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松鶴延年・エピソード

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松鶴延年のエピソード

松鶴延年は博識で、書画や草花について詳しい。自ら絶境を守り、玉麒麟の補佐をしている。経験豊富そうに見えるが、実は純情で、よくからかわれる。からかわれるとイライラして文句を言い始める。多くの事を知っているからこそ、彼は安定した勝利を求める。そのため、玉麒麟とはしばしば対立してしまう。知識は豊富でも、玉麒麟の「悪巧み」には勝てない。


Ⅰ.抱月清風

小鳥が窓辺でさえずっている。せっかくの良い日和だから、私は何冊かの書物や絵画の梱包を終えて中庭に向かった。


高い声が半開きになっている遠くの門から聞こえてくる、満面の笑みを浮かべた男が何かはしゃいでいた。


彼こそ私の御侍である。


「お茶をお持ちしました、もうすぐうちの者が到着しますよ」

「おっ、やっと来たか!早く来なさい!」


御侍は私の手から急いで小包を取り上げ、声を低くしてこう言ってきた。

「遅い!……チッ、これだけしかないのか、次はもっと大量に用意しろ、多ければ多い程良い!」

御侍は商売人だが、私に取引の事を任せる事はなかった、ただ言う通りにする事しか出来ない。


しかし、まだ中庭から出ていないのに、中から聞こえてきた会話によって私は足止めされた。


「今日届いた新しい絵画と書物は、全てかの有名な仙宿の手によるものです……この手法、力強さを見てください……これを手に入れるため、かなり苦労しました!」

「……信じられないですか?偽物ならこの店を全てお渡ししますよ!金の延べ棒百本でどうです?」


仙宿?

あの書物や絵画は全て、私が暇つぶしに描いたもので、大家の作品などではない……買い手を騙しているのか……


彼は本来貧しい生活を送っていたのに、最近たまに笑顔で大金を持ち帰ってくるのを見て、漠然と何かを察してはいた。


このままじゃいけない。

急いで戻り、扉を押し開けた。


「これらは私が模倣した作品に過ぎません、そのような価値はありませんよ。仙宿先生の真筆は判子がないそうです。どうかそこをご確認ください」

「なっ、何を言っているんだ?!こいつの言う事を聞いてはいけませんよ!」


「商売は信用が第一です、嘘は長く続きません。商売どころか、人としてダメになります」

部屋の空気が一瞬にして重くなった。

御侍の顔は青白くなり、再び口を開こうとした瞬間、買い手がゆっくりと尋ねてきた。

「ほう?自分で店を潰そうとする人を見るのは初めてだ、これらは全て君の手によるものか?」

「彼の作品は、どれも芸術性に満ちている。君は彼の作品をいくつ見てきた?よくもそれで真似をしようとしたな」


赤い衣を見に纏った女性、彼女の鋭く冷たい視線が刃のように刺さった。

私は心を落ち着かせ、彼女の視線を受け止める。


「私は貴方ほど博識ではありません。先生にももちろん遠く及びません。ただ、これらはあくまでと練習のために模写しただけに過ぎません。もちろん金儲けのためではないです」

