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独具匠心・ストーリー

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作成者: 時雨
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独具匠心

プロローグ


午後

機関城


 昼休み、機関城内は静かだ。彫刻作業に専念していた回鍋肉(ほいこーろー)の部屋に突然、燃え上がる炎のような熱気溢れる誰かが勢いよく入って来た。


辣子鶏回鍋肉!お宝を持って来たぞ!

回鍋肉:……また、お酒ですか?

辣子鶏:木偶!酒なんかお宝って言えないだろ?これを見ろ!


 辣子鶏(らーずーじ)は回鍋肉の手に古びた紙を置いた。紙には精巧な船体や奇妙な文字が描かれている。


回鍋肉:これは……機関の設計図?

辣子鶏:そうだ!俺様のこの慧眼で、ガラクタの中から一目でこのお宝を見つけ出した!ほら、この船なかなか綺麗だろう?

回鍋肉:そうですね、この船の造形は確かに特別です、見たことがありません。

辣子鶏:俺が思うに、これは遠い海の向こうの「機関術」が描かれてるんじゃないか?

回鍋肉:遠い海の向こうの「機関術」?……こちらはどこから手に入れたのですか?

辣子鶏:ははっ、やっぱり気になるのか。さっき東坡肉(とんぽーろー)と酒を飲んだ時、海の向こうから商隊が来たと聞いて、見に行ったんだ。まさかこんなお宝を手に入れられるとはな。

辣子鶏:どこから手に入れたのか聞こうとしたが、あの黄色い髪の店主はべらべらと意味のわからない言葉を喋っていたから、全然わかんなかったぜ。

辣子鶏:まあそんな事より、この設計図はこの俺様が買い取ったんだ、この船を作れないとでも?

回鍋肉:買い取った……一体、いくら掛けたんですか?

辣子鶏:別に大したことねぇよ、金貨百枚ちょっとだったか。

回鍋肉:……

辣子鶏:おいっ、回鍋肉、眉間にそんなに皺を寄せてどうした?!

回鍋肉:……差し支えはありません。金貨を百枚稼ぐのは……確かにそれほど難しくはありません……

辣子鶏:何ごちゃごちゃ言ってんだ?

回鍋肉:なんでもありませんよ……気に入ったのなら、共にこの船を作り上げましょう。

辣子鶏:待て!急ぐな、まずは酒を飲もうぜ!

回鍋肉:……

辣子鶏:俺様がわざわざ杏花楼から持ってきた酒だぞ、どうした、俺様と酒を飲みたくねぇのか?

回鍋肉:……わかりました。

辣子鶏:わかったわかった、一杯だけ付き合え!お前酒あんま強くねぇし、前みたいに気失ったら困る。


 陽が沈み、室内には淡いお酒の香りが漂っている。空になった酒瓶が廃棄された木材の中に転がっていた。


辣子鶏:クソッ!!!!!どうして出来ねぇんだ!

回鍋肉:焦らないでください、もう少し試してみましょう……

辣子鶏:こんな設計図を描いたのはどこのどいつだ?!ここと、ここと、あとここも、肝心なところ全然描いてねぇじゃん!何が設計図だ、俺様に喧嘩売ってんのか?!

回鍋肉:ええ、この船の作り方は多分我々が普段作っている機関とは異なります。それらについての経験がないため、うまくいかないのかもしれません。

回鍋肉:この奇妙な文字は作り方の注釈なのかもしれません、読めないとなると……

辣子鶏:ダメだ!俺様はこの機関城の城主、機関術の奇才だ!たかが船の設計図だろ、絶対この船を作ってやる!


ストーリー1-2


明け方

機関城


 木格子の窓から微かに光がさす、辣子鶏はまだ机の上でぐうぐうと寝ていた。回鍋肉は眉を顰め、設計図と機関をひたすら見比べている。

 まだ夢の中にいる辣子鶏は、何故か手を動かしていた。やがて回鍋肉の髪を掴み、もごもごと唸り始めた。


回鍋肉:はぁ……寝言ですか……

辣子鶏:あはは!俺様がこんな船に手こずる訳がないだろう!

辣子鶏:あれ……?船は?さっきまで持っていたのに……

回鍋肉:……夢ですよ。

冰粉:やっぱりここにいましたか……


 扉が開くと、呆れた顔をした冰粉(びんふぇん)が入ってきた。その後ろにはもう一人小さな誰かがいた。


猫耳麺:城主さま、こんにちは。

辣子鶏:猫耳ちゃん?朝っぱらからどうしたんだ?またあの木偶の坊が俺様をパシろうとしてんのか?

猫耳麺:人参さまからの伝言です。直に四神祭典が始まるため、山河陣が不安定になるとの事です、なので城主さまにはご足労を……

辣子鶏:待て待て待て!あの木偶の坊の話し方を真似すんなって言ったろ、頭が痛くなる!

