マドレーヌ・エピソード
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目次 (マドレーヌ・エピソード)
マドレーヌのエピソード
災いの源として見られ、全ての言動が誤解される女性。男性の本性を「理解」してからは、彼女は他人の見方を気にするのをやめ、自分の好きな事をして、自分を使ってさらに多くの物を得ようとした。皇族と知り合った後、彼女はすぐ社交界の花となり、全ての貴族に求愛されるようになった。自分の美貌を振りまき、わざと誘惑し、貴族たちの争いを引き起こし、権力争いまで発展させた事で魔女と呼ばれるようになった。
Ⅰ.安っぽい愛情
愛情なんて、一部の男にとっては女にプレゼントした物と同じ価値だと思われているでしょう。
傍にいる女は天真爛漫で幸せそうな笑顔を浮かべている。アクセサリーや洋服を見せびらかし、まるで男の「心からの愛情」を示す為の展示品にされているかのよう。
平和な時は、この様な女たちは間違いなく男たちにとっては最高の「贅沢品」である、だけれど緊急事態になると、彼女たちはすぐに「魔女」の刻印を捺されてしまう。
「あの女のせいだ!あの女が俺を誘惑したんだ!」
「あの女が無駄遣いしなければ!俺はあの女なんかを養うために賄賂を受け取ったりしない!」
「許してください!この魔女がいなければ、俺、俺は魔が差して貴方様から権力を奪おうとしたりしませんでした……見逃してください!」
見て、これがあの男たちがいつも口にしていた愛情だわ。
安っぽくて、嘘っぽい。
彼らに笑顔を見せるだけで、それは誘惑していると思われる。
素敵なアクセサリーや服を眺めているだけで、それは彼に他人の賄賂を受け入れてくれと誘導していると思われる。
人より美しい外見を持っているだけで、争いを引き起こす元凶と思われる。
哀しい。
だけどこれはつまり、この男達はこんなにも利用しやすい生き物だという事。
彼らに笑顔を見せるだけで、彼らを私の虜に出来る。
欲しいと視線を送るだけで、彼らに私が欲しい全てを贈って貰える。
私の姿が変わる事がなければ、簡単に彼らを争わせる事が出来る。
私に魔女の烙印を捺してくれたのなら、魔女がやるべき事をやっておかないと、自分に申し訳ないじゃない。
自分の手を伯爵の手に上に重ね、私は甘い笑顔を浮かべたままドレスの裾を持ち上げながら馬車を降りた。
「伯爵さまありがとうございます。ここまでで結構ですわ、後は自分で帰れます」
「マドレーヌ、これを見てくれ」
私は驚いた表情を装って、青い宝石のネックレスを受け取った。男が最も好む仕草だから、彼は得意げにネックレスと持ち上げて、私の首に付けた。
「しかし……高価すぎますわ……私は……」
「これしか君に相応しくない、付けておいてくれ」
わざとらしいやりとりの後、私は困ったような笑顔を浮かべながら彼を見送った。
馬車が離れていくのを見て、私は思わずため息をついて肩を落とした。白目を剥きたい気持ちを抑えて、裾を持ちながら邸宅へと戻った。
私は家の前で招かれざる客を見付けた。
――全身血だらけのイケメン。
素敵なプレゼントを受け取ったから、機嫌が良かった、だから彼を助けて家に連れ帰った。
決して彼の見た目があの貴族たちよりも好みに合っていたからじゃないわ。
私も絶対に認めない。彼の顔を見た時、心臓が一瞬強く脈打ったなんて。
彼の傷の治りはとても速かった。すぐに彼は人間とは違う、私と同じ食霊だとわかった。
Ⅱ.欲しい物を与える
あいつの意識はすぐに戻った。確かに、食霊は他の食霊の霊力補助を受けると、目覚めるのが早くなる。
勿論戻ったのは意識だけで、回復はしていない。
彼の傷は深すぎて、霊力が使える食霊がいなければ、簡単に回復する事は出来ない。
目覚めた時傷だらけだったのに、無理やり自分の武器を持ってふらふらと外に向かって歩いて行った。まるで私なんか眼中にないみたいに。
「ねぇ、苦労して助けてあげたのに、お礼ぐらい言ったらどうかしら?」
私はドアに寄り掛かりながら、彼がゆっくりと外に向かっているのを眺めた。包帯で巻いたばかりの傷口は動いた事によってまた開いたみたい。私は思わずため息をついた。
