めなきゃ、僕は眠ったりしなかった。もしここに閉じ込められなかったら、もしかすると今も朱雀様の傍にいたかもしれない!せっかく起きたのに、また変な人たちに会っちゃって……い、いや君たちの事じゃないよ!

妖鏡:あの黒い服の人たちは、僕が弱っているのを見計らって捕まえに来た。人間は幽霊とか妖怪が怖いって言うでしょ?だからいっぱいおかしな物音を出して追い返そうとしたんだ……はぁ、もし朱雀様がいたら、羽根の一本であいつらを追い返せたのに!

蟹醸橙:……って事は、あのおかしな音は全部君の仕業だったのか?

妖鏡:あれ、君たちも聞こえてたの?どうだったどうだった、効果覿面でしょ!怖いでしょ!前に来た人たちも腰を抜かしてたよはははは!バカだな!

蟹醸橙:…………

妖鏡:彼はどうして隅っこに行ったの?

彫花蜜煎:合わせる顔がないからじゃない?

妖鏡:ふーん。……待って、着いたよ!

 一行はその声を聞いて足を止めた。苔が蔓延っている石門が目の前に現れ、上には複雑そうな機関があった。

 先程まで落ち込んでいた蟹醸橙は目を光らせて、指をボキボキと鳴らしながら、気合十分な様子で前に進んだ。

蟹醸橙:この門の機関なら僕に任せて……

 カチャッ――

 石門はゆっくりと開いた。残りの四人は、一斉にボタンを押した妖鏡を見てから、表情が固まった蟹醸橙を見た。

蟹醸橙:…………

彫花蜜煎:ぷはっ!

妖鏡:あれ?なんでまた隅っこに行ったの?

彫花蜜煎:大丈夫、気にしないで。唯一の見せ場を奪われて、ちょっと落ち込んでるだけ。

 石門は完全に開かれた。広い部屋の中央には綺麗な机がある。その机の上には綺麗な模様が描かれている朱色の宝箱が置いてある。

 妖鏡の許可を再び得て、京醤肉糸は恭しく慎重に箱を開けた。赤と金色が入り交ざった光が箱から少しずつ溢れ出し、部屋全体を照らしていた。遠古からやって来た色とりどりの光芒は、威厳と神聖さを兼ね備えていた。

 全体から光を放つ、まるで炎のような尾羽は静かに箱の中に横たわっていた。柔らかな羽根は自由に伸び、天然の模様の中には光の斑点が灯っていた。言葉を使わずとも、その輝かしい歴史を感じ取る事が出来た。

 まるで時間が止まったかのよう、一行の顔は驚きを隠せていない。呼吸音を出す事すら憚られ、誰もこの神聖な瞬間の邪魔をしたくなかった。

蟹醸橙:うわぁ…………

彫花蜜煎:これが朱雀様の神物……

妖鏡:言ったでしょ、朱雀様の羽根は世界で一番美しいって!

蟹醸橙:……き……綺麗すぎる……

彫花蜜煎蟹醸橙――箱によだれを垂らしそうになってるぞ!

京醤肉糸:鏡ちゃん、南離族を代表して心から感謝する。

松の実酒:長い間神物を守ってくださり、私達の手助けもしてくださり、本当にありがとうございます。

妖鏡:コホンッ、朱雀様の物をきちんと保管するのは当たり前だよ。僕の気が変わる前に早く回収しちゃって!

 妖鏡の幼い顔が赤く染まると、一行は思わず吹き出してしまった。蟹醸橙彫花蜜煎は相変わらず呆けた顔で尾羽に見惚れていた。

 しかしこの時、徐々に透明になっていく手を背後に隠す妖鏡に誰も気付く事はなかった。

第十一章-危地

四面楚歌

秋山

古い陵墓

 神物が入った宝箱をきちんと仕舞った後、来た道を帰ろうとして石門を通った瞬間、陵墓からおかしな音が聞こえてくるようになった。そして激しい振動の後、石くずが壁から降ってきた。

蟹醸橙:ど、どうなってるんだ?!

松の実酒:陵墓に異変が起きたみたいですね、早くここから出なければ。

京醤肉糸:山荘全体だ。

 京醤肉糸の冷静な声で、全員は思わず身震いした。蟹醸橙は思わず妖鏡に方に疑いの目を向けた。

妖鏡:僕を見ないでよ。前のは僕の仕業だったけど、今回は本当に知らない!

京醤肉糸:あの皇帝が貴方をここに封印したのは、法陣に必要な力が足りなかったから?

妖鏡:うん……確かにあいつはそう言ってた……

京醤肉糸:この法陣の中に貴方とその他の法陣と、後何があるんだ?

 耳をつんざく轟音はまだ絶えず響き、地面が沈み、石が墜落して来た。一行は崩壊寸前の地下道を障害物をかわしながら素早く抜けて行き、幸いにもすぐに陵墓の入口に辿り着いた。入口にあった祭壇は既に原型をとどめていなかった。

妖鏡:思い出した……!あとは彼に弾圧された堕神がまだたくさんいる!

 妖鏡の言葉を聞いて、陵墓から逃れたばかりの一行はホッと一息つく前に、思わず息を呑んだ。張り詰めていた心臓が喉元までせりあがって来そうになっていた。

松の実酒:きっと誰かが法陣を動かしたのです、ここからが……危険かと……

妖鏡:本当に僕のせいじゃないよ!今までのは自分の力だったけど。す、朱雀様に誓います!

京醤肉糸:……あの黒服の人らが法陣を乱したに違いない。

蟹醸橙:じゃ、じゃあ早く逃げないと?!

京醤肉糸:もう間に合わない。

 京醤肉糸の言葉に応じるかのように、天をも切り裂く轟音の中、全員が危険信号を捉えた。あれは堕神の気配だ、四方八方から押し寄せてきている。

 巨大な黒影が一つずつ現れた。雄叫びを上げるものもいれば牙をむき鋭い爪を振り回すものもいた。百年もの歳月抑制され再び目覚めた堕神たちは、復讐しようと舌をなめずりまわして自分の獲物を探していた。

蟹醸橙:あああこんなに多くの堕神……

彫花蜜煎:どうしたら良いんだ……

 蟹醸橙は自分のカニ型の機会をギュッと掴み、彫花蜜煎は唇を噛みしめ、松の実酒京醤肉糸も顔つきが険しくなった。ヤンシェズは依然として冷たい表情を浮かべているが、曲刀を握っている手には青筋が浮かんでいた。

 全員が戦闘態勢に入ったが、堕神に囲まれた四面楚歌の状況の中、誰一人前に出る事は出来なかった。

第十二章-死闘

族人と仲間のために!

地下宮殿

祭壇

 徐々に蘇っていく堕神たちは凶悪な牙をむき出した。新鮮な生き物の気配を感じ取ったからか、咆哮の中には喜びの感情が含まれていた。

 一行がいる中央祭壇は少しずつ包囲され、全員が戦闘態勢に入った。一番近くにいる堕神たちは迷わず襲い掛かっていた事で、遂に戦いの幕が開かれた。

蟹醸橙:来いっ、やってやるーー!行けカニちゃんーー!

彫花蜜煎蟹醸橙ちょっとどいて!

 蟹醸橙はカニ型の機会を操りながら突っ込んで行った。二本の硬いハサミが目が真っ赤な怪物を掴み、彫花蜜煎はその隙に刀を振り下ろした。怪物は真っ二つに切り裂かれ、もがきながら消滅した。

蟹醸橙:連携悪くないじゃん!

 順調に堕神を一匹倒した二人は、得意げにお互いを見た。そして次の瞬間彫花蜜煎の背後から怒号が飛んで来た――

 数度の鋭利な斬撃によって、咆哮していたデカブツは瞬時に倒れた。彫花蜜煎は驚いて振り返ると、曲刀を持っているヤンシェズを確認して、思わず息を呑んだ。

ヤンシェズ:気を付けて。

松の実酒:貴方達集中しなさい!

 松の実酒もこの状況に気付き、戦いながら蟹醸橙彫花蜜煎に大声で注意した。

 危うく奇襲されるところだった二人は集中し、息の合った連携で多くの堕神を倒した。

 一方――

 京醤肉糸は余裕のある様子で怪物の間を歩いていた。扇を煽りながら力強い曲線を描いていた。裾もそれと共に上下に舞った。

妖鏡:僕を下ろして、そこまで弱くないよ!

 京醤肉糸の片手で抱えられている妖鏡はやっと機会を見付けて口を開いた。

京醤肉糸:貴方の霊力は散り始めている、共に戦う事は出来ないだろう。

妖鏡:な、なんでわかったの……!

京醤肉糸:貴方の本体はあの鏡だろう?本体は既に半分に割れている。さっきも自分の両手を隠そうとしていたが――私の視力はまだそこまで悪くはない。

京醤肉糸:安心しろ、私達は貴方を連れて朱雀様を探し当てて見せる、信じてくれ。

妖鏡:僕は……

 自分の考えが見透かされた妖鏡は複雑そうに目の前の冷静な、更には笑顔を浮かべている男を見た。心が少し揺れ動き、それ以上抗う事をやめ、大人しく京醤肉糸の懐におさまり、彼の胸元にしがみついた。

妖鏡:わかってる……

 京醤肉糸は一瞬だけ笑って、また戦闘に集中し始めた。力を強め、素早く放った。この時、彼は妖鏡がほぼ透明になってしまっている自分の両腕を見つめて朦朧としている事に気付いた。

京醤肉糸蟹醸橙、貴方達はこの子を守れ。

蟹醸橙:わかった!

 蟹醸橙京醤肉糸が連れてきた妖鏡を見た。小さな体を丸めた妖鏡の顔色は真っ白になっていた。

 蟹醸橙は自分の服を脱いで硬い石板の上に敷いた。妖鏡は自分の体の下に柔らかな感触がある事しかわからず、疲労感と眠気に襲われ続け、気付けば瞼が閉じていった……

 完全に意識を失う頃には、蟹醸橙の怒号しか聞こえなかった……

第十三章-炎

城主の炎

 苛烈な戦いはしばらく続いた。地面には既に判別が出来ない程の残骸が散乱していた。最初は優勢だった一行だが、徐々に形勢が不利になっていく。まだやる気は残っていたが、絶えずわいて出てくる堕神に対抗する力がもう尽きそうになってきていた。

 動きが遅くなって来た者もいた。蟹醸橙は部品が外れたカニ型の機械を持って下がり、彫花蜜煎も欠けた刀を持って座り込んだ。

 松の実酒ヤンシェズも傷口を押さえ、流れていく霊力を止めていた。顔に汗が伝う京醤肉糸も、自分ももう長く持たない事を自覚していた。

 しかし凶暴な堕神は依然として鋭利な牙をむきながら、攻撃を続けていた。全てを呑み込もうと咆哮を上げながら……

 怪物たちはふらつく松の実酒に気付いたのか、彼に照準を合わせ、鋭い爪を高く掲げた。京醤肉糸が扇子を投げつける前に――爆発音が鳴り響き、どこからともなく飛んで来た砲弾が堕神に当たり爆発し火花を散らした。

辣子鶏:……ブサイクばっか、気持ち悪い。マオ・シュエ・ワン、やってやれ!