辣子鶏:まったく、こんな可愛いのに……

猫耳麺:あうぅ……あの……城主さま、そんなに僕の顔を、つねらないでください……

冰粉:コホンッ……城主、きちんと仕事をしましょう。

辣子鶏:わかってる、端午の四神祭典だろ……毎年この時期になると可笑しなことが起きる、確かに法陣を修復しなければならないな。

猫耳麺:人参さまから、緊急事態のためすぐに城主さまを地府に連れて行くよう言われています。

辣子鶏:えっ、今から?そんなに急いでるのか?


 辣子鶏は落ち込んだ顔で机に置いてある設計図を見たが、すぐに機嫌を直して振り返った。


辣子鶏:わかった!四神祭典は待ってくれないからな……俺様が行かねぇと。

辣子鶏回鍋肉、出来るだけ早く帰る、またゆっくり船を研究しような!

回鍋肉:ええ、安心して行ってきてください。


 二人が部屋から出た後、回鍋肉は再び腰を下ろし、しかめっ面で機関を見つめ考え込んだ。冰粉は不思議そうに彼が握っている設計図を眺める。

冰粉:その珍しい設計図、どうやって手に入れたのですか?

回鍋肉:城主が、海の向こうから来た商隊から買い取ったものです。

冰粉:そうですか……この図面の文字は、少し見覚えがありますね。


───

⋯⋯

・夫子は、見た事があるのですか?

・遠い海の向こうの文字でしょうか、訳せますか?

・夫子は、この文字の意味がわかりますか?

───


冰粉:お恥ずかしながら、某には意味がわかりません……しかし、確かに見た事はあります。

冰粉:数年前、偶然ある骨董店に入った時、ある古書にとても奇抜な設計図と文字が描かれていました。

冰粉:それらの文字は、この設計図の文字とは似ていますが、関係があるかどうかはわからないですね。

回鍋肉:……夫子は、あの店の位置をまだ覚えていますか?

冰粉:地図は作れると思います。ただ、もう何年も前の店なので、まだあるかはわかりませんよ。

冰粉:そう言えば、あの店主はとても変な方でした。某がその古書を読んでいると、非売品だと言いながら凄まじい表情でそれを奪っていきました。


 冰粉は机にある紙と筆を取り、記憶を辿り、簡易的だがわかりやすい地図を描いた。


冰粉:多分、この位置ですね。

回鍋肉:恩に着ます。もしあの古書がこの設計図と関係があるとしたら、この船を作る鍵となるでしょう。

冰粉:おや……今から探しに行くのですか?

回鍋肉:ええ、早い方がいいでしょう。順調に行けば、城主が帰る前に船を完成させる事も可能かと……

冰粉:相変わらず、城主に対して尽くしていますね……

回鍋肉:大したことではありません。これで……城主が喜んでくれるなら。


ストーリー1-4


午後


 賑やかな町は大勢の人々が往来し、騒がしい。回鍋肉は地図を手にして、あちこち探し回ったが、骨董店らしき店は見つからなかった。


回鍋肉:もしかすると、引っ越したのでしょうか……

東坡肉:これはこれは、回鍋肉ではないか?どうした、町に来るなんて珍しいのお?


 馴染みの声が人混みから聞こえる。声の主を探ると、東坡肉が茶屋の前に座っているのを見た。


回鍋肉:……どうしてここにいらっしゃるのですか。

東坡肉:はははは、見ての通り、茶を嗜んでいる!

東坡肉:この茶屋の羅漢茶の香りは絶品だ、吾が作った肉と一緒に楽しめば、尚更じゃろうな!どうだ、一緒に食べないか?

回鍋肉:……

東坡肉:おや、どうして苦い顔をしとるんじゃ……まさか、あの小童がまたお主に何か迷惑を掛けたのか?

回鍋肉:違います……店を探しているのです。

東坡肉:どんな店じゃ?

回鍋肉:近くにあるはずの骨董店ですが、地図通りに来ても見当たらないのです。

東坡肉:骨董店……この近くに確かに一軒だけあったが、とっくに潰れた。店主はおかしな老人でな、売り物もおかしな物ばかりじゃった。

回鍋肉:潰れたのですか……どうして?

東坡肉:吾も詳細はわからないが、噂だけは聞いておった。あの店は贋作ばかりを売っていたそうだ。大方、それがバレるのが怖くなって逃亡したのじゃろう。

回鍋肉:……

東坡肉:しかし、お主は何故あの店を探しているんだ?

