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誰も知らない・ストーリー・メインⅠセロ町

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第一章-惨劇

協会の惨劇が再び

……

機密文書 

No.1130

……

8月14日

複数の誘拐事件に関与した疑いで、「黒い黎明」のリーダー・クロウリーを逮捕。本件の担当者はセロ町保安官・ダンキ。

8月15日

証拠不十分のため、クロウリーを釈放。

……

8月17日

アムビエル教会にて、「黒い黎明」が秘密の儀式を行った際に火事が発生。

所属メンバー✗✗人、全員の死亡を確認。

同日、教会内や周辺にて✗✗✗体の遺体を発見。

検視した所、遺体のいずれも届出のある行方不明者のものであることが確認された。

第一発見者はクロウリーの食霊――ハギス

取り調べに応じず、更に過剰な反応を示したため、一先ず収監することが決定された。

8月18日

セロ町の住民✗✗✗人を殺害し、極悪非道な行為を行ったとして、被告人ハギスをタルタロス大墳墓重刑監房0013号室に拘留。

終身刑に処す。


三年後――


タルタロス大墳墓

応接室


シェリー:……三年後、壊滅した筈の「黒い黎明」は蘇り、セロ町に舞い戻って犯行を続けている……三年前の惨劇の際、他に共犯者がいたかもしれない……

カサッーー

シェリーは分厚いファイルを閉じると、まるで羽根で出来た扇子をあおぐかのように、それを揺らした。

シェリー:どうしてセロ町で起きた失踪事件を「黒い黎明」の仕業だと想ったの?あの組織の唯一の生き残りは今監獄にいるし、他は全員三年前に死んだじゃない。まさか怨霊の祟りだとか言わないわよね?

ポロンカリストゥス:私がこう書いたのには、確固たる理由があるからだ。

 青年は笑いながらシェリーからファイルを受け取り、持ち歩いているプレゼントボックスの中に仕舞った。すると、その赤いボックスは魔法が掛けられたかのように、ポケットに入る程の大きさにまで縮んだ。

シェリー:貴方のそれ便利ね……

ポロンカリストゥス:お褒めいただき、ありがとうございます〜コホン、話を元に戻すね……セロ町で「黒い太陽」、つまり「黒い黎明」のシンボルが刻まれた装飾品を持っている者を発見した。そしれこれ以外にも……

ポロンカリストゥス:最近起きた失踪事件の被害者宅からキャンディを見つけた。幻覚作用のあるそれは、三年前の事件現場に残された物と同一の物と思われる。「黒い黎明」が複数の誘拐事件を起こす際に使っていたキーアイテムだ。

シェリー:本当にあいつらの仕業だとして、折角三年も雲隠れ出来ていたのに、どうしてまた同じシンボルを使ったり……同じキャンディ同じ手口で事件を起こすの?目立ってしまうじゃない……

ポロンカリストゥス:カルト徒の考えなんて、我々のような普通のひとには見当も付けられないよ。

シェリー:普通のひと……?まあいいわ……貴方の性格上、きっともう誰かをセロ町に派遣して徹底的に調査させてるでしょう?

ポロンカリストゥス:ああ、もちろん。現場で特殊なキャンディの包み紙を見つけた。

ポロンカリストゥス:包み紙の出所を探った結果、ある手作りキャンディ屋に辿り着いた。でも、あの店主はかなり慎重なようで、まだ何も掴めていない……もしかすると……

シェリー:その店主が共犯者じゃないかって疑っていて、私に話を聞き出して欲しいってこと?わかったわ、とりあえずあのハギスに探りを入れてみるわ。もし共犯者が本当にいたら、情報を聞き出せば良いのね?

ポロンカリストゥス:その通りだ〜

シェリー:フフッ、珍しく簡単な任務じゃない。急いで犯人を取り調べて、私のシャンパン陛下に報告してくるわ〜

 一時間後ーー

シェリー:……

ポロンカリストゥスシェリーちゃん、貧乏ゆすりは体に悪いよ〜

シェリー:チッ、ブランデーの縄張りであるタルタロスに来ているのに会えないってどういうこと?!

