サンデビル・エピソード
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サンデビルのエピソード
サンデビルはシャンパンに使える最強の騎士、シャンパン直属の食霊軍団を指揮している。人々はいつも彼の怖い外見を恐れるが、彼は自分の心にのみ忠実であるため、外見や社交など気にしない、帝国に絶対的忠誠を誓う守護者である。
Ⅰ戎馬
風雪に侵食され老けた顔から、ゆっくりと悔しさと生気が消え、まるでガラス窓で溶けた雪のように、私の足元に落ちた。
丸鋸に付いた血を後ろに向かって振るう、この朝日が照らす大地を灌漑するために。
背後にいる兵士たちは命の灯のように熱い歓声を上げ、戦いの勝利と、まだ生きている事に対して祝福した。
私は血のように真っ赤な太陽に向かって、命の最後の瞬間まで戦う事を止めなかった勇士たちに最大限の敬意を込めて、礼をした。
「帰営せよ!」
馬蹄は積もった雪の中を時折滑りながらも走り、陣営地を前にして、私は全軍を下馬させ徒歩で向かわせた。
これによって嘆いたり、弱音を吐いたりする人はいない。した人は全て私が直々に鍛え直した。
ここまで肩を並べて来た戦友たちに対して、例え馬で合っても同等に扱うべし。
「将軍、北方の敵軍を全て潰しました」
「わかった、ご苦労だったな」
背筋を伸ばし、皇令で出征したが、終始このあたたかなテントの中にいる将軍を見た。
勝利したのに、彼の顔に喜びの色が見えないのは意外ではなかった。
彼は私の御侍だからだ。彼が初めて弊を連れて戦場に言った時から、私は彼の栄光と衰微を見届けてきた。
誤解しないで欲しい、敵軍を前に、彼は一度たりとも戦敗した事はない。
老衰に負けただけだ。
テントの中が私と彼だけになると、私は身につけていた硬く冷たい鎧を外し、鉄箱の中にあった壺と薬草を取り出す。
前線の劣悪な環境の中、ここに常駐している彼は二年前程前から病に侵されるようになった。
彼の遥か東方にいる友人からこれらを送られてこなかったら、おそらく彼は今このテントに居る気力すらなかっただろう。
薬草を煎じた後、私は茶碗を持って御侍に近づいた。
「御侍、薬を飲んでください」
「わかった」
御侍は膝の上に乗せた資料から茶碗に視線を移し、受け取った。
「これから戦場は南に移るでしょう、そこの気候ならもっと過ごしやすくなるはずです」
貴方の体もきちんと休む事が出来るはずだ。
私は後半の言葉を飲み込んだ。
「いや、いい。今日ここを片付けた後、明日には城へ帰る」
私が空いた茶碗を受け取ると、依然と彼の傍に立った。
「手紙によると、南方の敵軍は既に撃退されているそうだ。計算すると、大体一昨日の話だろう。」
南と北の軍がほぼ同時に出征したのは覚えている。南を引率していたのは、確か御侍のかつての部下だ。
「今回、彼は大きな功績を立てた、昇進するだろうな」
御侍は自身が将軍に任命された時の文書を懐から取り出した。その上には小さな馬皮が縫い付けられていた。
それは御侍と半生を共にした戦馬のものだ。昨年、厠で死んた後、その皮は一人の兵士の疥癬をも治した。
「一生を戦場で過ごしたが……」
御侍は馬皮を撫でる、そのしゃがれた声はまるで蔵書館にある最古の書籍の埃のようだ。
「終わりが近づいている」
Ⅱ変遷
軍服を脱ぎ、私はこの見知らぬ荘園に入った。
御侍が将軍を退任すると、褒賞として王は彼に晩年を安らかに過ごせるようにここを与えた。
雪原よりも柔らかい草地を踏みしめると、これからはもう吹雪は見れない、四季が春のようになるだろうとようやく悟った。
荘園であくせくしている人々の多くは顔見知りだった。老衰のために戦場から離れる事を余儀なくされた者たちだ。
彼らは私が入って来るのを見ると、手を上げて三指を揃え私に礼をした。
