彫花蜜煎・エピソード
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彫花蜜煎のエピソード
朗らかな少女、高い彫刻の才能を持っている。片児麺と知り合って南離印館に入った。もっと素晴らしい作品を創作するために頑張っている。明るい性格の下に、繊細な心を持っており、細かいことによく気づく。一方、驚きの怪力を持っている。
Ⅰ自由
うちが初めてこの世界に召喚された時、目の前にいたのは、真面目で厳しそうな老人だけだった。
「ここはどこ?」
「どうしてうちはここにいるの?」
「あなたは……誰?」
頭の中は真っ白、無意識にこんな質問しか出来なかった。
彼は何も言わない、ただ厳しい目でうちを見つめていた。
なんだか全身を見透かされているような気がした。
うちは彼の視線から目を逸らした……
うちは何か間違えたの?うちは何をすれば良いの?
不満と失望をうちに抱いているようにすら感じた。
不安で……重苦しい……
言いたい事はたくさんあるけど、緊張して声も出ない。
拳を握り締め、勇気を振り絞ってうちを見定めているその人を見返した。どうにか彼から答えを得たかったの。
でもどうしてだろう、うちの見間違いかもしれない……
今回は彼の眉の曲がり具合と視線から、今のうちには読めない別の感情を感じ取った。
気が付くと、彼は突然振り返って離れて言った、まるでうちに興味をなくしたみたいに。
彼は門の外に出て、小さな木の台の上で、小刀を使って木を削り始めた。
ぼんやりとその冷たい後ろ姿を見つめていると、ヘコむ気持ちが心の中で芽生えた。
人に無視される気持ちは、こんなにも悲しいんだ。
「カンッカンッ!カンッ!カンッ!カンッ!」
完全に落ち込む前、うちはこの音に惹かれた。
音の方を見ると、普通の醜い木材が彼の小刀の下で、次第に形が変わり、独特な趣を持ち始めた。
一回、一回、その全てがうちを惹きつけた。
うちは食い入るようにその様子を見ていたから、彼が自分の事を見ている事に気づく事は無かった。
彼の咳払いを聞いて、慌てて頭を下げたうちは、両手を絡めた。
彼はうちを追い出そうとしているのかな……
うちには考える隙もくれない程に矢継ぎ早に彼はこう言った。
「一、お前は私を御侍と呼んで良い。二、今日から、お前は自由だ」
彼がどうしてこんな事を言ったのかはワカラナイ、でもさっきまで感じていた不満はもうない。何故かと言うと、彼は話し終えた後、微かに口角を上げたから。例えほんの一瞬だとしても。
Ⅱ 木彫り
「カンッ!カンッ!カンッ!」
金属が木を打つ音が窓の外から聞こえてきた。
うちは毎日この軽快なリズムを聞いている、気持ちも楽しくなる。
ただ、あの日以来、御侍さまはうちに話しかけてこなくなった。
「これが自由なの?」
うちは何をしたら良いかわからない、ただ毎日見ているしかない。
至って普通な木材が、彼の手の中で化けていく姿を見ているしかない。
あの小さな刀によって、素朴な木材の中で命が生まれているように感じる。
「御、御侍さま、あなたが何をしているか聞いても良いですか?」
「……木彫り」
しばらくの沈黙の後、御侍さまはやっと口を聞いて答えてくれた。うちの質問で手を止めることはなかった。
うちは思わずホッと胸を撫で下ろした。
御侍さまが怒ると思って、ずっと声を出して聞く事が出来なかった。
少し考え過ぎだったのかもしれない。
「あなたから木彫りの技術を学んでも良い?」
うちは目をぱちくりさせて、御侍さまの返事を期待した。
正直、突然こんな事を思いつくなんて、自分でもビックリした。
でも、うちは心からこの技術を好きになっていた。
うちも!唯一無二の作品を彫りたい!
