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カラフルホーリーナイト・ストーリー

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カラフルホーリーナイト

プロローグ


学校

ルートフィスクの実験室


 静かな実験室の中、ルートフィスクは何やら作業をしていた。そばにいるサルミアッキは黙々と先生のために記録を取っている。

 ギシッ--

 ドアが開かれ、優しい日の光と共に、ポロンカリストゥスが足早に入ってきた。


ポロンカリストゥス:やっぱりここにいた、少し話が……


 ドンッ!

 彼の言葉を遮るように、鈍い音が響いた。音のする方を見ると、床に投げ出された見慣れた人物がいた。荷物を下ろしたばかりのシェリーは、痛んだ腕をさすりながら、どこかやるせない表情を浮かべている。


シェリー:酔っ払いは面倒だわ、貴方たちに任せた。

サルミアッキ:サン教官……?

サンデビル:あ?うん……ぐぅ……


 強いアルコールの匂いが部屋に充満し、真っ赤な顔で床に倒れているサンデビルは目を閉じていた、完全に出来上がっているようだった。


ポロンカリストゥス:……わあ!サンちゃんは酒樽にでも放り込まれたの?うーん、ワインの匂いがする。彼にどれだけ飲ませたんだ?

シェリー:ワイン一杯よ、彼を買いかぶりすぎじゃない?

ポロンカリストゥス:ぷっ!彼を敬愛する学生たちに、一杯で酔ってしまう可愛らしい教官だって知られたら……どうなっちゃうんだろうね~

ポロンカリストゥス:いいや、サンちゃんのお酒の強さなんてどうでもいい、本題に入ろう。あれ……君たちが飲んだお酒って、もしかしてモチノキ酒場の?

シェリー:どうしてわかったの?情報官だからって、同僚のスケジュールまで全部把握してる訳?こわっ。

ポロンカリストゥス:いや、たまたまあの酒場について調査していたからだよ。学校のすぐ近くにあるから、多くの先生も通っているらしいし。しかし最近、その酒場に行った後に体調を崩す者が増えているらしいんだ。

シェリー:私もあの酒場のお酒を飲んだけど……ご覧の通り、ピンピンしているわ……

ポロンカリストゥス:私は証拠もなく決めつけたりはしないよ。サンちゃんみたいなお酒に弱い者はともかく、多くの酒豪もやられてるらしいんだ、それに……


 ポロンカリストゥスシェリーの表情を伺いながら、話を続けた。


ポロンカリストゥス:あの酒場はある日からお酒の持ち込みを禁止した。異変が起こったのもその時からだ、それでも偶然だと言えるの?

シェリー:チッ、酒場のオーナーが劣悪なお酒を販売しているだけじゃない?大袈裟よ。

ポロンカリストゥス:もうすぐクリスマスフェスティバルが始まる、多くの大使が来訪するはずだ。もしあの酒場で何かあったら……やっぱり事前に酒場に潜入調査しておかないと……

シェリー:こっち見るな。私もフェスティバルでいろいろと忙しいんだ。シャンパン様が直々に来るから、きちんと準備をしないとな。


 シェリーは「残念」そうに首を横に振った。しかし、ポロンカリストゥスはそれを予期していたよう、彼女越しにルートフィスクを見つめた。


ポロンカリストゥスルートフィスク、いつも実験室に籠って仕事して大変だよね、久しぶりに外に出掛けて体を動かしてみない?


 いきなり名前を呼ばれたルートフィスクは、肩をすくめ、操作台の前でじっと立っていて、顔すら上げない。



ルートフィスク:行かない……外は、つまらない。

ポロンカリストゥス:本当かい?あの酒場には面白い物がいっぱいあると聞いたんだ、もしかしたら面白い標本とかも……

ルートフィスク:……いらない。

ポロンカリストゥス:おや……これは困った……お酒の成分なんて、簡単に分析できるものじゃないからね。


 ずっと黙っていたサルミアッキは、困っている二人を見つめ、自ら手を上げた。


サルミアッキ:あたし……行ってみる。

ポロンカリストゥス:おや……よし、じゃあこの任務と、この酔っ払いは皆に任せたよ。何かわかったら、何か必要な物があったら、私のところに来てね。


 サルミアッキは真剣に頷いた。ポロンカリストゥスを見送った後、ルートフィスクが床に倒れているサンデビルをじっと見つめてるのに気付いた。彼はメスを手にし、目を輝かせている。


