禁忌幽霊・ストーリー
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禁忌幽霊
目次 (禁忌幽霊・ストーリー)
- 禁忌幽霊
- 処刑の収穫
- 序章-至極の宴
- 終章-夢守る瞳
- スペクター
- スペクターⅠ
- スペクターⅡ
- スペクターⅢ
- スペクターⅣ
- スペクターⅤ
- スペクターⅥ
- スペクターⅦ
- スペクターⅧ
- 創世
- 創世Ⅰ
- 創世Ⅱ
- 創世Ⅲ
- 創世Ⅳ
- 創世Ⅴ
- 創世Ⅵ
- 創世Ⅶ
- 創世Ⅷ
- 家族
- 家族Ⅰ
- 家族Ⅱ
- 家族Ⅲ
- 家族Ⅳ
- 家族Ⅴ
- 家族Ⅵ
- 家族Ⅶ
- 家族Ⅷ
- 家族Ⅸ
- 贖罪
- 報い
- 催眠Ⅰ
- 催眠Ⅱ
- 調査Ⅰ
- 調査Ⅱ
- 調査Ⅲ
- 妨害者Ⅰ
- 妨害者Ⅱ
- 妨害者Ⅲ
- 調査Ⅳ
- 魔導機密Ⅰ
- 追跡Ⅰ
- 追跡Ⅱ
- 追跡Ⅲ
- 追跡Ⅳ
- 追跡Ⅴ
- 追跡Ⅵ
- 追跡Ⅶ
- 魔導機密Ⅱ
- 魔導機密Ⅲ
- 魔導機密Ⅳ
- 魔導機密Ⅴ
- 対堕神兵器Ⅰ
- 対堕神兵器Ⅱ
- 対堕神兵器Ⅲ
- 対堕神兵器Ⅳ
- 捨てられ、忘れ去られⅠ
- 捨てられ、忘れ去られⅡ
- 捨てられ、忘れ去られⅢ
- 捨てられ、忘れ去られⅣ
- 捨てられ、忘れ去られⅤ
- 捨てられ、忘れ去られⅥ
- 夢の世界Ⅰ
- 捨てられ、忘れ去られⅦ
- 夢の世界Ⅱ
- 殺意の波動Ⅰ
- 夢の世界Ⅲ
- 捨てられ、忘れ去られⅧ
- 殺意の波動Ⅱ
- 捨てられ、忘れ去られⅨ
処刑の収穫
序章-至極の宴
深夜
某貴族の屋敷にて
ウェルシュラビット:あああー!クソ貴族!こんなに大きな家に住んでいるのに!どうして他人の家を占領する!どれだけ貪欲なんだ……
ウェルシュラビット:ハカール!いつまで本を読んでいる!いつになったらゴミ掃除を始められるんだ?!
斧を振り回す少年の言葉に怒りが満ちている、彼の仲間ことハカールは慣れているように、本棚の本を指で撫でながら冷たく軽蔑な笑いを浮かべた。
ハカール:ウサギちゃん焦らないで?ここにある物は所有者と同じくゴミだけれど、本に罪はないわ……
ハカール:あら?これは……魔導学院のファイル?アナタも魔導学院の者だったとはね……
貴族:うぅ……うぅう……
ハカール:シーッ……ウサギちゃんがアナタを縛っているのは、騒音を聞くためではないわ。
貴族:!
ガチガチに縛られた男の目は絶望に染まり、床に横たわったまま動けなくなった。少年はようやく落ち着いたのか、困惑しながらハカールにたずねる。
ウェルシュラビット:魔導学院?ラザニアのお得意さんだろ?あの男はまた雇い主を殺したのか?
ハカール:はぁ……ウサギちゃん、外では「ラザニア」の名を出してはいけないわ、「顔のない男」と呼ばないと。
ウェルシュラビット:そんなのいいだろう。とにかく民間人を虐げたこの男には代償を払わせる。どうせ彼はもう長くは生きられない。
ハカール:フフッ、それもそうね。
床にいる貴族を一瞥して、ハカールは本棚からファイルを取り出し、パラパラとそれを読みながら少年の質問に答えた。
ハカール:ラザニアの前回の目標は魔導学院の顧問。所属派閥も、雇い主も、今回とは違うわ。
ウェルシュラビット:チッ。たかだか学院だろう、どうしてそんなに複雑なんだ?
ハカール:フフッ、本当にそうね……かつての魔術研究の聖地は、今では非常に多くの派閥に分かれているわ。真面目に研究する者もいれば、そうじゃない者もいる、金銭に目を眩んでいる者も。権力が大きければ大きいほど、野心が膨れ上がるのは、実に合理的だわ。それに……
ハカール:万物、腐敗に辿り着くものよ。
ウェルシュラビット:フンッ、そんな事どうでもいい。腐敗した雑草は全て僕が取り除いて見せる!
ハカール:アナタの熱意は嫌いではないけれど、ウサギちゃんにはしばらくの間静かにして欲しいわ。資料を読み進めたいの。
ウェルシュラビット:……早く終わらせろ、最近邪魔な者が増えてきている……僕はあっちで見張っておく。
ハカール:いってらっしゃい。
仲間を楽しそうに送り出したハカールは、ファイルを持って窓の横の椅子に座った。
ハカール:うーん……昔の物すぎて、資料に抜けがあるみたい、でも……
白骨を見るのと同じように、冷たく軽蔑的な色がハカールの目を掠めた。だけどそれはすぐに何かを発見したのか、火のような熱が燃え始めた。
ハカール:対堕神武器、最強戦闘部隊……「スペクター」……能力--「創造」……
ハカール:ああ、これは本当に……面白いものを見つけてしまったわ。
彼女は答える代わりに立ち上がり、ファイルを風に揺れる蝋燭の火に当てる、それは燃え上がり灰となって床に落ちた。
冷たい興奮が彼女の目を一瞬過る。彼女が再び口を開けると、処刑場で鋭いナイフを研ぐような声でこう言った。
ハカール:ウサギちゃん、ここのゴミは全部アナタにお任せするわ。ワタクシはしばらく外出して……
ハカール:とても楽しい事をしてくるわねー
終章-夢守る瞳
長い一日がようやく終わった。騒々しい子どもたちが寝静まると、広い部屋に久しぶりの静けさが戻った。
トマホークステーキもなんとか休めることができた。彼は珍しく疲れた顔をして、ソファーに腰を下ろす。
トマホークステーキ:レイチェルの力はますます強くなっているな……ハッ、こんなに痛いのは久しぶりだ……
トマホークステーキ:……チッ、裂けたみたいだ……ヴィーナーに包帯を頼もうか……
トマホークステーキ:ハァ……
トフィープディングが創り出した夢の世界で眠りにつくということは、現実に戻るということだ。あの日以来、トマホークステーキは本当の意味で目を閉じた事はない。
今の彼はまた現実の中で自分とレイチェルサンドの傷を処理し、ついでにルーベンサンドを縛る鎖を緩め、彼の体を簡単に綺麗にした。
今、夢の世界で何が起こっているのかは、彼も知る由はなかった。
ルーベンサンド:……
こんなに弱ったトマホークステーキを見たことがあるだろうか?荘園に引っ越してきてからというものの、彼は夜になるとすぐに出かけるため、顔を合わせることは滅多になかった。
あんなに親しかったのに……
ルーベンサンド:……どうして、何も教えてくれないんだ。
ルーベンサンド:全てを抱え込むタイプではないはずだ……私を信じられないからか?
トマホークステーキ:ルーベン……
ルーベンサンド:!
トマホークステーキ:クソガキ……甘えることを知っていたのに、今は俺のことなんて眼中にもないだろう…………
ルーベンサンド:……寝言か……
ルーベンサンド:いったい何でそんなに疲れているんだ、もう少し頼ってくれないのか……
トマホークステーキ:自分のせいにするな……俺がお前を守れなかったせいだろう……
ルーベンサンド:誰が守ってくれと言った……
トマホークステーキ:お前を守る。
ルーベンサンド:……
トマホークステーキ:永遠に……自分を傷つけるな……お前は悪くない、お前の目も……死ぬべきなのはお前じゃない……
トマホークステーキ:信じろ……どんな事をしてでも……変な考えをお前に押し付けたバカ野郎共に代償を払わせる……
トマホークステーキ:何をしてでも……
ルーベンサンド:……
ルーベンサンド:そうだな……死ぬべきなのは私じゃない……
ルーベンサンド:貴方でもない。
ラザニア:コホンッ……
部屋の隅、冷たい男の声が唐突に響いた。
ラザニア:感動的な兄弟愛に横槍を入れたくはないが……そろそろ出発の時間だ。
3時間前--
トフィープディング:申し訳ない、仕返しをするつもりはないけれど、「スペクター」の恩人の敵のようだから、とりあえずここで我慢していて。
トフィープディング:貴方を無事夢から引き離す方法を見つけたら、タルタロス大墳墓に連れて行かれるそうよ。
ラザニア:どうでもいい、こんなにうまい話を断った事を後悔しなければいいな。
トフィープディング:私は後悔した事はないわ。
取引は成立しなかった。トフィープディングは部屋を出て、ラザニアは縛られたままだ。
ラザニア:チッ、さすがこの世界を創った張本人か。ハカールの力で入ってきたとしても、ここに縛られると、万事休すか……
ラザニアはすぐに諦め、椅子に腰を下ろした。だが再び、ドアが開いた。
ラザニア:なんだ?ふふっ……君か……
ラザニア:やっと会えたな、ルーベン。
ルーベンサンド:……私の事を知っているのですか?
ラザニア:何しろ君と主は、書類で能力が書かれている食霊だからな。
ルーベンサンド:……
ラザニア:それで、用件は?
ルーベンサンド:さっき言った言葉は本当か?
ラザニア:ん?
ルーベンサンド:あの女に力を貸したら、彼女は家族の傷を治し、ここから出してくれるのですか?
ラザニア:ああ、もちろんだ。
ルーベンサンド:……
ルーベンサンド:交渉成立。
ラザニア:時間を気にしてくれ。別れを告げるのにそんなに時間は掛からないと思ってここにいるんだ。
ラザニア:行きたくないなら……その目を直接私に渡してもいい。
ルーベンサンド:……ふざけるな、この目は私のものだ。
ラザニア:なら、急いで出発しよう。
ルーベンサンド:わかっている。
ルーベンサンドは最後にトマホークステーキを見た。かつて自分が何よりも嫌悪していたけれど、彼が助けてくれた目で、裸眼で、彼を見つめた。
ルーベンサンド:信じてください、絶対に……魔導学院の連中に代償を払わせる。
ルーベンサンド:その時まで、また現実の世界で……再会しよう。
ルーベンサンド:その日が来るまで……さようなら、兄さん。
『禁忌幽霊』完
スペクター
スペクターⅠ
邪神遺跡
無縁墓地
邪神遺跡周辺は荒地が広がっている、目に映るのはボロボロな墓碑だらけ。人間どころか、鬼の姿さえ見当たらない。しかしそこに、二つの姿が現れた。
ラザニア:私に手伝わせるなんて、どういう風の吹き回しだ?
ハカール:名を馳せた「顔のない男」ほど、信頼できる仲間はいないわよ?
ラザニア:私が信頼できるとは初耳だな……あのウサギの方がよっぽど使いやすいだろう?相手が悪の貴族であると言えば、どんな相手でも大人しく任務をやり遂げてくれるだろう?
ハカール:残念ながら、今回の計画は、ここが必要なの--
こめかみを指し、彼女は仕方なさそうな顔をした。それを見た青年は愉快そうに口角を上げた。
ラザニア:説得力がある理由だが、私に助けを求めるには覚悟が必要だ。最近、ずっとタルタロスの者に見張られているんだ。
ハカール:あら、怖いの?アナタの変装術なら連中から逃げるくらい簡単なことじゃない?
ラザニア:生憎、私は保身は得意だが、チームワークは苦手だ。
ハカール:フフッ、安心して、自分の身くらい自分で守れるわ。
ラザニア:それにしても……何故そんなリスクを冒してまで「スペクター」を探しに来たんだ?ただの食霊連中だろう、珍しくもないだろう。
ハカール:珍しいのはその肩書ではなく……能力だわ。
ハカールは笑った。手にした大きなハサミがボロボロの墓石に触れただけで、それは簡単に砕け散った。
ハカール:カレらの能力が気に入ったの。できれば、協力できたらいいのだけれど……あの能力がワタクシのものになれないのなら、壊してもいいわ。
ハカール:これがアナタと交わした約束よ。もし「スペクター」が仲間にならなかったら、アナタの代わりにカレらを殺すわ。
ラザニア:……そう言えば、どうしてそんなことに執着するんだ?少し気になって。
ハカール:そんなこと?
ラザニア:「不老不死」を餌に人間を惑わし、彼らに大切なものを犠牲にさせる……君の言う協力っていうのはこういう事だろう?私は金を得られるけど、君は何が得られるんだ?
ハカール:ああ……ただの実験よ。
ラザニア:実験?
ハカール:誰にでも思い出したくない過去があるわ、それ以上は聞かないで頂戴。
ラザニア:ああ……それもそうだな、特に興味もないし。
ハカール:フフッ、だからアナタを選んだの……
二人は広大な荒地を歩き続けた、目の前の驚異的な光景に震撼されるまで……
ハカール:フフッ、「スペクター」って、想像以上に面白いみたいね。
ラザニア:それで、これからどうするつもりだ?見るからに……協力出来そうに見えないが。
ハカール:心配しなくていいわ。忘れないで……
鋭いハサミを掲げ、ハカールは刃よりも鋭い笑みを浮かべた。
ハカール:ワタクシは、医者よ。
スペクターⅡ
午後
「スペクター」邸
陽光が別荘の先端を覆い、荘園を金色に染めていた。鬱蒼とした草木、芳しい花々、葡萄の香りも、まさに童話の絵本に出てくるロマンチックなお城のようだ。
トフィープディングは窓の前に立ち、荘園を眺めながら微笑んでいた、まるで絵の中に溶け込んでいるようだ。背後で小さな物音がして、彼女は驚いた様子もなく、何が起こるかを知っているかのようにゆっくりと振り返った。
トフィープディング:おかえりなさい……パトロール、お疲れ様。
トマホークステーキ:別に、これくらいなんでもない……
トフィープディング:顔色が悪いわ……何かあったのかしら?
トマホークステーキ:ああ……侵入者を見つけた。
トフィープディング:どういう事?!私は……何も感じていないわ……
トマホークステーキ:あいつらを追放しなかった……お前に悪影響が起きるんじゃないかと。
トマホークステーキ:……トフィー、侵入者の位置は確認できるか?
トフィープディング:いいえ、まったく……侵入者以外は正常に機能している……
トフィープディング:ルーベンとレイチェルはパーティーに行ったわ、明朝には帰ってくるはず……他の者も荘園内にいる……
トマホークステーキ:そうか、俺はヴィーナーに知らせてくる、あいつにも注意してもらわないと。
トマホークステーキ:侵入者に仲間がいるかもしれないから、後でもう一度見てくる。
トフィープディング:わかったわ……何のためにここに来たのか、まだわからない……貴方も気をつけて。
トマホークステーキ:……
トフィープディング:どうしたの?まだ、何かあるのかしら?
トマホークステーキ:お前が侵入者に気づかなかった理由は……霊力の消耗が大きいからじゃないのか?
トフィープディング:……心配しないで。貴方とヴィーナーが助けてくれたお陰で、私の霊力は……そんなに早く尽きたりしないわ。
トマホークステーキ:ならいい……異常を感じたら、すぐに教えろ。
トフィープディング:ええ、そうするわ。
トマホークステーキ:じゃあ、行って来る……侵入者を見つけたら、俺が先手を打って連れ込む。
トフィープディング:確かに、敵に背後を見せるくらいなら、今度こそこちらから攻撃を仕掛けよう。あの悲劇が……二度と起きないようにしないと。
夜
宴会場
酒を酌み交わす人影が動く。華やかなドレスや高価なネクタイの間をお酒の香りが行き交い、言葉にできない贅沢が溢れている。
そんな中、暇そうにしている二つの姿が見える。たまたま人間の中に混じってしまった神かのように、目立っていた。
レイチェルサンド:はぁ……どうしてこんなバカ共が走り回っている宴会なんかに、付き合わなきゃいけないんだ……
ルーベンサンド:乾杯しに来た者をぶっ飛ばしたりしませんよね。
レイチェルサンド:チッ、あんな奴らどうでもいいだろ……「スペクター」ファミリーもこんなバカ共と手を組む必要あんのか?
ルーベンサンド:貴方の忍耐力を鍛えているのです。貴方が冷静沈着でいられたら、あの時は……
レイチェルサンド:……
ルーベンサンド:コホンッ、つまり……
レイチェルサンド:もういい、お前が言いたいことはよくわかった。あとはあたしに任せろ、今度こそ満点を取って見せるから。
ルーベンサンド:……では、私は先に帰ります。
心配そうに何度か振り返った青年は、足早に宴会場から離れた。彼がいなくなると、商談に来たいとそわそわしていた貴族たちは彼女から視線をそらすようになった。
レイチェルサンド:……チッ、臆病者が。
ハカール:アナタの言う通りよ。リスクが大きければ大きいほど、利益が出るもの。これくらいの勇気がなかったら、ビジネスなんて出来ないわ。
レイチェルサンド:お前は……?
ハカール:失礼、ワタクシはただの医者よ。最近、食霊の精神面に関して研究しているの、だから食霊であるアナタに声を掛けたのよ。
レイチェルサンド:なんだ……あたしが精神的におかしいとでも言いたいのか?
ハカール:フフッ、そうではないわ。ワタクシはただ、特殊な事件を経験した食霊の精神面の変化について、情報を集めているだけよ。
レイチェルサンド:特殊な事件?
ハカール:噂によると……「スペクター」ファミリーは、戦争を経験したのでしょう?
レイチェルサンド:……どこからそれを聞いたんだ?
ハカール:フフッ、興味があるなら……どこか静かな場所で、ゆっくりお話しましょう。
スペクターⅢ
ビクター帝国
シャンパン執務室
ビクター帝国の王であるため、シャンパンの執務室はおそらく帝国連邦で最も安全で、最も静かで……同時に最もお酒の香りが漂う場所なのだろう。
ブランデー:ああ……今日の酒は悪くない、この酒をもっと用意するように。
シャンパン:……タルタロスは最近どうだ?忙しいか?
ブランデー:我らはいつお互いを気にかける関係になったのだ?用があるならハッキリ言え。
シャンパン:……何故「彼」が君を典獄長に選んだのか、今になっても理解できない。
ブランデー:酒を飲む時は真面目な話はしない、忘れているのか?
シャンパン:チッ。なら酒を後回しにして、真面目な話をしよう。
テーブルを埋め尽くすお酒の代わりに、資料がテーブルの向こうから飛んできた。血の匂いを連想させる写真や目立つ記事の見出しから、ブランデーはすぐそのキーワードに目を奪われた。
ブランデー:「顔のない男」?
シャンパン:殺し屋だ。得意技はまずターゲットに変装し、評判を落としてから殺すのだそうだ。正体を現さない、神出鬼没である事から、まだ捕まえられないでいる。
シャンパン:先日、ある教授が暗殺された。自殺したように見せかけられたが、二人の教授が同時に現れるのを目撃した人は沢山いたから、「顔のない男」の仕業だろう。
ブランデー:巨大な帝国連邦は殺し屋を捕まえるために、一介の典獄長である我に頼むのか?
シャンパン:一介の……お前、面倒事に巻き込まれないように謙遜しているだろう。
ブランデー:お前こそ、いつからそんな「真面目な話」を気に掛けるようになったんだ?全然らしくないぞ。
シャンパン:魔導学院関連の事件だからな。
ブランデー:おや?
シャンパン:殺された教授は魔導学院が新しく雇った顧問だ。あいつらは腹を立てているが、捕まえる力がないから俺に助けを求めに来た……
シャンパン:そうだ、これも見ろ。
ブランデー:また資料か……お前、収集癖でもあるのか?
シャンパン:鹿が「カーニバル」から入手した魔導学院関連の資料だ。何故「カーニバル」にそんなものがあるのかについてはさておき、お前はこれに興味があるはずだ。
ブランデー:ハッ、そこまで言うなら一応見るが……ん……?
ブランデー:対堕神兵器計画……戦闘部隊……「スペクター」?……知らない名だな。
シャンパン:部下に魔導学院を見張ってもらっているが、今までに集めた情報の中には「スペクター」という名は出てこなかった。
シャンパン:お前は魔導学院が「あの事件」の黒幕だとずっと疑っていたじゃないか。タブー視されていた「スペクター」が真相解明の突破口になるかもしれないぞ。
ブランデー:そうだな、証拠は足りないが、確かに探ってみる価値はある。しかし……「顔のない男」と何の関係があるんだ?
シャンパン:資料の最後を見ると、「スペクター」はとある場所に行ってからの記録が残っていないようだ。資料が紛失した訳ではなく、記録そのものが途絶えたのだ。まるで「スペクター」が跡形もなく消えたみたいに。その場所こそ……
シャンパン:「顔のない男」の所在地だ。
ブランデー:偶然かもしれんぞ?
シャンパン:いや、他の逃亡犯ならともかく、大活躍している殺し屋がそんな場所に理由もなく行く訳がない。
ブランデー:どこだ?
シャンパン:邪神遺跡の近くにある無縁墓地。
ブランデー:……ハッ、面白い。
一見無関係な情報の点が線に繋がった。ブランデーはある程度の見当を心中でつけ、笑ってからこの場から立ち去ろうとしたが、背後からまた声をかけられた。
シャンパン:お前のところに、新人が来たと聞いたが。
ブランデー:……タルタロスも部下に見張ってもらっているのか?
シャンパン:それほど暇じゃない。
ブランデー:公平と正義の象徴であるタルタロス大墳墓は、帝国連邦とあまり関わらない方がいい。お前はただの筆頭スポンサーのままでいろ。
シャンパン:あの新人、お前の過去を知っているだろう。
ブランデー:……だからどうした?
シャンパン:油断して、噛まれないようにな。
辛うじて善意と言える忠告にブランデーはまた笑った、金色の瞳に虚無の影が覆う。
ブランデー:まあ……そんなことになったとしても、別に悪くない。
スペクターⅣ
タルタロス大墳墓
重刑監房
定例巡回の時間、いつも通り同じ監房に囲まれた狭い通路をパトロールしているオイルサーディンは、いつもより眉間に皺を寄せていた。
オイルサーディン:……
ザバイオーネ:フフーン。
オイルサーディン:パトロールは一人でいい、ついて来るなと言っただろう。
ザバイオーネ:未熟な新人として、色んな事を典獄長様から学ばないといけないのでね。
オイルサーディン:……本気か?
ザバイオーネ:警戒心をもつのは良い事だ、だが自分の同僚をもう少し信頼してみたらどうだ?
オイルサーディン:信頼……?会うなりひとを襲うような奴を信頼などできるものか……
そう言って、若い典獄長は壁に押しつけられた狼狽さを思い出して顔を強張らせた。
オイルサーディン:……ブランデーがなぜお前をタルタロスに入れたのかは知らないが、俺はお前を信頼していない。
ザバイオーネ:ハハッ、別に問題ない。俺は当分ここに居座るから、少しずつ信頼を築いていこう。
チリリン--
オイルサーディン:……ブランデー典獄長に呼ばれた、お前も同行しろ。
ザバイオーネ:断る理由はない、行きましょう典獄長様。
コンコンッ--
ブランデー:よく来た。シャンパンから受け取った資料に記載された「顔のない男」と「スペクター」のどちらか或いは全員をタルタロスに連れてこい。
抽象的なほど簡単な指示にすっかり慣れたオイルサーディンは、机の上にある資料を手に取り読み進めた。
オイルサーディン:……「顔のない男」は聞いた事がある、数ヵ月前に有名な教授を殺害したとされる容疑者だな。しかしこの「スペクター」も……犯罪者なのか?
ブランデー:犯罪者と関係のある、言わば重要参考人だ。
ザバイオーネ:おや?これもタルタロスの仕事の一環なのか?囚人の収容だけを担当すればいいのかと思っていた。
ブランデー:どちらも魔導学院に縁のある名前だ。それ以外の組織は手が出しづらいため、我らに委託された。
急に渋くなったザバイオーネの顔を見て、ブランデーの笑みがさらに深まる。
ブランデー:ちょうどいい、タルタロスを空ける事はできない、今回はお前ら二人だけで行ってこい。
オイルサーディン:!
ブランデー:どうした?オイルサーディン典獄長、何か問題でも?
