ロリポップ・エピソード
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目次 (ロリポップ・エピソード)
ロリポップのエピソード
魔導学院の先生により召喚され、ゆるキャラとして皆に好かれている。毎日、楽しく自分だけの魔法の薬を調合している。この魔法の薬で皆を幸せにしたいと強く望んでいる。ほとんどの場合、彼女が作った魔法の薬は甘い味がするが、彼女の気分によりたまに味が変わる。悲しんでいたり、怒っていたりすると、まずい薬になる。彼女は自分以外の人の気持ちをシロップにして、それをキャンディに封じ込めて、大切な人に感じてもらうことが出来る。彼女のキャンディを食べると、幸せになれるという噂がある。
Ⅰ.マジカルキャンディ
「グツグツ……グツグツ……グツグツ……」
シロップが湯気を立てながら大鍋の中で煮込まれている。色とりどりの泡が飛んで、部屋中ハチミツの匂いでいっぱいになった。
ホワイトは大きなスプーンを使って、耳を揺らしながら力強く鍋をかき混ぜている。
ふぅ……このマジカルキャンディが出来上がったら、遊びに行ける!
ソフトクリーム姉さんとB-52兄さんの所に、何か面白い物はないかな……
ワクワクしながら窓の外を見ると、ちょうどそう遠くない所にある魔導炉が見えた。
ロリポップは、御侍様が学生に魔導炉の原理を説明している時に召喚されたの!
「全ての食霊は、人間が美味しい物を食べた体験から生まれる。例えば、このロリポップは小さいが、人を元気にするパワーが宿っています」
これが、この世界に生まれた時に初めて聞いた言葉だ。
御侍様が言ったように、ロリポップは人を幸せにできる魔法を持っているの。
ロリポップが作ったキャンディを食べると、そこに込められた思いが伝わるんだ。
綺麗なキャンディたちは、ロリポップが集めた様々な気持ちや思いを注ぎ込んで作った魔法の薬なの。
楽しい気持ち、愉快な気持ち、幸せな気持ち……
うぅ、もちろん、怒りや悲しみが入ったキャンディは不合格だよ!
このマジック調合室で、ほぼ毎日同じ事を繰り返しているけど、全然退屈じゃないよ!
皆に美味しいキャンディを作って、キャンディたちがますます人気になって、そしてロリポップのキャンディが笑顔になれば、幸せなの!
「ポッポー!ポッポー!」
突然、木製の機械鳥の鳴き声が炸裂した。
「うわー!ホワイト!もうすぐ時間だよ!!!」
「キュー!キュー!」
熱い内に、煮込んだシロップを一つずつうさぎの形に整えて、綺麗な紙で包めば、カゴ一杯のマジックキャンディの出来上がり。
満足そうに手についたキャンディの破片をはたくと、ホワイトたちも嬉しそうに、カゴの周りではしゃいでいた。
マジックキャンディ作りを手伝ってくれるうさぎちゃんたちは、見た目は違うけど、名前はみんなホワイトなの!
覚えやすいから、付けた訳じゃないからね。
カゴを窓辺に置いたけど、時間が経ってもキャンディが減らない。
いつもならこの時間になると、みんなキャンディをもらいに来るのに……おかしいな?
よく考えたら、今日だけじゃない……
指折り数えてみると、ここ最近来てくれる人はどんどん減っている気がする……
誰もいない窓辺を見て、頭を捻った。
みんなどこに行ったんだろう?
「いいや、みんな忙しいだろうし、ロリポップがみんなのところまでキャンディを届けちゃおう!ちょうど、素敵な気持ちを集めなきゃいけないしね!」
御侍様を呼ぼうかな……でも、この時間ならまだ図書館にいるはずだから、邪魔しちゃダメだよね。
ロリポップ一人でも出来る、そう思いながらカゴを持って玄関を飛び出した。
Ⅱ.奇妙な噂
「あらロリポップ……ごめんなさいね、キャンディを家まで届けてくれて……奥様が数日前から体調を崩されていて、看病で忙しくて……」
「わあ!ロリポップお姉ちゃんだ!ありがとう!パパは病気で寝込んでいるから……ママが外出ちゃダメだって……」
……
いつものようにキャンディを配ると、耳にしたのは全部似たような悪いニュースばかり。
みんな病気になっているみたい、一家に一人は病気になっている……
御侍様が言っていた、病気はとても辛くて、遊べないから大変だって……
固く閉まっている扉たちを見ていると、悲しくて、心配になって来た。元々は笑顔が溢れているはずなのに。
みんなには、早く元気になって欲しい!