回鍋肉:城主がある船の設計図を手に入れたのです。図面には奇妙な文字があり、製造方法や注釈かもしれません。冰粉はその骨董店にあった古書の中で、その文字を見たことがあると言うので、探しに参りました。

東坡肉:なるほど。しかしまあ……お主ら二人が解読できぬものなら、恐らく荒唐無稽な贋作かもしれんぞ。

???:あの、お話中すみません。たった今お二人が仰っていた「贋作」というものを私にも見せていただけませんか?

東坡肉:お主は?

羊方蔵魚:へへっ、私は羊方蔵魚(ようほうぞうぎょ)、絵師です。贋作……いえ、絵には心得があります!もし判断のつかない物にお困りでしたら、私に一目見せてもらえませんか?

回鍋肉:これは絵ではなく遠い異国の設計図ですが……真偽がわかるのでしょうか?

羊方蔵魚:もちろんです!私は世界中のあらゆる絵を見て来ました、どうか信じてください!


 この言葉を聞いて、回鍋肉は袖から設計図を取り出し、机の上に広げた。羊方蔵魚は急いで設計図をじーっと見たが、しばらくしてため息をついて首を横に振った。


回鍋肉:どうしたんですか?この設計図に、何か問題でも?

羊方蔵魚:こちらの設計図は贋作ではないようです、ただ……真偽はともかく、これはただの設計図で、何の芸術的な価値もありませんよ。

羊方蔵魚:これは、貴方のご友人が買った物ですか?こんな物に金を出す者がいるとは……

回鍋肉:ええ、金貨百枚を出したそうです。

羊方蔵魚:なっ、なんだと?!百枚?!……中々やるな……こんな方法があるとは、実に勉強になる。

回鍋肉:……えっ?

羊方蔵魚:コホンッ……大丈夫ですよ、カモられた……いえ、貴方のご友人は素晴らしい審美眼をお持ちで……あはは、実に良い目をしている。

東坡肉:ははっ、回鍋肉よ……そう真剣になるな。辣子鶏は毎日ガラクタからおかしなもんを拾ってくるじゃろう、新しい物好きなだけだ。

東坡肉:それに、あの骨董店もないし、これ以上探しても無駄じゃ。


───

⋯⋯

・この船を必ず作ると、約束したのです。

・なんとしても、船の作り方を見つけなければ……

・あの骨董店が見つからなくても、他に方法がきっとあるはずです……

───


東坡肉:やれやれ、また話を聞かない奴が増えたようじゃ……

羊方蔵魚:確かに、おかしな文字、記号が描かれていますね、どこの言葉でしょう……この印章もなかなかに特別なようです。


 印章と聞いて、元々設計図に大して興味のなかった東坡肉も、思わずちらりとそれを一瞥した。すると、顔色が突如変わった。


東坡肉:この印章……見覚えがあるな?!


ストーリー1-6


東坡肉:この印章……見覚えがあるな?!


 東坡肉はまじまじと設計図にある小さな印章を見つめた、まるで穴でも開きそうな程に。


東坡肉ワンタン屋……思い出した!回鍋肉、付いて来い。

羊方蔵魚:えっ?どこに行くんですか?!足はやっ?なんだよ……

羊方蔵魚:はぁ、まあいいや。早く「金貨百枚」を量産してこないと……

店主:待て!お客さん、さっきの二人の連れだろ?お会計してってください!

羊方蔵魚:えっ、誤解だ、あいつらなんか知らないって……俺の分のお金は机に置いといたからな。

店主:食い逃げか?うちの店を舐めてんな……おいっ、逃げたければ逃げりゃいい、うちの兄弟たちから逃げられるならな!

羊方蔵魚:ええっ!ケンカはやめましょう、暴力は何も生みませんって!……お兄さん方、どうかその棍棒を仕舞ってくださいな、こんな大きな棒、きっと重いでしょう、あはは……


 羊方蔵魚は仕方なく袋から更にお金を出して机に置き、すぐに東坡肉たちが逃げた方を追いかけた。


羊方蔵魚:クソッ!食い逃げして、俺に払わせるなんて!あいつら……逃げるな!金を返せ!


───

⋯⋯

・何か変な声がします……

羊方蔵魚?とても焦っている様子ですが……

・さっきの方です……私たちを呼んでいるのでしょうか?

───


東坡肉:放っておけ、元気そうじゃないか……少しは知らせても問題ないじゃろう。

羊方蔵魚:おいっ、こらっ!耳ついてねぇのかよ?!早く止まれ!!!


 東坡肉は小さな店の前で足を止めた。人気店のようで、満席だった。店主は鼻歌を歌いながら、往来の客にも挨拶をしつつワンタンを煮ている。


東坡肉:ここじゃ。

羊方蔵魚:ハァ……ハァ……お前ら……足が早ぇよ、やっと追いついた!

