春を探しに・ストーリー
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春を探しに
プロローグ
地府
八宝飯(はっぽうはん)は幽然とした広大な大殿で旅支度を整えた。門から出た瞬間、ふと背後から怪しい気配を感じた……
八宝飯:誰だ?!
猫耳麺:あの……こんなにコソコソするのはやめませんか……
八宝飯:そうだぞ、二人ともどうしてオイラの後をつけてるんだ?
腐乳:おまえと一緒に遊びに行くために決まってるでしょ!
八宝飯:なんだそれ、オイラは別に遊びに訳じゃないし、新しいお宝を探しに行くんだぞ。それに、道中変な機関や罠にハマったり、妖魔に出会う事だってある……ダメだ、危険すぎる!
八宝飯:腐乳(ふにゅう)、自分が遊びたいからって、猫耳ちゃんまで巻き込むな!
猫耳麺:違います……じっ、実は地蔵さまから、いつも地府にこもっていないで、たまには外に出るようにと言われたのです……だから……
猫耳麺(ねこみみめん)の声は少しずつ小さくなったいった、可哀想なその姿を待て八宝飯の心が少し痛む。
八宝飯:……確かに、他の子どもたちと比べると、毎日地府にばっかこもっているのは可哀想だな……
腐乳:その通りだよ!早く行こう!連れて行ってくれなかったら、豆汁(とうじゅう)におまえが餡餅を盗み食いしたって言いつけてやる!
八宝飯:……あれは盗み食いなんかじゃないよ!アイツのために面倒事を解決したまでだ!
猫耳麺:八宝飯さま、ごめんなさい……迷惑を掛けてしまいました……
八宝飯:やれやれ……迷惑も何も、子どもの面倒くらい見るよ……二人ともよく聞け、外に出たらちゃんとオイラの後ろをついてくるんだぞ、勝手にどっか行かない、わかったか?
腐乳:ヤッター!遊びに行くぞー!
とある小さな町
麗らかな日差しが差し、清い風が吹き、春の訪れを感じる。八宝飯一行は羅盤の指示に従いらいつの間にか河岸近くにある田んぼにやって来た。
八宝飯:ヘヘッ、世にも珍しい佩玉だ!
腐乳:佩玉のどこが珍しいの?食べられないし、イタズラにも使えないし。
八宝飯:あんたはイタズラする事しか知らないのかよ。その佩玉の上には滅多に見られないとても綺麗な魚が刻まれているらしいんだ!
八宝飯:だけど……ここには田んぼしかないな……お宝はまさか、この田んぼの下にあるのか?
子ども:あの……お兄さん、お姉さん。
八宝飯がお宝探しに夢中になっている時、突然幼い声に呼び止められた。声がする方を見てみると、子どもが悩ましい表情で田んぼにしゃがみ込んでいた。それを見て、彼は思わず心配になって声を掛ける。
八宝飯:坊や、どうしたんだ?何かあったのか?
子ども:この大きな石をどけてくれない?僕の宝物が石の下にあるんだ、でも自分じゃどうしようもなくて……
八宝飯:宝物?
八宝飯:はぁ?!オイラをなんだと思ってんだよ?!坊や、ちょっと待ってろ!お兄さんがすぐにどけてやるからな!
八宝飯は急いで男の子に近づき、素早く石を持ち上げた。しかし、石の下にあったのは……
八宝飯:うわあああ!!!!!
ストーリー1-2
何か恐ろしい物を目にしたのか、八宝飯は思わず悲鳴を上げる。恐怖で力が抜けて、危うく石を落としそうになっていた。
猫耳麺と腐乳が急いで石の下を見てみると、赤茶色のミミズが何匹も窪みの中で轟いていた。
腐乳:アハハハハツ!八宝飯がまさかこんな小さな虫を怖がるなんて!恥ずかしくないの?アハハッ!
八宝飯:……怖がってない!ただ、ただビックリしただけだ!
腐乳:じゃあどうしてそんなに離れてるの?
