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クリスマススターナイト・ストーリー

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クリスマススターナイト

プロローグ


 嵐のような残業を経たペリゴール研究所は、貴重な短い休みを迎えた。

 休暇に興味がないワッフルと、彼女を守るために実験室に残ったホイメン以外は、全員がクリスマスパーティーの準備をしていた。


白トリュフ:姉さん、明日はハロウィンではなくクリスマスですよ?

黒トリュフ:ウフッ、白ちゃんも性格が悪くなったのね、そんな常識を知らないわけがないでしょう?

白トリュフ:しかし、あなたが今クリスマスツリーに飾っているのは、私の薬瓶とあなたの水晶髑髏のように見えますわ。カラフルで、飾りつけとしてはとても綺麗ですが……

黒トリュフ:安心して、壊さないようにそっと置くわ。


 白トリュフのため息が聞こえなかったフリをしている黒トリュフは引き続きクリスマスツリーに奇妙な装飾を飾り続けた。飾りながら悪戯っぽい笑みを浮かべていた。

 あの事件以来監視下に置かれている黒トリュフは、以前よりも多くの自由と楽しみを失っている。そのためか白トリュフはこの程度の悪戯を大目にみるようになった。


黒トリュフプレスビスケットはどうしてまだ帰って来ないのかしら?しばらく会えていないから、少し会いたくなって来たわ。

白トリュフ:姉さんの買い物リストが前回よりも長いからですよ。

黒トリュフ:あら、これぐらいプレスちゃんにとっては楽勝でしょう~


 黒トリュフが話し終えると、ドアの軋む音が響いた。冷たい風は雪を乗せて部屋に飛び込んできた。凛とした馴染みのある声が二人の後ろから聞こえて来た。

 プレスビスケットは身体についた雪を払い落し、足でドアを止め、抱えていた山ほどの物を地面に置いた。


プレスビスケット:カレープリンなんて簡単には見つからないって覚えておくべきよ。

白トリュフ:本当にあったなんて。

黒トリュフ:お疲れ様、お礼として頬に甘いキスをしてあげるわ~


 黒トリュフのそういう行為には既に慣れっこなので、プレスビスケットは危険な抱擁を上手に避け、相手が期待しているような表情は見せる事はなかった。


プレスビスケット:三分の二はあんたの物よ、お金はちゃんと返してね。

黒トリュフ:その話はまた後で、早くこれを試してみよう。


 お礼が失敗に終わっても黒トリュフは気にする事なかった、彼女はクリスマスツリーの下からピンク色の包みを引っ張り出し、そして包みをプレスビスケットに向かって投げた。

 プレスビスケットは条件反射で包みを受け取り、警戒した眼差しを黒トリュフに送った後、慎重に包みの中の物を取り出した。

 柔らかな感触を感じたプレスビスケットは眉間に皺を寄せ、ピンク色のワンピースを目にした瞬間、彼女は素早くそれを包みに戻した。


プレスビスケット:これは何?

黒トリュフ:ふふっ、これはワタシからアナタへのクリスマスプレゼントよ。

プレスビスケット:……

黒トリュフ:そんなに良いカラダを隠しているなんて勿体ないわ。

プレスビスケット:着ない。

黒トリュフ:これを着ないとクリスマスっぽくないわ~

プレスビスケット:返品して……勝手に触るな!


 プレスビスケットはくるっと向きを変えて部屋から出ようとしたが、黒トリュフは隙をついて後ろから抱き着いた、プレスビスケットが抵抗するよりも先に、外からドアが開かれた。


ストーリー1-2


白トリュフの家


 仕事を終えて帰ってきた牛丼も、まさかドアを開けたらこんな光景が広がっているとは思っていなかった。


牛丼:これは……貴方達は何をしているんですか?

プレスビスケット:手を放して。


 プレスビスケットの苛立ちに気付いた黒トリュフは、あっさり彼女を解放した。今の短い楽しみよりも、未来を見据えた方が良いと彼女は思った。

 そこで黒トリュフは、思い切って部屋に入ってきたばかりの相手をからかう事にした。


黒トリュフ:お帰り、侍ちゃん~

牛丼:その呼び方はやめてください……出かけようとしているのでしょうか?

黒トリュフ:呼び方を気にする余裕があるみたいだから、きっと任務は無事完了したんでしょうね?