シェリー:可哀想に、このマッチョくんはまた解剖台に縛られちゃうみたいね、ふふっ……

サルミアッキ:うん……先生……なんだか、楽しそう……


ストーリー1-2


モチノキ酒場


 もうすぐクリスマスだ、酒場には様々な装飾が施され、赤と緑に彩られたこの空間は、和やかであたたかい。

 サルミアッキはドアを押し開けて中に入ると、酒場の客からの異様な視線に気付かないまま、真っすぐバーカウンターの前まで歩いた。


サルミアッキ:オーナー……お酒、ください。


 ビール腹の太ったおじさんは、背の低い小さな女の子を見つめ、訝し気に返事をした。


オーナー:えっと……お嬢ちゃん、ここは君が来るようなところじゃないよ、子どもはお酒を飲んじゃいけないんだ。

サルミアッキ:……違う、子どもじゃない。あたしは、先生。

オーナー:せん……せい?わかった……だが約束してくれ、親御さんにバレても俺の責任じゃないからな!何が欲しいんだ?

サルミアッキ:(うぅ……鹿教官、種類言ってない……)


 サルミアッキは真剣に棚に並べられたお酒を見て、少し考え込んでから指を指した。


サルミアッキ:あれ、それ、あとそこの、全部……

オーナー:?!小さいのに飲むんだな……わかった、待ってろ!


 しばらくして--

 色とりどりの透明な液体が細いパイプを通過し、スポイトとガラスの試験管が当たる音が響き、テーブルの上には瓶が山積みになっていた。

 サルミアッキは実験器具の操作に没頭していた。だが、彼女は知らず知らずのうちに酒場の注目の的となっていたのだ。


客A:なんだなんだ、新しいカクテル調合方か?

客B:試験管に、アルコールランプ……実験?

客C:おい……オーナーこれ放っておいていいのかよ、爆発したらどうすんだ?ここは実験室じゃねぇぞ!

オーナー:…………


 雑談や憶測が飛び交っている。それは徐々に激しくなっていくが、サルミアッキは動じなかった。酒場のオーナーは冷や汗を拭きながら、「これはさすがにまずい」と呟き、彼女に声をかけた。


オーナー:お嬢ちゃん、ここのお酒は遊び道具じゃないんだ。ほら、他のお客さんが怖がっているだろう、飲まないなら早く帰りな。

サルミアッキ:遊んでない。これは……うぅ……言えない……

オーナー:じゃあこのガラクタで何しようとしてんだ?

サルミアッキ:ガラクタ、じゃない。大事な機材だよ。

サルミアッキ:ちゃんとしないと、みんな病気になる。

オーナー:はあ?何をごちゃごちゃと、荒らしに来たんだろ!


 オーナーは焦り出した、サルミアッキのよくわからない弁解も聞かずに、手を伸ばして彼女を追い出そうとした。


───

⋯⋯うっ!

・触っちゃダメ、先生の道具が……

・触らないで、爆発する!

・大事な仕事があるの!

───


 サルミアッキは慌てて彼を止めようとした。すると突然、鳴き声と共に白い何かが飛び掛ってきた。


オーナー:いった!俺の手が!なんだこの変な鳥は?!

ウォッカ:変な鳥じゃない、アンドレよ。


 混乱の中、背の高い女性がゆっくりと近づいてくると、さっきまで凶暴だった真っ白い鷹は、素直に彼女の肩に降り立った。


ウォッカ:男のくせに、小さな女の子に手を出すなんて信じられない?!

サルミアッキウォッカ……アンドレ……

ウォッカ:久しぶり、サルミアッキちゃん。アンドレがあんたの匂いがするって教えてくれたから来てみたの、本当にあんただったのね。

オーナー:おっ、お前らグルだったのか!


ストーリー1-4


オーナー:おっ、お前らグルだったのか!

ウォッカ:人聞き悪いわね。友だちよ、別に変な団体じゃないから。

サルミアッキ:うん……友だち。

オーナー:じゃあ、その友だちとやらに聞いてみろ、ここで何をしようとしてんだ?ここ自由な酒場だが、何でも好き勝手できる場所じゃないぞ!


 ウォッカはそう言われて、初めてテーブルに置かれた様々な実験道具に気付いた。表情が少し固まったが、すぐに我に返る。


ウォッカ:あら、わからないかしら?私の友人は……コホンッ……カクテルを作っているのよ。

ウォッカ:状況もわからずにひとを追い出そうとするなんてね、これが酒場のおもてなしってやつ?


 上品な女性は淡々と呟いているが、反論する余地を相手に与えない。先程まで威勢の良かったオーナーもなんだか気まずくなった。


サルミアッキ:カクテル作ってない……これは……


 ウォッカは、好奇心旺盛な客たちが集まっているのを見て、サルミアッキの手を静かに抑えた。しばらくは声を出さないようにと身振りで示す。


ウォッカ:お酒の代金を払った以上、どう使うかは彼女の自由。彼女の行動であんたに何かしら損失を与えた訳じゃないし、どうして彼女を追い出そうとするの?