東坡肉:どうして吾らを追い掛ける、別にお主からお金を借りた訳でもなかろうに。

羊方蔵魚:お前!……踏み倒す気かよ?ダメだ、早くお茶代を返せ!

東坡肉:お茶代?何の事だ?

回鍋肉:ええ……確かに、先程のお店で支払っていませんでしたね。

羊方蔵魚:そうだそうだ!俺が代わりに店主に脅されたんだぞ、しかもお前らを追って全力疾走させられるしよ!慰謝料も追加で払ってくれないと、割に合わん!

東坡肉:わかったわかった、うるさいのう……ほれ、吾らにはやる事がある、足りぬのならここで待っておれ。

羊方蔵魚:へへっ、足りてる、足りてる!お二人さんの格好からして、食い逃げには見えなかったからな。


 東坡肉はまだ何かをブツブツと言っている羊方蔵魚をよそに、店主の方に向かった。東坡肉を見て、店主はすぐさま情熱的な笑顔を見せる。


店主:おや、東坡さんじゃないか!数日ぶりだな!ワンタンはどうだ?それともちまきにするか?

東坡肉:店主よ、ワンタンちまきの話は後じゃ……店主に用事がある。


 東坡肉は設計図を広げ、店の看板を指し、その後設計図にある印章を指した。


東坡肉:この印章、見覚えはあるかのう?


 店の前にある看板には「雲呑屋」と書かれている。しかしよく見ると、字の下には小さな印章も見える。


羊方蔵魚:えっ?この印章、設計図のと印章とそっくりだな?

店主:……

店主:それは……どうして東坡さんが持っているんだ?

東坡肉:やはり知っておったか、あの骨董店と……お主はどういう関係じゃ?

東坡肉:まさか、噂通り……この店のワンタンも全部、不良品かのう?


 「不良品」と聞いて、店の客らは皆箸を止め、疑惑の視線を東坡肉たちへと投げる。その様子に、店主は慌てて汗を拭いた。


店主:ちょっ、東坡さん、やめてくれ!誤解だ……おい、代わりにワンタンを見ててくれ、客人たちと話をしてくる。

店主:皆様、私と来てくれ……


ストーリー2-2


午後

骨董店


 店主は一行をワンタン屋の厨房に連れ、そこにある隠し扉を開けると、小さな部屋が現れ、多くの骨董が積まれていた。


羊方蔵魚:うわー!こんなに宝があるのか…どれもかなりの値段がするな!

東坡肉:どうしてお主まで……

羊方蔵魚:へへっ、俺もその設計図が気になって、興味本位で……

羊方蔵魚:しかし、意外だな、こんな小さなワンタン屋に……あー、骨董店?が隠れていたって事か?

東坡肉:やはり、間違いない……お主こそ失踪したあの骨董店の店主じゃろう。


 店主は口をつぐんで、ヅラと付け髭を取ると、全くの別人となった。


羊方蔵魚:なるほど!全部偽物か!はぁーこんな暑い日によくやるな、暑くないのか?

店主:……はぁ、この変装も仕方がなかったんだ。

東坡肉:骨董店の店主が、何故変装までしてワンタンを売っているんだ?さては噂通り、贋作を売っていたから逃亡したのか?

店主:東坡さんよ、どうしようもない事情があるんだ!閉店はしてないし、贋作も全部ウソだ……

店主:全て、海の向こうからやって来た奴らのせいだ……

回鍋肉:異国人?……どういう事だ?

店主:少し前に、奇妙な異国人たちが私の店にやってきた。最初はいくつかの品物を勝手に持ち帰っていたが、日に日に酷くなって、最後は気に入った物は何でも奪い取っていった……

店主:彼らは銃を持っていたから、私も反抗したかったのだが……窮地に追い込まれ、やむを得ず引っ越しする事に……

羊方蔵魚:はぁ……君子財を愛す、これを取るに道有り。こんな暴力的な方法を取るのは、ダメだろう……

店主:その通りだ、あいつらが再びやってくるのを警戒して、私は半月毎に店を引っ越す事にした。昼間は変装して別の商売をして……骨董店の常連客は夜に対応するように。

店主:看板の印章は、常連客たちとの暗号だ。印章を見れば、ここに骨董店があるとわかるように……

東坡肉:なるほど……どうやら、あの商隊が売っている宝物や骨董は、殆どここから奪ったもののようじゃな。

店主:その通りです!……まさか、あの強盗たちはこれほど露骨に転売していたとは思わなかった。

東坡肉:じゃが、半月毎に店を移転していたなら、このワンタン屋もう1ヵ月もここでやっていないか?

羊方蔵魚:そうなのか?ワンタンが売れてるから、変えるのが勿体なくなったのか?

