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盛華年・ストーリー

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盛華年

メインストーリー

玉京年月

序・合同

ある日

湖畔小舎

ロンフォンフイ:おい!これはいらねぇだろ!!!どれだけ持っていくつもりだ!ついでに錬丹炉も持ってこうか?!!!あぁ?!

雄黄酒:備えあれば患いなし!それに今度の相手は聖主です!

ロンフォンフイ:心配しすぎじゃねぇか!

雄黄酒:はっ!解毒の丸薬も取ってきます。

ロンフォンフイ雄黄酒様ーー雄黄酒様って呼ぶからよぉ!!!もうやめろ!!!これ以上載らねぇよ!!荷車を壊す気か!!!

ロンシュースーロンフォンフイよ!わたくしの琴をどこに置いた!!

ロンフォンフイ:姉さんよぉ、オレにわかるわけがねぇだろ。龍井(ろんじん)コイツらどうにかしろよ!!

 部屋を出た北京ダックは揉めている二人を避け、手を背にし月に向かって長いため息をついた。そんな彼に、魚香肉糸(ゆーしゃんろーす)はお茶を差し出した。

魚香肉糸:行くの?

北京ダック:はい。この機を逃してしまうと、次はいつになるやら。

魚香肉糸:……今回の情報手に入りやす過ぎているわ、くれぐれも気をつけてよね。

北京ダック:今回が、聖主の尻尾を掴む唯一の機会かもしれぬ。

魚香肉糸:……

北京ダック:吾はこの時が来るのをずっと待っていた……

魚香肉糸:わかってるわ。

子推饅:お嬢さん、心配する必要はありません。此度は私たちも同行致します。

魚香肉糸:知っているでしょう、あいつは……あの連中の事になると、いつもの冷静さを失ってしまうのよ。よりによって竹煙には武に長けている者はいないし……

子推饅:安心してください、友である以上、私たちは必ずや彼をお守り致します。ただこの町の事は、お嬢さんにしばらく託しても……

魚香肉糸:子推さん、貴方こそ安心して、私たちは最善を尽くすわ。

 お茶を飲み終えた北京ダックは茶碗を魚香肉糸が持っているお盆の上に戻し、庭に出た。すると一羽の鷹が彼の腕に止まった。

 北京ダックは鷹の足についている足輪を外し、それを開くと少しだけ表情が緩んだ。

西湖龍井:これは?

北京ダック:最悪の事態に備えているまでです。これが使われぬ事を願います。

西湖龍井:……

(明転)

同時刻

パラータ

グリーンカレー:兄上?どこに向かっているのですか?

麻辣ザリガニ:俺様か?フンッ、茶番を見に誘われた。

(明転)

同時刻

玉京、南離族の邸宅にて

 乱れた碁盤の上、碁石が散らばっていた。細長い指がその内の一つを拾い上げ、掌の中でそれを揺らした。

ヤンシェズ:どうして……

明四喜:どうしてそんなに大勢の人を集めたのかと聞きたいのですか?

ヤンシェズ:……

明四喜:式典の規模が大きい方が、神君にも四聖にも相応しいではありませんか?

ヤンシェズ:……

 明四喜(めいしき)が細長い指を開くと、白い粉が星屑のように碁盤の上に零れ落ちた。 

明四喜:フフッ、わからなくても良い、ただ不才を信じ続ければ良いのです。


終・神君

老人:天幕が!!!!神君だ!!!!朱雀神君が!!!!!!!!!!!!!

 老人の叫び声につられ、隠れていた人たちは次々に出てきて、災厄から生き延びた歓声を上げた。

町人A:……神君様!!!!!朱雀神君が俺たちを救ってくれたんだ!!!

町人B:神君──神君──神君──

 神君の名を一斉に唱え始めた人々を見ると辣子鶏は思わずふんと言った。

辣子鶏:さっきまで神君が死んだだのほざきながらまた神君を崇めやがって。

トンポーロウ:良きかな、良きかな。それよりお主こそ、普段は面倒はごめんと言っていたのに、人助けの時は人一倍頑張っておったな。もう動けんだろう?もう少しでお主もモフモフ鳥も息絶えるところじゃった。ガキんちょめ、お主が死んでしまっては、お主の師匠に合わす顔がなくなるではないか。

辣子鶏:……お前!

トンポーロウ:文句でもあるのか?吾に殴りかかるだけの気力も残っておらんくせに?違うか~

 力を使い果たしてしまった辣子鶏マオシュエワン八宝飯に担がれたまま、東坡肉を睨んだ。そして東坡肉は彼の髪をグシャグシャとかき乱した。

トンポーロウ:まあ、小童、今回はよくやった。師匠の名に恥じぬ戦いっぷりじゃったな!

辣子鶏:……

トンポーロウ:どうしたどうした?泣いちゃうのか?

辣子鶏:うるさい失せやがれ!!ちょっとだけ年上だからっていつまでもガキ扱いするんじゃねぇ!

 騒ぎが収まり、辣子鶏は再び祭壇のほうへ目をやった。南翎はそこにぽつんと佇み、手の中の大きな赤い卵を見てぼんやりとしていた。辣子鶏は腕を差し伸べ、その卵を自分の胸に抱き寄せた。

南翎:……そ……その子は……大丈夫ですか?

辣子鶏:大丈夫だ、力を使い果たしただけ。俺の計算ミスだ。自身の形を保つ力までお前に貸してしまった。

南翎:私は……

 まるで後ろめたさのない辣子鶏の言葉に気付いたのか、その卵は数回強く揺れた。

辣子鶏:よう!出てきてみやがれモフモフ鳥!痛てて──

 辣子鶏の手から跳び上がり、額にぶつかる卵を見て、冰粉は仕方なくそれを受け取り、思わずため息を漏らした。

冰粉:城主、まだ話があるんでしょう。

辣子鶏:……

南翎:……城主様……私……

辣子鶏:いいから、もう何も言うな。今度美味いもんでもふるまってもらうからな。

南翎:それはもちろん──

辣子鶏:それから……前に言ったこと、忘れるなよ。

南翎:……

辣子鶏:これからは、お前が朱雀神君だ。狂より衆生のためにのみ悲しみ、喜び、その身は天地に恥じず、心に恥じず。

南翎:南翎、万民の命承りたり。

 「盛華年」完

(明転)

 ……

(明転)

親愛なる御侍様:

ここまでお読みいただきありがとうございます。
まず、この1年間お付き合いいただき重ねて御礼申し上げます。

この1年は、とてもつらい月日でした。みなさまの人生の中でとても暗い1年だったかもしれません。数え切れないほどの悲報が2020年を駆け抜け、数多くの悪いニュースが、私たちの心を深く傷つけました。
しかし、全ての暗雲は過ぎ去り、私たちは素晴らしい新年を迎えようとしています。
ティアラ大陸のように、この世界にどんな多くの暗闇があったとしても、苦難の前に立ち上がって、すべてのことを負い進んでいく英雄たちがいます。
彼らには食霊のような不老不死の能力はないかもしれませんし、食霊ほど強い力はないかもしれません。食霊のように……

しかし、どんなに苦しくても、彼らは私たち力なき人々の前に立ち、平和な天空を切り開いてくれました。
ここまで読んでくれた仲間たちの中には、みんなのために心血を注ぎ、力になってくれた英雄がいるかもしれません。
勇気をありがとう、苦しいときに頑張ってくれてありがとう。
その努力があればこそ、私たちはこうやって笑顔で安全のまま、家で、学校で、会社で、あらゆる場所で、このような一文をしたためることができます。
同時に皆様にも感謝の念でいっぱいです。皆様の笑顔こそ、皆さまの頑張りこそ、ティアラ大陸にいるすべての人に力を与えてくれました。
泣いても大丈夫、つらいこともいつか乗り越えられます。
涙を拭える限り、胸を張れる限り。
私たちが笑顔で、夢を持っている限り、やがてこの世界は私たちが最も愛した姿に戻るでしょう。

ティアラ大陸はみなさまの夢の力で生まれました。たとえ笑顔を浮かべてくれる人が1人だけだとしても。ティアラ大陸には素晴らしい未来が開けるのでしょう。
ティアラのように、皆様のために重荷を背負って歩く英雄たちにも、その笑顔がと応援が必要です。人々が笑顔になることで、夢の力で、世界はきっとより良いものになるでしょう。
私たちの物語がどれほどの力を持つのかわかりませんが、愛してくれたすべての仲間にありがとうを。かつてこの世界のために笑ったり泣いたりした仲間にありがとうを。ティアラに来たことはないけれど同じように世界の素晴らしさを信じている仲間たちにありがとうを。
すべての人が素晴らしい夢を描き、望みを叶えられますように。
この世界がいつまでも元来の美しさを保てますように。
ティアラの全ての人より、皆様に心からの祝福を捧げます。

皆様が泣くとき、その涙の一滴一滴がティアラ大陸を濡らす雨となり、笑うときも、その笑顔は青空に輝く虹となりますよ。
どんなときも、ティアラのみんなは、異なる世界でみんなさまと共にあります。
だから!ティアラの創世神であるみなさま!ティアラの皆に心配かけないようにね!
笑いましょう!頑張って生きていきましょう!きっともっと素晴らしい明日が待っています!





2020年末と、2021年の始まりに
「フードファンタジー」設定班

これを見てもう終わったと思った?
ふふ、こんな簡単に終わるわけないでしょう。でも、別にもう話すことはないんです。ただのもの書きである私たちは、これまでみなさまに自らの筆でメッセージを届けることしかできませんでした。今回このような機会にこっそりと(一方的に)皆様と話をすることができましたね。
今回のイベントは、花神祭り、さらにはおとぎの夢の前、極めて重要なターニングポイントです。北京ダックがついに、世界を変える人を連れて来てくれる赤ワインビーフステーキに出会いました。
そして登場する一部のキャラクターや、いくつかの異様な状況からすでに推測できる人もいるのでしょう。詳しくはいま説明いたしません。世界観的には、たしか前後二つの世界が存在していて、それらはいくつかの共通点がありますが、いくつかの鍵となるキャラの動向によって、時間線が変わっていきます。
いつの間にか、このゲームは二年以上皆様と共に、泣いたり笑ったりしてきました。ティアラは、私の心の中では、もはや架空の場所ではなく、実在する世界になりつつあります。別世界にいる友人のように、ティアラの人々は自分たちの物語を語ってくれました。だからここまで見てくれた皆様、本当に感謝しています。
未来を切り開こうとするティアラの皆を見守ってくれてありがとう。
未熟な私たちが書いた物語を読んでくれてありがとう。
本当に、感謝の気持ちでいっぱいです。
ティアラという小さな世界が、皆様の心の中に、小さな痕跡でも残せるよう願っています。このままいつかフードファンタジーが終わるとしても、ティアラの物語は、永遠に終わりません。

さて、今度こそ終わりましたよ。

どうしてまだタップしているのですか?

……本当に終わったってば。

今回は本当に、本当に終わったんですから。

……

どうしてまだ……

分かりました。

最後に一言だけ。

何年経っても童心のままでいられますように。親愛なる皆様が、この素晴らしい世界に癒されますように。

──世界で一番大切な『フードファンタジー』の御侍様たちへ

八方来聚(北京ダック)

借り

俺に借りがある。

 薄暗いろうそくの光の下、玄鉄門の上に彫られた獣は、いつでも襲い掛かって来そうな程獰猛で恐ろしい形相をしていた。

 ゴゴゴゴゴ――

 大きな音とともに、巨大な門が内側から開かれ、門の奥で獣の双眸が冷たく鋭く光った。しかし次の瞬間、奥から出てきたのは、大人しくて、ぼんやりとしているようにさえ見える子どもだった。

猫耳麺:城、城主様、人参様がお呼びです。

辣子鶏:ぷっ、猫猫耳ちゃん、地府ではお前が一番利口だな。

 赤い服を着た偉そうな青年は笑いをこらえきれず、猫耳麺(ねこみみめん)の頭を撫で回しながら、頬までつねり始めた。柔らかな頬は彼につねられた事で赤くなった。

猫耳麺:うっ――

???(人参):……城主様、これ以上諦聴(たいちょう)をからかわないでください。

 玄鉄門の奥から聞こえてくる声はいつも通り穏やかだったが、猫耳麺だけは声に微かな無力さが混じっている事に気付いた。

辣子鶏:ハッ、この中に居すぎて、言葉も話せなくなったのかと思ったぜ。

???:諦聴、壁際に隠れている者たちを連れて下がっていなさい。城主様と話す事があります。

猫耳麺:はい!

 猫耳麺は丁寧にお辞儀をしてから、少し離れたところまで走っていった。そして引きずるように、壁際で盗み聞きしていた仲間たちを連れて行った。

 玄鉄門のそばに立っていた辣子鶏(らーずーじー)は、去って行く彼らを笑いながら見送った。そしてゆっくりと果ての見えない部屋に入っていった。重たい門は彼の背後で再び閉じられた。彼はがらんとした部屋を見て口を尖らせ、自分の伴生機関獣に椅子を持って越させて、そこに座った。

辣子鶏:で、わざわざ東坡肉(とんぽーろー)を使って呼び出した訳を聞かせてもらおうか?

???:そなたに相談したい事があったためです。

辣子鶏:ほお〜俺に頼み事か?

???:……

辣子鶏:遠い所から俺様を呼び出しておいて、茶の一杯も出さないなんてな。国師監の爺さんが教えた礼儀作法をすっかり忘れちまったのか、弟弟子くんよ?

???:……此度そなたを呼び寄せたのは、四聖の朱雀に関する重大な話があるからです。吾の代わりに玉京に行って頂きたい。もし玉京が襲われた場合、塗炭の苦しみから人々を救ってください。何せ、そこは吾らの故郷ですから。

 辣子鶏は眉を上げたが、挑発を無視された事を気にする事はなかった。彼は伴生機関獣の離火(りか)が愚痴もこぼさず、どこからともなく引いて来た茶器に手をかけ、自分のために茶を淹れ、口をつけた。

辣子鶏:四聖の朱雀?!……まだあいつを探しているのか。

???:朱雀が見つかれば、玄武の行方も聞き出せるやもしれません。

辣子鶏:探してどうする、とっくの昔に死んだだろう。

???:……

辣子鶏:フンッ、わかったわかった、一つ貸しにしておくぜ。じゃあな。

???:ありがとうございます。

辣子鶏:そうだ。今度会った時は、素直に兄弟子と呼んでくれよ〜俺のカワイイ弟弟子くん。

(明転)

 地府から機関城に戻った辣子鶏の口元には、まだ笑みが浮かんだままだった。突如強い熱風が彼目掛けて襲ってきたが、彼はとっさにそれを避けた。

 ドンッ――

 大きな衝撃音が響き、その場にいた全員が首をすくめた。猛スピードで辣子鶏に向かって突進したが、城門にへばりつく事になってしまった黄金色の毛玉を見て、冷や汗をかく者もいた。

マオシュエワン:……死んだか?

モフモフ鳥:死んでないわ!!!!!辣子鶏このチキン野郎が!!どこに行ってたどうして俺様を連れて行かなかった!!!あ――

 辣子鶏によって張り飛ばされた黄金色のモフモフ鳥を見て見ぬふりして、冰粉(びんふぇん)は辣子鶏を迎えて箱を受け取った。

冰粉:ん?これは八宝飯の八方羅盤ではないですか。どうしてここに?

辣子鶏:貰った。あっそうだ、方向を変えて玉京に行くって回鍋肉(ほいこーろー)に伝えといてくれ。

マオシュエワン:えっ??今年は花神祭りに行くんじゃねぇのか?花神を見ようと思ってたのに!綺麗なお姉さんかもしれねぇじゃん!

辣子鶏:お姉さんがいくら綺麗だとしても、お前みたいな馬鹿に目もくれねぇよ。また来年だ、今年は神君の継承式典に参加するぞ!

(明転)

機関城の頂上にて

辣子鶏:やっぱここにいたか。

トンポーロウ:ああ、城主来たか。ははははは!さあさあさあ、一緒に食べよう!良い酒もある!出来立ての肉もじゃ!

辣子鶏:……お前、これ以上食ったらあのデブ鳥と同じように肥えるぞ。

トンポーロウ:ははは!!!良いではないか!体が太った分、心も広くなるじゃろう!

トンポーロウ:あーそうじゃった。高麗人参から継承式典の話は聞いただろう?

 機関城という巨鳥のような巨大な機械の頂上、辣子鶏の裾は風に吹かれてゆらゆらと靡いていた。彼は流れる白い雲や鳥を眺めながら、何か考えているようだった。ふと、笑い声が聴こえて来て、彼は声のする方に振り向いた。

マオシュエワン:ああああ!!!モフモフ鳥!!!俺の肉を放せ!!

モフモフ鳥:俺様の!!俺様の物だ!!!

 暴れている仲間たちをぼんやりと見ていた辣子鶏は、再び流れる雲の方に視線をやった。いつもの瀟洒(しょうしゃ)はなく、どこか嘲弄(ちょうろう)めいた笑みを浮かべていた。

辣子鶏:ああ。フッ……朱雀神君か……

トンポーロウ:そうじゃ、朱雀神君。

辣子鶏:フンッ、何年経っても、人間という生き物は変わらないな。

トンポーロウ:おいおい、辣子鶏。お主に暗い顔は似合わないぞ。笑ったらどうじゃ?お主は笑顔が一番じゃ。

辣子鶏:フンッ!

トンポーロウ:おや、笑っているじゃないか。


城主

見て!大きな鳥!!

北京ダック:わざわざご丁寧に、どうぞこちらへ――

北京ダック:おや、錦安城の皆様ではありませんか、さあさあこちらへ――

兵士:国師監の使節が――

北京ダック:(国師監?国師監は既に……)

 城門に向かって急いでいた北京ダックが辿り着く前に、玉京城の人々の叫び声が聞こえてきた。

子ども:ママ、見て!大きな鳥!!!

 子どもが指している方を見ると、鳥のような影が少しずつ大きくなっていき、段々と町程の大きさになり、玉京城を覆った。この時、大きな城はようやくその全貌をあらわにした。

北京ダック:(これは……まさか……)

 まだその場にいる人々が状況を理解する前に、巨鳥のような機関城から長い棒が落ちてきた。次の瞬間、その棒はガチャガチャと音を立てながら華麗な木の梯子になった。

 微妙な沈黙の仲、梯子の上から赤い人影が降りてきた。天上から降臨なさった仙人なのかと驚嘆する前にーー

八宝飯:辣――子――鶏――ぜぇ――ぜぇ――オイラの八方羅盤を返せ!!!!!!

 どこからか走って来た青年は、息切れしたまま人混みを越え、梯子を降りてきた赤い服の青年の首を掴んだ。

 次の瞬間から、喧嘩を止めようとしている者、挑発する者、殴り合おうとしている者がもみくちゃになった。

 城門でこれ以上騒ぎが広がる前に、北京ダックは一つ咳払いをして「国師監」とやらの使節を迎えた。

北京ダック:あの、失礼かと存じますが、国師監の使節はどちら様でしょうか?

 喧嘩していた二人は、人混みの前に立っている北京ダックを見て、フンッと鼻を鳴らしてから手を離した。

辣子鶏:俺だ、お前が担当の者か?

北京ダック:はい、しかしこれは……

辣子鶏:ああ、機関城の事か?大丈夫だ、後で部下がなんとかするから、ずっとここには止めねぇよ。

北京ダック:なら良いです、皆様こちらへどうぞ。

八宝飯:どこに行くんだ?

北京ダック:此度神君の継承式典を開催する南離族が、皆様のために住居を用意しております。こちらへどうぞ。

辣子鶏:いや、俺たちは国師監に泊まればいい……

明四喜:機関城の城主様のご来駕ですか。お噂は伺っておりますが、本当にお会い出来るとは思いませんでした。今度は国師監の使節として、ここまで来られたのですか……機関城も国師監と縁があるようですね。

 人混みをかき分けてやって来た男の声を聞いて、辣子鶏は振り返った。穏やかな笑顔を浮かべた明四喜は一行の前に現れ、辣子鶏に向かって手を伸ばした。

辣子鶏:……

 ぴくりとも動かない辣子鶏を見て、八宝飯は肘で彼をつついた。

八宝飯:おいっ、あんたに話しかけてるぞ!

辣子鶏:醜い笑顔だな。冰粉マオシュエワン、行くぞ!

八宝飯:おいっ、あんた!

八宝飯:あ、あの、悪い!アイツは変わってるんだ、気にしないでくれな。おいっ待てよこの野郎!!

 北京ダックは伸ばした手をゆっくりと引っ込めた明四喜を見ても、笑顔を変える事はなかった。しかし興味あり気な笑みを浮かべながら、手を上げて自分の口元をさすった。

北京ダック明四喜様のその「不敗の笑顔」が通用しない事もあるのですね〜

明四喜:機関城の城主は勝手で気ままだと伺っておりますが、実物の風格はそれ以上ですね。

(明転)

???:機関城のやつらまで来てる……明四喜の野郎何するつもりだ……


守る

四聖の生まれ変わりで、四聖の力を持ち、光耀大陸を守る者。

辣子鶏八宝飯、なんでお前も来てるんだ?