オーナー:それは……

ウォッカ:それとも……あんたのお酒に何か問題でもあるのかしら、彼女に勝手に色々して欲しくないとか?

オーナー:俺の酒に問題なんてある訳がない、デタラメを言うな!


───

おや?

・グラスを持ち上げてお酒の匂いを確認する。

・オーナーの表情を引き続き観察する。

・グラスを持ち上げてお酒の色を観察する。

───


 ウォッカは、バーに置かれたグラスを一つ手に取り、振ってから匂いを嗅いでみた。


ウォッカ:この……質の悪いワインを見て、混濁していて艶もない、それに少しオレンジがかっている。

ウォッカ:おまけに鼻を刺すようなフルーツの香りとアルコールの匂いがする……かけてもいいわ、あなたお酒に何か仕込んだでしょう?これが正規のワインというのなら、こんなお店、さっさと閉めた方がいいわ。

オーナー:…………


 ウォッカの言葉を聞いて、オーナーの顔が真っ白になった、そしてすぐに騒ぎ出した。


オーナー:おっ、お前に何がわかる!俺は何年も酒場をやってきた、質は常連が良く分かっている!何も手を加えてない!

ウォッカ:あんたが店をやってる時間なんて、私がお酒を飲んでいる時間より短いわ。本当に問題がないのなら、ここにいる全員の前でこれを飲んでみたらどう?


 ウォッカは細長い指でグラスを持ち、銀色の瞳はまるで冷たい雪のようで、直視出来ない。彼女のオーラに怯んだのか、それとも何かを躊躇っているのか、オーナーの顔は冷や汗で濡れ、歯もガタガタと音を立てていた。


客A:一理あるな……何かやましいことでもあるのか?

客B:道理で変な味がすると思ったんだ……本当に何か混ぜてたりして?

オーナー:おいっ、あいつらの言葉を鵜呑みにするな!

ウォッカ:なら、どうして飲まないの?

オーナー:なっ、飲んでやるよ!今すぐ証明してやる!俺の酒に問題なんてないってな!


 ゴクゴク--

 ワインが飲み干され、凝り固まった重たい空気も打破された。野次馬たちはそれを見て、ぞろぞろと散って行く。


オーナー:これで満足か!

サルミアッキ:……

ウォッカ:これで何かを証明できる訳じゃないわ、一人一人体質は違うんだから。もしかすると、少し経ってから何か問題が起きるかもしれないし。

オーナー:いい加減にしろ!酒を飲んで気分が悪くなることだってあるだろう!これ以上ここを荒らすつもりなら、誰か呼ぶぞ!

ウォッカ:フンッ、やましいだけでしょう。

オーナー:おいっ?!何をボーっとしてんだ!こいつらはただの荒らしだ、早く追い出せ!!!

ウォッカ:ちょっと、手を出すなんて失礼よ!


 バンッ--

 酒場のドアがキツく閉ざされ、サルミアッキウォッカは道端で目を見合わせた。


ウォッカ:あのオーナー怪しいわ、絶対何か隠している。

サルミアッキ:うん……

ウォッカ:でも、サルミアッキちゃんはどうしてあんなところにいたの?あんたは体に良くないものは嫌いでしょう?

サルミアッキ:実は……


 サルミアッキの説明を受け、ウォッカは彼女の此度の目的を理解した。


ウォッカ:やっぱりね……きっと何か問題があるはず。さっきこっそり覗いたけど、あのワインだけじゃない、恐らく他のお酒も……まあ、せっかく会えたんだし、とことん手伝うわ。


ストーリー1-6


ウォッカ:やっぱりね……きっと何か問題があるはず。さっきこっそり覗いたけど、あのワインだけじゃない、恐らく他のお酒も……まあ、せっかく会えたんだし、とことん手伝うわ。

サルミアッキ:大丈夫、あたし一人でも出来る……

ウォッカ:あんたは医者だけど、お酒に関する知識なら私の方が上よ?前にアンドレを助けてくれたお礼だから、遠慮しないで。

サルミアッキ:……


 サルミアッキは軽く頷いた後、頭を下げた。ウォッカはそっと彼女の頭を撫でる、だけど彼女の表情がおかしい事に気付いた。


ウォッカ:なんだか……変ね、どうかしたの?

サルミアッキ:うぅ……なんでもない……


 しかし、ウォッカがいくら尋ねても、サルミアッキは唇を噛んで答えようとしない。それを見て、ウォッカは黙ってため息をついた。


ウォッカ:友だちだから、助け合うのは当然でしょう?手伝わせてくれないってことは、私たちは友だち以下ってことなのかしら?


