ラムネ・エピソード
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ラムネのエピソード
天真爛漫で賑やかなことが大好きな女の子。その元気さは周りの人にも伝染する。暑いのは嫌いだが、夏の各種行事が大好き。そのためいつも氷水を持ち歩いている。りんご飴と仲が良い。
Ⅰ甘酸っぱい夏
(※誤字や文章が不自然な部分が見られたため編集者の判断で一部変換など変更して記載しています)
とある夏の日。
ラムネは召喚された。
目の前にいる若い男の人は眼鏡をグイグイ上げながら本を見つめていた。
突然現れたラムネにビックリしたのか、口と目を大きく開けていた。手も震えて、持っていた本が地面に落っこちた。
「うう――こんにちは、御侍さま……」
ラムネは少し寝ぼけていたから、彼の反応を見ないまま目をこすりながら挨拶をした。
「わっ!?……なにっ?――ひぃっ!!!」
どうしてか彼は後ずさって、どっかにぶつけたみたい。とても痛そう。
ガタンッって音がして、ラムネもびっくりした。
(あれ、どうしたのかな!?周りに危険なものなんてないみたいだけど……もしかしてラムネが急に出てきてビックリしちゃった?)
「ごめんなさい!驚かせるつもりはなかったの!御侍さま、ラムネだよ。君が召喚した食霊の!」
ラムネはにっこりと笑って、自己紹介をした。
「本、当に召喚できちゃった?食霊を召喚できたら告白するって言っちゃったけど……まさか本当に……いや、でも……」
御侍さまは表情をコロコロ変えて、ブツブツ喋ってた。
(……あれれっ!?待って!何かすごいこと聞こえたよ!?)
「告白!?御侍さまは好きな人がいるんだね!どんな人なの?男の子?女の子?どこで知り合ったの?どこまでいったの?何かいい思い出とかはないの???」
「え?ああ、ちがっ、ちょっと待って……」
「ねぇ教えて!二人の話が聞きたいの!」
詰め寄ると彼の顔はトマトみたいに真っ赤になった。
(へへへ~好きな人いるんだね~)
「近すぎるよ!」
「わかった……少し離れるよ……」
少し下がって、静かに彼が話し出すのを待った。
御侍さまは大きく深呼吸して、何かブツブツ言ってからようやくラムネの方を向いてくれた。
Ⅱ デート攻略
「こんなに彼女のことが好きなら、告白したらいいのに!」
「でも……僕のことをどう思ってるかなんて知らないし、万が一フラれちゃったらどうしよう?」
「でも夏が終わったら彼女はいなくなっちゃうんでしょ!」
御侍さまが三年も片思いしてた女の子は、夏が終わるとこの町から引っ越しちゃうらしい。
(もうあとがないのに……青春は待ってくれない、恋がしたいなら急がないといけないの!このままだと、手を伸ばせば届いたはずの素敵な未来が泡になって消えちゃう!)
「ぼ、僕は女の子と話すのが苦手なんだ!!!」
御侍さまは顔を隠しながら、空に向かって叫んだ。
「君と話をしていても緊張するのに、彼女を前にしたら……もっと……」
「慣れるしかないよ!このままじゃデートの時はどうするの?」
「デデデ、デート!?無理だよ!長時間一緒にいるってことだろ!!!彼女を見てるだけでドキドキで死にそうだよ……告白なんていいよ……考えただけで脳みそが沸騰しそうだ……」
(あーもー!何をブツブツ言ってるの!)
「もうっ!頭を抱えないで!告白のためにラムネを召喚したんなら、ラムネが手伝ってあげるよ!」
一時間後。
「これで全部なの?」
本棚の中にあった恋愛小説を全部掘り出した。
(想像してたより多いけれど、二人もいれば読み切れるよきっと)
「そうだ。あっ、あとこれも!一回頭がおかしくなって、このジャンルの本を全部買い漁ったんだ……」
御侍さまは『恋愛秘儀:彼女の心をキャッチ!』って書いてある冊子を取り出して本の上に乗せて、またブツブツと独り喋り始めた。
「結局本に頼るしかないのか……大丈夫?」
「やってみないとわからないじゃない!」
(ここまできて余計な心配をしてどうするの?ラムネも経験がないけど、机いっぱいの参考書があるじゃない?きっと何かいい方法があるはず!)