「不正な利益のために私の駄作を利用としているとは知りませんでした。このように、誤解を生じたのも、私にも責任はあります」

「彼の戯言に耳を貸しては行けません!お前、イカれているのか?!」


御侍の怒号が耳に入ってくるが私は既に指に力を込めて火を点けていた。


緋色の炎がメラメラと燃え上がる。一瞬にして紙の大部分を焼き尽くした。

御侍は悲鳴を上げて飛びかかったが、既に万事休す。ばんじ

そこにいるのは、怒りに満ちた彼だけだった。


「チッ、思い切りがいいな。ただ、焼かれたのは君の絵ではなく、誰かの富への道かも知れんな」

女性は扇子をちらつかせながら眉をひそめ、意味深な表情を浮かべた。


「世間は複雑で欲望に囚われる事もある。言い訳をするつもりはありません、こうしてお詫びをするしか、ただ……」


書物などはほぼ焼けてしまったが、その上に書いてある文字はまだ読み取れる。

女性は微笑みながらそれを読み上げた。


「杯を掲げ、清風の中独り月を抱く」


利益などより、私は清風を好む。


Ⅱ.初めての絶境

その後、怒り狂った御侍によって家を追い出された。


どう言葉を尽くしても、彼は私が彼の財源を絶とうとしているだけだと、そうとしか考えてくれなかった。


キツく閉ざされた門を見て、私はため息が出た。


しょうがない、志が違うのなら、共にいない方がいい。


邸宅を出た時には、既に辺りは暗くなっていた。

夜は案外あたたかく、艶やかな灯火の中、茜色の人影が目の前に現れた。


赤い衣を身に纏った白髪の女性は、小さな扇子を持ち、口角を上げている。


「きっぱり切り捨てないと、後患となるだろう。一時の優しさは、他人を助長しかねない」

「……?」


「いや。心血を注いだ作品を燃やして、惜しいと思わないのか?」

「大家を真似して描いた贋作に過ぎない。惜しいとは思いませんよ」

「君の部屋の至る所に仙宿を真似た作品があった、そこまで彼の事が好きなのか?」

「……」


初めて仙宿先生の作品を拝見した時の驚きを、今でも覚えている。

詩であれ、絵であれ、文章であれ、どれも優雅で、想像力と芸術性に満ちていた。


こうして、私の絵と書への思いは始まったのだ。


いつか彼の素顔を拝め、彼から何らかの指導を受ける事が出来たら、私の人生に悔いはないだろう。


残念ながら、彼はとっくに隠居しており、その行方を知る者はいない。

そう思うと、悔しそうにため息をつきながら、首を横に振った。


「好きとまでは言いませんが、彼の作品はどれも芸術そのもので、それに感心し、尊敬しています」

「もし、彼に会わせてあげると言ったら?」


……


女性が指差した東の方向へ向かうと、大きな桃森を抜け、そこには霧の海が広がっていた。

周囲には港もなく、小さな無人船だけが霧の中をゆっくりと進んでいる。


彼女の意図がわからない。だけど私自身も、何故か彼女の名前も聞かずに、そのまま旅に出てしまっている。


まあ、行ってから考えよう。


再び目を開けると、雲間から、巨大な仙島が現れた。楼閣などの建物も見えてきた。


上陸してしばらくすると庭園が見えてきた、しかし誰もいない閑散としている。


突然風と共に、誰かの声が聞こえた。


「何をボーっと立っているんだ?」


見慣れた赤い人影が、長い間待っていたかのように、のんびりと手すりに寄りかかっていた。


私は驚きを抑え、軽く一礼をした。

「この島は海の中心に隠されていて、実に不思議な場所です。案内してくださってありがとうございます……ただ……仙宿先生はこちらにいらっしゃるのですか?」

玉麒麟(ぎょくきりん)と呼ぶと良い。お探しの方は……そうね、まだ早いから、まずは私と一局手合わせしてくれ」


私が応じる前に、玉麒麟が袖を上げると、石卓の上に翡翠の碁盤がゆっくりと現れる。


「……道案内してくれた事には、大変感謝しております。ただ、これが訪問するための試練になるのかどうか、それだけは教えていただきたいのですが」

「あまり深く考えたら疲れる。知りたければ、碁盤の上で聞くと良い」


これは、断れないという事か。


「パチッ」

お香が燃え尽き、いよいよ最後の一手だ。ホッと一息つくと、爽やかな笑い声が耳の中に入ってきた。


「こんなに早く解けた人は、君が二番目だ」

「失礼ですが、この盤面には謎が幾多も張り巡らされている。貴方の作風とは思えません……もしかして、これは仙宿先生によるものでしょうか?」


玉麒麟は答えなかったが、幸いにも探っているような目をしなくなっていた。


「会いたいのはわかる。だけど今はあの愚かな龍とどこかに行っているみたいだ。すぐには帰ってこないだろう」


愚かな龍?