八宝飯:なんでって?あんたがオイラの八宝羅盤を盗んだからに決まってるだろ!どのツラ下げて聞いてるんだよ?!

 二人がまた喧嘩になりかけたその時、柔らかい愛らしい声が二人を制止した。

猫耳麺:城主様!八宝飯

辣子鶏:あれ、猫猫耳ちゃんまで来たのか?他には誰が来てるんだ?

猫耳麺:無常様も忘川様も、遡回司様もおります。うぅ!!

八宝飯:よいしょ――

 八宝飯猫耳麺を抱えて自分の肩に乗せ、あたりを見回してみたが、見覚えのある姿はなかった。

八宝飯:じゃあ、ヤツらは?どうしてあんた一人なんだ。

猫耳麺:用事があると言っていました。僕がここに残っているのは、お二人が喧嘩しないよう見張っているようにと、人参様に言われたからです。

八宝飯:……

辣子鶏:……

猫耳麺:しかし、ここには本当に人がたくさんいますね、見たことのない服を着ている人もたくさんいます。

八宝飯:そりゃそうだ、猫猫耳ちゃんはこういうの初めてだろう?光耀大陸では創世日の祭典と同じくらい大きな祭りだ。

猫耳麺:創世日の祭典のように盛大ですか?

八宝飯:そうだ、あっ……でも具体的にはよくわかんないんだけど……先生!わかりますか?

冰粉:ええ、猫猫耳ちゃん、今ここで行われている祭りは神君継承をする時だけに行われるものです。神君はわかりますか?

猫耳麺:はい!知っています!四聖の生まれ変わりで、四聖の力を持ち、光耀大陸を守る者ですよね!

冰粉:はい、そうですよ。継承式典では、万民の美しき祈願を供え物とし、神君はその供え物から強い力を受け取り、先代の神君に代わって光耀大陸を守り続けます。

猫耳麺:うっ――

冰粉:そのため、光耀大陸において、時代がどんなに変わろうとも、玉京で戦争は起こりません。玉京は神君の在り処であり、神君の力で光耀大陸の天幕が維持されています。故に、他の土地に比べて、光耀大陸の堕神は少ないんです。

猫耳麺:はい、神君は凄いですね。

冰粉:そうですね、神君が凄いから、光耀大陸を虎視眈々と狙う悪い奴らは手出しが出来ないんです。しかし、今や神君の白虎は大陸中で暴れまわる堕神のせいで弱体化しており、神君の後継者が現れる時機も、まだ来ていないらしいです。

猫耳麺:……ならどうすれば良いのですか?

冰粉:幸い南離族の人々が、早く降臨した朱雀神君を見つけたと宣言したのです。この予定より早く降臨した神君が、光耀大陸のこの事態を解決してくれる事になっています。

辣子鶏:フッ、だから光耀大陸以外の者を玉京に招いたのだろう。

冰粉:その通りです。百年に一度の光耀大陸の継承式典に参列して、万民の祈願の素晴らしさを体験しに来たと口をそろえて言っていますが。本当の目的は、本人にしかわかりません。

辣子鶏:フンッ、神君が見つからなくて困っている時に、神君が早めに現れるなんてな、天が玉京の味方をしたってか。

八宝飯辣子鶏、あんたはこれが良い事じゃないと思ってるのか?

辣子鶏:それが本当の神君なら良いが、もしこの神君が最初から作り物だったとしたら?

 和気藹々としていた空気は突如重くなった。そして突然響いた悲鳴が、この不気味で息が詰まる沈黙を破った。

子ども:あああああ!!!!!!!!!!

八宝飯:ヤバい!なんでこんなところに堕神が!!


来客

帝国連邦。

八宝飯:大丈夫か!

子ども:うわああんーーママ――

 驚いただけで怪我のない子どもを見て、八宝飯もホッとした。振り返ると、辣子鶏も先程までの沈黙から抜け出していた。

ローストターキー:大丈夫か?!!!

辣子鶏:……外国の者か?

ローストターキー:失礼、余は帝国連邦のローストターキーだ。

エッグノッグローストターキー――どうしました?

ローストターキー:いや!大丈夫だ!先程船室から堕神が出て来たんだ。

エッグノッグ:堕神ですか?!

 急いで船を降りてきた青年は申し訳なさそうにその場にいた全員に謝罪し、眉をひそめて巨大な客船を見つめた。

エッグノッグ:……僕たちは船に乗っていましたし、船に乗る前は全ての船室に入念にチェックしました……堕神がいたのなら発見出来た筈です。

辣子鶏:船に乗る前にきちんと確認したのか?

エッグノッグ:そうです。ローストターキーは光耀大陸に行くと聞いてから興奮して一番中眠れていなかったため、出発前に客船を何度も見回っていたので……

ローストターキーエッグノッグ!!!!!!!!!!

エッグノッグ:怪我人は出ていませんか?

冰粉:無事です。某とマオシュエワンは周囲に聞き込みしましたが、驚いた者はいたものの、怪我をした者はいませんでした。

ローストターキー:良かった……もし怪我人もしくは器物が損壊していたら、我々を尋ねると良い!最高の神子が治療出来る、全ての損失も補償する。我々は北京ダックが手配した邸宅に泊まっている!

辣子鶏北京ダック

ローストターキー:そうだ、知らないのか?大使館で皆を接待していたあの者だ。

辣子鶏:……どこかでその名を聞いたような……

ローストターキー:うん?ああ、それより先に他の客船の検査するぞ。他の客船でもこんなトラブルが起きていたら大変だ!

 走り去っていくローストターキーの背中を見て、エッグノッグは思わず笑った。彼は振り返って辣子鶏に軽く会釈をした。

エッグノッグ:我らが陛下は外見は幼いが、しっかりとした君主です。もし本当に怪我人や何か損失がございましたら、是非遠慮なく仰ってください。それでは、僕も先に失礼致します。

 二人が去って行くのを見て、八宝飯は眉をひそめて、辣子鶏の傍に寄った。

八宝飯:おい辣子鶏、天幕があるのにどうやって堕神を海外から光耀大陸に連れて来られるんだ?

辣子鶏:外から来たんじゃねぇのなら、中から現れたんだろう。

八宝飯:…………あーなんだか、面倒くさくなりそうだ。

辣子鶏:そんなに深く考えるな。

八宝飯:えっ?

辣子鶏:どんな面倒事がやって来ても、全部焼いてしまえば良い。

八宝飯:そうだな……えっ――もう行くのか!オイラを置いて行くな!


聖主が降臨の際、彼は役立たなくなる。

同時刻

南離族邸宅

 陽射しの届かない奥の部屋で、働きづめの明四喜は、痛くなっている額をさすっていた。足元の黒い影に向かって、目も開けないまま手を振った。

明四喜:構わない、下がっていてください。

 いつの間にか現れた青年は、頷いて再び影の中に戻った。明四喜は顔を上げて部屋の隅を見た。

明四喜:計画が本格的に実行されるまで、当分は会わないようにと仰ってませんでしたか?

チキンスープ:フフッ、こんなに多くの旧友を招いて、まさか、裏切るつもりか?

明四喜:聖女様ご安心を。不才らが共通の望みを持っている限り、不才らは友です。

チキンスープ:友と言うならば、妾に明四喜様の思惑を教えてくださらない?妾も力になりたいのです〜

明四喜:聖女様はもしかして不才の事を信用できないのですか?

チキンスープ:そんな事は。明四喜様は妾たちのためにこの祭りを手配してくださった。こんなに良い機会をくださって、感謝していますよ。

明四喜:堕神だけで、万民の信仰を失わせるのは不可能です。

チキンスープ:妾はただ聖主の降臨だけを願っています。世間知らず故、これ以上の策は思いつかぬ……明四喜様、ご教授願えませんか?

明四喜:貴方方が連れてきた堕神を逃した理由を不才に問い質すのかと思いました。

チキンスープ明四喜様がそうなさるのは計画の一環だと、妾は信じております〜

明四喜:フフッ、お世辞はよしてください。彼らは既にこの祭りを疑い始めています、不才は彼らから暇を取り上げようとしたまで。

チキンスープ:では、堕神以外にどんな手を下せば良いのですか?万民の信仰を完全に消滅させなければ、聖主は神君のカラダを奪う事は出来ませぬ。

明四喜:安心してください、全ては手配しておきました。今度こそ、邪魔者を一網打尽できるやもしれません。

チキンスープ:ほお?

 邸宅から出たチキンスープの顔から笑みが消えていく。

黒服の人:聖女様、あ奴は何か言っていましたか?

チキンスープ:フンッ、この式典の名目で、玉京を丸ごと破壊できるものを埋めてある、それが万民の信仰をも消滅できると言っていた。

黒服の人:本当ですか?!それは――

チキンスープ:役立たず。

黒服の人:……

チキンスープ:彼の言う事を鵜呑みにするのか?

黒服の人:……う。

チキンスープ:彼がどんな準備をしたとしても、あの失敗品は既に荷物の中に隠して持って来ています。もし彼が妾に嘘をついたとしても、計画は正常に進行するでしょう。

黒服の人:では、あ奴は?

チキンスープ:聖主が降臨の際、彼は役立たなくなる。


兄弟

どうしてここにいる兄弟!

玉京

国師監

 ドカーンーー

???:ロンフォンフイ!!!!!!!!!!

八宝飯:うわっ――

 夜が明けたばかり、昨日玉京に着いたばかりの機関城と地府の者は皆自分の部屋で熟睡していた。突然の大きな音によって八宝飯は寝台から落ちた。

八宝飯:どうしたどうした!

 目を細めて髪が乱れている八宝飯は、部屋から頭を出して、同じく曇った表情の辣子鶏と見つめ合った。

辣子鶏:誰だ!俺様の睡眠を邪魔しやがって?!

八宝飯:隣の庭だろ。

辣子鶏:隣の庭?

マオシュエワン:誰だ!!朝っぱらから爆竹で遊んでる奴は?!!

モフモフ鳥:う――

辣子鶏:なんだ、モフモフ鳥目が覚めたか?冬眠してるのかと思ったぜ。

モフモフ鳥:何度も言っているだろう!!モフモフ鳥じゃない!辣子鶏め――

辣子鶏:うるせぇ。

 辣子鶏が無造作にモフモフ鳥を叩くと、黄金色の丸っこい鳥は壁の方まで飛ばされた。細い二本の足を壁に引っかけたため、向こうの庭に飛ばされる事はなかった。

モフモフ鳥:ははっ――!辣子鶏チキン野郎が――あっ、蕎麦!!!出せ!俺様は食べられないぞ!!!

八宝飯:はははははは――蕎麦――!早くモフモフ鳥を吐き出せ!食べたらあんたも丸っこくなるぞ!はははは!

 堀の上に跳び上がった巨大な猫は首をかしげ、口の中の「食べ物」は美味しくないと感じたのか、嫌そうにその黄金色の毛玉を吐き出した。

八宝飯:あっ……隣に行っちゃった。

冰粉:……朝っぱらから何しているんですか……拾ってきます。

 起こされて嫌そうな顔をしている冰粉が庭を出る前、一人の青年がツバまみれのモフモフ鳥を国師監の入口まで持ってきた。

ロンフォンフイ:あーわりぃんだけど、オメェらのペットがオレたちの庭に飛んで来たぜ。

マオシュエワン:な、ななっ……ロンフォンフイ!!!!!!!!!!どうしてここにいるんだ兄弟!

ロンフォンフイ:どうしてオレの名を……待て!マオシュエワン?!!兄弟!!本当にオメェか?!死んだと思ってたぜ!!!本当か?!!!!!夢じゃねぇよな?!!!

 庭にいた全員が状況を把握する前、一切興奮した二人は抱き合い、信じられない顔でロンフォンフイマオシュエワンの腰帯を外そうとしていた。

ロンフォンフイ:あん時、オメェの体は粉々に砕かれていただろ――大丈夫か?!どうやって治した?!もうなんともないのか?!

マオシュエワン:ちょっと待て!!!よせ!!ここに女もいるんだぞ!!!!

冰粉:ゴホンッ――マオシュエワン、それより説明は?これはどういう状況ですか?

マオシュエワン:ああ!彼は兄弟のロンフォンフイだ!

ロンフォンフイ:オレの兄弟を助けたのはオメェらか!!ありがとな!!!

 ロンフォンフイはその場にいる人々にお辞儀をしようとしたが、冰粉はそれを止めた。

冰粉:彼を助けたのは城主です。それに彼は既に某らの仲間です、仲間を助けるのは当然の事です、礼には及びません。

北京ダック:……ロンフォンフイ、ここで何をしているのですか?

 朝食を持ってきた北京ダックは、肩を組んでいるロンフォンフイマオシュエワンによって入口を塞がれていた。そしてロンフォンフイの腕を訝し気に見ていた。

ロンフォンフイ:悪徳商人!悪徳商人早く来い!昨日オレたちに監視させたヤツら!オレの兄弟の命の恩人なんだとよ!

マオシュエワン:親分!親分!!!俺の兄弟の友なら、聖教の事は彼の仕業じゃないと思う!

辣子鶏:は????

北京ダック:え?


敵ではない

お前らが確かに敵じゃない前提だね。

辣子鶏:なら、あの堕神は、お前の仕業じゃねぇのか?

北京ダック:……そなたたちの仕業かと思いました。国師監からは何年も使者が来ていませんし、あのような派手な登場をしていましたので。

マオシュエワン:あれか、あれはうちの城主が、自分の勇姿を全ての人の記憶に刻まないといけないと言ってたからで……痛い痛い――

冰粉:城主がわがままで、すみませんでした。

 冰粉が見物客を全員庭に追い出すと、しばらくの間、部屋の中は異常な程静かになった。余計な気を張っていた二人はなんだか疲れていた様子だった。最終的に辣子鶏がその妙な気まずさを破った。

辣子鶏:はぁ、行くぞ!なんだ……悪徳商人だっけ?

北京ダック:城主様、直接北京ダックとお呼びください。

辣子鶏:うん……やっぱ悪徳商人の方が呼びやすい。

北京ダック:……お好きにどうぞ。

辣子鶏:行こうぜ、海外から来た奴らに会いに行こう。

北京ダック:城主様は吾を信用してくれるのですか?

辣子鶏:お前は我が機関城の者が身元を保証した奴に過ぎない、俺が信用しているのは別にお前じゃない。もし我が機関城の者を裏切ったら、俺はお前を焼き尽くしてやる。

北京ダック:……

辣子鶏:……行くぞ、何をボーッとしてんだ?

しばらくして

ローストターキー:今度の十二隻は全部チェックしたのか?

兵士:はい、陛下。出発前に入念にチェックしました。

ローストターキー:……おかしい……あぁ、昨日の……そしてダックさん。

辣子鶏:何をしているんだ?

ローストターキー:昨日、一匹目の堕神が現れた後、次々と堕神が船室から現れて、我々は自分たちで調べているところだ。迷惑を掛けてしまってすまない、余は必ず――

シャンパン:謝るな、この堕神は別に俺たちが連れてきたわけじゃない。

 シャンパンは、北京ダックに向かって謝罪しようとするローストターキーを制し、光耀大陸の者たちに視線をやった。

シャンパン:俺たちを接待してくれる役人が聞くならまだしも、こいつに何の資格があるんだ?光耀大陸の接待とはこのようなものか?

 シャンパン北京ダックとその横にいる辣子鶏を冷たい目で見た、顔色はどう見ても良くなかった。

辣子鶏:まあ、お前らの敵じゃないのは確かだ。

 そんな目で見られても、辣子鶏は他の者と違って狼狽える事は無かった。笑みをおさめ顎を上げた機関城の城主は、凛然としたオーラでシャンパンの視線を押し返した。いつもの自由気ままさを脱ぎ捨て、熱を帯びたような威圧感を漂わせた。一瞬のうちに、周囲の温度も上昇した。

 国王と城主の睨み合いの空気が重く、周囲の者たちはとても静かにしていた。ローストターキーは二人の間に何が起こって、どうして犬猿の仲になったのかわからなかった。しかし双方の傍にいる者は悠長な顔をして、まるで旧知のように世間話を始めた。

エッグノッグシャンパン様を前にして、これほど強く出られる人を僕は初めて見ました。

北京ダック:そうですね、二人は初対面ですが、似た者同士なのでしょうか。

ローストターキー:???

エッグノッグ:そうですね。二人は友だちになれるかもしれません。

ローストターキー:??????

 ローストターキーの驚く視線の中、北京ダックエッグノッグは笑みを浮かべたまま、対峙している二人を見ていた。一緒即発の中、突然二人はオーラを抑えた、その上相手を褒め称えるような視線を送った。

辣子鶏:お前悪くねぇな。俺は機関城の城主、辣子鶏だ。

シャンパン:お前もなかなかだ。俺はシャンパン。ビクター帝国の王だ。


気立てが良い

他の人に頼まれて。

シャンパン:お前もなかなかだな。俺はシャンパン。ビクター帝国の王だ。

 簡単なやりとりの後、辣子鶏シャンパンも、さっきのふざけた挑発をやめ、真剣に情報交換を始めた。

辣子鶏:一つだけ確認させてくれ。堕神は確かにお前らが持ってきたもんじゃねぇんだよな?

ローストターキー:ああ、余と陛下は何度も確認したし、そして後続の客船は法王庁の七戒律が護送していた。堕神を連れてくる以前に、まず道中の海域ですら堕神に遭遇する事もなかった。到着した後は、我々以外だと大使館の方々しか船に乗れない……

辣子鶏:わかった。

シャンパン:この説明だけで、俺たちを信じるのか?

辣子鶏:お前らはこんなウソをつくようなたまじゃねぇだろ。

北京ダック:城主のおっしゃる通りです。お二人がこのような稚拙な嘘をつく訳がありません。

ローストターキー:……

シャンパン:なんだ、お前らの顔からすると、誰の仕業かわかってるのか?

北京ダック:結論から申しますと、なんとなく心当たりはございます。城主はどう見ますか?

辣子鶏:回りくどいな、誰の仕業なんてどうでも良い、大切なのは奴らの目標は継承式典だって事だ。

シャンパン:それはそうだが、俺たちも手伝おうか?

辣子鶏:光耀大陸の事は、自分たちで解決出来る。客の手を煩わせない、これが光耀大陸の気品なんだ、そうだろう、悪徳商人?

北京ダック:城主の仰る通りです。此度、陛下らにも被害を及ばせてしまったのは、吾らの過失です。これ以上ご迷惑をお掛けできません。陛下らは是非特等席で見物をしてください。

シャンパン:では楽しみにしているよ。

 シャンパンたちとわかれ、辣子鶏の後ろにいる北京ダックは、この気ままな機関城の城主を背後から見つめた。

 噂によると、光耀大陸には天上の城があり、それはあらゆる苦難を断つ桃源郷だと言われている。そしてその城の城主こそ、目の前にいる、威張っているようにも見える、頼りなさそうな青年である。

 北京ダックは、玉京の景色を見回しているこの青年を見て、何の躊躇もなく、どこか誇らしげに言い放った言葉を思い出した。

(明転)

辣子鶏:お前は我が機関城の者が身元を保証した奴に過ぎない、俺が信用しているのは別にお前じゃない。もし我が機関城の者を裏切ったら、俺はお前を焼き尽くしてやる。

(明転)

 その時、その青年の笑顔は偽りの物ではなかった。彼は自分の仲間を心から信じ、仲間が信じている人にも全幅の信頼を置いているのだ。

 つい先程、シャンパンに出会ってからも、彼は同じように彼を信用することにした。これは彼の愚かさではなく、自信の表れだ。どんな手を使って、どんな罠を仕掛けても、容易く覆す自信がある。

北京ダック:フフッ……

辣子鶏:うん?悪徳商人よ?何を笑ってるんだ?

北京ダック:いえ、ただ城主は気立ての良い人だと思っているだけです。一つお聞きしたく存じますが、世の事に干渉しない機関城は何故此度玉京にいらしたのか、何故玉京のために此度の継承式典の面倒事を解決しようとしているのか?

辣子鶏:ひとに頼まれたからだ。

 北京ダックが次の質問をしようとした時、聞き覚えのある声が突然聞こえてきた。

トンポーロウ:城主――こっちじゃ!

マオシュエワン辣子鶏――早く来ないとあんたの酒は全部八宝飯に飲まれちゃうぞ!!

 声がする方向を見ると、酒楼の奥に座っている機関城の皆が笑いながら手を振っていた。

辣子鶏:俺の酒を下ろせ!!!八宝飯待ってろよ!!今度こそ離火で風穴だらけにしてやる!!

 怒りに満ちた言葉だったが、笑みは隠しきれていない。急いで酒楼に向かっている辣子鶏の後ろ姿を見て、問い詰めようとしていた北京ダックは手を引いて、軽く口元を上げた。

北京ダック:このような城主がいたからこそ、こんなに良い仲間がいるのだろう……


 暖かい陽射しが行き届かない場所はあるものだ。

 ギーー

大臣:聖女様、貴方の仰った方法で、本当にあいつへの信仰を我々の神君に移す事が出来るのですか?