牛丼:任務が完了したのは間違いないが、任務を遂行する過程で、思いがけない収穫がありました。

牛丼:邪教についてです。


 牛丼の言葉で場の雰囲気は一気に重くなった。オーブンの横に座って彼女たちのやりとりを聞いていた白トリュフは顔色を変え、黒トリュフの傍に近づいた。

 彼女は黒トリュフの手をそっと握った。力はあまり強くはないが、相手を落ち着かせるには十分だった。


白トリュフ:焦らないでください、状況を詳しく説明してください。

牛丼:私的に食霊実験を行っている教授から、彼を支援した事のある組織が「血色のクリスマス」という計画を立てているという情報を得ました。今夜、一般人を生贄として捧げ、彼らの神を召喚しようとしているようです。

白トリュフ:信憑性はありますか?

牛丼:その教授の話が本当かどうかは定かではない、しかしこの情報をこのまま無視する事は出来ません。

白トリュフ:その邪教徒たちには、服や紋章などの特徴はありますか?

牛丼:わかりません、情報が少な過ぎます……

プレスビスケット:まだ時間を無駄にするつもり?


 黙っていたプレスビスケットは突然口を開き、ドアノブに手を掛けた。出発の準備が出来ているようだ。


牛丼:どこに行くかわかりますか?


───

……

・どっちにしろ、出掛けないと。

・出発したら、自ずとわかるよ。

・待ってるだけじゃ、永遠にわからない。

───


牛丼:その通りですが……今晩は街に人だかりが出来ています、邪教徒を見つけ出すのは無理だと思います。

白トリュフ:そうとは限らないです。

牛丼:どういう事ですか?

白トリュフ:その計画を実行するには、二つの必須条件を達成しなければなりません。場所と大量の生贄。

牛丼:つまり、人が密集している広い場所が必要……なるほど!クリスマスイブでは、多くの場所でイベントをやっていますが、教会は候補の筆頭でしょう!

白トリュフ:今夜は多くの信者が教会でミサに参加する筈です。邪教徒たちはきっとそこに潜んでいます。

プレスビスケット:……行こう!

黒トリュフ:ちょっと待って!

牛丼:どうした?

黒トリュフプレスビスケットにこれを着替えさせなさい。


 牛丼黒トリュフが持っているピンク色のワンピースを見て、思わず眉をひそめた。


牛丼:こんな時に、何の冗談ですか。

黒トリュフ:冗談なんかじゃないわ。今外にいる人たちはきっと色とりどりに着飾っている筈。それに比べて、プレスビスケットの服は女戦士にしか見えないし、きっと敵にバレるわ。

プレスビスケット:バレる前に敵を倒せば……

黒トリュフ:今回の任務はただ単純に敵を殺すだけじゃない、人々を保護しなければならないのよ。大局的な視点から、小さな犠牲はやむを得ないわ。

プレスビスケット:……その服は、機動性が悪い。

黒トリュフ:あら~あの強いプレスビスケットが、まさか服を変えただけで負けてしまうのかしら?


 プレスビスケット黒トリュフが持っているワンピースを見つめて数秒考え込み、その後それを自分の部屋に持って行った。

 彼女の背後で、満足そうな表情を浮かべている黒トリュフを見て、牛丼は一つため息をついた。


ストーリー1-4


クリスマスイブ


 夜の街は昼のように明るいままだった。肩を並べて歩くカップル、雪の上ではしゃぐ子どもたち、クリスマスムードが広がっていた。

 雪の白とクリスマスの赤が広がる中、黒と白、二つの姿はひと際目立っていた。


牛丼:……

プレスビスケット:何?

牛丼:着るのかと思いました……

プレスビスケット:あんなわかりやすい挑発に乗る訳がないじゃない。

牛丼:そうですか……えっ?


 話をしていると、突然後ろから来た人が牛丼にぶつかって来た。


女の子:お兄さん!花は買いませんか!


 ぶつかって来た女の子は腕一杯にバラの花を抱えていた。花と比べると、その青白い顔は雪の中余計可哀想に見えた。涙ぐんでいる両目を見て、牛丼は思わず眉をひそめた。


牛丼:お嬢さん、どうかしました?どうして泣いているんですか?


 女の子が話しやすいように、優しい青年は冷たい雪の上に膝をついた。


牛丼:お兄さんに何があったか話してくれませんか?貴方が言わないと、私たちは何も手伝えませんよ。

女の子:花、花を買ってくれれば良いよ!