 ウォッカは腕を組んでそっぽを向いた、口調も少し怒っている様子だ。


───

⋯⋯ちっ、違う!

・とっ、友だちだよ……!

・ヤダ……怒らないで……

・だけど……迷惑に……

───


サルミアッキウォッカ……あたしは……あたし……


 ウォッカは、問い詰められてしどろもどろになったサルミアッキを見て、自分の策略が成功した事に気付き、思わず吹き出した。


ウォッカ:もう、全然怒ってないわよ。大した力になれないかもしれないけど、私にできる事ならなんでも言ってね、一人で我慢しないで。

サルミアッキ:うん……わかった……

サルミアッキ:でも、追い出されたから、任務続行できない……

ウォッカ:そんな事ないわ、ほら、これ見て。


 ウォッカがアンドレに手を振ると、お酒のボトルを2本ほど持って来た。


サルミアッキ:お酒っ……!

ウォッカ:使うと思ったから、酒場から持ち出したの。安心して、お金はテーブルに置いて来たから。

サルミアッキ:ありがとう、優しいお友だち。

ウォッカ:礼はいいわ、いつか一緒に一杯飲んでくれればいいの。

ウォッカ:さて……お酒の中から、何か見つかった?


 サルミアッキは静かに首を横に振り、明るくなった表情がまた翳りを見せた。


サルミアッキ:ううん……時間がたりなかった。あたしじゃ、無理……先生に検査してもらわないと……

サルミアッキ:でも、オーナーがお酒を飲んだ後……顔色が悪くなった。

サルミアッキ:先生が観察するように言ってた……このお酒、絶対おかしい……

ウォッカ:なるほど、きっとバレそうになっていたから慌てて私たちを追い出したんだ。

サルミアッキ:学校に帰って、成分を分析しないと……

サルミアッキ:先生はすごいから、きっとわかる。


酒場


 チリリンッ--

 扉にある鈴がカランと音を立てた、いつもの場所に座っていたウォッカが顔を上げ、アンドレは見慣れた人物に向かって羽ばたき、白く柔らかい羽を相手の頬に愛おしそうにすりよせた。


サルミアッキ:うぅ……くすぐったい……

ウォッカサルミアッキちゃん、いらっしゃい。

サルミアッキ:うん……結果が出たよ……お酒にやっぱり問題があった……

サルミアッキ:粗悪品だった……だからみんな、病気になったの……

ウォッカ:あら、これがオーナーが隠したがっていた真相ね。さて、これからどうしたい?


 そう聞いて来たウォッカに向かって、サルミアッキは顔色一つ変えずにこう答えた。


サルミアッキ:病気を、治したい。


ストーリー2-2


翌日

モチノキ酒場の裏庭


 大小さまざまな樽が積み上げられた裏庭に、疲れ果てている太った中年男性がいた。彼は倉庫から商品を運ぶのにかなり苦労しているようだ。

 箱を開けると、たちまち周囲に異臭が漂った、中にある果物のほとんどが腐っていたからだ。


オーナー:はぁ……夏じゃなくて良かった……


 そうつぶやいていると、強い風が耳を掠めた。そして、何が飛んできたのかわからないうちに、視界に別の人影が現れて--


オーナー:わあああ!!!なんだ?!

サルミアッキ:あの……ビックリさせて、ごめんなさい。


 突如現れた少女に腰を抜かしたオーナーは、逆切れして顔が真っ赤になった。


オーナー:またお前か?!昨日店を荒らしに来た小娘!!!

サルミアッキ:荒らしてない。

オーナー:今度は何をする気だ?酒はやらんぞ!!!

サルミアッキ:お酒もいらない。


 サルミアッキは瞬きをして、瓶をいくつか取り出し、目の前で怒っている人に渡した。


サルミアッキ:これ。

オーナー:……なんだ?

サルミアッキ:薬、病気を治すための。

オーナー:薬……?


 瓶には真っ黒でドロドロな液体が入っていた。オーナーは唾を飲み、ただただ恐怖の目で彼女を見つめた。


サルミアッキ:あなたのお酒を飲んだら体を壊す……薬を飲まないと、危ない……

サルミアッキ:壊れた人は……標本になるしかない……


 少女の口調が穏やかであればあるほど、その口から発せられている奇妙な言葉が恐ろしく聞こえた。オーナーは落ち着きを取り戻す事が出来ず、太った身体をわなわなと震わせている。


オーナー:お前、俺を脅すつもりか……!うわっ!壁っ、壁にあるのはなんだ?!