八宝飯:……
腐乳:この動いている虫って何なの?なんかカワイイね!
猫耳麺:……ミミズのようですね。
腐乳:ミミズ?
子ども:お姉さん知らないの?ミミズは釣りに使えるんだよ。
猫耳麺:うーん……つまり、貴方の宝物はこのミミズたちでしょうか?
子ども:そうだよ、ミミズたちを見くびっちゃいけないんだから!これだけあれば、天青魚を釣れるんだよ!
数十歩も離れていたけど、耳ざとい八宝飯は重要な単語と捉えたのか、目を光らせながら三人の傍にすっ飛んで来た。
八宝飯:坊や、その魚ってこんな見た目だったりするか?!
彼はそう言って一枚の紙を広げた。全身が翠色で、まるで青天のように碧い魚がそこには描かれていた。
子ども:そうだよ、この魚が天青魚!間違いないよ!
八宝飯:天青魚?良い名前だな!ヘヘッ、やっぱりお宝はここにあるみたいだ!
子ども:お兄さんたちは天青魚を探しているの?釣るのはとても難しいんだ。生きたミミズだけじゃなくて……おじいちゃんみたいに何年も修行を積まないといけないの!うーん……でも……この辺りの市場にはたくさんあるみたいなんだ。
男の子は真剣にしばらく考え込んだ後、遠くない湖畔を指さした。そこにはいくつもの屋台が連なっていて、多くの人が行き交っている。
八宝飯:市場?そんなはずは……羊方蔵魚(ようほうぞうぎょ)が前に、この魚は中々手に入らない代物だって言ってたぞ!
―――
……
・あの悪徳商人の言ったことを信じてるの
・あそこ人がいっぱいみたいだし、きっと楽しいよ
・もうっ!本当かどうか、行ってみたらわかるでしょ!
―――
八宝飯:その通りだな、すぐに市場に行こうか!坊や、ありがとな!
市場には多くの屋台が並んでいて、色とりどりの品物が売られている。その中で一番数が多く、目立っていた物こそ——
八宝飯:天青魚の玉佩……天青魚の木彫り……天青魚の提灯……それに天青魚の外套に帽子?どうして……こんなに天青魚の物ばっかりなんだ?!
商人:あら!お客さまたちはよそから来たんだろ!清明節限定の商品ーー天青魚の玉佩を見て行ってくれよ!この町で天青魚を知らない人は1人もいないんだ!青天のように全身が碧く澄みきっているから、天青って名前がついたのさ。
商人:それに、この魚はこの町の水域にしか生息していない、うちの特産なんだよ!この時期になると、外から多くの人がやってくるんだ!良い時に来たわね!
八宝飯:……待て、つまりこの玉佩は別に珍しいもんじゃないって事か!あの悪徳商人また騙しやがって!
商人:お兄さん落ち着いて、玉佩は祈祷に使うもんなんだ、豊漁を願えば叶うらしいよ!近くの廟では祝日になると無料で配るらしいし、今行けば間に合うよ!
八宝飯:……ああああ!羊方蔵魚の悪徳商人め!!!何本もの金の延べ棒で交換してきた貴重な手がかりだって言うのに!!クソッ、タダでは済まさないからな!!!
また騙された事に気づいた八宝飯は怒り心頭に発した、今すぐにでも羊方蔵魚の元に行って殴り込もうとしている。しかし動こうとした瞬間、集まって来た群衆に押されて身動きが取れなくなった。
腐乳:わあ!あそこに人がいっぱいいる!絶対面白いものがあるはず!!!
八宝飯:なあ、猫耳ちゃん!あんたの猫は?!
猫耳麺:えっ?あれ……蕎麦!どこに向かっているの……!
ストーリー1-4
腐乳と蕎麦が群衆の中に飛び込んでいくのを見て、八宝飯と猫耳麺も必死で後を追った。
八宝飯:あ?一体何があるんだ?猫耳ちゃんオイラに掴まれ、見に行こうじゃないか!