プレスビスケット:こんなに人がいるのに、どうして私たちなんだ……


 プレスビスケットが口を開くと、そのキツい口調に驚いた女の子は全身を震わせた。自分が出しているオーラに気付いていない彼女は、女の子の様子を見て一先ず口を閉ざした。

 牛丼はその光景を見慣れているかのように、仕方なさそうに笑った。プレスビスケットを慰める視線を送った後、そっと女の子の肩に手を置いた。


牛丼:わかりました……花を売ればお金を稼ぐ事は出来ます。しかし、お金を稼ぐためだけなら、そこまで緊張して怖がることはない筈です。お兄さんに何があったのか教えてください、きっと助けてあげます。

女の子:お兄さん!家族を助けて!

牛丼:貴方の家族?

女の子:みんな黒い服を着ている人たちに捕まっちゃったの。あの人たちは必ずお花をあなたたちに売ってって言ってきた。そうじゃないと、私の家族を……生贄?にするって……

牛丼:生贄……怖がらないでください。家族がどこに連れて行かれたかは知っていますか?

女の子:しっ、知ってる!みんな工場の中に閉じ込められていて、入口に大きな犬がいるから、私は怖くて行けない……

牛丼:わかりました、安心してください。必ず家族を助け出します。


 女の子はそれを聞いて、嬉しそうな笑顔を浮かべた。しかし、傍にいるプレスビスケットは冷たい顔で牛丼を地面から引っ張り上げた。


プレスビスケット:任務を忘れないで。

牛丼:彼女は彼女の家族が生贄にされると言っています、相手は邪教徒の可能性が高いです。

プレスビスケット:彼女のために他の人の命を捨てるのか?

牛丼:私は命を一つも諦めたりはしません。

プレスビスケット:?

牛丼:貴方がいます。私は自分よりも、貴方を信じています。

プレスビスケット:……罠かもしれない。

牛丼:罠だとしても、自分の目で確かめておきたいです。そうでないと良心が痛みます……申し訳ございません、出来るだけ早く処理しますので、教会の方を頼んでも大丈夫でしょうか?

プレスビスケット:私が彼女と一緒に行く。

牛丼:はい、えっ?しかし……どうしてですか?


───

……

・何か問題でも?

・私は強いから。

・私は他人を守るために傷を負ったりしない。

───


牛丼:私が離れてから、彼女をどこかに放置したりしませんよね?

プレスビスケット:本当に私の事を信じてるの?

牛丼:いいえ、そういう訳じゃ……気を付けてください、教会で待っています。


 プレスビスケットはその細長い姿が人ごみに紛れていくのを見て、何か思うところのあるような表情を浮かべた。


女の子:お姉さん?

プレスビスケット:……うん、案内して。


 女の子の少し震える声によって、プレスビスケットは我に返った。彼女は視線を戻し、簡単に返事して出発しようとした時、また女の子に手を引かれた。


プレスビスケット:?

女の子:助けてくれてありがとう!


 女の子の笑顔は星の輝きを織り込んでいるようで、電灯、雪そして涙の輝きと共に全てプレスビスケットの目に映った。

 プレスビスケットは一瞬だけ呆気に取られ、女の子の手を放す事なく、彼女に連れられて細長い静かな路地に入って行った。


ストーリー1-6


荒地


 そこは街から切り離された独立した世界、クリスマスムードは全くなく、冷たい北風と不気味な静けさだけがそこにあった。


女の子:お姉さんとお兄さんは家族?

プレスビスケット:いや、同僚よ。

女の子:同僚って何?あっ、わかった、友達だよね?

プレスビスケット:……

女の子:お姉さんたちは今日何しに街に出てたの?


───

……

・人を探しに。

・銃の練習をしに。

・悪人を成敗しに。

───


女の子:あれ?それはお姉さんの仕事なの?


 プレスビスケットはそれ以上女の子の質問に答えず、荒地を眺め、歩きながら周囲の状況を警戒していた。


プレスビスケット:見張りがいない。

女の子:クリスマスを過ごしに行ったんじゃない?


 プレスビスケットは女の子を見た。その目は鋭い刃のようで、女の子は怖がって俯いた。


プレスビスケット:目的は?

女の子:!