手のひらに乗せたキャンディをぎゅっと握りしめて、こっそり願いを込めた。
魔導学院を出て、近くの広場に行くと、ここもいつもよりずっと人が少なかった。
なんとか気持ちを整理して、帰り道を歩く。心の中ではまだおかしな眠り病の事について考えていた。
「はぁ、君の御侍は教えてくれなかったんだろうな」
果物屋のおじさんが低い声で言った、なんだか怯えた顔をしている。
「最近、奇妙な眠り病で倒れた人が多いんだ。何日も眠り続けて、中には恐ろしい悪夢を見ているかのように震えて、怖い顔をする人もいるらしい」
「おっとごめんな、驚かせたか?でも、ロリポップちゃんもあまり怖がるな、単なる噂だよ。それに、最近教会に新しい神父が来ているらしい、この件を解決してくれるそうだ」
どうして変な病気になるんだろう?悪夢なんて全然楽しくないよ……
「ゴーン、ゴーンーー」
鐘が鳴り響く、気付いたら教会の近くまで来ていた。遠くには、聖職者の格好をしている人がいた。
うぅ……もしかして、ジョンおじさんが言っていた神父さんかな?
もっとよく見ようとした時、突然黄色い人影が飛び出してきた。
「うわああ!あれ?ソフトクリーム姉さん!ビックリしたー!」
「あはは、怖がらせてごめんね!ロリポップはここで何をしているの?」
「たまたまここまで来たの」
「そうなんだ、君も噂を聞いたのかと思った」
ソフトクリーム姉さんは何か考えているのか、少し顔をしかめた。
「おかしいな、この近くで……堕神の力を感じた気がしたんだけどな」
「え?!……おっ、堕神?」
「ねぇ、ここに恐ろしい怪物がいるんじゃないかな!例えば……悪夢で人を昏睡させた後、その人を食べちゃう怪物!」
「お姉さん!まだ昼間だし、急に怖い事を言わないでよ!」
彼女はいつものように満面の笑みでロリポップの頭を撫でてくれた。
「わかったよ、もう変な事言わないから。でもここは危ないかもしれないから、早く帰りなさい。そうじゃないとまた君の御侍に怒られちゃうよ」
「うわっ?!もうこんな時間なの!ソフトクリーム姉さん、さよなら!」
日が暮れる前になんとか調合室に戻れたけど、御侍様はいなかった。もしかして図書館にいて時間を忘れちゃっているのかな?
フンッ!いつも早く帰れって言うクセに、自分はいいんだ……
今度どんな美味しいお土産を持ってきても、許さないんだからね!
でも……大好きなキャンディだったら許しちゃうかも!
ダメダメダメ!今大事なのは、明日のマジックキャンディを用意する事だ!
「ホワイト!仕事だよ!」
いつものように、うさぎちゃんたちは指示通りに動き始めた。
だけどすぐに、魔法炉から異臭が漂ってきた。
蓋を開けると、灰色の濁ったシロップが固まっていた。時々気泡を出して、鈍い音を出している。まるでやる気のない大きなくまさんみたいに、ゴロゴロとあくびをしている。
「あれ?!何でこんな事に?」
手順やレシピを改めて確認しても、何が問題なのなわからない。
……仕方ない、じゃあ……
「ふぅ!見た目が怖いだけだもん、目をつぶっていれば大丈夫!」
ソフトクリーム姉さんから教わった薬を飲む方法を使って、シロップの入ったスプーンを素早く口に押し込んで、飲み込もうとしたーー
「ペッペッ!何この味!まずい!!!」
ゴミの山に放り込まれたみたいに、苦みと生臭さが一瞬にして胃からせり上がって来た。
今まで食べたシロップの中で一番まずい!!!