 ボンッ--!倉庫の中の灯りが一気に消える。

 倉庫の屋根から赤い液体がにじみ出て、こぼれ落ちる。まるで割れ欠けた巨大な網のようにオーナーにはびこる。

 目の前の少女はまるで別人のように、一気に雰囲気が変わった、包帯の下に隠された黒い瞳が冷たい意志を告げている。


サルミアッキ:これは……あなたが作ったお酒……この部屋を……充満する……


 腐敗した果物の匂いとアルコールの異臭が混ざった臭いが鼻をついた。恐怖で両足が動けなくなったオーナーは慌てて後ろにもがいた。地につけた手は何かべたべたとした物に触れてしまい…。地面からも赤い網が彼に襲いかかってきた。


サルミアッキ:あなたが……溺れるまで………お酒の中の標本に、なるまで……

オーナー:あああああ!!!助けて!!!!!イヤだ、標本にはなりたくない!!!この酒には欠陥があるんだ!!!!!


 中年男性は体を縮こませ、その悲痛な叫び声は天井を突き破りそうだ。この時、指を鳴らす音がして、再び灯りが点いた。


───

フフッ⋯⋯

・やっと怖気づいた?

・逃げようとしても、もう遅いわよ。

・ようやく認めたわね?

───


 別の女性の声がして、いつも通りの倉庫に、オーナーはようやく閉じた目を開いた。

 真っ白な女性が自分に向かってゆっくりと近づいてきた、包帯の少女も白い鷹を優しく撫でている。先程までに感じていた恐怖はどこかに消えていた。


オーナー:おっ、お前ら……

ウォッカ:あら、サルミアッキちゃん、あなたの自白剤はよく効くわね。直接飲ませていないのに自白してくれたわよ。

オーナー:自白剤?

ウォッカ:何、怖かった?あなたが作った偽のお酒の方がよっぽど怖いでしょう?

オーナー:…………

ウォッカ:あの鹿に言われた通り、薬をお客さんたちに分けてきたわ。次は……そうね、清算を始めようか?

オーナー:清算?俺はっ……!


 一瞬、空気が凍えた。迫力ある二人の視線に、流石のオーナーも嘘をつく勇気をなくした。


サルミアッキ:……あの……ズボン……濡れてる……

オーナー:なっ…!!!

ウォッカ:……仕方ないわね、2分で身だしなみを整えてきなさい!

オーナー:わかったから……じろじろ見ないでくれっ!!!


ストーリー2-4


オーナー:……という訳だ。知りたい事は全部吐いたぞ。

ウォッカ:……農園が通常通り原料を提供できなくても、腐った物を使っていい理由にはならないんじゃない?仕入先を変えられなかったの?

オーナー:はぁ……言うのは簡単だ……農園は怪物たちに蹂躙されてるんだ、作物を全部食べた上に我々を強請るんだ……

オーナー:原料どころか、生活費もギリギリ、この数日で何キロも痩せちまった……

ウォッカ:痩せた……?


 オーナーが腹にぶら下がった肉を悲しげに揉んでいるのを見ると、ウォッカは眉をわずかに上げた。無意識に相手が座っている今にも崩れかけそうになっている木製ベンチに目をやったが、我慢して何も言わなかった。


ウォッカ:……まあいいわ。でも、お酒を飲んでも大丈夫な人もいるのはなんでかしら?

オーナー:……粗悪品だけ売っていたら、とっくに閉店せざるを得なかっただろう。ちゃんとした品も混ぜて売ったんだ……

ウォッカ:あら?案外賢いのね、悪事に使ったのは残念ね。

サルミアッキ:……サン教官も、粗悪品を飲んだから、あんなに酔ったの?

オーナー:誰のこと?

サルミアッキ:赤い服で、金髪で……背が高い……

オーナー:そう言われてみると……ああ!彼か!チッ、飲めそうな見た目をしていたから、本物を出してやったんだ、水すら混ぜてないよ!

サルミアッキ:なるほど……本当にただ酒が弱かっただけなんだ……

オーナー:うちの醸造技術は、百年にも渡って受け継がれてきたものだ!飲んだ人は皆旨いと言うんだ!一般人には少々キツいがね。

ウォッカ:チッ、残念ながら受け継がれてきた看板を、あんたは汚した。

オーナー:…………


 そう言いながらウォッカは冷たい視線をオーナーに送る。自慢げに話していたオーナーは、今の状況を思い出したのか力が抜けていった。


サルミアッキ:粗悪品は、人を害する……鹿教官が言ってた。

オーナー:……俺が悪かった!!!もう二度とこんなことをしないと誓います!!!お二人さん、どうか今回は見逃してください!!!


