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羊方蔵魚・エピソード

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羊方蔵魚のエピソード

詐欺師、絵の贋作を売り歩く商人、常に強者に従う。お金を稼いでは自由に好きなことをして暮らしている。

判子を作る、絵を描くのが得意。売っている贋作は全て彼が描いたもの、完成度が高く素人には見破れない。絵に彼の作った判子を捺すと、その絵が置いてある場所の物音を盗み聞きすることが出来る。

あまり戦闘力がないため、強い敵に出会ったら即投降する。

Ⅰ 贋作

「“遠くを見て山に色あり、近く聞けば水に声なし”古い詩にはこのような一文があります」


茶室の窓は少しだけ開いていた。

風に吹かれながら、優雅にお茶を啜る。詩人であれば、きっと一句読んでいただろうな。


だが俺は、ただの商売人だ。詩を詠うのは風流を解するためではない――


絵を売るためだ。


「この一句、旦那ならきっと聞いたことありますよね。ほらこちらをご覧ください!」


シャッ!


巻物を開くと、山水花鳥が現れた。

実に良く模倣出来ている。筆の運びを再現しているし、趣もそのまま。贔屓目なしで見ても八割、九割方は元の絵の良さを表現出来ているだろう。もちろんこれは俺様の作品だ。


「ほらこの山、連綿と続いていて、いやはや……この水も素晴らしい!流れる音すら聞こえてきそうですよ!」


目の前の金持ちの爺さんは、俺の案内と共に絵を隅々まで眺め、両目が絵に張り付きそうになっていた。


――次は、値段を吊り上げる工程に入る。


俺は一つ咳払いをして、改めて口を開いた。


「こちらの絵、なんと“元宮廷画家の遺作”なんですよ!その画家は、とんでもない経歴の持ち主でして……」


絵は贋作だが、話は本当だ。彼は熱心に耳を傾け、時には自分の髭を撫でながら小さく頷いた。


話を聞く方は楽だが、話している俺の口の中はもうカラッカラだ。急いで話をまとめ、手で数字を出して見せた。

「こちらの絵はこの値段となります。本物は滅多に出回りません、よっぽど縁のない限り私も手放しませんよ――旦那ぁ、よーく考えてくださいね」


彼に絵を眺める余裕をもう一度与えて、俺は茶を淹れて一口飲んだ。


この爺さんはとっくにこの絵に心を奪われている。金に困っている訳じゃないし、この様子を見ると、確実に買ってくれそうだ!


予想通り、まだ茶の甘みが口の中から消える前、欲しかった言葉が飛んできた。


「この絵、買おう」


ハハッ!

どうにか嬉しい気持ちを抑え、巻物を巻き直して、彼の従者に渡した。


「ありがとうございます!ありがとうございます!どうぞこの絵をお納めください!」

「それを渡せ」

俺は服で一度手を拭ってから、従者から金の入った袋を受け取った。

これはこれは、重いなぁ!


「一目見ただけで、旦那の非凡な品格を感じ取りましたよ。この絵はようやく最高の持ち主に出会えたようですなぁ!」


その重さが嬉しくて、思わず機嫌を取る言葉がスラスラと出てきてしまった。

俺の言葉で気分が良くなったのか、わざわざ茶の代金を払ってから店を出てった。


「旦那ぁ~お気を付けて~」

俺は茶を飲みながら手を振った。

離れて行く真ん丸な背中はなんて可愛らしいんだ、まるでまるまると太ったカモのようだ。


Ⅱ 金

陽が落ちて、窓から差し込んでくる光も少しずつ濃くなってきた。

金の入った袋を手で軽く投げると、銀色の金属がぶつかり合う音が目の前の綺麗な景色に加わり、ますます居心地が良くなっていく。


十分な休息もとったし、最後の茶を飲み干して、そろそろお暇する時間になった。

茶碗を置いて、立ち上がろうとしたその時……


ギシッーー


彫刻された扉が突然、独りでに開いた。


扉の前には、見覚えのない煌びやかな服を着た青年が立っていた。

部屋を間違えたのかと思い、話しかけようとしたところ、自分の名前が聞こえてきた。


「貴方が羊方蔵魚(ようほうぞうぎょ)でしょうか」


なんだ?俺に用があるのか?