「カンッ……」
御侍さまが手を止めたのを見て、うちの心も緊張し出した。
彼は振り向いてうちの事を見た、うちも視線を逸らさず見つめ返した。
長く見つめ合った事で、うちの決心が彼を動かしたのかもしれない。
彼の顔からわかりにくい笑みをまた発見した。
「座れ」
彼は傍らにあった椅子を指した。
うちは喜んで、返事する前に身体が動いた。
うちは待ちきれないみたいに彫刻刀と廃材を持ち上げた。
まるでうちの両手の延長みたいに、とてもしっくり来て快適だった。
うちは木の上に慣れたように何本か線を軽く引いて、作品の大きさを決めた。
そして他の余分な部分を刀で削って……
うちは小刀の柄を強く握って、木の上に落とし、ゆっくりと前に押した……
一刀ずつ慎重に、細部で勝負が決まる。
丸まった木くずが一枚ずつ刀の端から滑り落ちていくのを見て、うちの心の喜びも少しずつ増えていった。
愛するものを自由に楽しめる感覚……大好きだぞ!
うちはこの感覚に浸った、どれだけ時間が経ったのかもわからない。
Ⅲ 成長
「木彫りとは彫刻刀と木材の間の葛藤だ……」
「うちらが彫刻してるのは芸術じゃなくて、未知の命!」
これは御侍さまがうちに一番言い聞かせていた言葉、これをずっと心に留めている。
彼が上の句を言うたびに、うちは下の句を言う準備をした。
そしてこの時だけは彼の笑顔を見れた。
毎日の訓練で、うちの注意不足で多くの初心者がしがちな間違いを避けた。
彫刻刀は少しずつ鈍り、木材は少しずつ薄くなっていった。
日の出から日の入りまで、これらを繰り返した。
うちの木彫りへの愛は高まっていくばかり、技術も上手くなっていった。
簡単な作品の彫刻だけでは物足りなくなってきた。
うちは霊力を刀影に込め、御侍さまに内緒でいくつかの違う物を彫ってみた。
効果は顕著で、うちは自分の超常的な能力を見せびらかしたいと思った。
霊力を駆使して、うちはすぐに最初の作品を完成させた。
うちは上機嫌で御侍さまにそれを贈ったのに、彼は怒った。
うちが覚えている限り、彼が怒っているのを見たのはこれが初めてだった。
「彫刻とは作者の心と技術が結びついて出来る物、どんなに真似しても復刻する事は出来ない」
「刀の回転、力加減、作品の凹凸、起伏、それらは全て作者の意図を訴える事が出来、その他の要因ではそれを体現する事は出来ない」
「でも……これも悪くないぞ!」
うちは俯きながら、小声で呟いた。
「馬鹿者!外形だけみれば確かに精巧だ。しかし、心を揺さぶることは出来ない!」
「覚えておいてくれ、私たちは彫刻のために彫刻している訳ではない。これは、作品ではなく、命だ!」
「彫刻という技術に近道はない。一足ずつ積み重ねければ、遙か千里先まで到達することはできない」
「これらが体現している物は、作者の当時の心境と創作意図にある」
うちは口を尖らせて首を横に振った。
「わからない、うちも丁寧に彫刻してるよ……」
「しかし、お前は技術を見せびらかすために、素材そのものの美しさを壊した」
「彫刻の初心を忘れるな、この点に関しては自分で理解しなさい!」
御侍さまはうちの言葉を遮って、背を向けて去っていった。
「彫刻に近道はない……」
「自分の彫刻に初心を忘れない……」
御侍さまの言った言葉を反芻しながら、つま先でひたすら地面に円を描いた。
だけどまったくピンとこなかった。
うちは一体何のために彫刻しているの?唯一無二この作品のため?