チキンスープ:信じて頂けないのであれば、それ以上聞かないでください、妾もこれ以上口にしません……

大臣:いえいえ、聖女様、行かないでください。信じないなんて……前にも聖女様の指示で戌衛郡の裏切りを見破る事が出来ました。ここまで助けて頂いたのに、信じないなんて言えませんよ。

チキンスープ:次の継承者は南離族の朱雀です、彼らが敵か味方か……貴方ならわかるでしょうね。

大臣:フンッ、あいつらは戌衛郡の反乱を撃退するために来たんだと言っていたが、本当の所何がしたいのか!私がわからないとでも!

チキンスープ:そうですよ、白虎神君の力が弱っているところを借り、朱雀をもって貴方の一族を侮辱しようとしているのです。聖主様はこれ以上見ていられないため、妾に手伝うよう仰いました。

チキンスープ:はぁ、興が冷めるような事を言うのはもうやめましょう。覚えていてください、陣法を変えた後、あの鏡を白虎神君の前に置いてください、必ず。

大臣:わかりました、聖女よ感謝致します。

チキンスープ:礼はもう良いです、妾との約束を忘れないように〜

大臣:銘記しております。

暗中飛躍(チキンスープ)

心配

まだ酔ってもよい今には、もう一杯飲もうじゃか。

茶楼

個室

辣子鶏:……八宝飯はともかく、どうして悪徳商人のお前もタダ飯食いに来てるんだ?

北京ダック:このように大きな機関城は、数人分の食事くらい造作もないでしょう?

ロンフォンフイ:あっ!!このシューマイうめぇぞ!マオシュエワンもう一つくれ!

八宝飯:あ、オイラも!!

マオシュエワン:もうないぞ!!店主!シュウマイもっとくれ!!

辣子鶏:お前たち……

冰粉:まあまあ、東坡肉の書画が売れて少し儲けが出ていますし、一食如きで我が機関城を食いつぶしたり出来ませんよ。

北京ダック:では、城主様ありがとうございます。

辣子鶏:悪徳商人め、ここについて来たのは飯を食うためだけじゃねぇだろ?

北京ダック:……

冰粉:気になさらないでください。何かお役に立てる事があるのならば是非気軽に仰ってください。もとより、玉京の動乱を解決するために参りました。

北京ダック:城主は賢い方ですね。吾はかつての敵を探しに参りましたが、吾一人ですと彼らにとって脅威ではありません。

北京ダック:しかし、小舎の友らとここに集まっていると知れば、彼らの行動はもっと隠密になるでしょう……もしかしたら……来る筈の奴も……来なくなるのでは……

ロンフォンフイ:アイツらいつもコソコソしやがって!オレたちがいるって気付くとすぐに隠れちまってよ!ネズミかよ!ウゼェ!

雄黄酒ロンフォンフイ!口に物がある時は話さないでください!龍井、これで拭いてください。

西湖龍井:……問題ない。

八宝飯:だから、オイラたちに表に立って、あんたらの行動を隠して欲しいって事か?

北京ダック:その通りです。

冰粉:その様な計画を、某たちに伝えても良かったのですか?

北京ダック:城主が竹煙と小舎を信頼してくださるのなら、吾らも誠意を示すつもりです。

辣子鶏:――竹煙?

北京ダック:おや?竹煙が何か?

辣子鶏:…………あっ!!!!お前はあいつが言っていたくどくどしい悪徳商人か!!!!

北京ダック:……はい?

辣子鶏:……チチチッ……だけど、お前もあいつが言うほど女々しくはねぇな、さっぱりしていると思う。まあ、あいつの事はもういいや。それなら、彼らを牽制するのは、俺たちに任せろ。

北京ダック:城主の仰った方がどなたなのかわかりませんが、一先ず、城主には感謝を申し上げます……

辣子鶏:そんなのは良いって。ほら、酒を飲もうぜ。

 真面目な話の後の騒がしさはまるで来る大戦の準備をしているかのようだった、小舎の者たちはすぐに機関城の者と仲良くなった。その後やってきた地府の者もロンフォンフイマオシュエワンの情熱によってすぐに環境に馴染んだ。

 全てが平和で美しい。北京ダックは静かに、笑っている者たちを見ていたが、笑みは少しずつ消えていった。

トンポーロウ:何じゃ?一緒に飲まぬか?それとも負けるのを怖がっておるのか?

北京ダック:……

トンポーロウ:今後の事を心配してるのか?

北京ダック:はい。今は楽しく笑い合えていますが……あの者たちがもたらす絶望は……

トンポーロウ:だからこそ笑うのじゃ。

北京ダック:?

トンポーロウ:そのつかみ所のない城主が言ったのじゃ。頭が良いように見える吾らは、実際はちっとも賢くはないとな。

北京ダック:……何故?

トンポーロウ:彼はいつも――

(明転)

辣子鶏:「楽しい時でさえ、将来楽しくない時の事を心配していたら、最早この世には楽しくない事しか存在しないんじゃねぇか?」と言っている。

(明転)

北京ダック:……

トンポーロウ:吾ら食霊は限りの無い命があるように見えるが、いつか消滅する日がやって来て、苦痛しか思い出せないのなら、僅か百年の人生を普通に楽しく生きる人間の方がましではないか?

北京ダック:……消滅する日……

トンポーロウ:屁理屈が過ぎるか?

北京ダック:……他にも何か言っていませんでしたか?

トンポーロウ:ああ、彼曰く、天が落ちて来たとしても、背の高い人が支える。彼がいる限り、吾らは心配なんぞいらん、とな。吾らが機関城にいる限り、彼は吾らの安全で安泰な生活を保障する。味方だと認める人なら、理由なんぞ問わず、守ってやる。

北京ダック:……

トンポーロウ:これが其奴が機関城の城主である所以じゃ。其奴のためなら、どんな危ない橋でも渡る。そして今、お主も其奴の友となった。賢い者よ、一緒に笑おうじゃないか?

北京ダック:……

トンポーロウ:明日には朱雀神君がやってくる。まだ酔っても良い今のうちに、もう一杯どうじゃ?

 北京ダックが再び笑顔になったのを見て、東坡肉は手にしていた杯を彼に渡した。二人は赤く染まった空を見つめていた。

北京ダック:乾杯!


南翎

死にません。

 繁盛している町中、玉京の商人たちはいつものように朝から屋台を出していなかった。塵一つない通りにはお祝いの赤い飾りが至る所に飾られていた。

 夜は明けたばかり、まだ微かに寒さを感じるが、あたたかな赤い太陽は、地平線の彼方からゆっくりと昇った。

 朝日が昇るにつれて、巨大な行列が地平線の彼方からやってきた。輿は無数の人が列をなして取り囲んでいた。彼らの歩みは整然としていて、ゆっくりで、微かに敬虔ささえ帯びていた。

兵士:朱雀神君のおなりーーーー

 兵士の声と共に、城壁や建物の上に早くから立っていた人々の視線は、朝陽の中からやってきたかのような長い行列の方に向いた。

 ただ、その隊列の先頭には、一人の青年が立っていた。輿の傍に立っていた明四喜は、目の前の赤い服を着た青年に向かって武器を振り上げた南離族を制止した。

明四喜:……城主様。神君を式典へ送っている最中です、通して頂けませんか?

辣子鶏:真の朱雀神君なら構わねぇよ。ただ、その中にいるのは本当の朱雀神君なのか?

明四喜:どういう意味でしょうか?光耀大陸の全ての民を欺いているとでも思っているのですか?

辣子鶏:お前らの企みなんざどうでも良い、俺は滅多にない弟弟子の頼みのためにここに来たんだ。もし本当の神君の継承者であれば、明四喜様が心配する事もねぇだろう?

明四喜:とは言え、神君を勝手に疑うのは四聖に対する不敬であり、神君こそ四聖が光耀大陸の蒼生のために降臨させた神使であります。城主様、どうか神君に指示を仰ぐのをお待ち頂けないでしょうか――城主様!!

 カキンッ――

マオシュエワン:へへっ、失礼しました明四喜様!しかし機関城の城主に気安く触れるのはダメだ!

冰粉:申し訳ございません。少し失礼かもしれませんが、城主の邪魔をしないでください。

兵士:お前ら!

明四喜:城主様は我が南離族と悪縁でも結びたいのですか!

???:構わない、通せ。

明四喜:……神君。

???(朱雀神君):通すと良い。

 輿からの声を聞いて、気が立っていた南離族の人々は武器を捨て、明四喜も戦意を収め、恭しく輿に首を垂れた。

明四喜:はい。城主様、どうぞ。

 遠慮なく近づいていく辣子鶏は分厚い暖簾をめくって輿に上がった。彼の背後にいた離火は輿の上に立ち、その尾羽は巨大な障壁となり輿全体を覆い、外の世界と輿を隔てた。

 明四喜は、何の物音も聞こえてこない輿を見て襲い掛かろうとする南離族を止め、行列を指揮して式典へ進むように指示した。この時、輿の上に座っているのが痩せ細っている顔色の悪い青年であると、辣子鶏は気付いた。

南翎:コホンッ、貴方が機関城の城主なのですね……

 青年の声は弱々しかった、彼は息を殺して咳を抑えようとしたが、失敗した。それを見て、辣子鶏は思わず眉をひそめた。

辣子鶏:……その身体。

南翎:コホン、これは四聖の力を授かった代価です、気にしないでください。どうぞお座り下さい。

 それでも辣子鶏は神君の前に立ち、自分の袖の中をまさぐった。しばらくすると、黄金色の毛玉が引っ張りだされた。

辣子鶏:モフモフ鳥!目を覚ませ!

 南翎の困惑した視線の中、黄金色の毛玉は残像が見える程に辣子鶏によって振り回されていた。

モフモフ鳥:チュンッーーたす、ーー助けてーーー

南翎:そ、その、城主――それ、それは目が覚めたようです!!

辣子鶏:おお、目が覚めたか。デブ、これが朱雀神君だ。

モフモフ鳥:クソッ、俺様に成りすますなんざ良い度胸じゃ――ううう――放せーーうううう――

 辣子鶏はモフモフ鳥のくちばしを掴み、これ以上声を出さないように簡単に制御した。そして南翎の前に無造作に腰を下ろし、神君の前にあるお菓子を遠慮なく食べ始めた。

南翎:……あの……城主……貴方は……

辣子鶏:お前は死ぬ。

南翎:……

辣子鶏:……その顔は、知っていたんだろう?……まえ、神君とやらは生贄みたいなもんだしな。

 しかし次の瞬間、目の前の痩せこけた青年の言葉によって、辣子鶏は動きを止めた。

南翎:死にません。私は朱雀神君となって光耀大陸を守ります。これは朱雀様が残してくださった力です、私は必ず我々の故郷を守ります。


朱雀

人間はどうしてあんなに馬鹿が多いんだろ。

南翎:死にません。私は朱雀神君となって光耀大陸を守ります。これは朱雀様が残してくださった力です、私は必ず我々の故郷を守ります。

 痩せこけた青年のその言葉は、身体が弱いせいかそれ程大きな声とは言えないが、揺るぎなかった。彼の両目は穏やかだったが、動揺はなかった。彼は自分の言葉と共に、もがいていた黄金色の毛玉の動きも止まった事に気付いていない。

辣子鶏:お前の身体は四聖の力に蝕まれている。まだ四聖の力を完全に受け入れていない今ですら、お前の身体は重荷に耐えかねている。式典の時お前に降りかかる力を、本当に耐えられるのか?

南翎:わかりませんが、耐えないといけません。

辣子鶏:どうしてだ?それはお前の身体を壊し、自分を失うかもしれない事を知っているくせに。

辣子鶏:その時のお前は、ただの神君の器に過ぎない。お前が誰であるかは誰も知る事はない。その瞬間、お前は朱雀神君となるのだ。

南翎:それが私の信仰。例え誰も自分の名前を覚えてくれなくても、私は自分の力を尽くしてこの土地を守ります。朱雀神君になって、光耀大陸の民を守ります。

辣子鶏:……人間にはどうしてこんな馬鹿が多いんだ。

南翎:はい?城主様……貴方のおめがねにはかないましたか……

辣子鶏:いや、そのために来たのではない、ただ……お前は自分の言ったことをちゃんと覚えてろ。

南翎:……私が言った言葉?

辣子鶏:お前は目障りじゃないからな、死にたくねぇならそれをそばに持っていって、絶対に離すな。

南翎:……これは……

モフモフ鳥:辣子鶏このチキン野郎め、俺様を他の者にやるのか?!

辣子鶏:黙れ!クソデブ鳥!

モフモフ鳥:誰がデブ鳥だ!俺様は尊い朱雀だ!!朱雀だ!

 喧嘩をしている二人を見て、神君と呼ばれた青年は、金色の毛玉を手に持ったまま茫然としていた。

南翎:……城主様……こ……これは……

辣子鶏:そいつは自分の事を朱雀だと言ってる。信じるか信じないかは全て自分で判断しろ。だが、式典で死にたくなければ、それを手元に置くんだ。

南翎:しかし……継承式典の時……

辣子鶏:誰にも言うな、たとえ同族のやつにもだ。

南翎:……

辣子鶏:信じるか信じないかは好きにしろ、お前のような馬鹿の行く末を楽しみにしている。名前を教えろ。死んでもお前を朱雀神君と呼ぶのはごめんだ。

南翎:……南翎、南翎です。

辣子鶏:南翎か、また式典の時にな。


助っ人

信じるかどうかは、すべてはあなたの自由です。

少し離れた場所にある茶楼

 辣子鶏のやっている事を全部見ていた雄黄酒は口を軽く開き、振り返って龍井の向かいで悠然と茶を飲んでいるリュウセイベーコンの方を見た。

雄黄酒:彼……彼は……そのまま突っ込んで行きましたよ?!藪蛇ではありませんか?

北京ダック:フフッ、流石機関城の城主、派手ですね。

リュウセイベーコン:ヤツは綺麗な顔をしているが、回りくどい事がすきなタイプではないからな。

ロンフォンフイ:アイツの事を気に入らなくてもやり合って勝ってねぇってわかってるのか。あの腹立たしい顔は、なんか見ていて気持ち良いな。ははははは!!

油条:調べた所、白虎神君の一族は最近、彼らの名で色々な物が玉京へと送られていたようだ。

北京ダック:つまり……やはり白虎神君の一族は、あいつらと関係が……

西湖龍井:やはり?

北京ダック:この前の戌衛郡の反乱は、白虎族によって事前に鎮圧され、その場にいた人々は老若男女問わず逆賊の罪名で皆殺しにされました。

豆汁:しかし、それが聖教とどう関係があるの?

北京ダック:聖教はどうやって戌衛郡の反乱を事前に知ったのかは知らぬが、戌衛郡はこれまでに何度も聖教の教徒を追放し、聖教を邪教と定め、必ず殺すようにしてきました。(しかし)その後、戌衛郡は聖教の重要な拠点となり、吾が手配した回し者も全て取り除かれました。

ロンフォンフイ:じゃ、今回オメェは……

北京ダック:吾が受け取った聖主の情報についての調査を、それと白虎族の情報も探ろうと。

西湖龍井:深入りすると危険です。

北京ダック:心配はいりません。虎狼の間に潜伏した経験があるので。それに、今回は……助っ人がいます。

西湖龍井:助っ人?頼まれますか?

北京ダック:多分……しかし吾にはこの機会を見逃せぬ。

数ヶ月前

茶楼

 陽射しは窓枠を通り地面に格子を描いた。北京ダックが部屋に入ると、いつも読めない笑顔を浮かべている男は悠々とお茶を淹れていた。

北京ダック:……南離印館の……副館長?

明四喜:さすが竹煙質屋の北京ダックさん、どうぞお座りください。

北京ダック:間もなく継承式典が開催されます。明四喜様がわざわざ吾の所に伝言を送ったのは、もしや南離族の式典に吾らを招待するおつもりですか?

明四喜:その通りです。

北京ダック:……

明四喜:不才はよく存じております、北京ダックさんは賢者であると。不才も隠し立て致しません。此度の式典において、北京ダックさんのご助力を願っております。

北京ダック:南離族は人材が豊富ではないですか、何故吾が必要なのでしょうか?

明四喜:聖教への対抗策です。

北京ダック:……

明四喜:この光耀大陸で、北京ダックさんより彼らをよく知っている者はいるのでしょうか?

北京ダック:聖教は光耀大陸の至る所におります。たかだか小細工であれば、明四喜様はわざわざ吾をお招きにならないのでは?

明四喜:流石です。我が南離族が古物を捜し求めるために遺跡を渡り歩いてきました。そこで今回たまたま彼らの消息を得て、更に彼らの最近の目的を知ったのです……

北京ダック:目的?

明四喜:彼らの聖主に何かあったらしく、祈願によって生まれた神々をあちこちから捕まえているようです。そして今回彼らが狙っているのは、我が南離族の朱雀神君です。

北京ダック:……

明四喜:手を回して情報を仕入れた所、此度の式典は彼らにとって絶好の機会なようです。あの神出鬼没の聖主も正体を現し、式典に来るでしょう。

北京ダック:聖主?明四喜様のそのお言葉だけで、吾が信じると思いますか?

明四喜:信じるかどうかは、全て貴方次第です。不才は一日ここに留まり、返事を待たせて頂きます。


聖主

本当にいるのだろうか。

 北京ダックは首を横に振って、ずっと付きまとってきている不安を抑え込もうとしていた。

???:ねぇ!!!!

 後ろから突然襲って来た衝撃によって北京ダックは背筋を強張らせた。顔を出した麻婆豆腐佛跳牆を見てやっとホッとした。

北京ダック:……お二人でしたか。

麻婆豆腐北京ダック、やっぱりアンタだったね!そんな格好して、わからなかったよ!

北京ダック:少し用事がありました故、この服の方が良いのです。

麻婆豆腐魚香肉糸は?

北京ダック:彼女は用事があったため来ておりません。

麻婆豆腐:えっ、残念……小葱を連れて遊びに行こうかと思ってたのに。

佛跳牆:どうしたんだ、遠くからでも暗い顔をしているのがわかった。腹でも壊したのか?

北京ダック:冗談はやめてください。それより、そなたはどうしてここへ?

佛跳牆:継承式典だ、光耀大陸だけじゃない、グルイラオやナイフラスト、パラータからも人が来ている?俺がこの機を逃すとでも?

北京ダック:……吾を悪徳商人と呼ぶ連中に、そなたの振る舞いを見せてみたいですね。

麻婆豆腐:小葱の新しい服を買いに行くんだけど、一緒に行かない?

佛跳牆:いや、ちょっとこいつと商談があるんだ。

麻婆豆腐:そう、あたしは行くよ。

北京ダック:いってらっしゃいませ。

 麻婆豆腐を見送った後、北京ダックは振り向いて怪訝そうに佛跳牆を見た。

北京ダック:商談?吾と何の商談をするおつもりですか?

佛跳牆:今回は本当に商談があるんだ。ただあんたの居場所がわからなくてな、まさかここで会えるとはな。最近どこに行っていたんだ、全然捕まらない。

北京ダック:あいつらの動きが盛んなので、こちらに来てからはそなたたちに連絡するのも難しい。

佛跳牆:まだあいつらを追っているのか?

北京ダック:はい、此度こそはその首領の尻尾を掴めるやもしれません。

佛跳牆:あれだけ追いかけて、あいつらの拠点を潰してきたのに、顔はおろか性別も姿形もわからないなんてな。どうやって今回の情報を仕入れたんだ?

北京ダック:……誰もその姿見たことはありません……

 いくつかの断片的な情報が頭の中でぐるぐるとぶつかり合っているが、正解と言える組み合わせを見付ける事は出来なかった。

佛跳牆:あの聖主とやらは本当に存在するのか?あの信者共の金を騙すために作った作り話なんじゃ?

北京ダック:しかしそのような烏合の衆なら、聖教をこれ程までに発展させる力を持ち合わせているとは思えません。

 北京ダックは眉をひそめた、それを見た佛跳牆は彼の背中を思い切り叩いた。

佛跳牆:その話は後にしよう、今は俺の取引先に会わせてやろう。

北京ダック:取引先?どうして吾に会わせるのですか?

佛跳牆:知らん、海の向こうから遠路はるばる光耀大陸までやって来た客人たちだ。光耀大陸の情報に最も詳しい者を指名していてな。地府の地蔵を引っ張り出せないから、アンタを探しに来たのさ。

北京ダック:海の向こうからの客人?

佛跳牆:ああ、重要な情報を持って来ているそうだ。

北京ダック:どんな情報ですか?

佛跳牆:だから知らん、その情報を話すかどうかは会ってから決めるってな。

北京ダック:これだけで、吾を探しに来たのですか?!

佛跳牆:いや、まぁ……結構積まれたからな。しかも……

北京ダック:しかもなんです?

佛跳牆:微かだが、あの人たちから堕神の気配を感じた。

通りすがりの人:いやあああ――怪物!!!

佛跳牆:あっ!あいつらが住んでる邸宅じゃないか!!!


神恩

わたしはグルイラオ神恩軍の軍団長ドーナツです。

 邸宅を囲んでいた堕神を追い払い、佛跳牆は眉をひそめ、消えゆく堕神の死体を見つめた。

佛跳牆:白虎の力はやはり弱体化しているようだな。玉京ではこれまで一度も堕神が現れた事はないぞ。北京ダック、何を見ている?

