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舞刃流雲・ストーリー

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舞刃流雲

プロローグ


 タッタッタッ--

 夜更けの邸宅は静かだ。提灯を持った遊女が屋敷の扉を開けると、背後の木が揺れ、一つの黒い影が過った。

 遊女が煌びやかな化粧を落とすと、突然冷たい風が吹いた。屏風が音を立て、部屋の中の灯りが消えた。

 タッタッタッ--


誰⋯⋯誰かいるの⋯⋯?


フフッ⋯⋯貴方も彼女と同じく、間違った道を選んだみたいですね⋯⋯


誰⋯⋯?イヤ、来ないで──!!!あああああ!!!!!


夜空を切り裂くような悲鳴が響き渡り、艶やかな花は落ちた。


 意識を完全に失う前、遊女は歪んだおぞましい顔と短刀に映る自分の血の気が引いた顔を見た……


中華海草:うああああー!


 悲鳴によって話の続きは遮られた。雲丹は丸まっている中華海草を見て、思わずため息をつく。


中華海草:あっ……ごめんなさい……わざとじゃないんです……つ、続きは?

雲丹:発見された時、現場に残ったのは息絶えた遊女と……一枝の桜だけ。

雲丹:フンッ、あの野郎!不意打ちで女を襲うなんて、卑怯にも程がある!

中華海草:し、しかし……雲丹姉さんがその恰好をしているのと、どんな関係があるのですか?


 普段とは全く違う動きやすい服装に着替えた雲丹が、刀を構えて扉の外に立っているのを、中華海草は不思議そうに見ている。


雲丹:……もちろん、あの野郎を捕まえるためよ!アタシがいる限り、これ以上女に手を出させない!

中華海草:わあー!流石雲丹姉さんですね!まるで本の中に登場する、平和を守る英雄みたいです!

雲丹:コホンッ、ほらお話も終わったし、大吟醸に用があるんでしょう?早く行きなさい。

中華海草:あっ、そうでした!では雲丹姉さん、また後で。


 やる事を思い出した中華海草は、恥ずかしそうに頭を掻いてから、急いで極楽に入った。だが……


中華海草:あれ……?


 見渡す限り、まるで台風が通ったかのような惨状が広がっていた。そして、その台風の目に立っていたのが、最大の被害者である純米大吟醸であった。


純米大吟醸:はぁ、新年はもう過ぎたのに、誰かさんはどうしてもこの極楽を「賑やか」にしようとしているらしい。海草ちゃん、良い時に来てくれたでありんす。喧嘩っ早くてすぐに店で暴れ回るあの短気な性格をどうにか直してもらえない?

中華海草:うぅ……さっ、流石雲丹姉さんです……


 口では懇願しているが、純米大吟醸の顔には悲しみなど微塵もなかった。むしろ……少し楽しんでいるようにも見える。その様子に中華海草は戸惑っていたところ、扉の外から突然言い争う声が聞こえてきた。


???:あー!!!

中華海草:だっ、大吟醸様!外に……!

純米大吟醸:はぁ、またでありんすか。


───


雲丹:アタシが一番気に食わないのが、アンタみたいに酒の勢いに任せて他のひとをイジメるクソ野郎だ。金を払えば、何をしても良いって思うなよ!

酔っ払い:どっから出てきた小娘だ?俺に楯突こうなんてな……うぅ、ああー!

中華海草:う、雲丹姉さん!


 中華海草が慌てて駆けつけると、酔い潰れた男の襟元を掴んでいる雲丹と、その隣で服が乱れていて、泣きそうな顔をした女が立っているのが見えた。


純米大吟醸:およしなさい、昼間から赤色を見たくないでありんす。


 純米大吟醸の何を考えているかわからない、悪巧みをしているような笑みを見て、雲丹は不満げに男を放した。口元についた汚れを拭って、振り返って文句を言い始めた。


雲丹:フンッ、あの野郎が先に手を出したんだ!