しかし、何故か彼らは作り笑いしているように見えた。
御侍はこの時間、大抵庭にいると庭師から教えられたので、礼を言って庭に出た。
花の匂いが香ってくると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
体を鍛えるには適している環境らしく、数ヶ月前までは弱っていて言葉を発する事すら難しかった御侍が、今やこんな風に意気盛んに部下を諭すことが出来るようになっていた。御侍が強健な体を取り戻したのは嬉しいが、彼の話を聞いているとまた眉をひそめてしまった。
「役立たず!頭に脳みそが入っていないのか!」
「軍報!軍報が欲しいと、言っているだろう!持ってきたこれはなんだ!誰がこんな紙屑を読むんだ!」
「何を泣いている!この立派な温室にいる事で、お前達は臆病者になったのか?」
声のする方に向かうと、跪いて震えているのは共に血を流した戦友ではなく、まだ幼い少年だった。
彼の前にいる人は、まるで椅子と同じくらい痩せ細っている者しかいない。
「そこに隠れているのは誰だ?」
突然呼ばれて驚いたが、すぐに顔を出した。
「お前?どうして戦場にいないんだ、ここで何をしている?」
「戦場はもう私を必要としていません」
「何?」
「王国四方の敵は全て滅しました。侵略して来る者がいなくなったんです」
「なら、お前は大功を立てたんだな!」
「私ではありません」
「お前じゃないだと?じゃあ誰がいるんだ?」
御侍の目からは、少しずつ失望が滲み出て来ているのが見えた。
「御侍が退役してから、私は兵士たちと辺境に駐屯しているだけで、作戦には参加していませんでした」
「敵を討ったのは、新任の将軍とその食霊です」
「これまで全戦全勝です」
バンッという音と共に、テーブルの上に置いてあった高価な茶器が割れた。
御侍はテーブルで自分を支え、微風に揺らされている残燭のように震えている。
結局彼は椅子から立ち上がれず、がっくりと腰を落とした。
私の方をもう見ない。少年が手違いで差し出した何年も前の軍令が書かれた紙切れを見つめていた。
その軍令を手にしていた時、彼は千軍万馬を統率し、意気揚々としていた。
しかし今はこの紙切れを見つめながら、まるで恋人と引き離されたかのように、彼は震えながらもがきながら、最後には重たいため息をつく事しか出来なかった。
御侍はその後、長い間私と口をきいてくれない。
彼の侍者への厳しい𠮟り声を聞きながら、磁器の破片の山を見ながら、劣悪で極寒だった戦場にいても癇癪一つ起こさなかった彼が、安閑に負けるとは。
安閑が向いていない人もいるという事か。
新将軍の奮戦によって勝ち取った太平の世は、すぐに異変が起きた。
「クソ、クソッ!」
茶や菓子が地面に散乱し、花びらが零れた茶に落ち、揉まれて赤い泥となった。
全国で噂になっている情報を聞いた御侍は、怒りで呼吸が荒くなったが、青白い顔は久しぶりに血色が良くなっていた。
「国を裏切るとは。畜生め、この畜生は私がこの手で取り除く!」
御侍は椅子から立ち上がろうとした、口元には自分が気づいていないかもしれない笑みが浮かんでいる。
ただ、彼の体はもうありふれた闘志には耐えられない。何度試しても、汚れた地面で転ぶことしか出来ない。
私は急いで飛び出し、御侍を起こそうとした。
「触るな!」
差し出した手が、空中で凍りつく。
「この役立たず!」
「お前がそいつの食霊に敵わないせいだ!お前がそいつの食霊より強いなら、そいつは今、あんな権力を手にして、軍隊を率いてクーデターを起こせると思うか!」
「この、役立たずが!」
Ⅲ忠誠
御侍を恨んだり、裏切り者を咎めようとは思っていない。
ただ万人に君臨する国王にいささか失望しただけだった。