北京ダック:この堕神たちは、彼らを狙っているように見えませんか?そして彼らの力は……なんだかおかしい気がします。

ドーナツ:彼らは皆、昔は食霊だったからです。

 教典を仕舞った少女は、消えていく残骸の傍にしゃがみこみ、まだ完全に消えていない堕神の上に自分のマントを掛けた。

 少女は俯きながら、残骸が消えていくのを見て、手を合わせて真剣に祈っていた。誰もが無意識に彼女を邪魔しないように口を閉ざした。少女の目元は悲しみに満ちていて、敵が残した体の傷など全く気にする事なく、自分なりに彼らを見送った。

 再び立ち上がった少女の目に映るのは、決意だった。

ドーナツ:皆さん、こんにちは。私はグルイラオ神恩軍の軍団長ドーナツです。

 全員屋内に入り、腰を下ろした。北京ダックは、光耀大陸では珍しい洋風の茶菓子を手にしたドーナツを見つめ怪訝な顔をした。

ドーナツ:少々お待ちください、シャンパン陛下とクロワッサン様はもうすぐいらっしゃいます。

北京ダックシャンパン陛下と……クロワッサン様?

ドーナツ:これはティアラ大陸全体に関わる事です。この光耀大陸で唯一信頼できるのは長年シャンパン陛下と貿易をして来た佛跳牆さんだけ。彼にあなたを探してもらいました。あっ、シャンパン陛下!こちらです!

シャンパン:おや?昨日辣子鶏と一緒にいた者じゃないか?お前が噂の、光耀大陸で最も信頼できる情報源だったとはな。

北京ダック:吾はただの情報屋に過ぎません。最も信頼出来る、というのは過大評価です。

シャンパン:謙遜することはないさ。佛跳牆のやつが一目置いているという事は、只者ではないのだろう。俺はただの仲介役としての役割を果たしたまでだ。

クロワッサン:長居するとこちらの動きを勘づかれてしまいます。手短にお願いします。ドーナツ

ドーナツ:はい。

 ドーナツは腰から透明な瓶を取り出した。その中には怪しい黒い煙のような物が蠢いていた。それは瓶の側面にぶつかり続けていた。

北京ダック:これは……?

ドーナツ:これはわたしたちが追い求めている存在。これに蝕まれた食霊は堕化し、あげく人間を守らなければならないという自分の役割さえ忘れてしまいます。

ドーナツ:人間もこれに同化されると、素敵な出来事を忘れ去り、悲しみと苦しみだけを感じ、世界を憎み始めます。

ドーナツ:同化された人間は自分の欲望を満たすために、忌むべき行いを……そして邪悪な者たちは集い、恐ろしい宗教信仰が生まれました。

北京ダック:恐ろしい……宗教信仰……

クロワッサン:古い書物を調べてわかったのですが、これは私たちの大陸のみで起きている事ではないそうです。おやその表情から察するに、なにか思い当たる節があるようですね?

北京ダック:仰る通りです。光耀大陸にも同じような宗教が古より存在しています。ただ……まさか光耀大陸以外にも存在しているとは……

クロワッサン:これは光耀大陸だけの問題ではありません。神恩理会と中央法王庁の長きに渡る調査によると、その存在は一つずつの個体というより、意識に似ているそうです。

北京ダック:……そなたたちはいくら探しても、その実体は見つからなかったのでは?

ドーナツ北京ダックさんもやはりご存知なんですね?!数ヶ月前のある事件でようやくこう結論付ける事が出来ました。

北京ダック:吾も先程の話で確信しました。それで、そなたたちがこの光耀大陸までいらした目的をお聞かせ願いたい。

ドーナツ:わたしたちが関わったある日を最後に、その存在は姿を消しました。それはまるで……

北京ダック:まるで深手を負い、身を潜めたようだと?

ドーナツ:はい。そしてその後、邪教教徒らは続々と光耀大陸に移り始め、まるで何かに……引き寄せられているかのように……

北京ダック:どうやらその損税が危険を冒してまでこの大陸に来たのは、そなたたちが奴に大きなダメージを負わせたからなのでしょう。

ドーナツ:ええ。三ヶ月前、わたしたちは多大な代償を払い、やつに深い傷を負わせました。仲間たちもひどい怪我を負ってしまいましたが……ですがやっと、幻晶石で出来た瓶で貴重なサンプルを手に入れる事ができたのです。

北京ダック:……それがこれですか?

ドーナツ:そうです。ここ数ヶ月、これを持っているだけで、堕神たちは他のものには目もくれず、わたしにだけ襲いかかってくるようになりました。

北京ダック:それ故、先程から堕神らがここを囲んでいるわけですか。

ドーナツ:はい。抵抗出来ない一般人より、わたしを狙ってくれた方が好都合です。それより、この黒き霧は何かを探しているよう見えます。瓶に激しくぶつかってくるので、いくつも器を変えてやっと閉じ込めることが出来ました。

ドーナツ:今日ここに来たのはそのためです。これは一体何を探しているのか、どうすれば消し去る事が出来るのかを知りたいのです。

北京ダック:吾にひとつ……心当たりがございます……そしてそれは奴が危険を冒してでも、今回の継承式典に現れようとする理由でもあります。

ドーナツ:?

北京ダック:奴が欲しがっているのは……その巨大な力に耐えうるカラダ。そして、四聖の力にも耐えられる神君こそ……奴の狙いなのです。


状況を把握する

此度に願いしものが得られるよう祈ります。諸君、ご武運を。

ロンフォンフイ:何っ!あの聖主が神君を狙っているだって?!

佛跳牆:賢い選択だ、流石だと言うべきか。

雄黄酒:もし……彼らが本当に聖主のカラダを手にし、誰も気付くことがなければ……大変な事に……

北京ダック:左様でございます。さすれば、光耀大陸を守っている天幕も奴らの手中に落ちてしまいます……辣子鶏はさほど意外には思っていないようですね?

辣子鶏:え、ああ……何の話だっけ?

八方飯:辣子鶏、ボーッとしてただろう?

辣子鶏:ボーッとしてねぇよ!俺は考え事をしてたんだ!

八宝飯:その頭で????考え事????冰粉さん――――こりゃあ機関城が落っこちまうよ!!!!

辣子鶏:お宝のことしか頭にない守銭奴に言われたくねぇ!!!

冰粉:コホンッ、城主。八宝飯。お静かに。

 冰粉の一言で、袖をまくり喧嘩しそうになっていた二人は、相手の顔も見ずに静かに腰を掛けた。

北京ダック:フフッ、城主様は相変わらず大らかな性格で羨ましい限りです。

辣子鶏:さっき話していた、ええと、聖、聖……なんだっけ?

マオシュエワン:聖主だ。

辣子鶏:それそれ、聖主。奴が神君のカラダを狙ってるのか?

北京ダック:左様。地府の諸君が白虎神君の住居を見張ってくださっています。ですがそもそも白虎神君が狙われているのか、それとも朱雀神君が狙われているのか、未だわかりません。

辣子鶏:お前なら、今にも壊れそうなカラダに目を付けるか?

北京ダック:その心は……?

辣子鶏:大人の食霊しかいないし単刀直入に言うが、そりゃあ全部欲しいよな?一つ使って、スペアもとっといたほうが安心できるだろう?

北京ダック:……

八宝飯:緊張感のない事しか言わないと思っただろう?大丈夫大丈夫、オイラたちはもう慣れた。そいつは無視して話を進めてくれて良いぜ。

辣子鶏:八ーー宝ーー飯!!!!!

 北京ダックはすぐに機関城と地府の騒がしい雰囲気に慣れた。彼は背後で駆け回る二人を気にすることもなく、東坡肉が淹れてくれたお茶を手に取った。

北京ダック:城主の言う通りです。吾ならば、標的を一人に絞ったりしません。

西湖龍井:そうだとしても……

北京ダック:まあ優先順位はありましょう。先程城主が仰った話のように……彼らの第一目標は決して弱っている白虎神君ではありません。龍井、陰で白虎神君を守っていただけませんか。

雄黄酒:わたくしがお供いたしましょう!

ロンフォンフイ:みんな行くのか?!オレも連れてってくれるよな!!なあ!!

西湖龍井:…………

ロンフォンフイ:あ、ため息ついた?!ついたよな?!!!なんでため息なんかつくんだよ?!!オレは邪魔にならねぇだろう!!!!

北京ダック:なら朱雀神君の方は吾が……

辣子鶏:朱雀神君は俺に任せてくれ。

北京ダック:……城主様?

辣子鶏:ちょっと用事があってな。頼む。

 辣子鶏の珍しく真剣な眼差しを見ると、北京ダックは口にしようとした言葉を飲み込み、軽く拱手した。

北京ダック:それでは吾は引き続き玉京に潜り込み、情報を集めて参ります。

北京ダック:継承式典は明日です。願いしものが得られるよう祈ります。諸君、ご武運を。


信じる

すべては最後に訪れる平和のため。

 タッタッタッ――

黒服の人:聖女様。

チキンスープ:確認してまいったのか?

黒服の人:はい、隅々まで。あの色白野郎は確かに玉京の下に様々なものを仕掛けています。

チキンスープ:続けよ。

黒服の人:はい、聖女様。あの野郎は一体何が欲しいのですかね。南離の者なのに何故我々に協力して継承式典の邪魔をするんですか?

チキンスープ:あの人は自分のことを、南離族だと一度も思ったことがない。

黒服の人:……しかし、奴のしてきたことは南離の地位を固めるためなのではありませんか?反逆する郡守の掃討といい、此度の白虎神君への裏切りといい。

チキンスープ:それは彼の求めているものが南離よりも大切だという証。

黒服の人:では奴は我々を……

チキンスープ:問題ない、例え裏切られても、他に手はいくらでもある。今度こそ……聖主様をこの世に降臨させますわ。

黒服の人:聖女様万歳!

(明転)

ヤンシェズ:……

明四喜:お帰りなさい、ご苦労でしたね。

ヤンシェズ:……

明四喜:全て滞りはありませんか?

ヤンシェズ:はい。

明四喜:何故、苦労して集めた朱雀神君の神物を全て使い果たしたのか、まだ理解できないようですね?

ヤンシェズ:時間をかけて集めて……あんな連中のため……もったいない。

明四喜ヤンシェズ、本当に良い子だ。貴方がいなければ、この計画はうまくはいかなかったでしょう。

ヤンシェズ:……

明四喜:無実な人々が心配なのですか?

ヤンシェズ:……光耀大陸のためだから。

明四喜:ええ、この計画は光耀大陸のあらゆる人、そしてあらゆる食霊のためのものです。全ては最後に訪れる平和のため。

雀火耀穹(狂化白虎)

保護

ふん、何がご加護だよ…

継承式典当日

玉京の街


手にタンフールーを持っている辣子鶏猫耳麺の手を引きながら、のんびりと街を散策していた。緊張感はまるで感じられなかった。


町人A:やっと次の神君様が決まったんだな……良かった……

町人B:神君様がいなきゃ、あの怪物たちは好き放題暴れまわるからな。

町人A:どうか神君様のご加護を。


周りの人々の話を聞き、辣子鶏は思わず鼻で笑った。


辣子鶏:ふん、何がご加護だよ……

猫耳麺:城主様……

辣子鶏:猫耳ちゃんどうした?

猫耳麺:城主様、うまく隠しているつもりかもしれませんが、玉京についてから、心の音が少し苛立っているように聴こえます。なにか気になることでもあったのでしょうか?

辣子鶏:……やっぱりお前には隠しても無駄か……道理で人参の木偶の坊はお前をそばに置くわけだな。

猫耳麺:……人参様は木偶の坊ではありませんよ……

辣子鶏:猫耳ちゃんはさ、俺がなんで機関城を建てたかわかる?

猫耳麺:ん……きっと城主様は世界を懐に入れ、あらゆる民を救うため―

辣子鶏:やめろやめろ、まだガキのくせにあの木偶の坊から建前ばっか教わりやがって。

猫耳麺:……違いますか……

辣子鶏:違うな。俺はな、心が狭いから、一つの城の者しか入れたくないんだ。

猫耳麺:……

辣子鶏:だから、この城の者だけは誰にも傷つけさせない。

猫耳麺:でも城主様は人参様の頼みを聞いて、玉京の危機を救うためにここまで来たじゃないですか。

辣子鶏:俺はあの木偶の坊の頼みで来たんじゃない……ここに来たのは、朱雀がこの光耀大陸を守ってくれる偉いやつだなんてどんなバカがそう思っているのか確かめに来たんだ。しかしよ、そいつは思ってたよりバカだった、信じられねぇぜ。

猫耳麺:ん?

辣子鶏:俺はたった一つの城を守るだけなのに、時々事務の仕事を東坡肉冰粉たちに任せたりしている。この光耀大陸を全部一人で守ろうなんてな、大丈夫なのかよって。

猫耳麺:……光耀大陸を……

辣子鶏:ああ。それに守られている人は自分たちが一体誰に守られているのかもわからず、そいつの名前すら知らないんだよ。なあ、とんだバカだと思わないか?

猫耳麺:……城主様……

辣子鶏:あぁ、面倒くせぇ。よりによって俺はあいつのことを少し気に入っちゃったんだ。猫耳ちゃん、俺と一緒にあのバカを助けてやってくれないか。

猫耳麺:――わかりました!!!


継承

これからは光耀大陸をお任せする。


ゴーン――ゴーン――

鐘の音がゴーンと玉京城中に響いていた。

玉京の民は皆、天壇の前に集まっている。数百年に一度しか見られない継承式典を見届けるために。


北京ダック:(……城主様たちは……いずこに……)


鐘が鳴らされたその時、騒がしかった天壇は静まり返った。皆静かに厳かな天壇を見つめていた。

深い色をした華麗な礼服を身にまとっている白虎神君は天壇の向こう側から同族の者に支えられ、ゆっくりと祭壇まで登っていく。

まつげまで真っ白な青年は他人の支えなしでは立つことすらできなくなっている。彼はしばらく青空を仰いでぼんやりとしていた。いつの間にか、涙がその頬を伝って零れ落ちた。


兵士:神君陛下……

白虎:……なに、あまりにも長く空を見ていなかっただけだ……


赤い礼服を身にまとっている南翎は明四喜を後ろに、ゆるりと祭壇へ登り。二人は天壇の前で熱い眼差しで自分を見つめている民を見回し、互いに視線を留めた。

二人の青年は初対面だが、目が合った瞬間にお互い笑顔を浮かべた。

それぞれの一族が権力と金銭をめぐり、どんな葛藤を抱えていようが、二人がどんな立場に立たされていようが、友であれ敵であれ。

少なくともこの瞬間、二人は同じ鼓動を鳴らしていた。


白虎:貴方が朱雀ですね。

南翎:白虎神君。

白虎:ゴホッ、ゴホッ……すまない……私はもう休ませてもらうよ……

南翎:大義の程、本当にお疲れ様でした。

白虎:これからは光耀大陸をお任せする。


二人の神君が向かい合って跪き、天壇の前に立つ民も一斉に跪き始めた。二人の声は天壇を包んで空に響き渡った。


光耀大陸玉京の君、真摯たる心を持ちて、謹んで四聖の霊に告ぐ。

今、魑魅魍魎の類、我が土地にて暴れん。

吾は万民の願いを聞き、四聖の聖なる霊力を求め、民を守らん。

此の浩々たる世に、民を真っ先に思うべし。

帝王たるもの、決心を固め、万死してもなお変わらず。

天下に平安を。


緊急事態

やりました!!聖主様!!!


白虎:天下に平安を。

南翎:天下に平安を。


祝辞が終わりに近づくにつれ、祭壇の真ん中に位置する陣の中にいる神君たちは身につけている礼服と同じ光を放ちはじめた。

しかし――


白虎:うっ――

南翎:うぁあああ――!!!!!!


融合しようとしていた白と赤の光に薄暗い色が差す。光を放っていた二人の神君たちは胸元の襟を握り、苦しそうに倒れた。


大臣:はっはっはっは――――やった!!!!やりました!!!!聖主様!!


けたたましい笑い声にその場にいるものは皆気を取られている。人々は白虎神君のそばに立つ凶悪な顔をしている老臣のほうを見た。


大臣:聖主様、わたくしは約束通り陣を覆してさしあげました!今こそ!貴方様のご降臨の時!!!!!!お約束はどうかお忘れになりませぬよう!我ら白虎一族が永久に四族の上に君臨するということを――うっ――


気が狂ったかのように老臣が空に向かって腕を伸ばした瞬間、後ろから別の手がその身体を貫いた。その時、静かだった玉京はまるで熱くほとばしる油の中に落ちたかのようになり。光耀大陸の上空を覆う巨大な天幕も徐々に消えてゆく……


町人B:きゃあああああああ――――――――!!!天幕が!!!!!!天幕が割れた!!!!


平安だった玉京城に堕神の群れが押し寄せ人々は恐怖に飲み込まれる。止むことのない叫び声やうめき声が響き渡った。


町人A:逃げろ!!!!!神君はもう死んだ!!!

町人B:神君でさえ俺たちを救えないというのか?!!!

町人C:神君!!!神君助けて――!!


幸いなことに、北京ダックは準備を怠らなかった。既に食霊たちを民衆の中に紛れ込ませている。そして凶悪な牙をむき出している堕神から身をていして人々を守った。

だが、堕神の数はあまりにも多く、食霊たちも苦戦を強いられていた。傍らで戦局を見ていた北京ダックも戦闘に加わらざるをえなくなった。

彼の目の前でチキンスープが祭壇へ登っていく。そして彼女は愛おしそうに手にした器を見つめ、寒気がするような優しい声でこう言った。


チキンスープ:聖主様……妾がやっと……貴方様のための最高のカラダを見つけました……


ガシャン――

彼女が器を割ると、中にあった黒い霧の塊が祭壇で倒れている南翎の方へと急いだ。


北京ダック:気を付けてください!!!


それを目にした北京ダックは思わず声を上げた。だが前に堕神どもが立ちはだかり、祭壇に向かう余裕はない。突然、その黒い霧は金と赤の光を帯びた障壁によって遮られた。


辣子鶏:待たせたな、英雄の登場だぜ。




英雄

待たせたな、英雄の登場だ。


辣子鶏:待たせたな、英雄の登場だぜ。


笑みを含んだ声を聞いて、心臓が止まりそうになった北京ダックは冷静さを取り戻す。空からひらひらと舞い降りる赤い服のぶっきらぼうな青年を見て、北京ダックは仕方なさそうに笑った。


北京ダック:城主様、お待ちしておりました。

八宝飯:こいつが英雄は遅れてくるもんだってうるさいからさぁ!

マオシュエワン:親分!!轟天雷は用意できてるぜ!!!

冰粉回鍋肉

回鍋肉:全ての機械に霊力を注入済みです。

トンポーロウ:はっはっは!!!この騒ぎが収まったら、お主らと一杯飲みたいもんじゃ!!


機関城の者たちと共に、大砲の砲弾が空から降ってくる。一見何の規則性もないような砲撃だが、全部きっちりと目標に落ち、堕神を撃退そして消滅させていた。


北京ダック:これは?

冰粉:これは城主様が作った兵器です。霊力が満ち溢れていれば、たとえ素人が操ったとしても堕神どもとやりあえるだけの力を得られるはずです。


一瞬で、炎のように砲弾が地面に炸裂した。が、誰一人として傷つけてはいない。颯爽と現れた地府の者たちも戦場に加わり、劣勢だった戦況は一気に転じた。

祭壇に立っているチキンスープは南翎がまとっている金色の光を見て、爪を強く噛んだ。柔らかだった表情も凶悪になり、祭壇の柱の上に立ち得意げに笑う辣子鶏を睨みつけた。


辣子鶏:聖女様――今日はめでたい日だぜ。我が機関城からのお祝いだ――

チキンスープ:貴様、何をした?!!

辣子鶏:そんなに朱雀の身体が欲しいならくれてやるよ!モフモフ鳥!出て来いよ!

モフモフ鳥:辣子鶏のチキン野郎め――――またモフモフ鳥と呼んだら本当に承知しないからな!!!


南翎の襟元が膨らみ、その中からふわふわとした黄金色の毛玉が飛び出した。ぽっちゃりとした小鳥は赤みを帯びた金色を閃かせる。その高く跳ね出ている毛すらなぜか神々しく感じてしまう。


チキンスープ:!!!!!そんな馬鹿な?!!!

辣子鶏:悪巧みなど絶対的な力の前では、全てが無に等しいのだ。

チキンスープ:なぜ、なぜだ!!!なぜ貴様らはこいつを助けた!なぜこんな者どもを!!貴様は――

辣子鶏:なぜ助けた?モフモフ――教えてやれ!助けた理由を!!

モフモフ鳥:今度モフモフ鳥と呼んだら承知しないって言っただろう!助けようが助けまいが貴様には関係ない!俺があの小僧を気に入ったから助けたんだ!それより貴様!小娘がそんなに深い執念を抱えていてはろくなことが起こらんぞ!