純米大吟醸:フフッ、前もそう言っていたでありんす。ぬしが誰を殴ろうとあちきの知った事ではないが、どうしてその服を着ているのかは忘れないで欲しいな。

純米大吟醸:机の上の茶碗、角にある花瓶、そして壁に飾っていた絵……あちきにいくら貸しを作っているか、改めて教えて上げた方がいいでありんすか?

雲丹:……わかってる!だからここで護衛として働いているでしょう、きちんと返すわよ!

中華海草雲丹姉さん……そういう事だったんですか……

雲丹:チッ、昨日あのクソ野郎を殺人鬼に間違えなければ、手を出したりしなかったのに……

雲丹:まあちょうどいいわ、極楽にいれば必ずあの野郎を見つけ出せる!海草、あまり外に出ないように、気を付けるんだよ。

中華海草:……はい、わかりました!では雲丹にい……姉さん!どうか気を付けてくださいね!うぅ、頭を撫でないでくださいよ……


ストーリー1-2


 夜の帳が下りても、極楽は依然として灯火で明るい。

 明太子月見団子と共に長い廊下を通ると、前方で護衛の格好をした者が見回りをしているのが見えた。何故だか見覚えがある気がした彼は、あの後ろ姿を見つめながら、思わず余計な言葉を口にしてしまう。


明太子:極楽はいつからあんなもやしみたいな護衛を雇ったんだ?そういや、雲丹のヤツどこ行ったんだ、オレ様が手伝うって言ったのに絶対に自分でやるって聞かねぇし。

雲丹:……


 廊下はあまりにも静かだったため、遠くからでも明太子の言葉を聞き取れた。たった一瞬で、明太子は力強い平手打ちを頭で食らう事になった。


明太子:うわっ!いってぇ!誰だお前、オレ様を殴るなんて良い度胸してんじゃねぇか!


 明太子は殴られた頭を抱えながら、顔を上げて目の前の人物を見た。しかし、そこにいたのは実によく知っている顔だった。


雲丹:酒も飲んでないのに頭が回らなくなったの?誰がもやしだって?もう一回言ってみろよ?

明太子:……別に変な事言ってねぇだろ!そんな恰好してるから、わかんなかったんだ!

雲丹:その目は節穴か何か?もし月見の耳がなくなったら、わかんなくなるのかよ!

明太子:それは……

月見団子:ふふっ、大吟醸から店で大暴れしたから、弁償するためにここで働いていると聞きました。私たちは貴方のためにお金を返しに来たのですよ。

雲丹:いい、金を返しても、あの殺人鬼を見つけるまで、絶対ここから出ないから!

月見団子:……そんな恰好をして、貴方も大変ですね。

雲丹:本当だよ……チッ、やっぱり女の子の服の方が着てて気持ち良いよ……

明太子:安心しろ!オレ様はいつか桜の島の主になる男だ!殺人鬼なんて、すぐに捕まえてやるよ!

雲丹:はいはいはいはい、アナタが一番です……


―――

話の途中、雲丹はふと角にいる赤い髪の男の様子がおかしい事に気付く⋯⋯

・すぐに止めた。

・すぐに近づいて確認した。

・まずは観察してみよう。

―――


雲丹:--おいっ!そこにいるヤツ!なにをこそこそしているんだ?!


 思わずその男を止めようとする雲丹だが、男は問い詰められて動揺したのか、何も答えなかった。


雲丹:待て、懐に何を隠した?!待て!!!


 男が慌てて逃げるのを目にした雲丹は眉をひそめ、後ろの仲間に構う余裕もなく、彼を追って走り出した。


明太子:まさかあれが殺人鬼か?よしっ、オレも……

月見団子:待ってください!


 雲丹と共に男の後を追おうとした明太子は突然制止され、戸惑いながら自分の軍師を見る。


明太子:どうした?

月見団子雲丹のやり方を知っているでしょう、私たちもいると邪魔になります、ここで良い知らせを待ちましょう。それに、あれは殺人鬼ではない可能性もまだあります。

明太子:うっ……お前の言う通りだな。じゃあ、オレたちは違う方法で探ろう!