うぅ……失敗作が出来た事はあるけど、どれだけ怒りや悲しみが入っても、ここまでまずくはなかった。
なんだか……クラクラする……
どうして……これは今日みんなから受け取った感情から作ったのに……
でも、さっきのは怒りや悲しみだけじゃない、目には見えない、言葉にも出来ない、複雑な感情が入っていた……
こんなイヤな味は、御侍様が寝ている間に、間違って悪夢から採取した感情で作ったシロップと同じかもしれない……
待って……また、悪夢?!
Ⅲ.キャンディと悪夢
「タッタッタッーー」
窓の外は風が吹いていた、魔導学院は寝静まったみたいに、とても静か。
見慣れた廊下を歩いているのに、なんだか胸がドキドキする。
どうして、キャンディからあんな感情が?
どうして、みんなの感情があんなにまずくなるの?
もしかして、みんなに何か良くない事が起きているんじゃ……
乱れている思考は気泡みたいに、頭の中で浮かんでは破裂し続け、ついに眠り病の噂を思い出した……
眠ったまま目覚めない人たち、悪夢にうなされる人たち、そしてソフトクリーム姉さんが言っていたおかしな怪物……
本当に人を食らう怪物が出てくるかもしれないけど、思わず飛び出した。
みんなどこにいるの?もしかして……
イヤ!絶対思っているような事は起きないよ!
だけど図書館に着くと、本の山の中で倒れこんでいる御侍様と、いつもならこの時間にはもう帰っているはずの学生や先生方の姿が見えた。
「御侍様!御侍様!早く目を覚まして!!!」
いくら叫んでも、揺らしても、倒れている人たちは目を固く閉じたまま、起きようとしない。
彼らの眉間には深い皺が刻まれていて、顔も青白い、とても辛そうだ……まるで……恐ろしい悪夢を見ているみたい。
辺りは静寂に包まれ、部屋のシャンデリアはクルクル回っていて怪物の目に見えた。
今まで感じた事のない恐怖と不安に襲われ、気付けば目の前がぼやけていた。思わず目をこすると、手は涙で濡れた。
突然、聞き覚えのある叫び声が聞こえてきた。ソフトクリーム姉さんだ!
「被害を受けている人がどんどん増えている……無事で良かった」
姉さんが来てくれたおかげで少し安心したけど、その表情を見て、これは深刻な事態なんだって改めて感じた。
「姉さん……みんなどうしちゃったの?怖いよ……」
「教会で言った事は覚えている?元々は推測に過ぎなかったけど、今なら確信出来る。これが怪物の能力なんだ。皆は怪物のせいで、悪夢に囚われている」
「もしかしたら……この辺りに潜んでいるかもしれない、被害者がこれ以上増える前に止めないと!」
ロリポップの知らない間に、本当に恐ろしい怪物がみんなを傷つけていたなんて……
みんなが昏睡状態になるのも、みんなが悪夢にうなされるのも……全部イヤだ……みんなの笑顔がみたい!
「ロリポップも行く!」
拳を握りしめてこう言うと、あたたかい何かがロリポップの頭を覆った。
「あの怪物はとても狡猾だよ、簡単に退治出来ないと思う。だからロリポップはここにいた方が良い」
「でも、でも……!!!」
彼女の腕を引っ張った、だけど不安で何も言えない。
「もう忘れたの?私にはあの科学家の野郎が残した武器がいっぱいあるんだ。それに、眠っている人たちを看病するひとは必要だよ。私は、君の事を信じているから!」
「で……でも……」
返事をする前に、姉さんはもう走って行っちゃった。
辺りはまた静かになった。どうしてかわからないけど、慰めの言葉が胸に刺さって、悲しくなった。
ロリポップがもっと強ければ、姉さんみたいに戦えたのに……
もっと強ければ、もっと早く怪物を見つけて、みんなをこんな目に遭わせないのに……
みんなを守りたい……
だけど、今のロリポップじゃ……何も出来ない……
Ⅳ.悪夢を打ち破る
「痛いっ!」
突然痛みが走った。正気に戻るって俯くと、ホワイトがロリポップの指を噛んでいた。
「痛いよ!ホワイトったら…」
「あれ……みんな……?」
顔を上げると、遠くから大勢の人たちがこちらに向かって走って来ているのが見えた。
いつも聞き慣れている声が聞こえる……
「ロリポップ、夫に聞いたんだけど、私は何日も眠っていたけど、貴方が届けてくれたキャンディを食べたら目が覚めたらしい。彼と一緒に礼を言いに来たわ!」
「私もだ!どうしてかわからないが、息子から君のキャンディを食べたらすぐに目が覚めてたと聞いたよ!本当に、本当にありがとう!」
「私たちの命の恩人よ、ロリポップ!」
「ロリポップの……キャンディ?」
昏睡していた人たちは、ロリポップのキャンディで目が覚めたって事……?