「はぁ……」
御侍さまは俯いて、やる気なさそうにしていた。
(まだ始まっていないのにやる気をなくしちゃだめ!)
彼の頬を両手でバチンと叩いて、ぎゅっと中央に寄せられた彼の顔を見つめて言った。
「落ち込んでる場合じゃないよ!デートの時はこっそりついて行って、手伝ってあげるから!考えてもみてよ、もし告白しなかったら、彼女一生君の気持ちを知らないままなんだよ!後悔しないの?」
「そりゃ……後悔する!一生後悔するよ!ダメだ、そんなの絶対にダメだ!」
(そうこなくっちゃ!)
「だから、御侍さまはそっちの読んでね!ラムネがこっちの読むから!二人で頑張ろうね!」
「……わかった!」
Ⅲ ハプニング
恋愛小説とか恋愛指南書って意外とちゃんと役に立つみたい。
そのおかげで、御侍さまは女の子をデートに誘うことができた。商店街でショッピングしたし、映画も見終わった。
今のところ女の子の機嫌は良さそうに見えた。
いよいよ最後のディナーの時間だ。店員にお願いした花を持って告白して、ロマンチックな雰囲気でデートが終わる――
(はずだったのに!どうしてたこ焼き屋さんにいるんだろう……店員のお姉さんはかわいいけど、ここでディナーするのは流石に……)
よりによって今日高級レストランが貸し切りになっていた。ディナータイムだったから、街中にあるレストランも全部満席らしい、どうにかたこ焼き屋さんに入ったみたいだ。
(本にはこんな状況を対応する方法なんて書いてないよ……キャンドルも、豪華な食事も、花もない……デートはこのまま続けられるの?)
近くの席から御侍さまを見守ることにした。
店にはお客さんがたくさんいて、テーブル二つ先の会話なんて聞こえないし、雰囲気が良いかどうかもわからない……
「ハロー何を見ているの?」
「アンタ8番テーブルのカップルと知り合いやろ?」
「そうそう、そこのテーブルの……御侍さまは無事告白できるのかな?」
(……ん?あれ?)
答えてから知らない女の子がいつの間にか話しかけてきたことに気付いた。
「初めまして、ウチはお好み焼き、この子はりんご飴や。この店の常連さんってとこや!悩んでるように見えたから、話しかけにきたんよ」
彼女は自己紹介をしながらラムネの傍に座った。微笑みながら、目がキラキラしている。
「さっき告白って聞こえたけど……まさかあの二人のこと?」
(あれ待って、常連さんなら何とかしてくれるかも?)
「ちょうど困ってたの、聞いて――」
「アンタんとこの御侍サマどうしてそないに情けへんの?一日時間があるのにまだ告白しよらんなんてうううううーー」
事情を聞いたお好み焼きは我慢できずに声を上げた。立ち上がろうとしたところ目ざといりんご飴によって押さえられた。
「シーッ!焦らないで、方法はある、私に任せて!」
りんご飴は指をパチンと鳴らし、ニヤニヤと笑った。
「花も、キャンドルも、ドーンっと任せなさいっ!」
そう言って、戸惑っているお好み焼きを引き連れて、席を離れた。
Ⅳ 女子会
デート事件をきっかけに、ラムネはりんご飴、お好み焼き、そして店員のお姉さんであるたこ焼きと友だちになった。今は気付けば彼女たちと話をしている。
今日もお好み焼きの幼馴染であるおでんの店に集まって、御侍さまが告白した時のことを思い返していた。
「あの時ビックリした!お店の電気がパッと全部消えて、バラとキャンドルで飾られた料理が……本当にどうやって思いついたのあははは――皿を持って行ったたこ焼き姉さんの顔が真っ赤になってた」
実にりんご飴らしいやり方だった。ロマンチックで、ハッピーで、そして王道でもある。
とても気に入っている。
「何笑ってんの!」
「わかってないのね――彼らみたいな両想いは告白するのを恐れているだけよ、背中を押しちゃえば楽勝よ!」
相変わらずの自信満々な笑顔だ。