月見団子:ボスは貴方です、指示に従います。


 明太子を説得した後、月見団子は無意識に雲丹が去って行った方向を見た。その目には心配と……何かもっと複雑な感情が浮かんでいた。

 一方--

 喧騒から徐々に遠ざかり、曲がりくねった道の先は袋小路になっていたため、雲丹は足を緩めた。しかし、行き止まりであるはずのそこに男の姿はない、まるで消えたかのようだ。


雲丹:クソッ、なんでいないんだ……

???:きゃあ--!!!助けて--!!!


 突然、遠くない所から女性の悲鳴が聞こえてきた。


雲丹:?!


ストーリー1-4


 雲丹が声を辿って小さな邸宅に駆けつけた時、芸妓の格好をしている女性が隅に倒れていた。荒れた邸宅の庭で、ある物が雲丹の目に止まった。


雲丹:桜……あの殺人鬼はここにいるのか……!

うな丼:何者だ?!

雲丹:!


 木陰から大きな刀を挙げている男が現れた。その高く結んだ赤い髪はかなり目立つ、瞬時に雲丹はあの姿を消した怪しい男の事を思い出した。


雲丹:ハッ、ようやく見つけた--!!!

うな丼:???拙者を?何を言って……おいっ!どういう事でござるか!!!


 キーンッ!ドーンッ!

 いきなり襲い掛かって来た相手に、うな丼は訳も分からず応戦するしかなかった。


うな丼:お主……!何故拙者を襲う!

雲丹:こそこそここに入ったのはアンタだろう、このクソ殺人鬼、これ以上好きにはさせない!!!


―――

・誰がこそこそしていた!

・誰がクソ殺人鬼だ?!

・誰も傷つけていないでござる!

―――


雲丹:問答無用!アンタのせいで死んだ無実な命を、アンタの命で償ってもらう!

うな丼:?!


 雲丹の言葉を聞いて、うな丼は何か誤解が生まれている事に気付き、動きを緩めた。


うな丼:何か誤解しているではないか?まっ……まず話を聞いてくれ……!

雲丹:話は地獄で言え!!!クソ殺人鬼!!!


 相手が躊躇っているのを見て、その隙に雲丹は全身の力を刀に集中し、攻撃を繰り出し、相手の動きを封じた。


雲丹:このクソ殺人鬼が!!!

うな丼:うわっ!この針どっから飛んで来たんだ!!!


 隅で昏睡していた女性は、激闘の音で目が覚めた。目の前の状況を把握出来ず、戸惑っている。


芸妓:うぅ……貴方たちは……?

雲丹:目が覚めたの?ちょうどいい、この野郎はアナタの好きにするといいよ!

芸妓:えっ……?

雲丹:怖がらないで、自分の手を汚すのがイヤなら、何でも言ってくれたらいいよ、アタシがやるから!

芸妓:手を汚す?一体何の話ですか……?

雲丹:もちろん、彼がアナタを殺そうとしたから……

芸妓:いえ……私を殺そうとしたのは彼ではありません、彼は私を助けてくれたのです。

雲丹:……

うな丼:……そろそろ拙者の上からどいてくれないか?

雲丹:チッ、アンタの上になんていたい訳ないだろ!殺人鬼じゃないなら、どうして刀を持って他人の家でこそこそしていたんだ?!

うな丼:それは……

芸妓:先程、恐ろしい赤髪の男が突然、短刀を持って私の家に現れたんです。この方が来てくれたおかげで、あの男は逃げて行きました。

うな丼:聞いたか!拙者はお主の言う殺人鬼ではない、たまたまここを通り掛かって、悲鳴を聞いて助けに来たのでござる!

雲丹:……チッ。


 一部始終を聞いた雲丹は落ち着きを取り戻し、拳を音が鳴るほど強く握りしめた後、何も言わず飛び出して行った。


うな丼:おいっ、待て!


ストーリー1-6


うな丼:おいっ!話はまだ終わってないでござる!

雲丹:言えばいいじゃない、引っ張るな。

うな丼:???