二人がやっとの思いで群衆の中に潜り込むと、その先にある屋台が見えた。そこには黒い布で覆われたいくつもの大きな桶が置かれていて、蕎麦はその中の一つの前に大人しく座っている。近くでは店主が一生懸命客寄せをしていた。
店主:寄ってらっしゃい、見てらっしゃい!獲れたての新鮮な天青魚だ!
八宝飯:魚売りかよ、だら猫はあんなに走ってたのか。
猫耳麺:蕎麦、良い子にしてないとダメだよ、勝手にいなくならないで……
店主:今しか手に入れられないよ!桶の中を見ずに、三回以内に天青魚を連れたお客さんには、タダで釣れた全ての魚をげるよ!釣れなくても大丈夫、半額で売ってあげるよ!
八宝飯:あれ?おかしいな、天青魚はここの特産だろ?どうしてこんなに安売りされてるんだ……
店主:餌も釣り竿もタダで提供しているからな、そこの、ちゃんと列に並んでくれ……
八宝飯:フンッ!釣れるもんならこのお金はあんたにやるよ!猫耳ちゃん、あんたも遊びに行ったらどうだ?
腐乳に気前よくお金を渡した八宝飯は、猫耳麺にも問いかけた、しかし……
カランッ!
突然足元に何か投げつけられた八宝飯は驚いた表情を浮かべる。近くを見ると、ある屈強な男が釣り竿を投げ捨て怒りを爆発させているのが見えた。
壮漢:この嘘つき野郎!ずっと釣ってんのに、一匹も釣れねぇじゃねーか!その桶の中にそもそも天青魚なんてねぇだろ!よくも俺の金を騙したな、この店を潰してやる!
店主:お客さんーー!
男が怒りに任せて地面に置かれた桶をひっくり返そうと、手を上げた時ーー
八宝飯:待て!他の人に当たるだろう!
突然の展開に、群衆たちは状況についていけなかった。八宝飯は慌てて男に近づき、その動きを止める。
八宝飯:お兄さん少し落ち着いてくれ!魚に罪はないだろ……
腐乳:フンッ、自分が釣れないからって店のせいにするなんて、恥ずかしくないの?
壮漢:お前……!
―――
腐乳!
・余計な事を言うな……
・出しゃばるなよ。
・口を慎め!
―――
店主:そこのお客さん、話し合いましょう!どうか店を潰すのだけは勘弁してくれ!
壮漢:なんだと?お前はこの短時間でどんだけ儲けたんだ?なのに俺たちは一匹も釣れてねぇじゃねーか!
通行人甲:そうだな……俺も天青魚を釣れなかったぞ。釣り上げたのは普通の川魚ばっかり……ふざけんな。
店主:お客さん怒らないでくださいよ!別に騙してなんかいませんって!
この言い争いが火種となって、周囲から疑問の声が飛び交うようになった。店主は顔を真っ赤にして否定を続けているが、状況は混乱している。
腐乳:釣れるかどうかはおまえたちが決めることじゃない!おまえたち全員がグルかもしれないし!
壮漢:グッ……グルだと?!寝言は寝て言え、こんな人数でグルなんてありえねーだろ!?
腐乳:そんなのわかんないじゃん!あたしたちはよそから来たから、ここの人たちと口裏合わせる事なんて出来ない。天青魚が釣れるかどうかは、あたしたちが確認してやるよ!
壮漢:フンッ、なら試せばいいだろ!
八宝飯:えええええー?!
ストーリー1-6
腐乳:バカ、何ボーっとしてるの!早く釣らないと、店が潰されちゃうでしょ!
八宝飯:……あんたまさか釣りがしたいから……
腐乳:シシシッ、これで列に並ばなくて良くなったでしょ、あたしたちが一番手だ!どう?頭いいでしょー!
八宝飯:本当にこういう事にだけ良く頭が回るな!でも……どうして自分で釣らないんだ?
腐乳:だってもし釣れなかったら恥ずかしいじゃん!