ポロンカリストゥス:まあ……典獄長だし、忙しいんだろうね。

シェリー:忙しい?しょっちゅう陛下の所に行ってお酒を飲んでいる癖に……ああー!もう待てないわ!どうせ取り調べの申請はもう通ったんでしょう、どうしてあいつを待たなきゃいけないの?取り調べしてくるわ!

 ポロンカリストゥスの返事も待たずに、我慢の限界だったシェリーは応接室を飛び出して、重刑監房の方へと向かった。


シェリー:……0013……0013……見ーつけた。

シェリー:わざわざ私に頼むなんて、一体どんな極悪非道な犯人なのかしら、顔を見せてやるわ!

ハギス:……お姉さん?僕に何の用?

 目の前に現れた無邪気な子どもを見つめ、シェリーは瞬きを繰り返した。改めて何度も監房の番号を確認したが、彼女の開いた口は塞がらない。

シェリー:……これがあの惨劇を引き起こした……殺人犯?見た感じ、普通の子どもにしか見えないけど……

ハギス:へへッ……一緒にゲームでもしない?お・ね・え・さ・ん〜


第二章-脱獄

容疑者脱獄?

タルタロス大墳墓

監房0013

 ガサッーー

シェリー:取った!フンッ!今度こそ私の勝ちよ!

ハギス:ええー!

シェリー:フフッ、ハギス、私が一回勝ったら質問を一個答えてくれるっていう約束だったわね、約束は守ってもらうよ〜

 三分後ーー

ハギス:よしーーチェックメイト!また君の負けだよ!

シェリー:なっ……!

ハギス:自信満々だったから、チェスが得意なのかと思った!こんな簡単なのに……

シェリー:……

ハギス:十七回連続で負けるなんて……期待して損しちゃった……

シェリー:可愛くないわね!もういいわ!もう遊んであげない!

ハギス:えっ、行かないで、僕が悪かったよ……

シェリー:触らないで!

 ゴトッーー

 シェリーはいじけたフリをして、少年が態度を和らげた所で情報を引き出そうとした。しかしハギスを振り払った勢いで、チェス盤をひっくり返してしまった。

 チェス盤がひっくり返ると、穏やかだったハギスは突然豹変した。

ハギス:僕のチェス盤!!!!!

シェリー:それは……貴方のだったの?タルタロスの備品なのかと……

ハギス:壊れた!!!チェス盤!!!お前!!!!!

シェリー:落ち着いて、たかがチェス盤でしょう、そこまで怒らなくても……新しいの買ってあげるから、ね?

ハギス:いらないっ!!!!!いらないっ!!!!!

 少年は跪き、怒りに身を任せて叫び続けた。まるで地面に落ちたのはただのチェス盤ではなく、かけがいのない宝物だったかのように。

シェリー:どっ、どうしたの……あれ、これは?

 地面に落ちたチェス盤は、予め切れ目が入っていたかのように、真ん中から綺麗に割れていた。その中から放たれている微かな青い光が、シェリーの視線を奪う。

ハギス:離れて!!!触らないで!!!先生言ってた!誰も触っちゃダメ!誰も!!!

シェリー:……このクソガキ……

シェリーハギスごめんなさい、わざとじゃないのよ、手が滑っちゃったの……お姉さんに少しだけ見せてくれない?もしかしたら直せるかもしれないよ。

ハギス:……嘘だ……嘘つき嫌い……

シェリー:安心して、お姉さんは嘘なんかつかないよ〜

ハギス:……はい……

 ハギスからチェス盤を受け取ったシェリーは、直せるかどうかを確認するフリをしながら、裂け目から何かを取り出した。

シェリー:これは……ペンダント?

 ペンダントには三つの小さな飾りがぶら下がっていた。飾りの中には暗い青色の液体が入っていて、怪しげな光を放っていた。そしてシェリーを一番驚かせたのは、わかりづらいが飾りには小さな黒い太陽が刻まれていたのだ。

シェリー:「黒い黎明」……

ハギス:先生!先生のペンダント!

シェリー:これは貴方の物じゃないの?

ハギス:先生のだよ!

シェリー:(「黒い黎明」にはやはり生存者がいた。つまり、ハギスの「先生」こそ共犯者だった可能性が高い……)

シェリー:コホンッ、ハギスちゃん、貴方の言う先生って誰のことかしら?

ハギス:君の負けだから答えないよ!約束は守らないと!