雲丹:きっともう追いつけない……クソッ、また逃げられた。アンタが急に出て来なかったら……とっくに……

雲丹:--チッ、服まで汚れちゃった。


 近くの池の水面に映っていたのは、戦いで全身がぐちゃぐちゃになった二人。雲丹は眉をひそめ、水をすくって汚れた顔を洗った。


―――

何をじろじろ見てるの⋯⋯

・女性の前で身だしなみを整えるのは礼儀でしょう。

・早くして、まだやる事があるんだから。

・早く身だしなみを整えて、みっともない。

―――


うな丼:いや……お主が引っ張ったからであろう……


 文句を言いながらも、青年は急いで服を整えて、雲丹と共に先程の邸宅に戻った。二人は酷い目に遭った芸妓を落ち着かせてから、やっと話をする事が出来た。


うな丼:拙者は悲鳴を聞くとすぐにこちらにやって来た。来た時、あの男はお嬢さんの手を掴んでいた、だけど拙者を見るとすぐに逃げ出したでござる。

雲丹:アタシも悲鳴を聞いて駆けつけたわ。アナタの説明の通りなら、そんなに時間は経っていないはず。あの野郎は絶対表から出てない、もしかしたら裏口から出たのかも?

うな丼:それは……拙者にはわからない。

雲丹:は?アナタはあの野郎と戦ったんでしょう?何で何もみていないの?

うな丼:そうだ、あの男の武器が……

雲丹:……お嬢さん、ここに裏口はある?

芸妓:あります……ですが、裏口の方は行き止まりで、逃げられないと思います……

雲丹:……

うな丼:……


 予想外の展開に、行き詰った雲丹も流石に冷静に考え始めた。そしてその瞬間、芸妓の言葉で何か閃いたようだ。

 周囲は静まり返っている、二人は同時に顔を上げお互いに目配せをする。突然、雲丹は形のない針に背中を刺されたように感じた。暗き静寂の中、物陰に潜んでいる影が蠢き始める……

 寒気は蛇のようにうな丼の背筋を上る、彼が口を開こうとした瞬間、誰かの手が肩に置かれて制止してきた。


雲丹:チッ、きっとまだ遠くに行っていないはず、追いかけてくる!


 うな丼はすぐに雲丹の意図を理解し、すくっと立ち上がった。


うな丼:ならお主に任せた。もう遅い、拙者は先に帰らせてもらう。


 芸妓に別れを告げ、二人は邸宅を出た。しばらくして、話し声と足音が消え、周囲が再び静かになった頃、茂みから人影が現れた……

 部屋の灯りは全て消されている、中からは女性の寝息が微かに聞こえて来る。暗闇の中、その人影はじっと部屋を見て慎重に動いている……

 そして、月光の下に片足が現れた瞬間、後ろから聞こえて来た明るい声に、その人影は固まって動けなくなった--


うな丼雲丹、ここだ!


ストーリー2-2


うな丼雲丹、ここだ!

おかしな男:!!!


 雲丹うな丼の二人は目の前の男を囲んだ。月明かりが男の顔や手に持った短剣をゆっくりと映し出していく。


うな丼:ハッ、ようやく出てきたか。

雲丹:この野郎!やっと捕まえた!

うな丼:気を付けろ、あいつの武器は……

おかしな男:チッ、くたばれ--!

雲丹:!


 しかしうな丼の言葉を遮るように、男は短剣を握りしめ雲丹に向かって突進した。雲丹は驚いたがすぐに反応した、だがその場を動く事なく、男を迎え撃とうとしている。

 雲丹が真正面から迎撃しようとした時、大きな力に押され彼は吹き飛ばされた。


うな丼:ぐっ!

雲丹:……おいっ!


 鋭い短剣は真っすぐうな丼の腹部に刺さり、赤色が広がる。痛みによって、彼は地面に倒れた。

 短剣から人間のものではない匂いを感じた雲丹は、躊躇なく男に攻撃を繰り出した。


雲丹:死ね!!!


 爆発した怒気と共に雲丹は刀を振り回したが、目の前の男は容易に彼の攻撃を交わし、短剣を仕舞って脱兎の如く逃げて行った。


雲丹:あの野郎、逃げられると思うなよ!!!