彼の無能と軟弱が反乱軍を招いた。
そのせいで私の御侍が晩年になっても、国を守る執念を捨てきれないでいる。
この乱世の夜で、安らかに過ごす余裕なんてない。
僅か数日で、反乱軍は破竹の勢いで王城を落とした。
荘園の外では、戦火はあちこちで上がっていた。貴族たちは財宝を抱えて逃亡したり、もしくは反乱軍の食霊を手招き、媚びを売った。
荘園内でも事情は似たようなものであった。
反乱軍が現王朝を傾けた後、御侍の追放を最優先事項にしたのだ。
王国の最も忠実な臣民として、あまりにも合理的な判断だったため、荘園内の人々は迷いもせず逃亡を企てた。
ただ、荘園の門を守っている私を恐れ、一時的に動けなかっただけだ。
あれ以来、御侍は私の接近を許さず、私は門の近くで荘園の警備に専念する事しか出来なかった。
銅像や草花の影に隠れて状況を伺っている人々を見ていると、胸が熱くなるほど怒りの炎が燃え上がった。
私は裏切りが嫌いだ。いいや、許せないのだ。
平和な時、掃除と料理という安全な仕事をこなすと約束した事で、錦衣玉食の生活を手に入れた。
しかし、危機的状況になると、全てを与えてくれた恩人を裏切る事しか考えなくなる。
下衆。恥知らず。
許せない。
「出てこい!」
怒鳴ると、十数人が肩震わせながら、もじもじと出て来た。
こんなにも恐れているのに、よくも裏切ろうとしたな。
丸鋸を握り締める。共に血を浴び、戦ってくれた戦友に、命を惜しみ死を恐れる者たちの血を与える事は出来ない。
丸鋸を引っ込め、私は先頭に立っている庭師に向かって拳を振り上げた。
弱い人間はひっくり返り、青ざめた顔はまるですでに死んでいるようだった。
他の人はこの光景を見てただ呆然と立ち尽くす。逃げたくない、いいや、逃げられない事を知っているのだ。
私は何度も何度も拳を振り上げた。彼らが全員地面に横たわり、絶望に陥るまで。
「貴様らの傷は、裏切り者としての烙印だ。これからは、余生を醜く生き延びるが良い!」
彼らは呆然としたまま顔を上げた。
「何をボーッとしているんだ?ここはもう貴様らの居場所はない、せいぜい逃げ延びると良い!」
それを聞いた彼らは、ハッとして慌てて荘園から逃げ出した。
笑わせる、私に二言はない。
「サンデビル、私たちは長い付き合いだ。あっ、貴方のためを思って言うが……」
庭師が私の前に来た、勇気をもって私に話しかけてきたのがわかる。
「あのシャンパンは、何十年にも渡って敗戦した事がないそうだ。絶対普通の食霊ではない、戦神だ。貴方も早く、将軍を連れて、逃げた方が……」
憤りを覚え、彼を突き飛ばした。
「私も貴様のために言っている、すぐに出て行け!」
やがて、広大な荘園は誰も済んでいなかった頃の、ガランとした風景に戻った。
「お前も、あいつらと一緒にここから離れろ」
振り返ると、車椅子に座る御侍がいた。
何日か会わないだけで、よりいっそう骨っぽくなっていた。
「命令に従えません、私は決して逃げたりはしません」
私は何年前と同じく、軍情を報告するように、御侍の方に向かってこう言った。
しかし御侍はしばらく返事をくれなかった。彼の静かな呼吸を聞いて、私は落ち着いていた。
「サンデビル……」
私は喜びに湧いた。
御侍が久しぶりにその名で私を呼んでくれたからだ。
「はい!」
「私は……はぁ、もういい……」
御侍は言いたい事を飲み込んだ。彼と長い間生死の境を彷徨ってきた私は、彼の言いたい事をわかっていた。だけど、彼と同様にそんな言葉を発して欲しくはない。
身体を起こし、御侍の濁った瞳を見つめる。
「私がいれば、何人足りともこの門を通させません!」
「一人で、何が出来る?」
「私一人で、十分です」
全戦全勝の戦神?
フンッ、掛かってこい!
私はサンデビル!私は、怯まない!