八宝飯:オイラが恥ずかしい思いをするのはいいのかよ……
八宝飯:えっ、何……うわー!猫耳ちゃん、その虫を遠ざけて!近づけるな!
猫耳麺:あっ……ごめんなさい、しかし……これは本物のミミズではありません、怖がらないでください。
八宝飯:えっ?あれ……蕎麦!どこに向かってるの……!
猫耳麺:蕎麦が先程見つけてくれた物です、ひき肉をミミズの形に整えたもののようです……
八宝飯:よく出来てるな……でも何が言いたいんだ?
―――
八宝飯さま、覚えていますか?
・あの子が言っていました、天青魚を釣るにはミミズを使うしかないと。
・普通の餌では天青魚は釣れません。
・生きているミミズが一番良い餌のはずだと。
―――
八宝飯:つまり……
八宝飯はハッとなった、餌が置かれている場所に目をやって、振り返って小さな声で話を続けた。
八宝飯:あの店主は天青魚が興味を示さない餌で釣りをさせてたって事か!釣れないってわかってやってるんだな!
腐乳:大悪党だ!嘘つき!全部バラしてやる!
八宝飯:待て!オイラたちが言っても、店主は認めないかもしれない。それに、この餌がミミズで出来てないって証明も出来ないしな……
腐乳:じゃあ、どうするのよ?!
猫耳麺:ミミズで天青魚を釣れれば、店主の嘘は自ずと破れるのではないでしょうか。
八宝飯:そうだな!そうしよう!でも、ミミズは……あー……
腐乳:虫が怖いんでしょ?アハハッ、あたしたちに任せて!猫耳麺行こう!
猫耳麺:はいっ!
八宝飯:おいっ!早く戻れよ!腐乳、また猫耳ちゃんを連れて寄り道すんなよ!
壮漢:おいっ、いつまでグズグズしてんだ、釣るのか釣らないのかはっきりしろ!
八宝飯:急かすなよ、釣るって……でも、ちょっと肩をあっためさせろ。
しばらく経った後ーー
八宝飯:(腐乳のヤツ一体どこをほっつき歩いてんだ、早くかえってこないともう誤魔化せないぞ……)
壮漢:……俺たちをからかってんのか?!お前らこそあの店主とグルだろ!来いっ、出るとこ出るぞ!
八宝飯:えっ?!待って……
八宝飯:やっと帰ってきた……お兄さん放してくれ、今すぐ釣るから!
男は半信半疑で八宝飯の胸倉を放した。八宝飯は身だしなみを整えた後、急いで腐乳の方に向かう。
八宝飯:あんた!どんだけ捕まえて来たんだよ……
腐乳:多い方がいいでしょ?うるさいな、早く釣って!
八宝飯は深呼吸して、そっと元気に動き回るミミズを数匹受け取り、すぐに屋台に戻った。顔には出ていないが猫耳麺には激しくなっている彼の心音が聞こえている。その音を聞いて、猫耳麺も妙に緊張してきた。
ストーリー2-2
八宝飯:コホンッ!店主、今から釣るけど……自分の餌を使ってもいいか?
八宝飯の言葉を聞いて、店主は怪訝そうに彼を見た。そして、手の中にあるミミズを見て、目は一瞬だけ泳いだように見えた。
店主:えっと……もっ、もちろん構わないよ!さあ、こちらにどうぞ!
八宝飯桶の前に案内された。桶は黒い布で覆われていて、釣り糸を垂らす小さな穴しか開いていない。見る限り、どの桶も大差はないように見えた。
八宝飯は唾を飲み込み、そっとミミズを釣り針に付けようとした。どうしてか手の震えが止まらない……先程までの自信はまったくないようだ。どれだけ時間が経っても、釣り針が穴に入る事はなかった。
通行人甲:……これはどんな戦術だ?よくわからないな。
通行人乙:精神統一でもしてるのか?でも……なんか妙だな……
八宝飯:うわあああ……!クソッ!こっ、この虫はどうしてこうねちょねちょぬるぬるしてんだ!!!