オイルサーディン:……いや……
ブランデー:なら早速標的が監視範囲内にいるうちに早く出発しろ。
ブランデー:二人とも……健闘を祈る。
話が終わると、ブランデーは手を上げ退室を促した。ザバイオーネは隣のオイルサーディンを一瞥したが、深刻な顔をして明らかにまだ何か言いたそうにしていた。
ザバイオーネ:そうか、二人だけの内緒話があるのだろう?わかったわかった……では、先に準備をしてくるとしよう。
オイルサーディン:……
二人とも無言だったが、ザバイオーネは気にする様子もなく、資料を手にしてその場から離れた。
ブランデーはオイルサーディンの怒りに満ちた顔を見て、諦めたようにため息をつく。
ブランデー:……言ってみろ。
オイルサーディン:何をだ?タルタロスにあんな妙な奴を入れて、看守にするのはまだしも、今度は俺と共に犯罪者の逮捕に行かせるのか?!一体何を考えているんだ?!
ブランデー:確認したい事があるだけだ。
オイルサーディン:確認するも何も、あいつをタルタロスの作戦に参加させるのはおかしい!
ブランデー:だからお前に頼んでいる、オイルサーディン典獄長。
オイルサーディン:えっ?
ブランデー:共に犯罪者の逮捕に行くのはちょうどいい機会だ--ザバイオーネが危険人物かどうか、そして彼が今後タルタロスに残すかどうかの判断は、お前に任せる。
オイルサーディン:……
残念ながら、同僚の域を明らかに出ている信頼を寄せられても、オイルサーディンの顔色は暗いままだ。
いつも用件の説明をするのが億劫なブランデーはようやく負けを認め、オイルサーディンに説明を続けた。
ブランデー:「顔のない男」の逮捕は魔導学院からの依頼だ、「スペクター」は魔導学院との関係も深い。そしてザバイオーネは、我々の中で魔導学院のことを一番よく知っている、最良の人選だ。
オイルサーディン:魔導学院を一番よく知っている?彼が?
ブランデー:彼の武器である杖は幻晶石と魔導学院が開発した特殊な新材料で作られている。お前も気付いていただろう?
オイルサーディン:食霊の霊力を、一時的に失わせる材料か……道理で……しかし、それでも……
オイルサーディン:そんな危険を冒す必要が本当にあるのか?
ブランデー:タルタロスの安全を守るため、ここを自由に出入りできる連中を管理し、徹底的に調べる必要がある。お前も彼の人柄を見ただろう、計略なしに彼が知っている事を打ち明けてもらえるはずがない。
オイルサーディン:……
ブランデー:俺個人の見解だが……お前の面白みのない生活のスパイスになるのではないか?
オイルサーディン:……わかった。
オイルサーディン:「顔のない男」に「スペクター」、そしてザバイオーネ……全員、必ずタルタロスに連れて帰る。
ブランデー:自分の安全を最優先にしろ。
オイルサーディン:……ああ。
スペクターⅤ
午後
野外墓地
ザバイオーネ:さすが邪神遺跡、荒れ果てているな……「顔のない男」は殺し屋だろう?どうしてこんな死人だらけの場所に来ているんだ?
オイルサーディン:信頼できる情報によれば、ここに「顔のない男」がいるはずだが……
ザバイオーネ:信頼できる情報?タルタロスに届く情報が確実とは限らないだろう?
オイルサーディン:タルタロスが受け取った情報だからといって信頼できるわけじゃない、だが手がかりは今のところこれしかない。
オイルサーディン:それに、「顔のない男」の犯行現場ではないが、誰かと接触する可能性は排除できない。
ザバイオーネ:そうだな……誰かが意図的に偽の情報を流し、俺たちをここに誘き寄せた可能性もある。
オイルサーディン:……そんな無根拠な妄想より、お前の方が怪しいぞ……
オイルサーディン:タルタロスを信用していないなら、何故あの時入ったんだ……お前はそもそも、何がしたいんだ?
ザバイオーネ:ああ、確認したい事がある、ただそれだけだ。
ザバイオーネ:???
オイルサーディン:……何がしたいかは知らないが、今の任務は「顔のない男」の逮捕と「スペクター」の捜索……邪魔だけはするな。
ザバイオーネ:当然、そうでなければついてはこない。
ザバイオーネ:それにしてもここは広い、別行動するか?もっと効率よく任務こなそう。
オイルサーディン:……
ザバイオーネ:そうか、別行動だと俺を監視できないな?ふふっ、わかった、やはり一緒に行動しよう。
オイルサーディン:……コホンッ、まだ犯人の姿が見えないうちに、お前に聞きたいことがある。
ザバイオーネ:なんでも聞くと良い。
オイルサーディン:……お前のその杖は……
トマホークステーキ:こんなところで何をしている。
オイルサーディン:!
不意に見知らぬ声が後ろから聞こえた。二人はすぐ警戒態勢に入り、振り向く。
声と同じくらい威圧的な青年がそこにいた、頭の角が人間ではないことをはっきりと物語っている。
オイルサーディン:食霊か……その、人を探しているのだが……
ザバイオーネ:すまない、俺たちは何の気なしにここに来てしまって、特に目的はないんだ……
トマホークステーキ:ここは面白いところじゃない、さっさと出て行け。
ザバイオーネ:出て行けって……でも、どこに行ったらいいんだ?
オイルサーディン:???
ザバイオーネがだらしない男から可憐に涙を流す男に変化する過程を目の当たりにしたオイルサーディンはショックで言葉も出ず、話の続きを聞くしかできなくなっていた。
ザバイオーネ:私たちは人間に捨てられた食霊だ。帰る家もなく、あてもなく歩いてここまで来たというのに……
ザバイオーネ:すまないが、君はこの近くに住んでいるのか?御侍は?普段は何をしている?何か私たちを受け入れてくれそうな……場所や組織は知らないか……
ザバイオーネ:すまない、迷子になってしまったが故に、これからどうしていいかわからなくなっているんだ……
ザバイオーネは少し俯き、悲しみに沈んでいるようだった。見知らぬ食霊は静かにそんな彼を見つめている。その瞬間、何かが彼の視線に飛び込んだ……
トマホークステーキ:その杖……
ザバイオーネ:?
トマホークステーキ:ハッ……つまり、何か仕事が欲しいのだな?
ザバイオーネ:ああ……そうとも言える。
トマホークステーキ:なら、俺がお前らに仕事をやる。
ザバイオーネ:なんだ?つまり……
トマホークステーキ:しばらく目を閉じていろ。
ザバイオーネ:!
オイルサーディン:!!
二人の反応を待たずに大きな斧が正面から振り下ろされ、二人は闇の中へと送り込まれた……
スペクターⅥ
葡萄の香りを漂わせる日差しがゆったりとした広いベッドの上に降り注ぎ、まだ安らかに眠っている人物を照らす。
名も知らない鳥が囀り、眠っていた者はようやく目覚めた。
オイルサーディン:う……痛いな……
オイルサーディン:ここは……どこだ……
ザバイオーネ:ようやく目が覚めたか、典獄長様。
オイルサーディン:てめぇ……
オイルサーディン:おおお前っ、何故俺と同じベッドで寝ている?!!!
ザバイオーネ:ハハッ……典獄長様の記憶力がこんなに悪いとは、何があったか思い出させてやろうか?
眉をひそめて目の前の顔を見つめていると、少し前の記憶がようやく蘇り、オイルサーディンは冷静さを取り戻し、目の前の者を突き放した。
オイルサーディン:離せ……もう思い出した。
オイルサーディン:無縁墓地で犯罪者を追っていた時、一人の食霊に会って、そして斧で殴られ、気絶した……
ザバイオーネ:幸い峰打ちだったから、頭が痛いだけで済んだな。
オイルサーディン:……ところで、何故あんな白々しい嘘をついた?相手に見破られたら不利になるだろう?
ザバイオーネ:ん?典獄長が自分で言っていた事じゃないか、犯罪者は誰かと待ち合わせをして無縁墓地に行くのでないかと。
オイルサーディン:というと……俺たちを襲った食霊は「顔のない男」の仲間だと言いたいのか?
ザバイオーネ:証拠はないが、無縁墓地に突然現れ、ここが自分の縄張りみたいに「立ち去れ」と言って来た……たまたま通りかかった人ではない事だけはわかる。
オイルサーディン:彼が怪しいのは確かだが、お前の嘘も大概ぶっ飛んでいるな……
ザバイオーネ:本当の事を話して、藪蛇になるよりマシだろう。それに本当に怪しいなら、尚更紛れ込んで調べてみるべきだ、こんな展開になるとは思いもしなかったがな……
そう言って、ザバイオーネはわざとらしく肩をすくめたが、笑っているのかどうかよくわからない顔はどこか呑気に見えて、オイルサーディンはドッと疲れてしまった。
オイルサーディン:……そう言えば、ここはどこだ?例の食霊が俺たちをここに連れてきたのか?
ザバイオーネ:典獄長がぐっすり眠っている間に少し調べてみたが、部屋は外から鍵が掛けられていて開けられなかった。窓の外の景色を見ると……少なくとも、ここは無縁墓地ではない。
オイルサーディンはまだ痛む頭を揉みながらベッドを降り、窓の外を見てまた眉をひそめた。
オイルサーディン:……確かに、邪神遺跡の周囲は廃墟だらけで、こんな規模の荘園があるはずはない……
ザバイオーネ:大事なのは、俺の懐中時計を見た限り、俺たちが倒れてから目が覚めるまではまだ一時間も経っていないという事だ。
オイルサーディン:なんだと?!
ザバイオーネ:記憶が正しければ、二時間近く邪神遺跡の荒野を歩いたはずだ。
ザバイオーネ:仮に仲間がいて、転移手段があっても、俺たちをこんなに早くここに移動させるのは容易な事ではないはずだ。
オイルサーディン:それに、なぜわざわざここまで連れて来る必要が……
ザバイオーネ:さあな、何か特殊な趣味がなければ良いが。
オイルサーディン:……シーッ、誰か来る。
ドアの外から足音が近づいてきた。二人は顔を見合せ、すぐにベッドに横になった。
直後、ドアが開かれた。
ヴィーナー・シュニッツェル:ふふっ、お二人がここへ来た目的は、ベッドの上でうたた寝をするためではないはずですよね。
オイルサーディン:……
ザバイオーネ:……
ヴィーナー・シュニッツェル:お二人は服装と気分を整えてから、どうか私について来てください。
スペクターⅦ
5分後
荘園内
ヴィーナー・シュニッツェル:私はこの家のメイドです、ヴィーナーと呼んでください。質問があるなら聞いてください、ただ全てに答えられる保証はありません。
オイルサーディン:……俺たちをどこに連れて行くつもりだ?
ヴィーナー・シュニッツェル:やはり、坊ちゃんは何も言ってなかったのですか。
オイルサーディン:?
ヴィーナー・シュニッツェル:ふふっ……焦らないでください、行けばわかりますよ。
オイルサーディン:……
ザバイオーネ:その……こんなに大きな荘園があるということは……資産家か何かか?ビジネスで稼いだのか?
ヴィーナー・シュニッツェル:一応。
ザバイオーネ:ハハッ、まったく答えになっていないな。
ヴィーナー・シュニッツェルはザバイオーネに返事をせず、動じることなく先導を続けた。彼も特にこれ以上話を掛ける事なく、こっそりオイルサーディンの耳元に寄り--
ザバイオーネ:このままじゃ何も聞き出せない、いっそのこと逮捕して拷問するか?
オイルサーディン:馬鹿なことを……他人の縄張りでむやみに動くな、先に相手の正体を突き止めてからだ。
ザバイオーネ:了解した。
パリンッ--
廊下の向うから妙な音が聞こえて来た。3人が思わず振り向くと、言い争っている2つの人影が見えた。
ルーベンサンド:何故殴り返さないのですか?戦いがない平和な生活で弱ってしまったのですか?!
トマホークステーキ:は?ふざけるな、理由もないのにどうしてお前と喧嘩しなければならないんだ。
ルーベンサンド:昔の貴方はそんな事を言わなかった、それとも……何か問題でも抱えているのか……
トマホークステーキ:何もない。
ルーベンサンド:では教えてください。昨日みたいな大事な日に、貴方はどうしていなかったのですか?どこに行きました?何をしていたのですか?
トマホークステーキ:お前、いつからそんな細かい事まで聞くようになったんだ?
ルーベンサンド:答えてください。
トマホークステーキ:……お前とは関係ない。
ルーベンサンド:……貴方が言わないのでしたら、自力で見ます。
トマホークステーキ:またその目を勝手に使ったら、ここから出て行け。
ルーベンサンド:お前……!
ザバイオーネ:おや、随分やりあってるみたいだが……メイドさんは止めに行かなくていいのか?
ヴィーナー・シュニッツェル:安心してください。あれは兄弟のスキンシップに過ぎません、他人が介入する必要はありませんよ。
ザバイオーネ:兄弟?はぁ……随分特別な兄弟だな……
彼の言葉に対する返答はない、ヴィーナー・シュニッツェルは二人を連れ、長い廊下を抜け、ある扉の前で足を止めた。
ヴィーナー・シュニッツェル:これから家主のところへご案内します、彼女が貴方たちの質問に答えてくださるでしょう……
ヴィーナー・シュニッツェル:お嬢様、今よろしいでしょうか?
トフィープディング:どうぞ。
承諾を得ると、ヴィーナー・シュニッツェルはドアを開け、二人を部屋に入れた。
扉の真向かいにあるソファーに、いかにも優雅で気品はあるが、やや疲れが見える女性食霊が座っている。
トフィープディング:はじめまして、私はトフィープディング。目が覚めたばかりのお二人をここに来ていただいて、申し訳ありません……
ザバイオーネ:いえ、トフィーさんの方こそ、わざわざ俺たちの疑問に答えてくれるなんて……しかし、お疲れのようだが、大丈夫か?
トフィープディング:ふふっ、私は大丈夫、お気遣いありがとうございます。では……お二人に何か質問があるなら、どうぞ聞いてください、何しろ……
トフィープディング:貴方たちが、これから安心してこの「スペクター」ファミリーで働くためですから。
ザバイオーネ:?!
オイルサーディン:「スペクター」?!
スペクターⅧ
オイルサーディン:「スペクター」?!
トフィープディング:あら?何か問題でも?
オイルサーディン:いっ、いえ、大丈夫だ……
絶対みつけられないと思っていたターゲットが今目の前にいることに、オイルサーディンは一瞬驚きを抑えきれなかった。その異常さに相手もすぐ気づいたらしい。
ヴィーナー・シュニッツェル:ひょっとして、「スペクター」という名をご存じなのですか?
オイルサーディン:……!
オイルサーディン:(まずい、バレる……)
ヴィーナー・シュニッツェル:どうして答えないのですか?
オイルサーディン:俺は……
トフィープディング:ふふっ……私が言うのもなんだけど、「スペクター」という名は少なくともこの町では、誰もが知っていると言ってもいいでしょう。だから……
トフィープディング:どうして、この名を知っていることがおかしいと思うのかしら?
オイルサーディン:…………
ザバイオーネ:失礼した、私たちは「スペクター」を知らない訳ではない。ただ、その主に直接お目にかかれたことに驚き、また、お目にかかれなかったことを恥じているだけだ。
ヴィーナー・シュニッツェル:ふふっ……例え嘘だとしても、それなりの説得力のある理由ですね。
ザバイオーネ:嘘?いえ、紛れもない事実だ。
トフィープディング:ふふっ、ヴィーナーの冗談よ。それでは、雑談は後にして、お二人の仕事内容を確認しておきましょう。
オイルサーディン:仕事内容?
ヴィーナー・シュニッツェル:ご覧の通り、「スペクター」ファミリーには広大な荘園があります。当然、掃除やメンテナンスの仕事も膨大に……
ヴィーナー・シュニッツェル:坊ちゃんが貴方たちが仕事を探していると仰っていたので、違うのですか?
ザバイオーネ:つまり……私たちの仕事は、執事か?
トフィープディング:いいえ、違うわ……「スペクター」ファミリーに認められた者は、皆家族よ。
ヴィーナー・シュニッツェル:家族以外は全員、敵ですね。
ザバイオーネ:……
オイルサーディン:……
トフィープディング:そうだ、お二人の名前をまだ聞いていなかったわね。
ザバイオーネ:俺はサールです、彼はオーシャンだ。
トフィープディング:そう……ではサール、オーシャン、今は家庭教師と庭師、二つの役職が空いているわ。相談してから決めて、結果をヴィーナーに伝えて。
そう言って、彼女は疲れ切ったように目を伏せた。ヴィーナー・シュニッツェルがザバイオーネとオイルサーディンを連れて最初の部屋に戻ると、二人だけで相談させるため、部屋から出ていった。
ザバイオーネ:典獄長、どうする?ここで彼らと「家族」になるのか?
オイルサーディン:「スペクター」を見つけた以上、このまま立ち去る訳にはいかない。しかし、「顔のない男」は……
ザバイオーネ:ここで家族ごっこしながら「顔のない男」を探してもいいだろう。それに……俺たちだって簡単にはここから離れられないだろう。
オイルサーディン:……そうだな、ここに残って調べてみよう。
ザバイオーネ:役割分担は……俺が家庭教師で、典獄長が庭師でどうだ?典獄長は人を騙すのが下手そうだし、草花と一緒に仕事をした方が安全だろう。
オイルサーディン:……部屋の捜索はお前に任せる、何かわかったら花園に来てくれ。
ザバイオーネ:了解した。
創世
創世Ⅰ
役割分担を決めると、オイルサーディンは青年執事によって花園に案内され、ザバイオーネはヴィーナー・シュニッツェルについて3階へ行った。
ヴィーナー・シュニッツェル:坊っちゃん、つまり貴方の生徒に会わせますね。
ザバイオーネ:わかりました……家庭教師を選んだとはいえ、何でも教えられる自信はないのだが……その、仕事とは具体的にどういったものなんだ?
ヴィーナー・シュニッツェル:家庭教師というより、専属執事のようなものですね。坊ちゃんの安全を守りつつ、常識的な事を教えてくだされば、問題ありませんよ。
ザバイオーネ:恐縮だが、わざわざ先生を家に招くより、坊っちゃんを学校に行かせた方がいいと思う、社交性も重要だからな。
ヴィーナー・シュニッツェル:いいえ、坊ちゃんに社交性など、必要ありません。
ザバイオーネ:必要ない?
ヴィーナー・シュニッツェル:厨房と食堂は1階、2階に応接間、3階からは坊ちゃんや、お嬢様たちの部屋になります。
ザバイオーネ:(話の変え方は強引だが、まったく違和感がない……)
ヴィーナー・シュニッツェル:とは言え、用事がない限り、お嬢様の邪魔はしないでください。
ザバイオーネ:わかった……ヴィーナーさんの話を聞く限り、「スペクター」には家族がたくさんいるようだな?
ヴィーナー・シュニッツェル:そうですね……焦らないでください、機会があれば、きちんと紹介しますから。
ヴィーナー・シュニッツェルの冷たい表情に意味不明の笑みが掠めた。ザバイオーネは何か違和感を覚えたが、既に目的地に到着してしまった。
コンコンッ--
ヴィーナー・シュニッツェル:坊ちゃん、新しい家庭教師が来ましたよ。
デビルドエッグ:はーい!入って!
返事があったが、ヴィーナー・シュニッツェルはドアを開けようとはせず、後ろに下がった。明らかに、ザバイオーネにドアを開けるよう促している。
ザバイオーネ:(どう見ても何か罠があるみたいだな……)
そう思っていても、ザバイオーネは笑ってドアノブを握った。だが、ドアを開けた瞬間素早く横へ避けた。
バシャンッ--
ザバイオーネ:おや、もう少しでずぶ濡れになるところだったな……いかにもお決まりの愛くるしいイタズラですね、坊っちゃん。
デビルドエッグ:なっ……コホンッ、君にはわからないだろうけど、これは悪魔除けの聖水なんだ、避けたら幽霊がやってくるぞ!
ザバイオーネ:幽霊?えーと……貴方の後ろにいる者のこと、ですか?
デビルドエッグ:後ろ?後ろに何が……
デビルドエッグ:ゆっ、幽霊がいるの?!助けてー!!!あれ?
慌てて箱に潜り込んで身を隠そうとした少年は恐怖に慄いたが、振り向くと背後には何もなかった。
ザバイオーネ:ぶっ……怖がらないでください、ただの冗談ですよ。
デビルドエッグ:おっ、お前……!
ヴィーナー・シュニッツェル:ふふっ、貴方はこの仕事に向いているようですね。これからも是非、坊っちゃんと仲良くしてください。
デビルドエッグ:ちょっと……ヴィーナー!得体の知れない奴と二人きりにするの?!
ヴィーナー・シュニッツェル:坊っちゃん、安心してください。この家庭教師が悪事を働いたら、私が必ず坊っちゃんの仇を討ちますから。
デビルドエッグ:絶対僕に何か起きる想定じゃん!行かないで!ねぇってば!
大暴れしている少年をよそに、ヴィーナー・シュニッツェルは平然とドアを閉め、くるりと踵を返し、トフィープディングの寝室に戻った。
ヴィーナー・シュニッツェル:お嬢様に言われた通り、坊っちゃんに会わせました。
トフィープディング:そう、ご苦労様、ヴィーナー。
ヴィーナー・シュニッツェル:どうです?彼らは魔導学院の連中ですか?
トフィープディング:いや……これまでの部屋での会話の内容からして、「スペクター」狙いではないみたい……
トフィープディング:ただ、魔導学院と無関係とは言い切れないわ、私たちを惑わすためかもしれない……彼らが現れた時期はあまりにもタイミングが良すぎる、油断しないで。
ヴィーナー・シュニッツェル:承知しました……坊っちゃんの部屋を見張りに行きます、異変があったらすぐに捕まえます。
トフィープディング:ええ、頼んだわ。
創世Ⅱ
ヴィーナー・シュニッツェルが去った後、ザバイオーネとデビルドエッグは、どちらかが先に話したら負けるかのように立ち尽くしていた。
結局、ザバイオーネは我慢できずにため息をついた。
ザバイオーネ:坊ちゃん、俺は家庭教師です、怪しい者じゃありません。そんなに警戒しなくてもいいと思いますよ?
デビルドエッグ:フンッ、どうだか!悪い人はみんな優しくて良い人のフリをするんだ!知ってるからな!
ザバイオーネ:おや?坊ちゃんの話を聞くと、何か訳がありそうですね……俺も心理学を勉学した身です、お役に立てるかもしれませんよ。
デビルドエッグ:必要ない!フンッ、何も言わないからな!
ザバイオーネ:それはちょっと困りますね……別に子どもの相手がしたい訳じゃありませんので……自分で調べるしかないですね。
デビルドエッグ:うん?
5分後ーー
デビルドエッグ:ぐぅ……悪い人に……教えない……「スペクター」のこと……
ザバイオーネ:だから自分で調べると言ったじゃないか。
絨毯の上で寝そべっている少年を見て、ザバイオーネは堪えきれずに笑い出した。
ザバイオーネ:やはり子どもだな、知らない者からもらった食べ物を食べてはいけないだろう?
デビルドエッグ:僕は……子どもじゃない……
ザバイオーネ:わかったわかった。安心して眠りなさい、お坊ちゃん。
毛布を手に取って少年に掛け、ザバイオーネは静かに部屋を出た。
ザバイオーネ:(それにしてもこんな単純な子どもが「スペクター」の一員だったなんて……これが、魔導学院自慢の戦闘部隊か……)
ザバイオーネ:(まあ、誰かに見つかる前に急いで調べよう……)
ザバイオーネは無意識に背を低くし、静かな廊下を慎重に進んだ。ドアを開けて部屋の中を調べようとした時、女性の声が後ろから聞こえて来た。
レイチェルサンド:何もんだ?
思わぬ展開にザバイオーネは冷や汗をかいたが、彼はすぐさま反応し、軽快した表情を緩め可哀想な顔を浮かべた。
ザバイオーネ:これは失礼しました、お嬢様。俺はサール、新しくこの家に来た家庭教師です。その、貴方は……?
レイチェルサンド:あたしはレイチェル。家庭教師なら……こんなところで何こそこそしてんだ?
ザバイオーネ:すみません、洗面所を探しておりまして……
レイチェルサンド:言い訳が下手だな。
ザバイオーネ:……
レイチェルサンド:お前のその武器に見覚えのある……外から入ってきたのか?
ザバイオーネ:外?
レイチェルサンド:ハッ、口はなかなか堅いようだな。何でもない。お前が何をしようと、あたしには関係ない、だが……
レイチェルサンド:今は、この部屋に入らない方がいい。
ザバイオーネ:それは……理由を聞いてもいいですか?