マオシュエワン:へへっ了解!この雷火弾を味わえ!

冰粉:そちらの方々、大丈夫ですか?

 京醤肉糸一行は突然聞こえて来た声の方に視線を送った。二人の真っ赤な見知らぬ人物が大手を振って歩いて来た、隣には落ち着きのある人もいた。

冰粉:某たちは用があってここに来ました。物音に気付いてやって来たのですが、まさか大変な目に遭っている人がいるとは。

辣子鶏:顔が汚いな……まあ良い、俺は今日気分が良いから、助けてやるよ。フンッ、離火、こいつらを吹き飛ばせ!

マオシュエワン:あああああ辣子鶏(らーずーじー)また俺の獲物を奪うな!

 人に話す隙を与えないまま、赤い鳥を従えている赤い服の青年は尊大な表情を浮かべて笑った。もう一人は怒りながら叫んでいた。もう一人の落ち着いた雰囲気の青年は、負傷した京醤肉糸たちを連れて赤い服の青年の傍まで歩いた。

冰粉:怪我をしてますよね、まずここで休んでください。城主、続きを宜しくお願いします。

辣子鶏:準備はできたのか?

冰粉:はい。

辣子鶏:離火焚心――!!

 天をも貫く灼熱の炎は、多くの堕神を呑み込み歪ませた。薄暗くジメジメとした地下宮殿で、まさかこのような灼熱の炎に焼かれるとは思いもしなかっただろう。最後に残った火花は逃げようとした堕神数体を一匹たりとも逃す事はなかった。

 京醤肉糸らは空をも燃やし、太陽をも呑み込みそうな炎とまだ続々と出てくる堕神を見て、どうにか立ち上がろうとした。

辣子鶏:傷ついてんのに無理すんな、休んでろ。虫だろ、すぐに終わる、焼き殺せば良い。俺の足を引っ張るなよ!

冰粉:城主、言葉を慎んでください。

 冰粉は前に出て辣子鶏への攻撃を防いだ。一瞬のうちに、見知らぬ人たちは息の合った攻撃を始め、辺りに殺気が満ちた。近づこうとした怪物たちはそれにあてられ、歩みを一瞬止めた。緊迫した局面は、また再び動き出した。

 食霊たちは各自行動を開始し、違う方向へと散った。巨大な怪物は先程よりも激しい勢いで叫びながら襲い掛かってきた。

 激しい戦いの音が空中で鳴り響く。怪物の間を縫っていく姿はまるで稲妻のようだった。鋭利な刃は空中を切り、炎は大地を燃やし、機械は回転を続け、そこには異様な光景が広がっていた。

 祭壇が、更には山が、この空前絶後の戦闘によって震えていた。咆哮の中に怒号も混ざり、霊力と機械の力が合わさって相乗効果を発揮していた。一行の破竹の勢いによって、勝利の音が鳴り響いた。

マオシュエワン:ハハハハッ――死ねっ――死ねっ!!!

冰粉:マオ・シュエ・ワン止まりなさい!

辣子鶏:…………

蟹醸橙:わっ――こ、ここここの花は人を食べるのか?!

辣子鶏:そうだ……こええぞ……普段から、全然俺を尊重してくれねぇんだ……

冰粉:コホンッ、城主何か?

辣子鶏:いっ、いや、何でもない。

蟹醸橙:あはっ、でもこの太った鳥はなんか面白いな、どこで拾ったんだ?

モフモフ鳥:誰が太った鳥だ!!!俺様は朱雀だ!!!

蟹醸橙:は?朱、なんて???

松の実酒:危ない!

辣子鶏:離火!もう一発かませ!

 妖鏡は炎が広がる中目を覚ました。なんだか……懐かしい、泣きそうになる位懐かしい炎を感じる……

妖鏡:……

 妖鏡は目を擦ると、ようやく目の前の状況を確認出来た。祭壇の前に後ろ姿がいくつか見えた。周囲は血で洗われたみたいになっていて、堕神が亡くなった形跡が荒れた土地の至る所にあった。キラキラと光る橙色の炎は全ての暗闇を呑み込んだ。

 明るい光は陽射しのように暖かい。遠くないところで一羽の丸い小鳥は赤い青年の肩にいる。その瞬間、目の前の姿は記憶の中のあの方に重なった。

第十四章-去る

彼は光になった……

地下宮殿

祭壇

蟹醸橙:鏡ちゃん――!起きたか――!

彫花蜜煎:その体……鏡ちゃん体どうしたの!

妖鏡:大丈夫……もう終わったの……あ……あの人は……

蟹醸橙:えっ、彼?彼は辣子鶏だ、彼が助けてくれて、怪物を倒してくれたんだ!

妖鏡:堕神……全部……いなくなったの……

京醤肉糸:そうだ、全部だ。貴方のおかげだ鏡ちゃん。今、貴方は自由になった。

妖鏡:僕は……

蟹醸橙:あれ……待って、地面が動いてる……待って……なんで地面がまた動いてるんだ?!

松の実酒:恐らく堕神の力を失ったから……法陣の効力がなくなったのかもしれない……

辣子鶏:チッ、やっぱり遅かったか……また朝鮮人参を探しに行かねぇと。

マオシュエワン:そんな事考えてる場合か?!早く出ないと俺たちも生き埋めにされる!ああああなんで今回に限って何も持ってきてないんだ!

辣子鶏冰粉にバレないようにこっそり出ようって言ったのはお前だろ!

冰粉:はい?

彫花蜜煎:ほ、本当に効力を失ったらどうなるの……

松の実酒:この法陣はこの祭壇を支えるもの、もし法陣が効かなくなれば……この山荘……いいえ恐らくこの山も崩れます……そして今は逃げ道すら……

 ボーッと辣子鶏の肩に止まっている黄金色のモフモフを見ていた妖鏡がゆっくりと口角を上げているのを誰も気づいてなかった。彼は身体を支えて、ゆっくりと立ち上がった。

妖鏡:僕が助けてあげる……

妖鏡:僕は長くこの法陣の中にいたから、とっくに力が繋がってる。だから僕の力があればしばらくは持つと思う……

蟹醸橙:じゃあ鏡ちゃん……君はどうなるの?

京醤肉糸:鏡ちゃん……

 体の半分が既に透明になっている妖鏡は俯いていた。そして再び顔を上げた時、素敵な笑顔を浮かべていた。

妖鏡:朱雀様の尾羽の力がないと、そもそも僕は長くもたない。君たちを無事に送り届けられる方が良いよ。

妖鏡:それに、僕の夢はもう叶えてもらったし。ありがとう。

蟹醸橙:えっ?鏡ちゃん今なんて……?

彫花蜜煎:鏡ちゃん!待って!

 妖鏡は引き留めている二人の事を気にする事なく、半分に割れた自分の鏡を持って、振り返って祭壇の中心へと向かった。まるで普通の別れのように、笑顔で手を振っていた。でもその場にいる全員はわかっていた、これは永遠の別れであると。

 割れた鏡は宙に浮き、妖鏡と同じ優しい光を全体から放っていた。その光は一つの力となり、祭壇の中心に向かって飛んで行った。地面には複雑で華麗な模様が浮かび上がり、力はそこに注がれていく。

 法陣の光が明るくなるにつれ、周囲の揺れは収まって行き、妖鏡の体も徐々に消えて行った……

妖鏡:僕の願いを叶えてくれてありがとう。

 妖鏡は消えそうになっていた腕を揺らし、叫んだ。最後は彼は眩しい笑顔を見せながら、一粒の光点となり法陣の中に入った。妖鏡は完全に消滅し、祭壇の中心には何も残らない。

 全員は静かに妖鏡が去って行った方を見つめた。誰も今の静寂を破ろうとはしていない。ただ黙々とたった今消え去って行った命を追悼した。

第十五章-情報

意外な収穫

少し前

荒廃した山荘

 乱雑な足音が山荘の地面を踏んで行く。周囲から微かに震動が伝わってきた。

 狼狽した黒服の者達は慌てふためいた様子で山荘内を走り回り、逃げ道を探していた。元々大勢いた隊列も、数人しか残っていない。

黒服のリーダー:チクショウ!全部使えないお前らの所為だ!あの鏡を壊しやがって、出口も塞がれて!

 隊列の先にいた黒服のリーダーは、ボロボロな服で怒り狂っていて滑稽な様子だった。

黒服のリーダー:面倒事しか増やさない。鏡は半分しかないし、どう上に報告すりゃ良いんだ!

黒服のリーダー:どうした?口も利けねぇのか?使えないな!早く出口を探しに行け……

 黒服のリーダーは部下を説教しようとしたが、振り返った瞬間、最後の言葉が喉元に詰まって発する事は出来なかった。

 彼は硬直して口を開いたまま、瞳孔が震えていた。長髪の男が地面に倒れた死体を踏みながら、颯爽と歩いてくるのを見ている事しか出来なかった。地面に広がる鮮血はまだ熱を帯びていた。まるで艶やかな蕾のように石板の上で咲き誇っていたが、その男の服には一切の血痕はなかった。

 黒服のリーダーは自分の四肢が何か見えない力で抑えられている事に気付いた。呼吸すらも奪われていた。長髪の男は掴みどころのない笑顔を浮かべていて、全身から危険な気配が漂っていた。

黒服のリーダー:ゆ、許してください!

 明四喜は土下座し始めた人物を興味あり気に眺めた。その人物の黒い服は汗水で全部濡れていた。

明四喜:緊張しないでください、知っている事を話してくれるだけで良いんです――

明四喜:あの男の子をどうするつもりなんですか?

黒服のリーダー:言います!言います!あれは自然の神としか知りません……どう、どうするつもりかは……俺たちはただ聖女の命令に従っただけ……本当にし、知りません……!

明四喜:聖女?

黒服のリーダー:せ、聖教の聖女です……これぐらいしか、知りません!

明四喜:ここの法陣については、どれだけ知っているのですか?

黒服のリーダー:法陣、ってなんですか?知りません!本当です!聖女様は、山荘の中や地下の墓地に妖怪が潜んでいるかもしれないと、教えてくれた、だけで……法陣、なんて聞いてません!