シェリー:……はぁ……このチェス盤は不思議ね、見たこともないパーツが使われているわ……これは持ち主に聞いてみないと、直せないかもしれないね。

ハギス:そんな……ここから出られたら……ここから出れば、先生に会いに行けるのに……

シェリー:フフッ……ハギスちゃん、今日お姉さんに出会えて本当にラッキーだったわね〜

ハギス:うん?

シェリー:脱獄しましょう!

ハギス:えっ?!


第三章-セロ町

日常のその裏には……

昼間

セロ町

 他の町同様、昼間のセロ町は車や人で溢れ活き活きとしている、かつて惨劇があった町には到底見えない。

 シェリーはそんな日常にはまったく興味はない。彼女は馬車を降りて路地に向かった。周囲に誰もいないことを確認した後、コートのポケットから小さな赤いボックスを取り出し、地面に向かって投げた。すると、見る見るうちに箱が大きくなっていき、気づけば誰かが箱から出てきたのだ。

ハギス:ねぇ!!!チェス盤!!!チェス盤返して!!!!!!

シェリー:落ち着いて!

ハギス:チェス盤!早くチェス盤!

シェリー:(タルタロスがチェス盤を監房に入れることを容認するわけだわ、少し離れただけでこうなるなんて……)

シェリー:……安心して、この箱に入れておけば自分で持っているより安全だわ。

ハギス:……

シェリー:はぁ……酷いわ、苦労して連れ出してあげたのに、ありがとうの一言もないなんて。

ハギス:……ありがとう……

シェリー:……あら、外の世界が好きじゃないみたいね、お姉さんが責任もって送り返してあげようか?

ハギス:えっ!イヤだ!閉じ込められるの!イヤ!

シェリー:からかっただけよ、そんなに驚かなくても……よし、早く貴方の先生の所に連れて行ってくれないかしら?チェス盤を直したいんでしょう。

ハギス:でも、今先生がどこにいるかわからない……

シェリー:…………

シェリー:(なんですって、騙されたわ……はぁ……少しずつ警戒心を解いていこう、どうせあの鹿はもう近くに潜伏しているだろうし、この子は逃げられないわ〜)

シェリー:仕方ないわね、後回しにしましょう……折角出て来れたんだから、やりたい事をやりましょう?

ハギス:うーん……キャンディ!キャンディが食べたい!閉じ込められる前に一回食べたことがあるんだ、でももう味も思い出せないんだ……

シェリー:キャンディね……フフッ、良い店を知っているわ、そこに行きましょう〜

ハギス:うん!

 シェリーは自分の任務を完遂させて早くシャンパン陛下に報告したい一心で動いていた、そのため彼女はハギス以上に事を急いでいる。例のキャンデイ屋の調査に向かうため、彼を連れて足早で向かった。

(明転)

 彼らが遠ざかっていくのを確認した後、二つの人影が路地から現れた。

???(制服の男):どうだ?

ポロンカリストゥス:離れていった……しかし、こんな簡単にタルタロスから脱獄出来たというのに、ハギスは何も疑わないんだね。

???(制服の男):ハギスは単純だ。他人を、特に彼に良くしてくれている者を簡単に疑ったりはしない。彼の本質はまだ子どもだ。

ポロンカリストゥス:流石タルタロス典獄長・オイルサーディンだ、囚人とも仲が良いなんて。何が起きても気にもとめないし、約束も守らない誰かさんと違って、ね。

オイルサーディン:……自分の責務を全うしているだけだ。

ポロンカリストゥス:脱獄を協力してくれるなんて、典獄長の責務とは言えないんじゃ?

オイルサーディン:俺の役割はタルタロスから犯罪者を逃さないことだ。そして、罪のない者に冤罪を着せないこと。ましてあの子どもは……多くの人を殺すような奴じゃない……

ポロンカリストゥス:だから捜査に協力してくれたのか……流石典獄長、凄い覚悟だ〜

オイルサーディン:……

ポロンカリストゥス:でも、ブランデー典獄長の方は……

オイルサーディン:……後できちんと説明する、とにかく今は後を追おう。

ポロンカリストゥス:はーい。


第四章-キャンディ屋

手がかりはどこを示す?