レイチェルサンド:ダメだ。
ザバイオーネ:……
レイチェルサンド:お前の任務を続けろ、家庭教師。またな。
ザバイオーネ:……
その姿が廊下の先に消えていくのを見届け、ザバイオーネはやっとホッとした。
ザバイオーネ:しかし……彼女が言った事、なんだか変な感じするな……
ザバイオーネ:外?任務?……彼女は一体……
オイルサーディン:ザバ……サール!
ザバイオーネ:おや?典獄長様?どうしたんだ?そんなに俺のことが心配か?典獄長様がいない時に変なことなんてしない。
オイルサーディン:はぁ……ザバイオーネ、ここは……この場所は絶対に、変だ。
ザバイオーネ:そうに決まっているだろう、変じゃないなら、俺たちはここで何を調べているんだ?
オイルサーディン:そうじゃない……ここの問題はもっと深刻だ、もう……俺の想像すらも超えている……
ザバイオーネ:そんなにか?一体何を見つけたんだ?
オイルサーディン:ここの地下は、空っぽだ。
ザバイオーネ:???
創世Ⅲ
オイルサーディン:ここの地下は、空っぽだ。
ザバイオーネ:空っぽ?どういう意味だ?
オイルサーディン:文字通りの意味だ……考え事をしながら草刈りをしていたら、うっかり花を一輪抜いてしまった。すると引き抜かれた土の下には……何もなかった。
ザバイオーネ:何も……?
オイルサーディン:そうだ……ここは、現実の世界じゃないみたいだ。
ザバイオーネ:……確かに、その方が筋が通るな。
オイルサーディン:?
ザバイオーネ:現実の世界じゃないなら、俺たちが無縁墓地から荘園に移された事も説明がつく。
オイルサーディン:一体、どういう事だ……
クリームチキン:ああ!オーシャン!やっと見つけましたよ!
オイルサーディン:!!
背後から聞き覚えのある声がした。オイルサーディンは顔を強張らせ、振り返ってから青年執事に頭を下げる
クリームチキン:確かに草刈りはつまらない仕事ですが、初日から仕事をサボるのはかなり困りますね……
オイルサーディン:えーと……サボっている訳ではなく……
クリームチキン:なんでしょう?何か良い言い訳でもあるのですか?
オイルサーディン:……庭園の草刈りをしていたら、土の下に何もなく……
ギシッ--
オイルサーディンの言葉を遮るように、妙に大きなドアの開く音がした。3人が思わず顔を合わせると、上品な雰囲気を纏うトフィープディングがドアの中から出てきて、あたたかく春風のように微笑んだ。
クリームチキン:おっ!お嬢様!申し訳ございません、うるさくしてしまいましたか?
トフィープディング:いいえ、大丈夫よ、執事さん。ただ、サールとオーシャンに話したい事があるのだけれど、いいかしら?
クリームチキン:もちろんでございます!
トフィープディング:では、二人は私の部屋に来て頂戴、私はあまり外に出られないの……
トフィープディング:執事さんは坊っちゃんを部屋に連れて帰って。夕食の前に、また綺麗な服に着替える必要あるかもしれないわ。
クリームチキン:えっ?坊ちゃん……?
デビルドエッグ:ううっ……また見つかっちゃった……
言葉と共に、隅から小さな人影が出てきた。ザバイオーネが睡眠薬を飲ませたデビルドエッグだ。
彼は大人しく執事のそばに行き、ザバイオーネの前を通る時、密かに変顔をして囁いた。
デビルドエッグ:へへっ、僕は昼間眠ったことがないんだ。弱みを掴んだよ、この悪人!
ザバイオーネ:……
トフィープディング:二人とも、入って。
彼女は少年の行動を気にする事なく、余裕な様子で二人を部屋に招待した。
オイルサーディンとザバイオーネは顔を見合わせてから、室内に入る。そこには、見覚えのある人物がいた。
オイルサーディン:お前?!
創世Ⅳ
オイルサーディン:お前?!
トマホークステーキ:そんなに驚くか?俺がお前らをここに連れてきたんだ、ここで会えるのも当然だろう。
オイルサーディン:おいっ……
トマホークステーキ:フンッ、敵でも見るような顔をして、聞きたい事があるんだろう?聞いてみろよ。
ザバイオーネ:……
オイルサーディン:……
トフィープディング:二人とも、もう遠慮する必要はないわ。実は貴方たちの会話を全て聞いていたの。
オイルサーディン:俺たちの会話を聞いたのか?
トフィープディング:この邸宅にいる限りそれができるわ、精神を集中しなければならないけれど。
ザバイオーネ:……ここは一体どこなんだ?
トマホークステーキ:無縁墓地だ、わざわざここまで探しに来たのだろう?
ザバイオーネ:……
オイルサーディン:どうやらもう隠す必要はないな……そうだ、俺たちは「スペクター」を探しに来た、ただ現存の資料があまりにも少ないため、「スペクター」の事については何も知らない。
トマホークステーキ:ハハッ、結局……奴らの望み通りだな。
オイルサーディン:奴ら?
ザバイオーネ:というのは……魔導学院のことか?
トマホークステーキ:……うん。
オイルサーディン:……なんでお前が知ってる?
ザバイオーネ:初めて会った時、俺の杖に見覚えがあると言った……杖は確かに魔導学院の物だが……
ザバイオーネ:魔導学院に深い敵意を持っているようだな……魔導学院に召喚されたのに。
トマホークステーキ:召喚は確かにそうだ。俺は最初お前らが魔導学院の手先だと思い連れて来た……ここに連れてきた方がやりやすいからな。
オイルサーディン:……
斧で気絶させられた時のことを思い出し、オイルサーディンの顔が強張った。
オイルサーディン:俺たちを殺す気か?
トマホークステーキ:そう考えていた、侵入者だからな。ただ……
トマホークステーキ:お前らの話を聞くとただ「顔のない男」を探してるだけで、それ以外の事は何も知らないようだからな。
トフィープディング:申し訳ございません、お二人が「スペクター」ファミリーの敵かどうかを確認するために少し探りを入れたの……
トフィープディング:会話の盗聴と、別々の仕事をさせて……
ザバイオーネ:家庭教師なのに、教える仕事を与えてもらえなかった訳だ。
トマホークステーキ:お前がデビルドエッグに薬を盛った時、俺の斧はお前の首にかかっていた……あいつに毛布を掛けなかったら、ここに立てなかっただろうな。
オイルサーディン:これって……一体どういう事なんだ?
トマホークステーキ:……
トフィープディング:私が説明するわ。
トマホークステーキの沈黙の代わりに、トフィープディングが少し疲れた顔で口を開けた。
トフィープディング:これからお二人に説明することは、今はまだ秘密です、どうか誰にも言わないで。
ザバイオーネ:もちろん。
トフィープディング:ありがとう……貴方たちが想像している通り、この世界は真実ではない。この世界は……
トフィープディング:私が「創造」したものよ。
ザバイオーネ:!
創世Ⅴ
ザバイオーネ:君が「創造」した……この世界をか?
トフィープディング:ええ。
彼女は少し疲れた笑みを浮かべ、窓際のソファーに腰を下ろしてから話を続けた。
トフィープディング:お二人が既に知っているように、「スペクター」は魔導学院の対堕神兵器計画によって生まれた、つまり彼らの意のままに「作られた」食霊よ。
ザバイオーネ:特殊な契約儀式や召喚物を通じて召喚されたのか?
トフィープディング:具体的な方法は私たちにも知らない、それは魔導学院の機密であり、私たちには知る権限はない……
トフィープディング:いずれにせよ、魔導学院の意のままに一部の食霊に特殊能力が与えられた。例えば、私の能力は……「創造」よ。
ザバイオーネ:これは凄い能力だ……こんなにもリアルな世界を作れるなんて……
トフィープディング:いいえ、私の能力が実物を創造出来るとしたら、食霊ではなく神様になれるわ……
彼女は笑ったが、疲れた表情は痛々しく見える。
トフィープディング:これはただの夢の世界。私だけでなく、夢の世界に入った全ての者の意識が具現化される。友も、敵も、見知らぬ人も、全て深層意識にすぎない……
オイルサーディン:では……この世界にあるものを意識的に操作できるのか?
トフィープディング:普通なら無理よ、貴方たちは夢の主じゃないから。そもそも訓練を受けていない一般人も、自分の意識を簡単にコントロールすることはできない。
ザバイオーネ:しかし……夢は無秩序なものであるはずだ、異なる人物の夢が通じるなどありえない話だ。この世界は……夢と言うわりにはリアルすぎる……
トフィープディング:一人一人の夢は縄のように、重ね合わせると網になる。私は人々の夢の間の穴を埋め、意識の出現と消滅を合理化し矛盾を解消しているの。
トフィープディング:睡眠も含め……特例もあるものの、全ての者は夢で疲れを感じる訳じゃない……より夢をリアルだと感じさせるため、私は夢にいる全ての者に「眠い」感情を出現させ、強制的に眠らせている。
トフィープディング:そのため、貴方の薬はデビルドエッグには効かなかったのよ。
ザバイオーネ:……彼は眠ったフリをして俺を騙したのか?
トフィープディング:君に疑われないよう、彼の意識を少し細工したわ。
ザバイオーネ:……そう聞くと、とんでもない仕事量だな……
トフィープディング:その通りよ、私の霊力も無尽蔵ではない、この夢の世界を維持するのは難しいの。だから私は寝室から長く離れられない、地下の世界を創る気力もないわ。
オイルサーディン:なるほど、だから地下には何もないのか……
ザバイオーネ:しかし、どうして自分自身の霊力を使ってまで、こんな夢の世界を創ったんだ?
トフィープディング:……そういう契約だから、私たちはここから離れる事は出来ないの。
トフィープディング:私たちは魔導学院に、人間に……捨てられたのよ。
百年前
邪神遺跡
クリームチキン:いったたたた……ヴィーナー!貴方はもしやこの機を乗じて私を殺そうとしたのですか?!
ヴィーナー・シュニッツェル:痛い方が覚えられるでしょう、次は堕神から私を庇わないでください。
クリームチキン:しかし私が前に出なければ貴方が……わっ!痛いって言ったでしょう!
ヴィーナー・シュニッツェル:言いなさい、次はもう私の前に出ないと。
クリームチキン:……もう、しませんから……
ヴィーナー・シュニッツェル:よく言いました。傷は処理しましたが、この2、3日間は触らないように。包帯が緩んだり、破けた時は私に言うように、いいですね?
クリームチキン:はい……
レイチェルサンド:……ヴィーナー、大げさだろ、それくらいの傷なら時間経過で治るだろう。あたしがこの前足が折れた時すらあんなに包帯巻いてないし……
ヴィーナー・シュニッツェル:ちょうど良かったです。次は貴方の傷を処理します、しばらくは動かないでください。
レイチェルサンド:……チッ。
トフィープディング:ありがとうヴィーナー、私たちは皆治療が苦手なの、貴方がいなければもっと大変なことになっていたわ。
ヴィーナー・シュニッツェル:貴方の命を狙っていた者に、感謝の言葉は必要ありませんよ。
トフィープディング:ふふっ……では、レイチェルのこと、お願いするわ。
ヴィーナー・シュニッツェル:貴方がそう言うなら、今日はパラータから学んだマッサージ治療をしてみましょう。うーん……お客様の筋肉はとても凝っていますね。
レイチェルサンド:おいっ!……いってぇ……これ本当に治療してるのか?殺そうとしてないよな……
ヴィーナー・シュニッツェルがわざと力強くマッサージをしているのを見て、トフィープディングが不意に笑みをこぼした。突然、彼女のドレスの裾が引っ張られる。
トフィープディング:あら?どうしたの?
デビルドエッグ:姉さん、いつまでここにいるの?そろそろ帰らないと、僕のキャンディ缶が空になっちゃう……
トフィープディング:ごめんね……もう少し我慢して、堕神が全員……
デビルドエッグ:イヤだ……ここ怖い、夜も怪物の叫び声が聞こえるし、虫もいっぱいいるし……もうここにいたくない……今から逃げよう?
トフィープディング:でも、ここで戦うのが私たちの使命よ……
デビルドエッグ:わからない!僕たちは、こんなところで苦しむために召喚されたの?
トフィープディング:……
パンドーロ:姉さんを困らせないで。戦えないクセに、邪魔しないでよ!
デビルドエッグ:うう……うううぅ……
パンドーロ:違うの、そうじゃなくて、あたしが言いたいのは……
叱られて涙目になるデビルドエッグを見てパンドーロは急激に後悔した。彼女が謝罪する間もなく、テントが開いて、一人の青年が入ってきた。
トマホークステーキ:お前ら、騒ぐな、使者の到着だ。
創世Ⅵ
トマホークステーキ:お前ら、騒ぐな、使者の到着だ。
テント内は一瞬にして静まり返り、全員が青年の後ろにいる見知らぬ人間に視線を向けた--彼の胸元にある魔導学院の紋章が、彼の正体を物語っている。
使者:「スペクター」の皆、ご苦労。「スペクター」が人間の未来のために犠牲にした事は歴史に記録され、後世に称えられるだろう……
トマホークステーキ:そんなくだらない話はどうでもいい、用件がないならさっさと帰れ。
使者:ふふっ……今回来たのは皆にとって、いい知らせを伝えるためだ--
使者:明日、ここから撤収し、学院に戻るように。
トフィープディング:撤収?しかし……堕神はまだ……
使者:堕神の粛清は1日、2日でできることではない。皆が十分な休息と訓練を経てから再び戦場に戻って任務に就くのが一番効率的だ。
使者:私の用件はそれだけだ。あとは、急いで準備をしてくれ。明日、私と一緒に学院に帰ろう。
用件を伝え終わると、使者は背を向け、テントから出て行った。
デビルドエッグ:僕たち……帰れるの?
パンドーロ:帰るって言っても、別に良い事じゃないよ……訓練があるし、罰もあるわ……
デビルドエッグ:でも少なくとも寝床と食べ物もあるよ、毎日堕神の声を聞かなくても済む……素直に言う事を聞いていれば、水責めも電撃も受けなくて良い……
パンドーロ:しかし……
ルーベンサンド:時間です。
デビルドエッグ:うん?
それまで黙って隅に立っていたルーベンサンドが、まるで関係のなさそうな声を出して、デビルドエッグはぎょっとした。
レイチェルサンドがすぐに反応し、パンドーロとデビルドエッグを促す。
レイチェルサンド:帰るかどうかはお前ら子ども二人が決める事じゃない。そんな事考えてないで、さっさと荷物をまとめて寝ろ。
ヴィーナー・シュニッツェル:クリームチキン、貴方も今日怪我をしたのですから、早く休んでください。
トマホークステーキ:そうだな、ついでにこのガキ二人を見張ってろ、暴れて明日起きれなくなるぞ。
クリームチキン:えっ、ああはい……
パンドーロ:……
パンドーロは何か感じたのか口を開こうとしたが、クリームチキンに促されてやむを得ずテントから出た。彼らが立ち去った後、テントの空気は一気に重苦しいものに変わった。
トマホークステーキ:ガキはもういない……ルーベン、言え。
ルーベンサンド:……うん。
ルーベンサンド:あの使者、どう見ても異常です。
創世Ⅶ
ルーベンサンド:あの使者、どう見ても異常です。
レイチェルサンド:何だ?
ルーベンサンド:まず、出発前に下された指令はーー堕神を全て粛清しないと、帰還は許さない。それなのに、急に帰って休むよう言ってくるなんて……おかしいですよね?
ルーベンサンド:治療の仕方も教えてくれなかったのに、今更私たちの休息を気にするのはおかしいでしょう?
トフィープディング:もしかすると、特訓が目的?
ルーベンサンド:あの使者はヴィーナーを見たのは初めてのはずですが、まるで彼女がここにいることを知っていたように、驚いていませんでした。
レイチェルサンド:ヴィーナーは、つい最近入ったばかりの新入りだ……
ルーベンサンド:魔導学院は私たちのことを厳しく監視してきました、突然見知らぬ食霊が出て来たのに、無視するとは……異常過ぎます。
ヴィーナー・シュニッツェル:魔導学院から監視が送られてきたんじゃないか?
ルーベンサンド:可能性としては言い切れませんが、もう一つ推測があります。
ルーベンサンドは黙ってヴィーナー・シュニッツェルを見つめる、レイチェルサンドはすぐに意味を理解した。
レイチェルサンド:ヴィーナー、お前傭兵時代に魔導学院と接触した事はあるか?
ヴィーナー・シュニッツェル:決まった仲介者としか連絡を取っていませんでした。魔導学院の依頼を受けていても、魔導学院の人間に直接会ったことはありません。
トマホークステーキ:……邪神遺跡に来たのは、誰かがお前を雇って「スペクター」を消すよう依頼したからだろう?
ヴィーナー・シュニッツェル:……まさか?!
ルーベンサンド:ヴィーナーを雇って私たちを殺しに来させたのは、魔導学院でしょう。
トフィープディング:……
ルーベンサンド:あの使者は魔導学院で会った事がありません。彼が魔導学院所属の証拠もないです。もし違うのでしたら、撤収は魔導学院の最初の命令に逆らう事になります。
トフィープディング:そうすると……私たちは、契約違反により、反動を受けることに……
ルーベンサンド:そういう事です。もし彼が本当に魔導学院の所属でしたら、私たちは結局、命令に服従しない結果になる。
トフィープディング:……
ルーベンサンド:堕神がほぼ粛清された今、魔導学院にとって私たちにもう利用価値はありません。推測ですが、私たちを消すつもりで間違いないのでしょう。
レイチェルサンド:ハッ、あのクソ野郎共……
ルーベンサンド:待て!レイチェル、どこに行くつもりだ?!
レイチェルサンド:どこに?あいつらが温室でのんびり過ごせるように、あたしたちは毎日堕神と死闘してきた!結果は?最期まで弄ばれたままでいいのか?!
レイチェルサンド:舐めやがって……魔導学院の連中なんざ全員ぶっ殺してやる!
トフィープディング:ダメよ!人間を傷つけたら契約違反の反動が!早く彼女を止めて!
トマホークステーキ:チッ……レイチェル!止まれ!
先にテントを出た二人を見て、テントに残された者たちはそれぞれ考え込んだ。
ルーベンサンド:……魔導学院が本当に私たちを消すつもりでしたら……どうします?
トフィープディング:……
ヴィーナー・シュニッツェル:大人しく従ったりしませんよね?それは私が知る「スペクター」ではありません。
ルーベンサンド:……私たちが召喚される前に結ばれた特殊な契約により、召喚者を傷つけられない上に、召喚者の命令に背くだけで反動が起きる……
ヴィーナー・シュニッツェル:ですが、トマホークならその影響を受けないのでは?
ルーベンサンド:影響は受けない訳ではありません、私たちよりも強いからその苦痛に耐えられるだけです。契約違反の反動が続けば、彼も……
ヴィーナー・シュニッツェル:それなら問題ありません。トマホークの補佐として、私が貴方たちを召喚した連中を皆殺しにすればいいだけです。
ヴィーナー・シュニッツェル:御侍が死亡すれば、契約は中止される、これは全ての食霊に適応されるはずです。
ルーベンサンド:……魔導学院の全員を相手にする事になりますよ?
ヴィーナー・シュニッツェル:魔導学院の全員に過ぎませんよ。
ルーベンサンド:……
トフィープディング:……魔導学院と交渉の余地が残っているのなら、皆殺しまでしなくとも……
ヴィーナー・シュニッツェル:貴方たちに反抗したい考えがあるのでしたら……じっくり計画しましょう。
創世Ⅷ
邪神遺跡
キャンプ地
トマホークステーキ:レイチェル!お前、少し落ち着け!
レイチェルサンド:あのクソ野郎!どこに隠れた?!出て来いっ!!!
クリームチキン:レッ、レイチェル……
レイチェルサンド:!
声がする方を見ると、見慣れた姿が倒れていて、その身体には無数の傷があり、そこから止めどなく血が流れていた。
レイチェルサンド:クリームチキン!お前怪我したのか!何があった?!パンドーロとデビルドエッグは……それにあのクソ使者はどこだ?!
クリームチキン:森……彼らは、パンドーロとデビルドエッグを森に……連れて行った……
レイチェルサンド:あのクソ野郎!
トマホークステーキ:レイチェル!
レイチェルが薄暗い森に向かって駆け出したのを眺めるしかないトマホークステーキは、歯を食いしばってクリームチキンに聞いた。
トマホークステーキ:お前……持ちこたえられそうか?
クリームチキン:私は、大丈夫です……早く……早く彼らを助けて……
トマホークステーキ:……すぐに戻る!
かつて堕神が蔓延っていた森は、「スペクター」の数十年に渡る努力のおかげで、やっと静かな森になった。しかし……この森が再び彼らの悪夢になることは誰も想像だにしていなかった。
レイチェルサンド:パンドーロ!デビルドエッグ!どこだ!どこにいる?!答えろ!!!
使者:やれやれ……森にいれば少し静かになるだろうと思っていたのに、うるさいな。
レイチェルサンド:クソ野郎!パンドーロとデビルドエッグはどこだ?!
使者:ふふっ、どうやらもう私の目的を知っているようですね。
レイチェルサンド:この野郎!認めるのか?!「スペクター」はお前らみたいな死ぬのが怖い弱い人間のために、何十年掛けてここを守ってきた!恩を仇で返すのかよ?!
使者:恩を仇で返す?お前たちは我々が作り出した兵器に過ぎない、何を欲張っているんだ?名声?それとも富?アハハハハッ--笑わせるな!
使者:滅びる運命と共に生まれたお前たちは、何故自分たちが「スペクター」と呼ばれているのか知らないのか?
レイチェルサンド:なっ……何を……
使者:「スペクター」、すなわち「Specter」……この世に存在しない「幽霊」ってことだよ!
レイチェルサンド:!
その瞬間、様々な記憶が彼女の脳内に流れ込んだ--
───
研究員:人間の未来のために戦ってくれ、全ての希望は貴方たちに託した、歴史を紡ぐためには貴方たちの力が必要なんだ!
軍曹:人間の栄光のために戦え!このティアラ大陸にいる全ての生命に貴様等の名が刻まれるだろう!
トマホークステーキ:なぜ人間のためにこんな事をしなければならないんだ?反動の心配はするな、俺は耐えられる、一人であいつら全員をやっつけてやる。
トフィープディング:しかし、彼らに召喚されなければ、私たちはここにいない……ティアラの人々に平和をもたらすのも悪くないと思うわ……
研究員:ナイフラストの堕神を全て粛清したら、「スペクター」に報酬と自由を与えよう、誰の言う事も聞く必要なくなります。
トフィープディング:その時は大きな家を建てて、皆一緒に住もう。
クリームチキン:本当ですか?その家に花園を作っても大丈夫ですか?
デビルドエッグ:たくさんおもちゃが欲しい!そして美味しいものも!
トフィープディング:ぶどう畑も欲しいわ、レイチェルはワインが大好きよね?
レイチェルサンド:あたしは……
───
使者:お前らは怪物だ!
レイチェルサンド:!
使者:食霊と堕神は本質的に違いはない。お前たちは堕神と数十年間戦って来た、とっくに汚染されてるんだ!お前たちもいつか堕神になる!人間の敵になるんだ!
レイチェルサンド:ふざけるな!あたしは堕神になんてならない!
使者:ハッ、見苦しいな!人間の栄光に異物は必要ない、お前達はここまでだ!人間のために死ね!これがお前たちの運命だ!
レイチェルサンド:このっ……ぶっ殺す!!!
トマホークステーキ:レイチェル!あいつの言葉に耳を貸すな!
恨みによって目の前が真っ赤になり斧を掲げたレイチェルの腕を、トマホークステーキはしっかりと掴んだ。
トマホークステーキ:あんなクソ野郎の罠にハマるな!わざとお前を刺激して、お前に契約の反動を受けさせようとしてるぞ!
レイチェルサンド:……!
トマホークステーキ:あんなチンピラは、俺に任せろ。
使者:ハッ……まだわかっていないようだな。
トマホークステーキ:ああ、精々今のうちに笑っていろ、すぐにそんな暇はなくなる。
使者:ハハハハハッ!本当に何の準備もせずにここに来たと思うか?お前のような契約に縛られない強い食霊に対応するため、私たちは策を練ったんだ。
トマホークステーキ:何だ?
使者:あのガキたちを死なせたいのなら、今すぐにでも手を出せばいい。
デビルドエッグ:にっ……兄さん……たすけ……て……
トマホークステーキ:!!!