「そんなに弱っててどこに行くつもりかしら?堕神の餌になりに?」
睨んできた彼は少し怖かったけれど、私にはなんら影響は与えなかった。人間たちのヒステリックな表情を見慣れたからかしら、彼の表情はそこまで怖くはなかった。
彼は口を開く事なく、振り返ってまた外に向かって行こうとした。しかし、数歩歩いただけで私の庭に倒れてしまった。私がせっかく育てた花をたくさん潰しながら。
自分の怒りを抑えながら、長く息を吐いた。
彼を起こして、リビングのソファーの上に投げ捨てた。
私は少し息切れをしながら、痛みで起き上がれない凶悪な顔をしたあいつに指差しながら言った。
「あなたねぇ、わかって頂きたいわ!淑女に力仕事をさせるのはとっても酷い事よ!」
「……行かせろ」
「止めてないでしょう?!私の家の前で倒れなければ、好きな所に行ってちょうだい!」
「ッ、いっ――」
「痛みがわかるのならまだ良いわ。フンッ。せっかくの顔立ちが台無しだわ、どうしようもない性格ね」
相手が食霊だからか、同類として謎の親近感を覚えて彼の前では偽る事をやめた。
彼も少しずつ警戒心を解き始めた。
とにかく、あいつを一先ず私の邸宅に置く事にした。
雑談を通して、彼はラムチョップである事を知った。
しばらく付き合っていく内に、どうでも良い話題の他、こういう話もした……
うん……処世術とか。
少しずつ、私たちは友達のように親しくなっていった。
そう、友達。
彼は本当に気性が荒い、私は彼のような粗暴な奴を好まないわ。
しかも彼の心にはとても大切な人がいるみたい。
例え恋人であっても、仇であっても、私は自分の愛する人の心に私よりも大事な人がいる事を許せないわ!
まだ芽生えていないのに砕け散った愛情を供養するため、私はすぐ美しいアクセサリーや服を贈ってくれる貴族を数人探した。
こういう時、アクセサリーとドレスだけが私を慰められる。
「私はミュージカルを観に行くわ。後で迎えが来る、しっかり休んで頂戴」
「昨日もオペラに行ったじゃないか?」
「昨日は伯爵、今日は公爵だわ。彼は今日私にあの美しいピンクダイヤモンドを贈ってくださるはず」
「あんな石ころになんの意味があんだ」
「フンッ、ピンクダイヤモンドなのよ!」
私はドレスの裾を持ち上げながら宝石の良し悪しもわからない奴を無視して邸宅を離れた。微笑みを浮かべて、優しく魅力的な仮面を被り、公爵の手を掴んで馬車に乗り込んだ。
私の予想通り、夢にまで見ていたピンクダイヤモンドを手に入れる事が出来たわ。そして私の計画もそろそろ終盤を迎える時が来た。
女の涙は、男を煽る最高の武器。
幸せな笑顔の後、突然悲しい表情を浮かべ、適宜に涙を流すと、彼らは理性を失って私のためになんでもしてくれる。
時には、国家の内紛を引き起こす事だって簡単。
全ては順調に進んでいる。
冷たい目で私を幸せにしてくれると意気込んでいた男を見て、私は俯いた。
彼は私のため、そして自分のために「幸せな未来」を迎える事ができない計画を立てた。
やっぱり、彼らは誰も戦争を引き起こした責任を取りたがらなかった。全ての罪を相手に擦り付け、漁夫の利を得ようとした……
私が自分の偽りの笑顔の仮面を外して自分の邸宅に帰った時、そこには居る筈のない人がいた。
家から追い出された元公爵夫人は、床に倒れて私に向かって叫んだ。前までは綺麗に整えられていた髪の毛も今は乱れていて、目には隈が、そして平民のような質素な服を身に着け、靴もボロボロだった。
彼女は私の家に居候しているラムチョップによって縛られていた。
「これは何かしら?」
「彼女は玄関で卵やら菜っ葉を投げて、私に当てた。だから捕まえてやった」
彼はあくびを一つだけして、素っ気なく身体の向きを変えた。
「彼女を放してあげて」
「は?」
私は元公爵夫人の束縛を解いて、持っていた宝箱を開けた。中から出てきた煙は、まるで意思があるかのように彼女の体を包み、激しく暴れていた女性はすぐに意識を失った。
私は人を呼んで彼女を帰した。部屋に戻るとラムチョップは解せないような顔をしていた。
「どうしてだ?」
「どうしても何もないわ、私がそうしたかっただけ」
Ⅲ.離れる
その後数日は家から出なかった、ただ静かに家で連絡を待っていた。