チキンスープ:……ありえない……朱雀はもう……でも……たとえ警戒していても……もう遅いわ……!盟友よ、貴方たちの誠意を妾に見せつけるがよい――


盟友

聖主、聖主様!


チキンスープ:……ありえない……朱雀はもう……でも……たとえ警戒していても……もう遅いわ……!盟友よ、貴方たちの誠意を妾に見せつけるがよい――


チキンスープの狂おしい笑顔を見て、急に静まった玉京に辣子鶏たちは薄っすら不安を感じた……

ドカーン――――――――

機関城の砲弾と違い、玉京の地面は祭壇を中心に裂けはじめた。轟音が混乱する人々をさらに恐怖に陥れ、悲惨な叫び声が玉京城の上空を漂う。

裂けた地面から飛び出た焔は天地を食らうかの勢いだ。やがてその焔は数えきれないほどの巨大な火の鳥と化し、羽ばたく場所は火の海と化していく。


老人:これは――朱雀じゃ!!!!!!!

老人:神君が祭天の儀を終わらせなかったから――朱雀様の怒りに触れたんじゃ――朱雀様はこの玉京を滅ぼすおつもりじゃ―――――――


堕神の襲来で逃げ回っていた民たちに会話は聞こえず、絶望の目で祭壇を見上げたが、最後の希望だった朱雀神君も今や弱りきって、地面に横たわりうずくまっていた。


辣子鶏:こ、これは!

モフモフ鳥:これは俺の力なのか?!!!!!


玉京城は大きな絶望と恐怖に包まれた。生まれてくる抑えられない負の感情がまるで実体を持ったように集まり、儚かった黒い霧にどんどん吸い込まれていった。


チキンスープ:ははははははーー聖主様!!!!!ご降臨を奉迎いたします――――――


チキンスープの熱狂的な視線を浴び、固まりつつある黒い霧はやがて人の形をなす。辣子鶏たちが火の鳥に囲まれ右往左往するうちに、地面に倒れている白虎神君の体内に融合していった。


チキンスープ:聖主様のご降臨を奉迎いたします――――――

黒服の人:聖主様のご降臨を奉迎いたします――――――

南翎:だ……だめです……


南翎は腕を伸ばすと、倒れていたはずの白虎神君はゆっくりと立ち上がった。彼は少し不思議そうに自分の身体を見た。


白虎:…………

チキンスープ:聖主、聖主様!

白虎:この身体は……

チキンスープ:妾の計略が甘もうございました。まさか朱雀神君が守られていようとは……こんな下策を取らざるをえなくなり本当に……

白虎:まあよい、使えればよい。行くぞ。

チキンスープ:はい!


チキンスープは白虎神君の身体を使った聖主に従い去ろうとしていた。北京ダックはそれを追おうとしたが、火の鳥が邪魔をして進めない。突然、その巨大な火の鳥は内部から炸裂し弾けた。


辣子鶏:おい悪徳商人、早く追えよ!

北京ダック:……城主様?

辣子鶏:あいつこそお前の狙いだって言ってただろう?

北京ダック:しかしここは……

辣子鶏:俺が何とかする。だから早く!俺に活躍の舞台を譲ってくれた礼だ!必ずやつを取っ捕まえてこいよ。

北京ダック:感謝いたします。


炎の壁に囲まれていたが、一人しか通れないほどの道が現れた。北京ダック辣子鶏に軽く会釈をし、先を急いだ。

北京ダックの背中を見送ると、辣子鶏は振り返り大きな火の鳥と、炎に紛れ暴れまわる堕神を凝視する。その眼には鋭い光が煌めき、その口からは戦意に満ちた笑みが浮かんだ。


辣子鶏:モフモフ鳥、こいつら死に急いでいるようだな、サボってる暇はねえぞ!!!



親類

その虚空でまた会おうぞ。


北京ダック:待てーー!


もう、祭壇で見た温和な白虎神君はどこにもいない。優しかった顔も今や怪しい邪気を放っている。青年の腕を伝って滴り落ちる血は、濃い黒色を帯びて地面に広がっていく。彼は振り返り、幾分笑みを含んで北京ダックを見つめた。


白虎:お前が玉京で斬首された官吏に仕えていた霊だな。お前にはさんざん邪魔されたと記憶している。よくも我が悪都まで灰に変えてくれたな。


青年の声はまだ白虎神君の穏やかさを保っている。しかしその口から出てきた言葉に、北京ダックは両目を見開いた。その瞬間、手の煙管から燃え上がる炎で敵を飲み込もうとしていたが防がれてしまう。


白虎:そう苛立つでない。吾はお前のことを気に入っている。どうだ。我が聖教に加わる気はないか。


しかし、次の瞬間、聖主の白い手のひらに、突如として火傷の跡が現れた。


北京ダック:……


さきの攻撃で北京ダックはなんとか自分の怒りを抑えた。彼は無数の月日をかけ追い掛けた悲劇の元凶を見つめ、めらめらとその瞳に炎を燃やし続ける。


白虎:お前一人では、吾をどうすることもできない。

北京ダック:試してみなければわかりませんよ……まだ完全に復活したというわけではないようですね……不完全な貴様が相手なら、自分の身を守ることぐらいはできるでしょう。

白虎:ふふふ、お前はただの食霊。ちっぽけな食霊の分際でこの世界と抗うというのか、生意気な。

チキンスープ:聖主様、妾らにおまかせを……

白虎:いいや。こいつは吾のお気に入りだ、もう少し話がしたい。お前らは下がっていろ。

チキンスープ:はい。

北京ダック:お気に召したようで何よりです、ご期待には応えかねますが。

白虎:そう結論を急ぐな。この世界の真実を知っても、今のように吾を敵視するか?お前とは馬が合いそうだ。気が変わったらいつでも歓迎しよう。

北京ダック:貴様は一体何を知っていると?

白虎:ふふふ……教えてやったら、協力してくれるかな。

北京ダック:……

白虎:お前に教えても別に構わん。お前のおかげで我が愚妹が見つかるかもしれんしな。

北京ダック(……愚妹?)

白虎:あの愚か者はいつもこの世界を救うだのと言っていた。結局人間どもにひどい目にあわされたあげく、消息を絶った。だが愚か者と言えども、兄である吾はやはり知らぬふりというわけにはいかんだろう。なあ?

北京ダック:貴様にも家族がいるのになぜ……

白虎:ん?蟻のような家族をお前は気にするのか?

北京ダック:……

白虎:虫けらだぞ?するはずなかろう?


北京ダックは黙り込んだ。突然、祭壇のほうから巨大な赤い朱雀の影が空へと飛び立ち、その明るく暖かい赤みを帯びた金の炎が翼となる。厳かに玉京の上空を漂い、ゆっくりとその翼を広げ――

暖かい金色の光は玉京城を包み込んだ。それを見て聖主の表情が険しくなった。


白虎:……やつはまだ生きておったのか……北京ダック、悪いが、吾らはもう行かねばならんようだ。またいつかゆっくりと話そう。

北京ダック:このまま指をくわえて見送るとでもお思いか?!

白虎:時間稼ぎをしていたのはお前だけではない。


聖主の話が終わったとたん、北京ダックは何かに気付いたようだが、もう両足は地面に広がる血で書かれた法陣に縛られている。


白虎:さらばだ、吾が兄弟。あの虚空でまた会おうぞ。

北京ダック:ああ――――――――――――


君臨

後悔してるか?今ならまだやめられる。


少し前

祭壇


辣子鶏:モフモフ鳥、こいつら死に急いでいるようだな、サボってる暇はねぇぞ!!!

モフモフ鳥:うるさい!!!

マオシュエワン辣子鶏!!!!ダメだ!!火の鳥がつけたこの炎、どうやっても消せねえ!やっぱみんなを機関城まで連れてってやろうぜ!一人でも救えるもんなら救いてぇ!

冰粉:だめです、大千生の霊力ですらこの炎を制御出来ません。


辣子鶏は戻ってきた仲間たちの呼びかけに答えず、珍しく真面目な顔で、祭壇に倒れている南翎のもとへ急いだ。


辣子鶏:おい、南翎、このバカ!起き上がれるか!

南翎:うっ――

辣子鶏:今この玉京を救えるのはもうお前しかいねぇんだ!でもお前はそれで死んじまうかもしれねぇ。それでも救いたいか?

南翎:す……救いたい!

マオシュエワン:先生?何の話をしているんだ?どんな方法を?

冰粉:少し黙ってください。

マオシュエワン:……

八宝飯:はぁーーはぁーーチキン野郎!!なんとかできそうか!

辣子鶏:ああ。ちょっと時間を稼いでくれ!この祭壇には絶対に誰も近づかせるな。

八宝飯:よし!マオシュエワン!手伝え!

辣子鶏東坡肉、ここは任せたぞ!

トンポーロウ:安心いたせ!

辣子鶏冰粉回鍋肉に一般人を機関城まで連れてって避難させるように伝えてくれ。

冰粉:はい!


全ての指示を終えると、辣子鶏は指を動かし、肩に乗せていた離火をガチャガチャと、刀に形を変えた。


辣子鶏:(フゥーーチャンスは一度しかない……失敗は許されない……)


辣子鶏は乾いた唇を舌先で潤した。そして刀をきつく握り締め、血に染まった法陣の横にしゃがんだ。機関城の砲台に何日間も霊力を注ぎ続け、ついさっきまで激しく戦っていた彼の手は微かに震えていた。突然、後頭部に鋭い痛みが彼を襲った。


トンポーロウ:おい若造、何をビビっているのじゃ。何かあったら吾がおるではないか。


東坡肉の言葉に、辣子鶏の緊張はほぐれ、硬くなっていた顔も徐々にもとの自信に満ちた表情に戻っていく。


辣子鶏:俺様を誰だと思っている!何かあるなどありえん!


辣子鶏は深く息を吸い、手に持っている刀を動かし、寸分の迷いもなく法陣を別のものに変えた。

法陣をかいている間数えきれないほどの火の鳥が周りを飛び回り、額のにじんだ汗が頬を伝い首まで流れ落ちる。

最後の一画を終えると、破損していた法陣が徐々に金色に輝き出した。


辣子鶏:南翎!

南翎:こ……これは……

トンポーロウ:迷っている時間などない、さあ早く。

辣子鶏:天幕が今までこの玉京城を守れたのなら、もう一度天幕を張れば必ず堕神たちを駆除できるはずだ。

南翎:しかし……天幕を張るには神君の力が必要です……私はまだ白虎神君からその力を……

モフモフ鳥:この俺様がいるんだ!白虎神君の力なぞ要らん!


南翎が法陣に入ると、その小さな黄金色の毛玉もすぐに法陣のう逆側へ跳んで行った、そこは白虎神君が立つべき場所だった。


辣子鶏:モフモフ!始めるぞ!


法陣をかき終えた力を使い果たした辣子鶏は立つこともままならない。離火はまたしても形を変え、今度は火の鳥の姿になった。離火はその金色の嘴を開き、いつものように炎を噴き出すのではなく、周りにいる火の鳥を全て吸収し始めた――


冰粉東坡肉、城主……城主たちは何を?


辣子鶏の青ざめた顔色を見ると、東坡肉は拳を強く握り締め、自分も助けに飛び込んでいきたい衝動を抑える。


トンポーロウ:神君が天幕を張り直すのに朱雀の力は大変役立つのじゃが、その力を神君に貸せるのは今やモフモフ鳥しかおらん。しかしモフモフ鳥の今の身体ではそのような大きな力には耐え切れぬゆえ、城主は自分の体を器に、モフモフ鳥が神君にどれほどの力を貸しているのかを厳密に測っておる。

冰粉:……だ……だがその火の鳥たちが……

トンポーロウ:幸いな事に、あの火の鳥はもともとモフモフ鳥の力なのじゃが、どういうわけか聖教の連中がそれを手中にしよった。古の法陣をかき換え、その力で天幕を張り直すことができる者がいようとは、奴らとて思いもよらなかっただろう――


法陣はますますその輝きを増し、周りの火の鳥も次々と消えて行った。それと共に南翎の顔色は血の気を失っていく。その時、辣子鶏が突如目を開けて言った。


辣子鶏:……南翎、後悔しているか?今ならまだやめられる。

南翎:……後悔などするはずありません。

辣子鶏:ふん。だろうな。


最後の火の鳥が離火に吸い込まれ、南翎たちの足元にある法陣は真夏の太陽のような眩い光を放った。その次の瞬間、モフモフ鳥は色を失い地面に倒れ、巨大な赤い朱雀の影が南翎の身体より空へと舞い上がっていった。

巨大な赤い鳥の影は、先程の火の鳥のように人を喰らう熱を帯びておらず、代わりに木漏れ日を感じさせるほど、暖かな温もりで玉京を覆った。朱雀は翼をゆっくりと拡げ、玉京を自分の両翼に包み込んだ。

淡く光を失いつつあった天幕が今、赤みを帯びた金の光を放ちながら張り巡らされていくのを人々が見つめている。


老人:天幕が!!!!神君だ!!!!朱雀神君が!!!!!!!!!!!!!


計画

貴様……妾ですら読めん。


北京ダック:ああ――――――――――――

明四喜北京ダック!!!


はーっという声と共に、法陣に囚われ体が裂けて血を流している北京ダックは何者かの力によって法陣から脱出した。明四喜はうろたえながら、北京ダックを自分の身にもたれさせた。


明四喜:すまない!遅くなった!無事か!

北京ダック:……は……はやく……お……追え……白虎神君が……奴らに……連れて……いかれては……いけません……


常に飄々とした話し方をする北京ダックは、はじめて他人の前でうろたえた。その粘り強い様子を見て、明四喜は彼を自分の後ろをついてくるヤンシェズに託した。


明四喜:あなたはここで待っていてください。後で南離の者が助けに来てくれるはずです。不才がやつらを追います。白虎神君は決して奴らの手に落ちてはいけません!ヤンシェズ!この人をしっかりと守るように!

ヤンシェズ:はい!


玉京

郊外


明四喜:隠れていないで出て来い。

チキンスープ:…………

明四喜:聖女様、今度の計画はいかがでしたか?

チキンスープ明四喜様ったら……いつも計略をめぐらしていて心が読めませんね。ただ、朱雀神君は……

明四喜:不才は白虎神君のカラダしか約束していないと思いますが。勝手に計画を狂わし、朱雀神君の身体まで狙い、危うく失敗しかけていたのは聖女様では?

チキンスープ:ふん……貴方が手を出すとは思わなかったですわ。

明四喜:何を仰いますか、不才は誠心誠意聖教と手を組みたいと考えているのです。聖教がなければ、不才の計画はそううまくはいかなかったであろう。

チキンスープ:あなたは一体何がしたいのです?

明四喜:不才が何をしたいかは、聖女様にとってそんなに大切なことなのですか?

チキンスープ:貴様……妾ですら読めん。

明四喜:聖主様はいかがです?

チキンスープ:聖主様はカラダを得たばかりゆえ、保養中です。

明四喜:そうですか、それで良いのです。

チキンスープ:なぜこれほど多くの人たちを巻き込んできたのか解せぬ。奴らがいなかったら、妾の計画はもっと順調に行ったのでは?

明四喜:彼らの勇姿がなかったら、食霊たちこそが救世主だと、人間どもはどうやって知るのです?

チキンスープ:なに?

白虎:うああああああ――――――

チキンスープ:聖主!!!!!


突如光が閃き、保養中の聖主が悲鳴を上げた。黒かった両目が色褪せていく。


チキンスープ:聖主ーー!!!聖主様どうかなさいましたか!?明四喜様!これは一体どういうことです?!

明四喜:やはり貴方たちは不才の指示を無視し、不才の鏡を朱雀神君の前ではなく、白虎神君の前に置いたのですね。

チキンスープ:貴様ーー!!

明四喜:騙した覚えはありませんよ。もしこの明鏡を朱雀神君の前に置いたら、聖主は確実に白虎神君のカラダを得られ、それと同時に、朱雀神君から得た信仰を逆転させることもでき、白虎神君に返ってきていたはずです。

明四喜:しかし、あなたは朱雀神君のカラダ欲しさにこの明鏡を白虎神君の前に置いた。より多くの信仰を得んがために。かえって白虎神君自身の力により聖主が蝕まれてしまったようですね。聖女様の欲ゆえ、不才を咎めても仕方ありません。

チキンスープ:……今回は妾が甘かったですわ!負けを認めましょう!どうか聖主をお助けください明四喜様!そのためにこのチキンスープをなんなりと。

明四喜:いえいえ、これは不才の責務です。


チキンスープはゆったりと落ち着いている明四喜を見て、歯噛みをする。準備万端の明四喜は袖から幻晶石でできた容器を取り出した。


チキンスープ明四喜様、あなたは一体何のために?なぜ聖教を助けながら裏切りを?

明四喜:裏切りだなんて、一時の協力にすぎません。まあでも、礼は言っておかなくては、あなたたちが全力でやってくれていなければ、不才たち食霊を人間どもはここまで頼ってはくれなかったでしょう。

チキンスープ:……

明四喜:聖女様、早く聖主を連れて帰り、適当なカラダを見つけてあげてください。これからはまた聖女様のお世話になる可能性もあるかもしれませんからね。


エピソード-盛典幕后

1.新世界

投げ出せない目標


とある日

機関城


辣子鶏:上客が来たな。

麻辣ザリガニ:鼻だけは利くようだな。

辣子鶏:うるせぇ、例の物、持ってきてくれたか。

麻辣ザリガニ:ほらよ。


辣子鶏麻辣ザリガニが投げてきた物を受け止めて、袖の中にしまい込んだ。


麻辣ザリガニ:角煮(誤字?確認だと思われる)しねえのか?

辣子鶏:どうした?これしきの事ができなくて、食霊だけの新世界を作れるなんてのはご立派な野望だぜ。

麻辣ザリガニ:………………だからいつまでもその事を口にするんじゃねぇよ。

辣子鶏:ん?自分の目標を投げ出す気か。

麻辣ザリガニ:…………

辣子鶏:それとも新しい夢でも?

麻辣ザリガニ辣子鶏!!!!!!!!


ドカーン――


辣子鶏冰粉麻辣ザリガニ様がどれだけの機械と宝石を壊したか数えといてくれ。あとでグリーンカレーに請求書を送りつけろ。

冰粉:かしこまりました。

麻辣ザリガニ:テメェら!

辣子鶏:はははは!!!どうした、俺を殴ってみろよ?一人ぼっちの麻辣ザリガニ国王陛下様??

麻辣ザリガニ:チキン野郎のクセに――――――!!!!!!


2.機関城

俗世には手を出さなかった機関城が……


北京ダック:……

西湖龍井:何か腑に落ちないことでも?

北京ダック:俗世には手を出さなかった機関城が……なぜ……

ロンフォンフイ:他に企みがあるとか?

北京ダック:城主の辣子鶏は心のままに行動する類の人で、その部下も悪い者には見えませんでしたが、なぜよりによってこのような時に玉京に……

ロンフォンフイ:まあ、そう言いながら、もう対策は打ってるんだろう?

北京ダック:…………

ロンフォンフイ:なんで睨むんだよ、二人の話がいつも回りくどくてさ。

北京ダック:……小舎の諸君宜しくお願い申し上げます。住居は既に用意しております。国師監の近くにございます。敵か友か未だ分からぬが、どうかもてなしていただきたい。何かありましたらすぐにでも吾に報告をお願いします。

ロンフォンフイ:安心しな、悪徳商人。やつらはオレに任せてくれ、しっかりと見張ってやっからよ。ハエ一匹も逃がしやしねぇぜ!

西湖龍井:……

ロンフォンフイ:……何ため息ついてんだよ龍井?信用してくれねぇのか?!

西湖龍井:いや。

ロンフォンフイ:おい!なんだよその態度は!!え!!この野郎戻ってこい!!!!


3.愚痴

また俺様の計画を邪魔しやがって!!ちくしょう!!


鳥たちも届かないほどの高みにある機関城には二つの赤い姿がてっぺんに寝ころび、両腕を枕に流れゆく浮雲を見つめていた。


麻辣ザリガニ:おい……チキン野郎……

辣子鶏:これ以上チキン野郎と呼んだら許さんと言ったよな……

麻辣ザリガニ:腹いっぱいで動きたくないお前がどう許さないと?

辣子鶏:フン。

麻辣ザリガニ:なあチキン野郎、知ってるか、あの悪徳商人!また俺様の計画を邪魔しやがって!!ちくしょう!!

辣子鶏:ちょっと待て、悪徳商人って?また?一体誰なんだよそいつは。

麻辣ザリガニ:チッ、あの竹藪に住んでいるやつだ……

辣子鶏:…………そんな言い方じゃわからん。

麻辣ザリガニ:ああもうめんどくせぇ。

辣子鶏:ああじゃあ失せろ。兄弟分だから聞いてやってるというのに、他にお前の愚痴に付き合ってくれる奴なんていないぜ。

麻辣ザリガニ:俺とお前が兄弟分?お前はただ俺の顔に引き付けられているだけだろうが?!

辣子鶏:ふん、俺が好きな顔はたくさんあるぜ。そういや前にもこんな口のきき方してきたやつらがいたな、そいつらは全員機関城から投げ落としたんだっけ。

麻辣ザリガニ:ほう?投げ落としてみな?