明四喜:十分です、もういって良いですよ。

 冷たい声が頭上から聞こえて来た。黒服のリーダーは終始俯いたまま、顔を上げる勇気がなかったが、この言葉を聞いてやっとホッとした。

黒服のリーダー:あ、ありがとうございます!

 彼は喜んで慌てて立ち上がり、歩き出した。しかし一秒も経たない内に、首筋に冷たさを感じた。ねっとりとした赤い液体がゆっくりと流れ、濡れた黒い服に暗い赤が広がった。

明四喜:「いく」の意味までは言ってませんよ。

明四喜:聖教……聖女……悪くないですね……

明四喜:(崩れそうですね……)

 明四喜は目を細め、四喜鏡を軽く撫でた。周囲の震動は強まり、彼の顔に一縷の躊躇いはあったが、すぐに黒服のリーダーの最期の視界から消え去った。

第十六章-大詰め

一旦終了。

南離印館

書斎

 静かな書斎で、京醤肉糸は頬杖をつきながら、書類を眺めていた。扉を叩く音が響いた。

京醤肉糸:どうぞ。

 京醤肉糸は俯いたまま返事をした。懐かしい気配を感じるとゆっくりと顔を上げた。目の前にはいつもの笑顔を浮かべている明四喜がいた。

京醤肉糸:副館長か。

明四喜:また館長の事務作業の邪魔になってしまって、申し訳ございません。

京醤肉糸:構わない、副館長は私に呼ばれて来たのだ、邪魔な訳がなかろう。

明四喜:この間の一件ですが……ヤンシェズは館長にご迷惑を掛けてないでしょうか?

京醤肉糸:副館長は考えすぎだ、彼は良い子だった。

明四喜:それは何よりです、では神物は――

 明四喜が単刀直入に聞いてくるとは思っていなかった京醤肉糸は、視線を精巧な宝箱に移して見せた。

明四喜:館長は本当に、此度の式典を指揮する権限を不才に任せてくださるのですか?

京醤肉糸:合意しているのだから、これ以上何度も確認する事はないだろう。

明四喜:不才は本当に考えすぎているのやもしれません。ただ入念に準備を進めたいのです。

京醤肉糸:なら、きちんとやってくれ。今回の式典は……貴方が知っている事は私と大差ないだろう。

 京醤肉糸は笑って、自分の語り口を強めた。もちろん明四喜もその言葉から警告の意味を感じ取ったが、焦らず視線を合わせた。

明四喜:館長が言いたい事は――勿論承知しております。


 門を隔てても外に立っている松の実酒は中の修羅場のような雰囲気を感じ取っていた。彼は早めに来なくて良かったと胸をなでおろした。

 次の瞬間、明四喜が扉を開いて中から出てきた。彼は箱を持って礼儀正しく松の実酒に会釈をして去って行った。そして、すぐに部屋の中から彼を困らせる声が聞こえて来た――

京醤肉糸:おお、松の実酒やっと来たか――じゃあ残った書類は頼んだ――少し出てくる、夜には帰るよ。

松の実酒:館長っ……!

 松の実酒は頭を抱えて、上がった眉を抑えた。深呼吸してからやっと部屋に立ち入った。

 京醤肉糸の姿はもうとっくになく、机の上の紙には水墨画で笑顔の人の絵が描かれていた。それは窓から来た風に吹かれて、体を揺らしていた。

Ⅰ南離印館

館長の悩み

館長を悩ませるのは……

南離印館

書斎

 静かな廊下で京醤肉糸っは自分の額を揉んで、自分の書斎の門を開いた。

松の実酒:神君の継承式典ーー式典のことですか?長老たちは……また何か言っていたのですか?

 聞きなれた声が耳に入った。京醤肉糸は意外そうな表情で頭を上げると、いつの間にか入って来た松の実酒に気づいた。

京醤肉糸:いいや、ブツブツ文句を言っていただけだ。

松の実酒:貴方の表情は、そう言っていません。

京醤肉糸:ふむ、貴方の前では本当に何も隠せないな。

松の実酒:……「朱雀神君」のことを心配しているのですか……?

京醤肉糸:彼らが気にしているのは、この事しかない。

松の実酒:きっと外の部族からの噂が耳に入ったのでしょう。今の「朱雀神君」の力は確かに他の三人の神君に敵いませんが、この光耀大陸の秩序を守るには十分です。だというのに我が一族の地位を疑う理由がどこにあるというのでしょうか?

京醤肉糸:貴方の気持ちはよくわかるが、たった一人の口では諸人の非難には敵わない。まして、神物の力だけで造られた神君の力は、本物の神君には及ばない。

松の実酒:しかし間もなく式典の日です。今さらどこに他の神物を探しに行くのですか?

京醤肉糸:そう……神物は確かに珍しいもの――しかし他にも神物の在り処を気にしている者もいる。彼は最近とてもマメだと聞く。

松の実酒:彼の力を……借りると?ひょっとして彼から情報を求めるのですか?

京醤肉糸:慌てるな、さあ水を飲め。彼に情報を求めることはない。あの男は主体的にこちらに来るのだから。

松の実酒:あなたは……なぜこんなに肯定的なのですか?

京醤肉糸:彼は神物で私と交換するからだ。

松の実酒:交換?

京醤肉糸:今回の式典の指揮権を。

松の実酒:貴方は……もう決めたようですね。でも本当に安心できますか?

京醤肉糸:今の彼には自分の身分と地位を越えた、出過ぎたマネをするつもりはない。こちらの利益と一致するなら、利用しない理由はないだろう。

松の実酒:……なるほど……ではさっきはどうしてあんな顔を見せたのですか?

京醤肉糸:あれは――先日から注目していた絵師が、外で出歩いているためなかなか新しい絵巻を出さないから。おや……まさか式典の件で悩んでいると思っていたのか?

松の実酒:……やはり貴方には聞かない方がいいですね。


企み

本当の目的は……

南離印館

奥の間

 一人の侍従は急いである部屋の前に来た。周りに確実に誰もいない事を確認すると、中に入った。

明四喜:そんなに緊張する必要はない、まるで泥棒のようですよ。

 急に聞こえた声は彼の耳元に入った。目の前の明四喜は悠然としていた。

青年:明四喜様、羊方蔵魚さんから新しい情報が来ました......しかし羊方蔵魚さんは急用がありましたので......私に伝言を頼まれました。

明四喜:恐らくまたどこかで偽の絵を売りさばこうとしているのだろう。

青年:明四喜様、羊方蔵魚さんの情報で場所はほぼ秋山の山荘であると確定しました。

青年:噂によるとあの山荘はある億万長者のもので、中に様々な高価な品があるそうです。羊方蔵魚さんは偶然にも中の絵を手に入れて、潜んでいる朱雀様の気配に気づいたようです。

青年:羊方蔵魚さんは「自分は明四喜様から色々なことを勉強したのだからこの判断に絶対間違いない」と言っていました。ご覧ください、羊方蔵魚さんは既に地図に印を付けました。山荘内部の地図はまだ貰っていませんが、手に入れ次第羊方蔵魚さん自らお届けするとの事です。

明四喜:秋山……

 明四喜は地図を広げると、興味深く観察し始めた。

明四喜:良い情報だ。

青年:明四喜様の期待を裏切らなくて何よりです!他の用事がありませんなら……私はお先

に失礼し……

明四喜:待ちなさいーー

明四喜:この情報を館長たちに知らせなさい。

青年:え......?明四喜様それはどう.......

明四喜:露骨に言うのはダメですよ、良いですね?

青年:は.......はい!......わかりました。


地図

あそこに行く……

南離印館

書斎

 羊方蔵魚はゆっくりと書斎に入った。だが中の人を見ると、彼は思わず足を止めた。

明四喜:機嫌良さそうですね。

羊方蔵魚:あら、明四喜様ではないですか。今日はお早いですね......お待たせしてしまって申し訳ございません、お詫びとして私は先に一杯飲みますよ。あははは......

明四喜:最近、貴方の商売はなかなか上手く行っているようですね。

羊方蔵魚:あらあら~明四喜様に比べたら大したことありませんよ!

 明四喜はお茶を飲みながら、のんびりしている様子を見せている。羊方蔵魚は少 し考え込んでから、口を開いた。

羊方蔵魚:あの、地図のことは全て済みました、全く問題なしと保証します!

 羊方蔵魚は山荘内部の地図を広げた。

明四喜:この地下の陵墓.......

羊方蔵魚:はい、そちらの反応がとても強いです。だから朱雀の神物はここにある可能性が高いと思います。

羊方蔵魚:でも明四喜様も知ってるでしょう、私は肝が小さい故、中に入りませんでした、そのため中の情報は......

明四喜:構いません。

羊方蔵魚:流石旦那ぁお優しい!

明四喜:他の者が入りますから。

羊方蔵魚:え?どういう意味です?まさかこの羊方蔵魚より先に情報を手に入れられる人がいたのですか?一体何者です?

明四喜:それは君と関係ないことだ。

羊方蔵魚:あら、余計なことを言ってしまったようですね。では他に用事がないなら私は先に失礼します......さよなら!


任務

ンシェズの任務

南離印館

書斎

 ヤンシェズは書斎の門を開けた。背の高い男が窓口の隣に立っている。

明四喜:来ましたか、ヤンシェズ

ヤンシェズ明四喜様。

明四喜:君に任せたい任務があります。

ヤンシェズ:はい。

明四喜:任務の内容を聞かないのですか?

 明四喜は少年の真面目な顔を見ながら、笑っていた。ヤンシェズが気づくと不自然に頭を下げた。

ヤンシェズ明四喜様の要求なら......どんなことでも受け入れる......

明四喜羊方蔵魚からの情報です。秋山と呼ばれる山に朱雀様の神物があると。

明四喜:しかしこの事は、恐らく京醬肉糸たちもすぐわかると思います。神物は不オよりも、今の彼にとっての方が重要です。

明四喜:だから彼は必ず自ら探しに行く。君も一緒に行って協力すればいいだけです。

ヤンシェズ:彼ら......協力する......?

明四喜:そう、彼らを助けて神物を探す事は、不才たち自身を助ける事に繫がります。

ヤンシェズ:わかった。

明四喜:心配しないでください。何も考えずついて行けば良いのです。

ヤンシェズ:はい。

明四喜:そうだ、この鏡を君にあげましょう。何かあったらこれで不才に連絡しなさい。

 明四喜は一枚の小さくて精致な鏡をヤンシェズに渡す。精巧で、手のひらの中に隠すのには十分な大きさだ。

 ヤンシェズはきちんと鏡を仕舞ってから、部屋から出た。


手がかり

貴重な情報

南離印館

書斎

青年:館長、羊方蔵魚を監視している者によると、彼はやはり秋山と呼ばれる山に神物の手がかりを見つけたようです。

京醤肉糸:その情報、明四喜は知っているか?