店主:確かに、それも理由の一つだ。しかし一番の理由は……私はワンタンを作るのが楽しくなったからだ、こそこそと骨董売ってないで、本気で転職しようと思っているほどだ。

東坡肉:ハハッ、店主のワンタンは確かに絶品だ。しかし、吾はこの店の端午限定ちまきはもっと好きじゃ、ちまきの作り方を何度聞いても教えてくれない。

羊方蔵魚:そうなのか?そんなに?

東坡肉:そうじゃ!茹でたてのワンタンに錦糸卵、海苔と小エビを乗せ、そして蒸し上がったちまきもあれば、至福の時じゃ!

羊方蔵魚:うわ……聞いているだけで腹が減って来るな……食べてみたいもんだ!


───

⋯⋯

・お二人……脱線していますよ。

・待ってください、本題をまだ聞いていませんよ……

・お食事の話はまた後で、店主にお聞きしたい事があります……

───


東坡肉:そうじゃった、まずはお主にとっての大問題を解決しよう。

回鍋肉:?

店主:何か聞きたい事があるのか?

回鍋肉:ええ、この設計図についてです。友人から、こちらで同じ文字が書かれた古書を見た事があると言っていました。

店主:これは……私の店にあった古書の一部だな。

回鍋肉:その本を見せていただけませんか?

店主:少々お待ちを、今探して来る。


ストーリー2-4


午後

骨董店


 店主は埃の積もった本棚から分厚い古書を引っ張り出し、表紙を捲ると、見開きは明らかに一枚欠けていた。


店主:この本だ。私は昔から趣味で各地から古書を集めたが、いずれも観賞用の非売品で、だから見開きには必ず印章を押していたんだ。

店主:あの日、異国人たちがこの本を手に取った時、私は必死に奪い返した……古書たちは全て私が一番大切にしている宝物だから。

羊方蔵魚:なんだ、店主もなかなか根性があるな。

店主:まあ……1枚だけ、その時引き抜かれてしまったのだが……そうだ、お客さんが手にしている設計図こそ、その本から抜かれたものです。

回鍋肉:素晴らしい……この本には船の作り方だけでなく、「機関術」の工具やその他詳細についても載っている……

回鍋肉:こちらの文字にはもっと細かい注釈があるはずですが、店主はこれらの文字を解読できますでしょうか?

店主:実は、私も読めないんだ……なるほど、この本は「機関術」のことを書いているのか。

回鍋肉:……そうですか、わかりました。注釈の意味はわからなくとも、他の図面を根拠に製作できるはず……

羊方蔵魚:それにしても、読めないのに、どうしてこれらを大事にしてんだ?

店主:ハハッ、読めないが、綺麗だと思ったからだ。

羊方蔵魚:……やっぱり、奥が深い程、一目でわからない物ほど、手に入れたくなるようだな。

回鍋肉:店主、友人のためにこの機関船を作りたいのです、どうかこの本を貸していただけないでしょうか?……買い取る事も可能です。

店主:そういう事なら、必要な物を持って行くと良い!

回鍋肉:大事な物なのに、ありがとうございます。

店主:礼はいらないよ。この古書たちを大事にしていたが、昔とは考えが変わったんだ、後生大事に持っていなくても良いと思うようになった……

店主:ただ、どうかこの店の秘密を守ってくれないか?今の安定した生活は大変な思いをして手に入れたんだ。

羊方蔵魚:へへっ……店主は太っ腹だな!そうだ、この本や絵は、大した物じゃない!貴方の後ろにあるそれも、扉の横にある物も、棚の前にあるのも、全部……

東坡肉:おい、「大した物」じゃないと言う割に、誰よりも見定めているじゃないか。

羊方蔵魚:それは違うよ、「大した物」じゃなくとも、芸術価値はある!俺が誰よりも真面目に絵を見ているのは、素晴らしい審美眼を持っているからだ!

店主:実に良い目をしているな、これらは今じゃ中々手に入らない大家の真筆だ。ただ私にはもうこれらを誰かに売る気力はない、このままここに置く事しかできない……

羊方蔵魚:実は、私も古物商をやっているんですよ!もしこれらを私に任せてくれるなら、きっと良い買い手を見つけてみせますよ!分け前は、貴方が六、私が四でどうでしょう……?

店主:必要ない、全部貰って行くと良い。良い居場所が見つかって、認めてくれる玄人に出会えたなら、私の心残りもなくなる。

羊方蔵魚:玄人?いえいえ、そんな玄人だなんて、普段から絵を模写するのが趣味なだけですよ。

回鍋肉:模写……?

東坡肉:原作の複製の事だろう、剽窃と一緒じゃ。

羊方蔵魚:ペッペッ!何が一緒だ?!私たち絵師の模写は、参考と勉強だ!

東坡肉:吾は古書や絵画に興味はない……ちまきの作り方を教えてはくれんか?