辣子鶏:何だと?!俺にできないとでも思ってんのか?!


静かになったり喧嘩をしたり忙しい二人を見ながら、冰粉は隣で鼻歌を歌っている東坡肉に顔を向けた。


冰粉:……東坡肉さん……止めなくていいのですか?

トンポーロウ:若者は元気でいないとな。賑やかでいいじゃないか!ははははは!肉食え!肉!


4.悪都

聖教であいつを見たことある。


国師監書斎


八宝飯:こんな遅い時間にまだ起きてるのか?ここ数日はちゃんと休息を取って、やつらをしっかりと見張るんじゃなかったのかよ。

辣子鶏:……


手の蝋燭はドアを開ける時のそよ風で明滅している。辣子鶏のそのいつもと違う深刻な表情は、八宝飯の眠気を覚ました。


八宝飯:……どうした?

辣子鶏:あの使節……

八宝飯:ヤツは食霊じゃないか?でもここは玉京だし、使節が食霊でも別に驚くべきことじゃないだろ?

辣子鶏:……前に聖教であいつを見たことがあると言ったら?

八宝飯:聖教?!

辣子鶏:そうはっきりと見えなかったが、身にまとっている炎はちゃんと覚えている。なんせあの烏合の衆の中で、ヤツだけがまともそうなヤツだったからな。

八宝飯:……

辣子鶏:善玉なのか悪玉なのかは俺には関係ねえ。でも、ヤツの狙いが玉京だったら、戦いは免れないな。


辣子鶏の興味深そうな笑顔を見て、八宝飯はすでに寝癖がついた髪をボリボリとかきながらあくびをした。


八宝飯:あんたやけにヤツと戦いたがってるよな?

辣子鶏:同じ炎使いだ。戦いたくて何が悪い?

八宝飯:ボコボコにされてもオイラたちは知らないからな、チキン野郎。

辣子鶏:フン。俺が負けるとでも?この守銭奴。


5.人間

何年経っても……変わることはありませんか……


地府

地宮


コンコン――

鉄の門の重たい音に、法陣に鎮座している白髪の男はゆっくりその両目を開いた。その視線はすぐに門の後ろでおどおどしている子どもに留まり、冷たい表情を少し和らげた。


高麗人参:……

猫耳麺:人参様……

高麗人参:何事です?

猫耳麺:成衛郡の人たちが皆殺しにされてしまいました……無常様と忘川様は既にそちらに駆けつけましたが……

高麗人参:……


巨大な法陣にいる白髪の男は驚きの色を見せなかったが、利口そうにしている猫耳麺を見て浮かべていた笑みをすぐに収めた。

男は猫耳麺の言葉に答えず、再び目を閉じた。その長い髪は法陣の中に深く潜り、幽かに光っていた法陣はますます明るくなり、男の額からも汗が滲み始めた。

それを見ている猫耳麺はためらいながらギュッと拳を握り締め、心配そうに法陣の中の男を待った。


猫耳麺:……人参様……


光が弱まり、再び高麗人参は両目を開けた。その顔色は前にもまして青ざめて見えた。


高麗人参:……白虎族の者なのですか……しかし成衛郡の寝返りはまだ計画の段階にすぎません……彼らは一体どこからそれを……

猫耳麺:……ん?

高麗人参:……早く機関城に連絡を。一大事です。

猫耳麺:あっ!城主様たちをお呼びすれば良いのですね!はい!今すぐに!


少し興奮しながら外へ急ぎ、門に頭をぶつけた猫耳麺を見て、高麗人参の表情は少しだけほぐれる。しかし、先ほどの知らせに潜んでいる血の匂いに高麗人参がついた深いため息は、がらんどうの地宮に重く響いた。


高麗人参:……人間は……何年経っても……変わることはありませんか……


6.カラダ

予定を前倒す必要がありそうね……


ダダダッーー


黒服のリーダー:聖女様!聖主様が――

チキンスープ:騒々しい、礼儀がなっておらぬ!

黒服のリーダー:し、しかし聖主様が……

チキンスープ:聖主様がどうかしました?

黒服のリーダー:その……実際に見ていただきたいのですが……!


長い廊下を渡ると、華やかに飾り立てられた宮殿の中心部に、無数の幻晶石で彫った貴重な石像が佇んでいた。中に包まれているいかにも不気味な黒い霧は歪みつつ、耳を刺すような嘶く声を発した。


聖主:クソッ――神恩理会の奴らめ――法王庁の死に損ないどもめが――

チキンスープ:(神恩理会?法王庁?)

チキンスープ:聖主様、ご無事ですか?

聖主:うっ……あああああ――

チキンスープ:……厄介ね。貴方たち、幻晶石をもうちょっと持って……いいえ、実験品を連れてきてちょうだい。もう用済みですが、そのカラダはまだ聖主様の回復に役立つでしょう!

黒服のリーダー:はい!


捻じ曲がり、嘶く霧を目にして、チキンスープは焦るあまり、痛みすら感じずググっと指の爪を強く噛んでいる。指先から血が滲み出し、麗しい彼女の顔もどこか歪んでいるように見えた。


チキンスープ:ああもう……ぼんくら共のカラダでは一時凌ぎにしかならない……どうやら予定を前倒す必要がありそうね……


7.悪鬼

国師監の人はみんなこんな感じなのかな?


マオシュエワン辣子鶏ーー早く出てこいーー


町中に響く青年の声に辣子鶏は、フンッと鼻を鳴らし、隠れ家から出るつもりなど毛頭ないようだ。自分の油鼎を抱きしめている辣子鶏を見ながら、油条(ようてゃお)は珍しくため息をもらした。


辣子鶏:俺は出ねぇぞ!どうせ俺を誘い出して面倒な町中の仕事を処理させる気だろ!東坡肉回鍋肉、あと冰粉に任せときゃいいんだよ!

マオシュエワン:東坡先生はどっか行っちゃうし、回鍋肉先生は機関城の運転をしなきゃならねぇんだよ!

辣子鶏:まだ冰粉先生がいるじゃねぇか!

マオシュエワン冰粉先生は塾の授業だーーってこの野郎出てこいよーー俺はあんたのお守りじゃねぇんだからーー


側で悠然とお茶を楽しんでいる地府の者たちは、賑やかなやり取りにすっかり慣れており全く動じない。豆汁(とうじゅう)は袖を振り、油鼎の足をがっしり抱いている辣子鶏を見ると顔をしかめた。


豆汁:そんなに強く抱き締めて熱くないの?

辣子鶏:ふん、風呂よりも全然ぬるいぞ?


豆汁は同じ疑問を感じているであろう油条の方を見た。油条の油鼎は、触れた者の罪の重さによって温度が変わる。しかし食霊たる者なら誰でも堕神の一人や二人を滅したことがある。堕神もまた生命を持つ者、つまり堕神を滅したことも罪に当てはまる……

たとえ悪鬼を滅する英雄でも、いずれ悪鬼になる定めなのだ。


マオシュエワン:手を離せって!辣子鶏!!あんたを連れ戻さないと俺が大変な目に遭っちまうーー

辣子鶏:嫌だと言ったら嫌だーー

マオシュエワン:うわぁあっちちちっーー


マオシュエワンは不用意に指先で油鼎に触れ、あまりもの高温にびっくりし、後ろに下がってそれを怖そうに見る。


マオシュエワン:?!!


彼も初めて油鼎に触れたわけではないが、たかが彼一人が触れたところでこんな恐ろしい高温にはならないのだ。

マオシュエワンのびっくりした顔を見て、辣子鶏は少し興ざめたように静かになった。しかし……


マオシュエワン辣子鶏ーーあんた見かけによらず!?

辣子鶏:……

マオシュエワン:どれだけの堕神を!!!俺は発狂した時に堕神の棲み家を何回もぶっ潰したが、それでもあの油鼎はぬるぬるだったんだ!!見直したぜあんた!!


マオシュエワン辣子鶏の背中を嬉しそうにポンポンと叩く。場は和やかになり、辣子鶏からも笑みがこぼれた。豆汁は、二人がじゃれ合いながら出ていく姿を見送り、背後に視線を投げる。まるで地府の果てにいるあの男を見つめたかのように。


豆汁:悪鬼になろうともあそこを守りたいか……ははっ、国師監の人はみんなこんな感じなのかな?

油条:はい?

豆汁:いや、なんでもないよ。猫耳ちゃんのところに遊びに行こう~


8.裏切り

あなたは……正しいに決まっている。


ヤンシェズ:……

明四喜:そんな顔をして、どうしました?

ヤンシェズ:…………

明四喜:そこまで聖女様のことが……嫌い?

ヤンシェズ:あの女、鼻につく匂いがするのです。

明四喜:フフッ、では僕の匂いは……どう?

ヤンシェズ:……

明四喜:貴方は不才が彼女と手を結ぶことに不安を感じたのですか?それとも彼女は裏切るのではと?

ヤンシェズ:……うん。

明四喜:心配は無用です。

ヤンシェズ:ふぅーー

明四喜:彼女は裏切るでしょう。必ず。

ヤンシェズ:?!!!!

明四喜:ふふふ、貴方が他人に見せないその表情を見る度に面白く感じています。

ヤンシェズ:……

明四喜:彼女はどんなことを隠していても、必ず不才の願い通りに事は進むでしょう。

ヤンシェズ:……

明四喜:不才が何を企んでいるのかを、貴方は一度も聞いてきませんね?

ヤンシェズ:あなたは……正しいに決まっている。

明四喜:……ありがとうございます。

明四喜:そうです。不才は、正しいに決まっています。


9.モフモフ鳥

あいつ朱雀の跡継ぎ?まさか朱雀の子ども?


数ヶ月前

機関城


マオシュエワン:あん?朱雀神君が再び現れるって?

トンポーロウ:聞いておらんのか?あちこちで噂になっておる。誰もが実際に見たかのように語っていてのう。はははっ、天から鳳凰が舞い降りるやら、空を覆うほどの業火が見えるやら、そこまで言われたら信じるのも無理はないのう。

冰粉:しかし地府の人たちの話では……

回鍋肉:朱雀神君が姿を消してからもう長い……なぜ、この白虎神君が弱っている時に突然現れるのでしょうか?

マオシュエワン:さぁな。おっ辣子鶏、来たか!もうちょっとで俺たちが全部食べきっちまうとこだったぞ!

辣子鶏:何の話だ?

マオシュエワン:朱雀神君が現れたってさ。えっ、知らない?八宝飯からなんも聞いてないのか?

辣子鶏:……朱雀……神君?

マオシュエワン:そういやあのモフモフ鳥は?また眠ってるのか?最近寝すぎなんじゃねぇ?

辣子鶏:堕神の力を消化しきったところだ。もう少しで進化するっていっていたな。

マオシュエワン:そうだ、モフモフ鳥は自分が朱雀だとずっと言ってたな。あいつ朱雀の跡継ぎ?まさか朱雀の子ども?

辣子鶏:ぷっ……

マオシュエワン:何笑ってんだよ?あんたに拾われた時はまだ卵だったから、朱雀の一族かもしれないじゃないか?どこかの部族の人がずっと朱雀を探してると聞いたから、モフモフ鳥を渡せば大金になるんじゃねぇ?

トンポーロウ:量り売りなら結構な額になるやもしれんな、アハハハッーー



10.不安

最近何もかも……うまく行き過ぎた気が……


ガシャーンーー


魚香肉糸:あら……

酸梅湯:何の音でしょう?……こ、これは先生たちが愛用していらっしゃる盃では……

魚香肉糸:……その……留守の間にキレイにしてあげようと思ったんだけど……やってしまったのよね……

酸梅湯:古き物がなくならなければ、新しい物は手に入らぬということです。破片で手を切らぬよう、そこを離れてください。

魚香肉糸:……

酸梅湯:……その表情、どうしました?

魚香肉糸:さっき茶托を持ったとき……何か大事なことを忘れたような気が……急に落ち着かなくなって……

酸梅湯:先生も、小舎の方たちもいますから、いささか心配しすぎではないですか?

魚香肉糸:……私はただ、最近何もかも……うまく行き過ぎた気が……

酸梅湯:……あの者たちが身を潜めて機を待っているとでも……

魚香肉糸:私たちが助け合った結果、彼らの勢いが衰えたのは別におかしくはないけど、どうも不安が収まらなくて……

酸梅湯:先生が戻ったら、貴方も落ち着くでしょう。

魚香肉糸:本当にそうだといいけど……



11.神と王権・その1

……神恩軍の聖女様がお目にかかりたいそうです。


数ヶ月前

ビクター帝国議政庁


コンコンーー


シャンパン:入れ。


ギーー

大きな扉が開いて、白髪の少女がドアの後ろから首を伸ばして部屋の中を覗いた。


フォンダントケーキ:お取り込み中ですか?

シャンパン:ああ、神子か。自由自在に旅したり友人に会ったり出来る神子とは違ってな、俺はなかなか忙しい。溜まった仕事を徹夜で終わらせないと、皆の前で正義感の強い神子に散々言われるだろうからな。

フォンダントケーキ:……もしかして怒りました?

シャンパン:まさか。

フォンダントケーキ:うふふ、せっかく遠くからクロワッサンたちがいらっしゃったのですし、古い友人と会いたいんじゃないかなと?

シャンパン:フン。

フォンダントケーキ:それに、ローストターキー様に頼まれて、ショートケーキを持ってきました?エッグノッグがわざわざ調達してくれた良いお酒もあります。

シャンパン:……話があるなら聞くぞ。

フォンダントケーキ:……本当に……よろしいですね?

シャンパン:あぁ。

フォンダントケーキ:怒らないですか?

シャンパン:……いつからそんなにくどくなったのだ?

フォンダントケーキ:……神恩軍の聖女様がお目にかかりたいそうです。


12.神と王権・その2

それでは本題に入りましょう。


数ヶ月前

ビクター帝国議政庁


シャンパン:ふん、神恩軍の聖女様にお目にかかれ、大変光栄なことだな。

ドーナツシャンパン陛下も。お無沙汰しておりますが相変わらず凛々しいお方ですね。


お互いの何とも言えない表情を除けば、双方にとって心躍るような面会ではある。

長年、腐敗しきった神権に蝕まれてきたビクター帝国は、かなり時間をかけ内部の膿を駆除したあと、ようやく神権の支配から脱した。神権と対立した帝国は、かつて腐敗に不満を持ち軍を抜けた神恩軍のリーダーをもう一度迎え入れることができた。

……もちろん、こんなにも声がでるほど力強い握手でなければ尚更めでたいが。


クロワッサン:コホンッ。お二人とも、大事な用件があるのでしょう。


側にいる教皇代理が少し気まずそうに咳払いして、二人はようやく握りしめた手を放すも、お互い大人げない仕草で視線をそらし。


シャンパン:聖女様――痛っーーなんで俺の足を踏むんだフォンダントケーキ

フォンダントケーキ:女の子ですからちょっと譲っても良いじゃないですか。

シャンパン:あの戦いを経て、女の子だと?!

ドーナツシャンパン陛下はジェントルマンと聞きましたけど、噂は……噂ということですか。

クロワッサン:コホンッーーそれでは本題に入りましょう。此度聖女様がこちらにいらしたのは、陛下に頼みがあるということです。

ドーナツ:……まあ、端的に言います。わたしたちは、光耀大陸で信頼に値する仲間が欲しいのです。



13.代価

南離……このツケは必ず払ってもらうから……


数ヶ月前

聖教


チキンスープ:この役たたず!使える者は一人もいないのか!!!

黒服のリーダー:……

チキンスープ:貴方たちに何の存在価値があるというの!ただの鏡妖も処理できないだなんて言語道断ですわ!

黒服のリーダー:……聖女様、お言葉ですが、相手はその……南離の者で……

チキンスープ:南離の者だから何だって言うの!?聖主様はこのティアラの主ですわよ!ホントに使えない者ばかりで……!


ガシャーン――


チキンスープ:もう出ていきなさいーー!!!!


長袖でテーブルに置いていた陶器を払い落としたチキンスープは息を荒げ、しばらくしてようやく落ち着いた。

普段は優しさと優雅さを誇る彼女だが、今はヒステリックに親指の爪を強く噛み、爪先から滲み出る赤い液体にも全く気づいていなかった。


チキンスープ:南離……南離……このツケは必ず払ってもらうから……

黒服のリーダー:聖女様――

チキンスープ:また、何事ですか!

黒服のリーダー:……そ、外に、羊方蔵魚(ようぼうぞうぎょ)という方からその、面会の申し出が……



14.元が取れない商売

その話……乗った!


ビクター帝国


佛跳牆:おい!これはとてつもなく高価な荷物だ!気をつけろよ!

職人:ボスーー外に何人か美女がボスに用があるってーー

佛跳牆:……美女?

職人:あっちです!右、右!あっちを見てください!


水夫が指差した方向を見ると、淡い金色の長髪をたくわえたシャンパンクロワッサンたちが陽の光に照らされて、とても綺麗だった。


佛跳牆:(シャンパン?何しに来たのだ?)

佛跳牆:おお、シャンパン陛下ではないか。このオンボロ船団にお越しになるとは、伝言をくれれば、いつでもそちらに伺いましたものを。

シャンパン:世辞はいい。今回はお前に直々に用があるから来たのだ。

佛跳牆:おや?シャンパン陛下では対処できない用事を俺に?

シャンパン:光耀大陸に行く。

佛跳牆:…………

シャンパン:なんだ、無理なのか?

佛跳牆:もうすぐ神君の継承式典だ。陛下なら公的に訪問という名目ででも……

シャンパン:光耀大陸に行く他に、そこの「聖教」に最も詳しい人間に会いたい。


言葉は至ってシンプルだが、さっきほどまでのビジネススマイルとうってかわり、佛跳牆は真剣な表情で目の前の王を見つめている。


佛跳牆:……俺のメリットは?

シャンパン:盟友だ。そして一網打尽のチャンスをもな。

佛跳牆:……ははは、どう考えても元が取れない商売だな……その話……乗った!

15.相談

貴方は本当に、この光耀大陸が神君に守られていると信じているのですか?

明四喜:聖女様、白虎の一族は、この南離の者である不才を神君に会わせるわけがありません。そこでお頼み申しますが、この鏡をあのお方に預けて、白虎神君の胸元に飾っていただきたいのです。そうすれば必ずや、聖女様の大業にお役に立ちましょう。

チキンスープ:ご配慮感謝いたします。名四喜様、この件は妾にお任せくださいませ。

 チキンスープが去ったあと、ずっと影に隠れている少年は姿を表した。彼はチキンスープの行った方角を見ながら、怪訝な表情を浮かべた。

ヤンシェズ:……先生、彼女は本当に……

明四喜:彼女は不才の言いなりになるはずがありません。

ヤンシェズ:……

明四喜:不才にこう思われていること自体、彼女に見破られたのでしょう。

ヤンシェズ:しかしこれでは……二人の神君は……

明四喜:ふふ、神君、ね……

ヤンシェズ明四喜様?

明四喜ヤンシェズよ、貴方は本当に、この光耀大陸は神君に守られていると信じているのですか?

ヤンシェズ:……神君の力で……天幕が支えられていると……

明四喜:ふふふ……食霊たる者さえ、かつて払った犠牲を忘れ去ったのに、人間にそれを求められるものですか。

ヤンシェズ:……

明四喜:貴方は地下に封じられ、国師監の先達数名が犠牲になって、数え切れないほどの食霊が堕神との果てなき戦いで散っていましたが、未だに人々の心のよりどころは伝説でしかない四聖です。

ヤンシェズ:……明四喜様……疲れてる……

明四喜:……そうですね。

ヤンシェズ:僕はずっと明四喜様の側にいます。

明四喜:ああ……皆が手に入れるべきものを必ず取り戻してみせましょう。必ずや。


16.竹煙

一人で背負わないで。

数ヶ月前

竹煙

 いつも堂々としている北京ダックは、屋根に座り、夜空の三日月を漠然と見上げ、手に持つ煙管が音を立てるほど強く握りしめている。昼間に明四喜と会ってから、彼はずっと黙り込んでいた。

 心がざわついているため月も欠けて見える。そう思った北京ダックは頭を下げて、よく手入れされた馴染みの煙管を眺めながら少し苦笑いをした。

北京ダック:吾はあの方たちが言うほど、力を持っていませんが……

北京ダック:……吾は……行くべきなのか……

 ダダダッーー

 慌ただしい足音に、北京ダックは振り向いた。皿を持ちながら屋根に登ってくる魚香肉糸を見て、すーっといつもの笑顔を浮かべた。

魚香肉糸:笑いたくないなら笑わなくていいわ。この竹煙は、いつだって貴方の帰る場所だから。

北京ダック:……お見通しというわけですか……

魚香肉糸:私だけじゃない。他の人にもバレバレよ。タンフールーですら貴方のことが心配でほら、自分のおやつも貴方にって。

北京ダック:……それは、悪い事をしました。

魚香肉糸:謝らないで。竹煙の者は……私はまだ貴方に寄り添えるけど、他の者は皆貴方の足手まといになることに怯えている。私も、貴方の代わりに雑務を処理することしかできない……

北京ダック:……そなたたち……

魚香肉糸:貴方がそう思うはずはないとわかっている。でも貴方が龍井たちと出会ってから、正直私はホッとした……

北京ダック:……

魚香肉糸:貴方は、何もかも自分一人で背負う癖があるでしょう。ようやく同じ道を進む人たちに出会って、その人たちは貴方の背中を守ってくれる。私と酸梅湯は本当に安心したわ。

北京ダック:……ん?……

 眉間にいきなり冷たい指先の感触がした。北京ダックは顔を上げて、月に照らされ微笑む魚香肉糸の顔を、誰にもあまり見せたことのない表情を浮かべ、ボーッと見つめていた。

魚香肉糸:心配していたのよ。貴方は自分を追い詰めすぎて、いつか進む道を見失わないかって。

魚香肉糸:一人で背負わないで、友を頼りにして。竹煙の番頭さん〜

北京ダック:……

 魚香肉糸は、返事を待つこともなく、温かいお茶碗を北京ダックに渡すと庭に戻っていった。北京ダックはお茶碗の中に浮かんだ白くて丸い団子を見ながら、表情を緩め、笑みを浮かべた。

北京ダック:そうですね。彼らの意見も聞いてみましょうか。


17.変装

……保険をかけるだけなら、なぜ笑いをこらえているのでしょう……

継承式典の少し前

玉京のある屋敷

明四喜:先生、こちらへ。

北京ダック明四喜様は玉京で大変良い地位に就かれましたね。

明四喜:先生は買いかぶり過ぎです。でも今回の継承式典を任されまして、少しは便宜を図っていただきました。

 書房に入った北京ダックは、部屋に幾つかある鮮やかな衣装掛けと、眉墨と玉櫛を持っている使用人たちを見て、無意識に一歩後ろに下がった。

北京ダック:こ……これは……?