 失敗の連続で、雲丹は怒り心頭だった。すぐに追いかけようとするが、自分のせいで倒れているうな丼を思い出し、歯を食いしばって戻る事にした。


雲丹:誰が……庇ってくれって頼んだ!何を強がっているんだ!


 うな丼の服は血まみれになっていた、傷口が赤い瘴気で覆われているのを見て、雲丹は眉をひそめた。


うな丼:お主が、話を聞かないから……あいつの武器は妙でござる……食霊を傷つけられる……

雲丹:言われなくても、見ればわかる!アンタ……本当にバカだ、アンタに守られる筋合いはない!勝手な事をするな!


―――

ふっ、誤解するな⋯⋯

・守ってなんかいない……

・あいつを捕まえるのはお主の仕事のようだから、手伝っただけでござる……

・拙者はただ、お主ならきっとあの殺人鬼を捕まえられると信じているだけ……

―――


雲丹:……

うな丼:心配するな、あの武器は強力だが、拙者はこれぐらいの傷で……死なないでござる……

雲丹:黙れ!体力を無駄使いするな!


 怒りながらも、まだ血を垂れ流しているうな丼雲丹は担ぎ上げた。


うな丼:うっ……何を……!

雲丹:アンタを見捨てる訳ないでしょう、手当てしに行くんだ!

うな丼:さっきまで……拙者の事を汚いと……

雲丹:……これ以上喚いたら、自分で歩いてもらうよ!


しばらくして

極楽


 急いでうな丼を極楽まで運び、純米大吟醸に彼の怪我を診てもらおうとした時、遠くないところから騒ぎ声が聞こえてきた。それに続いて酒飲みと芸妓が逃げ惑う情景が目に映る。

 雲丹は人混みの中から、一目であの短剣持ちの男を捉えた。


雲丹:あの野郎!まさかここにくるとは?!


 あいつのせいで一晩中ずっと駆け回る事になり、それに負傷したうな丼の事もあって、雲丹は目から火が出そうな程にキレている。


雲丹:今度こそ、逃がすかよ!!!


ストーリー2-4


雲丹:今度こそ、逃がすかよ!!!


 素早く跳び上がり、雲丹は簡単に狂っている男を抑え付けた。

 カランッ--

 短剣は雲丹の攻撃によって吹き飛ばされ、男も抑え付けられているため身動きが取れない。勝敗はもうついているのに、男の歪んだ顔にはおぞましい笑みが浮かんでいた。


おかしな男:フフッ、俺を捕まえて、どうするつもりだ?

雲丹:どうして罪のない女性を殺すんだ。


 次の瞬間、雲丹の刀は男の喉元に触れ、一筋の血痕が残った。だが、それでも男は鼻で笑うだけで、何も言わない。


―――

この卑怯者め!

・よくも自分の恨みを弱い立場の者にぶつけたな?!

・弱い立場の者を好きなように傷つけた事、その罪は許されない!

・アンタに傷つけられた全ての弱い立場の者に謝れ!

―――


おかしな男:弱い立場?お前に何が分かる!傷つけられたのは俺の方だ!!!

雲丹:……なんだと?

純米大吟醸:すまぬ、遅れてしまった。ご苦労。


 背後から聞き覚えのある声がして、雲丹は一瞬固まったが、すぐにその男が純米大吟醸をじっと見ている事に気付く。その目は多くの恨みや辛みを含んだ生々しいものであった。


純米大吟醸:どうしてそんな目であちきを見ているんだ?ぬしはここに来るべき者ではないでありんす。

おかしな男:そうだな……彼女と初めて出会った時、出会うべきでは……なかった、その通りだ……


 思いがけず、男はゆっくりと口を開いた。そして、何かを思い出しているかのように、血走った目に濁った光が灯った。


おかしな男:昨年の春、俺たちは恋に落ちた。彼女は極楽の芸妓だったが……俺はそんなの全然気にしなかった。彼女のために色々してきた、今年の春にこの桜の木の下で結婚するはずだったのに……でも、お前が……!