「カンッ!カンッ!カンッ!」
金属がぶつかり合う音は再び響いた、うちに止まってはいけないと注意するみたいに。
落ち込んでいる場合じゃない、こんなのうちには似合わない。
御侍さまの昔の作品を丁寧に撫でながら、それらの違いを感じ取ろうとした。
木目と彫刻の痕、滑らかさと粗さ、凹と凸、丸い小刀で撫でた場所、平刀で削った感触。
時に荒々しく、時には精巧で、時には陽剛で、時には陰柔……
まったく異なるスタイルは……違う歴史を訴えているかのようだった。
「木彫りとは彫刻刀と木材の間の葛藤だ……うちらが彫刻しているのは芸術じゃなくて、未知の命!」
御侍さまの意図がなんとなくわかった気がした。口角が上がって、喜びが湧いてきた。
Ⅳ 別れ
悟りを開いた後、彫刻に対する認識が高まり、技術が飛躍的に進歩した。
うちは技巧の華麗さに拘らず、作品そのものの特質を磨くことに集中した。
完璧な作品はそこに元からあるんだ。うちがやるべきなのは、余分な部分を取り除くだけ。
それを悟った後に作った作品は、ついに御侍さまに認められた。
「それを悟る事が出来たのだな……とても嬉しいよ」
「あなたへの……不満と失望は……お前には継承できないのではと心配していただけで……ゴホッ!ゴホゴホッ!」
御侍さまは弱った様子で寝台に横たわり、嬉しそうな顔でうちを見ていた。
うちには……彼のために何が出来るの?
「御侍さま!これ以上話さないで」
「大丈夫……最後に……覚えているか?……あの言葉を……」
まだ返事をしていないのに、彼の無気力な声が聞こえた。
「木彫りとは……彫刻刀と木材の間の葛藤だ……私たちが彫刻しているのは……芸術ではなく未知の命……」
「その生涯は、歴史に刻まれる。そしてうちらは歴史の創造者、記録者、守護者」
うちは涙を浮かべながら言葉を続けた。
「時間の痕跡を……尊重する事……これこそ……彫刻師の存在意義……」
彼は苦しそうに笑い、懐から木彫りを取り出したーー五官が歪んでいて、尖った頭を持つ小人だ。
うちはぼんやりとその木彫りを見ていた、彼はうちからの贈り物をちゃんと持っていてくれたんだ。
……
御侍さまの死後、片児麺(へんじめん)という女性がうちを訪ねてきた。
彼女は御侍さまに頼まれて、うちを南離印館に招待した。
「彫刻刀一本しか持っていかないのですか?」
「うん、うちはこれだけ持っていけば良い」
この彫刻刀は、御侍さまが残してくれた物だから、うちにとって一番大切な物。
うちはそれをしっかりと握って抱き締めた、そして墓前で偲んだ。
この彫刻刀以外は何も持っていかない。
他の物は全て彼と共に埋葬した。
「……彼は……尊敬に値する人」
「もちろん!うちらが彫刻しているのは芸術なんかじゃないから」
自分が出来る事がわかったような気がする。
Ⅴ 彫花蜜煎
光耀大陸の人知れない奥地で、彫花蜜煎(ちょうかみせん)は召喚された。
彼女の御侍は一生かけて人生を彫刻する彫刻師だった。
御侍は自分の命がもう長くない事を知っていた。
自分の技術を繋いでいくため、彫花蜜煎を後継者に選んだ。
一生の技術を伝授した後、彼女の御侍も寿命を迎えた。
そこで有名な彫刻師となった。
彫花蜜煎が彫刻した作品の一つ一つは、それぞれ違った風格を持っている。
細部に拘り、線の太さは均一で、なめらか、妥協は一切していない。
霊性に富んでいると同時に、特殊な意味を含んでいる。
ある人は、彼女の作品は芸術品以外の側面があると言った。
歴史を垣間見える、時代精神の象徴であると。
その大げさな褒め言葉に対して、彫花蜜煎は一度も自分の意見を述べる事はなかった。
彫花蜜煎は自分が彫刻した作品はただの芸術品だと思った事はない。
彼女はいつもこつこつと彫刻の至高境地を追い求めている。
彼女は自分で見た歴史を記録し、その守護者になろうとしているのだ。
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