明四喜:先生はかつて聖教に潜入したことがあり、その残党どもに顔が知られているでしょう。あの頃は少し変装をしていたと聞きますが、念の為に保険をかけておいた方が安全かと。

北京ダック:……保険をかけるだけなら、なぜ笑いをこらえているのでしょう……

明四喜:いえいえ、ご冗談を。不才は元来このような顔立ち。先生、どうぞお掛けになってください。こちらの者たちは必ずや誰にも見破られないように仕上げてくれますので。

北京ダック:……この方たちは……

明四喜:全て我ら南離の者です。ご安心ください。では、不才はこれで失礼します。


18.花神

冬虫夏草たちに護衛を連れて花木村に行くよう伝えなさい。

チキンスープ:ダメ……これもダメ……

黒服のリーダー:聖女様……聖主様の容態が芳しくありません。一刻も早く霊力が集うカラダを見つけ、聖主様にゆっくり休んでいただいた方がよろしいかと存じます。

チキンスープ:普通のカラダでは、聖主様が降臨した瞬間に崩壊するやもしれぬ。それどころか、聖主様を傷つける可能性もあります。

黒服のリーダー:……

チキンスープ:鏡妖は失敗に終わったが……承天会の方はなんらかの動きはありますか?

黒服のリーダー:話によりますと。年獣の姿を見つけていて、追跡途中だということです。

チキンスープ:そうですね、冬虫夏草たちに護衛を連れて花木村に行くよう伝えなさい。

黒服のリーダー:花木村、でございますか?

チキンスープ:そこには噂の花神がいます。本物の自然神ではありませんが、少しは聖主様のご容態の助けになるかもしれません。

黒服のリーダー:しかし……冬虫夏草様は信頼して良いお方なのでしょうか?

チキンスープ:信じられるかどうかは関係ありません。大切なのは、あの方が今求めているものは、聖教の目的と一致していることです。


19.天幕

共に、この世界を守りましょう。

海域

シャンパンの船団

 海風が耳元を吹き抜け、カモメたちが空を飛んでいる。

 このような景色は光耀大陸の海域以外では、なかなか見ることはかなわないのだ。

 この堕神がうごめく時代には、ほとんどの海域が堕神によって占められており、海の上を飛ぶことのできるカモメも、堕神の餌食になり絶滅してしまった。

 シンプルなドレスを着た少女は、船縁に両手をついて、果てしない海を眺める。

佛跳牆:どうだ、美しいだろう?

ドーナツ:光耀大陸の先輩方は、とても偉大な方々ですね。

佛跳牆:はい?

ドーナツ:神恩理会の記録によりますと、あなた方の天幕は、多くの有能な人々が自らを犠牲にして支えた物であると。彼らの犠牲があったからこそ、光耀大陸ではこのような美しい景色が守られている。

佛跳牆:ふふふ……そういうことか……

ドーナツ:はい、人間であれ食霊であれ、それ以前に歴史の流れに消えた種族であれ、後世のために、故郷のために捧げられた犠牲は全て、偉大で記念すべきものです。

 佛跳牆は光耀大陸の外から来た客をたくさん見てきた。多くの人は天幕の話になると、嫉妬が見え隠れし、不快な恨みの色を帯びた言葉を口にする。

 どうして、どうして私たちがこんなに苦しんでいるのに、ここはこんなに落ち着いているのだ。

 そんな感情のせいで、光耀大陸を守っている天幕に手を出そうとする者も少なくない。

 しかし、目の前の少女の目には安堵の色があり、光耀大陸のために心から喜ぶ気持ちが、聖教のせいで鬱積していた心を浄化していく感じがする。

佛跳牆:どうしてあんたが部下たちから聖女と呼ばれているのか、少しわかったよ。ただのチビにしか見えないがな。

ドーナツ:はい?

佛跳牆:そうだな……どんな種族でも、この世界のためにその身を犠牲にしたものは全て、記念すべきものだ……

ドーナツ:ですから、この平和を守らなければなりませんよ!

佛跳牆:言われなくても努力はするさ。

ドーナツ:はい、わたしたちも必ず自分の故郷を守りますから。共に、この世界を守りましょう。


20.悪徳商人

一度助けてもらっただけで恩を売ろうとした奴のことだ!

グリーンカレー:兄上

麻辣ザリガニ:帰ったかぁ?

グリーンカレー:はい、城主様もおります。

麻辣ザリガニ:おや?あいつが自ら面倒ごとにかかわるとはな。

グリーンカレー:情報によると、機関城は最近地府の近くで飛んでいたようです。

麻辣ザリガニ:あいつの一番下の弟弟子が入れ知恵したか……

グリーンカレー:どうだろう、城主様に連絡する必要は?

麻辣ザリガニ:まぁいい、あいつは大げさな性格だから、姿を見た瞬間からあの悪徳商人に目をつけられるにきまってる。ここで高みの見物としようか。

グリーンカレー:……悪徳商人?

麻辣ザリガニ:一度助けてもらっただけで恩を売ろうとした奴のことだ!ふん、あいつの言うとおり、どれだけ賑やかなものなのか見てみたいぜ!

グリーンカレー:もし竹煙のあの方を面倒な存在だと考えてるのなら、ペッパーシャコに……

麻辣ザリガニ:不要だ。ペッパーシャコでは勝てねぇんだよ。

グリーンカレー:……ペッパーシャコの実力は兄上には及ばないが、食霊としては一、二を争うほどの腕前です。しかし兄上は、竹煙のあの方をそれ以上と?

 屋根の上に立ってにぎやかな玉京を眺め、白い髪が微風になびく。グリーンカレーは憧れていた兄の口元の笑みが、わずかに変化するのを見た。その赤い目からは、なんとなく冷たいものが感じとれる。

麻辣ザリガニ:フン、グリーンカレーよ……見るがいい、どれほどあがいても、一度この世界の本質を見たら、あいつは結局、俺様についていくようになるぜ。いや、俺様よりもっと狂った存在になるだろうな。

麻辣ザリガニ:俺様は心から、その日を楽しみにしている。


21.木

退屈だーー

玉京から少し離れた公道

豆汁:あああーーー黒ちゃん〜つ〜か〜れ〜た〜

油条:……

豆汁:お茶飲みたい!

油条:……もうすぐ着く。

豆汁:はぁーーーーーー

油条:遡回司はもう着いたと思う。

豆汁:わかったよ、急がないとね。百回までいかなくても五十回は言ったからね……一息つけばいいのに……

油条:……

豆汁:ううーー人参様は怠け者だーー

油条:人参様は陣を守らなければならない。遠出はまずい。

豆汁:フンッ……どうして今回は猫耳ちゃんや八宝飯も一緒じゃないの……戌衛郡から出たばかりなのに、急いで玉京へ行かなきゃならないなんて――

油条:継承式典が大事だからだ。

豆汁:はぁ……鳳爪もついてこなかったし、きみみたいな面白みのない連れなんて、話もしてくれないしーー退屈だーー

豆汁:……え!ちょっと待って!!なんで、そんなに走るのさ!!!ちょっと待ってってば!!!


22.推測

もしかして聖主とやらは実体がないのか?

遥か昔

邪教の拠点で

北京ダック:はぁーーはぁっーー

西湖龍井:……消えましたね。

子推饅:負傷者は全員避難させました。

雄黄酒:ですが……ここで聖主の気配を感じました……

北京ダック:……これでもう何回目であろう?

ロンフォンフイ:くそ!!!!!また逃げられた!気に食わねぇ!

西湖龍井:……これは変ですね。

子推饅:龍井?

西湖龍井:……消えるのが早すぎる。

ロンフォンフイ:そうだ!毎回毎回あと一歩のところで消えてやがる。もしかして聖主とやらは実体がないのか?

北京ダック:……

子推饅:もう良いでしょう。皆さんお疲れさまです、帰ってまた話し合いましょう。

ロンフォンフイ:……そうするしかねぇか。疲れた。雄黄酒、手を引いてくれ、もう立ち上がれねぇ!!

雄黄酒:……自分で歩きなさい。

ロンフォンフイ:足に力が入らねぇ!

雄黄酒:……

ロンフォンフイ:龍井!引っ張ってくれよ!えーー行っっちゃった!先生?先生?悪徳商人?!!ちょっと?!待てよーー


23.蒼生

後悔してるのか?

大臣:南翎陛下、貴方様は未来の朱雀神君です。世界の全てを背負っています。

大臣:南翎陛下、貴方様は光耀大陸の未来の希望で、光耀大陸を守るお方です。

大臣:南翎陛下、お身体は神君の力に適応するため、弱くなります。

大臣:南翎陛下、貴方様の全ては光耀大陸に捧げられます。我々南離族の誇りです。

子ども:南翎陛下、守ってくれて、ありがとうございます!

村人:南翎陛下、貴方様がいてくれたおかげです。

村人:南翎陛下、お体ご自愛下さい!

大臣:南翎陛下……

子ども:南翎陛下……

モフモフ鳥:南翎――南翎!

 澄んだ声で我に帰った南翎は、腕の中でびくびく動いている黄金色の毛玉に目をやった。

南翎:あ、ああ……はい。

モフモフ鳥:何を考えている?

南翎:な……なんでもありません……

モフモフ鳥:……南翎よ、南離族として生まれ、朱雀神君になって。後悔しているのか?

 モフモフ鳥の目には華やかな服を着ているが弱々しい南翎が映っている。その小さな豆のような両目はこの時、何か南翎に畏敬の念を感じさせた。彼は真剣に過去を思い出し、口々に南翎陛下と呼んでる声を思うと、口元に小さく、しかし心温まる笑みを浮かべた。

南翎:南離族になれて、嬉しく思っていますよ。そして朱雀神君になれて、光栄です。

モフモフ鳥:……

南翎:自分の生い立ちを憎み、どうしてあんなにたくさんの無関係な人間のために自分を犠牲にしなければならないのかと疑問に思ったこともありましたが、異族でありながら人間を守り続けてきた食霊を見て初めて気づきました。犠牲は決して全てが見返りのためではないと。

モフモフ鳥:……

南翎:ほら、食霊でさえ人間を守っているのに、人間である私が人間のために犠牲を払うことは当然でしょう?

モフモフ鳥:……あはははははは!!

南翎:……ん?

モフモフ鳥:さすが我が南離族の子孫。さすがあの辣子鶏が認めた人間だな。守ってやるぞ!お前を!

南翎:え?

モフモフ鳥:どうした!今はただのモフモフ鳥にすぎないが、俺様は朱雀だぞ!朱雀!

南翎:はいはいはい、朱雀、朱雀ですね。

モフモフ鳥:その赤子をあやすみたいな言い方はなんだ?!!!


24.サンザシ

……酸っぱい。

蟹醸橙:あああーーーーいつになったら朱雀様をみつけられるだろうーーーーーーー

彫花蜜煎蟹醸橙、さっさと私から降りて、重い!!

蟹醸橙:うっーーーーーたくさんの場所を探し回ったのに!!!!朱雀様の神物でさえたまーにしか入手できてなくない?!

彫花蜜煎:それは……館長様や副館長様でさえお手上げなのに……うちらにできるわけないでしょ……

蟹醸橙:うっーーーーーー

彫花蜜煎:降りろ!

蟹醸橙:ううううううーーいつになったら帰れるのーーーー

 二人ではしゃいでいると、陶器をひとつ抱えたヤンシェズが。あまりの騒々しさに戸惑いながら部屋を覗き込んだ。

ヤンシェズ:……

蟹醸橙:ああああ!いつからそこにいたの!はやくはやく!サンザシの砂糖漬けだよ!食べて!

ヤンシェズ:……酸っぱい。

蟹醸橙:え?甘いじゃん?酸っぱいの苦手なの?

ヤンシェズ:うぅ……

蟹醸橙:はははは!!!兄弟の味覚は子どもなんだ!!酸っぱいの苦手だし、甘党なんだな!

ヤンシェズ:…………

蟹醸橙彫花蜜煎、見て!!恥ずかしがってる!!うわーーヤンシェズ、刀を抜かないで!!!!


25.伝説

捏造と戯言にすぎないから。

シャンパン佛跳牆佛跳牆ーー

佛跳牆:……ビクター帝国の国王陛下ともあろうお方が、俺のボロ港に来て何の用だ?

シャンパン:用がなければ来ちゃいけないか?

佛跳牆:そんなことはない。この国はあんたのもんだから、好きにすればいいさ。

シャンパン:突き放すなよ。

佛跳牆:そうか?俺はすごく尊敬しているつもりだがな!

シャンパン:前回の約束の通り酒を持ってきたぞ。

佛跳牆:陛下はそんなにお話が好きだったのか?

シャンパン:戯言はよせ、話してくれるのか、話さないのか?

佛跳牆:わかった、話すよ。前回は四聖の死後、四族が神君をもって四聖の神魂の力を借りて天をも遮る天幕を張ったため、光耀大陸以外の堕神は二度と光耀大陸の土を踏むことができなくなったという話だったな。

シャンパン:お前たちの歴史に山河陣というものがあることは知っている。それは何だ?

佛跳牆:……伝説にすぎないさ。シャンパン陛下は伝説好きなお子様だったのか?

シャンパン:ほう、ビジネスの資格を剥奪されたいらしいな。

佛跳牆:チッ。

シャンパン:まあいい、続けてくれ。

佛跳牆:山河陣は伝説の陣で、その陣形図は既に失われた。当時の玄武皇帝が数え切れないほどの人間、食霊、霊族を生贄に捧げて作った大陣だと言われているが、この陣形に何ができるのか誰も知らない。自分が数千年後にまた生まれ変わるための大陣だという。そして彼もまた、この大陣を築いたことによって、暴君となった。

シャンパン:……いったい何ができるのか、誰にもわからない?佛跳牆、本当のことを言わない商人は信用を失うぞ。

佛跳牆:チッ、陛下よ、人は賢すぎるとよくないこともある。

シャンパン:その顔を見ると、普通の人間にはわからないことを、多少は知っているだろう。

佛跳牆:シーー捏造と戯言にすぎないから、言えないな。

シャンパン:いずれは言わせてみせるさ。

佛跳牆:楽しみにしているよ。


26.平安

……何か悪いことが起こらなければいいが

武夷大紅袍:あなた方の、今度の行き先は、とりわけ危険なところですから、気をつけてください。

西湖龍井:はい。

武夷大紅袍:もうしばらく。お茶を飲みに来られなくなるのでしょう?

西湖龍井:……そうです、申し訳ございません。

武夷大紅袍:大丈夫です。盧山から送られてきた雲霧茶は、あなたのために取っておきます。

西湖龍井:ありがとうございます。

武夷大紅袍:もし、吾の力が必要なら……

西湖龍井:大丈夫です。小舎の者も、竹煙の者もいます。

武夷大紅袍:……吾にもう二度と俗世に入って面倒ごとに巻き込まれて欲しくないと思っているのはわかりますが、友人のためなら、再び世に出ることもやぶさかではありませんよ。

西湖龍井:大丈夫です。あなたや、小舎のことは守ります。あなたは安心してここにいてください。

武夷大紅袍:龍井……

西湖龍井:あなたをこんなことに巻き込んでしまったのは私ですから。あなたが安らげる一角さえ守れずに、なにが友人ですか。

 龍井がしっかりとした足取りで立ち去る後ろ姿を見送り、武夷大紅袍は立ち上がってため息をつき、手を伸ばして龍井専用の茶碗を片付けようとした。

 パリンッ――

武夷大紅袍:……

武夷大紅袍:……砕いてはよい縁起、砕いてはよい縁起。

武夷大紅袍:……何か悪いことが起こらなければいいが。


27.彼を探しに

私たちに酷似したものは……ひとりではない……

 黒いロープをまとった女が、河のほとりを歩いていた。その手には何かを持っているようだったが、はっきりとは見えなかった。

烏雲託月:……チキンスープ……

チキンスープ:……なぜ貴方がここに?

烏雲託月:……彼を探しに来た。

チキンスープ:ふん、見つかるといいですわね。妾は行きます。

烏雲託月:……ここで私と似た霊は……君だけではない……

チキンスープ:……

烏雲託月:……君の意図はわからないけど……気を……付けて……

チキンスープ:一体何が言いたいのですか!

烏雲託月:私たちに酷似したものは……ひとりではない……もうすぐ目覚めるよ……煉獄は……いずれは帰ってくる。

チキンスープ:貴方のように諦めて、何度も何度も探して欲しいということですか?!妾は貴方のように流れに身を任せはしません。一縷の望みを見つけます!たとえ天に逆らってでも!

烏雲託月:……どうして……受け入れて……最後の日々を彼のそばにいてあげられないの……

チキンスープ:未来のない明日は明日とは言えません!話は平行線ですね、これ以上は無駄です!

烏雲託月:……やれやれ……


28.怪談

半透明のお兄ちゃんが……

 光耀大陸はティアラ大陸の中で、桜の島を除く最も神秘的な大陸として、幾多の伝説をもっている。古くから光耀大陸に住んでいる食霊たちでさえ、それらの伝説が人々の想像なのか、それとも真実なのかわからないのだ。

子ども:お母さん、光耀大陸以外のところには、あんな恐ろしい大きな怪物がたくさんいるの?

住民:そうさ、言うことを聞かないと、あの大きな化け物どもがやってきてオマエをさらっていくぞ!

子ども:お母さん、大丈夫だよ!半透明のお兄ちゃんが怪物をやっつけてくれるもん!

住民:……半透明のお兄ちゃん?

子ども:この前、隣の家の女の子と郊外に遊びに行ったら、大きな怪物に出会ったの!そしたら半透明のお兄ちゃんが現れてそれをやっつけてくれたのだ!

住民:……

子ども:あのお兄ちゃんはすごかった!でも、私たちの声が聞こえないみたいで、お礼を言ったんだけど、こっちも見ずにどこかに消えてしまったの!

住民:馬鹿なことを言わないで!早く寝なさい!

子ども:でも……でも本当だもん!

住民:それ以上言うなら郊外に行かせないよ!

子ども:うぅ……

住民:早く寝なさい!

子ども:でも……でも本当に見たよ……

 子どもが悔しそうに寝入って、枕もとの明かりを消すと、女は顔をしかめて部屋を出て行った。

住民(男性):どうした?宝くんがまだおかしなことでも言ってるのか?

住民:ええ、隣の娘もこの前帰ってきてから、おかしなことを言っていたわ。ああ、私のせいだわ。彼らをあの古墳の近くで遊ばせてしまったから。悪いものに会ってしまって。いったいどうしたら……

住民(男性):まあ、いつか、青龍館の道長仙人たちに診てもらおう……

住民:そうね。

29.帝王

世間はいつも帝王の道は険しく孤独なものだという。

???(帝王):ははは、いつかわしが光耀大陸を統べる日が来たら、お前たちはそれぞれわしの丞相と大将軍となる!共にこの国を守っていけばよい!

ピータン:はい。

???:はい。では……

???(帝王):お前たちは無口で退屈すぎる!もうすこし話につきあえ!

ピータン:……

???:……陛下……

???(帝王):世間はいつも帝王の道は険しく孤独なものだというが、わしの側にはお前たち二人がいる!