 涙目で謝罪しているオーナーに対して、ウォッカサルミアッキは無言で顔を見合わせ、仕方なさそうにため息をついた。


ウォッカ:……わかった、あなたもある意味被害者だからね。

ウォッカ:どうやら、事情は全部はっきりしたみたいね。サルミアッキちゃん、これで任務完了ってことかしら?

サルミアッキ:うん……任務、完了。


 サルミアッキは頷き、学校に戻って報告しようとした。だが、何かやり残したことがあるような気がして、その場から動けなくなった。


サルミアッキ:作物を食べた怪物は……どうしよう……

ウォッカ:そうね、怪物たちは報告が終わるまでは待ってはくれないでしょうね。


 そう考えたウォッカは、微笑んだ。目の前で困惑した顔で首を傾げるサルミアッキにこう声をかけた。


───

あら⋯⋯

・久しぶりに体を動かしたいわ~

・まだ気持ち悪いやつらの成敗は終わってないわよ。

・面白い事でもしない?

───


ストーリー2-6


しばらくして

農園


 農園を荒らした貪食は今やボロボロになり、隅っこで弱々しくうずくまっている。


貪食女:くそ……俺はちょっと盗み食いをしただけで、そこまでする必要ないだろうが!

ウォッカ:フンッ、ざまあみろ!


 ウォッカは埃一つかぶらず、ただ淡々と地面に突っ伏している怪物を見つめている。

 一方、サルミアッキはしゃがみこんで、死にかかっている貪食を見つめた。


ウォッカサルミアッキちゃん、さっきからこいつをじっと見ているけど、どうかしたの?

サルミアッキ:標本にして、先生に……プレゼント……

貪食女:標本っ?!はっ、離せー!!!やめろ!!!


学校

ルートフィスクの実験室


 任務を成功したサルミアッキは学校に戻り、酒場と農園の状況をポロンカリストゥスに報告した。そして、貪食を連れて実験室へ急いだ。


ルートフィスク:……汚らわしい怪物は……僕の生徒じゃないよ……


 ルートフィスクの顔には嫌悪の表情が浮かび、冷たくそう呟いた後、また隅に縮こまってしまった。その言葉を聞いたサルミアッキは、かなりショックを受けた様子だ。

 しかし、すぐに見慣れたハンカチが差し出された。サルミアッキが驚いて顔を上げると、目の前のルートフィスクは真剣に彼女の手を見つめていたのだ。


ルートフィスク:怪物は汚いから……手を綺麗にして。

サルミアッキ:先生のハンカチが汚れる……先生は、自分の物が他人に触られるのが、嫌だよね?

ルートフィスク:……サルミアッキなら、大丈夫。

ポロンカリストゥス:あら、ルートフィスクちゃんにも優しい時があるんだね~

サルミアッキ:鹿教官……?報告に何か問題でもあったの?

ポロンカリストゥス:違うよ、ただ言い忘れたことがあってね。任務を手伝ってくれたお姉さんも、フェスティバルに招待したらどう?


───

うん⋯⋯

ウォッカも、一緒に。

・それと……アンドレも。

・彼女、来てくれるかな……

───


ポロンカリストゥス:あっ、そうそう、大事なプレゼントを忘れるとこだった。


 ポロンカリストゥスは自分のプレゼントボックスから、綺麗な包みを取り出した。

 リボンを解くと、中にはクリスマス仕様のワンピースが入っていた。真っ白なレースとウサ耳のついたサンタ帽子もあって、とても可愛らしい。

 サルミアッキは少し驚いたが、ワンピースを見つめている瞳には光が静かに揺らいでいた。


サルミアッキ:わっ……!

ポロンカリストゥスシェリーちゃんが直々に選んでくれたんだよ。

サルミアッキ:ありがとう……

ポロンカリストゥス:それじゃあ、フェスティバルの準備に行ってくるから……君は……


 ポロンカリストゥスは固まった。サルミアッキがワンピースを優しく撫でていると、次の瞬間、柔らかなそれに一滴の涙がこぼれ落ちたからだ。


ルートフィスク:……どうして泣いているの?イヤだった?

