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シュークリーム・エピソード

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シュークリームのエピソード

天然腹黒、自分のした事に罪悪感を覚えない少年。神のことを信じているが、ある日神が全ての者を殺そうとしている事を知る。これに動揺するが、すぐに「父」の導きによって、神が全ての者を殺そうとしているのは、この世界が希望のない苦しみに満ちている場所であるからだと思うようになる。それからは、人を殺すことで、静寂で苦しみのない世界へと導こうとするようになった。

Ⅰ誕生日


純白に輝く雪の結晶が、天空からゆっくりと舞い落ちてきた。人肌に触れて解けながらも、町を一面銀色に染める――


「お父さん、寒いよ……」

「もう少しの辛抱だ、家まであとちょっとだからな。初雪なのに、こんなに降るなんて……」


子どもをしっかりと抱えている男性は、寒さに震えながら僕の横を通り過ぎ、遠くに消えた。


「はつ……ゆき……」

毎年の初雪が降る日が僕の誕生日だと、御侍様は言っていた。

呟きながら、僕は灰色の空をぼんやりと見上げる。


誕生日、人間が自分の誕生と成長を祝う日だ。

食霊にとっては、特に祝う必要のない日だ。

……とりわけ、僕にとってはそうだった。


あの日、雪が降っていたのを僕は覚えていない。


生まれて初めて世界を認識した瞬間から、悲しみ、喜び、死、生……様々な場面が脳裏に浮かんだ。

生者の慟哭が聞こえた。何千何万もの人々が、まるで神に救済を求めているかのように、泣き喚きながら空に向けて手を伸ばしていた。

しかし、人々の声が届かなかったのか、最後まで希望の光が差すことはなかった。この無意味な茶番劇が終わった後、全ては最初の静寂に戻った。

死んだような、静寂に。


静寂の中、低く響く聖楽が四方八方から途切れ途切れながらも僕の耳に届いた。そして繰り返し、「神は人を愛している」と歌っていた。


……神とは、誰?

そして、人とは?


「聖楽」が見せてくれた世界は、平和で穏やかで、人々は愛し合い、友好的な関係を築いていた。神に救済を求める必要などないように見えた。

まさか、最初に流れ込んできた酷い光景はただの夢だったのか?


しかし、同じような夢を、僕は繰り返し見てきた……

夢の光景は全て似ていた、苦い涙と叫び声に満ち溢れていた、そして……毎回異なる状況で誕生し消失する……僕自身。


そしてどんな過程を経ても、夢の終わりになると、形容しがたい巨大な虚影が空に映り、世界を見下ろしながら、僕の脳に声を届ける――


「世界よ、新生せよ」


その声は穏やかで力強いものだった。同時に、キラキラと輝く歯車のようなものがゆっくりと回転し始め、「カチッカチッ」という音が大陸全体に響く……


「ああ……」

無数の場面の中、果てしない絶望と苦痛の中、僕はガバっと目を見開いた。


「神が降臨した!神が降臨したんだ!」

状況を掴めない僕は、大きな力によって抱きしめられた。


我に返ると、それは白い服を身にまとった、喜びに満ちた顔をした男性だった。


彼のあたたかな抱擁は、寒気を追い払い、僕の心に広がる悲痛は瞬時に消えてなくなった。

彼は興奮した様子で震えながら僕の姿を確認した。最後、少しざらついた手が僕の頬に触れて、苦痛によって流れ落ちた涙を拭ってくれた。


シュークリーム……これから、貴方は私たちの聖なる申し子だ……毎年の初雪が、貴方の誕生日だと、皆心に刻んでくれるだろう」


おかしい、こんな場面は今まで見たことがない……

僕の脳裏に映った様々な光景は、宿命だと信じていたものは、全部ただの夢だったのか?