やっと、私が待ち望んでいた連絡が来た。私は寝室に向かうと、私が大切にしていた宝石やアクセサリーを箱に入れた。
今まで着た礼服は捨てがたいけれど、全部持って行こうとすると面倒だった。私はため息をつきながら一番気に入っているドレスに着替えて、一番可愛いヒールを履いて、クローゼットを閉じた。
まあ良いわ、もっと手に入れられる。
さよなら、私の可愛いドレスたち。
小さな箱だけが私の荷物の全て。私は荷物を持って階段を降りると、そこにはソファーに横たわって、天井を見上げながら何を考えているかわからないラムチョップがいた。
「私は行くわ」
彼は不思議そうに視線を私に送った。
「どうしてここから出るんだ?」
「もうすぐここで混乱が起きるわ」
「あ?」
「人間を滅ぼす一番良い方法は、やっぱり人間を利用する事だわ」
私は感慨深そう言いながら、階段を降りた。
「助けてあげたのだから、そのお返しとして、これから起きる面倒事を処理して頂戴。目覚めたら、あまりここに長居しない方が良いわ~」
付き合っていく内にラムチョップは私に対して警戒心を完全に解いていた。宝箱から出た淡い煙はすぐに彼の体を包んだ。驚いた視線を私に送りながら、昏睡し始めた。
私が離れてすぐ、私が長く生活していた王都は混乱に陥った。
一番権力があって自己中な二人の男が争い始めたら、貴族である彼らは民衆がどんな生活をしているかなんて気に掛ける訳がない。
共倒れになった争いの後、彼らが事の発端について気付いた時には、全てを引き起こした「魔女」が住んでいた場所には既に誰もいなかった。
いや……彼らは怒りをラムチョップに向けたのだろう。
骨のような翼を持つ食霊が二人の重臣の想い人を誘拐した罪で追われていると聞いた。
あぁ……やっぱり。
まあ、人間如きが、あいつを傷つけられる事は……ないわ。
今度ラムチョップに会ったらきっと怒るだろう。
だけど彼の怒った顔もカッコいいから、何か甘い物でも用意して謝罪の準備をしておこうかしら。
私はスイーツ店のテラス席に座り、美味しいスイーツを頂いていた。ラムチョップと再会した時、彼がどんな表情を浮かべるのか、それを考えていたら思わず笑ってしまった。
「お嬢さん、共に素敵な午後を過ごしても宜しいでしょうか?」
顔を上げると、紳士のような笑顔を浮かべ、狩人のような目をしている者が私に話しかけていた。見覚えがありすぎるタイプだわ。
しかし、一体誰が誰の獲物なんでしょうね?
Ⅳ.再会
再びラムチョップに会えた時、彼は変わりすぎて認識できなかった。
彼の顔が私の好みに合いすぎてなかったら、気付く事すらなかったわ。
彼の傍には彼を慕っているような女の子が数人いて、顔には人を惑わす笑顔を浮かべていた。
優しい言葉を並べるとすぐに女の子たちを揉めさせた。強い力を持っているからこその自信が漲っていた。
私は貴族の口から彼の身分を知った。
彼が療養している間、私はたまに彼と雑談をした。彼の言葉からは、人間の偽善に対する憎しみが抑えきれない程滲み出ていた。
露骨な憎しみは狡猾な人間に警戒されてしまう。
彼は私の言葉を覚えていたようだった。
彼らを滅ぼすには、彼らを超えるような力を使うのは得策ではない。
人間の中にはバカな者以外に、賢い者もいる。彼らは私たちの力を封じる方法を思いついて、私たちを傷つける。
最適で最も安全な方法とは。
彼らを争わせる事。
彼らを仲たがいさせる事。
私たちは相手がどうしてそんな事をするのかお互い聞く事はなかった。
皆それぞれ自分の過去があるから。
どれだけ悲しい過去も言い訳でしかない。
私は他人の同情はいらない、彼もそうみたい。
私たちがしたい事に、言い訳なんていらない。
彼に会ったその瞬間から、彼は私と同類だって気付いたのかもしれない。だから本当の自分を彼に見せた。
傍に居た貴族は私が彼の事を見ているのに気付いたようで、少しヤキモチをやいたような口調で聞いてきた。
「愛しい人よ、彼とは親しいのかい?」
「そうね、彼は私の古い友人よ」
「……」
「ダーリン、嫉妬しているのかしら?彼の心には彼の命よりも大事な存在がいるから、私なんてどうでも良いのよ」