プレスビスケット:あのお人好しに言った言葉、どこまでが本当?

女の子:私は……お姉さんはとっくに気づいていたの?じゃあどうして……

プレスビスケット:彼はあんたを助けようとした。騙されてるって知ったら、傷つくでしょう。そうなったら仕事に影響するから面倒くさい。

女の子:どうやって気付いたの?

プレスビスケット:疑うのが得意なだけよ。

プレスビスケット:それにここは、人を閉じ込められそうにない。

化け狸:お前を閉じ込められれば良いさ!


 二人の後ろから突然激しい声が飛んで来た。プレスビスケットは思い切って振り返り、鋭い爪を避けた。

 敵は異化した堕神、人型ではあるが、実力はプレスビスケットには及ばない。プレスビスケットは素早くドアの後ろに隠れた。


プレスビスケット:これがさっき言ってた番犬ってやつ?

化け狸:は?誰が犬だって?痛い目に遭わせてやる!

プレスビスケット:フンッ、速戦即決で勝負を決めてあげる。


 敵はとても狡猾で、攻撃せず、ただひたすら逃げて、プレスビスケットの体力を消耗しようとしていた。しかし、時間が経つにつれ、彼女自身の体力が減って行った。


化け狸:チクショウ、手強い奴だ!クソガキ、お前を使って体力を補充してやる!


 堕神の突然の攻撃に対して、女の子は避ける事は出来なかった。鋭い爪が彼女の心臓に突き刺さる寸前、火花が散った。


プレスビスケット:チッ。

女の子:お、お姉さん、どうして…


 プレスビスケットは銃で堕神の攻撃を遮った。横目で女の子の驚く表情を見て、彼女は突然牛丼の事を思い出した。彼が幾度となく身を挺して弱者を守った時の、強く優しい眼差しを。


プレスビスケット:人を救うのに、理由はいらない。

化け狸:フンッ、ガキ、良くやった。

女の子:ごめんなさい、お姉さん。


 平だった地面に突然大きな穴が開いた。飛び散る黄砂と白雪の中、プレスビスケットは女の子の申し訳ない視線を微かに感じた。

 プレスビスケットが我に返った時、既に深さ十数メートルもある大きな穴に落ちていた。


化け狸:ハハハハ、罠にハマってやんの!こんなに深い穴、飛べないと出られないだろ?大人しくしてろよ!

女の子:ごめんなさい、お姉さんごめんなさい。リルを助けるために、食霊を一人捕まえなきゃいけなかったの。私だってイヤだった、でも……

化け狸:もう良いだろ、長々とはなしてどうすんだ?早く行くぞ!


 堕神は女の子を連れて離れた。一人大きな穴に残されたプレスビスケットの目には軽蔑の色がちらついた。彼女は銃を使って上れる程の坂が出来るまで、目の前の土に向かって乱射し始めた。

 小屋は彼女の破壊行動によって崩壊し、屋根に隠されていたノートが日の目を浴びた。プレスビスケットは坂を上り、身体に着いた埃を払ってから、ノートを拾い上げた。


プレスビスケット:聖主……救済……生贄を捧げる……終末の日……つまらない。


 ノートは明らかに複数の邪教徒の手によって書かれた物だった。内容は支離滅裂な単語ばかりで、完全な文章に出来ず、有用な情報を得る事は出来なかった。

 プレスビスケットはノートから二枚千切ってポケットに仕舞ってから、最後のノートを開けた。


プレスビスケット:食霊の魂と人間の躯を以って、主の誕生を迎え、万人が跪いて頭を地につけて拝む、何故なら彼の名は……直視不可の神であるから。


 ここまで読むと、プレスビスケットは顔つきが変わり、ノートを仕舞って、この荒れ果てた場所を急ぎ足で離れた。

 ノートに書かれている情報が事実であれば、教会は地獄になってしまう……彼女はそれを阻止しなければならない。


ストーリー2-2


もう一方

教会


 牛丼は予定通り教会にやって来た。

 クリスマスイブの教会は人で溢れかえっていた。本当の信者以外に、多くの子どもが無料のりんごと飴をを貰うためにやって来て、空き地ではしゃいでいた。


牛丼:おや?あれは……神恩軍の軍団長?