Ⅱ神託


「聖なる申し子は人々と苦しみを共にする。人々の苦しみこそ神の苦しみであり、申し子の苦しみでもある……」


小さな教会の中で、神父は再び神と僕の物語を語った。


彼こそが僕を召喚し、絶望的な痛みを全て和らげてくれた人で、そしてこの辺鄙な街で唯一の神父だ。

彼の言葉は春の日差しのようにあたたかく、人々の心を癒す力を持っている。


誕生した時から僕の記憶を占領する辛い光景たちが僕を奈落に突き落とそうとすると、彼はいつも僕を呼び覚ましてくれる。何度も、何度も、僕を教会の聖なる池に連れて行き、心の穢れを洗い流してくれる。


「それは神の指示だ、シュークリーム


池から出ると、神父はいつもそう言ってくれる。

冷たい感触が足の裏から脳の全神経に広がり、何も考えられなくなるけど、神父が言った「指示」を信じ続けた。


しかし……

「神父、どうして僕はまだ神の指示から世界を救う道筋を解読出来ないのでしょうか?」

一度だけ、池から出た僕は身体に張り付く冷たさを我慢し、小さな声で彼にこう尋ねた。


シュークリームよ、全ての存在は生まれながらにして罪深いものである。全ての者が苦しんでおり、一朝一夕で救済することは出来ないのだ」


それならば、人を助けて苦しみを和らげてから、救済すればいいのでは?


心の底から疑問が湧いた。

僕は神父の口から答えを得ようと頭を上げる。

しかし、彼は僕にこれ以上話す機会を与えてくれず、疲れたのか僕に向かって手を振った――

「部屋に戻って休みなさい、私はまだ用事がある」


神父は、どうしたのだろう。

帰り際の後ろ姿が目に止まった。ゆっくりとした足取りで、まるで教会にお祈りに来たお年寄りのように見えた。


いや、神父も人間だ……そして人間は老いて、やがて死へと辿り着く……

恐怖が徐々に全身に広がり、無意識のうちに彼の後ろを追った。


しかし、ドアを開けた途端、明らかに自分の記憶ではない何かがよみがえって来た――


銀製のナイフが血の色に光り、人間の恐怖に満ちた声が深紅の中に消えていく光景が広がる……


いや、これは記憶ではない……

光景に映る人々は……よく教会に来て礼拝をしている町の人たちだ。

神父はいつも言っていた。彼らはこの町で最も敬虔な者だから、必ず神が彼らの声に応えてくれると。

なのに、どうして……


悲哀、恐怖、絶望……あらゆる府の感情に押し潰されそうになりながら、ひび割れている石壁にしがみついて、一歩、一歩、御侍の部屋に辿り着いた。


「彼らを生贄にすれば、私は永遠の命を得ることが出来るんですね!」



いけ……にえ?

鉄の扉の向こう、地面には縛られている人間が輪を作っていた、そして神父は彼らの中央にいた。


いけにえ、とは?

どうして……彼らは縛られているんだ?


「信じる者は救われます」

そう言ったのは、部屋の暗闇に隠れていた別の人物だった。

神託を聞いたかのように、神父はそれまでの穏やかな態度を一変させ、狂った表情で泣き叫ぶ人間たちに近づいていった。


「はい!もちろんです!神よ!……シュークリーム?」


彼が袖から銀製のナイフを取り出した次の瞬間、血走った目でドアの外を見た。

そのナイフには、はっきりと僕の顔が映っていたのだ。


Ⅲ神愛


暗闇。

無限の暗闇。


目を覚ますと、暗闇の中にいた。

逃げようとして、手を伸ばして何かを掴もうとすると、鎖の音がこの奇妙な空間に響いた。

そして、握りしめた手は、鎖に拘束されているため、掴めたのは湿った空気だけ。


「ここは…どこですか?」

掠れた声しか出なかった、この時のどが異常に渇いていることに気付く。

「神父様?」

再び声を出してみたが、応答はない。


苦しみに満ちた記憶が蘇り、目の前に映った。陰に隠れている男が見えた、神父と話していた者が呪文らしきものを唱えている。

そして僕は床に倒れこんだ「僕」を見た。

それだけではない、光が見えた……黄金色に輝く光が人々に降り注ぐと、瞬く間に血の海が広がった……


やがて、目の前は、無限の暗闇に戻った。

痛みと絶望は針のように僕の魂に突き刺さる。


「神よ、本当にこの人々を愛していますか……?」

顔を上げて、空を見ようとした。

確か、僕は空を見たことがあるはずだ。


しかし、あのような空はどこにもない、あるのは暗闇だけ。

これが……神のギフト?


こんな神が、本当に人に希望と救済をもたらしてくれるの?

そうだ、神父は無実な人々を「生贄」にすると言っていた。

神への献上品なのか?


何故彼らでなければならないのか、僕でもいいのでは?