青年:はい......羊方蔵魚はもう副館長に報告しました。そして彼らは既に地図を用意しました。館長、必要ですか?

京醤肉糸:構わない、彼らの監視を続けてくれ。地図のことなら、私に考えがある。

青年:はい、かしこまりました。

 侍従が部屋から出ると、部屋の中でのんびりとお茶を飲む女性はやっと口を開いた。

片児麺:君の予想通り、彼らは本当に神物を探していた。でも......明四喜が神物の情報を君に教えると思っているのか?

京醤肉糸:それは彼が今回の式典においての権力をどのくらい求めているか次第だ。

片児麺:偽の情報を教えてきたらどうする?

京醤肉糸:貴方は私の手の中にあの玉佩のことを忘れたか?そして、彼もそこまで愚かなことをしないと思う。

片児麺松の実酒に教えてあげないのか?ーーでも彼の性格だと、きっと安心できないでしょうね。

京醤肉糸:だから、彼には余計なことを考えさせない方が良い。

片児麺:そして彼が君を非難することを待つの?そこまで自信あるの?権力を手に入れた明四喜が式典で何かするとは心配してない?

京醤肉糸:未だに探し出されていない神物がある。あの男が本当に「朱雀神君」の力が欲しいなら、現時点では手を出さないはず。そして今の彼には、あの力を奪う手段がない。

京醤肉糸:先祖たちの力がそんな簡単に制御できるものなら、彼ら自身の顔に泥を塗る事になるだろう。

片児麺:君の考えが正しいことを願うよ。

京醤肉糸:なんだ、まだ私のことを信じていないのか?悲しいなあ......

片児麺:早く黙ってくれれば、君を追い出さない方向性で考えよう。

京醤肉糸:ここは私の書斎なのに。

片児麺:......

京醤肉糸:その茶碗は高い物だから投げないでくれ。


盗み聞き

そのことについての情報が入った。

南離印館

裏庭

 蟹釀橙は彫花蜜煎を裏庭に連れてきた。石の机に翼鳥の形をした木製の機関が置かれている。

彫花蜜煎:蟹釀橙またおかしなのを作ったの?

蟹醸橙:ふふ~当ててみなよ~

彫花蜜煎:だの機関鳥じゃないか。

蟹醸橙:これは普通の機関鳥じゃない!荷物を運べるよ!

 蟹釀橙はボタンを持ち出すと、彫花蜜煎に説明する。

蟹醸橙:ほら、彼は荷物を背負ったりできる。他には荷物を彼の足に結び付けられる。そしてこのボタンを押すと、空中に移動して、荷物を運搬できる!凄いでしょ~

 彫花蜜煎は腰に手を当てて、ぎこちなく空中を動き回る機関鳥を見ていた。木の部品からは「ギシギシ」と音がしていた。

彫花蜜煎:......彼はきっとお腹いっぱい食べれてない。

蟹醸橙:そんなことを言うな!あ......あれいなくなった?!

彫花蜜煎:......だからご飯を食べていなかったからでしよ。

蟹醸橙:す、少し改良したら絶対飛べる!でも一体どこに落ちたんだ......

彫花蜜煎:あの方向......館長の書斎の方みたい......

南離印館

書斎の外

 窓辺に緑を茂らせた低い茂みの中で、翼を折れ、爪をぴくぴくと動かす機関鳥が倒れていた。そして二つの影がこっそりと近づき、部屋の中の対話を聞いていた。

蟹醸橙:?......館長たち全員中にいるのか......

彫花蜜煎:盗み聞きはよくないよ!

蟹醸橙:盗み聞きじゃない!ん?......あれは明四......

彫花蜜煎:シー!

蟹醸橙:なんだ、君も館長たちの会話の内容を知りたいんじゃないか......

彫花蜜煎:叱られたくなかったら声小さくして!

蟹醸橙:......おお......

蟹醸橙:何を喋ってるんだ......朱雀様の神物......朱雀様の神物?!!

彫花蜜煎:シー!声が大きすぎ!

蟹醸橙:館長たちは朱雀様の神物を見つけた?!......おおおお、でもその後の話までははっきり聞こえない!

彫花蜜煎:落ち付け!おい、うちを押しつぶすな!!

 ガチツ。

 ギシギシーーギシギシーー

 二人が押したり突いたりしている間に、蟹釀橙のポケットの中のボタンが押された。そして機関鳥は激しくもがいて、飛び起きたが、しばらくしてまた落ちた。

彫花蜜煎:......

蟹醸橙:......

 二人の息が止まった。しばしの沈黙の後、京醬肉糸の声が響いた。

京醤肉糸:二人とも、出てきなさい。


子ども

普通ではない子ども

聖教

拠点

 瑠璃色の瓶の中で、濁った液が絶えず流れていて、瓶の束縛を突き破るようです。細い手が瓶をなで続けている。

チキンスープ:間もなく結果が出る、もうしばらく待て......

黒服の人:せ、聖女さま!新しい情報が来ました!

チキンスープ:言え。

黒服の人:あの体は、西の山の山荘の陵墓にあるそうです!そして子どもの姿だそうです......

チキンスープ:子ども?ふむふむそれはどうでもいい、聖主様に合うなら問題ない。

チキンスープ:その子どもが我々に臣服(しんぷく)する可能性は?

黒服の人:その子供は妙な鏡を持ち、見た目も普通の人間ではありません。試してみても差し支えないと考えます......

チキンスープ:よし、その者を完璧に連れて帰れ。

黒服の人:はい!今すぐ出発の準備をします。

チキンスープ:覚えておけ、失敗すれば、聖主様はそなたらをお許しにならない。

黒服の人:はい......!聖女様!


計画

聖女の目的

聖教

拠点

チキンスープ:先ほど話した場所は全て分かったか?

黒服のリーダー:はい!西の秋山の山荘の地下陵墓でございます!

 黒服のリーダーは聖女の顔を見ると、汗がいっぱい出た。

チキンスープ:任務は?

黒服のリーダー:はい!目標を確保して、連れて帰ります。す、全ては聖主様降臨のため!

チキンスープ:そうだ、全ては聖主様のためだ......

チキンスープ:どんな手段を使ってでも、そ奴を連れて帰る。どんな手段を使っても良い。

黒服のリーダー:はい!

チキンスープ:聖主様......慌てないで下さい......その日はもうすぐです......

チキンスープ:間もなく......間もなくできる......ふふ......間もなく......

 妖しげな笑い声を聞いて、黒服のリーダーは思わず頭を低くした。しかし見なくても想像できた、聖女の目に溢れた狂気と執着を。


神君の継承者

高位の人にあるべき覚悟

南離印館

広間

 上品な堂内に、華麗な男が座っている。目の前で優しい笑顔を浮かべている者の話を真剣に聞き、時々うなずいている。

 窓際に立つ京醬肉糸は自分の扇を使って、後任の南翎と明四喜を見ると気が散って放心した。意識が戻った時には、明四喜はもう彼の前まで歩いてきていた。

明四喜:館長も南翎を見に来たのですよね。

京醤肉糸:ああ。暫くの間、彼の面倒は貴方にお願いする。

明四喜:これは不才の責任です。でも南翎は良い子、十分な覚悟と能力を身につけています。

京醤肉糸:そうか、私は神君を継承するのは良い事ではないと思う。

明四喜:自由な館長なら、考え方が他の者と異なるのは当たり前です。しかしさっきの言葉やはり他の人にそんな事は言わない方がいいと思います。

京醤肉糸:他意はない。ただこの子が可哀そうだと思っただけだ。

明四喜:不才も同じ気持ちです。凡人の体で神君の力を受け継ぐのは、やはり意志が必要です。

明四喜:しかしそうする理由、館長ならきっとわかりますよね。

京醤肉糸:それは当然。

明四喜:それで良いのです、不才があの子と何を喋ったのかを知りたくないですか?

京醤肉糸:貴方達の会話に干渉する権力はありません。

明四喜:ただ彼にこう言っただけです。「継承者に選ばたからには、力を背負うと同時に、ある程度の代価が必要です」と-彼がひるまない事を願います。

明四喜:不才はまだ他の用事があるので、お先に失礼します。館長。

 明四喜の敬虔な語り口から微かに不明な笑みを感じた京醬肉糸はそっと手の中で扇子をたたいて、目を細くした。

 次の一秒後、部屋の中でじっと座っている男を振り返ると、彼はまたため息をついた。

Ⅱ楓林

遊び

二人はまだ子どもだ

秋山

楓林

 あちこち死んでしまった毒虫だらけ。彫花蜜煎は、まだ驚きから平静を取り戻していない蟹釀橙を見る。彼女は急に遊び心が強くなり、地面の枝を拾うと、毒虫の死体を突いた。

 蟹釀橙の息が止まった。彼はその枝をじろじろ見ている。彼の心臓も彫花蜜煎に突かれているようだ。

彫花蜜煎:蟹釀橙~これを見て。

蟹醸橙:な、何を......?

彫花蜜煎:よく見ると、この虫そんな恐ろしくないよ。なんでさっきあなたはそんな大きな声で叫んだの?

蟹醸橙:......ぼ、僕は全然怖くなかったのに!

彫花蜜煎:じゃあさっきなんで地面に座りこんだの~?

蟹醸橙:えっと、えっと......木の根につまずいて転んだ......そう!木の根につまずいて転んだ!

彫花蜜煎:本当にそうなの~?

 彫花蜜煎は笑って一匹の虫を拾う。その虫は完全に死んでいないので、足がまだ動いている。蟹釀橙はびっくりして後退する。

彫花蜜煎:ほら!近くで見れば可愛いよ!

蟹醸橙:こ、こここっちに来るな!!!

 蟹釀橙の赤い顔を見ると、彫花蜜煎はやっと虫を捨てた。そしてしかめっ顔で拍手した。

彫花蜜煎:わかったわかった、いじめるのはここまで。どう、怪我してない?

蟹醸橙:た、ただの虫なら僕を傷つけるのは不可能でしょ。もしまた現れたら、僕は「シュー」「シュー」と全員片付けてやる......え!話まだ終わってない、待って!

 彫花蜜煎は蟹釀橙が怪我をしていないことを確認すると、彼の言葉を無視し前方の三人のところに向かった。

 蟹醸橙は上向くと、頭上に黒い霧が浮かんでいるのを見た。心の底が震えたった。

蟹醸橙:は、速すぎ......僕を待って-!

彫花蜜煎:早くついて来て、迷子になったらうちも何もできないよ~


親しみ

情熱は氷を溶かす、でも強すぎる情熱は……

秋山

楓林

蟹醸橙ヤンシェズ、さっきは本当にありがとう!!君がいなければ、僕はもっとひどい目に合ってた!