Ⅳ新生
荘園への侵入者は絶えない。いずれも一撃すら耐えられない者ばかりだ。
荘園外に陣取っていた私は、残兵を引きずって地面にへたり込んでいる反乱軍を見て、少しイライラしていた。
あの食霊はまだ現れていない。
彼が王に逆らい、王冠を手にした事を知っている。
彼は確かに強敵だ。
しかし、一介の逆賊に過ぎない。
そいつと戦うのが待ちきれない。
幸い、その日はすぐに来た。
華麗な衣装に身を纏った食霊が馬から降り、目の前に来た時、私の無造作な外見に驚いた。
「お前が噂の、極悪非道で冷酷凶暴な悪魔か?」
こんな噂になっているとは、知らなかった。
丸鋸を持って、彼に狙いを定める。
彼の目には私も知っている色彩が映った。
荘園の外で、我々は長い長い対決をした。
彼の銃は正確で速い、何度も私の自慢の丸鋸を撃ち抜きそうになっていた。
三日三晩が過ぎた頃、彼は少しの疲れも見せず、戦を重ねた分、より一層興奮しているようだった。
あまり認めたくはないが、私もこの対決を楽しんでいた。
この立派な荘園に閉じ込められて以来、こんな痛快な戦いをしたのは、いつぶりだろうか。
しかし、女性の食霊が突然現れた事で、この対決は中断された。
「陛下!何を遊び惚けているのですか、どれだけ書類が溜まっているとお思いですか?」
「邪魔するな、書類ならお前がいるだろう?」
「ダメです!今すぐ帰りますよ!」
乱入してきた彼女を見て、罪のない者に怪我を負わせてはいけなかったため、攻撃を撤回するしかなかった。
その高慢な帝王は少し乱れた長髪を掻き、やがて長い溜息をついた後、妥協して彼女と一緒に去っていった。
「対決は保留だ!貴様を待ってる!」
遠ざかっていく彼らの姿を見つめたまま、しばらく立ち尽くした。
想像していたような人物とは違っていた。
「えっ?なんだこの匂いは……」
どこからか急に鼻を突く匂いがして、その正体を探ろうとすると、急に体から力が抜け、頭がボーっとしてきた。
意識を失う前、薄っすらと金色の目が見えた。
「ふぅ、良かった……こんなに長く戦っていたから、疲れているはずなのに……量を増やしておいて、正解だった……」
畜生、あの食霊と対決をしていなければ、こんな小細工に私がハマるはずが……
再び目を覚ました時、私は冷たい台の上に縛られている事に気付いた。
周りには見た事もない機械や奇妙な色の液体があり、更に私は自分が少しも動けない事に気付く。
「シシシッ……凄いよ、凄いね……こんなに大量の薬を使っても、すぐに起きるなんて……凄い、本当に凄いね……うぅ、早くしないと、そうじゃないと……シシシッ、素晴らしい。今年の最優秀標本大賞は、お前に決めた!」
私は目の前の挙動不審な子どもを見て、どう反応して良いか戸惑った。
薬?標本?
何を言っているんだ?
「このナイフには、僕の自信作が塗られてあるんだよ……自己治癒力を抑えて、お前の皮膚と筋肉を切りやすくしてくれるんだ……体の中はどんな構造になっているんだろう……シャンパン様とこんなに長く戦えるなんて、不思議……」
ナイフを見て、何か危険な予感がした。
「何をするつもりだ?!」
「シシッ、すぐにわかるよ」
「待て、ルートフィスク!」
一国の君主が慌てながら部屋に飛び込んできた。
ルートフィスクと呼ばれた子どもはそれに驚いてナイフを落とすが、すぐに怨念が籠った視線を入ってきた彼に向けた。
「後で貸してやる。彼にちょっと急用があるんだ」
彼はルートフィスクの髪を撫でてから、私の束縛を解いた後、私の腕を引っ張って長方形の台から降ろしてくれた。
「きっ、貴様らは卑怯者だ!」
「なんだ?俺たちのどこが卑怯なんだ?」
「私に罠を仕掛け、子どもを使って捕まえるなんて!」
「勘違いするな、それはルートフィスクが勝手にやった事だ。いつも彼を好きにさせている。それよりお前は恥ずかしくないのか?自分が子ども扱いしている者に捕らえられてしまうなんてな」
