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鯛のお造り・エピソード

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鯛のお造りのエピソード

観星落の首座、伝説の五吉兆の一人。のんびりし過ぎていて、他人を焦らせてしまう。無気力で高貴なオーラを纏っているため、普通の貴族のようになんの戦闘力もなさそうに見えるが、そう見えるだけで観星落を攻撃してきた敵をいともたやすく打ち負かす程の戦闘力の持ち主。

普段は他人を焦らせてしまうが、実際にはとても頼りがいと決断力があり、命令が的確。

噂によると彼を見るとしばらく運が良くなるそう。富の象徴。


Ⅰ 籠の中の鳥

月の見えない夜の帳は、黒い檻の宵に天地を覆う。

私は海岸に立ち、海面に投影された夜空が並に揉まれている様を見て、自然と口角が上がった。しかし、心の内では憂いが揺らめいている。


頭上に広がるこの空は何も変わらない、星辰が運行した軌跡すら見えない。

ここはまるで孤島、行く末が読めない。

私は陰陽師でありながら、自らの力でこの星空の謎を解明することが出来ないでいる。


私は代々神霊に仕えてきた陰陽家の出身で、御侍は大神官であり、召喚された時に私を神霊に捧げた。

それから、私は輝夜様の神使として、万民に祀られ、この桜の島の繁栄と没落を見届けてきた。


人間が輝夜様の加護の下、成長し強くなっていく様を、そして変わっていく様を見届けた。


人間と人間を遥かに超える力を持つ私たちは平和に共存していたのに、いつからか人間によって私たちは分類されてしまった。

「妖怪」として扱われる者もいれば、神殿に祭り上げられ「神明」として崇められる者もいる。


同じ存在であるはずなのに、人間の心の中にある偏見のせいで、正反対の待遇を受けることとなった。

しかし、人間が利益に目が眩んでからは、「妖怪」も「神明」も欲望の踏み台と化した。


だが、再び災厄が訪れ、地獄から来た怪物は暴虐を始めた。

人間の独りよがりの偽りの自信は泡沫のように現実によって破れた。

神殿は一新され、陰陽家は再び崇められるようになった。


空に月がなくなった頃、輝夜様の信徒は最盛期より三割も多くなった。

しかし残念ながら、全てはもう遅い。


輝夜様は既にいない、この土地の物語も取り返しのつかないまま終章に進んだ。


別れ際、輝夜様は自分の力を七つの神器に変え、それらを彼女が選んだ七人の「守護者」に渡した。

私もその中の一人だ。


神器の力を使えば、私たちはこの土地を安定させることが出来るが、それと同時に災厄や破滅を招くことも避けられない。

その中で最も危険なのが、黄泉を鎮圧している「千引石(ちびきいわ)」という石だ。

私が守るべきだった「千引石」。


「恵比寿……これを……」

輝夜様は、珍しく人間から与えられた「神格」で私を呼んだ。

彼女が口を開いた瞬間、私は既に心を決めた。


神使としての待遇を受けているなら、この世の者を救う責任を負わなければならない。


「輝夜様、その石は私に任せてくれ」

「……綿津見?しかし……これは絶えず貴方を蝕むだろう……これは貴方が負うべき責任ではない」

「恵比寿の力でも難しいだろう、彼が対処できるものではない。あれは黄泉の門だ、怪物が絶え間なく出てくる……恵比寿の力の使いどころは、別にあるはずだ」

「……」


バシャンッーー


汚染された怪魚は私に襲い掛かる前に波によって硬い岩礁の上に叩きつけられた。

その音で私は我に返る。


私は生まれつき運が良い。言わば歩く吉兆。

自画自賛などではなく、純然たる事実だ。


どんな困難な任務であろうと、どんな危険な状況であろうと、「災い転じて福と為す」必ず回避出来てしまう。


しかし、私の代わりに責任を負ったあの強い男は、私のような運はない。


「貴方はこんな日が来ると思っていたのだろうか……」

「海の王者である貴方が、まさか海に囚われてしまうとは……」

「黄泉を鎮守する海神なのに、自らが黄泉に堕ちてしまった……」


バシャンッーー


返事は返ってこない、波打つ音しか聞こえてこない。

私に答えを返してくれる者は、既に海底に封印されている。


(この全ては私が引き受けるべきだったものだ)


今日に至るまで、あの男が欲しているものを私は知らないでいる……

本来私が引き受けるべき責任を負って、海底に囚われた彼は、本当に輝夜様のようにただこの天地を守りたいだけなのか?