店主:それは無理だ!それは私の命綱だ!どうか困らせないでくれ。

東坡肉:ハハッ、ならしょうがないな。では……今度からワンタンを少し大盛りにしてくれんか?

店主:ああ、もちろんだ!腹いっぱい食わせてやるよ!流石東坡さん、食いしん坊なだけじゃないな、美食家だったとは!

羊方蔵魚:何が美食家だ、ただの食いしん坊だよ……

東坡肉:おや?二人にワンタンちまきをご馳走しようとしていたんだが、お主はいらないようだな。まあいい、回鍋肉、一緒に食べに行こう。

羊方蔵魚:えっ?奢り?コホンッ、さっき走ったし、確かに腹が減ったな……

回鍋肉:お二人で食べて来てください、私は先に失礼します。

東坡肉:おいっ、そんなに慌ててどこに行くんだ?


───

⋯⋯

・時間を掛け過ぎました、早く戻って設計図の研究をしなければ。

・私の目的は達成しました、次は急いで船を作らないといけません。

・この古書の内容は繁雑すぎます、早く読み解かないと船が作れません。

───


東坡肉:とは言え、そこに描かれている道具も中々お目にかからないものばかりじゃろう?機関城にあるかどうか……

回鍋肉:問題ありません、工具についても詳しく描かれています。見つからなくとも、まず工具を一から作り、その後船を作れば、きっと成功します。

東坡肉:ハハッ、お主は実に……辣子鶏にもお主の半分ぐらいの根性と決心があれば、もう二年早く機関城が出来ていただろうな。

東坡肉:あいつは、何年経っても心配させられる。

回鍋肉:大丈夫です、彼の傍には今私がいますので。


 回鍋肉は丁寧に古書を包み懐に入れ、一行に別れを告げた後そそくさと機関城へと戻って行った。


ストーリー2-6


夕方

機関城


 夕陽が差し込む部屋の中、回鍋肉は乱雑に置かれたヘンテコな工具の中、作りかけの小船を見つめていた。


回鍋肉:工具も出来ている、手順も合っている……しかし、どうして出来ないのでしょう?

回鍋肉:設計図通りに作り上げても、欠陥がある。

回鍋肉:まさか、何かを見落としたのか、もう一度あの店主に話を聞きに行こう。


 回鍋肉がブツブツ言いながら部屋を出ようとした時、お酒を持って鼻歌を歌っているマオシュエワンとぶつかってしまう。


マオシュエワン:いった!前を見て歩け……おおっ、回鍋肉じゃねぇか!ちょうど良かった、一杯どうだ?

マオシュエワン:えっ?!無視すんなよ、おいっ……本当に行っちゃうのか?!

マオシュエワン:おかしい……おかしいぞ……おかしくなったのか?

冰粉マオシュエワン、一人で何をブツブツと言っているのですか?

マオシュエワン:えっ……夫子、さっき回鍋肉に会ったんだが、呼んでも反応しねぇんだ!

マオシュエワン:おかしすぎる、ふらついてる上に、目の下には隈もあったし……何日も部屋から出てねぇみてぇだし、機関を研究し過ぎてとうとう頭がおかしくなったんじゃねぇのか?!

冰粉:考え過ぎです、新しい機関術の研究をしているだけですよ……そう言えば、先程授業で見ていませんが、どうしてこんな所にいるのですか?

冰粉:サボり?背中に何を隠しました?

マオシュエワン:えっ、夫子……誤解だ!さっき授業に出たって、ただ隅っこにいたから、見えてなかっただけじゃねぇのか?あーそうだ、金華ハムに用があった、失礼する!

冰粉:待ちなさい!


 ワンタン店はいつも通り繁盛していた。しかし、ワンタンを茹でていたのは店員で、彼はヘラヘラと回鍋肉に返事をしていた。


回鍋肉:……今日、店主はいないのですか?

店員:えへへ……そうです……

回鍋肉:……

羊方蔵魚:お前聞いてねぇのか?店主は最近、なんだ……あの厨神大会に行ったらしい、半月ぐらい行くそうだ。おおっ、このワンタンは美味いな!

回鍋肉:……そうですか。

羊方蔵魚:店主に何か用なのか?何日見てない間に、大分痩せたな?身体は創作の資本だぞ、ワンタン食うか?

回鍋肉:遠慮しておきます……

羊方蔵魚:どうした、落ち込んでいるようだが、なんか創作で壁にでもぶち当たったのか?

回鍋肉:創作……壁……?

羊方蔵魚:ああ、俺も絵を描いている時によく壁にぶつかるんだ。模写しても、どうにもうまく行かない……いや、完璧とは言えない……絶対買い手にボロがバレてしまうって思う時が……

回鍋肉:買い手?ボロ?