家族
家族Ⅰ
デビルドエッグ:にっ……兄さん……たすけ……て……
パンドーロ:ダメ……放っておいて……早く……行って……
使者:役立たずが、黙れ。親愛なる兄を脅すためだけに金を費やして飼ってきたお前らは、やっと役に立てるんだ、私たちに感謝して欲しいくらいだな?
デビルドエッグ:兄さんを……脅すために……生まれたの……?
使者:ハハハッ、その通りだ!お前はただの役立たずだからな!
トマホークステーキ:……あの野郎ッ……
トマホークステーキは拳を握り締め、呼吸すら止まりそうになっていた。地面に倒れ弱っている二人は、さっきまでそばではしゃいでいたのに……彼の胸に怒りが沸騰していた。
トマホークステーキ:……お前、タダで済むと思うなよ?
使者:なんだ?二人のために、お前が自分を犠牲にする番だろう?
トマホークステーキ:……
使者:どうせこいつらは弱い、残しても私たちに何の脅威にもならない。お前が死ねば、こいつらを生かしても構わない。だが保証は出来ない……まあ、お前に他に選択肢などないがな?
使者:私の気が変わらないうちに、早く自害でもしたらどうだ?アハハハハッ!
レイチェルサンド:兄貴!
トマホークステーキ:ああ……俺があんな野郎の指図を受ける訳がないだろ……
使者:……それが答えか?このガキたちが死んでもいいのか?
トマホークステーキ:どうやら……お前らは俺の力をよく知らないようだな……
使者:お前……!
───
オイルサーディン:……
ザバイオーネ:……
トフィープディング:……トマホークは結局、反動の苦痛に耐え使者を始末した。しかし、私たちも代価を支払った。癒やす事のできない傷を受けた者、記憶がなくなった者、その上……
トフィープディング:すみません、貴方たちに同情されたいからではないわ、ただ貴方たちを探った原因を説明したいだけなの……
トフィープディング:私たちと魔導学院は、貴方たちと逆の立場に位置しているけれど、私たちが悪ではないと証明したいの。
オイルサーディン:まさか魔導学院がこんな事をしていたとは、お前たちが憎むのも自然な事だ、しかし……
オイルサーディン:復讐を考えなかったのか?
トフィープディング:これは終わらない憎しみ、他人を傷つけても、私たちの苦痛を晴らすことはできない……それに、契約に縛られているため、私たちは人間を傷つけることはできない……
オイルサーディン:だが……お前たちを召喚した連中はとっくに死んでいるはずだ。契約はまだ有効なのか?
トフィープディング:何年もかけて作り上げた、特殊な契約だから……
ザバイオーネ:……すまない、皆の境遇に同情を表する前に、一つだけ知っておきたい事がある。
ザバイオーネ:何故俺たちにそんな事まで言う必要がある?俺たちが復讐の対象でないことが確認できたのなら、この世界から放り出してもいいだろう?
トフィープディング:私たちには助けが必要だから。
オイルサーディン:助け?
トフィープディング:ええ……この世界に、侵入者が現れたの。
オイルサーディン:どういう事だ?ここはお前が創った夢の世界だろう?まさか……
トフィープディング:わたくしも知らない方法で夢に入って来た者がいるの……トマホークが現実に行ってパトロールしてくれなかったら、侵入者がいることすらわからなかったわ。
オイルサーディン:侵入者は……何者だ?
トマホークステーキ:男女の食霊だ、トフィーの頭に変なパイプを繋いだあと、入って来やがった。
トフィープディング:彼らが私に対して何をしたのかまだわからない、だから迂闊に動けない。もしこの世界を崩壊させたら、大変だから……
トフィープディング:この世界の真相を知っているのは私とトマホーク、ヴィーナーだけ。現実世界と夢の世界を守るため、トマホークは現実でパトロール、ヴィーナーはここに私の手助けをする必要がある……誰も、動けない状況よ……
オイルサーディン:俺たちに何をして欲しいんだ?
トフィープディング:この世界に閉じ込められたら目覚めることも、離れることもできない。だから……侵入者を捕まえて欲しい。捕まえられないのなら、せめて……家族を傷つけないようにして欲しい。
オイルサーディン:わかった、出来る事をしよう。
ザバイオーネ:任務を忘れるなと、お前が言ったのだろう、無茶をするな。
オイルサーディン:……邪神遺跡もナイフラストの管轄範囲だ。タルタロス大墳墓の典獄長として、人間であろうと食霊であろうと、ナイフラストの民を守る義務がある。
オイルサーディン:それに……侵入者は「顔のない男」とそいつの仲間の可能性も高い。
ザバイオーネ:ハハッ、こんな時だけ、典獄長様の頭の回転は速くなるようだな。
オイルサーディン:安心しろ、侵入者が「顔のない男」かどうか関係ない、あいつらを必ず見つけ出そう。
トフィープディング:本当に……ありがとうございます……
ザバイオーネ:感謝は事件を解決した後でいい。ところで、今日はいつもと違う感じの者はいなかったか?
トフィープディング:それは……どういう意味かしら?
ザバイオーネ:ご家族を疑っている訳ではないが……「顔のない男」は変装が得意だ、もしかすると家族に変装しているかもしれない。
トマホークステーキ:どうした?何か気付いたのか?
トフィープディング:そう言えば、さっきレイチェルが……確認しなければ……
トフィープディング:……しまったわ。
トフィープディング:レイチェルの気配が、感じられないわ……
家族Ⅱ
「スペクター」邸
ロビー
トフィープディング:どう?レイチェルは見つかった?
ヴィーナー・シュニッツェル:いいえ、どこにも……
トマホークステーキ:……現実を見て来たが、レイチェルの体はちゃんとある、なのにどうして……
トフィープディング:彼女の気配だけ感じられないのは何故?もしかして……もう、夢の世界を離れた?それはダメ……!
トマホークステーキ:焦るな、現実のレイチェルは起きてないからまだ大丈夫だ……彼女はまだここにいるのは間違いない……
ヴィーナー・シュニッツェル:申し訳ございません。今朝、私はレイチェル様が帰ってきたのを見たのですが、本物のレイチェル様じゃないだなんて……
トフィープディング:貴方のせいじゃないわ。私もレイチェルがいないのを今さっきまで気付いていなかった……
トマホークステーキ:一日中、ずっとサールとオーシャンを監視していたのだろう……そうだ、お前は侵入者の気配も感じられないのだろう?レイチェルはあいつらと一绪にいるかもしれない!
トフィープディング:そんな!ダメ……彼らがレイチェルに何かしたら……必ずレイチェルを取り戻す……
ヴィーナー・シュニッツェル:……しかしお嬢様ですら荘园の状況が把握できないのに、どうやって探せば……
ルーベンサンド:私に任せてください。
ヴィーナー・シュニッツェル:ルーベン様!貴方は……
ルーベンサンド:昨日は私がレイチェルを宴会場に連れて行った。彼女を連れて帰ってこなかったのも、彼女の失踪に気付かなかったのも、私の責任です……
ルーベンサンド:数時間後の未来を見れば、レイチェルの居場所がわかるはずです。
ザバイオーネ:未来を……見る?お前の能力は未来予知なのか?
ルーベンサンド:……
ルーベンサンドは重い表情のまま沈黙した。それから何かを決心し、眼鏡を外そうとした時、誰かによって手首を掴まれた。
トマホークステーキ:許可しない。
ルーベンサンド:てめぇ……
トマホークステーキ:お前が未来を見るのを許可しない。
ルーベンサンド:ふざけている場合か!じゃあどうやってレイチェルを見つけるつもりだ?!
トマホークステーキ:ならお前は?1時間後の未来でレイチェルの居場所が分からなかったら?その後は?
ルーベンサンド:2時間後の未来を見て、わからなかったら3時間後の見て……見つけるまで見ます。
トマホークステーキ:正気か?見るな!
ルーベンサンド:私の目だ、私の好きにする。
トマホークステーキ:このっ……!
ザバイオーネ:……失礼、どうして未来予知を阻止するんだ?こんな便利な力を使わないのは勿体ないだろう……
ヴィーナー・シュニッツェル:……能力を使うと、強い副作用が生じるからです。
オイルサーディン:副作用?
ヴィーナー・シュニッツェル:未来予知というのはただ未来を見る簡単な事ではないのです……ルーベン様の時間だけ、未来に行ってしまうのです。
オイルサーディン:つまり、能力を使う代わりに寿命が減るのか……?
ヴィーナー・シュニッツェル:食霊は人間の寿命と違うため、検証する事はできません。真の副作用は……悪念が生まれてしまう事です。
オイルサーディン:悪念……
ヴィーナー・シュニッツェル:何しろ未来は良いものばかりではありませんから。怒り、悲しみ、変えられない未来による、無力な自分への自責……最終的に、それらは食霊にとって致命的な悪念に変わります。
ザバイオーネ:つまり……堕化する可能性があるという事か?
ヴィーナー・シュニッツェル:……その通りです。
トマホークステーキ:前に何が起きたか覚えているだろう?見るな!
ルーベンサンド:……昔みたいに言う事を聞いて欲しいのなら、昔みたいに全てを私に話せ。
トマホークステーキ:……
ルーベンサンド:一体、私に何を隠しているんだ?レイチェルももう子どもじゃあるまいし、帰って来なかっただけでこんなに焦るのは何故だ?彼女の身に何が起きたんだ?それに……
ルーベンサンド:「スペクター」のビジネスは私が担当している、なのに貴方は毎日毎日どこに出掛けているんだ?それに帰って来る度に……その酷く疲れた様子はなんなんだ?
ルーベンサンド:どうして私に教えてくれないんだ?私は……そこまで信頼できないのか?
トマホークステーキ:……
ルーベンサンド:……言わないなら、見る。
トマホークステーキ:ルーベン!
結局一歩遅れた、ルーベンサンドは眼鏡を外し、紫色の瞳はまるで雲海が逆巻くかのように光と闇が閃き、彼は苦しそうに腰を下ろした。
トマホークステーキ:……
トマホークステーキは体を強張らせ、ルーベンの肩を抱え彼の様子を見つめた。青白い唇が震えながら開くと、トマホークステーキは慌てて耳を近づけた。
ルーベンサンド:レイチェルは……西……西の……廃……廃屋に……
ルーベンサンド:早く……彼女を助けて……う……
トマホークステーキ:もういい……お前は十分頑張った。
失神したルーベンサンドの体を横たわらせ、トマホークステーキは怒りを身に任せ出て行った。
トマホークステーキ:後は、俺に任せろ。
家族Ⅲ
西
廃屋
ハカール:レイチェルさん、どうぞ。
レイチェルサンド:お前、良い場所を知っているんだな。
ハカール:フフッ、ごめんなさい、少しの間だけ我慢してくれるかしら?
レイチェルサンド:そんなのどうでもいい。言ってみろ、舞踏会で言っていた……戦争について、どこまで知ってんだ?
ハカール:実は人間だけでなく、食霊も心身共に大きな影響を経験した後、自己保護のメカニズムを取るわ。失神したり……意図的に忘れたりね。
レイチェルサンド:あたしが戦争の事を忘れていると言いたいのか?お前こそ、どうして戦争の事を知ってるんだ?
ハカール:特殊能力があるからよ、アナタもよーく知っているでしょう?
レイチェルサンド:お前、まさかルーベンと同じ……
ハカール:フフッ……
レイチェルサンド:……あたしが何を忘れているのか、言ってみろよ。
ハカール:ワタクシが話すより、直接見た方が説得力があるんじゃないかしら?
レイチェルサンド:なっ……
ハカール:では、レイチェルさん。ワタクシが用意した演出を、ゆっくり楽しんで……
レイチェルサンド:……
ぼんやりとした香りが漂ってきて、レイチェルは急に眠気を感じ、視界もぼやけていった、そして……
ルーベンサンド:レイチェル!ボーっとするな!集中しろ!
レイチェルサンド:!
ここは、魔導学院の訓練場。信頼すべき仲間がいて、目の前には凶悪な堕神がいる。
状況がわからなくても、体は条件反射のように前を向き戦いを始めたーーこれこそ、彼女が召喚された理由だ。
レイチェルサンド:はぁ……やっと終わった……
ルーベンサンド:途中集中していなかったでしょう。
レイチェルサンド:勝ったからいいだろ?それに一回だけだし、見逃してくれ。
ルーベンサンド:……行きましょう。
レイチェルサンド:どこに?
ルーベンサンド:医務室です、さっきの戦いで……ペンデュラムが貴方の手を掠めましたから。
レイチェルサンド:ああ、これくらいの傷は放っておいても……
ルーベンサンド:早く来なさい。
レイチェルサンド:はいはい……
二人は荒れた訓練場を歩いた。乾燥した風は汗と血の匂いが混じり、戦いや痛みの記憶が蘇る。けど、一人じゃないからか、それは幸せな記憶でさえ感じる。
彼らは一人じゃら、ないから……
トフィープディング:レイチェル、早く来て。パンドーロがサプライズをしてくれるらしいわ!
レイチェルサンド:えっ……サプライズ?
トマホークステーキ:流星群を見せてくれるんだと、フンッ、子ども騙しだろ。
パンドーロ:子ども騙しじゃない!トマホークのバカ!流星群なんて見た事ないでしょう!
トマホークステーキ:は?あんなの何が面白いんだ?星が空を飛んでるだけだろ?
パンドーロ:もうっ、いい!……目を見開いてよーく見てなさい!
デビルドエッグ:わあー!キレイ!
いつも硝煙に覆われている空は、流星の明るい光に照らされていた。レイチェルはその光景を眺め、眩い星の光に微笑んだ。
ルーベンサンド:聞く話によると、流れ星に願いを唱えれば叶うらしいですね……科学的根拠はないですが……
トフィープディング:私たちもやってみる?
デビルドエッグ:うん!僕は戦争が終わった後に、おもちゃがいっぱい欲しい!キャンディーも!僕の遊びに付き合ってくれる、愚痴を言わない友だちも欲しい!
トマホークステーキ:おいっ、もしかして俺を貶してんのか?
デビルドエッグ:ぷっ……あと「スペクター」のみんなと、ずっとずっと一緒に楽しく過ごしたい!
パンドーロ:バカ、願いは一つだけよ!
デビルドエッグ:うぅ……じゃあ最後のお願いだけでいいよ……レイチェル姉さん!僕の代わりに願って!おもちゃとキャンディーが欲しい!
ヴィーナー・シュニッツェル:ふふっ……レイチェル、貴方の願い事は何ですか?
レイチェルサンド:あたしは……あたしは……
レイチェルサンド:このまま、皆とずっと一緒に、戦争がない……世界で……
ハカール:つまり、戦争は確かに起きていた、そうでしょう?
レイチェルサンド:……
ハカール:逃げちゃダメよ、あの戦争で「スペクター」が崩壊したのはまさに……アナタのせいなんだから。
レイチェルサンド:!
家族Ⅳ
百年前
邪神遺跡
使者:早く決めろ、自ら死にゆくか、ガキ共の死をその目で見るか……私の気が変わらないうちにな。
トマホークステーキ:フンッ……お前のようなクズの言いなりになる訳がないだろう……
レイチェルサンド:兄さん……
トマホークステーキ:レイチェル、ヴィーナーを探してクリームチキンとガキ共を治療させろ、俺はすぐにここを片付ける。
レイチェルサンド:しかし……
トマホークステーキ:早く行け。
レイチェルサンド:……クソッ!
体が勝手に反応し、レイチェルは薄暗い森の中を駆け抜け、キャンプ地の方に向かって走った。
距離的に遠くはないが、全力で走ったから酸素が足りなくなり、テントに着いた時には息が上がっていた。
レイチェルサンド:ハァ……ハァ……
ルーベンサンド:レイチェル?どうして一人で戻って来たんですか?
レイチェルサンド:……ヴィーナー、一緒に来い。
ヴィーナー・シュニッツェル:どうしたのですか?何かあった……
ルーベンサンド:なんだと?!
ルーベンサンド:お前の推測は大当たりだ。あの使者はパンドーロとデビルドエッグを人質にして、あたしたちを始末しに来た。
ヴィーナー・シュニッツェル:二人だけ?クリームチキンは?
ルーベンサンド:トマホークはどうした?!あいつだけ残して使者と戦わせたのか?!
レイチェルサンド:知らないよ!どうなったかは知らないよ!なんで人間はこんなにあたしたちを嫌うんだ?堕神なんざあたしたちをどうにもできない、人間を守るためここまで戦ったんだ!なんで、なんで今更……そんな事するんだ!
レイチェルサンド:どうしていいかわからない!兄貴みたいに反動に耐えられないし、そこに居ても迷惑でしかない!ヴィーナーを探す事しかできないんだ、じゃないとパンドーロたちは……あたしは……こんな事しかできない!
レイチェルサンド:なんで、なんであたしはこれしかできないんだ?!!!!
トフィープディング:レイチェル、少し落ち着いて。ルーベンはトマホークの心配をしただけだよ、貴方を責めるつもりはないの……
ヴィーナー・シュニッツェル:……とりあえず、私を連れて、パンドーロたちの治療をしに行きましょう。
レイチェルサンド:ハハッ……治療……治療って何の意味があるんだ?契約がある限り……いつでもあたしたちを殺せる!パンドーロとデビルドエッグも兄貴を脅す道具としか見ていない!あたしたちの仲間なのに!あいつらにとってはなんでもないんだ!
レイチェルサンド:虫ケラ、ハッ、クソ野郎共の目には、あたしたちはいつでも殺せる虫ケラとしか見られていないんだろうな!治療……?治療よりも……ああ、殺す……あいつらを殺せばいい……
レイチェルサンド:……クソ野郎共を殺せば、いい。
トフィープディング:レイチェル?どうして一人で戻って来たんですか?
レイチェルサンド:クソ野郎共を殺せばいい、クソッ……魔導学院のクソ野郎共……あいつらは死ぬべきだ……死ぬべきなのはあいつらだ……あたしたちじゃない……
トフィープディング:レイチェル、どうしたの……
レイチェルサンド:反動に蝕まれてもいい、死ぬならあいつらも道連れだ!そうだ、殺せばいいんだ!
トフィープディング:こっ、これは堕神の気配……そんなっ……?!
レイチェルサンド:ハハッ……アハハハハハッー!あいつを殺す!!!
ルーベンサンド:レイチェル!!!
仲間三人が重傷を負って、生死不明。そして自ら敵に立ち向かったトマホークステーキ……「スペクター」は魔導学院や人間を守るための数十年戦い続けた、だけど全てが無駄だった。人間に裏切られ、捨てられたのだ。
どうしてこんな事になったのか……怒りが、困惑が、痛みが……レイチェルの心の中で無数の感情が交差しているが、吐き出せずに、最終的に……
レイチェルサンド:あいつらを、あいつらを殺す……魔導学院のクソ野郎共を……全員、殺せばいいんだ……!
トフィープディング:レイチェル!どこに行くの?!
ルーベンサンド:どうして、レイチェルが……
ヴィーナー・シュニッツェル:…………堕化、ですね。
トフィープディング:?!
家族Ⅴ
トフィープディング:レイチェルが、堕化……?
ヴィーナー・シュニッツェル:大きなショックを受け、悪念に蝕まれたからだと思います……稀なケースであるものの、可能性はありますね……魔導学院が、貴方たちを召喚した時に仕掛けたのでしょう。
ルーベンサンド:……私がレイチェルを探しに行って来ます。
トフィープディングは無意識的にルーベンサンドを止めたかった、今この瞬間彼女はもう仲間の誰とも別れたくはなかったのだ、しかし……それよりも、仲間を誰一人失いたくなかった。
トフィープディング:……レイチェルを頼むわ。ヴィーナー、一緒にトマホークたちを探しましょう。
ヴィーナー・シュニッツェル:わかった。
同時刻
森
使者:もう一度考えてみたらどうだ?これが魔導学院の意志だ、お前が今私を殺しても、これからどうするつもりだ?
使者:魔導学院から見れば、「スペクター」はもう全員死人だ!契約に縛られないお前ならまだしも、他の者は?
使者:考えてもみろ、「スペクター」の構成員の半分は何故戦闘能力のない、役立たずなのか?お前を牽制するためだ!役立たず共をお前に守り切れるのか?!
トマホークステーキ:そんな面倒な事は後から考えればいい。今は、ただお前を始末したいだけだ。
使者:ハハッ……なら、こっちも手加減はしない!
男は背後から杖を取り出した。一見、普通の杖に見えるが、杖の先端部分のダイヤは赤黒い血で染まっている。
使者:この杖は魔導学院の最新の研究成果だ。まだ完成していないが、お前と戦うのに十分だろう……
そう言って、男は地面に倒れている少女に杖を刺した……
パンドーロ:うぐっ……コホッ!……大丈夫、あたしは大丈夫……兄さん……早く、逃げて……
使者:ああ、確かに、この役立たず共を救うより、自分だけ逃げた方が現実的だ。本当に魔導学院から離れる事が出来るかもしれないな。
トマホークステーキ:……死ね!
最後の理性も怒りに焼き尽くされ、トマホークステーキは斧を持って男に向かった。その勢いも速度も使者は反応できず、ただ杖をトマホークステーキに向けた。
パンドーロ:やめて……
トマホークステーキ:ガキは黙って休んでろ、お前らは俺が守る。
使者:クソッ……ケリを付けてやる!
トマホークステーキ:ハッ、なら俺をもっと楽しませろ!
その訳の分からない杖をものともせず、トマホークステーキは直接体で杖を迎えた。杖に触れた瞬間、彼の全身が脱力し、不快感に襲われる。
トマホークステーキ:俺の霊力にだけ警戒しているのか……本当にバカ野郎共だな!
使者:お前……!
トマホークステーキを止めるものは何もない。杖は彼の胸を貫いたが、彼は肉体だけでその怪しいダイヤを砕いた。
傷口は燃え上がり、黒こげになったが、彼は気にせず、体だけで敵の胸骨を貫いた。
勝負は一目瞭然だ。
使者:ハッ……私を殺しても、無駄だ……お前らは幽霊……幽霊は……光のもとでは生きられない……
使者:すぐに、私と同じように、死ぬだろう……
トマホークステーキ:……その前に強くなっておけ。こんな腕じゃ、本気は出せないだろ。
最後の一撃を与え、トマホークステーキは空を仰いだ。激痛が傷口から伝わる……彼の命が垂れ流しになっている、そしてそれは彼の不死なる強い魂でもあった。
レイチェルサンド:ハァ……ハァ……殺す……殺す……
トマホークステーキ:レイチェル?ヴィーナーを探しに行かせただろう、どこに行った?
レイチェルサンド:殺す……全員……殺す……
トマホークステーキ:何を言ってんだ……?
レイチェルサンド:殺す……お前も……お前も殺してやる!
トマホークステーキ:!!!
家族Ⅵ
一方
キャンプ地
トフィープディング一行が辿り着いた時、血だまりの中で辛うじて息をしているクリームチキンを見つけた。
クリームチキン:私は……大丈夫……
ヴィーナー・シュニッツェル:……傷口を見せてください。
いつも落ち着いているヴィーナー・シュニッツェルの両手や声が震えている。彼女は慎重に仲間の服を裂き、その悲惨な傷に顔をしかめた。
ヴィーナー・シュニッツェル:申し訳ございません……これほどの傷は、私にはもう……
トフィープディング:そんな……
ルーベンサンド:ハァ……レイチェルが速すぎて、見失いました……クリームチキン、貴方は……トマホークたちの居場所がわかりますか?
クリームチキン:トマホークは……コホッ……
ヴィーナー・シュニッツェル:……出血がひどく失神したようです……まずは傷の手当をします。
ルーベンサンド:……仕方がありません。
トフィープディング:ルーベン、貴方まさか……
ルーベンサンド:貴方の想像通り。もう未来を見るしか、トマホークたちの位置を確定する方法はありません。
トフィープディング:……
トフィープディングはルーベンサンドを止めたいが、他の方法を思いつかないため黙り込んだ。ルーベンサンドは眼鏡を外し、深い紫色の瞳に光が流れ……
───
トマホークステーキ:レイチェル!何をしている?!
レイチェルサンド:殺せ……殺すんだ……お前ら全員!!!
トマホークステーキ:うぐっ……ガハッ!レイチェル……
ルーベンサンド:!