腐乳:もうっ!じれったいわね!やらせて!
これ以上見ていられなかった腐乳は、釣り竿を奪い取り、素早く大量のミミズを取り付けた。
腐乳:よしっ!あとは天青魚が釣れるのを待つだけだね!
腐乳は自信満々に言った。だけど、いくら時間が経っても、何の動きもない。群衆はひそひそと何かを言い始めた。
通行人甲:全然釣れないじゃん……無理だろ。
―――
おかしいな……
・この桶はそんなに大きくない……食わない訳がないよな……
・もしかして、餌だけ食べられた?
・まさか、まだ餌が足りないのか?
―――
腐乳:あんなにあったミミズもうなくなりそうだよ……全然動きがないし、魚なんていないんじゃないの?!いっそ布を取って、中身を見てみようよ!
壮漢:は?釣れるって言ってただろ?今更やめるのか?
腐乳:だってこの中に天青魚が入ってなかったら、そもそも釣れる訳がないじゃん!
店主:フフッ、お客さん、餌が必要なら私のを使うと良いですよ。
腐乳:おまえのなんて使わないよ!だっておまえの餌は……あれ?
猫耳麺:どうしました?
腐乳:ミミズ、ミミズの餌もある……!
八宝飯:何だと?!
店主:餌だけじゃなくて、天青魚も本物ですよ、ほら……
すると、八宝飯の向かいにある釣り竿が動いた。店主が急いで釣り糸を引っ張ると、肥えた大きな天青魚が姿を現したのだ。
壮漢:ほっ、本物の天青魚?!
店主:お客さん方、私は嘘なんてついてないでしょう?
八宝飯:……
店主の言葉に群衆はぐうの音も出ない、自分がついてないと思うしかなかった。八宝飯は店主の意味深な笑顔に気付いているが、何も出来ずにいた。しかし、ただ一人だけは……
猫耳麺:魚が連れた時……何か音がしたような……
猫耳麺:何かにぶつかるような音……まさか……
猫耳麺:あっ、あの!
小さな少年の柔らかいが力強い声が響いた。この騒がしい環境の中、まるで清泉のように清らかだった。
猫耳麺:あの、次は僕がやってみてもいいですか?
ストーリー2-4
猫耳麺:あの、次は僕がやってみてもいいですか?
八宝飯:猫耳ちゃん?あんた……
こう言いながら、猫耳麺は目を細め八宝飯を慰める笑顔を浮かべる。
店主:小さなお客さんもやってみたいのか?……よしっ!じゃあ私と勝負しようか!
猫耳麺:あの……店主さん、ここで釣ってもいいですか?あと、自分の釣り竿を使いたいです。
店主:えっ?それは……
───
うーん⋯⋯
・これは決まりに反していないはずですが……
・この場所で釣りたいんです……
・場所は自分で決めて良いんですよね?
───
八宝飯:そうだぞ!場所を変えちゃダメなのか?
腐乳:拒否するの?怪しいな!
店主:わっ……わかった、そこで釣っていいよ……
猫耳麺:ありがとうございます。
多くの視線が猫耳麺に集まった、彼は緊張が止まらない。
腐乳:たかが天青魚でしょ、一万匹だって釣れるわよ!早くおまえの凄さを見せつけてやれ!
慣れ親しんだ声によって、周囲の騒めきがかき消された。あたたかなそれは、猫耳麺の心になだれ込み、落ち着かせた。
八宝飯:猫耳ちゃん、あいつの言葉は無視しろ!落ち着け、あんたは慎重派だ、オイラより絶対釣りが上手いはず!オイラとあいつがいるから、文句は言わせないよ!
二人の声援を受け、猫耳麺の心はより一層あたたかくなった。集中力を高め、周囲の声は少しずつ聞こえなくなっていった……
トクトク……トクトク……
猫耳麺は小さいけれど、規則正しい音を捉えた。まるで小さな太鼓を叩いているような音は、自由自在に動いているみたいだった。
猫耳麺:ここです……!