ピータン:……

???:臣は常に陛下のお側に侍り、死に至るまで離れないことを誓います。

???(帝王):ははは、人参、お前というやつはいつも真面目すぎる。でも、お前たちがそばにいてくれるから、わしも安心できる。

(明転)

兵士:閣下、お越しください。

???(人参):陛下に会わせてください。

兵士:……陛下は……もう……亡くなられました。

???(人参):……

兵士:早く出てきてください、あの方たちがもうすぐここに来ます。

???(人参):彼が吾をここに呼んだのであれば、彼が吾に出て行けと言わなければ、吾はここから動けません。

兵士:閣下……

???(人参):これ以上は無駄です。行きなさい。

(明転)

猫耳麺:人参様、人参様?

高麗人参:……

高麗人参:(今……夢か……陣中に入ってから……夢を見なかった時間は……どれほどあったろう……)

猫耳麺:人参様?大丈夫ですか、苦しそうな表情をしていました……悪い夢でも見たんですか?

高麗人参:……

猫耳麺:人参様、陣を出てお休みになりませんか……このところずっと、陣を出たことがございませんので……お身体にこたえますよ……

高麗人参:今は出るべき時ではありません……ありがとう。下がりなさい。

猫耳麺:…………うぅ、かしこまりました。

高麗人参:……まだここから出る時では……ありません……


30.共謀

あいつの二の舞は踏みたくないんでなぁ。

 チキンスープが聖主を入れた器を抱え、狼狽えながら去っていくのを見送って、明四喜は横を向いた。

明四喜:まだお会いしたことのないお方ですよね、姿を見せたらどうですか?

麻辣ザリガニ:フン。

明四喜:……貴方でしたか。

麻辣ザリガニ:どういうことだ?俺様を知っているのか?

明四喜麻辣ザリガニの名を知らないはずがありませんよ。こんな所まで、何の御用でしょう?

麻辣ザリガニ:芝居を見に来ないかと誘われてな。見事な芝居だったな。

明四喜:竹煙質屋のボスが誘ったのですか?

麻辣ザリガニ:ん?知ってたのか?

明四喜:今のことを彼に話すおつもりで?

麻辣ザリガニ:そこまで仲良さそうに見えるのか?

明四喜:ふふ、わざわざ声を出して気づかせてくれましたから、そんなことはないでしょう。どうですか、不才と共謀するおつもりはございませんか?食霊を至上とする計画について。

麻辣ザリガニ:ないな。

明四喜:どうしてです?不才の知っている限りでは、貴方様が求めていることは不才の計画と、本質的には同じことのはずなんでしょう。

麻辣ザリガニ:てめぇのやっていることには感心しているが、てめぇみたいなやつと共謀するのはたまったもんじゃねぇ、あいつの二の舞は踏みたくないんでなぁ。

明四喜:……そうですか。それも、いつか考えを変えてくださることを願っていますよ。

麻辣ザリガニ:ふん、そうなるといいな。もう行く。

明四喜:お気をつけて。


グリーンカレー:兄上、北京ダックや小舎の人たちはすでにペッパーシャコに小舎の方まで送り届けました。あの辺の山に薬神がいるはずなので助けになるかと。しかし……よくわからないんですが……

麻辣ザリガニ:なにが?

グリーンカレー:……どうして兄上は助けてあげたのです?

麻辣ザリガニ:俺様の馬鹿な兄弟分は彼らと仲が良い。あいつらが死んだと知ったら、俺と酒を飲んでくれなくなる。

グリーンカレー:……機関城の城主様の事ですか?知り合ってまだ日も浅いですし……それに、城主様の性格からして、そんなに長く悲しむことはないはずかと……うっ!どうして殴るんです?

麻辣ザリガニ:……黙ってろ!

グリーンカレー:……はい。


31.願い

願い?そんなことはどうでもいい!

学生A:こんにちは!

学生B:こんにちは!

 熱心に挨拶をする子どもたちに、軽く手を振って応えると、赤い服の青年の顔からは珍しく笑みがなくなっていた。

学生A:どうしたのかな、怒っているみたい。

学生B:……人参様のことでしょう。

学生A:はぁ……

 ガシャーンーー

 大きなドアの閉まる音とともに、辣子鶏は庭に足を踏み入れた。

辣子鶏:人参のやつはどこに行った?!!!

???:辣子鶏、来たのか。師匠は元気か?

辣子鶏:そんなことはいいんだ!人参のやつは?!

???:そこから帰りたくないと。

辣子鶏:じゃあ、このまま放っておくのか?!

???:あいつの願いだったからな。

辣子鶏:願い!?そんなことはどうでもいい!

???:何をするつもりだ?

辣子鶏:力ずくでもあのクソ弟弟子を連れ戻す!

 座布団の上に正座していた老人は、怒って押しかけては去っていく辣子鶏を見て、長いため息をついた。やがて巨大な鳥のシルエットが空を横切った。

???:まあ……そう簡単に、あの固執な弟子に納得させることができるのなら、悪いことではないが……


32.寝言

……このバカの心配をして損した。

 赤いローブを風にはためかせながら長い服を着た青年が巨大な機関獣の上に座り、掌で軽く頭を支え、何かを待っているように遠くを見ている。

猫耳麺八宝飯、城主様はあんなところに座って寒くないのですか?

八宝飯:やつは人を待ってるんだよ。

マオシュエワン:人を待ってる?ほう?

八宝飯:一度、あの……麻辣ザリガニとかいうやつと飲みすぎた時に言ってたんだ。

マオシュエワン:……何者なの?

八宝飯:どうやら師匠らしいな。いつの日か、この機関城が本当に飛べたら、最高の桃の酒を持ってくると約束してくれたそうだ。

マオシュエワン:……しかし、機関城は何年も飛んでいたよな……師匠って人間じゃないのか?

八宝飯:人間のはずだ。しかし、師匠はきっと約束を守ってくれるだろうと信じていたよ、やつは。

マオシュエワン:……ちょうど猫耳ちゃんもいるから、猫耳ちゃん、ちょっと聞いてきてくれないか?

猫耳麺:えっ?僕ですか??

マオシュエワン:そうだ、いつも一番可愛がってもらってるだろう?

八宝飯:ぼ……僕……わかりました……

 猫耳麺はつばを飲み込んで、期待の視線を浴びながら慎重に辣子鶏の近くまで移動した。

猫耳麺:じょ、城主様……

辣子鶏:ふぅーー

八宝飯:……?城主様?

猫耳麺:すやすや……すやすや……東坡肉……梨花白酒が飲みたい……持って帰ってくれ……すやすや……

猫耳麺:……

八宝飯:……

マオシュエワン:……このバカの心配をして損した。


33.国師監

どんなことも、謝れば許されるわけではない。

子ども:お母さんお母さん、国師監って何なの、すごそう。

村人:えっと……

京醤肉糸:国師監は四聖が死んだあと、光耀大陸の人民を救うために現れた不思議な力をもつ者たちを意味する言葉で、最初は名前などなかった。

京醤肉糸:ただ、彼らは光耀大陸の国々の国運を占い、堕神を退治できる「異霊族」の召喚の方法を研究し、光耀大陸の国々に深く貢献をした。各国からは「国師」と尊称されたものだから、その居場所も国師監となった。

子ども:すごいね!

京醤肉糸:ああ、すごい人たちだ。だから各国はどのような戦乱に陥ろうとも、皆国師監の者を敬っていた。ただ、彼らはもう長いこと世に現れていない。

子ども:ええ?何で?

京醤肉糸:光耀大陸の人々が怒らせたからだ。

子ども:なんで怒らせたの?ちゃんと謝ったの?

京醤肉糸:どんなことも、謝れば許されるわけではない。

子ども:えぇ……でも許されるかどうかって問題じゃないよ。

京醤肉糸:……

子ども:怒らせてしまったからには、謝らなきゃいけないよ!許してもらえないから、謝らなくてもいいってわけじゃないと思う。

京醤肉糸:…………

子ども:これ以上助けてくれないのも無理はないね!だってちゃんとごめんねって言ってないんだもん。

村人:……こら、なにを言ってるの。すみません、子どもの言うことなので……

京醤肉糸:何も謝ることはない、彼の言う通りだ。

子ども:えっ?

京醤肉糸:そうだな……許してもらえないかもしれないけど、やはりちゃんと謝らないと……

 手の中の扇子をもてあそびながら遠ざかっていく男を見送って、女は自分の袖を引っ張っている子どもの手を軽く握った。

村人:あんた、あの御方を知ってるの?

子ども:知らないよ。

村人:あんなに楽しそうに話してたのに?

子ども:うーん。なんかね、気が合ったの〜


34.昔

……あの……あんたは?

お屠蘇:この玉京は、にぎやかなところだな。

通りすがりの人:……お屠蘇お屠蘇ですよね!

お屠蘇:…………

臘八粥お屠蘇、知り合いですか?

お屠蘇:……ん?……

通りすがりの人:お屠蘇ですよね!!全然変わってない!さすが食霊!はははは!

お屠蘇:……あの……あんたは?

通りすがりの人:そうですよね、わからないんじゃないかなって思ってました!

お屠蘇:……

通りすがりの人:昔、あなたがあの医者のお兄ちゃんと一緒に助けた村の二牛ですよ!

お屠蘇:……!!!!二牛?!

通りすがりの人:うん!いつもあなたの太刀をつかんで、おおきくなったらあなたのように強くなるんだって言っていたあの二牛です!

お屠蘇:……でも……あの時、あんたたちの……村に行った時……

通りすがりの人:うちの村は堕神に襲われました……

お屠蘇:……

通りすがりの人:しかし、城主が間に合ってくれたおかげで、多くの人々が助かりました!

 男の手は傷だらけだったが、顔はお屠蘇の記憶の通り、鼻水を垂らし、目を星のように光らせた子どものままだった。彼は幼い頃のようにお屠蘇の刀をつかんで、何か言っていた。

通りすがりの人:あなたが帰ったあと、暴飲という堕神がやってきましたが、幸い城主が間に合ってくれて。まだ生きてる人間を連れて役所の町に連れて行きました。そしてみんなの怪我が治ると、私たちを新しい場所に導いてくれました。……みんなずっとあなたのことを思っていましたよ。でも、ずっと会えなくて、本当によかったです。本当に。

お屠蘇:……うっ!

 お屠蘇は掌の痛みを感じて振り返って、横を見ると、臘八粥が爪で手の甲をつねりながら、いつもの優しい笑みを浮かべていた。

よもぎ団子お屠蘇!よかったですね!

臘八粥お屠蘇!ほら、痛むでしょ!夢じゃないんですよ!

通りすがりの人:ん?お屠蘇?よ、よかったら、みんなの様子を見にきてくれませんか!亡くなったお年寄りもいるけど……みんなもう一度あなたに会いたいと願っています!

お屠蘇:……ああ!


35.再会

また会えるよ……

ビール:ああーー!!!

ビール:……はぁ……はぁっ……

 悲鳴を上げて目を覚ました青年は、額の冷や汗を拭うと、小刻みにプルプルと震える掌を見た。

ビール:……今は……今は……ああそうだ……継承式典だった、光耀大陸の継承式典……

ビール:……まだだ……まだあの時にはなっていない……

ビール:神はまだ目覚めていない……我々には、まだチャンスがある……

ビール:我々には……まだチャンスがある……

 背の高い青年の顔からはいつもの優しい微笑は消え、ベッドの上でギュッと身を縮める。静かな夜闇の中で、自分の膝を抱き、微かに身震いをしていた。

ビール:大丈夫だよ……今度は……「彼女たち」はまだ死んでいない……大丈夫だよ……今度は……きっと転機が訪れる……「彼」が目を覚ましたら……きっとできる……

 青年はゆっくりと顔を上げる。彼は自分の口元を緩めて、クロワッサンたちには馴染みの表情を浮かべた。

ビール:大丈夫、どんな犠牲を払っても。また会えるよ……たとえ……次のティアラになったって……


36.桃源郷

願わくば友は遠く歩いても、遂に桃源郷を見つけんことを。

ワンタン亀苓膏、見てみな、この桃源図。天は高く雲は遠く、山水もとても綺麗だな。特にこの絵の桃の花は……

亀苓膏:いくら言っても買ってやらないぞ。無駄だ、ここのところ絵を買ってやる余裕なんてない。

ワンタン:やれやれ、買ってとも言ってないのに……そんな嫌な顔するなよー

店員:おやおや、お二人は目が肥えていらっしゃいますね!これは帝王の作品のレプリカですよ!レプリカといっても、もはや本物と同じです!

ワンタン:おや?このレプリカは本物と同じだと?

店員:いやはや、これは南離印館のすごい方が複製したものです!これは何十年も前にあの賢王が書いた、たった一枚の絵です!桃花源ですよ!

亀苓膏:……賢王、か。

 亀苓膏は思わず横にいる青年に視線を向けた。ワンタンが袖に隠した手は固く握りしめられていたが、顔にはいつもの笑みだった。

ワンタン:君が賢王だって言ったら、賢王の作品なのか?サクラのために言ったのかどうかはわからないんだよな?

店員:おや、お客さん、ちゃんと見てください!これには賢王の私印のほかに、彼が去った親友のために書き残した詩文もありますよ!

ワンタン:……書き残した詩文だって?

店員:賢王には遠く離れた親友がいて、彼に代わってこの光耀大陸の美しい景色を見守り、帝王としての良心を守ったので、彼の国はこんなに平和で美しくなったのだって書いてあるんですよ!

ワンタン:……

店員:お客様、お買い上げになりませんか!細かいところはあとでじっくり見ればいい!絶世の君臣の情と、親友の情ですよ!

ワンタン:……

亀苓膏:買うよ!

ワンタン:えぇ……さっき買わないって……

亀苓膏:「願わくば友がこの絵を見る時、世は澄み、天下が清明であらんことを。望み通り、ついに賢君とならん」

ワンタン:……

亀苓膏:「願わくば友は遠く歩いても、遂に桃源を見つけんことを」

ワンタン:……バカ……ほらハンカチをくれ。

亀苓膏:ほら、私の袖で鼻水を拭くんじゃないぞ。

ワンタン:君からもらったのだから、もったいないさ。ちゃんと保存をしなければ。

亀苓膏:チッ、返せよ。


37.胸騒ぎ

不安だ。

北京ダック:このように、表の敵は、吾と城主様に、その……かくしてあるものは……

ロンフォンフイ:オレたちにまかせとけ!な、龍井!

西湖龍井:はい。

辣子鶏:…………

ロンフォンフイ:さあ、兄弟の兄弟よ、心配すんな、大丈夫だ。こいつはこういうやつだから、一日中口を利かないこともある。

辣子鶏:お前たちの性格は随分違うな。龍神の名はかねてより聞いていたが、ヤツらの残党の中に、どれだけの数がいるのかわからないし……冰粉たちに援護させるか?

ロンフォンフイ:いやいや、なにがあるかわからんし、少し戦力を温存しておいたほうがいい。オレたちは残兵を片づけるだけだから。

北京ダック:……

ロンフォンフイ:どうした?悪徳商人?

北京ダック:……胸騒ぎが……何か見落としているような気がしてならぬ。

ロンフォンフイ:いいからいいから、オメェはいつもいろいろ考えすぎなんだよ、今回はみんないるから大丈夫だ。

北京ダック:何もなければよいが。


38.年獣

いなくなったのですか?

ロンフォンフイ:ふーーーーあーーーー龍井よ、毎日毎日こういうものばかり見ていて眠くないのか……

 長いあくびが終わるとロンフォンフイは無造作に机にゴロンと突っ伏し、片手で机の上の紙を無造作に読む。

西湖龍井:皆の願いですから。力になれるのなら、なってあげたいのです。

ロンフォンフイ:……見せて見せて。ん……年獣兄さんを取り戻す?

西湖龍井:自然に生まれた霊族だと思います。

ロンフォンフイ:……えーー

西湖龍井:人間の意志によって生まれた彼らは、我々と共通点が少なくありません。

ロンフォンフイ:それならけっこう強いだろう?堕神のように人間を襲わねぇのか?

西湖龍井:はい……私は、年獣と面識があります。えっと……いなくなったのですか?

ロンフォンフイ:うーん、この手紙にはそう書いてあるけど。

西湖龍井:……あの者は、昔から渓流を出るのが嫌いでしたから……何か用事でもあったのでしょうか……


39.承天会

承天会は、決して単なる狂人のたわごとの群れならず。

北京ダック:え?承天会ですか?

佛跳牆:武昌魚から聞いた話じゃ、承天会は自然神をコントロールしようとしているらしな……

北京ダック:自然神?

佛跳牆:うん……あいつのスパイが承天会から持ち出した情報だ。真偽のほどはわからない。

北京ダック:聖教の付属物なる承天会は、決して単なる狂人のたわごとの群れならず。

佛跳牆:しかし……自然神だぁ?霊族が衰えて以来、天地の間にどれだけの自然神が残っているんだ?

北京ダック:……

佛跳牆:ところで、最近パラータの白髪はどうなった?

北京ダック:聞いてどうする気だ?

佛跳牆:取り引きをしたいんだ。グルイラオとナイフラストから武器を仕入れてきたんだけど、どれもいいものばかりだったよ。シャンパン陛下はやはり気前がいいな、ははっ。

北京ダック:……パラータの白髪は相手にしないと思うがな。

佛跳牆:ええーーそれは違うな、成立しない商談はない、あるとしたら価格があってないだけだな。

北京ダック:……吾のことを悪徳商人と呼ぶ連中に、その顔を見せてやるべきだった。

佛跳牆:ヘイヘイ、紹介してくださいよ。儲けたら、あんたにも分け前をやるからさ。

北京ダック:フン……


40.落日

瘴気です!

夕:……出し……て……出して!!!

黒服のリーダー:ふふ、すぐだよ、もうすぐ出してやるから、聖女の計画が成功すれば――

黒服の人:大変です!!!

黒服のリーダー:……どうした?!

黒服の人:聖主様、聖主様は機関城の連中に押さえつけられております!

黒服のリーダー:そんな……じゃあ俺たちは?

黒服の人:はやく行きましょう!!

 ガシャーンーー

 轟音とともに、武器を担いだ人影が堂々と戸口に立ち、にやりと笑った。

ロンフォンフイ:逃げられると思ったか?!このオレが見逃すとでも?!

西湖龍井:……夕、どうしてここに?

夕:うおーー

黒服のリーダー:はやく出して!!

西湖龍井:……?

雄黄酒:……いけません!瘴気です!!!龍井、気をつけて!!!!


41.助け

その方からは、竹煙の主のにおいがします。

ロンフォンフイ:くそ!!!!!!!!!!

 慌てて逃げる聖教教徒たちを見て、手にした長刀を地面に叩きつけ、ロンフォンフイは傷ついた仲間たちを振り返った。

ロンフォンフイ子推饅!くそ……先生まで……

ペッパーシャコ:帰って。

ロンフォンフイ:……オメェは誰だ?!

 ふと現れた青年はその質問に答える代わりに、霊力をほとんど使い果たしてぐったりしている子推饅を地面から抱き上げ、いつの間にか敷地の外に停めてあった……ロブスター型のバイクに跨った。

ロンフォンフイ:オメェ!!!先生を下ろせ。

 青年の指さす方を見ると、それは奇妙な形に改造された乗り物で、何人も乗れるほどの大きさだった。

ロンフォンフイ:……?

ペッパーシャコ:小舎だ。

 口下手な青年がバイクのアクセルに足をかけると、あっという間に奇妙な形をしたバイクは空の彼方に消えていった。

ロンフォンフイ:(こんな変な形……それに……変な道具……もしかして、機関城のもんか?)

西湖龍井:コホン……

ロンフォンフイ:龍井!龍井!大丈夫か?!

西湖龍井:……言う通りにしてください……

ロンフォンフイ:でも……

西湖龍井:その方からは、竹煙の主のにおいがします。

ロンフォンフイ:…………わかった!!!


42.初対面

私たちは別の大陸から来た騎士団です。

赤ワイン:ここが光耀大陸か……賑やかだな……

ビーフステーキ赤ワイン!!!赤ワイン、見ろ!!!見ろ!!!ここの人間、口から火が!!!!

赤ワイン:…………

ビーフステーキジンジャーブレッド!!ジンジャーブレッド見ろ!!!!あの子どもたち、頭の上に皿を載せてあんなに高く登れるんだ!!!

ジンジャーブレッド:…………

ビーフステーキ:!!!!!飛んだ!!!飛んだよ!!!これが伝説の光耀大陸のカンフーか!!!

ジンジャーブレッド:…………赤ワイン、はやく行こうぜ。

赤ワイン:そうだな…………

ビーフステーキ:!!!これは何だ?甘いひょうたん?ひょうたん?砂糖で作ったひょうたんなのか?山査子(サンザシ)?

ビーフステーキ:麻辣……うさぎ、うさぎの頭だと?!!!光耀大陸の人はなんて残酷だ!

ビーフステーキ:えっ、そんなに急ぐなよ。待ってーー

ビーフステーキ:うおっ……

北京ダック:……

ビーフステーキ:ごめんごめん、大丈夫か!

北京ダック:……その格好からするに、光耀大陸の人間ではないでしょう?

ビーフステーキ:……はい、私たちは別の大陸から来た騎士団です。私はビーフステーキ

北京ダック:……北京ダックでございます。お見知りおきを。

ビーフステーキ:こちらこそよろしく。


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