これは嘘ではない、彼と会話した回数は少ないけれど、彼がその人の事を言及した時、目にはいつも複雑な感情を浮かべていて、見ていて重苦しくなる。
私は冗談を言うように、もし彼が望むのなら手伝ってあげてもいいと言った。
しかし彼は激昂して私の首を締めながら、強く言い放った。
「彼は私の獲物だ。私以外、誰も手出ししてはならない。誰も彼に触れさせない!」
彼はあの時本気で私を絞め殺そうとしたと、私は思う。
幸い、私が欲しかったのは私と共に安っぽい愛情を分かち合う恋人じゃなかった。
私が欲しいのは、絶対的な力を持っていて、同じく偽善的な人間を混乱に、暗黒に陥れようと願っている友人だ。
彼のこの時の表情を見て、私は成功したのだとわかったわ。
Ⅴ.マドレーヌ
生まれながらの悪人はいない。
しかしどんな人になるかは、自分で決められる事ではない。
悪い事をする快感を楽しんでいる人もいれば、ある事情で自分の信仰を失った人もいる。
マドレーヌは悪い事をする他の人たちがどういう理由でそうしているのか理解したい気持ちはなかった。
彼女は自分の事を「魔女」と呼ぶ人を見て、優しく笑った。
ある人たちは、どれだけ弁解しても、他の人に無理やり悪魔にされる事がある。
第三者の角度から見ると、マドレーヌは彼らのやり方を評価している。
全ての罪を一人の「魔女」に擦り付け、魔女が死ぬと、全ての怒りは魔女と共に消える。
全ての人は犠牲品が欲しいのだ。
高い位の者は権力を証明できる犠牲品を欲する。
服従する者は忠誠を証明する犠牲品を欲する。
平民は嫌悪をぶつける犠牲品を欲する。
貴族は平和を象徴する犠牲品を欲する。
その後、いつも通りの日常に戻る、まるで何も起きていないかのように。
これは全ての人にとって最適な方法に違いない。最小の犠牲で最大の平和をもたらす。
そして「魔女」にされたその人は、反論する権利はない。
反論はもう何の効果ももたない、なら、彼女は受け入れる事しか選ぶ事はできない。
「私の事を魔女だと呼ぶのなら、魔女がやるべき事をしないと、魔女の名に申し訳ないわ」
魔女にされた後、彼女はその身分をすぐ受け入れた。そしてその日から、彼女は何かを捨てたようだった。
彼女自身ですら何を捨てたのかわからない。
小さな国の低くはない地位?
全ての人からの尊敬?
それとも彼女が全てだと見ていた民衆?
とにかく、彼女の命よりも大事だと思っていた物は、もう重要ではなくなった。
一人の犠牲のもと、彼女はその小さな国を離れた。
彼女は色んな場所を訪れた。
彼女は人間に虐げられ、辱められ、更には死にまで追いやられた食霊を見た。
そして人間と親しく接し、愛し合う食霊も見た。
彼女は責任感が強い訳でもない、そして全世界に彼女の考えを認めさせたい訳でもない。更には人間の中にも彼女からして悪くない人がいる。そういう人がいたから、彼女は安全に旅が出来ているとも言える。
彼女は人間を滅ぼしたい訳ではない。それは彼女にとって疲れる事、当時人間を守っていた時のように彼女を疲れさせてしまう。
彼女はただしたい事をしたいだけ。二度と道具のように誰かに指図されたくなかった。
国を守る責務を背負うため、かつての彼女は高い地位にいながら、高い宝飾品を捨てなければならなかった。
いつでもすぐ堕神に対抗できるように、ずっと綺麗なドレスと縁がなかった。
国のイメージを保つため、彼女は冷たく愛を囁いてくる人を全員拒み、冷徹を貫いた。
枷が外れたマドレーヌは何も気にせず高価な宝飾品を身に着け、愛するドレスに身を包み、眩しい笑顔を浮かべ、自分を求める人の中で自由に踊った。
もう誰も彼女にいわれのない罪を背負わせる事はできない。
勿論、自分がした事に対してそれ相応の代価を支払わなければならない人もいる。
彼女は全ての罪を他人に押し付ける癖のある人の傍を練り歩いた。
彼らが貢ぎ、深淵に堕ち、最終的に自業自得を味わうのを冷たく見ていた。
このような罰を与える事が彼女の生活の最大の楽しみとなった。
そしてこういう人は、一向に減らない。
「ラムチョップ、そういう人に報復したいのなら、手伝ってあげても良いわ?」
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