敵と違って、レイチェルサンドの攻撃に対してトマホークステーキは反撃できないでいた。
逃げられない契約の宿命でさえ嘲笑えたトマホークステーキは今、信頼している仲間に殺されそうになっている。
ルーベンサンドはトマホークステーキのそばで、窒息しそうな無力感を味わうだけで、未来に干渉できずにいた。
ルーベンサンド:どうして……
ルーベンサンド:どうして、こんな事に……
未来を覗きはじめたら簡単には止められない……パンドーロとデビルドエッグが破れたぬいぐるみのように地面に転んでいて、トフィープディングはその傍で膝をついて、震えていた。
───
デビルドエッグ:姉さん……痛い……痛いよ……
トフィープディング:ごめんなさい……ごめんなさい……
トフィープディング:私のせいよね……魔導学院を信じてしまったから……貴方たちを守ってあげなければいけないのに……ごめんなさい……ごめんなさい……
パンドーロ:違う……姉さんのせいじゃない……あたしが……弱すぎるから……
トフィープディング:そうじゃない……そうじゃないの……
ルーベンサンド:……違う……弱いことは、間違っていない……間違っていたのは、私たちでもない……
ルーベンサンド:私たちはずっと利用されてきた……辛い訓練、痛い刑罰、止まない戦争……私たちはただの武器で、道具で……
ルーベンサンド:とっくの昔からもう傷だらけなのに、どうして……粉骨砕身、地獄へ行かないと、人間は満足しないのだろう……
ルーベンサンド:悪念は本来人間から生じるもの……堕神は、人間がいるから存在している……私たちは間違っていない、間違っているのは……魔導学院……人間だ。
───
トフィープディング:ルーベン……ルーベン!目を覚まして!ルーベン!
ヴィーナー・シュニッツェル:しまった……
トフィープディング:ルーベンも……
ヴィーナー・シュニッツェル:……堕化、しました。
ルーベンサンド:堕化……ハッ……私は堕神になったのですか?あんな……ずっと戦ってきた怪物に……?
トフィープディング:ルーベン……
ルーベンサンド:これは運命なのか、それとも……魔導学院の計画でしょうか?
ルーベンサンド:魔導学院……ハッ……私にこんな目を持たせ、あんな絶望した未来を見せ……
トフィープディング:ルーベン、大丈夫よ、治るから、きっと治るから……ルーベン?!
ルーベンサンド:私は……堕神になりたくありません。
ルーベンサンド:未来も、もう、見たくありません……
ルーベンはペンデュラムを握り、仲間の驚いた声の中、自分の目に目掛けて……
トフィープディング:ルーベン!イヤー!!!!!
家族Ⅶ
赤い色。
鮮やかな赤い色が視界を埋め尽くす。
赤い理由は⋯⋯わかる?
トフィープディング:ルーベン!やめて!!!!!
ルーベンサンドの目に、ペンデュラムの鋭い先端が突き刺さり、そして横に向かって更に深い傷を作った。
痛み……この痛々しい光景を見て、彼はどんな痛みを我慢して、自分に傷をつけていたのか想像してみると……例え、彼と心が繋がっているレイチェルですら本当の意味で体験できないだろう。
レイチェルサンド:いっ、いや……
いや?
灰色の空⋯⋯荒れた大地⋯⋯ボロボロの体⋯⋯徐々に、崩壊していく世界⋯⋯
どうして、こんな事になったのかしら?
堕神に対して無敵な「スペクター」は、どうして人間を前にすると、こんな無惨な負け方をするのだろうか?
多分、愚かさと怒りのせいかしら。
ハカール:ほら、もしアナタが人間の罠にハマらなかったら、人間の陰険さにあんなに怒り狂わなかったら、堕化には至らなかったわ。
ハカール:そうすれば、トマホークステーキはすぐ使者を倒して、パンドーロとデビルドエッグも順調に救われ、ルーベンサンドも悲惨な未来を見なくて済んだ……
ハカール:だから、全ての元凶は……アナタよ。
レイチェルサンド:……
ハカール:見える?太陽も、荘园も、家族も……ぜーんぶウソ。
ハカール:今の「スペクター」は、墓地の隅で呼吸すら上手くできないゾンビよ。
ハカール:アナタは自分勝手で酷いわね。簡単に、何もかもを、忘れて……元凶のクセに、ね……
レイチェルサンド:あたしは……
ハカール:フフッ……やっとわかったみたいね……
ハサミを手に、ハカールは夢の中で苦痛な顔をしているレイチェルサンドをゆっくり観察する……まだ足りないようだ。
ルーベンサンド:うぐっ……あああー!あああああー!
夢の中のルーベンサンドは怒りと悲しみに喘いでいる、現実で眠っているレイチェルサンドも、苦痛のために、体が痙攣し始め……
もうすぐ、もうすぐ……
トマホークステーキ:バカ野郎……何をしている……
ルーベンサンド:……!
ハカール:……
ハカールは眉をひそめた、ここにいるはずのない人物が現れたのだ。
レイチェルサンド:兄さん……
レイチェルサンドはトマホークステーキが血まみれのペンデュラムを握り潰すのを見た。
ルーベンサンド:兄さん……
ルーベンサンドは激痛に襲われている目を開き、ぼんやりとした赤色の中、よく知る強く強靭な姿を見た。
トマホークステーキは血まみれな手を上げ、ゆっくりとルーベンサンドの傷だらけのまぶたを撫でた。
トマホークステーキ:お前のこの目が好きだ、残しておけ。
ルーベンサンド:しかし……
トマホークステーキ:しかしも何もない、何が起きようとも、俺たち「スペクター」が共にいる限り、乗り越えられる。
ルーベンサンド:しかし……私は既に堕神に……
トマホークステーキ:お前が何者になってもだ……堕神になっても、手足がなくなっても、お前は俺が守りたい、大切な存在だ……
トマホークステーキ:だから……
トマホークステーキ:レイチェル、もういい、自分を許せ。
レイチェルサンド:!!!
幻境は消え、レイチェルサンドはようやく目が覚めた。目の前には驚く光景が広がっている--トマホークステーキは眠っているルーベンサンドの前にいて、その肩には彼女の斧が刺さっていて、血が流れている。
レイチェルサンド:どっ、どういう事……
トマホークステーキ:大丈夫だ、もう終わった……
ハカール:チッ、あと少しだけだったのに。
レイチェルサンド:お前……!
ハカール:アナタが目を覚ましたのなら、「猟犬」たちもすぐ来るんだろうね……残念なことに、アナタが堕ちきった姿は見られなかったけど、今回はここまでにしておくわー
ハカール:結構楽しかったわ……いつか、また会いましょう。
レイチェルサンド:クソッ……待て!
トマホークステーキ:レイチェル。
レイチェルサンド:兄貴……大丈夫か?そんな、さっき見たのは……もしかしてあたしがルーベンの目を抉った?あたしが……
レイチェルサンド:あのクソ女はあたしに何をしたんだ?なんで……こんな……あたしはまた兄貴にこんな傷を負わせたのか?
トマホークステーキ:レイチェル、あんな事はどうでもいい、今一番重要なのは……
トマホークステーキ:俺たち一家は共にいる。
レイチェルサンド:……
家族。
彼女は周囲を見渡した、陽のあたる荘園はなく、荒れ果てた無縁墓地しかない。彼女は家族を見た。皆ボロボロで、狼狽していて、意識不明の者もいるが……お互いに寄り添っている。
彼女は、この光景から太陽と葡萄の香りに満ちた夢を見た。
深い、深い悪念すら払える、夢を……
レイチェルサンド:斧の傷は……深いな……
トマホークステーキ:ああ、かすり傷だ、ただ……お前の俺以上に怒りっぽい性格は困るな……
トマホークステーキ:そうだ、またルーベンのやつに宴会に連れて行ってもらえ、もう少し忍耐を磨いておけ。
レイチェルサンド:……うん。
トマホークステーキ:お?大人しくな?
レイチェルサンド:もう……感情に振り回されるのは御免だ。
トマホークステーキ:まあ、俺はお前のその性格は割りと好きだ、それでお前が傷つかなけりゃいい。
レイチェルサンドは首を横に振って、何か言いたそうにしていたが、線が切れた人形のように地面に倒れた。
トマホークステーキは彼女を軽く受け止め、壊れた墓石にもたれさせたーー彼も、疲れていた。
オイルサーディン:トマホーク!お前たち大丈夫か……
トマホークステーキ:ああ、俺たちは無事だ。だが残念ながらあの女を逃がしてしまった。
オイルサーディン:そうか……こちらは良い知らせがある、「顔のない男」を捕まえた。
家族Ⅷ
「スペクター」邸
主の寝室
ラザニア:こんな大げさな事する必要あるのか?まだ何も悪い事はしていないはずだが?
トフィープディング:……何故、レイチェルの部屋にいるの?貴方は「スペクター」に対して……何を企んでいる。
ラザニア:私は殺し屋だ、金を貰って任務を遂行する、それだけだ。
ヴィーナー・シュニッツェル:貴方の雇い主は誰?
ラザニア:プロの殺し屋は、守秘義務がある。
ヴィーナー・シュニッツェル:貴方の仲間は逃げたけれど、まだ庇う気?
ラザニア:勘違いするな、元々仲間ではない、ただの協力者だ。ああ、そう言えば……彼女からもう一つ頼まれたな。
ラザニア:主よ、ここで一つ取引はどうだ?
トフィープディング:取引?
ラザニア:貴方の……家族は、かなりの怪我をしているようだ、それも単純な外傷ではない……
ラザニア:契約の反動による自己治癒できない傷だろう。
トフィープディング:……貴方には関係ない。
ラザニア:そう?しかし……このまま一生、夢の中で生きていくか、それとも、ちゃんとした治療を受け、ここから離れるか。
トフィープディング:何が言いたいのかしら?
ラザニア:君たちを召喚した連中はとっくに死んでいる、外の世界はもうひっくり返っているのに……
ラザニア:君たちは魔導学院が必死に葬ろうとしている黒歴史だ、彼らから自由を取り戻すなんて……ハッ、そんな簡単に出来る訳がない。
トフィープディング:……
ラザニア:レイチェルの身に何が起きたか忘れるな。彼女とルーベンの堕化問題を解決しない限り、このような事は何度でも起こりうる。
ヴィーナー・シュニッツェル:私たちを脅すつもりなら、今すぐ殺します。
トフィープディング:待って、ヴィーナー……
ラザニア:今回私を殺しても、次は?繰り返される陰謀や暗殺は、いずれ君たちの気力を削り切ってしまうだろう。
トフィープディング:警告は結構よ、貴方たちの目的だけを教えて。
ラザニア:ふふっ……私の協力者は医者だ、ちょうど彼らを治す方法を知っている、その上……
ラザニア:二人の堕化問題を、解決できるかもしれない。
トフィープディング:……貴方の協力者は、何の理由もなく私たちに救いの手を差し伸べてくれる訳ないでしょう。
ラザニア:もちろん。しかし、彼女が欲しい報酬は君たちにとって、金銀財宝よりも簡単なものだ。
ラザニア:ただ、君たちの力を借りたいだけ。
トフィープディング:能力?彼女は何がしたいの?
ラザニア:うーん……人殺し?
トフィープディング:……貴方たちにとっても、誰かの力を借りずにできることでしょう。
ラザニア:彼女が殺したいのは普通の人間じゃない……貴族、教皇、国王……この世界の頂点に立つ全ての人間だ。
トフィープディング:何故、そんなに殺すの?彼女に何かしたの?
ラザニア:強いて言えば……気に入らないから、かな。
トフィープディング:ただ……それだけの理由で?
ラザニア:それがどうした?どうせ人間たちは君たちの死に無関心だ、君たちの忠誠と献身さえ忘れ、こんな悲惨な犠牲を払わせて……
ラザニア:その人間たちの命と引き換えに家族の健康と幸せを取り戻す……お得取引だと思うんだがな。
トフィープディング:……そう、聞こえるかもしれない。
ラザニア:ふふっ、それじゃあ……
トフィープディング:それでも、お断りするわ。
ラザニア:?
トフィープディング:悲惨な過去を経験したからといって、他人を傷つけていい理由にはならない。
ラザニア:君たちを傷つけた人間だとしてもか?
トフィープディング:そうよ。だって……私たちは人間とは違うから。
トフィープディング:痛みや憎しみの連鎖を続けて行くより、それらを壊して、美しいものを創造したいの。
ラザニア:……その痛みや憎しみを何度も何度も経験してでもか?休む間もなく夢と現実を行き来するトマホークステーキを考えてみろ、霊力を消費し続ける君自身も……
ラザニア:あとどれくらい持つんだ?霊力が枯渇した食霊の死がどれほど惨いものか、君は知っているはずだ。
トフィープディング:……どんな困難も、全て乗り越えられると信じているわ。
顔色は相変わらず疲れているが、彼女は力強く言い切った。想像を絶する試練を、確かに何度も乗り越えてきたから……
彼女は、百年前のあの日の事を思い出す……
息も絶え絶え、最後の霊力で生き延びているだけのパンドーロとデビルドエッグ……そして、堕化したためトマホークステーキによって一時的に気絶させられ、縛られたルーベンサンドとレイチェルサンド……
ヴィーナー・シュニッツェル:堕化……堕化から回復できた食霊を、私は見た事がありません……
トマホークステーキ:堕化がなんだ、こいつらはルーベンとレイチェルだ。共に地獄を切り抜けてきた仲間である事実は、変えられない。
トフィープディング:そうよ。堕化は彼らのせいではない、ただ……あまりにも残酷な現実を見過ぎただけよ……
トフィープディング:堕化は悪念から生まれたのなら、悪念を払えば必ず元に戻せる。なら、幸福に満ちた未来で、彼らを癒してあげよう……
トマホークステーキ:つまり……
トフィープディング:どうしてこんな能力を持っているのか、やっとわかった気がする……
彼女は自分の手を見たーー血と汚れにまみれた手だ、しかし今はこの上なく力がこもっているようにも見える。
トフィープディング:世界を、創造する。
トフィープディング:明るくて、暖かくて、戦争のない、私たち家族だけがいる、世界を……
例え地獄の深渊にいても、彼女はまだ光の中に立っている。
トフィープディング:人間の悪念の代わりに、あたたかさと愛で満たしたい……夢だとしても……どんな代価を払っても……
トフィープディング:私たちはお互いがいるから、私たちはかけがえのない……家族だから。
家族Ⅸ
家族⋯⋯
希望の力から生まれた食霊は、理論上の家族など存在しない。
しかし、長い年月の中で笑顔と涙を共にし、呼吸のように当たり前になっていた仲間と一緒に寄り添って来た⋯⋯
食霊にも家族ができたのだ。
家族は、血に縛られた存在だけではない⋯⋯
どんなに離れていても、心は繋がっている。「家族」という居場所にどんな事をしたって帰りたい、居場所なのだ⋯⋯
何があっても切り離せない。何があっても、共に乗り越えられる⋯⋯
───
ヴィーナー・シュニッツェル:レイチェル……レイチェル様……
レイチェルサンド:…ん?ヴィ……ヴィーナー……?
ヴィーナー・シュニッツェル:私です、レイチェル様、もう起きる時間ですよ。
レイチェルサンド:あれ……おかしいな……長い夢を見た気がする……
ヴィーナー・シュニッツェル:楽しい夢だったら、いいですね。
レイチェルサンド:……悲しい夢、でも、お前たちがいるから……
窓から射した光をぼんやり見ていると、レイチェルサンドは微笑んだ。
レイチェルサンド:楽しくもある。
ヴィーナー・シュニッツェル:あら、レイチェル様がこんな素直な愛情表現をしてくださるなんて、耐えられませんわ。
レイチェルサンド:おいっ……
ヴィーナー・シュニッツェル:ふふっ……朝食の用意は出来ています、皆様がお待ちですよ。
レイチェルサンドは頷き、ヴィーナー・シュニッツェルに続いて部屋を出て、食堂のドアを開けた。
デビルドエッグ:レイチェル姉さん来た!もう食事を始めてもいい?
クリームチキン:おはようございます、レイチェル様。では、料理を……
パンドーロ:おはよう、レイチェル姉さん。今日もトレーニングに付き合ってくれない?
トマホークステーキ:クソガキ、俺はもういいのか?
パンドーロ:あんたは一方的に殴って来るだけじゃない、あんなの訓練じゃないわ!
ルーベンサンド:レイチェル、何をボーっとしているんですか?料理が冷めてしまいますよ。
トフィープディング:ふふっ……レイチェル、昨晩はよく眠れた?
レイチェルサンド:……
レイチェルサンド:ああ、珍しくよく眠れた。けどさ……
レイチェルサンド:この二人は誰だ?
ザバイオーネ:おや、ご家族のお食事の邪魔をして、申し訳ない。
オイルサーディン:……
ヴィーナー・シュニッツェル:家庭教師と庭師の募集を見て来た方たちです。レイチェル様は昨晩帰りが遅かったため、紹介できませんでした。
レイチェルサンド:ああそうか……お前たち名前は?
オイルサーディン:あっ……
オイルサーディン:(まずい、偽名を忘れた……)
ザバイオーネ:ふふっ、すぐに出て行くので、レイチェル様は俺たちの名前を覚えなくても結構ですよ。
レイチェルサンド:なんだ、タダ飯を食いに来ただけなのか。
レイチェルサンド:なら遠慮せず食え、「スペクター」は太っ腹だからな。
ザバイオーネ:ありがとうございます、レイチェル様。
トフィープディング:この食事を生み出す人たちに感謝を……私たち家族がここにいることに感謝を……太陽が降り注ぐ今日に感謝を……皆さん、どうぞ召し上がってください。
食事前の祈りが終わり、皆で楽しそうに話をしながら食事をしていた。ただ一人だけ、その和気藹々とした雰囲気にはそぐわない者がいる……
ザバイオーネ:典獄長様、肩の力を抜いたらどうだ、煮干しのような顔になっているぞ。
オイルサーディン:……こんなあたたかいところは……苦手だ。
ザバイオーネ:おや、ではこれからもっと典獄長様に温もりを差しあげましょうか?
オイルサーディン:バカ言うな、大人しく食べてろ。
トフィープディング:すみません……お二人に感謝する食事にしては粗末だわ。
ザバイオーネ:いや、家庭料理はある意味世界一美味しいものだ。
トフィープディング:……これだけ助けてもらったのに、犯罪者を逃がしてしまった……
オイルサーディン:「顔のない男」は狡い、うっかり犯罪者を逃がしたのは俺たちの責任だ、貴方には関係ない。
ザバイオーネ:そうだ、犯罪者が逃げたのならまた捕まえればいい、家族こそ一番大事だ。
オイルサーディン:ああ……そう言えば、もしかすると……魔導学院でお前たちの契約の解決法を探せるかもしれない……
トフィープディング:……もし、本当に助けてもらえるのなら、「スペクター」にとっては大変ありがたいお話よ……だけど、大変なことでしょう?どうか無理はしないで。
ザバイオーネ:ふふっ、私の同僚は有名なお人好しだ、安心しろ。
オイルサーディン:……とにかく、試してみる。
トフィープディング:そんな……どうやって感謝を述べたらいいか……
オイルサーディン:いや……別に……
ザバイオーネ:おや?典獄長様、もしかして恥ずかしがっているのか?
オイルサーディン:変な事を言うな……ところで、お前にも訊きたいことがある。その杖は一体どうしたんだ?なぜ魔導学院が関わっている?
ザバイオーネ:ふふっ、これは私の戦利品だ。
オイルサーディン:???
ザバイオーネ:典獄長様に興味を持ってもらえるなんて……光栄だ。焦らずに、ゆっくり私を知ってもらおう。
オイルサーディン:必要ない……黙って食え。
ザバイオーネ:照れるな。
オイルサーディン:照れてなどいない!!!
贖罪
報い
ナイフラスト
とある田舎
ウェルシュラビット:このお金は君たちが強制徴集された食糧と交換したんだ、持ってろ!
村人:いやはや、これは……こんなに徴収されましたか?このお金多すぎやしませんか……
ウェルシュラビット:バカな貴族に無駄遣いされるくらいなら、君たちが何か美味しいものを買って食べた方がましだ。
ウェルシュラビット:僕はお金はいらない、君たちもいらないのなら、捨てる。
村人:じゃ、じゃあ……ありがとうございます、ウェルシュ様!
ウェルシュラビット:あのな……ウェルシュ様と呼ぶな!まったく……
ウェルシュラビット:そう言えばフィービーのやつは?このお金があれば学校に行けるだろう?
村人:そうだ、フィービーは魔導学院に行きたいと言っていたし、これでやっと行けるな!
ウェルシュラビット:魔導学院?だが……ハカールがそこは良い所じゃないって……
村人:ま、まさか?あの食霊召喚の方法を発見した魔導学院ですよ!他に色々研究していますし、いかなる組織にも所属しない、研究に専念できる学び舎ですよ!
ウェルシュラビット:いや……そんな事を言われてもな……まあいいや!
ウェルシュラビット:フィービーがそこに行きたいのなら行けばいい!お金が足りないとか、イジメられたなら僕に言え!
村人:ウェルシュさ……コホンッ、ウェルシュさんにはもうたくさん助けられましたし、これ以上は迷惑じゃ……
ウェルシュラビット:何を言ってんだ?この前たくさんニンジンをくれただろう?
村人:にっ、ニンジン一箱だけなんで、畏れ多い……
ウェルシュラビット:ニンジンを育てるのがどれだけ大変か、僕はよくわかっている!それに……
ウェルシュラビット:あれは僕が食べたニンジンの中で一番おいしいニンジンだ!お返しをしなければならないくらいにな!
催眠Ⅰ
夜
宴会場
ハカール:強いショックによる記憶喪失は、催眠療法で治療できるわ、レイチェルさん、試してみない?
レイチェルサンド:催眠なら、遠慮しとくよ。
ハカール:あら?レイチェルさんは催眠に対して心当たりがあるようね。
レイチェルサンド:……他に話がないならもう行く。
ハカール:待って。
レイチェルサンド:……今度は何だ?
ハカール:レイチェルさん、アナタの家族の中で催眠ができる方がいるのに、どうして……記憶を取り戻そうと一度も考えなかったのかしら?
ハカール:「スペクター」ファミリーの関係は親密であることは知っているわ、アナタの記憶問題を放置したのは、もしかすると……
ハカール:ご家族も記憶を失っているのではなくて?
レイチェルサンド:そうだったとしても、お前には関係ない。
ハカール:フフッ、私は医者で、ケガ人を治すのはワタクシの責務だわ。
レイチェルサンド:良心なんて信じない、契約とか金銭のやり取りの方が信じられる。
ハカール:それなら、取引の話をしよう。
レイチェルサンド:……聞かせてみろ。
ハカール:フフッ……対話を続けてくれるなら、ワタクシは一人の医者として、レイチェルさんを助けるわ。
レイチェルサンド:必要ないって言っているだろう……
ハカール:戦争の最後、何があったか覚えているかしら?どうやって、戦場を離れたのか。
レイチェルサンド:……
ハカール:アナタが本当に、戦争のことを綺麗に忘れ、何の影響も受けていないのかしら?
レイチェルサンド:お前は一体何を知っているんだ?
ハカール:ここは少しうるさいわね、レイチェルさんの素敵な声すら聞き取れない、場所を変えてもいいかしら?
レイチェルサンド:……
レイチェルサンドは、この宴会で何のビジネスの話も出来ていない事を思い出す。ルーベンサンドの怒った顔が浮かび、目の前の女性の悪い笑顔を見て、どうしても逃げたくはなかった。
レイチェルサンド:……どうせ後でルーベンに叱られるだけだし、行こうか。
催眠Ⅱ
「不老不死」は人間にとっても最も魅力的な話題の一つだ。
より多くの時間を持つということは、より多くのチャンスを持っているということ⋯⋯こんな誘惑に抗える人間など、いるのかしら?
ただ⋯⋯
創世神が本当に人間に「不老不死」を与えるかしら?
人間を神と等しくする⋯⋯神はこんな気前のいい事をするはずがないじゃない。
だから⋯⋯ワタクシが人間の神になろう。
人間に、彼らが追い求め続けた「不老不死」を与える神に⋯⋯
まあ、フフッ⋯⋯こんな美味しい話はある訳がないわよねー
ハカール:幻境を通じて真相を見るのに、興味ないのかしら?
ハカールは少女を見て、勝ち誇った笑みを浮かべた。代価を払わずに未知を見られる、ある意味「不老不死」と同じ。食霊を含め、動じない者はいないはずだ。
レイチェルサンド:断る。
ハカール:あら?真相を知りたくないのかしら?
レイチェルサンド:真相なんて、過去のことだ。過ぎ去った事を、思い出すのに何の意味があるんだ?