「……そういう事でしたら、また後日……」

「ここで待てばいいだろう」


まさか、こんな風に島に滞在する事になるとは……


しかし、来る日も来る日も、仙宿先生だけではく、誰の姿も見当たらない。


昔の邸宅より、この望松楼の方が静かでいい。

ただ……一日に何回も玉麒麟にしつこく構われる。


酒を交わし、碁を指し、手合わせし、詩を詠む事も。とにかく様々な事を共にやってきた。


私はようやく、彼女が私をここに連れてきたのは、遊び相手が欲しいからだと分かった。


気付けば、私は散らばるお酒や碁石、そして静けさの中突然現れる姿を、無視出来るようになった。


しばらく経ったある日、見回りに出していた霊鶴が戻り、侵入者がいる事を知らせてきた。


急いで向かうと、そこにはもう二度と会う事がないと思っていた相手がいた。


Ⅲ.災い再び

玉麒麟はどこかでぶらついているらしい。

かつて私が御侍と呼んだ男は、見知らぬ異国の女性の後を追っていた。

女性は無関心な様子だが、彼はまるで宝物を見つけたかのような表情で辺りを見回していた。


松鶴延年(しょうかくえんねん)?!やっぱりお前か!よくもまあ、こんな良い場所にこもりやがって、どうして私を呼ばなかった?!」

「……絶境には霧で出来た結界があります、どうやって入って来たのですか?」


玉麒麟という者が、ここには私の欲しいものがあると言った。この男については……知らない、勝手にくっついてきただけだ」

「……」


紗で顔を覆った女性は立ち去り、その後、ほとんど姿を見せなくなった。

残ったのは、目を光らせ大声で「ここにはきっと宝が埋まっている!」と言い張る男だけだ。


ダメ元で説明してみたが、契約が残っている以上、他の人間みたく追い払う事が出来ず、とりあえずある邸宅に彼を案内した。


しかし、日が経つにつれ、彼はますます傲慢になり、やりたい放題するようになった。


「これらの物はここに置いたままじゃなんの意味もない、外に運べば大儲けだ!お前がもっと早くここを見つけていれば、あんなに苦労して走り回らなくて済んだのに」


「地に足を付けた方が良いですよ。そういう不当な利益を得るのは、正しい生計の立て方ではありません」

「それに、この島は貴方や私の所有物ではありません、そのよいな妄言は慎んで頂きたい」


「お前は結局正論しか言わない。正直なのも、純粋なのもいいが、金を稼いでいたのは俺だったろ?お前のせいで商売がおじゃんになった事、まだ許してないからな!」


怒号が耳元で響く、私は袖の中で拳を固く握りしめ、必死に怒りを抑えた。

玉麒麟が言った後患とやらを、私はこの時やっと理解した。

「大体お前って奴は融通が効かない、ここまで頭が固いとはな!こんな儲け話がある以上、俺がやらなくても誰かがやふ、お前がいくら気にしたって無駄だ!

「お前は口だけだ、何も出来ない。人間である俺一人すら退治出来ないなんて、実に笑えるはははははっ!」


バーンッ!