蟹醸橙:本当に虫が怖かったんじゃない。ただすぐに反応できなかったんだ。僕を信じてよ!

彫花蜜煎ヤンシェズは信じないとは言ってないのに......

蟹醸橙:......安心して。もし僕の協力が必要なら、絶対力を借してあげる!

ヤンシェズ:......

 ヤンシェズにとって熱情的な蟹釀橙は苦手な相手。彼はいつものように冷たい顔を見せる事しかできない。

 そして興奮しすぎた蟹釀橙は手を伸ばして、ヤンシェズを抱きしめようとする......

蟹醸橙:ええ!ーーどうして逃げるんだよ!

彫花蜜煎:あはは......彼をびっくりさせたから逃げられたのよ。

蟹醸橙:いいや、彼はきっと照れ屋さんだから!

彫花蜜煎:いいえ、あなたは何か勘違いしていると思うぞ......

蟹醸橙:......そうなの?!

 蟹釀橙は首をかしげ、ヤンシェズの後ろ姿を見ると、明るい笑顔でついて進む。

蟹醸橙:へへ!ヤンシェズ、僕を待ってーー!

松の実酒:二人とも......

 松の実酒は何かを言おうとしたが、京醬肉糸の扇に阻まれた。

京醤肉糸:構わない。

松の実酒:しかし......

京醤肉糸:せっかくのお出かけなのだから、好きにさせよう。


黒い霧の中で走る黒服人

秋山

楓林

黒服の人:ここ......そう、ここだ!

 濃い霧に囲まれた楓林の外で、数十人の黒服の人たちが困った顔で徘徊している。

黒服の人:だ、旦那、この森は怪しすぎると思います......本当に入るんですか?

黒服の人:そう......ほらあそこで、変な影が俺たちを見ている。

 他の人達は指された方向を向いたが、風で歪んだ木以外何も見えない。

黒服のリーダー:余計な心配をするな。今回の任務は極めて重要なもの、ちゃんと勇気を出せ!

黒服のリーダー:お前、お前、そしてお前も、別々に三人のチームを作って先に前の様子を見に行け!あまり遠く離れないように注意しろ!そして他の者も列を離れるな!

黒服のリーダー:列の外側の者は周りの状況を警戒する、何かあったら早く報告しろ!わかったか!

 同時に返事をした黒服達は自分の恐怖心を抑え込んでゆっくりと薄気味悪い楓林に入った。周りから急に冷たい風が吹いてきた。

 ううーーうううーーー

黒服の人:旦那、本当に大丈夫かな......

黒服のリーダー:振り向くな!前に進め!

 どれくらい歩いたかわからない。この果てない闇と怖ろしい声に刺激された人達はもう限界に至っていた。

黒服の人:旦那、俺らずっともとの所でうろうろしていると思います......ここ、二回通った所です。

 地面に散らばっている足取りを見て、リーダーも森にからかわれていることに気づいた。彼は怒った。だが突然の異変がやってきた事で、すべての人が沈黙した。

黒服の人:旦那......霧が、消えました......

 楓林を覆っていた怪しげな黒い霧が、なぜか次第に消えた。赤い紅葉がだんだん黒服達の前に現れてきた。そのため黒服達の恐怖はさらに増した。

黒服の人:旦那、こんな怪しいこと、これは罠ではないですか?

黒服のリーダー:もうここまでたどり着いたのだ、罠でも前に進まなければならない!

黒服の人:は、はい-!!!


いたずら

幼稚ないたずら

秋山

楓林

 寂寥として誰もいない道、果てしなく広がる漆黒、悲鳴のような風、全てがこの黒い霧で覆われた森に立ち込めている。

蟹醸橙彫花蜜煎......あとどのくらい歩くんだ......

彫花蜜煎:知らない、館長について行けばいい。

 急に、冷たい霧が蟹釀橙の首を撫でた。彼は思わず縮んだ。蟹釀橙は狐疑の目で周りを見渡すと、低い声で尋ねた。

蟹醸橙:あのさ......誰か僕たちをつけているんじゃない?......

彫花蜜煎:そうかもしれない。もし本当に鬼だったら......あなたの後ろにいる!!!

蟹醸橙:うわーーーー!

彫花蜜煎:あはははは!!!また怖がったわね!

蟹醸橙:ち、違うよ。鬼を怖がるなんて有り得ないよ!それに......ここには沢山人がいる。鬼でも近寄りたがらないよ!

 彫花蜜煎は震えている蟹釀橙を見ながら何かを考えている。目は細めている。

 彼女は蟹釀橙の不注意につけこんで、自分のカバンから一枚の白い布を持ち出した。そして木の影と黒い霧の闇を借りて蟹釀橙の前に来た。

???:せや!!!

蟹醸橙:うわわわーー!!鬼、鬼だーー!!

 白い鬼は音もなく蟹釀橙とヤンシェズの前にきた。蟹釀橙は思わず大きな声で叫んだ。

ヤンシェズ:......

彫花蜜煎:あははははは!!

 蟹釀橙の反応を見ると、彫花蜜煎は白い布を解いて腹を抱えて笑った。ヤンシェズはこの茶番を見て仕方のない気持ちになった。だが他の人から見ると、彼は相変わらず冷たい顔を見せている。

 偶然この一幕を見た松の実酒も思わず首を横に振る。

松の実酒:やれやれ......


奇聞怪談

子どもを怖がらせる館長

秋山

楓林

京醤肉糸:ここは少しうさんくさい、気をつけた方が良い。

松の実酒:何か見つけましたか?

 松の実酒はちらりと京醬肉糸を見た。彼の相変わらず落ち着いた表情はいつも松の実酒を安心させる。

蟹醸橙:館長!!!ひそひそ何を喋ってるの?僕たちにも教えてよ!

彫花蜜煎:館長は重要なことを相談しているんだから邪魔しないの!!

松の実酒:私たちは遊びに来ている訳ではありませんよ。

京醤肉糸:怪談の話をしているんだ。

 想定外の答えを聞いたようで、松の実酒は思わず眉をひそめた。彼には京醬肉糸の考えがわからない。

蟹醸橙:怪談の話?面白そう、僕にも聞かせて!

彫花蜜煎:うちは知ってるよ~その怪談。中には鬼が怖いという人がいる。普通の人には見えないものが見える。普通の人には聞こえない音が聞こえる。

 彫花蜜煎の話がまだ終わらないうちに、風の音は悲鸣をあげたり、泣いたり、笑ったり様々な音に変わる......極めて怪しい。

蟹醸橙:な、なな何か変な声が聞こえた?!

彫花蜜煎:ええ?ーー何も聞こえないよ、気のせいじゃない?

松の実酒:......

蟹醸橙:いいや!絶対何かいる!

蟹醸橙:ほ......本当に?

 蟹釀橙は慌てて尋ねる。その時、何本かの枯れ枝がすさまじい勢いで落ちてきた。まるで細長い爪のように。蟹釀橙の顔はすぐ真っ青になった。そして彼は来た道へ走り去った。

彫花蜜煎:ほ、本当に逃げた???

ヤンシェズ:......


黒い影

林で徘徊する怪しい黒影?

秋山

楓林

ヤンシェズ:(どこにいるかな......)

 京醬肉糸のお願いで仕方なく、ヤンシェズもー緒に蟹釀橙を探しに行った。

彫花蜜煎:蟹釀橙!危ないから早く戻ってきて!も、もうさっきみたいなことしないって約束するから!

彫花蜜煎:蟹ー釀ー橙ー!!!

 彫花蜜煎の声が森中に木霊している。もう一方、ヤンシェズは自分の方法で蟹釀橙を探す。彼は地面の足跡で蟹釀橙の逃走経路を推測する。

蟹醸橙:うわやっと見つけた!この森怖すぎる。君がいなければ僕は出かけられないかもしれない。

ヤンシェズ:(足跡......ここか......)

 ヤンシェズはしっぽで虫を片付けながら、蟹釀橙を探す。

 しばらくして、彼の足が止まった。目の前に広い空地がある。そしてサイズが違う、様々な足跡が重なっていた。

ヤンシェズ:(あの人のじゃない......)

ヤンシェズ:(僕たち以外......また別の人がいる......)

蟹醸橙:ヤン、ヤンシェズ?!ヤンシェズかい!僕はここに、ここにいるんだ!

 馴染みのある声がヤンシェズの注意を引いた。一人が黒い霧から出て救世主に会ったようにヤンシェズの胸に飛び込んだ。

蟹醸橙:ねえ知ってる?さっきあそこにたくさん黒い影がいた。そして僕がまばたきしたらまた居なくなった!

ヤンシェズ:......

 ヤンシェズは再び地面の足跡を見て、次に警戒心を持って周りの様子を見る。だが怪しい者を見つけられない。

ヤンシェズ(人がいない......?)

蟹醸橙:何を見てるの?びっくりさせないで!!!は、早く戻ろう!!!

ヤンシェズ:......うん。


怪我

泣けない子ども

秋山

楓林

 黒い霧が散った楓林は本来の姿に戻ったので、警戒していた一行の気持ちも良くなった。

 蟹釀橙も足取りがだんだん楽になった。周りを見渡すと、ヤンシェズの少しこわばった、良くない顔色に気づいた。

蟹醸橙ヤンシェズ、どうしたんだ?

ヤンシェズ:......大丈夫だ。

蟹醸橙:この紅葉をあげよう。これは僕が拾った中で最も綺麗な一枚。これを見れば、気持ちが良くなるかもしれない!

ヤンシェズ:要らない。

蟹醸橙:じゃあ、僕の変わりに一時的に保管しておいて、お願い!

ヤンシェズ:......

蟹醸橙:えっ......待って......君の手?!

 蟹釀橙の声が急に高くなった。疑惑の目でヤンシェズを見る。ヤンシェズの表情はさらに固くなった。

 しかし他の人はヤンシェズが後ろに手を隠す動きに気づき、手を捕まえた。

蟹醸橙ヤンシェズ、い、いつから怪我してたんだ??!!

京醤肉糸:私に見せてくれても良いか?

蟹醸橙:館長に見てもらおう!館長は何でもできるから!

 ヤンシェズは仕方なく、自分の手を前に伸ばした。彼の指は赤く腫れていた。腕のサイズも本来の二倍になっていた。指先にも小さな赤い点がある。

京醤肉糸:あの毒虫に刺されて腫れたか。

ヤンシェズ:うん......

蟹醸橙:あ......きっと僕を助けた時にあの虫に刺されたんだ!!なんで言ってくれないんだよ!ゴメン、全部僕のせいだ!!

ヤンシェズ:だだの虫だから......大丈夫。

京醤肉糸:の実酒と一緒に見たが、私たちにとってこの毒は致命的なものではない。そして貴方の体質ならすぐ回復できるはず。だだ暫くの間は少し辛いかもしれない。

ヤンシェズ:わかった......ありがとう......