こいつ……上品な見た目、優雅な話し方、優しそうに見えるが、明らかに何かがおかしい。

そうじゃなければ、こいつが口を開いた途端、何かに捕らわれたように感じるのは何故だ。


こういう人種は、絶対に関わっちゃいけないーー


「もし今お時間がありましたら、是非商売の話をしたいと存じます」

ん……?商売の話?


まあ、話を聞くだけならね、どう見ても金持ちだし……扉の方に向けていたつま先は気付いたら元の位置に戻っていた。


「さあさあさあ!どうぞお掛けください!旦那はどんな絵をお探しで?」

「おや?」

青年は笑顔で俺の前に座った。だがその後に続く言葉で俺の背筋が凍った。

「贋作を不才に売るおつもりですか?」


チッ、どっかのカモにバレて殴り込みに来たのか!こっ……これは逃げた方が良いやつか?!


「緊張しないでください。先程言ったように、商売の話をしに来ました」

「……」

逃げようとした俺の声が聞こえたかのようにこいつは突然口を開いた。その両目はまさか人の心が読めるのか?

俺は彼の方を見て、顔をしかめた。


だけど、贋作しか持ってないことを知っているなら、なんの商売をするつもりだ……


「貴方から情報を買いにきました」

「情っ……」

は?情報?!


俺の霊力を注いだ判子を絵を捺すと、その絵が置いてある場所の声が盗み聞きすることが出来る。前にこの能力で似たような商売をしたことあるけど……

確かに金はすぐに稼げた、だけど後処理が面倒だ。きちんと処理しないと、自分も巻き込まれてしまう!


わからないフリをした方が得策だろう。

「ハハハッ……旦那ぁ、私はしがない画商ですよ、そんな商売出来る訳ないじゃないですか。私のことを高く評価し過ぎですよ」


「情報を探るだけで良い、後処理は他の者が引き受けますよ」

彼は俺の話を聞かず、「何か」を取り出して机の上に置いた。次の瞬間、俺はその「何か」の輝きから目が離せなくなった。


金色だ!

……あっ、いや、ダメだ。金に目が眩んで、命を落とすようなことになったら割に合わないぞ。

「旦那ぁ、お金の問題じゃないんですーー」


「三倍」

「合点承知!私にお任せください!必ずや満足させますんで!」


Ⅲ 過去

「ッ……ゴホッ!出ろ、出てけ!!!」

「わかったわかった、すぐに出ていくから、早く薬を飲んでくれ。せっかく買って来たんだ、煎じるのにも半日掛かったぞ」

「お前!!」

「おいおい!こぼれるだろ!御侍様安心してくれ、これは緊急事態だ、贋作も偽の判子も全部俺が作ったもんだ、あんたの名声を汚すことにはならない」

「お前に絵の描き方、判子の彫り方を教えたのは、贋作を作らせるためではない!恥を知れっ!!ゴホッ……」

「はいはいはい、俺は恥知らずだ。御侍様には才能がある、病気で埋もれてしまっては勿体ないだろ?」

「お前っ……病気で死んだ方がマシだ!」


羊方蔵魚、私の死に様を見たくないなら出ていけ、もう二度と帰って来るな!私はお前の薬は飲まない、お前のような戯け者を弟子にした覚えはない!……ゲホ、ゴホッ……!」




俺はただ、あんたに生きていて欲しかった。




ガチャンッ!

