誰も知らない・ストーリー・メインⅡキャンディ屋
第五章-生贄の儀式
かつての信徒
しばらくして
セロ町の路地
ドーナツ:店主は?!
神恩軍兵士:……あちらに向かって逃げたようです……
ダダダダッーー
シェリー:ふぅ……
神恩軍と余計な争いをしないため、シェリーは突然暴れ出したハギスを気絶させて連れ出すしかなかった。その結果、彼女は片手でハギスを引きずりながら、キャンディ屋の店主を抑えて身を隠す羽目になってしまった。
ハギス:うぅ……閉じ込めないで……イヤ……
シェリー:!
こんな時にハギスが寝言を言うとは思わなかったシェリーは、慌てて彼の口を塞いで物陰に隠れた。物陰の方をじっと見つめる神恩軍軍団長は明らかに物音に気付いている様子だった。
急いで走ったためまだ呼吸が整わないシェリーは、皿に冷や汗が止まらなくなった。どうにか息を殺し、拳を握りしめ、相手が早く離れることを祈った。
ドーナツ:……行こう、あちらを見てみましょう。
神恩軍兵士:ハッ!
気付かれていた筈だったのに、神恩軍は路地から出て行った。遠のいていく足音を聞いて、シェリーはやっと胸を撫で下ろした。
***
キャンディ屋
彼女は物陰から出て周りを見渡し、ポロンカリストゥスがいないか確認しようとしていた。
キャンディ屋店主:どっ……どうしたんですか……
シェリー:いえ……ただ、神恩軍が突然このような暴挙を行うとは思いませんでした。他の信徒に危険が及ぶのではないかと心配しているだけです。
キャンディ屋店主:安心してください……大祭司は他の信徒を隠して、絶対に見つからないようにしています。
シェリー:大祭司……
キャンディ屋店主:なので早く先生に儀式をお願いしましょう!儀式が完成すれば、全ての教徒に永遠の命が与えられる、もう何も恐れることはありません!
シェリー:(先生?……どうやらこの店主は共犯者ではないみたいね)
自分をカルトの幹部だと勘違いして、哀れな程に卑屈に振る舞う店主を見て、シェリーは目を見開いて、ある案を思いついた。
シェリー:……これが貴方の願いですか……しかし……
キャンディ屋店主:使者様、使者様!大祭司は私の望みを優先してくださると仰ってました!私はもうこれ以上待てません、待てないのです。命の危機を冒してまで、組織から言い渡された任務を遂行したのもこの願いのため……どうか、お助けを……
シェリー:……しかし大祭司は、先生にこの事を報告したことはないようです……
キャンディ屋店主:!!!どうして……
キャンディ屋店主:使者様!私はこの二年間、大祭司の言いつけ通り、町民たちに「聖なるキャンディ」を売り、皆のために「生贄」を作ってきました。一切命令に背くことなく……リサは……リサはもう待てないんです……先生が私のことを忘れているなんて、そんな!
シェリー:(「聖なるキャンディ」?幻覚作用のあるキャンディのことかしら?……なら生贄というのは……失踪した人たち?)
シェリー:……安心してください。先生は慈悲深いお人です、決して貴方のことを忘れたりしませんよ。
キャンディ屋店主:ありがとうございます!ありがとうございます!私は他に何も求めません、ただ私の娘に、リサに最初の儀式の洗礼を受けさせてください……彼女の体はもうもちません……
シェリー:わかりました、では大祭司に確認して参ります……
キャンディ屋店主:お願いします……
シェリー:もちろん、大祭司が先生に隠し事をしていたのであれば、儀式が始まる前に彼を処分しなければなりません。
キャンディ屋店主:仰る通りです!あいつ……先生と連絡が取れるのは彼だけなので、彼はいつも偉そうな顔をしていました……にもかかわらず、彼は一日中オペラハウスで公演を見ているだけで、儀式を気にもしない……使者様……お願いします、リサをどうか、本当にもうもたないんです。
シェリー:……フフッ、信徒よ、安心してください。私は必ず、しっかりと彼を懲らしめてみせますよ~
第六章-新たな目標
見知らぬ邪魔者
昼間
セロ町通り
ひっそりとした小道には、時折猫の鳴き声や鳥のさえずりが聞こえる以外、シェリーの呼吸音と、愚痴しか聞こえない。
シェリー:さすが……五年連続……学生に最恐教官と……評された……鹿だ……私が苦労してるのを見てるだけで……手伝おうともしない……
ポロンカリストゥス:おや?シェリーちゃん、何か言った?声が小さすぎて、聞こえなかったよ。
シェリー:ハァ……ハァ……私たちが神恩軍に追われていた時、どこにいたんだ?
ポロンカリストゥス:そんな目で見ないでくれ、サボってないよ、結構な情報を手に入れたんだ〜
シェリー:情報?どんな情報?