蟹醸橙:本当?良かった!館長がそう言ってくれて僕も安心した!ヤンシェズ、痛くない?歩けない?背負ってやるから乗って......。おい怪我してるのにそんなに早く歩かないで!

彫花蜜煎:彼はただ刺されて腫れただけよ。足が折れた訳じゃないし、頭が悪くなった訳でもないよ。

蟹醸橙:......


幻境

誰の仕業だ?

秋山

楓林

彫花蜜煎:おい蟹釀橙ー!どこにいるの?

 彫花蜜煎は叫びながら蟹釀橙を探す。だが彼女は前に行くほど、周りが広々としているように感じられた。

彫花蜜煎:おかしいなあ......誰かいるの?......蟹釀橙?ヤンシェズ

 自分の声しか聞こえない。彼女は思わず生唾を飲みこんで足取りを緩め、暗い無人の林を眺める。

彫花蜜煎:館長?副館長?

 しかし彼女に返事するのは果てない静寂だ。自分の息まではっきり聞こえる。恐怖がますます背中から登って彼女の理性に食い込む。まるで数匹の蟻に噛まれているかのように、全身が痺れる。

彫花蜜煎:......

 黒い霧は風を通さない繭のように彼女を囲む。残されるのはただの闇、彼女は逃げようとするが、ーつの見えない手に掴まれたと感じる......

彫花蜜煎:助けて!あああ............

 次の一秒後、地面が陥没し始めた。彫花蜜煎はは自分の体がコントロールできずに下に落ちていると感じた。下は底知れぬ深淵である。

彫花蜜煎:あああーー!!!

蟹醸橙:雕花蜜煎!

 激しく揺れ動く中、誰かが彼女を引っ張ったようで、眩しい光が深淵を破った。彫花蜜煎はぱっと瞼を開くーー

蟹醸橙:ああ!痛い!!頭が痛い......何をしているんだ!

 荒い息をして、全身冷や汗をかいている彫花蜜煎は驚きの目つきで周りの様子を見る。そして自分が木の下で横になっている事に気づいた。前の蟹釀橙は額を押さえて何かを咳いている。遠くないところでヤンシェズが木に寄りかかっている。

彫花蜜煎:あなたたち......?

蟹醸橙:痛い......僕の頭がそこまで丈夫じゃなかったら......

彫花蜜煎:あなたたち、どうしてここに......

蟹醸橙:それはこっちのセリフだ。僕とヤンシェズがここに来た時、横になっている君に気づいた。どんなに声を掛けても起きなかった。正直言ってくれ、君は悪夢を見たのか?ーーでもこんな時に、ゆっくり寝てる余裕があるなんて、さすがだなあ!

彫花蜜煎:さっき......幻の世界に迷い込んでたみたい......それから崖から落ちた......

蟹醸橙:なに??幻の世界に迷い込んでた??どうして......

彫花蜜煎:この黒い霧のせいかもしれないい......さっき......この霧いっぱい吸い込んだから......

蟹醸橙:じゃあ、体は大丈夫?!

彫花蜜煎:大丈夫だよ、あなたたちのお陰で。そうだ、早くこのことを館長に教えなきゃ!


法陣の急所

この楓林は一筋縄ではいかない

秋山

楓林

 彫花蜜煎ヤンシェズは蟹釀橙を探しに行っている為、楓林は再び静かになった。

松の実酒:私たちは行かないのですか?

京醤肉糸:留守番が必要だ。そして人を探すならあの二人だけで十分だ。

松の実酒ヤンシェズは......

京醤肉糸:あの子はそんなことをしない。

松の実酒:まあ良いでしょう......次はどうするおつもりで?

松の実酒:この楓林は確かにおかしい。故にできる限り、無理やり突き進む事は避けたい。

京醤肉糸:この黒い霧も、理由なくここを囲むものではないはず。

松の実酒:つまり......ここには何かが隠されるという意味ですか......?

京醤肉糸:前方のあそこを見なさい。

 松の実酒は京醬肉糸に指される方向を見ると、視線が徐々に引き締まった。

松の実酒:どうしてあそこの霧はあんなに濃い......

京醤肉糸:私の予想が正しいなら、あそこは法陣の急所。

蟹醸橙:館長!戻って来たよ!

 遠い所から届いた声は二人の思考を中断させた。ヤンシェズ以外の二人は何かを言いたそうだ。

京醤肉糸:その様子、もう怖くないのですか?

蟹醸橙:館長、それはもう過去の話だから言わないで......

京醤肉糸:その顔、また何かあったのか?

彫花蜜煎:館長、あの黒い霧たくさん吸い込んだら、幻の世界に引き込まれる事に気づいたよ!

 彫花蜜煎は自分が幻の世界に落ちたことを京醬肉糸と松の実酒に言った。松の実酒は眉をひそめて厳粛な顔を見せる。京醬肉糸は扇子を振って何かを考えているようだ。

松の実酒:ここは未知の危険が多すぎる、もっと注意しなければなりません。特にお二人、もうむやみに暴走しないで欲しいです。

蟹醸橙

わ......わかったよお......

Ⅲ山荘

蘇生

彼が目覚めた

地下宮殿

某所

 無限の闇の中、時間の流れは果てしなく続いているようだ。

 一つの星は急に弱い光を放った。一つの小さな手がゆっくりとそれをつかんだ。そして、他の所から光が沢山集まるに伴い、一つの懐かしい力も注がれてきた。

 意識は虚無から戻ってきた。男の子みたい人は千年の夢から起きたように、ゆっくりと目を開ける。

妖鏡:ここは……ああ……痛い……

妖鏡:思い出した……あの野郎のせいで!!!あの変な服を着た野郎が僕をここに閉じ込めたんだ!

 周りの広い祭壇を見ると、妖鏡は怒りながら立ち上がって体を動かした。

妖鏡:どのぐらい寝てたんだ……朱雀様がどこにいるかもわからない……

妖鏡:ふん、あの野郎は独りよがりでこの法陣を作ったけど、今更力が弱まった。フン、そんな弱いもので僕を釘付けにできるつもり?

妖鏡:どこかに遊びに行くかな……

 妖鏡は腰を伸ばして、取り戻した自由を味わう。

 急に、遠くから異質な波動が彼の意識に入ってきた。

妖鏡:この気配は……人間か?ここにまだ人間がいる?

 何かを考えているかのように、鏡の妖の目玉がくるくると回り、ゆっくりと笑顔を見せた。

妖鏡:えへへ~人間は妖怪や鬼を一番怖がるらしい……だから……ヒヒヒヒヒ……

未知の要素

法陣に影響を与えたのは?

地府

法陣

 一人の青年は複雑な法陣の中に立っている。そして遠くないところから一つ小さな影が彼の方へ歩いて来る。

猫耳麺高麗人参様……

高麗人参:ここの法陣の力が弱くなりました、少しばかり修復した方が良いです。

高麗人参:諦聴、機関城に連絡して下さい。

猫耳麺:わかりました。

猫耳麺:でも……どうして急に力が弱くなったのでしょうか?……何か起きたのでしょうか……?

高麗人参:この世界の法陣は数え切れない程存在する。その中の原理、吾でも全て理解できる事ではありません。

高麗人参:しかし中の危険性は必ず城主様にお知らせしてください。

猫耳麺:かしこまりました!

 言い終わると青年はまたゆっくり目を閉じた。

分散

はぐれた

秋山

古い陵墓

 京醤肉糸は顔色を変えずに服についた埃を拭き取りながら周りの様子を観察する。

松の実酒:大丈夫ですか?

京醤肉糸:平気だ、貴方は?

松の実酒:私も大丈夫です。でもこれで本当に分散しました。

 巨大な岩が上の穴を完全に塞いでしまった。周りには六本の暗い路地がある。ある路地の先からは、岩が落ちてくるような重苦しい音が聞こえてくる。

松の実酒:あの子の状況もわからない。

京醤肉糸:こうなってしまったからには心を落ち着けて臨もうという奴だ。

松の実酒:ここは罠ばかりです。落ち着く事等できませんよ。

京醤肉糸:心配するな、あの子たちの腕を磨くチャンスとして扱おう。

松の実酒:そうですが、早く彼らを見つけなければなりません。

京醤肉糸:あらあら、親より気苦労が多いね。

松の実酒:……こんなにたくさんの通路がありますが、どれが出口ですか?

京醤肉糸:待て、何か来る。

 松の実酒がすぐ止まると。半身の構えで深淵のような道を鋭い目で見た。

 ほぼ同じ時、道から金属の衝突音が聞こえてきた。利器を持った十数人の青銅の兵士が群がって道から現れて二人を真ん中に囲んだ。

京醤肉糸:なるほど、墓を守る兵士だ。

松の実酒:青銅の兵士?なかなかの数ですね。

京醤肉糸:まあ、所詮勢いしかない者共だ。

松の実酒:でもあの子たちがこれにあったら大変な目に合うでしょう。

京醤肉糸:ではさっさと目の前の奴らを片付けよう。

松の実酒:ええ、ただ時間の問題です。

到着

神物はここだ!

秋山

古い陵墓

 京醤肉糸は玉佩の神物の在り処を示す反応に従い、霊廟の道のりをひたすら歩いている。

京醤肉糸:玉佩、また反応したようだ。

松の実酒:位置を確定しましたか?

京醤肉糸:反応が弱い、まだ距離が遠すぎるのかもしれない。

松の実酒:ここの環境は入り組んでいます。だから感応するのも容易ではないのでしょう。

 京醤肉糸の手に握られている玉佩は二人の移動に伴い淡い光を放っている。

京醤肉糸:私の判断が正しいなら、神物は大体この方向にある。

松の実酒:ではこちらに行きましょう、途中であの子たちに会いたい所です。

京醤肉糸:そうであって欲しい、行くぞ。

 道に踏み込むと、薄風が吹いて、通路の中にどれぐらいの酸味がたまっているかわからない臭気がした。そのせいで、二人は期せずして眉をひそめた。

京醤肉糸:待て……

松の実酒:また青銅の兵士ですか?

京醤肉糸:いや、この光を見てくれ。

松の実酒:安定したように見えます。そう考えると、私たちは神物に段々近づいているようですね。

 そう言って、京醤肉糸は急に何かを感じた。地下から奇妙な波動の反応があった。最初彼は自分の錯覚だと思った。

松の実酒:なぜ急に止まったのですか?

京醤肉糸:驚いたな。

松の実酒:何に気づいたのですか?