彼は知っているはずだ。この島は陥落したあの日から、ただの大きな檻に過ぎないということを……


「いつかわかる日が来るはずだ。そして、全てを解決する方法を見つけ出す……」

それが例え、彼の頑固な考えをより意味のあるものにするためだけのものであったとしても。


「だから、それより前に死んではいけないよーー綿津見」


Ⅱ 杯の中の月

「首座さま、気を付けてくださいーー」


ジャラジャラッーー


無意識に碁盤に当たってしまい、全てひっくり返してしまった。無数の碁石が宙を舞う、全ては私を避けて碁盤と共に私のそばに落ちた。


私の顔をじーっと見つめるお赤飯、彼女こそこの観星落(かんせいらく)の大黒柱であろう。対外的には各分野の博士や陰陽師達と連絡を取りつつ、対内では細心の注意を払って怠惰な首座である私の面倒、そして性格の異なる「吉兆」たちの世話をしてくれている。

普段の彼女はここで一番優しいけれど、彼女しか私を睨んだりしないのだ……

これは多分、私が後ろめたく思っているからだろう。


私は幸運にもお赤飯に出会えた。だけど彼女は多くの雑事と面倒を掛けてしまう事となった。

例え彼女が今の生活を大事にしていると言っていても、一方的に得している私はどうしても後ろめたさを感じてしまう。

しかし、私は決してそれを表に出さない。


長い年月を経て私はわかったのだ。観星落の首座としての私の役目は、戦力を提供することでも、幸運をもたらすことでもない。

この世で滅多にない悠々自適を体現することだ。


星々が陰り、月明かりのないこの世界で、私こそが光だ。

ーー例え蛍火のような淡い光だとしても。


「首座さま、龍宮城からお帰りになられてから、ずっと上の空ですね。何があったかわかりませんが、この観星落にとっては、貴方さまの安否が何よりも重要ですよ」


お赤飯は柔らかな視線を私に送り、素早く後始末をしながら、優しく慰めてくれた。

彼女は世情を見破る眼力を持ち合わせながらも、私の心の奥底に隠れている傷跡を覗こうとはしない。

心地よい距離を保ち、適度に声を掛けてくれる。


(こんな「吉兆」を招くことが出来て、私はなんて幸運なのだろうか……)


心の底からホッとした私は、表情を和らげ先程までの緊張を解した。お赤飯から視線を逸らしながら、こう告げた。

「問題ないよ。久しぶりの遠出で少し疲れてしまっただけさ」

「では碁を打つのはここまでに致しましょう、また後日続きを」

「碁盤はひっくり返してしまったのではーー」


目を凝らして見ると、ひっくり返していた碁盤には先程までの局面が復元されていて黒が優勢になっている。そして、私は白の碁石を指していた。


「……」

「お先に失礼致します。首座さま、早めにお休みください」


お赤飯は静かに微笑み、私のためにお茶を淹れ直した後、退室した。


先程の一連で、私は沈んでいた思考を振り払った。


夜は予定通りやってくるが、星は見えない。

軒先に飾られた提灯だけが淡く光っている。

私は湯飲みを持って中庭にやってきた。心地いい風が吹く中、研究を続けた。


「遠く離れた相手と連絡が取れる古法に、反応がない……どこを間違えたのだろう……」

呟きながら、昨日見つけた古書を繰り返し研究した。


そこには、かつて陰陽師が意思疎通するための秘法が記載されている。伝説によると、別の世界とも連絡が取れるそうだ。

この古法が成功すれば、式神に手紙を持たせる必要がなくなり、素早く各方面から情報収集することが出来る。


「一体どこを間違えたのか」

幾度も試したが、成功する気配はない。今まで幸運に恵まれてきた私は、この件においては幸運に見放されたようだ。


(最後にもう一回試してみよう)


そう思いながら、私は慣れた手つきで印を結んだ。これに応じて魚の形をした式神が空中に現れ、波の模様が広がる。


拳ほどの水の塊が球体になり、収縮し拡散後、最終的に人の半分の高さ程の楕円形の水鏡になった。それは怪しげな光を放っていた。


「おおっ!遂に成功した!半年以上掛けてようやく成功した!やっぱり私は運が良い!」

光が散ると、水鏡に映った景色が鮮明になっていく。

変わった服を着た、変わった青い色を持つ青年が、興奮した様子で私を見ていた。


「半年?」


「ああ、半年以上さ!運は良い方だと思う!ほら見てくれ、こんなに古い秘法だ、試そうとする者は少ない。しかも同じ時間に発動させないと繋がらないそうだから、難しいんだ。貴方はどれ位試した?」