しばらくして

キャンディ屋

シェリー:(鹿が言っていたのはここかしら……)

ハギス:わぁ……キャンディがいっぱい!シェリー!どれが良いと思う?!どれっ?!

キャンディ屋店主:ハハッ、そこの坊や、気に入った物はあったかい?シャリーン、ほれ、一番売れてるあのキャンディを持って来てくれ!

おかしな少女:…………

キャンディ屋店主:チッ……シャリーン!

 シャリーンと呼ばれている女の子は、呼ばれても反応がない。店主が声を上げて呼び直した後、ようやく彼女はゆっくりと後ろを振り返って、嫌そうに倉庫の方へと向かった。

シェリー:その女の子は……

キャンディ屋店主:シャリーンは新人でして、まだ仕事に慣れていないんです、気にしないでください。おや、お二人は見ない顔ですね、旅行ですか?

ハギス:旅行……って何?キャンディを食べに来ただけだよ。

キャンディ屋店主:そ、そうか……おや?坊や、首に下げているのは……

ハギス:これは先生のペンダント、綺麗でしょ?でも……見るだけだよ、触っちゃダメだからね。

キャンディ屋店主:そのペンダント……!まさか……!

おかしな少女:キャンディ。はい。

ハギス:じゃあ……いただきます!

キャンディ屋店主:ままま待ってくれ……えっと、そうだ……!それは期限が切れているようだから、私と一緒に倉庫に行こうか!新しいのを出してあげよう、もっと美味しいのをな!

ハギス:わかった!

シェリー:どうしました?

 親切な様子でハギスを倉庫に連れて行った店主を見て、シェリーは思わず勝ち誇ったような笑顔を浮かべた。しかし、彼女が彼らについて倉庫に入ろうとした瞬間……

???(鎖の少年):彼が渡したキャンディを食べるな。

シェリー:!!!

 突然、冷ややかな少年の声が耳元で響いて、シェリーは鳥肌が立った。彼女は素早く振り返ったが、キャンディを持って嬉しそうにしている子どもがいるだけで、異常は見られなかった。

シェリー:……まさか幻聴……でも一体誰が……

ハギス:えっ……な、なにしてるの?!

 シェリーがキャンディ屋の中を詳しく調べようとした瞬間、倉庫から叫び声が聞こえてきた。彼女は声の主を調べることを諦め、急いで倉庫へと駆け込んだ。

シェリーハギス

ハギス:たつ、立って……シェリー、ねぇこの人何してるの?

 倉庫に入ると、キャンディ屋の店主が大きな体を丸めてハギスの前に跪いているのが見える。ハギスに何かあったのかと思っていたシェリーは、その光景を前にすぐには反応出来ず、きょとんとしていた。

キャンディ屋店主:そっ、そのペンダントを一度だけお見かけしたことがあります!先生の物で間違いありません!先生の物に違いない!いつ帰って来てくださったのですか?!私は、もう準備が出来ています!大祭司の要求に従って準備してきました!見てください!生贄をこんなにも用意しました!

ハギス:せっ、先生の物?先生って僕の先生?!

キャンディ屋店主:先生は儀式を執り行うために帰って来てくださったのですね?儀式は遂に完成するのですね?早くお教えください、この日を待ち望んでおりました!お願いします、お願いします!

シェリー:……親愛なる教友よ、「黒い黎明」は信徒一人一人の声に身を傾けてくれますよ。まずは立ってください。

キャンディ屋店主:ああっ!使者様!使者様お願いします、先生に会わせてください!私は……もう待てません!リサはもう待てないんです!

シェリー:リサ?

 パンッーー

 シェリーが言葉の意味を理解する前に、店の方から急に大きな音が聞こえてきた。それを聞いた店主は、顔色を変えて急いで倉庫から出て行った。

キャンディ屋店主:また来たのか!この前全部調べただろ!うちは、お前たちが言っていた件とは何の関係もない!

ドーナツ:前回は運が良かったようですね。今回は確実な証拠を掴んでいます、逃しません!

ドーナツ:あなたは重大な誘拐事件に関与した疑いがある。この事件を捜査するために、神恩軍はあなたを逮捕する権利が与えられた、共に来い!

ハギス:ダッ、ダメ……キャンディのおじさんは先生のことを知ってる、先生にチェス盤を直してもらわないと!ダメ……捕まえないでっ!!!


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