何かを確信した猫耳麺は、息を潜めて、そっと釣り竿を動かした。するとすぐに、微弱な震動が伝わってきた。
猫耳麺:!
震動に驚いた猫耳麺は、釣り竿を握り直し、またそっと糸を引き下げた。
バシャン――!
翠色の何かが穴から飛び出し、陽ざしに照らされ輝いた。
腐乳:天青魚だ!
八宝飯:猫耳ちゃん、本当に釣ったのか!!!でも、どうやって?!
喧騒の中、猫耳麺は恥ずかしそうに頭を掻いて、店主の方を振り返った。
猫耳麺:店主、僕が説明した方がいいですか?それともご自分で説明しますか?
店主:私……はぁ……
八宝飯:一体……どういう事だ?
ストーリー2-6
八宝飯:一体……どういう事だ?
猫耳麺:店主、もう布を外しましょう。
店主:……
布が外れ、ようやく桶の全容が見えた。中には確かに天青魚がいた、しかし、普通の魚との間に仕切りが置かれていたのだ。
腐乳:えーずるすぎるよ!こんなんで天青魚を釣れる訳ないじゃん!
壮漢:でも、あの小僧みたいにあそこに座って釣ってた奴も見たぞ、どうして釣れなかったんだ?
猫耳麺:こちらの餌はミミズではなく普通の物だったからです、天青魚はミミズでしか釣れませんから。
壮漢:何だと?!
この話を聞いた男はすぐに餌を確認しに行くと、確かに二種類が置かれていた。
壮漢:本物みたいじゃねぇか!この悪徳商人が!金を騙すためにこんな汚い手を使いやがって!
店主:私も……私だって仕方がなかったんだ!
腐乳:人を騙しといて、仕方ないって何よ!そこのでっかいの、早くあいつを役人のところに連れてって!
猫耳麺:待ってください……腐乳、まずは店主の話を聞いてみましょう。
八宝飯:……こんなに人がいるんだ、どうせ逃げられないし言い分を聞いてやるよ!
店主:はぁ……全部同業者のせいなんだ。清明節は私たち漁師にとって一番の稼ぎ時なのに、全員が自分勝手に値上げ値下げを繰り返して、魚の在庫がまったく売れなくなった……
店主:苦労して獲った魚を腐らせるのは忍びなくて、どうしようもなくなって、こんな方法を考えついてしまった……
腐乳:フンッ、どんな事情があろうと、人を騙していいと思ってんのか!
店主:私だってわかってるよ!だから釣った魚を普通の値段よりも安く抑えた!例え天青魚が釣れなくても損はしない!私はただ、魚を腐らせたくなかっただけなんだ……
店主:釣った魚を返品したいなら、返金します、でも……どうか、役人にだけは突き出さないでください……
壮漢:……チッ、もういい。損してないなら、買った事にしてやるよ!
壮漢:でももう二度と人を騙すなよ、わかったか?
店主:はい……もちろんです……
真実が明らかになった後、店主の切実な様子を見た客たちは、損をしていない事もあって、これ以上追求する事はなかった。すぐに、群衆は解散した。
八宝飯:そう言えば……猫耳ちゃんはどうやって仕切りに気付いたんだ?
───
それは⋯⋯
・魚が板にぶつかる音が聞こえたのです、それに片方でしか泳いでいない音もしました。
・板にぶつかる音、店主の動揺と餌の違いで気付きました。
・この桶は木で出来ている訳ではないのに、木の板にぶつかる音がしたからです。
───
猫耳麺:なので……きっと何か仕掛けがあると思いました……
八宝飯:本当に耳ざといな。猫耳ちゃんじゃなくて、神耳ちゃんって呼ぶべきか?!
猫耳麺:そんな……しかし、この魚たちはどうしましょうか?
八宝飯:そんなの簡単だ、この魚たち全部もらうよ!店主包んでくれ!