「そうだった、まだ名乗っていなかったな。私は最中、占星術師だ。貴方の名前は?」


「私は……」


どう返事すれば良いかわからず、私は持っていたお茶を啜り、誤魔化した。

すると湯呑みの中に真っ白な影が映っていて、目が眩んだ。


まばたきを一つして、顔を上げて寂しい空を見上げた。そして、俯いてまた湯呑みに映る影を見た。

確かに見えるーー

「月?!」


「ああ、何を大げさな。今日は満月だ、月があるのは当たり前だろう!」


この瞬間、長らく沈黙していた希望という名の気持ちが湧き上がってきた。

私は顔を上げ、なりふり構わず、最中という青年の頭上に懸かっている満月を見つめ彼にこう話した。


「わかった……月について話をしてくれないか?」


……


Ⅲ 月の中の兎

「お邪魔します」

「どうぞ」


それぞれの思いを抱いた二人が向かい合わせで座っていると、その重苦しい雰囲気のせいで私の庭に咲く桜も暗く見えてしまう。


共通の話題を持たない者と二人きりでいること以上につまらない事はない。


確かに「月兎」や「玉兎」と崇められている奴とは、共に神使として輝夜様に仕えていた。

しかし、その時から私たちの関係はとても微妙なものだった。


月見の考えと私の考えは、全く異なっている。

例え完全に理解出来なくとも、私は輝夜様の意志に従う。

観星落を立ち上げたのも、人間を助けるのも、人間と妖怪として認識されている「百鬼」たちの均衡を保つのも。


しかし月見の輝夜様に対する執念は、彼女に服従する気持ちよりも遥かに強い。

だから輝夜様がいなくなった後、月見は迷わず「百鬼」陣営に入った。


「お久しぶりです。恵比寿は相変わらず風情がありますね」

「なんだ?私に会いに来たのは、そんなお世辞を言うためなのか?では私からも一言。玉兎は相変わらず……回りくどいな?」


私の言葉を聞いても、月見は目を細めた口角を上げただけ。わざと挑発に乗ってこなかった。しかしこれも予想通り。


「首座さまは単刀直入の方がお好きみたいですね」

「そうだな。恵比寿としても首座としても、私の時間は貴重だ、無駄にしないで頂きたいな」

「そんなに時間を大切にしているのなら……きっと、興味があると思います」

「聞かせてくれ」

「龍宮城の瘴気はますます酷くなっています。綿津見は、もう長くもたないかもしれません」

「……龍宮城の事と我が観星落に何の関係が?」


私は動じない。笑顔を取り繕うのは最早本能に近い、少しも苦ではない。

例え彼が言った綿津見がタラバガニであっても、私の一番親しい友人であってもだ。

残念なことに月見の憎たらしい口角も全く変化を見せない。


「綿津見は千引石を鎮圧するため、自分の体内に入れることを厭わなかった。そのために黄泉の毒の侵食が進行しています。例え彼の部下である二人が、玉手箱の力を使って彼の時間を止め彼を凍らせても、それは一時しのぎに過ぎません」

「彼とはあまり親しくはないですが、同じ神器の守護者です。もし私が、彼の黄泉の毒を解く事が出来る、しかしそれには首座様の力が必要だと言ったら、手伝ってくれますか?」