 人ごみの中、神恩軍の軍団長ドーナツの真っすぐな背中は目立っていた。その姿は大きくも強くもないが、無限の力を秘めているように見えた。


牛丼:(彼女はミサに参加しに来たのか?しかし神恩理会は独立した教会を持っている……まさか彼女も邪教のために来たのか?それなら、軽率に彼女に接近するのは藪蛇になる……)

牛丼:(なら、本堂は彼女に任せよう。あの邪教徒達がどこに隠れているか探ろう)


 混雑した人ごみの横を通って、牛丼は本堂の奥にやって来た。彼は演壇の右側にドアがある事に気付き、それは古い錠によって閉ざされていた。

 左右を見回した後、彼は銃を取り出して錠のシャックルを打ち壊した。


牛丼:ふぅ……サイレンサーは本当に偉大な発明品ですね。


 ドアに掛けてある錠を元通りに見えるように整えた後、牛丼はこっそりとドアの中に入って行った。

 ドアの先には小さな部屋があり、教会の人が利用する寝室のようだった。しかし、教会の構造を思い出した牛丼は、すぐに何かがおかしいと気付いた。

 彼はドアに面している壁にそっと手をあて、模索し始めた。そして隠し通路を開くスイッチを見つけた。

 牛丼は身を屈めて、隠し扉を通って隠し通路に入って行った。小さな隠し通路を通った後、幾重ものトラップに保護されている秘密の核心を見つけた。

 そこにあったのは大きな鉄の檻、牛丼はかつてサーカス団でそれに似た物を見た事があった。ただ、今彼の目の前で閉じ込められているのは猛獣ではなく、一人の少女だった。


───

……

・貴方は何者ですか?

・酷いです、どうしてこんな事を。

・大丈夫ですか、すぐに解放してあげます。

───


邪教圣女:私に近づかないで!

牛丼:な……

邪教圣女:私は汚い、汚い、とても汚い!私は穢れている、邪悪の種だ、主だけが全てを浄化出来る、そう!主よ!主だけが私を救ってくださる!


 牛丼は少女の腕と顔のあざに気付き、眉をひそめながら檻に近づいた。門を破壊しようとした時、その檻には鍵が掛かっていない事に気付いた。

 檻に近づいた事で、牛丼はその少女の背後に彼が知っているものが置いてある事に気付く。


邪教圣女:離れて!離れて!檻を開けないで!私はここにいなければいけない……ここで……神を育む養分として。

牛丼:これは魔動炉……貴方は料理御侍ですか?

邪教圣女:その気持ち悪い名前で私を呼ばないで!


 少女は突然大声を出した。料理御侍という呼び方への嫌悪から、彼女の表情も凶悪になった。


邪教圣女:私は聖女です。私の使命は神の力を養う事です。彼がこの世の全ての穢れを取り除くまで、世界を滅ぼし再び生まれ変われるまで。

邪教圣女:滅び、世界の行きつく先は即ち滅び、だから……貴方も死ね。


 牛丼が驚いた顔で目の前の人を見ていると、彼の反応を待たずに、地面は突然揺れ始めた。頭上から石灰か木くずのような物が落ち続けていた。彼らがいる空間は全て揺れていた。


牛丼:地震ですか?まずい、私と一緒に来てください。

邪教圣女:触らないで!穢れる!ここを離れられません!お父様!助けて!


 牛丼は彼女が叫んでいる内容を気にする余裕はなかった。ただ全力で彼女を檻から引っ張り出し、銃で彼女を叩いて気絶させ、背負って部屋から脱出した。

 彼は少女を連れて教会の本堂に戻った。しかし、そこは完全に変わり果てていた。


ストーリー2-4


教会

本堂


 教会を取り囲んだ黒服の人たちによって、ミサに参加するためにやってきた人々は逃げる事は出来なかった。彼らは席に着く事しか出来ず、講壇で怒りをあらわにしている食霊によって地面に抑え付けられた神父を見ていた。


神父:全部知っていれば阻止出来ると思ったのか?ハハハハハ、愚かな妖獣め!

神父:私の親愛なる教友たちよ、私の事は気にしないでください。主のためにこの身を捧げる事こそ私の使命。どうか、主をお迎えください!

ドーナツ:黙れ!

牛丼:これは一体どういう事ですか?