「派手にやっちゃえば、君の御侍さんも逃げられないでしょ?」
(その通りだ……)
「さすがりんご飴、恋愛指南書よりも頼もしいね!」
「あんなものに負けるわけがないよ!それより二人はどんな感じ?」
「あっそうだ、これのために来たんだ、はいっ!」
「結婚式の招待状!?」
付き合い始めた後、女の子は御侍さまのためにここに残ると決めてくれたみたい。そして何年か経って、ついに結婚することになった。
ここ数年、彼らは数えきれないほどの思い出を作った。そばで応援しているラムネも、毎日甘いシロップに浸かっているような日々を過ごして、胸がいっぱいだ。
笑い疲れた顔を揉みながら、残りの招待状を配った。
「おお、おおきに!おめでとうって伝えておいてな!おでん!アンタの分はここに置いておくで!」
お好み焼きは招待状を机に置いて、厨房の方の暖簾に向かって呼び掛けた。すると暖簾の奥から「わかった」という声が聞こえてきた。
返事をもらったお好み焼きは、何かを思い出したかのように空を見た。
「最近遅くまでおるみたいやね、どうしたん?」
(うぅ、悩んでるのがバレてるみたいだね)
「何かやること見つけないとだなって……」
「やること?」お好み焼きは首を傾げた。
お好み焼きは毎日彼女の御侍さまとファッションの勉強をして忙しそうにしているから、この気持ちはわからないだろう。
(とりあえず暇!暇すぎるの!)
「御侍さまたちはもう軌道に乗ってるし、ラムネの助けはもういらないでしょ。二人の邪魔にならないように、いつも出歩いて遊んでるの。でも、いつまでもこのままじゃダメだね……」
「あー、大丈夫!おでーーーん!」
「はい?」
料理を持ってきたおでんは、大声に慣れているのかいつも通りの表情を浮かべていた。
お好み焼きも遠慮なく、ニコニコと話を聞いた。
「この店、人手足りとるん?」
Ⅴラムネ
時間はゆっくりと過ぎて行った。
気付けば、ラムネの御侍は父親になっていた。
そして家族三人は小さな町を離れ、大都市に定住することを決めた。
ラムネは彼らに付いて行かなかった。
彼女は明るい笑顔で三人を駅まで送り、出発するまで色んな話をした。
そして、歌を口ずさみながら、おでんの店に出勤した。
彼女の心は別れによって揺れ動くことはないようだった。
でも、確かに彼女にとって、それは悲しいことではなかった。
「こっちに来ないとは言ってないし、それに来た時はお土産を買って来てくれるって言ってたの!」
顔が赤いラムネは自分の頬を掻いていた。
「実は今日駅に行くかどうか悩んだんだ……そしたら、なんて言われたと思う?」
「彼がね――」
「ラムネ、今まで色々してくれて本当に感謝している、だけど僕は君のことが心配なんだ……君はいつも僕と妻のことばかりで、君自身の生活があるということを忘れていたよ。ごめんなさい。これからは君だけの楽しい思い出をたくさん作ってほしい」
「それを聞いて考えたんだ、ラムネだけの思い出は全部ここにあるって気付いたの!この町そしてて君たちのところにある。だからラムネはここに残ったの!」
「わあああ!ラームーネー!!!!!」
お好み焼きは叫びながら真っ先にラムネに飛びついた、そして乱暴に彼女の長い髪をぐしゃぐしゃにした。
次はりんご飴、そしてたこ焼き、女の子たちはおでんの店の中でわいわいはしゃぎながら抱き合っていた。
(もうすぐ営業時間だぞ……それにラムネは上の探偵社から家賃を貰ってくるよう頼んだのに、どうしてりんご飴を貰って来たんだ?)
優しいおでんはもちろん想っていた言葉を呑み込んだ、この和やかな雰囲気に水を差すのは野暮だ。
彼は今日この子たちのために貸し切りにすることにした。
そして、店の入口にこっそりと「準備中」の札を下げた。
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