おなしな男:お前が!俺の女を奪った!お前は……女を弄ぶクソ野郎だ!呪ってやる……お前がずっと望んでいる「あの件」は……絶対に成功しない!ハハハハハッ--


 男は矛先を純米大吟醸に向けたが、向けられた方はまるで傍観者のように平然としている。


雲丹:彼の言っている事は本当なの?

純米大吟醸:ククッ……

雲丹:何笑ってるの?いい加減……

桜子:申し訳ございません。私のせいで、皆様にご迷惑をお掛けしました。

雲丹:アナタは……?

おかしな男:桜子……!桜子、やっぱりここにいたのか!お前は……

純米大吟醸:じゃあ、ぬしに任せたでありんす。

桜子:はい。

おかしな男:桜子!やっと会ってくれるのか!俺は……

桜子:どうか、目を覚ましてください。

おかしな男:!

雲丹:……一体どういう事なの?

桜子:雲丹様、このおかしな男の言葉を信じないでください、私は彼を愛した事はありません。彼は私に近づくため、自ら大吟醸様の手下になりましたが、裏切ったのです。

桜子:最初から最後まで、大吟醸様は私を守ってくださいました。

おかしな男:違う……そうじゃない……桜子、お前はあの男に脅されているんだろう?なあ……きっとそうだ……

桜子:自分勝手に感情を私に押し付けて、人の気持ちも知らずに強引に絡んできて、迷惑を掛けてきた。それだけだったらまだ耐えられたわ、でも他の女性に危害を加えるなんて……

桜子:彼女たちは……いいえ、誰であっても貴方の怒りのはけ口、傷つけて良い対象にはならない。貴方のような人に愛情を語る資格はない。貴方に出来る事は、まず今までしてきた事を償う事だけだわ!

おかしな男:俺は……俺は……

雲丹:…………


 膝をついて泣き出した男、そして彼の前に立つ冷たい表情の芸妓……雲丹はこの状況を見て、どう反応して良いかよくわからなかった。その時、影から一人の男が出てきた。


鯖の一夜干し:お呼びです。

雲丹:……ちょうどいい、アタシも聞きたい事がある。


ストーリー2-6


極楽

屋内


 爽やかな酒の香りに包まれながら、雲丹は淡々としている純米大吟醸を横目で見て、思わず唇を噛んだ。


純米大吟醸:聞きたい事はなんでありんす?

雲丹:あの短剣は、何?

純米大吟醸:短剣ね、どこで拾った物かはあちきにもわからぬ。もしかしたら、堕神の物かもしれないね。

雲丹:……堕神?……変な物じゃなくて良かったわ。

純米大吟醸:ぬしの友人を傷つけてしまって、すまない。安心して、傷が治るまで思う存分この極楽で休むといいでありんす。

雲丹:……芸妓にあの男に近づかせたのはアンタでしょう。

純米大吟醸:ククッ、まったくの濡れ衣でありんす。全ては……彼らの望み通りではないか。

雲丹:望み?

純米大吟醸:彼はこの桜の島から出る方法を知っていると言い張った、そして彼女もちょうどこの地から離れたかった。あちきはただの仲介人にすぎぬ。

雲丹:桜の島から出る……方法?


 窓の外の赤い月が地面を赤色に染め、純米大吟醸の笑みも深まった。彼は自分を通して更なる未知の世界を見ているのではないかと、雲丹は思った。


純米大吟醸:いつの日か、ここから出て本当の月を見たいとは思わないか?あの、我々のものであるべき月を……

雲丹:……

純米大吟醸:どうだい?あちきと一緒に楽しい事をやらない?