京醤肉糸:地下から妙な波動をこの玉佩から感じた。

松の実酒:つまり……

京醤肉糸:神物はここの真下にあるはず。

松の実酒:では早くあの子たちと合流しなければ。そして地下に通じる道を探さなければなりません。

確保

利欲をむさぼって後の危険を顧みない

秋山

地下宮殿

黒服の人:旦那、目標はこの陵墓にあると確定しました、やりますか?

 黒服の人は陰険で辛辣に話す。手刀で自分の首を切り付ける手振りをする。

黒服のリーダー:もう一回強調する、目標を傷つけるな!この命令に逆らう奴は絶対に許さない!分かるな?

黒服の人:わ、わかりました!!

黒服のリーダー:そして、あの銅鏡も壊してはいけない!

黒服の人:はい、全て分かりました旦那!

黒服のリーダー:必ず万全を確保しなければならない。各入り口で待ち伏せする準備はできたか?

黒服の人:旦那の指示により全て完了しました。必ず誰も逃げられません!

黒服のリーダー:今回の任務は極めて重要なことだ。何か意外なことが起こるのは見たくない。

黒服の人:ご安心ください、全ては順調です。旦那のご命令をお待ちしています……

黒服のリーダー:よし!任務開始!

黒服の人:はい!!

 色々な武器を持つ黒服達はすぐ中に突入した。男の子は多勢に無勢であちこち逃げ回る。しかし捕まえられるのも時間の問題。

???:君たち誰だ?なぜ僕を捕まえる!

???:こっち来るな、さもないと人を呼ぶよ!

黒服のリーダー:喉を壊す程叫ぼうが誰も助けに来ねえよ。

???:助けてーー!助けてーー!

 男の子がどうやって助けを求めても、黒服達は無慈悲に彼を追いかける。

 しばらくして、男の子は黒服達に捕まえられた。

黒服の人:旦那!目標の確保が成功した!

黒服のリーダー:よし!早くここから離れる。

 彼らは知らない、この洞窟の中で、火を見るような細長い目が、この一連のすべてを瞳に収めていた事を。

朱雀様

愚弟の自己修養

秋山

古い陵墓

妖鏡:ふん!朱雀様がいれば、あの人たちは絶対ここに来る勇気はなかった!

妖鏡:彼らが僕に近寄る前に、朱雀様がきっとボコボコにしてくれていた。

妖鏡:いいや……朱雀様がいれば、彼らは入ることもできない!

妖鏡:知ってる?朱雀様の喧嘩はすごかったよ。朱雀様より喧嘩が強い人は見たことがない!

蟹醸橙:君の言葉を聞いてたら、僕も朱雀様に会いたくなってきた!きっとカッコイ方だ!

妖鏡:もちろん、かつて朱雀様は一人の……見た目がおかしい人と喧嘩したことがある。朱雀様がこんな感じで手を振ると、あの人は遠くに投げられて、怪我して逃げた。

妖鏡:こんな風に「ヒュー」って、あの人はダメだ!

妖鏡:今考えても……ああ!朱雀様、やっぱりかっこ良すぎる!

妖鏡:そうだ!朱雀様は強い人と喧嘩したこともある!あれはどこの誰だかわからなかったけど、本当に強かったぞ。

妖鏡:でも君には想像できないだろう、こっちは朱雀様一人しかいない。向こうはこーんなに大勢だったのに、あの方はまた圧勝した!

 興奮する妖鏡は蟹醸橙たちに真似して見せた。

 久しぶりに人と話をしたせいか、妖鏡は朱雀に関する話を永遠と喋り続け、皆も静かに聞いていた。

妖鏡:本当にもう一度朱雀様に会いたいなあ……

蟹醸橙:ごめん、もうすぐ着くかな?朱雀様の尾羽が置かれた所に。

妖鏡:んんん――ちょっと考えさせて、もうちょっと歩くかな!

妖鏡:ふふ、あれはこの世で最も美しい宝物だ!よく見てね。

深淵

より深くに隠されている秘密……

秋山

古い陵墓

 妖鏡の救出が成功した後、京醤肉糸たちは妖鏡に付いていき、朱雀の神物が置かれたところに行く。途中で妖鏡の熱烈で高揚とした声が響いた。

妖鏡:朱雀様の羽根はちゃんと大切にしてね!

京醤肉糸:ありがとう、こんな重要なものを私たちに渡してくれて。

 この時、先程までずっと闇の中で彼らを付け回していた人は消えてしまった。

 しばらくして、かすかな足音が漆黒の向こう側の通り道から響き渡る……

明四喜:聖教ですか……まあ、今はそのときじゃないですね。

明四喜:あれに比べて、重要なものは何もない。

 明四喜は微笑みながら首を横に振って、気楽な調子で暗い道を踏み込んだ。

 彼は四喜鏡を持って、鏡の指示に従ってゆっくりと歩いている。

明四喜:妖鏡がここに閉じ込められているのは必ず別の理由がある。

明四喜:手がかりはこの辺にあるかもしれない。

 目の前の行く手は巨大な岩に阻まれている。だがこの男はそれでも笑みを崩さない。

明四喜:……墓穴が崩れ落ちるのは面倒ですね。

明四喜:そこまでする必要はないと思ったのに、まあいいでしょう。

 彼は四喜鏡を触ると、後ろの深淵に視線を移した。

収穫

情報過多

秋山

古い陵墓

 暗い道に急に未知の光が現れた。その光は道の汚い物を全て照らし出した。しばらくして、その光はまた消えてしまった。

明四喜:この反応、なかなかの収穫のようですね。

 滑らかな鏡の上に、奇妙な波紋が現れ、淡い光が集まって、鏡の上にぼんやりとした影が見えてきた。

明四喜:(妖鏡はやはり彼にここで封印されていた。)

明四喜:(普通の人間が死物に出会ったら、恐らく命が持たない。)

明四喜:(こんなにも多くの堕神が封印されているとは、さすが彼だ。)

 鏡の上ではまだ画面が切り替わっている。

明四喜:ここの地形は思ったよりずっと簡単です。

 明四喜は鏡の変わり方を見ている。画面の流れの間に、数え切れない情報が相次いでいる。

 沢山の光が点滅している画面が瞬く間に鏡の上で消えてしまった。明四喜がその場に集中していなかったら、その大切な場面を見逃していたに違いない。

明四喜:やはり、これは光耀大陸の地図。

明四喜:そう見れば、この光は墓の位置。

 こんな重要な情報を得ても、明四喜の顔はまたいつも通りの様子だ。全ては彼の予想通りだったようだ。

運命

妖鏡の運命

秋山

古い陵墓

 朱雀の尾羽が放つ輝きは墓の中にも流れている。松の実酒は匣子を閉じると、用心深く匣を収めた。蟹醸橙はまた名残りを惜しんでいる。

彫花蜜煎:もうしまわれちゃったんだからそんな目を見せないで。

蟹醸橙:きれいすぎるからさ――

彫花蜜煎:よだれをふいて。出るよ。

妖鏡:朱雀様の物なんだから、最も良い物に決まっている!

 妖鏡はそう言うと、自分の鏡を持ち出して自慢しようとしたが、鏡が半分割れていることに気づいて、落ち込んだ。

 妖鏡は見せびらかすのを諦めた時、急に呆気にとられた――自分の手が透明になっている。自分の注意がずっと朱雀の羽根に集中していたせいで気づかなかった。

妖鏡:(僕の手……いや……僕の力は……)

 今さらやっと気づいた、自分の力が法陣と一緒に時間とともに失われて行く……

妖鏡:(……やっぱり……時間は残りわずかだな……起きたのに……また朱雀様に会えないのか……)

彫花蜜煎:鏡ちゃん、どうしたの?そろそろ行くよ。

 彫花蜜煎の言葉を聞くと、彼の意識は戻った。

妖鏡:え?おおお!……何でもない。行くよ!

 言葉では言い表せないような感覚が妖鏡の心の中に湧き上がってきた。これからどうすればいいのかわからない。だが彼は頭を上げて前方で自分を待っている京醤肉糸達を見て、無意識に両手を袖の下に隠した。

四亭廊

逃げ惑う

悪い反対勢力よりバカな反対勢力が怖い

秋山

地下宮殿

 乱れた足取りに起こされた埃の中を、あわただしい黒衣達が息を切らして走っていた。誰かが誰かに足を踏まれたので、彼らは一人ずつ地面に落ちて、雪だるまを転がすように倒れた。

黒服のリーダー:誰が俺様の足を踏んだんだ!!逃げることすらできない!ここはどこだ?!

黒服の人:だ、旦那、ここは暗すぎて何も見えない。俺たちも分からない……

黒服のリーダー:見えないなら手で触れ!

黒服の人:はい……お前たち早く触りに行け!

 リーダーの指示に従って、他の人達は暗い奥の地下宮殿を模索し始めた。

黒服の人:うわここは人がいる!

黒服のリーダー:あれは青銅の兵士だ!

黒服の人:道が多すぎる……旦那、え、選んでくれません?

 重要な分かれ道に面して、リーダーは躊躇なく真ん中の道を選んだ。そして全員が選ばれた道に踏み込んだ。

 長い、静かな小道の果ては広い部屋だった。トーテムが彫られた柱、整然とした彫像。地上の祭壇とほとんど変わらない。

黒服のリーダー:もう一つの祭壇???

黒服の人:旦那旦那、この彫像の目玉動いてますよ!!!

黒服のリーダー:馬鹿者!!!触るな!!!

黒服の人:あああ――!!かか体も動き始めた!!!

黒服の人:ほほ他の彫像も動いた!!

黒服のリーダー:早く逃げろ!!!

 何かの仕掛けが触発されたようだ。石壁が振動し始め、大小の砕石がボロボロと割れ、地面が揺れて四方に広がった。

 黒服達は先を争って外に逃げる。その時、どこからか獣の叫びが響いた。彼らはひとしきり鳥肌が立った。

対岸の火事

上位者の余裕

秋山

古い陵墓

 微細に密集した光の点がまだ光耀大陸の地図に点滅している。明四喜は神力を集中して一つ一つの箇所をチェックしている。急に彼は気づいた、ある一箇所の光がとても明るく、周りの光の中に隠れていることを。

明四喜:ここは……

 明四喜はもう少し見続けようとした時、画面は急に不安定になってきた。少し明滅すると消えてしまった。

 次の一秒後、地面が震えてきた。砕石が上から落ちて地面に当たって、落石音が響いた。

明四喜:誰かが法陣の急所に何かをしたみたいですね……

 大地は絶えず揺れ始めた。落石は怒号を上げた。高く舞い上がったほこりが道の中で舞う。しかしどんなに大きな石も明四喜に近づく事ができない。

 彼は相変わらず穏やかな姿勢で、ゆっくりとこの崩れかかっている道から消えた。

 戻った明四喜は袖を払う。遠くでジワジワと鳴る音が彼の注意を引いた。

黒服のリーダー:馬鹿者!なぜあの機関に触ったんだ!俺たちを生き埋めにするつもりか??!!死ね!!