「うるさい!」

いきなりの激しい音で正気に戻ると、目に映ったのは机の上で割れた茶碗の残骸だった。


「あのチンピラが知り合いなら、とっとの決着を付けるべきだ」

普洱(ぷーある)と言う名の女性は、かなり迷惑そうに目を逸らしながら、冷ややかに語りかけてきた。


先程まで騒いでいた男は、不意をつかれたようで黙った。そのふてぶてしい顔を見て、心の中で決心した。


このまま放っておいたら、もっと大変な事になる。

私だけなら良いが、絶境にまで迷惑が掛かったら……


玉麒麟に苦労しているけれど、ここは心が落ち着く良い場所だ。

彼のような無法者に汚されてはならない。


私は声を低くし、心の中の鬱憤を全て吐き出した。


「貴方という人は気が変わりやすく、全く当てになりません。私はもう貴方の指図に従ったりはしません。志が一致していないのあれば、もう関わるべきではないのです」

「しかし、貴方は何度もこの絶境の平和を乱し、最早私に御侍と認めたくもありません。今日で、最後にしましょう、これからはもう二度と現れないでください」


目の前の人がいくら叫んでいても気にしない。


食霊は自分の御侍を傷つける事は出来ないが、気絶させる事が出来ない訳ではなかった。


男が乗った船が徐々に霧の中に消えて行くのを見送り、ざわつく胸が少し落ち着いた。

いつもの私なら、きっとこのやり方を選択しなかっただろう……絶境に来てから、私は大きく変わったものだ。


はぁ……玉麒麟に知られたら、笑われてしまうだろうな。


「さっき、何をしたんだ……」

振り返ると、そう遠くないところに立っていた普洱は、相変わらず涼しい顔で訪ねて来た。


「彼の記憶を消しただけです……何があろうと、絶境の存在は外に知らせては行けません。貴方は……」

「伝言がある、呼び出しだ」


「私にですか?」


Ⅳ.山海帰寂

茶の香りに包まれた流暢亭には、二人が座っている。

一人は青、一人は藍、二人ともしなやかで美しい姿をしていた。


次の瞬間、彼らの視線は私に向いた。その目は深い泉のように、無数の秘密を隠されているようだった。


空気が一瞬にして静まり返り、二つの異常な圧力を感じた事で、挨拶する事さえも忘れそうになっていた。


「私は松鶴延年、絶境を守るように玉麒麟から頼まれ者であります。お二方は何の用で私を……呼び出したのでしょうか?」

「ハッ、良かったな仙宿。この絶境にもついに新たな客が訪れたな」

青い服を着た白髪の男は微笑んでこう言った、頭の上にある龍の角が一際目立っている。


仙宿?

待ちに待った人が、こんな風に目の前に現れるとは、胸が轟くように踊っている。


「そんなにかしこまらなくていい、少し話しでもしようかと思って招いただけだ。吾の教え子が推薦した者だから、きっと才能が有るに違いない」


その言葉にただただ圧倒されて、居ても立っても居られない。

推薦?まさか……


掌から冷や汗が出たものの、目を瞑ってどうにか自分を落ち着かせ、ここ数日の出来事を全て伝えた。


話を聞いた仙宿先生は、何もかも把握しているかのように微笑んだ。


「ご苦労だったな、後の事はこの師に任せると良い」

「師……?」


突然の呼称に震えたが、彼は相変わらず冷静な表情で頷いた。


「汝の探求心は得難いものだ。そして汝の名の通り、松のように決して揺るがない、清く高い品格を持っている事こそ修行に必要なものだ。なにより……」

「麒麟と長く付き合えた汝は、実に稀有な才能の持ち主でしょう。絶境に留まりたいのであれば、これからは吾と共に修行をするといい」


「フッ、何をボーっとしているんだ?早く師に礼をしろ」

白髪の男に催促され、私は我に返り恭しく一礼をした。


「おや、珍しく揃っているな。せっかくだし飲もうじゃないか!今日は酔うまで帰らせないぞ」

突然、外から聞き覚えのある声がした。赤い服の女性が、ドヤ顔でズカズカとやってきたのだ。


こうして、私は仙宿先生の弟子になった。


私は、先生の教えを請い、先生と議論する機会を得た。その他多くの時間は、松の木の下で瞑想したり、花の手入れをして過ごす事が多い。

時折、宴席に集まっては、世間話などもした。


退屈する事なく、むしろ安らぎを感じ、心地よい時間を過ごしていた。


先生と青龍神君は時々姿をくらますし、玉麒麟と神君もよく喧嘩して騒ぎを起こしたりするが。本当に穏やかな時間が流れていた、かけがえのない絆が出来たと実感する。


これで平穏に過ごせると思っていたが……


島の外、人間が権力争いで血を流し始めた。


「この世は乱れている、自分を守る事すら出来ないのに、貴方という一つの碁石で何が変わると言うのです?それに、貴方には絶境があるでないですか」

「たった一つの碁石がどうした、この世をひっくり返してやる!絶境は、頼んだ」


……


彼女を止める事は出来なかった、怪我を負って戻ってきた彼女を迎える事しか出来なかった。


絶境が半分なくなった気がした。


命を落としかけた玉麒麟を昼夜問わず見守りながら、何度ため息をついたかわからない。


もし、私がもっと力強く引き留めていたら、この絶境で今も四人で笑い合っているのだろうか……


彼女も、私も、分かっているはずだ。

穏やかな生活は仮初の物に過ぎず、嵐はいつかまたやって来ると。


その時、私はもう退かない。


Ⅴ.松鶴延年

早春を告げるように、枝先に積もった雪が溶けた。夜はまだ寒気が忍び寄る。


玉麒麟はいつものように宴会を開いているが、あたたかくなって来たからか、それともお酒が強いからか、何故か普段酔わない碧螺春(へきらしゅん)すらいつもより酔っていた。