彼はそう言いながら、私を不快にさせる笑みを浮かべた。私は彼の手を必死に振り解いて、彼にこう言った。
「さあ、来い!」
「来いって……何をだ?」
「喧嘩を、売りに来たんじゃないのか?」
あの子ども食霊の薬のせいで、まともに立てない私を見て、彼は肩を竦める。
「弱っている奴に手を出したりはしない」
「なら、私に何の用があるんだ?」
この世の全ては自分の手に委ねられているとでも言いたげに、自信満々な笑顔を浮かべ腰に手をあてながらこう言ってきた。
「フォンダントケーキが言っていたんだ。人材を集めるには、拳だけではダメだとな。お前が俺を誤解しているのはわかっている、それを解いてやると言っているんだ」
光を背にして、激しい夜風の中で戦旗のように靡いている彼の長い髪を見つめながら、疑う隙を与えないその言葉を聞いた。
「俺は反逆者ではない」
「俺はこの国を新生に導く、不敗の王だ!」
Ⅴサンデビル
サンデビルはとても単純な食霊だ。
単純だが、彼は自分の事をよく知っている。
早い段階で自分は指導者に向いてない、誰かに忠誠を誓い、誰かの命令に従って生きて行く事になると気付いていた。
彼はそれをおかしいとも、卑しいとも思っていなかった。
生涯不変の忠誠というのは、騎士としての最大の栄誉だからだ。
しかし時代の大きな歯車は、彼の不変を許さない。
彼は、彼の前に立つ帝王と彼の導きによって一新された国家と、喜びを露わにする国民を見た。
彼は、自分がこの王に忠誠を尽くす事が出来ると知った。
そして、彼は数か月間一人で守った、誰にも破られていない荘園にシャンパンを招き入れた。
荘園の最も人目につかない部屋で、枯骨となった将軍を発見した。
シャンパンは髪にこびり付いた蜘蛛の巣を払い、お前の忠誠心は一体何に捧げてきたのだ、と疑問をサンデビルに投げ掛けた。
彼は御侍の目を手で覆い、長い間一つの汚点もついていない自分の純白の忠誠を喜んだ。
「自分に捧げるためだ」
彼は、帝王のそばにいる最強の騎士となった。
ある日、この国の神子が、帝王に不安を訴えている声を耳にした。
「サンデビルの力は強過ぎます。もしいつか……」
「は?何を言っているんだ。強いのは当たり前だろう?俺が一発で倒せる奴に俺を、この国を、守らせる訳にはいかない!」
彼の王がこう答えたのを聞いた。
彼は自分の王への忠誠を誓った。
御侍のような嫉妬と尽きない壮志により怪物となった人間が、シャンパンの下には決して現れないことを知っていたのだ。
しかし学校に勤めている時、腕立て伏せを何十回やっただけで駄々をこねる子どもたちを見ていると、眉をひそめ、かつての戦場での輝かしい日々を思い出してしまう。
辺境の北風や明け方の朝日、極寒と灼熱、御侍と共に戦った激流を駆ける日々が恋しくなる。
そして、あの子どものような食霊がニヤニヤと笑いながら忍び寄ってくる度に、決心が少し揺らいでしまう。
だが王と、王の剣が指し示す方向というのは、自分の御侍がまだ若かった頃、揺るぎない自信をもって眺めていた方向と同じように思えた。
自分が揺るぎなく望んでいた、愛していた、明るい未来への方向だ。
これからの命をもって、この忠誠を貫き通すと誓った。
長年守ってきた荘園が壊され、再建された時、サンデビルの顔には何の感情もなかった。帝王は彼を振り返って、惜しいと思わないかと不思議そうに尋ねた。
「私が守っていたのは、この邸宅や庭の草花などではない」
「じゃあ、何を守っていたんだ?」
「遺志だ、御侍の遺志」
自分にも、責務にも忠実でありながら、最も偉大な戦士、忠実な騎士でもある。この王朝が終焉に至るまで、揺るぎなく忠誠を捧げ、繁栄を極める。
「私は人を見る目に自身がある。我が王よ、失望させないでくれ」
「フンッ、当然だ」
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