レイチェルサンド:あたしが見た、経験したもんが、真相だって保証もないしな。
レイチェルサンド:そんなものより、今を大事にしたい……
レイチェルサンド:今、そばに大切な家族がいるからな……
ハカール:……
ハカールはこれまでにたくさん誘惑に負けた魂を見てきたが……
大切な人のためなどとは全て口先だけで、すぐに諦めて保身しか考えない……誰もが憧れた英雄も、罪のない人を犠牲にしてでも地位を守ろうとした……
ハカールはこんなにも愚かで純粋な言葉を初めて聞いた。
ハカール:面白い……もっとアナタと話たいわ……アナタの脳ミソも解剖してみたい……
レイチェルサンド:はぁ?
ハカール:フフッ……いいえ、こんな状況じゃなかったら、良いお友だちになれたかもしれないね。
ハカール:本当に残念だわ、そして……興奮するわねー
調査Ⅰ
ある日
「カーニバル」
シャンパンの指示通り、今日もポロンカリストゥスは情報を探りに「カーニバル」にやって来た。
ポロンカリストゥス:これだけ監視しているんだ、いくら慎重でも、少しぐらいは粗が見つかってもいい頃合いだろう……
キビヤック:また仕事……どうして、こんなに働いているのに、一日も休暇がないんだ?
ポロンカリストゥス:休暇?どうせ休んでもやることないし、むしろ仕事があるほうが面白い。
キビヤック:……
ポロンカリストゥス:……また何?话があるなら早く言って。
キビヤック:シェリーが、「学校」の近くにいいバーがあるって……サルミアッキも、新しいお化け屋敷が出来たって……
ポロンカリストゥス:……
キビヤック:きっと……面白い……と思う……君は休んだ方が良い。
ポロンカリストゥス:……私を言い訳にしなくても、遊びに行きたいならはっきり言えば?
キビヤック:違う!
ポロンカリストゥス:……今回は無理、今度時間が出来たらな。
キビヤック:えっ?
ポロンカリストゥス:二回は言わない……
ポロンカリストゥスは後ろで呆けている者を構わず、歩き出した。キビヤックはしばらくしてようやく我に返り、笑顔でついて行く。
レッドベルベットケーキ:あら?雪だるまちゃんとトナカイちゃん?また会ったわね、すっかり「カーニバル」の常連じゃない?
キビヤック:あっ……どうも……
ポロンカリストゥス:ふふっ、どうしたんだい、私たちに会いたくないのか?
レッドベルベットケーキ:そんなー商売人が、客に会いたくないはずないわ……金を払わない客以外、ねー
ポロンカリストゥス:あれ?確か前回の件以来、「カーニバル」のチケット価格が数倍にも跳ね上がったみたいだね。あのドアボーイの少年に聞いたら、私だけのために設定した価格らしいね。
レッドベルベットケーキ:うぅ……この値段で情報を買えたら、お得でしょう?
ポロンカリストゥス:情報?
レッドベルベットケーキ:フフーン、あの最近大活躍の「顔のない男」の情報、知りたくないの?
ポロンカリストゥス:どうせ偽情報でしょう、知らなくても結構。
レッドベルベットケーキ:えーそんなに信用ないなんて、傷つくわー
ポロンカリストゥス:……この前、グルイラオの偽「カーニバル」にかなり無駄な時間費やした。それも君の仕業じゃないのか?
レッドベルベットケーキ:やーねー今度は違うわ。あの殺し屋はあたしを怒らせたの、だから他人の手を借りてちょっと懲らしめたくてー
ポロンカリストゥス:うーん……それなら、少しくらいは信じられそうだね。
レッドベルベットケーキ:「顔のない男」の正体は黄色い髪の青年。今は邪神遺跡の方に向かっているみたい、目的地は多分その近くにある無縁墓地……
ポロンカリストゥス:情報が具体すぎて怖いな……
レッドベルベットケーキ:何しろ、あたしはどこにでもいる情報屋とは違うからねー
レッドベルベットケーキ:じゃあ、さっそく、悪者の確保をお願いするわ!あたしたちみたいな一般市民が安心して生活するようにねー
調査Ⅱ
ある日
「カーニバル」7階
キビヤック:鹿……これは……悪いことだと思う……
ポロンカリストゥス:じゃあ君は出て、私はついて来て欲しいとは言っていない。
キビヤック:だけど……
ポロンカリストゥス:……
ポロンカリストゥスはため息をついた、散らばった資料を拾い、困った顔をしているキビヤックを見た。
ポロンカリストゥス:情報はどうやって手に入ると思っているんだ?これは私の仕事だ。自分のために探っている訳ではない、帝国連邦の人間と食霊が安心して過ごせるためだ。少なくとも……エクティスみたいな、疑い深い土地にはしたくない。
キビヤック:ならどうして……直接彼らに言わないんだ?アクタックはきっと理解してくれる……こんなにコソコソしなくていい……
ポロンカリストゥス:彼を信じているんだな……
キビヤック:?
ポロンカリストゥス:なんでもない、アクタックが理解してくれても、彼の上司はそうとは限らない。
ポロンカリストゥス:去年クルーズ船で大変な目に遭ったんだ……自分の部下をあんなに放任できるジェノベーゼとやらは、まともじゃないだろうな。
キビヤック:クルーズ船?
ポロンカリストゥス:説明するのは面倒だ……とにかく、アクタックを信じていいが、「カーニバル」の他の連中には気を付けろ。バカみたいに誰彼構わず信用するな、あのオークショニアと上にいるカジノのオーナーは特にだ。
キビヤック:……鹿、あの後たくさん経験した……俺の知らない事もたくさん……
ポロンカリストゥス:……
キビヤック:だから俺が分からない事を、たくさん話す……
ポロンカリストゥス:……
ポロンカリストゥス:うるさい!だからついてくることを許しただろう?!これ以上どうしろと?
ポロンカリストゥス:面倒だ……自分だけなら、こんな事すぐに片付くのに……おや?これは……
資料を見きれない上に、ひっついて離れない者に付き纏われ、ポロンカリストゥスの苛立ちはピークに達していた。この時、彼はある袋に入った資料を見つけた。
ポロンカリストゥス:資料は全部散乱している、丸まっている物もあるのに、どうしてこれだけは袋にはいっているんだ……?ん?
ポロンカリストゥス:魔導学院……「スペクター」……?聞いた事のない名だな、もしかするとジェノベーゼと魔導学院の関係を証明できるかもしれない……無駄足じゃなくて済んだな。
キビヤック:……
ポロンカリストゥス:……何を落ち込んでいる、任務完了だ。機嫌が良いから、何か奢るよ。何が食べたい?
キビヤック:君と一緒なら、なんでもいい。
ポロンカリストゥス:チッ……じゃあ学校に戻って食堂で一番安いセットを食べよう!サルミアッキちゃんの新しいドリンク付きでな!
キビヤック:ええ!
調査Ⅲ
数日前
シャンパン執務室
コンコンッ--
シャンパン:入れ。
ポロンカリストゥス:「カーニバル」での調査に進展がありました。
シャンパン:ああ、言ってみろ。
ポロンカリストゥス:7階……つまり「カーニバル」創設者の部屋でこれを見つけました。
そう言ってポロンカリストゥスは資料をシャンパンに差し出した。
シャンパン:実験記録ノート……魔導学院のか?
ポロンカリストゥス:まさか「カーニバル」の創設者が魔導学院と関係があるとは…決定的な犯罪証拠は見つかりませんでしたが、魔導学院の尻尾をようやく掴めました。
シャンパン:……文字が多い、結論を言え。
ポロンカリストゥス:ふふっ、簡単です。魔導学院はかつて堕神武器を研究していた、そして彼らを邪神遺跡に置いて堕神の処理をさせ、一段落ついたところで、彼らを抹殺する事にしたのです。
シャンパン:意味が分からないが、魔導学院が人間の未来のために自分らの食霊を犠牲にしたとさえ言えば、責められないどころか、名声を得る事になるだろう……人間は食霊を可哀想だと思ったりはしないからな。
ポロンカリストゥス:同じく、食霊も簡単に人間を許したりはしない。
シャンパン:つまり……この食霊たちに魔導学院を対処させ、漁夫の利を得ろと?
ポロンカリストゥス:最も時間と力を節約できる方法です。結局は、魔導学院が自分で自分の首を絞めているという事でしょうか。
シャンパン:ああ……魔導学院の老いぼれたちは、本当に大人しく研究をしていればな、手を伸ばしたのなら、それ相応の代価を支払ってもらわなければ。
ポロンカリストゥス:もう一つ良いニュースがあります。指名手配犯である「顔のない男」は現在邪神遺跡へ向かっているそうです。彼のターゲットは、まさにこの対堕神武器かと。
ポロンカリストゥス:私に考えがあります。「顔のない男」は先日魔導学院の顧問を一人殺したばかりです、彼らは恨んでいるでしょう、なので……
ポロンカリストゥス:魔導学院が自ら犯人を捕まえるよう頼んで来るのを待ちましょう。そうすれば私たちが誰かを邪神遺跡に派遣しても、怪しまれる事はありません。
シャンパン:悪くない、一石二鳥だな。この件はお前に任せた。
ポロンカリストゥス:……
シャンパン:どうした?
ポロンカリストゥス:コホンッ、この件は私たちが手を出したら複雑になる可能性があります、出来れば……魔導学院のような、表面的には中立な立場の組織に任せられたらと。
ポロンカリストゥス:例えば、タルタロスはいかがでしょう?
シャンパン:功労を譲るつもりか?お前らしくないな……忙しいのか?恋人でもできたか?
ポロンカリストゥス:あはは、陛下は相変わらず冗談は上手ではないようですね。
シャンパン:フンッ、わかっている、お前は面倒を見なければいけない者がいるからな。
ポロンカリストゥス:……
シャンパン:わかった、この件はブランデーに伝えておく。キビヤックに常識の授業を続けると良い。
ポロンカリストゥス:陛下、ありがとうございます、ではお先に失礼いたします。
シャンパン:チッ、逃げ足が速いな……
妨害者Ⅰ
ある日
「カーニバル」
ブリヌイ:そもそも、グルイラオに建てた「カーニバル」はどうしたの?
レッドベルベットケーキ:はぁ……分店を作って儲けようとしたのに、むしろマイナスだわ……
ブリヌイ:ウソばっかり、「猟犬」たちの注意を分散させるために建てただけでしょう。
レッドベルベットケーキ:あはは、あのバカな男たちが手掛かりを見つけたと思い込んで、ワクワクしながらグルイラオに行ったのに何も手に入れられなかった様子は、見ていてとーーーーーっても気持ちよかったわ!
ブリヌイ:ふふっ、想像しただけで、悪くなさそうね。
レッドベルベットケーキ:でもまあ損をしたのは本当よ、ジェノベーゼが使い切れないほどのお金を持っているおかげで、アクタックにバレずに済んだけどね。
ブリヌイ:ああ……残念なのはこの前の「カケラ」じゃ大きな波風は立たなかった事ね……もう少しエサを撒いた方がいいかしら?
レッドベルベットケーキ:焦らないで、もう少し様子を見よう、それに……
レッドベルベットケーキ:面白い事なら、今は間に合っているじゃない?
ブリヌイ:ふふっ、それもそうね。
レッドベルベットケーキ:帝国連邦対魔導学院……チッチッチッ、良い茶番が見られるだろうねー
ブリヌイ:しかし、彼らは大事にしないという選択肢を取る事も出来るわ。
レッドベルベットケーキ:その時は、もう少し油を注げばいいわ!
レッドベルベットケーキ:ジェノベーゼの実験室には面白い資料がいっぱいあるからー
ブリヌイ:あら、それじゃあ……楽しみにしているわー
妨害者Ⅱ
ある日
「カーニバル」
ブリヌイ:だから、「顔のない男」の行方をトナカイちゃんに伝えたの?
レッドベルベットケーキ:あら、彼が自分でその仕事を受けたんじゃない、魔導学院と関係があるから、ちょうど良かったのよ。
ブリヌイ:ふふっ、ウォルフォード教授が魔導学院が新しく招聘した顧問だって知らない可能性もあるわ。
バンッ--
フォカッチャ:誰のことだ?!
ドアが突然開かれたが、ブリヌイは驚くことはなかった。ただお酒を一口含み、入って来た青年に向かって微笑んだ。
ブリヌイ:あら、とんでもない者に聞かれてしまったわね。
フォカッチャ:ブリヌイ、さっきウォルフォードって言ってなかったか?数か月前に屋上から飛び降りた。
ブリヌイ:あら、どうしてそんなに興奮しているの?知り合い?
フォカッチャ:あっ……いや……
レッドベルベットケーキ:確か……リアという女の子はウォルフォード教授の学校にいた気が、まさか……
フォカッチャ:少し不思議なんだ……あの教授の死には不可解な点がある。もし犯人がいるなら、早く捕まえて、リアを安心させてやりてぇんだ。
レッドベルベットケーキ:なるほどねー
フォカッチャ:……それに、事件の後にウォルフォード本人を見た人がいるって聞いたんだ……
レッドベルベットケーキ:あら!もう死んでいるんじゃないの?!
フォカッチャ:だから調べたくて……
レッドベルベットケーキ:その話で思い出したけど……ある殺し屋はターゲットにそっくりな変装をするらしいわ!
フォカッチャ:なっ……そんな事ができるのか?!
レッドベルベットケーキ:確か「顔のない男」だったかしら……これぐらいしか知らないわ、誰も「顔のない男」の正体を見た事がないみたいだからね。
フォカッチャ:……わかった、レッドベルベット助かったぜ!
レッドベルベットケーキ:いいのよー
青年が立ち去った後、ブリヌイは椅子の上で楽しそうに揺れているレッドベルベットケーキを見て、思わず笑ってしまった。
ブリヌイ:ふふっ、あなたを敵に回してはいけないみたいね。この短時間で、あの殺し屋の情報を二つの陣営に流すなんて。
レッドベルベットケーキ:ウフフ、事態は混乱すればするほど楽しいじゃない!
レッドベルベットケーキ:そうだ、トナカイちゃんが盗みに来たことをジェノベーゼに教えないと!また今度お酒に付き合って!
ブリヌイ:ふふっ、わかったわー
妨害者Ⅲ
「カーニバル」
7階
レッドベルベットケーキ:ジェノベーゼ!大変よ!泥棒がいたの!
nil:ああ……このお金を貴方にあげる、補填したらいい。
レッドベルベットケーキ:あら……えへへ、盗まれたのはあたしのお宝じゃないわ。シーザーちゃんが言っていたの、泥棒が上がって来たって!
nil:そう、ならお金を返してもらおう。
レッドベルベットケーキ:うん?何のお金?
nil:……いい。
嬉しそうにポケットにお金を入れたレッドベルベットケーキは、手術台の上に突っ伏して、不思議そうに蝶の標本を弄るジェノベーゼを見た。
レッドベルベットケーキ:泥棒はあなたの実験室に入ったかもしれないのよ、心配じゃないの?
nil:泥棒が僕の物を盗んだとして、その物はもうなくなっている、心配に……何の意味がある?
レッドベルベットケーキ:それもそうね、だけど……あなたの部屋の物は普段あたしたちにも触らせてくれないじゃない、何か大事な資料があるのかと思っていたわ。
nil:泥棒にとっては重要でも、僕にとってはただの資料でしかない。
nil:内容は、全てここにある。
彼はそう言いながら自分の頭を指差した。彼の目は相変わらず淡々としている、レッドベルベットケーキはつまらなそうに口を鳴らす。
レッドベルベットケーキ:どうしてこんなに紙を積んでいるんだ?足の踏み場もないわ。
nil:ここに積まないと、泥棒は何を盗んだらいいんだ?
レッドベルベットケーキ:あれ?もしかして、わざと盗ませた?
nil:そうだ、そうじゃないとこの世界は面白くならないだろう?
彼は蝶の脆い翅を撫で、慎重にそれを二つに分け、標本の紙の上に乗せた。
nil:早く……面白くなってくれ。
調査Ⅳ
ある日
「カーニバル」
ポロンカリストゥス:資料探しが出来ないのなら、入口で見張っていろ。
キビヤック:わかった……
バンッ!
実験室のドアは無情に閉められ、キビヤックは怒る事なく小さく呟いた--
キビヤック:鹿が早く自分の欲しい物を手に入れられますように……そうすれば、休める……
ジェノベーゼ:おや?貴方は確か……
キビヤック:あっ!その……あの……
ジェノベーゼ:すまない、名前を忘れた……アクタックを探しに来たのか?ここは7階だ。
キビヤック:あっ……いや……俺は……その……
ジェノベーゼ:ああ……なるほど……
キビヤック:えっ?
ジェノベーゼ:「カーニバル」の道は確かに分かりづらい、迷子になったのだろう……アクタックのところに忘れ物をしていたのを思い出した、連れて行こう。
キビヤック:うん……お願い……
ジェノベーゼ:いや、貴方への少しもの償いだ。
キビヤック:?
ジェノベーゼ:なんでもない。これから貴方の力に何かあったら、また僕に声を掛けると良い。
キビヤック:ありがとう……
ジェノベーゼ:「カーニバル」でお金を使ってくれればいい、あの……鹿さんと一緒に。
キビヤック:わかった。
青年は無意識にキツく閉ざされた実験室のドアを見た--先程までポロンカリストゥスに強く閉められていたドアだ。
キビヤックは仲間がいるのがバレないよう、一刻も早くジェノベーゼを連れてここを離れようとした、そのためジェノベーゼの意味深な視線には気付く事は出来なかった。
魔導機密Ⅰ
百年前
魔導学院
研究員A:聞いたか?新入りは食霊らしいぞ!
研究員B:は?食霊?
研究員A:どんなやつか気になるな……私たちは食霊に関する研究をしている、自分の同類で実験をするなんて……残忍すぎやしないか?
研究員B:お前、「スペクター」のやつらを水責めにしていた時は残忍だと思わなかったのか?
研究員A:私たちは人間だからな、食霊は……私たちにとって、家畜と同じだろう。
研究員A:人間のために貢献出来る事こそが、彼らの存在価値だ。
研究員B:その通りだ。だが……食霊も研究員になれるのか……何か裏がありそうだな。
研究員B:あの食霊はどの実験室に派遣されたんだ?私たちも見に行こう。
研究員A:ハッ、実験室すら自分で選べたらしいぞ。
研究員B:好待遇じゃないか?まさか……大物が召喚した食霊か?
nil:すまない、失望させてしまうが、僕は普通の人によって召喚された食霊に過ぎないよ。
研究員A:!
研究員B:貴方が……あの……
nil:ああ、貴方たちが家畜と見なした動物と、同じ存在だ。
研究員A:……えっと……その……
nil:問題ない、気にしたりはしない。
研究員A:あはは、良かった、これから同僚になるだろうしな……
nil:これから一生会わない者の評価に何の価値がある?
研究員B:……どういう意味だ?
nil:僕は貴方たちの実験室を選んだ。だから……貴方たちにはもう存在価値などない。
研究員A:なんだと?!お前……
nil:心配するな、貴方たちが無駄にしていた実験室を大切にしよう。
nil:貴方たちはすぐに見る事になるだろう、家畜と同じ存在の……その真の価値を。
追跡Ⅰ
オイルサーディンとザバイオーネの出会いは、決して愉快なものではなかった。
タルタロスで一番忙しい者として、一日の仕事を終えやっと自室に戻り、 疲労を表に出した時、自分のベッドの上に軽薄そうな者がいる事に気付いてしまう。
ザバイオーネ:魔導学院が研究していた特殊材料は本当にタルタロスに使われているのか……流石ブランデー、やり手だな。
オイルサーディン:誰だ?どうやって入って来た?!目的は?!
ザバイオーネ:おや、質問が多すぎるな。自己紹介の前に、俺の提案を聞いてくれないか?
ザバイオーネ:これから一緒に……ブランデー死刑囚を処理しよう?
オイルサーディン:なっ……!
まだ状況を飲み込めていないが、オイルサーディンは無意識に腰にあるムチに手を伸ばした。しかし、相手に先を越され、腕を背に身体を壁に押し付けられた。
ザバイオーネ:反抗するなら、君も一緒に処理しよう。
オイルサーディン:おいっ……放せ!
必死でもがいているが、ビクともしない。それと同時に、オイルサーディンは不思議な感覚を覚えた、力が失われていくのを感じた。
オイルサーディン:なんだ……これは……
耳元で笑い声が聞こえる、若い典獄長の怒りは頂点に達する。その時、ドアが開かれた。
ブランデー:……邪魔したな。
ザバイオーネ:その逆だ、ちょうど良い所に来た。
ブランデー:おい……我の同僚に優しくしろ、タルタロスの労働力は貴重だ。
ザバイオーネ:ハッ、他人の心配をする余裕なんてあるのか?
ブランデー:……
ブランデー:ああ、新しく来た看守か?
ザバイオーネ:?
オイルサーディン:???
ブランデー:実に特殊な自己紹介だな、だが……嫌いではない。
オイルサーディン:なっ、何を言っているんだ?!こいつはお前を……
ブランデー:まずはオイルサーディン典獄長を放したらどうだ?彼は一応お前の先輩にあたる。
ザバイオーネ:ふふっ……その通りだな。オイルサーディン典獄長、これからは仲良くしてくれ。
オイルサーディン:?!
追跡Ⅱ
タルタロス大墳墓
重刑監房
カツカツカツッ--
ゆっくりとした足音が長い廊下に響き、ある監房の前で止まった。中の者は顔を上げて外を見る。
???:あら、何日か会っていない間に、貴方も囚人に成り下がったの?
ザバイオーネ:それは残念だ、俺はまだ逃亡犯に過ぎない。
???:逃亡犯が監獄に逃げ込むなんて、初めて聞いたわ。
ザバイオーネ:逃げる?ハッ、俺は確かめに来たんだ。
???:?
ザバイオーネ:この無数の血肉の上に建てられた牢獄は、本当に「彼」の遺志を継いでいるのかどうかを……
ザバイオーネ:それを確かめに来た。
???:……不合格だったら?
ザバイオーネ:ああ……どうなるか、君ならわかるだろう?
???:……遺志か……つまり……「彼」は死んだの?
ザバイオーネ:ああ、惨い死に方だった。
???:いつ?
ザバイオーネ:昨日か、おとといか、はたまた先月か。
ザバイオーネ:ああ……もう覚えていない。
???:「彼」のために復讐した?
ザバイオーネ:もちろんだ、我慢出来る筈もない、見ろ。
彼は持っている杖を掲げ、得意げに回して見せた。血に染まった宝石は、暗闇の中で輝いている。
ザバイオーネ:これが俺の戦利品だ。
???:……何人殺した?
ザバイオーネ:ああ……数えきれないな、とにかく……関係者は全員死んだ。
???:そう……
彼女は俯き、意味不明に頭を振り、そして微笑んだ。
???:なら良かった。
追跡Ⅲ
ある日
タルタロス大墳墓
ザバイオーネ:パトロールの時間だ、囚人は大人しくしていろ、少しでも脱獄の考えがあったら……命は保証しない。
犯人:はぁ、またこいつか、あの顔見ててなんだか吐きそうだ……
ザバイオーネ:安心しろ、すぐにその感覚に慣れて、好きになるだろう。
犯人:チッ……頭おかしいんじゃないの……
ザバイオーネ:嗯……今天的塔尔塔洛斯大坟墓也是一片祥和呢……哼哼哼?~(訳:ふむ……今日もタルタロス大墳墓は平和……か~)
ジン:……彼はいつも、私たちのところで長く立ち止まるような気がする……
ジン:どう思いますか?
???:……本当に暇なのね、時間なんて気にした事ない……
ジン:彼はいつもこちらに向かって、怪しげな笑みを浮かべるから……
???:元からおかしなひとじゃない?
ジン:……そう言えば、いつも自分の事ばかり話している気がする、貴方の事をよく知らない……
ジン:どうしてここに収監されたのですか?
???:ふふっ……ここにいる者は全員、存在しない罪によって収監されているのでしょう。
ジン:だから、貴方も冤罪ですか?
???:まるっきりそうとは言えない。
???:私は……自ら罪を被ったの。
ジン:……立派ですね……
???:そうね……だけど……
???:そろそろ、良い頃合いだわ……
ジン:?
???:この牢獄にもう飽きたんじゃない?ふふっ……
追跡Ⅳ
ある日
タルタロス大墳墓
ハギス:うぅ……またどこに行ったんだ……ネコ!早く出て来て!オイルサーディンにバレたら大変だ!
ハギス:まさか出て行っちゃった?はぁ……シェリーにたくさんお願いしてやっと連れて来てくれたのに……ネコ!どこにいるの!
ザバイオーネ:ふふっ、この子を探しているのか?
ハギス:あれ?ネコだ!