松鶴延年は酒臭さに眉をひそめながら、宴会の残骸を黙々と片付けている。


突然、肩に誰かの腕が肩に回された。酒の匂いがする吐息を感じ、耳元でこう呟かれた。

「この絶境に、このような高潔な美人がいるとは。青龍神君はどれだけの龍鱗と引き換えに手に入れたんだ……」


不機嫌になった松鶴延年は机を叩いた、彼の頬も珍しく赤らんでいた。


碧螺春……酔っているのなら、さっさと帰って休んでください、これ以上余計な事を話すな」

「ん?心配をしてくれているのか?」


「前言撤回します」

「怒らないでーそうだ、望松楼の天台にある松の木は、何年ものだっけ?」


その質問で、松鶴延年は思わず立ちすくんだ。


月光が松の木を引き立たせ、その乱れているようで整然とした枝を映した。


「この地に来た時に、私が植えました」

「……私がここにいるのと同じくらい長い間……強く、揺るがず真っすぐ立っています」


「貴方たちの昔話はよく聞いているけれど。貴方も、その名の通り何年経っても変わらないな」


「……自分では変わったと思っていました、ある者たちのバカげた行動に対しておおめに見る事が出来るように……だがそうではないみたいですね」

「良いじゃない、松のように自分の心に忠実である事は簡単に出来る事ではない」

「そうだな、もう少し頭を柔らかくした方がいいかもしれないな。良宵一刻値千金、このままだといつか壊れるよ」


「……貴方の恥知らずもまったく変わっていないじゃないですか!」


松鶴延年は彼の本性をわかっていた、どうせまともな事を言わないと思っていたのだ。

気付けば碧螺春は笑いながら立ち去っていて、結局一人で片付けをする羽目に。


望松楼に戻っても、松鶴延年は何故か落ち着かないでいた。


色々考えながら、気付けば松の木の下にやって来た。


彼は三人が一人ずつ去って行った夜の事を思い出した。


自責の念が湧き上がり、彼は春に玉麒麟が埋めた酒を持ち出した。

空は澄んでいて冷たく、月明かりが松の枝の間からぽつぽつと影を落としていた。その時初めて、一人で飲む事がいかに虚しい事であるかを悟った。


「またここにいたのか、それとどっちが長生きするか競っているのか?」


袖を振って酒の匂いを払い、松鶴延年玉麒麟の笑顔を見て顔をしかめた。


彼女は彼の表情を気にする事なく、石の机に散らばっていた冊子を拾い、からかうようにこう言った。


「蓮の花の香りに満ちていると、帰りの道が分からなくなった。興が乗っているな」


「この島は自由に出入り出来る場所ではないと貴方は言っていました、今はその通りだと思っています」


「後悔しているのか?」

「いいえ、後悔などありません」


玉麒麟はしばらく呆けていたが、再び笑った、その目は赤く燃えている。


「後悔しても無駄だ。さぁ、庭に埋めた酒を飲み干すにはまだ早いよ。鏡花池で、もう一杯付き合ってくれ」


彼女はまだ飲み盛りだった、松鶴延年を引っ張って強引に鏡花池に向かった。

清風が通り過ぎ、彼は急いで冊子を袖の中に収めた。


かつて、松の木の下で佇んでいる仙宿の後ろ姿を思い出した。


「意味のない妄想は抱かない。吾が神君でない以上、天命を変える力をもたない、何も出来ない」

「いつ帰るかはわからないが……これ以上言う必要はないだろい。汝はいつも慎重に行動をしている、今後この絶境は汝の力が必要だ」


当時の彼はまだ怯えていた、この言葉に応えられないでいた。しかし今は……


どんなに激しい嵐が吹き荒れても、玉麒麟と共に絶境を守る事こそ彼の役目となった。



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タイトル FOOD FANTASY フードファンタジー
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  • RPG(ロールプレイング)
ゲーム概要 美食擬人化RPG物語+経営シミュレーションゲーム

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