店主:ほっ、本当に?!お客さんたち、本当にありがとうございます!
腐乳:ヤッター!魚がいっぱい食べられる!
八宝飯:気分が良いからな!それに地府は人数いるし、それでも余るなら機関城のヤツらも呼べばいいだろ?タダ飯があるって言えば来るだろ、心配すんな!
猫耳麺:うぅ……わかりました……
大事件が解決したかのように、八宝飯は爽やかに笑い出した。そして、猫耳麺のふわふわな頭を撫でまわして、嬉しそうにしている。
店主:本当にお三方にはお世話になりました!!!特に聡明な小さなお客さんのおかげで、大事にはならなかった、本当に助かりました!!!感謝してもしきれません!!!
猫耳麺:店主、そこまで言わなくて大丈夫ですよ……それに……八宝飯さまと腐乳もたくさん手伝ってくれました。
腐乳:へへッ、猫耳麺照れてるー!顔がサルのお尻みたいに真っ赤だ!
猫耳麺:そんな……
八宝飯:腐乳!鯉が飛んでっちゃうぞ!魚をこれ以上振り回したら、今晩は飯抜きだ!
八宝飯は怒りながら笑っている腐乳を追い掛けた。人通りの多い市場はまた最初の賑やかさを取り戻していった。笑い合う声が猫耳麺の耳に入る、まるで楽しい曲のように彼の心を喜びで埋めた。
八宝飯√宝箱
八宝飯:猫耳ちゃん、さっき本当にミミズを掘りに行ったのか?だから泥と土の匂いがすんのか……
いくつもの魚で満杯になっているカゴを整理していた猫耳麺は、その問いかけを聞いて頭を振って笑った。
猫耳麺:違います、あの男の子と交換したんです。
八宝飯:そうなんだ。でも……交換?なんで交換したんだ?
猫耳麺:えっと……蕎麦を少しの間だけ彼に貸して、遊ばせました……
八宝飯:……
横で目を閉じている蕎麦を見て、八宝飯は全てを理解した。
八宝飯:なるほど……蕎麦……お疲れさん……
三人が荷物をまとめて帰ろうとした後、後ろから誰かが走って来た。
店主:お客さん!待ってくれ!この謝礼も是非もらってくれ!
店主は満面の笑みでぜえぜえ言いながら、肥えた大きな天青魚を二匹も差し出してきた。
八宝飯:うおっ、でっか!……ジュルル……
八宝飯:なんだと!
猫耳麺:店主、ありがとうございます。しかし……既にたくさん頂いています。
店主:せっかくこの街に来たんだ!もっと特産を食べてもらいたくてな!その二匹はうちで大事に取っておいた品物だ、客人へのご馳走として是非使ってくれ!それにお兄さんも気に入ってくれたみたいだしな!
店主:また来る事があったら、もっと友人を連れて来てくれ!私が責任を持って案内するよ!ここいらの美味を食べ尽くそう!帰りたくなくなるかもな!
猫耳麺:店主、ありがとうございます……
熱心な店主を見送った後、三人はゆっくりと来た道を帰って行った。魚が入ったカゴは、揺れる度に水が滴り落ちて、新鮮な魚の匂いが漂ってくる。
八宝飯:ヘヘッ、こんなにたくさんのお宝を持って帰ったら、皆きっと驚くだろうな!
八宝飯は闊歩しながら、不意に猫耳麺が頭を揺らして楽しそうにしているのに気づいた。帽子からぶら下がっている飾りが、揺れながら音を鳴らしている。
八宝飯:猫耳ちゃん、楽しそうじゃん?
猫耳麺:だって……景色がとても美しいから……
八宝飯:景色……あんた見えないんじゃ……あっ、なんでもない!!!ごめんな!!
猫耳麺:大丈夫です、僕は見えませんが、でも……聞こえています……感じています……
猫耳麺:ここにある草花の一本一本が素敵な音を奏でています。それらが織り交ざり、とても綺麗な楽曲になっているんです。
猫耳麺:それに……天地や自然だけでなく、ここで一生懸命暮らしている人たちも、とても美しいです!