 牛丼は状況が呑み込めず困惑していた。彼は意識不明の女の子を下ろし、壁に寄り掛からせるように床に座らせて、再び教壇の方に目を向けた。

 教壇の上にはいつの間にか魔方陣が増えていて、神父はその陣の中央に横たわり、膝で自分の胸元を抑え付けているドーナツをじっと見つめた。彼は劣勢にもかかわらず、目を輝かせ、顔には病的な赤みがさしていた。


牛丼ドーナツ

ドーナツ:あなたですか?

神父:食霊がもう一人?ちょうど良い、全員我が主の養分となれ!


 神父の声が止むと、教会の四方のガラス窓が割れ、黒服の人たちが数名入って来て、講壇の方に突進し始めた。

 牛丼は直ちに銃を取り出して応戦しようとしたが、攻撃を受けてようやく敵が人間ではなく、食霊であると気付いた。相手の力が弱すぎるため、すぐに気付く事が出来なかった。


牛丼:ここは私に任せてください!貴方の神恩軍を呼んで人々と避難させてください!

ドーナツ:そうさせて頂きます。


 笛の音と共に、軍人が数十人教会に侵入し、黒服の人と戦闘を始めた。

 神恩軍の人数は多く、黒服の人らの勢いは少しずつ削がれ、罪のない人々は教会から逃げ出せるようになっていった。それを見て牛丼は少し安心した。

 しかし、すぐに隠し通路の感じた振動がまた襲って来た。


牛丼:これは一体?

ドーナツ:気が狂ったのか!死にたいのか!


 牛丼が声がする方に目を向けると、地上の魔法陣は突然怪しげな赤い光を放ち始めた。神父はドーナツによって地面から引っ張り上げられて壁に押し付けられた。彼は首をかしげて、首の深い傷口を露わにした。


神父:愚かな食霊よ、貴方達にはわかるまい、死こそ、永遠に生きるという事だ!

ドーナツ:大人しく白状なさい、一体誰の指図を受けたのか!


 ドーナツの怒りを浴びた神父はますます調子づき、口を閉じてドーナツに笑顔を返した。

 ドーナツの取り調べは進まないが、地面に落ちた神父の鮮血は集まり、魔方陣の中央に向かって流れ、そこで黒い影が形成され、徐々に拡大していった。


牛丼:何をしているんですか?早く彼を止めてください!

ドーナツ:あのブラックホールを見るな!


 牛丼黒トリュフの事件について少し知っていたため、すぐに目を閉じ、他の四感で相手の食霊に応戦した。

 まだ逃げきれていない民衆は苦痛な悲鳴をあげていて、牛丼自身も強烈な不快感に襲われていたため、彼は迅速に食霊を倒した後、講壇の方に向かった。


牛丼:(魔方陣と器具を壊せば、この儀式を阻止できる筈です!)

ドーナツ:来ないでください!

プレスビスケット:どいて!


 牛丼が呆気に取られると、次の瞬間銃弾が彼の耳のそばを飛んで行き、神父の眉間に命中した。そして、講壇の周りにあった器具も全て撃破されて、陶磁器とガラスが辺りに散らばった。

 プレスビスケットはいつの間にか二階に現れ、彼女は狙撃銃を使って神父を殺し、儀式用の器具を壊した。

 ドーナツは悔しそうにしていた。しかし、死んでしまった以上、彼女にはどうする事も出来なかった。彼女は牛丼と共に講壇から離れ、プレスビスケットの攻撃で廃墟と化した教会を見た。

 教会が崩壊する前、プレスビスケットは二階から飛び降り、ブラックホールを遠くから眺めた。それはゆっくりと縮小し、最終的に見えなくなった。


───

……

・どういたしまして。

・説明して。

・お邪魔だった?

───


 ドーナツは目の前の無表情な食霊を見て、何か言いたげにしていたが、最終的に口からはため息しか出なかった。


ドーナツ:……外に出てから話しましょう。


ストーリー2-6


深夜

街角


プレスビスケット:神恩軍はどうしてここに来たの?

ドーナツ:あの偽神父のためです。

牛丼:彼は一体何者ですか?

ドーナツ:本来は一日中部屋にこもって創作活動をしていた画家でした。いつからか突然、おかしな教えを広め始め、邪教徒を集めるようになった。

ドーナツ:彼と彼の邪教徒たちは、人間が世界の原罪だと考えていたみたいです。彼らが滅ぼされた時に、世界は救われると。

牛丼:これが末日崇拝者ですか?