夢の中で器が砕け散った、俺の夢もそれと共に終わった。


目を開けると、俺は宿屋の寝台の上にいた。視線の先にある天井は漏れがなくしっかりと密閉されていて、部屋の中にはカビ臭さも墨の匂いもない。そして、床に薬がぶちまけられてもいない。


「私の見る目がなかったのだ、今まで一緒に過ごしていたのが間違いだった」という言葉も聞こえてこない。


夢か。久しぶりに過去のことを思い出した。

あの時……俺はかなり怒っていた。

その小さな器に入っていた薬湯は一体どれだけの金が掛かっているのか、その金のために俺は一体どれだけの贋作を描いたのか、あの人は知らずにその器を叩き割ったのだと。


俺の心血を全て拒絶して、しかもぶち壊した。

怒らないひとはいないだろ?


でも今は、怒るよりも惜しむ気持ちの方が強い。

彼が去ってから、俺が最も思い出すのは、一筆ずつ絵を教えてくれたこと、俺の絵を寝室の一番目立つ場所に飾ってくれたこと、俺の上達に満足して髭を撫でながら笑ったこと。


あの時の言い争いは、俺たちそれぞれが重きを置いている事が違った、というだけの話だったのに。

俺は最後まであんな態度で彼に接するべきではなかった。


絵に誇りを持っていた彼が重症を患った時から、彼の命を救うために俺が贋作を売ることを思いついた時から、その器は壊れる運命だった。


はぁ……


どうして突然あんな事を思い出したのかわからず、頭を振った。

情報を買いに来たあの大旦那__明四喜が、実は南離印館の副館長で、数日前館内を案内してくれたから、こんな夢を見てしまったのか。


南離印館は書画骨董に造詣が深い、館内の所蔵品も豊富で、ほとんどが希少な品物だ。御侍様は常日頃から見に行ってみたいと呟いていたな……

もし彼が病気を治そうとしてくれたら、今はまだ五十歳ぐらいの元気な中年だ、流石にもう南離には行っているだろう。


今となっては、もうそんな機会はないけどな。


……


悲しいことは悲しい、惜しいことは惜しい。

だけどここまで来たらこれ以上考えても仕方がない。納得したら忘れよう、自分で悩みの種を増やしてどうする!


俺はあのバカとは違う。触れられない何かに固執してなんになる?

店の料理はうまいだろ?壇上の姉ちゃんの歌は綺麗だろ?楽しく生きていれば、それで良いだろ?


面倒なことを考える暇があるなら、一曲聴きに行った方が良い。


……そうだ、考えない、曲を聴きに行こう。


Ⅳ 人情

偶然にも戯楼でやっていたのは最新の話だった。聞くところによると面白いらしい。

座って楽しもうとしたその時、目の前に人影が現れた。


「あいやー!」

足が滑って、危うく椅子から落ちそうになった。

現れたのは明四喜(めいしき)の手下である、ヤンシェズだった。

何度か会ったことあるが、いつもパッと現れてパッと消える。


冷たくて笑った顔をみたことのない彼が、戯楼に用があるとは思えない、どうしてこんなところにいるんだ?


「よぉ、ヤンの兄ちゃんよ、あんたも曲を聴きに来たのか?」

彼の座る場所を用意してみたが、わかっていない様子で暗闇に立ち尽くすだけだった。


「いや」


まあ、相変わらず無口だ。


「今日の午後、南離に」

「えっ?はいはい、わかりましたよ」


「……」

「……」


俺は彼を見つめ、彼は俺を見つめた。帰らない彼を無視する訳にはいかない。気まずい沈黙が流れる。


どうして帰らないんだ?


まさか明四喜は俺を殺そうとしてるんじゃ……いや、俺は役立つし、俺を殺そうとはしない筈ーー


「……ありがとう」


タンフールー、後で届けに行く」


ああ。

彼が明四喜を喜ばせようとして、俺が金の延べ棒二本で売ったタンフールーの事か?

真摯なその視線と感謝の言葉で、心に何とも言えないあたたかさが湧き上がって来た。


「……もし明四喜の旦那が気に入ってくれたんなら、また俺のところに来たら良い。今度は金は取らないよ……ハハハッ……」


明四喜はどっからこんな殺し屋を拾って来たんだ?