このような見知らぬ場所に囚われているより……

「聖なる申し子」として生まれた使命として、人々のかわりに生贄になった方が……


薄れていく意識の中、改めて自分の姿が見えた。

純白の服には血の跡がこびりついていて、頭は力なく項垂れている。


次の瞬間、眩しい光が差してきて、何か強い力を感じ、体に戻る感覚がした……

その輝きの中、純白の羽が優しく僕の頬を撫でた。


神が僕の願いを聞き届けてくれたのか?

ぼんやりとした視界の中、そこには……天使のような人影が、見えた……


「起きましたか?」

「あなたがシュークリームですか?私はクロワッサンです」


体を起こし、周囲を見回したら、どうやら教会の部屋にいるようだった。僕以外には、無表情な青年が一人しかいない。

彼を見ていると、「天使」を思い出した。

あぁ、天使なんかではない。僕を助けたのは「クロワッサン」という食霊だ。


「あなたが僕を救ってくれたんですか?」

「ええ、あなたの御侍……ここの神父は人間を生贄にしていました。そして、この事が発覚した後に自害をしました」

「人々は……彼らは救えたのですか?」

「……」


彼は沈黙した。

良い知らせではないことはわかった。

何故なら、混乱した記憶の中では、この町の人々は全て巻き込まれ、跡形もなく奈落の底に落とされていたからだ。


「悲しいことに、一部だけ救えませんでした」

「一部?」


戸惑いながらも、心の底には希望の灯火が再び燃え始めた。

「この町にまだ生き残りがいる、暗闇に呑まれていない者がいるということでしょうか?」

「もちろんです。神のいるところに、光はあるのですから」

「しかし、神は……人々を殺そうとしています」

「神は人間を愛しています。そうでなければ、私たち食霊をこの世に遣わしたりしません。人間を殺しているのは神ではなく、欲望です、御侍の言葉に惑わされないでください。神の“愛”について、あなたはまだ知る必要があります」


Ⅳ 聖楽


クロワッサンはすぐにこの町から去った、そして町は徐々に元に戻った。

しかし、人々の笑顔を見るたびに、「聖なる申し子」と呼ばれるたびに、罪悪感が積み重なっていく。


神父は僕の存在を使って人々を騙してきた、それなのに笑顔を見せてくれる。これが、クロワッサンが言っていた「愛」なんだろうか?


「今日は元気そうで何よりですわ、申し子様」

竹カゴを持ったおばあさんが嬉しそうに僕の手を握り、しわくちゃの目尻には喜びが描かれていた。まるで……僕の健康は彼女にとっての一大事のようだった。


……罪を償おう。

「聖なる申し子」の名のもとに、これまで受けてきた全ての恵みを皆のもとへ返そう。

こう考えながら、ある涼しい月夜に、僕は初めて一人で町を出た。

二度と振り返ることなく……


布教の日々が続いていく中、布教より巡礼と言った方が適切なのかもしれないと感じた。

ティアラ大陸には不毛な土地がある、だが人々が幸せに暮らせる希望に満ちた土地もあった。

神が僕と共にある限り、きっといつかその美しい輝きはこの世界を再び包み込んでくれるだろう。

そうすれば人々は自由に、元気に生活していけるようになるだろう。


雪が降っている小さな村にやって来た。ここの人々は純朴で、近隣同士仲も良い、まさに理想の場所だ。

入口に着いた瞬間、馴染みのある旋律が聞こえて来た。聖楽の中でも珍しい、軽快で明るい一曲だ。


「あらシュークリーム様、ちょうどいいところに戻ってきましたね!歌劇団が来たんですよ、今聖楽の練習をしているらしいですよ!」

酒場のオーナーは親切なおばあさんで、僕が入るとすぐに笑顔で新しい宿泊客を紹介してくれた。


「聞こえました。その敬虔な心があれば、慈愛なる神の光もますます輝くでしょう」

彼女に頷いて、木製の階段を上った。

一歩上がるごとに、旋律にどんどん近づいていった。


「我が魂よ、どのような条件で」

「全てを捧げる覚悟だ!」

突然、旋律は誰かの声によって遮られた、だけど目の前には誰もいない。


「誰ですか?!」

「あれ?後ろに居たのに気付いていないの?なるほど、君も食霊なんだね。オーナーが言っていたシュークリームは……君のことでしょう?へへっ、僕はムースケーキ

その軽やかな声に戸惑って振り返ると、小さな子どもがいた。


ムースケーキ……?」

彼の名前を何度繰り返し、そして彼を見た。

明らかに先程聞こえた声は彼のものではない。

では、またあのおかしな、僕のではない記憶なのか?