腐乳:えっ?楽曲?あたしの歌声よりも美しいの?ララララ〜
八宝飯:あああああ、オイラの耳があああ!!!
猫耳麺は思わず笑い出した。腐乳のおかしな歌は一層大きくなる、八宝飯は逃げることも出来ず、諦めるしかなかった。
八宝飯:楽しそうだな!オイラばっかイジメられてる!なんでオイラ1人でこの量の魚を運んでんだよ?!
猫耳麺√宝箱
地府
猫耳麺一行は新鮮な魚を大量に連れて、地府に帰って来た。爽やかな川の匂いが一瞬で大殿に充満したため、リュウセイベーコンは思わず眉をひそめた。
リュウセイベーコン:なんだ……魚屋を丸ごと持って帰ったのか?
豆汁:遊びに行ったのに、大量に仕入れたね。
八宝飯:大丈夫大丈夫、食べ切れるって!へへッ、大変だったんだからな!聞いてくれ――
まだ聞かれてもいないのに、八宝飯は待ちきれずに、得意げに起きた事を全て話した。
話終えると――
八宝飯:どうだ、オイラたちのスゴさ伝わったか!
豆汁:まあまあ、これ以上ケンカしたら、魚の鮮度が落ちるよ。油条(ようてゃお)の油鼎に入れて揚げられないかな……
八宝飯:なんだって?!ダメだ!入れるな!!!あれは料理用の鍋じゃないだろ!!!
豆汁は笑うだけで八宝飯の言葉を無視した。気付けば、地府では八宝飯の絶叫だけが響いた。
───
一方――
法陣の中央にいる男は目を閉じたまま、ピクリとも動かない。来訪者に気付いても、軽く顔を上げるだけ。
高麗人参:帰って来ましたか。
猫耳麺:地蔵さま……
高麗人参:此度の事は既に聞きました……無事帰って来られたのなら、どうして落ち込んでいるのですか?何か悩みでもあるのですか?
猫耳麺:豊作大漁は人々にとって一番喜ばしい事だと……地蔵さまはかつて仰っていました……しかし、どうしてある人々にとっては良い事ではなくなるのでしょうか……
沈黙が続いた後、猫耳麺はため息が聞こえた。高麗人参はゆっくりと口を開き、法陣の冷たい光は彼をより一層重厚に見せた。
高麗人参:古来より、「穀賤傷農」という言葉があります……傍から見ると、豊かに見えても、その裏には大変な貧苦と辛酸が隠されている。この世で生きている限り、誰かしらがそれを背負わなければなりません。
小さな頭が思っていた通り俯いてしまったのを見て、高麗人参は口角を上げ話題を変えた。
高麗人参:憂う必要はありません、古来よりこの道理は変わりませんが、解決策はあります。そなたも見てきたのでしょう?天や人事を恐れず、志を持てば、道は開けます。
猫耳麺:地蔵さま……
猫耳麺はやっとホッと一息ついた。高麗人参の落ち着いた声には、彼の心をなだめる力があるようだ。彼は自分が高麗人参に遠く及ばない事を認識しているが、この時は何かに引っ張られているかのように、自信が湧いた。
猫耳麺:はいっ!わかりました!
猫耳麺が色々と考えていると、明るい声が彼を現実に引き戻した。
八宝飯:あれ?まだここにいたのか!早く魚を食べに来いよ!早く出て来ないと、誰かに全部食べられちゃうぞ!
腐乳:バカッ!そんな事しないもん!
八宝飯:わっ!だからそれはオイラが焼いた魚だって!取るなよ!
はしゃいでいる声で、美味しそうな匂いが漂ってきた。高麗人参ですらこの楽し気な雰囲気に呑まれそうになっている。
高麗人参:さあ、彼らと共に頂きましょう。
猫耳麺:はいっ!!!
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