サルミアッキ:いいえ、どこにも……


 少女の半身は日差しに浸され、青い瞳はまるで雪原の中にある湖、彼女の笑顔とともに、この冬で一番の美しい風景となった。


サルミアッキ:初めて……プレゼントをもらったから……

サルミアッキ:あたし……とても嬉しい……


 捨てられても、傷つけられても、涙の一つも溢さなかった少女は今は薄っぺらいドレスに涙を流す。涙目の笑顔は、丁寧に飾られた絵画のようで、ポロンカリストゥスも、思わず温かい笑みを帯びていた。


ポロンカリストゥス:気に入ってくれて良かったよ~


サルミアッキ√宝箱


学校

クリスマスフェスティバル


 クリスマスイブ、雪の結晶と星の光が静かに街を包んだ。ホールにいる人々は笑顔で言葉を交わし、きらびやかなキャンドルを灯し豪華なパーティを彩った。

 シェリーサルミアッキの肩を抱き寄せ、その白い頬をつねる。


シェリー:やっぱり似合っているわね!サルミアッキちゃんはそういうフリフリのワンピース、嫌がると思っていたわ。

サルミアッキシェリーがくれたから、好き……ありがとう。

シェリー:どういたしまして~お姉さん聞いたよ、酒場の事件を解決したらしいね?偉いわ~!

サルミアッキウォッカが、色々と助けてくれたの……

シェリー:ふふっ、体は小さいけど、デカブツたちよりよっぽど頼もしいわ。そうよね、デビル教官?

サンデビル:…………

サンデビルサルミアッキ、今回はご苦労だった。

サルミアッキ:ううん……みんなで一緒に、頑張った結果だから。


 ウォッカはグラスを手にやってきた、彼女たちの会話を聞いて少し驚いた顔をしている。


ウォッカサルミアッキ……なんだか、出会った頃よりも人間味が増しているような気がするわ。

ポロンカリストゥス:当たり前でしょう、なんたって学校が人間味溢れる場所だからね。

サンデビル:人間味のある場所……どんな時でも同僚を手術台に縛り付けたりするようなところが?

ポロンカリストゥス:ちょっと気をつけてよ、グラスが握りつぶされるところだったよ。


 目の前の状況をひとまず無視し、サルミアッキは無言で甘いカクテルを口にした。でも、胸の奥に何かあたたかい物が芽生えたのを感じ、思わず口角を上げた。

 そしてその時、彼女はぼんやりと見覚えのある大きな人影が近づいてくるのに気づき、頭を上げた。


オーナー:お嬢ちゃん、やっと見つけたよ!お礼を言いに来たんだ。怪物どもを追い払ってくれたおかげで、今は農園も酒場も通常通り営業できるようになった!


 太ったオーナーは人混みを掻き分け、ようやくサルミアッキの前にやって来られた。サルミアッキはこの時初めて、彼の笑顔を見たのだ。


サルミアッキ:ううん……お礼は、いらないよ……

オーナー:この前もらった薬もよく効いた!病気だけじゃなくて、体まで少し逞しくなった気がするよ!今は一気に箱を4つも運べるようになった!!!

オーナー:その薬……まだあるのかい?へへっ……どうか買わせてくれ!

サルミアッキ:金は要らないよ……全部あげる。


 サルミアッキはどこからか薬の小瓶をいくつか取り出した。濁った黒い液体は不気味な光を放っていて、周囲の明るい雰囲気にそぐわなかった。

 まるで一時停止ボタンが押されたかのように、見慣れた薬を前にして、シェリーサンデビルは固まった。二人は視線を逸らし、自分たちの苦い表情を隠そうとしている。


オーナー:ありがとう!!!


 オーナーは目を輝かせ、嬉しそうに薬をもらい、名も知らない歌を口ずさみながら去って行った。


シェリー:……あのオーナー、正気?

サンデビル:……ゴホンッ、人それぞれだから、理解は示す。

ポロンカリストゥス:おや?お酒1杯で酔っぱらっちゃう君の方が栄養剤が必要なんじゃない?今日顔色良いみたいだね、ルートフィスクの丁寧なお世話のおかげかな~

サンデビル:…………


 いきなり現れたポロンカリストゥスの言葉に、サンデビルの表情がますます強張った。


シェリー:あら?詳しく聞かせてよ~!

ポロンカリストゥス:うーん、そうだね。サンちゃんは丸一日実験室に閉じ込められて、ようやく抜け出せた時、まるで三日三晩塩水に浸かった魚みたいになってたよ~

シェリー:だから変な匂いがするのね。

サルミアッキ:……なるほど……だから先生は……最近、ご機嫌なんだ…

サンデビル:……なんだか……よく知っている……匂いがする……

サルミアッキ:先生が、来たんだ。


 サルミアッキルートフィスクの姿を確認した次の瞬間、赤い人影が過って行った。彼女が再び顔を上げた時、目の前の椅子にはもう誰も座っていなかった。


サルミアッキ:……サン教官、足が速いね……

シェリー:あははははっ!