 一杯の清酒雲丹の目の前に押し出された、お酒で満ちた杯には赤い月の残像が微かに映っている。

 次の瞬間、杯は迷わず押し返された。雲丹純米大吟醸の意味深な笑みを見つめて、口を開く。


雲丹:結構よ、陰謀は酒をまずくする、アタシは澄んだ清酒が好きだからね。それに……

雲丹:あの男みたいに温もりや目的を求めるために、利用される危険を背負うぐらいなら、アタシは独りのほうが良い。


 雲丹はそう言って、杯の中に漂う薄荷を取り出した。


純米大吟醸:そう、今は好きじゃないかもしれないけれど、いつか好きになるかもしれないでありんす。


―――

フンッ。

・アタシを取り入れるのに神経使わない方が良いわよ。

・これからの事はわからないのに、軽々しく言うな。

・アタシがアンタを裏切らないとでも?

―――


純米大吟醸:ぷっ、真面目な時は可愛らしいでありんすな~

雲丹:は?

純米大吟醸:最近詩を詠むのに興味があってね、一緒に楽しんでくれないのは残念でありんす。


 突然笑い出した純米大吟醸が残念そうに首を振ると、何もなかったかのように煙を吐き出した。その様子を見て、赤面した雲丹はバンッと机を叩いてこう叫んだ。


雲丹純米大吟醸ー!!!なに文豪気取ってんだよ!!!

純米大吟醸:ククッ、とにかく今日はご苦労だった、残った借金はチャラにしよう。さあ、一杯どうだ?

雲丹:……日を改める。あの赤髪のバカがアタシが借りを返すのを待っているし。

純米大吟醸:借りを返す?そう……ちなみに、彼は愛人か何か?

雲丹:なっ……極楽の考え方をアタシに押し付けるな!!!!!


うな丼√宝箱


 あの夜の騒ぎは、やがて花や酒に紛れて薄れていった。花街はまるで何事もなかったかのように、賑やかで騒がしいままだ。

 ラーメン屋の中、腰に包帯を巻いているうな丼が鶏モモ肉を堪能していると、突然カンッという音がして、目の前にいくつもの酒瓶が増えた。

 うな丼は見覚えのある顔を見て、信じられない顔で目をこすり、二度見、三度見をした。


うな丼:えっ?!雲丹……お主、何故女の服を着ているんだ?!

うな丼:?!まさか本当は女子でござるか……いや……でもこの前は……

雲丹:何ブツブツ言ってんの?キモイ……

うな丼:……どうしたでござる?

雲丹:傷……大丈夫?

うな丼:ああ、あれぐらいどうって事ない!

雲丹:殺人鬼の件、助かった。借りを作るのは嫌だから、この酒はお礼としてあげるわ。

うな丼:いや、拙者は大した事しておらぬ!お主にも助けてもらったであろう?お互い様でござる。

うな丼:折角知り合った訳だ、今後何かあったら拙者を呼ぶと良い!飯をおごってくれたら、何でも手伝うでござる!

雲丹:チッ、本当にバカだね。


 嬉しそうなうな丼を見て、ため息をついた雲丹もなんだか明るい気持ちになった。


雲丹:(こんなバカがもっと増えると、いいかもね……)

うな丼:この酒良い匂いがする、悪くない……おいっ、どうして拙者を殴るんだ!


 うな丼の酒に伸ばした手が雲丹に叩かれた。


雲丹:病人だから酒を飲んじゃダメ!治ってから飲みなさい。

うな丼:これしきの傷は問題ない、こんないい酒を放っておけないでござる!


 パンッ--

 突然、帳簿が思いっきりうな丼の額に叩きつけられた。


豚骨ラーメン:こん酒は一先ず預かっとく、飲めるかはアンタ次第や。

うな丼:……おいっ!!!人助けをしたのに、褒美を味わう資格もないのか!

豚骨ラーメン:人助け?結局担がれて帰って来たやろう。出来ん事ばするな、店で大人しゅう手伝え。こん前割った皿ん代金もまだ弁償できとらんやろう?

うな丼:なっ……!わかったわかった、食べたらすぐに働くでござる!


 豚骨ラーメンは腕組みながら、項垂れているうな丼を見て微笑んだ。


豚骨ラーメン:ばってん、アンタらが殺人鬼ん件ば解決した事結構知られたみたいでな、客が少し増えたんや。食事代ば何回かまけてやろう。

うな丼:?!だろう、拙者は凄いと言ったではないか!