こういう奴が一番怖い。


聞くところによると、彼は長年古墳に閉じ込められていて、少し前に出てきたばかりだという。今の世界のことは何も知らないらしい。

だから、明四喜からもらった金の価値もわからない、金の延べ棒二本で何が買えるかなんて知らないんだろう。

絵を買ってくれる金持ちの爺さんたちと同じ良いカモなのに、どうしてわざわざ感謝しに来た?

そのせいで、なんだかムズムズして申し訳なくなって来た。


「いや、また買いに来る。」


ボーっとしていたら、ヤンシェズは声を掛けてからまたフラッとどこかに行ってしまった。俺はどうしてか気が付いたら彼の腕を掴んでいた。


「なあなあ、ヤンの兄ちゃんちょっと待ってくれないか、良い物をやろう」

何かを渡しておかないと、今夜は眠れそうにないと考えた俺は、自分の衣嚢を探った。


おっ、あったあった。俺は軟膏の箱を一つ取り出した。


「持っておいてくれ、万が一怪我をしたら塗ると良い。これは良いもんだ、今はもう市場には出回ってないんだぞ」

これは本当の話だ、食霊用のは安くはない。自分の身を守るために持っていた物なのに、なんの気の迷いかわからず彼に渡してしまった。


彼は頷いて受け取ってくれた。

「ありがとう」

そう言って、彼は暗闇の中に消えて、もう見えなくなってしまった。


……

チッ、世の中のひとがみんな高じゃなくて良かったぜ。いつもこんな申し訳ない気持ちになってたら、商売なんて出来るかよ。


Ⅴ 羊方蔵魚

羊方蔵魚は詐欺師だ。贋作の絵を売って得たお金でお酒を飲んで、悠々自適な生活をしている。

彼はいつも自由自在、瀟洒快活を口にし、まるで世界の何もかもが彼の心の重荷にならないかのように語っているが、本当のところ彼が情に熱いということを知るひとはあまりいない。


羊方蔵魚が初めて贋作を書いたのは、彼の御侍を救うためだった。

御侍の薬を買うお金を捻出するため、才能を持ちながら誰にも認められていない御侍が生きて彼を認めてくれる人を持てるようにするため、羊方蔵魚は画家としての誇りを捨て、自分の名が刻まれた判子を放棄した。


彼は何もかもがどうでも良かった訳じゃない、彼も画家になりたいと思っていた。

彼が諦めたのは、ただ彼にとって画家になることは御侍よりも大切ではなかったから。

彼は御侍との絆のためにあらゆるものを諦められた、だけど彼の御侍はそうは思わなかった。

彼の御侍は誇りを何よりも大事にしている、身の潔白こそもっとも大切だと思っていた。

どうやったって、彼は羊方蔵魚のした事を受け入れることは出来なかったのだ……


これが羊方蔵魚を傷つけた。彼の死を受け入れても、自分の善意が水の泡になってしまったことには耐えられなかったのだ。

だからこそ、彼は誰かから善意を受け取ることを拒む。


ヤンシェズから騙した金の延べ棒二本は、高価な軟膏と相殺された。きちんと計算すれば、むしろ羊方蔵魚は少し損していることになるだろう。

しかし、上記で説明した通り、彼はお金が好きだ。同僚からお金をせびれなかったけど、上司からの任務はこなさないとならない。


いつものように、羊方蔵魚はゆっくりと南離印館に向かって歩き出した。

長くて暗い廊下を通り、書斎の扉を開けた。


「また良い商売が出来たのですか?」

満面に笑みをたたえている羊方蔵魚を見た明四喜は、目を細めて不敵な笑みを浮かべた。


「ハハッ!明の旦那こそ私の最大の商売相手ですよ~今回声を掛けたのは、また何かを探って欲しいのですか?なんでも仰せってください、必ずや探り出してみせましょうぞ!」


明四喜は彼の口上には慣れているようで、彼の言葉には目もくれず、ゆっくりとお茶を飲んでいた。


「そうですか。そのように自信がおありなら、きっと朱雀神君の神物のありかもわかるであろうな?」


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ゲーム概要 美食擬人化RPG物語+経営シミュレーションゲーム

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