羊方蔵魚:コホンッ……いやいや、だから、素敵な原画の模写がボロボロなのは、不敬だって事だ!

回鍋肉:ええ……確かにそんな感覚を覚えます。どうしてか、私が作った船は設計図と違うように感じるのです。

羊方蔵魚:そういう事だ!これが創作の壁ってやつだ!だが、この壁をぶち破る方法はある。

回鍋肉:どうすれば?

羊方蔵魚:へへっ、また小腹が減ったな。ワンタンを奢ってくれたら、もう少し詳しく話してやってもいいが?

回鍋肉:店員、ワンタンをもう一杯お願いします。

羊方蔵魚:二杯でよろしく!

回鍋肉:そんなに食べられるのですか?

羊方蔵魚:一緒に食おう、一人で食べるのはつまらないだろう。

回鍋肉:……壁を壊す方法とは、一体?

羊方蔵魚:実はそんなに難しくはない。俺たち絵師は、あたかもその場に身を置くかのような感覚を目指すんだ。そこから離れてしまうと、作品からも離れて、良い絵が描けなくなる。

羊方蔵魚:もし壁にぶつかったら、これを試してみたらどうだ?もしかするとうまく行くかもしれない。

回鍋肉:その場に身を置く……具体的にはどうすればいいのですか?

羊方蔵魚:例えば、俺がある大家の画を模写するとしよう。その時は、彼になりきって描くんだ、そうするとうまくいく。

羊方蔵魚:お前は機関船を作ろうとしていたよな……自分を異国の匠だと思い込んでみるのはどうだ!

羊方蔵魚:もちろん、難しいとは思うが、服装と使う道具も少し変えて雰囲気を出せば出来るんじゃないか?


───

⋯⋯

・そうすれば、この壁を壊せるのですか?

・意味はよくわかりませんが……壁を壊せるのなら試してみたいです。

・なるほど、一理ありますね。

───


回鍋肉:しかし服装や装飾はどこから手に入れたらいいでしょう?

羊方蔵魚:へへっ、簡単だ!西洋骨董店を開いている友人がいる、異国の服や家具を集めてるんだ、そこを一緒に訪ねよう!

羊方蔵魚:ただ、結構値を張るんだ……珍しい宝ばかりだからな。

回鍋肉:お金は問題ではありません、ではよろしくお願いします。

羊方蔵魚:待て、ついでに、俺にも紹介費とかもよろしくな……へへっ。

回鍋肉:……


 骨董店の外、羊方蔵魚は大きな荷物を持って帰る回鍋肉を見送りながら、重くなった自分の銭袋を持って満足気に笑った。


羊方蔵魚:騙しやすいカモだったな……可愛いぐらいだ……上手く行くよう祈っとくよ。


回鍋肉√宝箱


夕方

機関城


 四神祭典を控え、機関城は賑やかな雰囲気に満ちていて、家々の前に香り袋とヨモギが飾られている。回鍋肉の部屋の閉じた窓の前には、二人がこそこそとしゃがんでいた。


マオシュエワン:……おかしい!あの服を見てみろよ、それに部屋にあるおかしな装飾品……やっぱ頭イカれちまったんじゃ?

金華ハム:確かに……だがあの透明な杯に入っているのは……酒か?なんだか気になるな。

マオシュエワン:酒?!見せろ!

金華ハム:おいっ、こっちくんな!バカ、見えねぇだろ!

マオシュエワン:シーッ……うるさい!バレるだろうが!

冰粉:コホンッ……二人とも、こんな所で何をしているのですか?

マオシュエワン:!!夫子か、驚かすな!

冰粉回鍋肉の部屋の前で一体何をしているのですか……みっともない!機関制作の邪魔をしていないで、早く戻りなさい!

マオシュエワン:夫子……俺は回鍋肉が心配で……

マオシュエワン:城内でも話題になってるぜ、部屋に閉じこもって、変な服着て一日中いじくってるって……マジで狂っちゃったんじゃねぇのか?

金華ハム:……奇抜な服だけじゃねぇ、部屋の全てがおかしくなってんだ!


 ギシッ……

 突然部屋の扉が開き、西洋の装いに身を包んでいる回鍋肉が慌てた様子で出て来た。その手には、精巧な機関船があった。


回鍋肉:とうとう成功しました……早く辣子鶏に見せなければ。

冰粉回鍋肉……城主はまだ下で法陣の修復をしているので、まだ帰ってきていませんよ。

冰粉:えっ、回鍋肉回鍋肉先生!

マオシュエワン:暴走してるんだ……この前会った時も一切聞く耳持たなかったぞ。

金華ハム:だが、近くで見てみると、着てた服は変だが、カッコいいな?!