雲丹:あら、食べ物で懐柔されるなんて、ちょろいわね。明太子がやる春の宴とやらで、アナタの人生の半分買えるじゃない。

うな丼:なに?!宴会があるのか?!行きたいでござる!!!

雲丹:傷が治ったらね。

うな丼:待ってろ!たくさん食べて、今日中に治してみせるでござる!!!


雲丹√宝箱


 しばらくして、怪我が治ったうな丼雲丹に誘われて、崇月の宴会に招かれた。

 夜も更けてきて、紅月が夜の帳に懸かっている。雲丹は中庭に足を踏み入れたところで、明太子に肩を組まれた。


明太子月見団子に教えられなかったら知らなかったぞ。お前は自主的に殺人鬼を捕まえるために極楽にいたそうだな。てっきり極楽を荒らしたから、働かされているんだと思ってた。

明太子:次そんな面倒そうな事があったら、オレたちも呼べよな!オレ様はお前らのボスだからな!

雲丹:……アナタみたいなうるさいヤツは、ここで焼肉でも食べてなさい。


 庭の片隅で、とある二人が酒を飲みながら、宴会を眺めて笑っている。


月見団子:ふふっ……今回は運が良かったですね、あの雲丹をも誤魔化せたとは。

純米大吟醸:おや、誤魔化しただなんて……正直に話したでありんす。

雲丹:おいっ!そこの二人なにをこそこそ話しているんだ?!

純米大吟醸:ククッ、うちの若い護衛が人気だって話をしていたでありんす。お嬢さん方は皆ぬしの事を話しているよ。

月見団子:聞くところによると、あの護衛の活躍を見て恋に落ちた者もいるとか。

中華海草:はい!雲丹姉さんは悪い人を捕まえて、本当に凄いです!


 中華海草が何皿も焼肉を持ってきた。あまりの良い香りに、誰もが心を奪われた。

 雲丹は興味なさそうに肉を口に放り投げて、大声で言った。


雲丹:フンッ!あの野郎は自業自得だよ、悪意を持って他人を傷つけて自分の心を満たそうとした、しかも結局は自分の思い込みだったなんてね。

雲丹明太子--!!!その肉はアタシが先に目を付けてたヤツだ!!!早くそれを放せ!!!

明太子:もごもご……オレ様が先に取ったからオレ様のだ!!!

月見団子:二人とも、お客様の前でみっともないですよ。

中華海草:あの……雲丹姉さん……明太子様……たくさん用意してあるので、取り合わなくても大丈夫ですよ!


 ……

 歓声と喧騒の中、一行は全員木陰で酔いつぶれていた。


明太子:ヒクッ、おい八岐!!!出てこい!!!相手しろ!!!ヒクッ--

雲丹:……寝ててもうるさいわね。


 雲丹は嫌そうに耳元で騒ぐ明太子を遠くに投げると、やっと辺りは静かになった。

 いつものように酒を取ろうとしたらそこには何もなかった。月見団子がとっくに酒を片付けた事をやっと思い出す。


雲丹:チッ……あいつも結構飲んでいたのに……


 ぼんやりしていると、何か柔らかい物が顔に落ちた感覚がして、くすぐったくなった雲丹は顔に手を伸ばした。手の平に乗った桜の花びらは、月明かりの下いつも以上に優しく見えた。

 顔を上げた時、彼はあの紅月を見た。春の夜を照らすそれはとても眩しかった。まるで全てのものが、その光を浴びて安らかに眠っているかのようだ。


雲丹:春が……来たのか。


 雲丹はそうつぶやくと、手のひらで桜をそっと包み込んだ。

 ここにいれば、どんな大変な未来が待っていても、仲間たちはきっと傍にいてくれるだろう。春が来たからには、ただそれを楽しめばいいと、そう雲丹は思ったのであった。




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タイトル FOOD FANTASY フードファンタジー
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  • RPG(ロールプレイング)
ゲーム概要 美食擬人化RPG物語+経営シミュレーションゲーム

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