ドーナツ:そうです。彼らからすれば、世界を破壊してくれる救世主こそ、直視不可の神……わたしは打ち解けました、あなた達は自分の情報をわたしに共有してくれますか?

プレスビスケット:……邪教徒のノートをいくつか見つけた。直視不可の神についての記述と邪教活動の記録があった。

プレスビスケット:彼らは路頭に迷っている子どもを引き取り、彼らにデタラメな思想を吹き込み、彼らを脅したりする事で邪教徒に仕立て上げた。

プレスビスケット:食霊を召喚出来る子どもは、夢の力が尽きるまでひたすら食霊を召喚させられた。そしてその食霊は武器として利用された。その子どもたちは力が尽きれば能力のない者たちと一緒に堕神の食事にされ、そうする事で堕神をこき使っていたそう。

牛丼:残忍過ぎます……

プレスビスケット:しかし、子どもたちにとって、堕神の食事にされる事は一生の中で一番輝かしい瞬間であり、使命だ。

牛丼:だから……あっ!

プレスビスケット:どうした?

牛丼:その、昏睡状態の少女を見ませんでしたか?

ドーナツ:心配しないでください。今回の事件の影響を受けた全ての民衆は、神恩理会が最後まで責任をもちます。そして先程部下に聞いてみましたが、死者は出ていないそうです。

牛丼:それなら良かったです。

ドーナツ:とにかく、今回はあなたたちのおかげで助かりました。この御恩を神恩理会は忘れません。

牛丼:為すべき事をしたまでです。

ドーナツ:先に失礼します、神恩軍にはまだやる事がたくさんありますので……そうでした、あなたの射撃の腕は素晴らしい、神恩軍に興味はありませんか?


───

……

・今のところはない。

・つまらないジョークですね。

・条件が魅力的なら。

───


牛丼:……

プレスビスケット:何を見てるんだ?行くよ。


 牛丼と家の前に着いてすぐ、プレスビスケットは部屋の中からホイメンの大声が聞こえて来た。


ホイメン:ダメだ、絶対に助けにいかねえと!

プレスビスケット:遊びに行きたいだけでしょ。

ホイメンプレスビスケット


 プレスビスケットは楽しそうに飛びかかってくるホイメンを避け、ついでに足でドアを閉めた。ホイメンは雪に突っ込む事はなかったが、正面からドアにぶつかった。


白トリュフ:やっと帰ってきました。

黒トリュフ:どうだった?

牛丼:焦らないでください。情報が多いので、ゆっくり話します。


 牛丼は長い時間を掛け、やっと経緯を全て説明した。彼が話し終わっても、しばらくは沈黙が続いた。


プレスビスケット:お酒飲む?


 沈黙を破ったのはプレスビスケットだった。彼女はいつの間にかピンク色のワンピースに着替え、手にシャンパンを抱いていた。


ホイメン:あっ、美味しそう~!

黒トリュフ:着てくれないのかと思ってたわ。身体は正直みたいね、プレスちゃんはワタシの選んだワンピースを気に入ってくれてるんでしょう?

プレスビスケット:変なあだ名をつけないで、自分の服を汚したくないだけ。

黒トリュフ:?

プレスビスケット:クリスマスパーティーするんでしょう?

白トリュフ:そう言えば、もうクリスマスですね。

ホイメン:きたきた!クリスマスパーティー!

ワッフル:遊ぶ事しかしらないのね!

牛丼:ちょっと待ってください!プレスビスケット!瓶の口を私に向けないでください!

黒トリュフ:なんだ、ワタシが心を込めて選んだ服はこんな事をするために使ってるのか。

プレスビスケット:一、二!


 プレスビスケットは酒瓶を開けた、ポンッと音を立て、まるで祭典が始まるまえの教会の鐘の音色のようだった。

 白トリュフは、爽やかで甘い香りを感じ取った。彼女は白い泡は見えないが、彼女なりに楽しめていた。


プレスビスケット√宝箱


 プレスビスケットシャンパンを吹きかけられ、嘆く皆を置いて、白トリュフに近づいた。


プレスビスケット:これは教会の密室で見つけたノート、あと儀式の器具の破片もある。

白トリュフ:お疲れ様でした。

プレスビスケット:役に立つ?