ポロンカリストゥス:セロ町についての情報だよ。例えば、長い間放置されていた教会があって、いつも夜になるとそこから不気味な歌声が聞こえてくるらしい……
シェリー:どこにでもある怪談じゃないの、子どもでもあるまいし……
ポロンカリストゥス:ちゃんと最後まで聞いてよ。あの教会は、三年前惨劇が起きたアムビエル教会だ。
シェリー:…
ポロンカリストゥス:それから、これから行くオペラハウスについての噂もあるようだよ。公演を見た後行方不明になる観客が後を絶たないらしい。
シェリー:……三年前も、誰かが突然行方不明になった後、教会の近くで死体が発見された……
ポロンカリストゥス:だから、あの大祭司はオペラハウスで公演を見てるだけじゃない筈だから気をつけてね〜
シェリー:……考えれば考えるほど、情報収集の方が楽じゃないの……ムカついてきたわ、どうして私にやらせてくれなかったの……
ポロンカリストゥス:ハギスは前に私の顔を見たことがあるからねり今私の顔を見られてしまったら、彼の信頼を得るのにシェリーちゃんが今までしたことが全て無駄になってしまうよ〜
シェリー:うるさい!前の取り調べできちんと調書を取れたら、こんな面倒な事にならなかったじゃないの!
ポロンカリストゥス:私のせいにしないでよ、取り調べを担当したのは私じゃないし……でも、取り調べと言えば、これまで裁判記録にも妙な点が多い。
ポロンカリストゥス:うん……裁判記録にあるハギスの発言は「知らない」の一点張りで、そして……「彼らは、幸せだ」……この一言しかない。
シェリー:ほとんどの犯罪者は簡単に罪を認めない。言い訳をするよりも、自分は何も知らないとしらばっくれた方が無難だもの。
ポロンカリストゥス:でもハギスは、嘘が得意なタイプではないと思う。
シェリー:……確かな証拠を掴むまで、憶測はやめよう……オペラハウスに着いたし、怪しまれないように隠れてなさい。
ポロンカリストゥス:わかった、頑張ってね〜
ポロンカリストゥスは一旦シェリーたちから離れ、オペラハウスの近くに待機した。そして、シェリーはハギスを背負ったままオペラハウスに入って行った。
***
オペラハウス
金属が空気を切り裂く音が耳を掠めた。シェリーは自分の髪が切られていることに気付き、一瞬にして目つきを鋭くさせた。
シェリー:誰だ?!
スコーン:公演はまだ始まっていません、オペラハウスはまだ営業時間外です、お帰りください。
シェリー:警備員?こんな対応、乱暴すぎやしない?
スコーン:早く出て行ってください。
ハギス:うぅ?いつの間に寝てたの……
シェリー:先生を探していたでしょう?中にいるみたいよ!
ハギス:えっ!本当に?先生ー!
スコーン:とっ、止まれ!
シェリー:あら、ごめんなさいね、今すぐ連れ戻して来ますから!
スコーン:……入ってはいけない
シェリー :?
スコーン :今入れば、死ぬかもしれない。
パンッーー
少年の冷ややかな声が響いた後、オペラハウスから轟音が響いた。シェリーはすぐに反応出来ず、ただぼんやりと半透明の窓の向こうで燃ゆる炎を見つめ、三年前の亡霊の恐怖と絶望を感じていた。
第七章-火事
暴走した人々と火花
オペラハウス
黒い煙が黒い廊下に溢れ、シェリーの視界を奪った。彼女は咳をこらえて、前にいる少年の真似をして、服で鼻と口を隠し、ホールの中に入っていった。
まだ開場時間になっていないから、人はいないはずなのに、不思議なことに客席には頭を抱えて泣いている人々で溢れていた。
シェリー:ど、どうして……
スコーン:暴走した後、何かに触れてしまって火事になったのかもしれない。
シェリー:暴走?一体どういうことなの?!
スコーン:……時空を逆転させるエネルギーを持つ神器があるんだ……その欠片一つで、ある一定範囲内にいる者を一番印象深い過去へと誘うことが出来る。苦しい思い出や楽しい思い出に浸らせて、抜け出せなくさせる。
スコーン:最期は二通りある……軽ければ精神が崩れて狂人になる、重ければ……
シェリー:死ぬ……ってこと……?
(明転)
ハギス:あれ?誰かに呼ばれているみたい……先生?
ハギス:あれ……頭がクラクラする……なん……で……
???(男性):チッ、ただのガキじゃねぇか、どこが悪魔だ!
ハギス:あれ?し、知っている声……ここは、どこ……
???(男性):こんなゴミは組織にはいらない……どけ!
ハギス:うぅ!もっ、もう死んじゃったんじゃないの?どうして……
クロウリー:この野郎!私を呪うつもりか?また閉じ込められたいのか!
ハギス:い、イヤ!閉じ込めないで!
クロウリー:お前は私の食霊だ、私に逆らう資格はない!