驚いて目を見開いた、まさかキャンディが偶然みんなの役に立つなんて。
自分の力が役に立ったんだ……
すぐに、いくつかの記憶が流れ込んで来た。
「御侍様!御侍様!ロリポップもいつか食霊のお兄ちゃんやお姉ちゃんみたいに、みんなを守りたい!みんなに幸せを届けたいの!」
「でも……みんながロリポップにはまだ早いよって……御侍様もそう思う……?」
「もちろん、そんな事はないよ。ロリポップはまだ小さいけれど、皆に幸せを与える力はちゃんと持っているよ」
幸せを与える力……
何をすべきか、わかったかも!
落ち込んでいる場合じゃない!
みんなのために戦っている素晴らしい仲間がいる!そんな仲間たちのためにも、ロリポップも自分の力で何かしないと!
キャンディの力で悪夢を払えるなら、もっとマジカルキャンディを作って、みんなが夢から目覚めるように頑張る!
「ここに少しスパイスを入れ……あっ、あと水も……」
「キュー!キュー!」
「今度こそ成功させるの!」
息を止め、魔法炉をじっと見つめた。心臓が激しくドキドキしていて、シロップを煮込む音をかき消しちゃうぐらいだった。
「ゴトゴト……ポンッ!」
弾けたシロップがまた魔法炉をひっくり返しそうになっていた、ジェットコースターにでも乗っている気分だよ……
まるで、見えない手で首を絞められているような……
また、失敗したー!
「もうっ!どこを間違えたの!!!」
レシピや味付けの調整を続けた、心に火がついたようだ。
あと少しで……マジカルキャンディが完成する……そうすれば、みんなが目を覚ます!
「ポンッ!」
また大きな破裂音と一緒に床が揺れて、棚の上の瓶が地面に振り落とされた。
「プシューッーー」
一本の瓶が足元に転がって来た。かがんで拾い上げると、それはとても冷たかった。
それは、とても見覚えのあるガラス瓶で、歪なキャンディがいくつか入っていた。
綺麗に包装されていないけれど、宝石みたいな鮮やかな色をしている。
これは……ロリポップが初めて作ったマジカルキャンディだ。
涙で視界がぼやける。
あの時のロリポップは、火力をうまくコントロール出来なくて、よくシロップをまき散らした。
でも「みんなを幸せにしたい」という気持ちが、最初の「マジカルキャンディ」完成させた。
瓶の中に入っていたのは、どれも優しくて、あたたかくて、素晴らしい感情だ。だから今も大切に持っている。
御侍様が言っていた、これがロリポップの「初心」だって。
そして、「初心」は一番忘れてはいけない事、だけど一番忘れやすい事だって言ってた。
初心は、パワーを与えることが出来る。
今も、この言葉を完全に理解した訳じゃない。
だけど、この瓶を持っていると、中に入っているマジカルキャンディが、ロリポップの悩みを優しく癒して、取り払ってくれた!