黒服の人:すみません、本当にわざとじゃないから……

黒服のリーダー:死ねよ!

黒服の人:本当にすみません――!!!殴らないで!!

明四喜:なるほど、この者達のせいか。

 黒い影が遠い所へ走って行く。周りの振動はまだ続いているが、明四喜は茶番劇を鑑賞するように、気持ち良く眉を上げて、彼らを見ている。

援軍

間に合った!

秋山

山道

 辣子鶏たちは石道を歩いている。前方には寂しく荒れ果てた山荘がある。

マオシュエワン:……目的地はこんな幽霊屋敷みたいな場所か?城主様、間違いないのか???

辣子鶏:他の人はお前程頭を使わない奴ばかりじゃない。

冰粉:城主様、気を付けてください。あの建物は……確かに怪しいです。

マオシュエワン:ん?普通の山じゃない?

 ごろごろ――――

 がたがた――――

マオシュエワン:地面が動いた???!!!

モフモフ鳥:ううう……何事だ?五月蠅すぎる――俺様の眠りを邪魔するのは誰だ?!うう!堕神の匂い!臭すぎる!!

辣子鶏:……堕神の気配?

冰粉:…………やはり地府からの情報は間違いない。

マオシュエワン:じゃあ早く行こうぜ!

冰粉:ええ、他の人を巻き込まないようにしてください。

 ドンドンドン――バン――!!!

マオシュエワン:この坂のせいで、命中率が低い!!

辣子鶏:クソマオ・シュエ・ワン、お前の雷火弾で山を爆発させるな!!!!!!!

埋葬

さよなら……

地下宮殿

祭壇

蟹醸橙:うっうっ鏡ちゃん本当に消えた……

 広い祭壇に蟹醸橙の泣き声が響いている。他の人は全員沈黙に落ちた。彫花蜜煎も何も言えず、地面に残された瑠璃色の鏡の欠片を拾い集める。

彫花蜜煎:一緒に彼を……埋葬しよう……

 鏡の欠片を握る彫花蜜煎の声はしわがれている。蟹醸橙は涙を拭いて鼻水を強く吸った。

蟹醸橙:うん……きれいな墓を作ろう……

 細心の注意を払って鏡の欠片を集めた。そして綺麗な場所を墓に選んだ。隣の京醤肉糸は彼らを見ると、思わずため息をついた。

彫花蜜煎:ここにしよう……

蟹醸橙:うん……掘るのは僕に任せて。

 蟹醸橙は足元の石で真面目に穴を掘り始めた。その時、一人の姿が静かに彼と一緒にしゃがみ、黙って穴を掘り始めた。

蟹醸橙ヤンシェズ……?

ヤンシェズ:こうすればすぐ終わる。

彫花蜜煎:ありがとうヤンシェズ……

 しばらくして、祭壇の隣に一つの小さな墓が完成した。京醤肉糸は一輪の白い花を墓の前に捧げると、蟹醸橙彫花蜜煎の頭を撫でた。

京醤肉糸:鏡ちゃんもこんな悲しい顔の貴方達を見たくないだろう。

彫花蜜煎:うん……

蟹醸橙:わかってる……

渡りに船

逆手にとる

南離印館

書斎

松の実酒:本当に式典のことを明四喜に頼むのですか?もう神物を手に入れたのだから、そんなご自分に不利益なことをする必要はありません。

京醤肉糸:情報を受け取ったのだ、礼をするのは当然だ。

松の実酒:今回、彼一人の力で成功したことではないでしょうに。

松の実酒:あの男に任せたら、危険な事が生じるかもしれません。

京醤肉糸:彼が式典の開催を妨害するのではないかと心配しているだけだろう。

京醤肉糸:うん、でも確かに、彼ならきっと何かするだろう――

松の実酒:?!

京醤肉糸:しかし、こうしなければ、彼が欲しいものが何かを知ることはできない。

松の実酒:この式典に乗じて……彼の目的を探るという意味ですか?

京醤肉糸:言うは易く、行うは難し、だな。

松の実酒:彼の考えを探るのは確かに易しいことではありません……

京醤肉糸:しかし、彼は自分に自信の無いことはしないと私は信じている。

京醤肉糸:今回の式典は盛大故、外国からの来賓も来る。全て権力を彼に譲ったら――良い茶番が見れるかもしれない。

松の実酒:……待って下さい……

松の実酒:もしかして貴方は……式典の煩雑な事をしたくないから、この機会に乗じて逃げているだけでは?!

京醤肉糸:――今さら気づいたか~

松の実酒:…………

京醤肉糸:おやぁ、怒りは肝臓に良くないぞ。

修復

修復作業

地下宮殿

祭壇

 京醤肉糸たちが去った後、辣子鶏はもう廃墟になった祭壇を見つめて、目を伏せた。

辣子鶏:誰だ?早く出てこい。

猫耳麺:じょ、城主様、私です。

冰粉:猫耳ちゃん、どうしてここに来たのですか?

辣子鶏:また高麗人参の指示だろう。アイツ他の人に指示を与えるばかりで何もしない。猫耳ちゃんよ、機関城に引っ越して来ないか?毎日飴をやるよ!

冰粉:城主様、飴を沢山食べたら体に悪いです、あまり食べないでください。

猫耳麺:人参様は私をこき使っていません。私は、私は自ら人参様のために言伝に参りました!

猫耳麺:あの……人参様も毎日たくさん飴を食べるのはダメだと言っていたことがあります。でもご好意ありがとうございます。

辣子鶏:ふん、年寄りじみた態度だ。まあいい、まずは仕事をしよう。

 光は祭壇を囲み、複雑な図になった。しばらくして、大きな法陣の全貌は諸人の前に現れた。ただしその光はあまりにも暗く弱弱しく、図も一部欠いていた。

 現場の全員は何も言わず、自分の力をこの不完全な法陣に注ぎ込む。

 霊力を得たお陰で、法陣はますます満ち溢れてきた。そして光はさっきより明るくなり、図の欠けた部分も還元された。

 絶えざる力は法陣に注ぎ込まれた。放たれた光は空を照らし出して虹が出た。ここで、全員はやっと手を降ろし、霊力を注ぎ込むのを止めた。

猫耳麺:ふぅ……皆さん、ありがとうございます!法陣の修復作業は成功しました。

辣子鶏:猫耳ちゃん、アイツにしばらく心配する必要はないと伝えておいてくれ。

猫耳麺:かしこまりました!

秘密

隠されていた情報は……

南離印館

蔵書閣

 明四喜がゆったりと並んでいる巨大な本棚を歩き、遂には一列の書棚の前で止まった。本棚の上には「史書」という二文字が彫られていた。

 彼は中の本を一冊一冊チェックする。そして最後に、視線はある箇所に止まった。

 夕陽が降り注ぐに至って、ようやく重厚な書物を閉じた。がっかりして顔をしかめた。

明四喜:あの王朝に関する記録が……少なすぎる……

明四喜:ふふ、面白い……

明四喜:もし私の推測が間違っていなかったら……

明四喜:ふふ……

 明四喜は本を元の場所に返した。そして急に何かを思い出した様子だった。

明四喜:忘れそうになりました。もう一人重要な客がいました。まだ正式に会っていませんでしたね。

明四喜:聖教……

 明四喜は声をひそめて言った。眉を広げた顔は、まるで別人のようにすっきりしていた。

追及

霧が晴れるまで……

南離印館

内室

 羊方蔵魚はなじみの部屋のドアを押し開けて、手をこすり合わせて、顔に光り輝く笑顔をほころばせている。

羊方蔵魚明四喜様、今日わざわざ俺を呼んでくれたのは、きっと何かご用があるんでしょう?

明四喜:良い笑顔ですね、また良い商売ができたのですか?

羊方蔵魚:あら、この羊方蔵魚にとって明四喜様が最も良い商売相手……、ああいいえ、明四喜様の言いつけが最も重要なことです!

明四喜:少しばかり、とある組織のことを調査して欲しいのです、報酬はいつも通り。

羊方蔵魚:はい!任せて下さい、毎日何を食べているかまで調査してみせましょう!しかし一体どんな組織のことを知りたいのですか?

明四喜:聖教。

羊方蔵魚:その名前……どこかで聞いたことがある、数日時間を頂ければ必ず任務を遂行します!

羊方蔵魚:でも……その聖教は良い組織じゃないらしいです、明四喜様も気を付けてください。

明四喜:彼らは次のお客様だ。

羊方蔵魚:なるほど、明四喜様がそう言うなら何も問題ないっすね。

明四喜:そして、次これから商売をする時は、あの隠された時代のものに気を付けてください。

羊方蔵魚:……あの時代……どうして……あのことを知ってるんですか……そ……それはあまり良いことじゃないですよ!

羊方蔵魚:……まあ良いです、明四喜様がこの価格を出せる限り、……いいえ、明四喜様が必要なものがあるならば、俺は必ず完遂して見せますぜ~へへ~

慰労

主従間の付き合い方

南離印館

内室

 紫の影はスッと屋上から飛び降りると中に入った。

ヤンシェズ明四喜様。

明四喜:帰りましたか?ご苦労様でした、ゆっくり休みなさい。

ヤンシェズ:申し訳ございません……あの法陣について、価値ある情報が手に入りませんでした。

ヤンシェズ:ただ……変な黒い服の人たちがいました……

明四喜:それはもうわかっていました、別に貴方のせいじゃない、もう十分頑張ってくれましたよ。

 明四喜は頭を下げるヤンシェズを見る。目つきは正確に何かを捉えていた。そして思わずため息を吐いてから、首を横に振る。

明四喜:ここで少し待ってなさい。

ヤンシェズ:はい。

 ヤンシェズ明四喜の話を聞くと、小さく見上げた。相手の指示に疑問はあったが、依然として静かにその場で待っている。

 明四喜は奥の屏風の後ろに行くと、また何本かの小さな薬瓶を持って後ろから出てきた。

明四喜:これを受け取りなさい、貴方の怪我に効く良い物ですから。

ヤンシェズ明四喜様……?

明四喜:何です?薬を塗って欲しいのですか?

明四喜:堕神と戦った時に、酷い怪我をしたでしょう。少し観察すればわかるものですよ。

 ヤンシェズは前方からの視線に気づいた。彼は少し恥ずかしそうに自分の体を見ると、また唇をきつくしめた。次の一秒後、明四喜の笑い声が聞こえた。手のひらに冷たい器の感触がした。

明四喜:だからゆっくり休んで下さい。

ヤンシェズ:ゴホ……ありがとうございます……




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