引き続き階段を上って、部屋に戻ろうとした時。


「……愛しています……」

精霊族と思われる一人の青年が、神殿の中で跪いている……


一瞬の眩暈の後、この記憶によって無理やり虚無の空間の中に引きずり込まれた。そこでは無数の物が僕の耳に何かを語りかけていた。

教会の祈りの声、市場の騒音、赤ん坊の泣き声……全部が脳裏に届き、まるでこの身が引き裂かれたかのように、その声の一つ一つと同化していく……


皆、死んでしまえばいい!!

そうすれば、世界は静寂に戻るはずだ!

変な声も光景も、もう現れたりしない!

皆が死ねば……


狂った考えが一つずつ僕の心の底から沸き上がり、皮膚を貫く……

敬虔な様子で跪いている自分が見える。歪んだ表情で祈りをささげ、肋骨が皮膚を貫き必死で空気を取り込もうとしている。

そして僕の顔は……笑っていた。


「聖霊が歌い、救いを授ける……」

聖歌は絶えず聞こえてくる、気付けばそれは僕に絡んでいた。低い歌声につられて先に進むと、輝く場所へと導いてくれるようだった……


……一体、それは誰なんだ?


Ⅴシュークリーム


ブルーチーズのバイオリンの音色によって、シュークリームを悩ませていた混沌とした記憶はやっと順番通りに並んだ。

惑星のように、軌道は同じではないが、必ず自らの出発点に戻ってくる。

そしてその出発点とは「時空エネルギー」と呼ばれるエネルギーの起源、或いは世界を想う神であると、シュークリームは考えた。


「時空エネルギー」という言葉を、彼は幻楽歌劇団のメンバーから知った。

彼らの団長であるムースケーキが生き延びるために必要なエネルギーであることもだ。


「エネルギー、食霊の……命の源ですか?」

答えを得たいとは思っていないが、彼は小さい声で尋ねた。

ティアラ大陸での「輪廻」の記憶は、ほとんど彼の脳裏に刻まれていたからだ。


彼の記憶は絡み合って靄が掛かっていて、耐え難いものだった。しかし、ムースケーキの「時空エネルギー」の影響を受けたことで、全ての記憶は聖楽によって整然と並べられ、二度と堕化の境地に陥ることはなくなった。


シュークリームは人々に囲まれている少年を見て、くすんでいた目にようやく光が戻り、そして純粋な笑みを浮かべた……


「あれ?シュークリームは?」

さっきまで座っていたはずの場所に、シュークリームの姿が見当たらない。

「多分、眠くなって寝たんじゃない?」

「そっか……そうかもね……」


メンバーが好き勝手に推測した後、すぐに別の話題に映った……


平穏な日々はあっという間に過ぎていき、気付けば村は新年を迎えた。

この日、村は橙色の灯火に照らされ、その光は人々の顔に降り注ぎ、希望を映した。

村人たちは笑いながら村長の家に駆けつけ、歌劇団の公演を待った。


その時、シュークリームは楽屋として使われていた小屋に佇み、眉をひそめていた。

シュークリーム、苦い顔をして、どうしたのですか?」

「その……コレは、彼らを驚かせてしまいます」

目の前にある、肋骨が露わになっているおかしな表情をした像を自分だと言いたくない彼は、葛藤した後「コレ」の二文字を絞り出した。


それを聞いたヌガーは一瞬固まった後、クスクスと笑い出した。

「もうシュークリームったら、どうしてこの舞台の準備をしたのか、覚えていますか?」

彼女はひとしきり笑った後、視線をシュークリームとそっくりな像に向けた。


「そうですね!僕の経歴を歌劇にして、人々に神はこの世の全てを愛していると伝えるためです」

「善と愛を信じてもらうためには、闇を見てもらわないといけません、そうすれば騙される人はきっと減るはずです!」


シュークリームは明るく微笑み、その純粋な眼差しは増を通り抜けて、かつて闇に閉じ込められていた自分自身を見ているかのようだった。


今の彼は「聖なる申し子」の名を掲げながら進んでいる。これから彼の歩む先に、闇はもうないだろう。



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  • 最終投稿日時 2022年01月03日 23:29
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タイトル FOOD FANTASY フードファンタジー
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  • RPG(ロールプレイング)
ゲーム概要 美食擬人化RPG物語+経営シミュレーションゲーム

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