「……」


月見の読めない笑顔を見て、私は気怠そうに首を横に振った。

だけど心の中ではわかっていた。今回は、私の負けだと。


Ⅳ 鏡の中の花

私たちがいるこの桜の島という大地は、二つの面に分かれている。

上を向いている面ともう一つは下を向いている。

一方は明るいが、もう一方は暗い。

一方は現実に浮上していて、一方は幻に沈んでいる。

現実に浮上した面を現世と言い、幻に沈んだ面を黄泉と呼ばれている。


全ての災難の源は、古代種族の争いから来ているそうだ。この争いによって神霊の怒りを買ったらしい。

神罰によって原罪は消滅させられたが、この小さな島にもその影響は及んだ。

半分の土地が消滅し、人間は住処を失い、生きる場所を奪われた。


神霊に仕える双子の巫女は、土地を失った人間を生かすため、神器である天沼矛(あめのぬぼこ)を盗用し、桜の島の陰に幻の土地を作り出した。

神霊にこの事を隠すため、彼女たちは同一人物として、それぞれの土地を守り、お互い二度と会わないことにした。

その内の一人の巫女様こそ、私たちの輝夜様だ。


両方の均衡を維持するため、巫女は時間を決め、二つの大地を交互に現実世界に浮かび上がらせた。

しかしいつしかその均衡が崩れ、私のいるこの土地は、いつまでも影の中に定着するようになった。


「これはただの伝説だと思っていたが、まさか本当だったとは!星象はやはり嘘をつかない、真相に関する巨大な変化が起きたと示していたのは、この事についてだったのか!」


二つの世界を繋ぐための水鏡の中、最中は網目模様の皮と黄金色の果肉を持つ果実をかじりながら、興奮しながら話していた。

彼の頭上では太陽が輝いていて、背後には一面の薄紫の花の海が広がっていた。

私は初めて見た果物や花について探究したい気持ちを捨て、しばらく考えた後、軽く首を横に振った。


「伝説では氷山の一角しか語られていない……真相よりも、どうして破局となったかを知りたい。玉兎の方も既に動き始めている」

私が言う「玉兎」とは、「月兎」とも呼ばれている崇月の二番手だ。少し前に私を訪ねてきた奴ーー月見団子

彼も輝夜様の神使で、私よりも先に彼女に仕えていた。


今日まで、私は最中とお互いの世界の情報を交換してきた。知れば知る程、月見はもしかしたら神罰が下るよりも前から輝夜様に仕えていたのではないかと疑いが深くなる。

もしそうなら、彼の今までの行動と、そして彼の月に対する異様なまでの執着心も説明がつく。


「なんだ、あいつはあの狂った計画を始めるつもりなのか?!待ってくれ、私はまだ解決方を見つけていない……しかし、黄泉にある神器を全て壊してしまったら……」

「……そうすれば道は作れるかもしれない……だが、黄泉全体が崩れてしまうだろう。貴方たち食霊ですら生き残れるかわからない、人間はもってのほかだ!」

鯛のお造り、必ずあいつを止めてくれ!私たちにもう少し時間を、きっと全員連れ出す方法を見つけ出す!」


「……これは私が決められる事ではない。そして、どうか私たちの土地を黄泉と呼ばないで欲しい」

「ああ、すまない、ずっとそう呼んでいたからだ……次は気をつけるさ」


沈黙が続く。私は阻止したい訳ではないと、彼に伝えてはいない。


「あまり心配し過ぎるな。星象の示す限り、この件は確かに難しいが、希望はあると。私たち二人の智慧が合わされば、きっと方法は見つかるはずさ!信じてくれ、星象は絶対に嘘はつかない!」