 ……

 ゴーン、ゴーン、ゴーン。

 0時の鐘の音だ。グラスを鳴らす音と笑い声が、黄色の灯りに溶けていく。窓の外では、粉雪がゆっくりと舞い落ち、聖なるキャロルと祝福を隅々まで届けた。


ウォッカ√宝箱


学校

クリスマスフェスティバル


 クリスマスイブ、雪の結晶と星の光が静かに街を包んだ。ホールにいる人々は笑顔で言葉を交わし、きらびやかなキャンドルを灯し豪華なパーティを彩った。

 モチノキ酒場のオーナーは感謝の気持ちを示すために、自らお酒を何箱も運び、それらは今テーブルにたくさん置かれている。


サルミアッキ:お酒……多すぎる……

オーナー:いやいや!怪物を追い払ってくれなかったら、うちの酒場も閉店するとこだったんだ、本当にありがとうな!

ウォッカ:アハハハッ!豪快だね!気に入った!ヒクッ!オーナー?なんか熊になってない?あれー?ほらこれを付けて……


 ウォッカは明らかにもう酔っていた。クリスマスツリーから大きな枝を引き抜き、オーナーに乗せようとして、何度も悲鳴を上げさせた。


オーナー:なっ!うわあああ!はなせ!!!!!


 クリスマスツリーに扮したオーナーと飾りつけに没頭しているウォッカを見て、サルミアッキは少し心配そうに囁いた。


サルミアッキウォッカ……もうこれ以上、飲まないで……

ウォッカ:ん?サルミアッキちゃん、呼んだ?


 ウォッカは笑顔で振り返り、手のひらに乗せた白いバラをサルミアッキの耳の後ろの髪に挿した。少女の白い肌は、白いバラによってより一層輝いて見えた。


サルミアッキ:……!


 ウォッカは思わずサルミアッキの頬をつねり、そして彼女を抱きしめた。酔っぱらった少女はとても嬉しそうに、相手を強く抱きしめる。アルコールの匂いが移りそうで、サルミアッキの耳も赤くなって来た。


ウォッカ:ヒクッ!今日のサルミアッキ!か・わ・い・す・ぎ・る!!!特にこの服、すっごく似合っているわ!

サルミアッキ:……ありがとう……


 騒がしいパーティ会場にいるのに、どうしてか耳元だけ静かだった。サルミアッキは思わずワンピースの裾を引っ張る、心にあたたかなものが流れていた。


ウォッカ:へへっ……もう少し近くにきて……お姉さんが……

サルミアッキ:……わっ!


 サルミアッキは、いきなり近づいてきたウォッカの顔に驚き、無意識に身を引こうとしたが、何かに躓き、うっかりウォッカと共に柔らかいカーペットの上に転倒してしまった。


ウォッカ:あれ……?あはは、サルミアッキちゃんって、意外と情熱的なのね……こういうことはね……

サルミアッキ:ちっ、違う……!


 サルミアッキが慌てて説明しようとしたが、突然耳元で羽音がした。どこからともなく色とりどりのライトを口にくわえたアンドレが、楽しそうに羽ばたきながら、2人の周りを回り続けているのだ。


サルミアッキ:わあ……!


 長い電飾が彼女たちに巻き付き、鮮やかに点滅している。

 美しい光に目を奪われていたサルミアッキが俯くと、胸元でウォッカが目を閉じ、静かに眠っているのに気付いた。


ウォッカ:飲める……まだ……もう一杯……


 少女がこうつぶやいた。顔はまだお酒のせいで火照っているが、もう先ほどの勢いはない。その寝顔はあまりにも可愛らしいので、サルミアッキは彼女の柔らかい頬を優しくつつき、口角を上げて微笑んだ。

 ギシッ--


ルートフィスク:…………


 ドアを開けたルートフィスクは、目の前の光景を見て、どう反応すればいいか一瞬躊躇い、部屋を出て行った。


ルートフィスク:……やっぱり、全然面白くない……


 シェリーはこれから国王陛下と乾杯しに行こうとしていた。ちょうど通りかかって、全てを目撃したのだ。彼女は思わず声を出して笑い、久々に優しい表情を浮かべた。


シェリー:ぶっ……これが青春なのね~


 一方、既に眠っているウォッカは、無意識のうちにもう一度サルミアッキを強く抱きしめた。心地よい温もりに包まれ、サルミアッキは幸せな気分に浸っていた。


ウォッカ:ここ……あたたかい……

サルミアッキ:……気持ちいいね……


 ……

 ゴーン、ゴーン、ゴーン。

 0時の鐘の音だ。グラスを鳴らす音と笑い声が、黄色の灯りに溶けていく。窓の外では、粉雪がゆっくりと舞い落ち、聖なるキャロルと祝福を隅々まで届けた。



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