ザバイオーネ:きちんと面倒を見るんだ、タルタロスから出られはしないが、他の囚人に捕まったら……大変な目に遭うだろうな。
ハギス:はぁ……いつも僕と一緒に監房にいても自由が無くて、可哀想だと思って……
ザバイオーネ:そう言えば、君は冤罪だったのだろう?どうしてまだここにいるんだ?
ハギス:うぅ……考えた事無かった……前は治療のためだったけど、今は……
ハギス:あはは、きっとオイルサーディンが僕と一緒にいたいからじゃない!
ザバイオーネ:だが、自由は欲しくないのか?彼は君を監禁しているんだ、このネコみたいにな……
ザバイオーネ:ここから離れたくはないのか?
ハギス:うぅ……でも、オイルサーディンに迷惑掛けちゃう……それに自由がない訳じゃない、タルタロスは広いし、いつもたくさんのひととお話出来る、全然つまらなくないよ、すごく楽しい!
ザバイオーネ:ふふっ、まさかこんなに評価が高いとはな……
ザバイオーネ:とりあえず、囚人についてはクリアしているみたいだな……
ハギス:うん?何が?
ザバイオーネ:なんでもない、オイルサーディン典獄長が来る前にネコを連れて帰りなさい。
ハギス:そうだね!ありがとう!後で0013号に遊びに来てね、おじさん!
ザバイオーネ:……お兄さんだ。
ハギス:わかった、お兄さんおじさん!
追跡Ⅴ
邪神遺跡
無縁墓地
ザバイオーネ:フフーン。
オイルサーディン:……犯罪者を捕まえに来たんだ、どうしてそんなに楽しそうにしている?
ザバイオーネ:悪者が制裁されるんだ、楽しくないのか?
オイルサーディン:……そう言えば、タルタロスは警備が厳重なはずだ、お前は……どうやって入って来たんだ?
ザバイオーネ:さっき出て来たように、入ったまでだ。
オイルサーディン:つまり、自分で秘密のトンネルを通って来たのか?あれは知られていないはずでは……
ザバイオーネ:この世に誰も知らない物事なんてない、そうだろう典獄長様。
オイルサーディン:……では聞くが、タルタロスに来た目的は?
ザバイオーネ:なんだ?言っただろう?
オイルサーディン:……ブランデー典獄長を制裁しようとしていたのに、どうしてタルタロスの看守をしているんだ?
ザバイオーネ:それは、部下になった方が手を出しやすいからだ。
オイルサーディン:……ブランデー典獄長は一体何をしたんだ、どうして目の敵にしている?
ザバイオーネ:おや?俺に興味を持ってくれたのか?
オイルサーディン:もういい……どうせ本当の話なんてしてくれないのだろう。
ザバイオーネ:半々というところか、信じるかは君次第だ。
オイルサーディン:……この事で頭を使いたくない、まず目の前の任務が大事だ。
ザバイオーネ:ふふっ、ブレないな……ブランデーが君を信頼する理由が分かった気がする。
ザバイオーネ:だが……彼は信用に値するだろうか?
オイルサーディン:彼を信じないで、お前を信じろと?
ザバイオーネ:それはダメなのか?結論を下すのはまだ早い、これからの展開を楽しみにしよう。
追跡Ⅵ
※同食霊の問答があり、紛らわしいため立ち絵がスキンでの会話に(スキン)と表記しています。
何年前のある夜。
ブランデー:また死んだのか……
男:……残念だ、またお前を道連れに出来なかった……
ブランデー:ふふっ。
ゆっくりと呼吸が止まる御侍を見て、彼は楽しそうに笑った。
ブランデー(スキン):お前の御侍はお前を恨んでいるようだが、お前はなんだか……楽しそうだな?
ブランデー:まさか、彼に恨まれている事に悲しめというのか?
ブランデー(スキン):彼の死を回避するために何度も繰り返しただろう、それは彼の事を大切だと思うからじゃないのか?
ブランデー:ハッ……ただの人間に過ぎない。
ブランデー:変えたいだけだ。
ブランデー(スキン):何を?
ブランデー:運命を。
ブランデー(スキン):形のない物を気にするのだな。
ブランデー:運命はただの代名詞だ、我を阻む全てのものを指す言葉だ。
ブランデー(スキン):例えばお前の意思に反し、毎度死に向かって進む御侍、とか?
ブランデー:そうだ。ああいうのが嫌いだ、まるで瓶に固定されたお酒のようだ。
ブランデー(スキン):だから、それを打ち破りたいのか。
ブランデー:ああ……例え、それが我の一部分だとしても。
パリンッ--
彼は割れた鏡と鏡に映る割れた自分を見て、手の平の鮮血の痛みを振り払うように笑った。
追跡Ⅶ
数年前
ビクター帝国応接間
ドアを開ける前からシャンパンは独特の香りを感じた。彼は不思議そうにドアを開けたが、姿を見る前に、皮肉が聞こえてきた。
ブランデー:我は30分も遅れているのに、それより遅いなんて……流石国王陛下だ。
シャンパン:……お前が「彼」が推薦した典獄長か?自分の食霊かと思っていたが……
ブランデー:推薦ではなく、既にそうだ。
シャンパン:タルタロスの建設資金のほとんどは、俺が出したのは知っているだろう?典獄長を決めるのに、俺を通さない理由はない。
ブランデー:で?もっと良い人選はいるのか?
シャンパン:苦労したいタイプではないと見た、どうしてこんな仕事を引き受けたのか、気になっただけだ。これは暇な仕事ではない。
ブランデー:囚人の監視や懲戒は、我にとっては仕事ではなく、趣味だ。
シャンパン:変態なのか?
ブランデー:まあ、面白くないよりはずっとましだ。
シャンパン:……酒は飲むか?
ブランデー:もちろん。
シャンパン:ああ……それなら話が合うはずだ。
ブランデー:だが、良い酒じゃないとな。
シャンパン:やかましい、飲み過ぎてクセになるなよ。
魔導機密Ⅱ
ある日
魔導学院
魔導学院・学院長:ウォルフォードの件はどうなった?
研究員:申し訳ございません、まだ進展はありません……
魔導学院・学院長:……彼の死はそんなに重要ではない、外部の顧問だ、多くの者はまだこの件を知らない、ただ……
魔導学院・学院長:これから始まるプロジェクトの資金は全て彼が持っていた……本当に自殺だとしたら、短時間であのお金を使いきれないはずだ……
魔導学院・学院長:必ずや……資金を盗んだ犯人を見つけ出す……
研究員:失礼ながら、このような調査は我々の得意分野ではありません。以前、サドフの食霊があんな事をしたために……まだ多くの実験が進行中で、人手が足りません……
魔導学院・学院長:犯人が見つからなければ、全ての実験は終わる。人手がなくても、どうにか調整しろ。
研究員:……外部から応援要請するのはどうでしょう?
魔導学院・学院長:応援要請?ああ……思い出した……
魔導学院・学院長:ちょうど奥の手をもっていた……
研究員:それは……
魔導学院・学院長:頼れる者に帝国連邦に招待状を出してもらえ、国王陛下に魔導学院に来てもらうんだ。
魔導学院・学院長:名義上は、魔導学院の最新実験の見学にしておけ。
研究員:しかし……実験はカモフラージュに過ぎないと、疑われてしまうのでは?
魔導学院・学院長:疑われて当然だ。
研究員:?
魔導学院・学院長:魔導学院だけが危機に瀕してたまるか……国王陛下にも同じ船に乗って頂かないとな、せめて外野からはそう見えるように仕向けないと。
研究員:なるほど!そうすれば、外野は魔導学院と帝国連邦が手を組んでいるように見えて、我々に手出し出来にくくなりますね!
魔導学院・学院長:フンッ……賄賂の件がバレてしまえば、きっと陥れてくる者が増えるだろう……
魔導学院・学院長:そうなれば、資金を集めるのはもっと困難になる……偉大なる実験のため、ティアラ大陸の未来のため……
魔導学院・学院長:魔導学院の名は、必ずや光のある方になければならない、永遠にな。
魔導機密Ⅲ
百年前
魔導学院
使者:学院長、長官、邪神遺跡の堕神はまだ残っていますが、かなり片付きました、少なくとも……ナイフラスト及び周辺地域に深刻な被害を与える事はもうないでしょう。
軍曹:ハッ、この対堕神兵器計画は成功した訳だな、大金を費やした甲斐があった。
魔導学院・前学院長:これは有益な投資であり、決して失望させないと申し上げましたぞ。
軍曹:ああ、後続の投資についても上層部に反映しよう、貴方は知らせを待て。
魔導学院・前学院長:お疲れ様です……魔導学院は、貴方様のお越しを随時お待ちしております。
将校は若い学院長に向かって頷き、そして去って行った。
使者:学院長、対堕神兵器計画がほぼ完成したのなら、「スペクター」の後処理について考えなければいけませんね。
魔導学院・前学院長:前に言った傭兵に連絡は出来たか?
使者:ええ、結構な値段はしますが、これからの投資の話が決まれば、問題はありません。
魔導学院・前学院長:なら……そろそろ「スペクター」に別れを告げる時だな。
使者:という事は……
魔導学院・前学院長:彼らは長年堕神と戦って来た……悪念の影響を受けない訳がない。もしかしたら、今は堕神と同じように人間を敵と見ているかもしれない。
魔導学院・前学院長:邪神遺跡の堕神がほぼ片付いたのなら、彼らの使命も終わり……生きる価値と必要性はもうない。
使者:わかりました、すぐに準備いたします。
魔導学院・前学院長:覚えておけ、お前と私以外の誰にもこの事を知られないように。
魔導学院・前学院長:魔導学院は軌道に乗ったばかりだ、こんな事で看板に傷がついたらもったいない。
魔導学院・前学院長:彼らは魔導学院のタブーになるだろう……まるで彼らの名前のようにな……
使者:「スペクター」……幽霊……
魔導学院・前学院長:そうだ。彼らは闇の住人だ、そして魔導学院は……光のある方になければならない、永遠にな。
魔導機密Ⅳ
※一応そのまま書き起こしていますが文章が乱雑なので要注意です
ある日
魔導学院
シェリー:陛下と一緒に外出できるのは光栄ですが……魔導学院なぞに、陛下自ら訪れる必要があるのでしょうか?
シャンパン:ははっ、一応。
シェリー:……しかし今回は确かに、せっかくいつも自慢の魔導学院が自らヴィクトル帝国を招き招待する……
シャンパン:招き?早く人にすぎない。
門をくぐると、研究員の一人が出迎えた。
研究員:陛下に会って……学院長はすでに中で待機していたが、勝手に来てください……
シェリー:陛下を直接訪ねて、迎えにも出ないの?
研究員:申し訳ございません、学院長の不自由、私……
シャンパン:いい、早く案内しましょう。
研究員:わかりました……
研究員を、二人を一間の応接室に入った奥に座った位垂暮老人、シャンパンに会って、やっときわどい曲芸が立ち上がった。
魔導学院・学院長:陛下は……お久しぶりです。
シャンパン:そうですね、私もまさか、あなたはとても生きていた。
魔導学院・学院長:ふふっ……本当に不思議陛下と初めて会った時、私は少年の、今は……陛下はやはり副模様だ。
魔導学院・学院長:まったく……不公平だな。
シャンパン:……私はただあなたに闻いて云わなかった。
魔導学院・学院長:ハハハ、そうそう……にとっては情けなく思うのだろう。
魔導学院・学院長:その「顔のない男」は、邪智无数の颜を前に、新しく赴任してきた我々の顧問を殺した……これに先立ち、も少なくなかった私たちに迷惑をかけて……
魔導学院・学院長:ご存知だが、ここはやって研究の正直な人だから、どこに対応したあの狡猾のキラー……
シェリー:お话は……暗示は我々と「顔のない男」のように狡猾?
魔導学院・学院長:ああ、ずるい……も必ずしも望ましいことではない。
シャンパン:いい、あなたは「顔のない男」を捕まえたいのだが、無能、自分から他人を頼むしかないですね。
魔導学院・学院長:……
シャンパン:ヴィクトル帝国の構築、本はフレイア奈ラス特の安定のために、凶悪犯を逮捕道理、たとえあなたは言わずに、私もひとがやる。
シャンパン:しかしあなたは言ったからには、この人情が、覚えてくれてよかった。
魔導学院・学院長:ふふ……それは自然。聴聞陛下とタルタリアロスの典狱长関係同士…
シャンパン:……
魔導学院・学院長:それなら、その典狱长も陛下とすべき人のよう……さぞかし重大最新开発の特殊材料大量紛失し、……タルタリアとロス大丈夫だった。
シャンパン:あいつは気になると思う伏せられて盗みの罪?
魔導学院・学院長:ただ、贵を典狱长考えをつけて自分の名声が当然だ。
魔導学院・学院長:陛下は、それほどはどうか。
シャンパン:ああ、あなたは安心して……などの「朗報」だろう。
魔導機密Ⅴ
ビクター帝国
シャンパン執務室
フォンダントケーキ:今日魔導学院に行ったのですか?
シャンパン:ああ、鹿が告げ口をしたのか?
フォンダントケーキ:こんな大事な事を私に報告しない方がおかしいでしょう……
フォンダントケーキ:魔導学院は確かに裏で色々やっていますが、しかし表向きは学術聖地です。私たちが魔導学院と密に連絡を取り合うと、またビクター帝国がティアラをコントロールしようとしているとの噂が流れますよ……
シャンパン:噂ではないだろう。
シャンパン:チッ、大した事じゃない、そんなに焦るな。
シャンパン:俺は誰かに見せるために何かをやった事はない。それとも、表面しか取り繕わない偽善者になって欲しいのか?
フォンダントケーキ:違います!ただ……
シャンパン:わかっている、しかしただ手をこまねくだけなのは俺には向いていない、噂が流れたとしてもだ……
シャンパン:俺がこの席に座ってから、噂はずっと付き纏っているだろう。煩わしい以外に、何か影響はあったりしたか?
フォンダントケーキ:……
シャンパン:ただの噂をこの俺が恐れる訳がないだろう。
フォンダントケーキ:……わかりました、既に行ってしまいましたし、何を言ってももう手遅れです。私も貴方の決定を指示します、ただ……
フォンダントケーキ:今日まだ処理出来ていない書類は、残業して終わらせてくださいね。
シャンパン:……
机の上に突如増えた分厚い書類を見て、シャンパンの表情は暗くなった、そばで見ていたフォンダントケーキが笑ってしまうほどに。
フォンダントケーキ:噂すら恐れない陛下が、書類などを恐れる訳がありませんよね?ふふっ……
フォンダントケーキ:逃げられませんからね。私はずっとお傍で、最後まで見届けますから。
対堕神兵器Ⅰ
百年前
魔導学院
研究員:契約効力テスト完了、偏差値0.00013、誤差許容範囲内……成功した、やっと成功だ!
軍曹:気を付けろ、この前みたいな事は絶対に避けたい……
研究員:安心してください、1号実験体の失敗を元に、今回は契約効力を強めました、絶対に大丈夫です。
軍曹:ああ……これが最強対堕神武器「スペクター」か……いつ彼らを呼び起こす?
研究員:今すぐにでも、長官。
研究員がボタンを押すと、怪しげな色の液体が巨大な培養皿に注がれた。そして、眠っていた食霊たちはゆっくりと目を覚ましていく。
トフィープディング:……貴方たちが、私たちの御侍ですか?
研究員:そうだ。そして私たちだけでなく、この魔導学院全てが貴方たちの主だ。
トマホークステーキ:は?主?
研究員:説明してやる時間はない、よく聞け。一か月の集中訓練の後、貴方たちには最初の任務に出向いてもらう--ナイフラストにいる全ての堕神を粛清せよ。
トフィープディング:全て……?
軍曹:そうだ、全てだ。
軍曹:これは全人類のための戦いだ、光栄に思え、そして……全てを差し出せ。
軍曹:貴様等はこのために生まれたのだからな。
冷たい判決を残し、軍曹は迷わずこの場を去った。研究員も培養皿を一つずつ開け、中の食霊を出した後に出て行った。
トフィープディングは困惑しながら培養皿を出た。彼女がまだ地面に足をつける感覚に慣れる前に、ドレスの裾が引っ張られた。
デビルドエッグ:お姉さん、僕たちの生まれた意味って、本当に、ただ……戦うためなの?
デビルドエッグ:すごく痛そう……怖いよ……
とても弱弱しい子どもだ、その純真な瞳に見つめられ、彼女は無意識に否定の言葉を返そうとした。
トフィープディング:違う……違うわ……
デビルドエッグ:じゃあ、ボクたちは何のために生まれたの?
トフィープディング:……
彼女は答えられなかった、彼女にもわからないのだ。彼女も今さっきこの世界にやって来て、人間を救う使命を背負っていると言われたばかりだから。彼女もまだ全てを受け入れられていない、しかし……
この時、この子どもは彼女を信じていた、期待の目を彼女に向けていた、彼女は目を逸らす事は出来なかったのだ。そして、彼女は笑いながら手を伸ばして、優しい手つきでその柔らかい頭を撫でた。
トフィープディング:生まれた意味……お姉さんもまだわからないわ……でも大丈夫よ。
トフィープディング:これから、一緒に探そう。
対堕神兵器Ⅱ
百年前
魔導学院の訓練場
軍曹:もうすぐ一か月だ、訓練成果はどうだ?基準に達しているか?
研究員:ほぼ基準に達しています、理論上明日には邪神遺跡に向かえます。
軍曹:そうか、言う事を聞かないガキ共はもうサボってないか?
研究員:何度か罰を与えたら大人しくなりました。水責めからの電撃のおかげで、前より服従するようになりました、ご安心ください。
軍曹:ああ……彼らは契約効力テストをクリアした者たちだ、その心配はない。
研究員:「スペクター」にはそれだけでなく、ダブルの保証を付けていますので、絶対に安全です。
軍曹:ははっ、そうだな。さっさと準備しろ、時間をこれ以上無駄にするな……対堕神武器、やっと役に立てるな。
研究員:ハッ!
軍曹が去った後、研究員は訓練中の食霊に向かって歩き出した。
食霊たちが自分たちの動向を探っていたのを知っているが、彼は気にしなかった、所詮……食霊はただの兵器だから。
研究員:出発日が決まった、明日だ。今日の訓練後準備を整えろ、わかったか?
トマホークステーキ:……
研究員:コホンッ、二回は言わない。トフィープディング、他の者への伝達は貴方に任せた。
トマホークステーキから目を逸らし、研究員は用件だけを言って急いで逃げた。
トフィープディング:……時間が経つのは早いな。
トマホークステーキ:本当にあいつらの言う通り、パンドーロとデビルドエッグも戦場に連れて行くつもりか?
トフィープディング:「スペクター」に選ばれたのなら、共に戦わなければならない、これは私たちが決められる事ではないわ。
トマホークステーキ:じゃあ、クリームチキンは?彼はテストに合格していないのに、お前が懇願したから「スペクター」に入れただろう?入れる者がいるのなら、抜ける者がいてもいいだろう。
トフィープディング:……彼らの評価基準はわからない、パンドーロとデビルドエッグは明らかに戦闘には向いていない。だけど私が何を言おうと、彼らは彼女たちも連れて行くと聞かないわ……
トマホークステーキ:ハッ、あいつらにとって、兵器に説明なんてする必要を感じないんだろうな。
トフィープディング:……クリームチキンを「スペクター」に入れたのは正しかったのか……
トマホークステーキ:余計な事を考えるな、「スペクター」に入れなかったら、クリームチキンは廃棄されていたところだ。
トフィープディング:……
トマホークステーキ:トフィー、全ての堕神を粛清した後、ここを出よう。
トフィープディング:出る?
トマホークステーキ:あいつら言っていただろう?任務完了したら、俺たちの要求を一つ応えてくれるってな。魔導学院を離れて、自分たちの生活を送ろう。
トフィープディング:自分たちの……生活……
トマホークステーキ:終わらない戦闘がない、「スペクター」だけの生活だ。大きな屋敷に住んで、したい事をして、普段はビジネスでお金を稼げばいい……ルーベンは頭がいいから、簡単だろう。
トフィープディング:ふふっ、悪くないわね。そうすればパンドーロとデビルドエッグは自分の部屋が持てるから、布団の奪い合いで喧嘩をする事もなくなるわね。
トマホークステーキ:それに、クリームチキンは草花を弄るのが好きだろう?花園なんか作って、遊び倒してもらえ。
トフィープディング:なら、私も葡萄園が欲しいわ、レイチェルはワインが好きみたいだし、前からお酒を造って見たかったの。
硝煙のない未来を浮かべ、トフィープディングの顔には幸せそうな笑顔が浮かんだ。それを見ていたトマホークステーキの表情もなんだか柔らかくなっている。
トマホークステーキ:あいつらの考えをあれこれ詮索するのはやめよう、とにかく早く堕神を始末して、ここを離れよう。
トフィープディング:ええ!
対堕神兵器Ⅲ
百年前
魔導学院の訓練場
対堕神武器計画成功から24日。
邪神遺跡に行くまであと、6日。
デビルドエッグ:ハァ……もうダメ、走れない……
パンドーロ:バッ、バカ!まだ何周も走っていないでしょう!今走れなかったら……堕神に会ったら死んじゃうわ!
デビルドエッグ:うぅ……ヤダ……堕神に会いたくない……戦場に行きたくない……
パンドーロ:これはあたしたちが決められる事じゃないわ……早く、もう少し辛抱して、この周回を走り切ろう!
デビルドエッグ:ハァ……ハァ……ううっ……走るの嫌い……
小さな2人が太陽の下で何周も走っている様子を見て、体術訓練を終えたばかりのクリームチキンは思わず眉をひそめた。
クリームチキン:……失礼ですが……トマホークさんが訓練に来なくていいのなら、デビルドエッグもサボったりできるのではないでしょうか?
トフィープディング:これらの訓練は戦闘のためじゃないわ、デビルドエッグの安全のためのものよ。
トフィープディング:これから何が起きるか誰にもわからない、未知なる危険がやって来る前に最善の準備をしておかなければ。
クリームチキン:確かにそうですが……
トフィープディング:確かに、他の子どもや食霊に比べて、彼らは楽しみが少ないわ……
レイチェルサンド:ハハッ、今こそ兄貴の出番だな!
トマホークステーキ:おいっ、こういう時にしか役立たないと思っているのか?
ルーベンサンド:レイチェルから見て役立つと思われているのですし、まだましですね。
トマホークステーキ:クソガキ、口が回るようになったな!
トマホークステーキ、ルーベンサンドとレイチェルサンドが現れ、いくつもの袋をトフィープディングのそばに置き、訓練中のパンドーロとデビルドエッグを手招いた。
パンドーロ:これは……アイス?!
デビルドエッグ:わあー!いっぱい!全部僕たちにくれるの?!
トマホークステーキ:ハッ、クソ研究員から奪って来たんだ、好きなだけ食べろ。
デビルドエッグ:ヤッター!トマホーク兄さん最高!
レイチェルサンド:なんだ?昨日兄貴の訓練は辛い、筋肉バカだって言ってたのはどこのどいつだ?
トマホークステーキ:そうなのか?
デビルドエッグ:きっ、筋肉バカの何が悪いの、僕は筋肉バカが大好き!
トマホークステーキ:おいっ!抱きつくな、アイスが付くだろう!ベタベタで気持ち悪い……
パンドーロ:バカトマホーク!食べ物を気持ち悪いって言っちゃダメ、謝って!
トマホークステーキ:は?疲れて頭おかしくなったんじゃないのか?食べ物に謝るって……おいっ!誰だ俺に水を掛けたのは!
レイチェルサンド:ははははっ、夏は水遊びをしないとな!アイスを洗い流してやったんだ、早く感謝しろ。
遠くでホースを持って得意げな顔をしているレイチェルサンドを見て、トマホークステーキの負けず嫌いが太陽の下で燃え上がった。
トマホークステーキ:良い度胸じゃないか、そこで待ってろ、とことん付き合ってやる!
トマホークステーキ:おいっ!抱きつくな、アイスが付くだろう!ベタベタで気持ち悪い……
レイチェルサンド:フンッ、子どもしかいない……レイチェル!私に水を掛けるな?!
レイチェルサンド:一人だけカッコつけていたのが悪いんだろう?逃げられると思うな!ははは!
レイチェルサンド:おいっ、クリームチキン、どうして……泣いてるんだ?お前に水掛けてないだろう、やったとしてもトマホークだ!
クリームチキン:い、いえ、その……こんなに楽しい光景を見られて、感動して……
トマホークステーキ:ハッ、お前も一緒に来いよ。
クリームチキン:えっ?うわっ!私の羽毛が!乾かすの大変なんですよ……
クリームチキン:わかりました……それなら、私もなりふり構っていられません!