「……」


最中に伝えるべきだろうか。笑顔を浮かべるこの青年は、私が知っている者たちとは違うと。

彼の目的はあくまで星象の導きに従うだけである。しかし私は、星象というものをこの目で見た事はない。


しかし、私は十分幸運のようだ。


「申し訳ないが、玉兎が出した条件を私は断れない……この件は、友人の生死に関わる。故に、最初の神器……千引岩は、必ず壊される」

「……」


水鏡の向こうにいる最中は沈黙した。

彼は怒るだろうと思っていた矢先、突然笑い出した、そして目も輝き始めた。


「さっき最初の神器と言っただろう?玉兎の計画は全ての神器を壊す事だと言っていたな、つまり一つでも残れば、まだ転機はある」

「つまり……」

「ああ、貴方が持つ神器さえ守れば、玉兎の計画は成功しない。最初の神器は友人を救うために使うと良い!」

「しかし、彼らはもう手段を選ぶことはない、守り通せるかわからない。守るにはもうーー」


「神器を私の方に送ってくるしかないな!」


Ⅴ 鯛のお造り

むかしむかし、この大地には「双子の巫女」に関する伝説があった。


伝説では「双子の巫女」は神様に祈ることが出来、神霊に仕える者であると言われていいる。

彼女たちは天機に精通し、万民を守り、住処をなくした人間に新しい土地を作るため、神霊を騙したという。

神霊に隠し通すため、二人の「巫女」はそれぞれ片方の土地を守りながら、作り出した土地を隠さなければならない。


しかし、日月星辰は二つに分けることは出来ず、「黄泉」にいる巫女は自らを燃やすことで、偽りの「天照」となって「黄泉」を照らした。


燃え続けることは不可能なため、休む時間が必須だった。

そこで、巫女たちは五十年を一つの区切りとし、二つの土地を入れ替え、人間たちが平等に生きられるように約束を交わした。

その後、桜の島は長い間、このように半分の土地が「現世」に、もう半分の土地が「黄泉」に存在する状態が続いた。

五十年が経つと、巫女たちは神楽の踊りを同時に始め、二つの土地の位置を反転させた。

こうすることで、神の目には、自らが創造した一つの土地だけが永遠に存在することとなる。


最初は人間たちはこの伝説を信じ、そして巫女様を信じていた。

しかし、時が経つにつれて、人間の勢力が変遷し、この伝説はそれを知っている人間たちと同じように、次第に歴史に埋もれていった。


鯛のお造りが召喚された時、空には既に本当の月はなく、巫女の伝説もとっくに忘れられていた。

しかし神使として、鯛のお造りは少しずつ桜の島の真相について知っていった。


例えば、遠い昔のある日から、もう一つの土地の巫女から返事がなくなったこと。

この土地は二度と「現世」に戻れないこと。


誰ももう一つの土地で何があったか知らない、ただ気付けば誰も本当の月を見ることが出来なくなっていた。

そして、昼がどんどん短くなっていき、空に懸かっていた偽りの月も消えてしまった。

輝夜の力が弱まり、墜落しようとしていたのだ。


「だから、巫女様ーー輝夜様は自身が墜落する前、神力を七つの神器に変え、彼女が信じていた七人の守護者に預けたということか?」

水鏡の向こうの最中は襟を正していて、目の前には儀式に使う道具が並んでいるが、大げさな表情によって重苦しい空気が少し和らいだ。

「ええ、私が保管しているのは、貴方が今見ているこの八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)だ。伝説によると、持ち主の願いを叶える力を持っているそうだ」

鯛のお造りは持っていた箱を開けた。その中には穏やかな雰囲気を漂わせている勾玉が静かに横たわっていた。


「役に立つのか?」

「それは……私は運が良いから、この瓊勾玉の力を必要としない……だから、私にもわからない」

「わかった、他に気を付けることはあるか?」

「ないと思う。では儀式を始めよう、この瓊勾玉が無事そちらに届くといいけど……」

「貴方という吉兆がいるなら、成功するだろう……現世にも神器はある。道を作れば自動的に引き寄せられるはず……」


最中はぶつぶつと話しながら、手を忙しなく動かしていた。慎重に勾玉を転送するための法陣の準備を進めている。

全ての準備が整った後、鯛のお造りは慎重に勾玉を所定の位置に置こうとした。

すると突然最中が叫んだ。その声に驚いた鯛のお造りは危うく持っていた勾玉を落としそうになった。


「わかった!」

「……何をだ?!」

「言っていただろう、タラバガニは貴方に渡すはずの千引石を受け取って、貴方の力の使いどころは、別にあるはずだと」

「……ええ」

「どうしてそうしたのか、わからないと言っていただろう?きっと貴方が幸運だから、そうしたんだ。貴方がいれば、きっと全て成し遂げられると思っていたから」


鯛のお造りはその言葉に呆気に取られたのか、しばらく動けなくなっていた。

最中も彼を催促することなく、満面の笑みで彼を見つめ、自分の推理した内容に喜んでいた。


「ふぅ……続けよう」

しばらくして、鯛のお造りは長く息を吐き、儀式を続けるよう最中に合図を出した。


期待していた称賛はなかったが、最中は落ち込む事なく、楽しそうに作業を続けた。

すると法陣から光が放たれた。想像していた程激しいものではなかったが、あっという間に鯛のお造りの目の前に浮いていた勾玉は水鏡を通り、向こうにいる最中の目の前に現れた。


「おおっ!これがーーえっ?!待て!まずい!こいつ自分で動くのかよ?!」

「……」

「しまった……やってしまった……おいっ!鯛のお造り!どうしてそんなに落ち着いているんだ?!」

「きちんと現世に届けることが出来たから、瓊勾玉は絶対に月見の手中には落ちない。私の任務は完了した」

「確かにそうだが……瓊勾玉を研究して、貴方たちを連れ出す方法を探ろうとしていたのに!」

「最後は必ず成し遂げるさ」

「えっ?」

「さっき自分で言っていた事を忘れたのか?」


瓊勾玉という悩みを無事解決した鯛のお造りは、予定通りタラバガニ救出に向かうことが出来る。彼はのんびり縁側に座り、その笑顔には幾分の自信が増えた。


「私の幸運を信じよう。なんせ、生まれながらの吉兆だからね」



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タイトル FOOD FANTASY フードファンタジー
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ゲーム概要 美食擬人化RPG物語+経営シミュレーションゲーム

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