 白トリュフはそっとプレスビスケットが彼女の手に置いた欠片に触れ、そこから知っている気配を感じた。


白トリュフ:もちろんです。


 楽しい時間は続いていた。ペリゴール研究所のメンバー全員にとって、これは束の間の休息だった。だから彼らは悩みを全て忘れて、祝日の特権を思う存分楽しんでいた。

 プレスビスケットシャンパンを掛けられて、ため息をつきながらタオルで濡れた髪を拭き取っている牛丼を見た。

 彼はタオルに覆われた影から、プレスビスケットに向かって、任務完了後いつもしている優しい視線を送った。


プレスビスケット:フンッ、バカ。

牛丼:えっ?

ホイメン:ははははは、牛丼はバカ!

ワッフル:あなたね、他人の事言えるの?

牛丼:私は……バカなんですか?

ワッフル牛丼、しっかりして!少なくとも一番じゃないよ!

ホイメン:えっ?ワッフル、どうしてそんな顔でおいらを見るんだ!

黒トリュフ:あら、プレスちゃん、その着方は間違ってるわ。ボタンを一番上まで止めちゃダメ、これがルールよ!

プレスビスケット:テキトーな事を言って……なっ、何するつもり?!

黒トリュフ:手伝いに決まってるじゃない~

プレスビスケット:いらない……脱がすな!

牛丼:おい!プレスビスケット、酒瓶を武器にしないでください!髪を乾かしたばかりです!

プレスビスケット:逃げるのが遅かったからでしょ……黒トリュフ!!

黒トリュフ:女同士、少しぐらい良いじゃない!

ホイメン:わー!お酒がこぼれた!

白トリュフ:後片付けが長くなりそうですね……

白トリュフ:でも、たまにはこんなに賑やかなのも、良いですね。


ドーナツ√宝箱


深夜

教会の外


 神恩軍はまだ教会の近くで後処理をしていた。

 ドーナツ牛丼が侵入したドアの外に立って、撃ち抜かれた錠を見た。


ドーナツ:見つけましたか?

兵士:中には鉄の檻しかありません、失くした魔動炉は発見されませんでした。

ドーナツ:……プレスビスケットたちの情報はありますか?

兵士:彼らは確かに器具の破片とノートだけを持って行きました。聖女は彼らのそばにいません。

ドーナツ:わかりました、もう行って良いです。

兵士:はい!

ドーナツ:(混乱してたとしても、小さな女の子が、音もなくここから逃げる事は出来ない。プレスビスケットたちじゃないなら、誰に連れて行かれたのか?)

ドーナツ:(あの女の子の能力は彼女を危険に晒す。ひっきりなしに食霊を召喚出来る人間なんて、きっと悪意ある人に狙われる)

化け狸:おいっ!お団子頭!もう聞き終わったか?終わったんなら放せ!


 ドーナツは声の方を振り返り、地面に座っている堕神を見た。雑に思考を遮られた彼女は少し不快感をあらわにした。


ドーナツ:捕虜になった堕神のあるべき態度とは思えない。

化け狸:は?お前らがあいつらを騙している事を全部暴露してやろうか?あんたら神恩軍とあの研究所の関係は良いみたいだしな、関係を崩したくないなら、俺を放せ!

ドーナツ:静かにして、騙している訳じゃない、ただ選択的に隠しているだけ。

化け狸:お前たち食霊は人間と一緒に過ごし過ぎて、頭もおかしくなったのか……何言ってんのかさっぱりだ、早く俺を解放しろ!

ドーナツ:女の子がそんな乱暴なのは良くない。自分の服を見てみて、みっともない……しっかりとしつけなければならないみたいね。

化け狸:な、何をするつもりだ?

ドーナツ:哀れな堕神よ、神恩理会の教化を受け入れよ。

化け狸:なっ……待って!来ないで!


 堕神の「改造」計画に夢中になっていたドーナツは、その誰かの悲鳴が思いもよらず盾となり、一人の女の子が昏睡状態に陥った少女を抱きながら現場を後にしている事を隠した。

 雪原の中、二つの痩せ細った小さな影は、互いに寄り添いながら、ゆっくりとそしてしっかりと前に進んだ。


女の子:強くなれるように努力する……これからも、傷つけさせない、例え悪魔と取引しても……

女の子:私を信じて、御侍様。



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タイトル FOOD FANTASY フードファンタジー
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ゲーム概要 美食擬人化RPG物語+経営シミュレーションゲーム

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