「ふぅ……ふぅ……」
瓶をしっかりと抱えて、御侍様をまねて深呼吸をして、また気分を落ち着かせた。
助けを必要としている人がたくさんいる、みんなの幸せを取り戻さないと、心の中にいる自分が力強く言っている。
「ロリポップ、一人でこんなにキャンディを作るのは大変だろう?何か手伝える事はないか?」
「そうだよ、昏睡している人たちは私たちの友人でもある、一緒に助けよう!」
「いつも貴方にたくさん助けられて来た、キャンディを食べる度に幸せを感じているよ。この気持ちを、彼らにも伝えたい!」
いつしか部屋の外には人だかりが出来ていた。
みんなが応援の言葉をかけてくれて、そしてお互いに励まし合って、力を出し合った。
まるで午後の日差しのあたたかさに包まれているような感覚だった。
心の中、太陽に照らされている場所は柔らかくそして更に強くなった。
顔を上げて、みんなに満面の笑みを見せた。
「うん!みんなありがとう!みんなの気持ちを、全部キャンディに入れよう!」
Ⅴ.ロリポップ
夜が明けると、暗闇の悪夢はついに消え去り、眠っていた人々が続々と目を覚ました。
人たちは太陽の下で抱き合い、彼らの顔に再び笑顔が戻った。
ロリポップは汗を拭きながら、ホッと長いため息をついた。手足は疲れ切っていてもう持ち上がらないが、心は幸せと満足感でいっぱいになっている。
人々は彼女を囲み、暗い夢の世界で、キャンディの甘い香りが心の中にある素敵な感情を呼び起こしてくれて、恐ろしい悪夢を払ってくれたと言った。
彼女の御侍は、目を細めて微笑んだ。
「ロリポップ、よく出来ました。みんなを助けたんだ」
「ほら、強い力を持っているかどうかは重要じゃない、優しく揺るがない心があれば、小さなキャンディでも思わぬ力を発揮するのよ」
あたたかな日差しの中、魔導学院の新しい一日がゆっくりと始まった。
優しい風の中、彼女たちの笑顔はより一層輝いた。
「ロリポップ、本当によくやったね!絶対みんなを助けられると信じていたよ」
「えへへ、ソフトクリーム姉さんありがとう!でも、恐ろしい怪物はどうなったの?」
「堕神の事?私たちの攻撃を受けて逃げ出したよ。探し回ったけどどこにもいないんだよね。でも深いダメージを受けたから、直に消えるんじゃない?」
「それにしても、そいつに操られていたのは神父のフリをした逃亡犯だったとはね。それが早めにわかって、不幸中の幸いってとこかな……」
「そうだね……怪物たちがみんな消えて、もう誰も傷つかなくていいようになったらいいのに!」
「そう言えば、翼が生えたあの無表情のやつはどうしたの?最近見かけないね。ちょっととっつきにくいけど、彼がいればきっとあの怪物も逃げられないよ」
「翼?B-52兄さんの事?最近知り合いを見つけたって言って、どこかに出かけているらしいの……きっとまた別の場所に……」
ロリポップは真剣に考え込み、そして何かを閃いたようだ。青い目を輝かせソフトクリームの方を見る。
「そうだ!B-52兄さんがいないと、新しい味のキャンディを食べてくれる人がいない!うー姉さん、試食してくれない?」
「げっ!もしかして……昨日見たあの黒焦げたやつの事?そっ、そういえば用があるんだった!今日はこの辺で、お先!」
「もうっ……姉さん逃げ足が早いな、あれはハロウィン用に用意したやつなだけだよ……」
ロリポップの呟きは、魔導学院の騒動と共に、風の中に消えていった。
しかし、悪夢は完全には消えていない。どこかの隅で、まだ蔓延している……
夜色に覆われた郊外のある家で、いくつもの人影が倒れた。
彼らの顔は濃い黒霧に覆われていて、まるで追い払えない悪夢のようだ……
どれだけ時間が経ったのだろう……
高く聳え立つ時計塔が深夜零時の鐘を鳴らした、皇城と呼ばれたミドガルは眠りについている。
ある黒影が隅に潜伏し、ブツブツと独り言を言いながら、何かを探していた。
「シシシッ……見つけた……ここは良い場所だ……ピッタリだな……シシッ……」
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