ハギス:イヤ……イヤー!
ハギス:暗い……僕しかいない……どうして……怖い……
(明転)
???(鎖の少年):手を掴め!
ハギス:えっ?誰……?
???(鎖の少年):キミを救いに来た。
ハギス:助けて……僕を助けて!
(明転)
???(鎖の少年):……どうしてここに閉じ込められているんだ?
ハギス:僕の御侍様は……僕のことが、嫌いだから……
???(鎖の少年):……急用があるんだ、とりあえずここに隠れていてくれ、すぐに戻る。
ハギス:イヤ……一人にしないで……そうだ、先生、先生を探さなきゃ!
(明転)
フゥーー
ハギス:火……火がついた……人がいっぱい、みんな……
ハギス:こ、これが先生が言っていた、輪廻転生する方法……?
ハギス:ハハハハハッ!そうだ!みんな転生して、幸せを得たんだ!
治安官:悪魔!殺人犯!
ハギス:え?僕は違うよ、悪魔じゃないよ……
治安官:逮捕する!
ハギス:逮捕……ヤダ、やめて!閉じ込めないで!
ハギス:イヤだ!
(明転)
スコーン:そこだ!
ハギス:僕は……悪い事なんて、してないのに……閉じ込めないで……イヤー!
ハギス:アザゼルー!
第八章-人助け
カルト教団の痕跡
シェリー:ケホッ……まずいわ、火がますます回って来た……
シェリー:早くハギスを連れ出して、彼が死んでしまったら、あの時何があったかもう誰にもわからないわ!
オイルサーディン:彼を連れて行け、ここは俺たちに任せろ!
シェリー:貴方は……気を付けて!
(明転)
保安署の取り調べで余計な時間を取られないため、シェリーはハギスを連れて近くの路地に隠れ、ポロンカリストゥスからの連絡を待った。
二十分程経った頃、制服を身に纏った者たちが路地の前を通り、オペラハウスの方へと向かって行くのが見えた。その後すぐ
ポロンカリストゥスが路地にやって来た。
ポロンカリストゥス:火の手は止まったみたい、今のところ死者は出ていないそうだ。女の子が通報してくれたおかげで、保安署と神恩軍が駆け付けて後処理をしている。
シェリー:女の子……?
ポロンカリストゥス:それと、オペラハウスで暴走した人たちは……全員届出のある行方不明者たちだった。
シェリー:やっぱり「黒い黎明」のやつらの仕業だったのか……!
シェリー:意識がないわ、だけど軽い外傷だけだから大したことはないと思う。それにしても……
シェリー:典獄長はどうしてここに?
オイルサーディン:ハギスは我がタルタロスの囚人だ、捜査協力で今外にいるが、タルタロスの者が監視していなければならない。
ポロンカリストゥス:典獄長は協力者だ、ハギスを無事に連れ出せたのも、彼が助けてくれたおかげだよ。
シェリー:つまり……彼が監視していることを知っていたの?
ポロンカリストゥス:ふふっ、私たちの計画に影響はないし、気にする必要はないよ?
シェリー:……道理でずっと貴方以外の気配も感じていたわけだ……あっ、そうだ!大祭司!
スコーン:彼はもうここにはいない。
シェリー:どうしてわかるのかしら?
スコーン:彼は神器の欠片を設置するためにここに来た。キミたちが来る前にはもう彼は帰ったよ。
シェリー:……これだけの人を発狂させて、彼には何の得があるの?
スコーン:彼にとって、あの人たちは儀式の生贄だ。
シェリー:!
スコーン:三年前と同じ……まさか、新しい欠片を見つけていたなんて……
シェリー:貴方はこのオペラハウスで何が起こるかを知っていたってこと?だったらどうして止めなかったの!
スコーン:神器の力はオレでは止められない……オレに出来ることは、他の人をオペラハウスに入れないようにすることだけ。あとは、専門家に任せるしかない。
シェリー:……
ハギス:うん……
ポロンカリストゥス:ハギスちゃんが目を覚ましたみたいだ。典獄長、一旦身を隠そう。
オイルサーディン:……わかった。
ハギス:痛い……
スコーン:……手当してあげる。
ハギス:あっ、ありがとう……こんなに親切にしてくれたのは君が初めてだよ……
スコーン:これくらい何でもないよ。
ハギス:君は……君の声、どこかで聞いた気がする……なんだか懐かしい……
スコーン:……長い間、待たせてごめん。
ハギス:うん?
シェリー:良い雰囲気のところ悪いけど……
カチッ――
背後から突然銃のセイフティを解除する音が聞こえた少年は、一瞬身体を硬直させた。すぐに本能的に反撃しようとしたが、背後からの強いプレッシャーによって動けずにいた。
スコーン:……どういうつもり?
シェリー:いや、ただちょっと質問したいだけよ。
シェリー:キャンディ屋にいた怪しい奴は、貴方でしょう?
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