マオシュエワン:どんな目をしてんだ?あれがカッコいいなら、俺は絶世の美男子になるだろうが!

金華ハム:チッ、誰かさん鏡でも見た方がいいんじゃねぇか?

マオシュエワン:このハム野郎!どういう意味だ?俺の何が気に食わねぇんだ?!かかってこいや!

金華ハム:ああん?やってやろうじゃねぇか?!

冰粉:二人とも……また大千生の中に入りたいのですか?

マオシュエワン:……

金華ハム:……


 二人が騒がしくしていると、機関城に影が差した。人々が見上げると、精巧な船が空中に浮かんでいて、軽快に雲間を泳いでいた。


子ども:わあ!お母さん!見て!大きな船だ!大きな船が空を飛んでる!

女性:本当に船だわ!まさか城主が新しく作った機関かしら?不思議ね!

子ども:機関?!大きくなったら城主から教わりたい!お母さんを連れて大きな船に乗って、雲の中を泳ぐんだ!

女性:ふふっ、素敵、良い子だね。

マオシュエワン:あれ?あの船なんだ?空を飛べるのか、かっけぇ!!!

金華ハム:船に誰かいる……見覚えがあるような……回鍋肉?!それに辣子鶏?!

マオシュエワン:本当だ!わー!そんなおもしれーもん二人で遊んでないで、俺たちにも遊ばせろ!乗せてくれ!!!


辣子鶏√宝箱


夕方

機関城


 四神祭典を控え、機関城は賑やかな雰囲気に満ちていて、家々の前に香り袋とヨモギが飾られている。辣子鶏は早めに法陣修復の仕事を終わらせ、城に戻った。


辣子鶏回鍋肉の木偶、きっと俺がいないとあの設計図を解読できないだろうな……先にあいつのところに行くか。

マオシュエワン:クソハム野郎!もっぺん言って見ろ?!

金華ハム:バカバカ大バカ野郎、一回だけでいいのか?三回言ってやる?で、俺をどうにか出来んのかよ?!

マオシュエワン:やんのか?!

辣子鶏:お前ら相変わらず元気だな……

マオシュエワン:チキン野郎?!はええじゃねぇか?

辣子鶏:誰がチキン野郎だ……チッ、いい、俺様はお前らと遊んでる暇はないんだ、二人で遊んどけ。

マオシュエワン:おいっ……まさか回鍋肉のところに行くつもりか?最近あいつ……はぁ……

辣子鶏回鍋肉がとうかしたのか?

マオシュエワン:お前が出てってから、おかしくなったんだ。自分を部屋に閉じ込めて、変な服も着てるし、きっと頭イカれちまったんだよ!

辣子鶏:はあ?!あの木偶何してんだよ?!

マオシュエワン:足はええな……全然疲れたように見えねぇ。

金華ハム:おいっ、何か忘れてねぇか?!ケンカは?怖気づいたのか?

マオシュエワン:なんだと???来いよ!!!


 回鍋肉の部屋は固く閉ざされている。中から怪しい気配がして、賑やかな城内とは一線を画していた。それを見て辣子鶏は眉をひそめた。


辣子鶏:おいっ!回鍋肉!いるのか?!なんか言えよ!おいっ!


 足早に部屋に入ると、辣子鶏の声は止んだ。回鍋肉は机に伏せていて、眠っているようだった。部屋の中には見た事もない奇妙な装飾や家具で溢れ返っている。


辣子鶏:コホンッ……何の匂いだ、回鍋肉がこんなお香みたいなもん使うとは……

辣子鶏:それに……これはなんだ?!

辣子鶏:おいっ……木偶!起きろ!

回鍋肉:おや……辣子鶏……おかえりなさい。

辣子鶏:俺が帰ってこないと、本当に発狂するとこだったみたいだな!この部屋どうなってんだよ……

辣子鶏:それに……なんだその服は?変だが……綺麗だな。

回鍋肉:コホンッ、それは重要ではありません。

回鍋肉:あの船……無事完成しました。

辣子鶏:?!


 乱雑に置かれた設計図と工具の中から、回鍋肉は一隻の機関船を取り出した。それは夕陽に照らされて、輝いていた。


辣子鶏:お前……それのために?

回鍋肉:ええ……貴方が気に入っていたようなので。

辣子鶏:この木偶……俺がいないとダメだと言ったろ、どうしてそんな無茶をしたんだ。

回鍋肉:貴方にはやる事があります……これらは私に任せればいいのです。

辣子鶏:お前……はぁ、もういい……

辣子鶏:この船、俺様気に入った!

回鍋肉:それは良かったです。機関城を真似て、少し改良を加えました……飛べるかわかりませんが、今から試してみませんか?

辣子鶏:もちろんだ!行こうぜ!



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