辛い訓練の合間、食霊たちは太陽の下で爽やかな水を飛ばし、虹を掛けた。トフィープディングは木陰に座り、この光景を見て思わず笑い出す。
トフィープディング:ふふっ……本当に……楽しそうであたたかな光景ね。
対堕神兵器Ⅳ
百年前
魔導学院の訓練場
対堕神武器計画は堕神と戦う事を専門とする食霊を訓練するためのもの。訓練場で行われている模擬訓練はルーベンサンドの日課だが、今日は……
ルーベンサンド:珍しい、貴方が訓練場に来るとは……レイチェルはどうしたのですか?
トマホークステーキ:パンドーロに特訓している、俺は手加減ができないんだとよ……
トマホークステーキ:どうした、久しぶりにお前に付き合ってやるんだ、嬉しくないのか?
ルーベンサンド:ハッ、私に負けて、訓練場に顔を出すのも恥ずかしくなったら困ると思いましてね。
トマホークステーキ:良く回る口の訓練でもしていたのか?この兄に勝とうだなんて、夢でも見てろ!
模擬訓練はこうして実戦に変わり、二人はお互いの戦闘スタイルをよく知っていたため、接戦が続いた。しかし……
1時間後--
トマホークステーキ:どうした、負けを認めるか?
ルーベンサンド:ルール違反だ!下ろせ!
トマホークステーキ:喧嘩にルールなんてないだろ?下ろして欲しいなら……最近兄って呼んでくれなくなったな、ちょっと呼んで見ろ。
ルーベンサンド:なっ……幼稚すぎる!放せ!
トマホークステーキ:なんだ?聞こえないぞ。
ルーベンサンド:トマホーク兄さん……チッ、トマホーク野郎!放せ!メガネが落ちる!うっ……!
肩に担がれて揺らされ、ルーベンサンドのメガネはすぐに落ちてしまった。彼は慌てて目を閉じ、天地が回転する感覚を覚えた。下ろされたが、頭を抱えられ、懐かしい匂いがした。
ルーベンサンド:おいっ……
トマホークステーキ:安心しろ、もう見たくない未来をお前に見せたりはしない。
ルーベンサンド:……バカ、見たくなければ、目を閉じるだけでいい……こんな事をしなくとも……
トマホークステーキ:あ?何かで遮らないといけないと思っていた。
ルーベンサンド:そんな面倒じゃないです……バカ、放せ、汗臭くて耐えられないです……
トマホークステーキ:は?お前が泥だらけなのを気にしていないのに、俺の匂いの文句かよ……今日の訓練はここまでだ、風呂に行くぞ!
ルーベンサンド:一緒に行く訳がないでしょう!おいっ……
ルーベンサンド:クソトマホークステーキ!すぐ私を担ごうとするなこの筋肉バカ!催眠でその筋肉をなくしてやろうか!早く下ろせ!!!
捨てられ、忘れ去られⅠ
※一応そのまま書き起こしていますが一部、文章が乱雑なので要注意です
百年前
邪神遺跡
埋め弾上膛、引き金を引けばーーこれは彼女が私兵としての日常。
荒れの周囲を見回し、最後に目を止め、遠くにある暗色のテントで兵器を彼女の手を握った。
ヴィーナー・シュニッツェル:……任務地は遠かったが、目標は探しやすかった。ただ……
ヴィーナー・シュニッツェル:こんな人里離れたところにいるのに、誰を怒らせたのか……まあ、今日はもう関係ない。
ヴィーナー・シュニッツェル:ターゲットを狩るだけだ。
彼女はテントに向かった。距離は近くなくても、人数さえ確認できれば、すぐに……
クリームチキン:……森の向こうには変な草花がいっぱいあるみたいだから、探してみる。薬草もあるかもしれないし……え!
クリームチキン:堕神じゃない……このお嬢さん、あなたは……
ヴィーナー・シュニッツェル:……通りかかる。
クリームチキン:通りすがり……岡の乱葬……?
ヴィーナー・シュニッツェル:……薬草をお探しですか。誰か怪我をしましたか?
クリームチキン:そう、たった今堕神と戦っている時に捕まってしまった。食霊の方が比較的自然治癒力はあるのだが、傷が深くて血が止まらないらしい……
ヴィーナー・シュニッツェル:まずはこれで止血しましょう。
クリームチキン:……包帯!ありがとうございます。
空気さえ暗くなるような戦場で、一瞬ほころんだ顔にヴィーナーは一瞬呆気にとられた。楽しそうにテントに駆け込んでくる青年の声を、ぼんやりと聞いていた。
クリームチキン:ちょうど1人の親切な女性に出会って、彼女は私にこれらの包帯をあげて、止血することができます!
クリームチキン:えっ?どうして結べないの?おかしい……え……また散った……
ヴィーナー・シュニッツェル:……はぁ……
彼女も仕方は自嘲的に笑って、それから臆せずにテントに入って一束束満は衝撃の目に淡々と腰を下ろした。
ヴィーナー・シュニッツェル:皆さん知って疑問が多いが、質問を前に、まず私がいいという条かわいそうな包帯をしましょう。
捨てられ、忘れ去られⅡ
百年前
邪神遺跡
堕神との戦いは長く、体力を消耗する、作戦が終わる度に食霊たちは世間話をしたり騒いだりする余裕もなく、それぞれテントに戻って休むことにしていた。
しかしこの夕方、休憩時間を厳守していたルーベンサンドはトマホークステーキのテントの外にいた。
ルーベンサンド:……寝ていますか?
トマホークステーキ:起きている、どうした?
ルーベンサンド:服を脱いでください。
トマホークステーキ:あ?
ルーベンサンド:服を脱いで、傷口を手当てしてあげます。
トマホークステーキ:ああ、そうか……大丈夫だ。
ルーベンサンド:皮が厚くて痛みに耐えられるのは知っています。だが先程戦場での様子はかなりおかしかったです、この後の戦いに影響を出さないため、治療した方が良いでしょう。
トマホークステーキ:お前は……戦場で敵を見ないで、何で俺を見てんだ?
ルーベンサンド:服を脱ぐのが恥ずかしくてヴィーナー・シュニッツェルの手当てを受けたくないひとがいるからでしょう。毎回隠そうとするので、見るしかありません……手を上げてください。
トマホークステーキ:このために、ヴィーナーから教わったのか?
ルーベンサンド:魔導学院はこんな事教えてくれなかった、これは命を守るための大事な技能です、覚えていて損はないです。
トマホークステーキ:ああ、うまいな。
トマホークステーキ:そう言えば、お前もヴィーナーに手当てしてもらっているのを見た事ないな。
トマホークステーキ:服を脱いでみろ。
ルーベンサンド:喧嘩しか考えていないバカみたいに、ケガを蔑ろにしたりしません、大丈夫です……おいっ!何すんだ!はなせ!
30分後--
ルーベンサンド:……包帯で私を絞め殺すつもりですか?
トマホークステーキ:おかしい、さっきこんな風に巻いてただろう?どうして俺がやるとおかしくなるんだ……
ルーベンサンド:大丈夫ですか……私はもういいです、もう包帯と私を許してください……
トマホークステーキ:いや、コツを見つけた……大人しくしてろ。
ルーベンサンド:……はぁ……
翌日ーー
レイチェルサンド:なぁ!ルーベン、昨日夜どこ行ってたんだ?そのクマ、サングラスですら隠せてないぞ……
ルーベンサンド:……聞かないでください……
レイチェルサンド:そんな状態で戦場に行けるのか?兄貴、今日はやめ……って、兄貴までどうしたんだ?
トマホークステーキ:……ヴィーナーは?
レイチェルサンド:どうした、どっかケガしたのか?
トマホークステーキ:いや……あとで包帯の使い方を教わろうと思ってな。
レイチェルサンド:珍しい、ケンカ以外の事に興味を持つなんてな、気まぐれか?
ルーベンサンド:それ以上言わないでください……学ばせてあげてください……
レイチェルサンド:……
レイチェルサンド:チッ、二人とも変だな。
捨てられ、忘れ去られⅢ
百年前
邪神遺跡
彼女がテントで座ってるーーこれは「スペクター」家の専門を彼女に設けた臨時居所が动物の毛皮を敷いた硬板床、そしてちょうど入れて下に二つのコップの切り株テーブル。
「スペクター」と出会って二十三日目、任務の締め切りまであと二日。
なら彼女の手を「スペクター」家のすべてのメンバーを消した。
しかし……
レイチェルサンド:ヴィーナー、これはパンドーロとデビルドエッグが森の枝と花で編んでくれた手環だ。
ルーベンサンド:木の枝はざらざらしています。ナイフで研いだのですが、傷がつく可能性があります。
パンドーロ:大きさが合っているかどうか……ただし大きさは調整可能!
デビルドエッグ:でも、もう様子の調整はできないだろうし、パンドーロも何日も描いていたから、これ以上見やすい絵は思いつかないだろう。
ヴィーナー・シュニッツェル:ありがとう、きれいです。
トマホークステーキ:二人のガキを甘やかす必要はない、こんなものをつけていては不便だろう。
ヴィーナー・シュニッツェル:いや、嘘は嫌いだから本音だよ。
トフィープディング:気に入ってくれてよかった……
彼女は自分の腕を見て、かすかに微笑んだが、少しこわばったように元に戻した。
ヴィーナー・シュニッツェル:……俺はいったん帰って武器の手入れをするから、何かあったら呼んでくれ。
トフィープディング:うん、お疲れ様。
テントに一人で座り、長年連れ添った武器を磨いていた……彼女はこれ以上待つことができなかった。
トフィープディング:ヴィーナー、今いいですか?
ヴィーナー・シュニッツェル:……うん、入って。
トフィープディング:まあ、最初よりも生活の匂いがしてきたから、居心地が悪くないといいんだけど。
ヴィーナー・シュニッツェル:私は住所不定のことが多いので、住まいにはあまりこだわりがありません。
トフィープディング:住所不定?
ヴィーナー・シュニッツェル:俺は傭兵だから、任務のあるところへ……金で人を殺すのが、俺の仕事なんだ。
トフィープディング:だから……わたくしたちもあなたの役目ですか?
彼女はプリンを見つめ、武器を握りしめた。
ヴィーナー・シュニッツェル:あなたたちを殺さなくてもよかった。
トフィープディング:でも、それがあなたの仕事なのに、どんな理由で、仕事を断るの?
ヴィーナー・シュニッツェル:……そうだな……どういう理由か……
トフィープディング:ちょっと独善的な感じがしますが……その理由で納得できるかもしれないけど……
ヴィーナー・シュニッツェル:チャンギョンガク)……
彼女は二人の間に横たわる冷たい武器を気にすることなく、優しくヴィーナーに抱擁を与えた。
トフィープディング:あなたが傭兵ではなく、「スペクター」の一員であれば、その仕事を断ることができるでしょう。
食霊を含めてほとんど人間と親密な接触を持ったことのないヴィーナーは、やや呆気にとられ、硬直していたが、すぐにリラックスした。
ヴィーナー・シュニッツェル:……ああ、そつのない理由ですね。
捨てられ、忘れ去られⅣ
※一応そのまま書き起こしていますが一部、文章が乱雑なので要注意です
ある日
「スペクター」邸
執事である以上、誰よりも早く起きているはずだーーそれがロイヤルクリームチキンの今までの誇りでもある。
しかし今日は……
ヴィーナー・シュニッツェル:おはようございます、執事さん。
クリームチキン:ヴィーナー?!ど、ど、ど……
ヴィーナー・シュニッツェル:申し訳ありませんが、執事さんの「一番早く起きる」という名誉な称号を奪うつもりはありません。今日はスペクター家に入る記念日なので、準備しておきたい。
クリームチキン:えっ?
ヴィーナー・シュニッツェル:ああ、やはり執事さんは覚えていませんね。
クリームチキン:……覚えてないんじゃなくて、わたしはただ……こんなことは自分で用意するのではなく、誰かが祝ってくれるのがいいと思っていた。
ヴィーナー・シュニッツェル:執事さんに渡しますか……じゃあ、カステラしか食べられないんじゃないの?
クリームチキン:失礼ですが、ケーキはちゃんと焼きますよ。
ヴィーナー・シュニッツェル:そうだ、ついでに台所の半分を爆破するだけだ。
クリームチキン:……
ヴィーナー・シュニッツェル:ああ、今日はまかせてください、執事さんもご苦労様ですから、もう一日はお休みになります。
クリームチキン:……そもそも、料理や掃除を、なぜ傭兵のあなたがこんなに上手にできるの?あなたが私たちを暗殺しに来たことを忘れていた……
ヴィーナー・シュニッツェル:執事さんにオーブンの使い方を教えたのは何回目か忘れてしまいそうですが、執事さんは食べ物を焦がしてしまいます。
クリームチキン:……
ヴィーナー・シュニッツェル:ふふ、冗談だ。傭兵は仲間がいないので、自分で生きていくためのスキルを身につけなければなりません。執事さんがよろしければ、無料で教えてあげても……
ヴィーナー・シュニッツェル:私が教えるよ~
クリームチキン:いえ、結構です……自分で本を読んで勉強しても……
ヴィーナー・シュニッツェル:それは残念ですね、執事さんがずっと学びたかった治療を教えたかったのに……
クリームチキン:いつ時間がありますか。もう一回、からかわれても……私はまだ耐えられます。
ヴィーナー・シュニッツェル:フフフ……執事さんの方が可愛すぎて耐えられません。
ヴィーナー・シュニッツェル:じゃ、今日の記念日のお祝いが終わったら、始めましょうね~
捨てられ、忘れ去られⅤ
ある日
「スペクター」邸
チャルチャル、ドカン!
ヴィーナー・シュニッツェル:ああ、また戦争が始まったのかと思った。
クリームチキン:ゴゴゴゴ……まず、入ってこないで……
ヴィーナー・シュニッツェル:今度揚げたのはオーブン?ボイラー?
クリームチキン:……コーヒーを淹れた……壶……
ヴィーナー・シュニッツェル:まあ、私を驚かすのが上手ですね。
クリームチキン:困ったな、手順通りにやっているのに、なぜ失敗するのか……
ヴィーナー・シュニッツェル:人生と同じように、きちんと計画通りに一歩一歩進んでも、アクシデントが起きることがあります。でも……
彼女は一歩前に出て、青年の目尻についたコーヒーの粉をそっと拭った。
ヴィーナー・シュニッツェル:そのほうが人生が面白くないじゃないですか。
クリームチキン:……
クリームチキン:退屈しないのはあなただけでしょう……僕が何かしくじるたびに、君が一番笑っている。
ヴィーナー・シュニッツェル:ありがとうございます。頑張ります。
クリームチキン:そんなことは頑張らなくてもいい!
クリームチキン:……まあ、早く台所をきれいにしたほうが……
ヴィーナー・シュニッツェル:不撓不屈で、一万回失敗しても一万回努力し続ける執事さんの姿勢も好きですよ。
クリームチキン:それは……ありがとうございました。
ヴィーナー・シュニッツェル:あ、私も一緒に掃除させてください。そうすれば、単調な仕事でも退屈しなくなりますね。
クリームチキン:よし、またからかわないと約束してくれれば。
ヴィーナー・シュニッツェル:あら、当たり前よ~
捨てられ、忘れ去られⅥ
ある日
「スペクター」邸
コンコンッ--
トフィープディング:どうぞ。
ヴィーナー・シュニッツェル:お嬢様、アフタヌーンティーを用意してきました、少し休みましょう。
トフィープディング:ありがとう、ヴィーナー。
お茶とお菓子を置いて、ヴィーナー・シュニッツェルはテーブルの上に広げられた図面に目をやった。
ヴィーナー・シュニッツェル:また増築の事を考えているのですか?
トフィープディング:ええ、デビルドエッグが遊園地に行きたいと騒いでいたから、部屋にいて退屈なのもわかるわ……
ヴィーナー・シュニッツェル:……坊ちゃんを甘やかし過ぎです。
トフィープディング:ふふっ、彼には申し訳ない事をしているからね。
ヴィーナー・シュニッツェル:それは貴方のせいではありません。
ヴィーナー・シュニッツェル:束の間の楽しみのために、体を酷使しないでください。
トフィープディング:心配してくれてありがとう。でも……これぐらいしか出来ないから。
図面を撫で、自分の目で複雑な構造を何度も描いた。
トフィープディング:まだ大丈夫、だから……説得するよりも、どのデザインがいいか見てくれないかしら?
ヴィーナー・シュニッツェル:しょうがないですね……しかし、私の報酬は高いですよ。
トフィープディング:ふふっ、知っているでしょう?いくらでも払えるわ。
ヴィーナー・シュニッツェル:……毎日この時間に休憩を取って、私と共にアフタヌーンティーを頂くのはどうでしょう?
トフィープディング:あら、なんて可愛らしい報酬かしら。
夢の世界Ⅰ
※一応そのまま書き起こしていますが文章が理解不能なので要注意です
昼
「スペクター」邸
ヴィーナー・シュニッツェル:坊ちゃん、これは……何をしているのか。
デビルドエッグ:あ!い、何も……私はただ整理箱は……やっと何の変なものの中に隠して……
ヴィーナー・シュニッツェル:……ご安心ください、坊ちゃん。おそろしい夢を見ていたあの子はもういなくなったし、荘園の警備も強化する。
デビルドエッグ:夢……あの……本当に夢なのか?
デビルドエッグ:あの映像は……あんな痛みが……どうした……ただの夢には見えないな……
ヴィーナー・シュニッツェル:堕神が作った夢なのだから、当然違う。
デビルドエッグ:そ、そうですか。
ヴィーナー・シュニッツェル:若旦那を騙すものか。またあの梦は真実の、また今どのように解釈するの?
デビルドエッグはヴィーナーの視線を伝って窓の外を見るーー太陽、草花、ブドウの香り……血と痛みにまみれた夢とは無縁だった。
デビルドエッグ:も、も…また、ヴィーナー信用ならないものの、私の姉はだまされない。
ヴィーナー・シュニッツェル:ほほほ、ちょうど、私は来通知坊っちゃんが、新しい配置のお嬢様。
デビルドエッグ:うん?
ヴィーナー・シュニッツェル:などの下に坊っちゃんが専属の家庭教師をしてください……
デビルドエッグ:いやだ。私の家庭教師をしない!私は自分で本を勉強できる!人間が来ない……
ヴィーナー・シュニッツェル:坊っちゃんに必要なのは勉強ではなく、人との付き合い。
デビルドエッグ:私と仲良くが良かったね!うっかりしてレイチェル姉に対する過度ないたずらをして、最後も仲直りできる……
ヴィーナー・シュニッツェル:私を指す「スペクター」と仲良く家以外の人。
デビルドエッグ:……
ヴィーナー・シュニッツェル:こないだ坊ちゃんが雑貨屋で会った男の子も、二度会ったきりで、もう会ってない……友達になりたいのに。
デビルドエッグ:あれ以来、いなくなったんだ……また、家庭教師を一定の子供ではない……
ヴィーナー・シュニッツェル:相手が大人なら、坊ちゃんは安心して大胆にいたずらをすることができますよ。
デビルドエッグ:えっ?本当に、本当に?!
ヴィーナー・シュニッツェル:懲らしめられても、坊っちゃんの尻には、平手打ちが何十本もかかると信じている。
デビルドエッグ:こんなに恐ろしい言葉を使わないでこんな优しい口調でね!
捨てられ、忘れ去られⅦ
ある日
「スペクター」邸
ルーベンサンド:先月分の請求書は確認しました、クリームチキンが壊した家具も含め……
ルーベンサンド:これが新しい帳簿です。
ヴィーナー・シュニッツェル:はい、お疲れ様でした、ルーベン様。
ルーベンサンド:貴方も……
トマホークステーキ:おい、出かけるのか?
ルーベンサンド:……ええ、取引の話があるので。
ヴィーナー・シュニッツェル:坊ちゃん、朝食の時間は過ぎましたが、用意しましょうか?
トマホークステーキ:いい、部屋に戻って寝る。
ルーベンサンド:……「スペクター」ファミリーと仕事がしたい武器商人がいるのですが、どう思いますか?
トマホークステーキ:どうでもいい、お前が決めればいい。
ルーベンサンド:……
ヴィーナー・シュニッツェル:ルーベン様?
ルーベンサンド:毎日どこをほっつき歩いているんだか、帰って来たと思ったら寝てばかり……何を考えているんだ………
ヴィーナー・シュニッツェル:……坊ちゃんには彼のお仕事がありますので……
ルーベンサンド:だったら、家族一緒に過ごすなんて言うな……もういい。
ルーベンサンド:夕食はいらない。
ヴィーナー・シュニッツェル:……は……
強く閉められたドアを見て、ヴィーナー・シュニッツェルはため息をついた。
ヴィーナー・シュニッツェル:あの二人、前はこうではなかったのに……
ヴィーナー・シュニッツェル:いつになれば、あの頃のように戻れるのでしょう……
夢の世界Ⅱ
タルタロス大墓若い典獄長は、自分と同じくらいの背丈になりそうな草花を見て考え込んでいた。
犯人を追っていたはずなのに、訳のわからない食霊に出くわし、訳のわからない相手に殴られて失神し、訳のわからない荘園に連れていかれてしまった………
オイルサーディンの頭の中には百個の疑問符が浮かんでいたが、相手の正体と目的を知るまでは、成り行きでーー
突然の仕事を引き受け、庭の庭師として働く……
クリームチキン:……庭は広いが、庭師の仕事は草取りだけだ。もちろん、芸術的なアプローチをする人は、これらの植物を剪定することもできます。
オイルサーディン:え……はい。
クリームチキン:じゃ、ここはお任せしますから、何かあったらいつでも倉庫に来てください。
オイルサーディン:うん……あの……
クリームチキン:何だ?
オイルサーディン:ここに連れてきてくれたのは……お坊ちゃん?
クリームチキン:そうだ、坊っちゃんに用か?
オイルサーディン:ない……我々の荘园に、やっぱり昏睡状態のだろう……どうやって……え……我々を持って入ってきたの?
クリームチキン:が、持ってきたよ。
オイルサーディン:……直接、直接かついできたの?
クリームチキン:あ、わかったあなたの感じ、以前にもよく担いでルーベン坊ちゃんとレイチェルさん重量挙げの練習は、初めてその副画面に私も驚いた。
オイルサーディン:……じゃあ、どうしたの……私たちが気絶することをどう説明しますか?
クリームチキン:急にそんなこと聞く?…………あ、分りました。
オイルサーディン:な、何が分かった?
オイルサーディン:(しまった、聞きすぎて疑われるのか……?)
クリームチキン:わかる……わざと時間稼ぎをして、仕事を減らしたいんでしょう?
オイルサーディン:……
クリームチキン:フフフ、冗談。安心しろ、おまえたちが泣いて気絶したことは、おれと坊っちゃんだけが知っているから、誰にもいわない。
オイルサーディン:???泣いて気絶する?……私が?
クリームチキン:そうだ、お坊ちゃまが泣いて引き取ってくれって頼んで、泣いて気絶しちゃったって……違う?
オイルサーディン:……は……
クリームチキン:よしよし、これが来たが、心配しないのだった。早く働きなさい、夕食の時間を遅らせるな。
オイルサーディン:うん……
優雅に余裕を持って平地を歩いていたのに、左足が一度右足をつっこんでしまった執事さんの背中を見て、思わずオイルサーディンはため息をつき、あきらめて日よけ用の麦わら帽子をかぶる……
殺意の波動Ⅰ
午後
「スペクター」邸
パンドーロ:うぅ……ずっと食べているのに、まだクリームチキンのご飯には慣れない……お腹が苦しい……
パンドーロ:ちょうど今日はレイチェル姉さんいないし、トレーニングもない……ヴィーナーのところに行ってみようかな……
お腹を押さえてヴィーナー・シュニッツェルを探そうとすると、思いがけず廊下の角で見覚えのある姿を見つけた。
パンドーロ:あれ?レイチェル姉さん?パーティーに行ったんでしょう?どうして……
レイチェルサンド:ああ……ついてないな。
パンドーロ:……練習に付き合って欲しいって言ってないのに、どうしてそんなイヤそうな顔をするの……
パンドーロ:トレーニングを楽しそうにしていたのはあんたじゃない……あたしは頼んでないんだからね!
レイチェルサンド:ふっ、気付いていないようだな……
パンドーロ:なに?何の事?
レイチェルサンド:いや、肩に小さな虫がついてる、気付いてないみたいだけど。
パンドーロ:むっ、虫?!どこどこ?!レイチェル姉さん取って!早く!……あれ?
彼女は驚いて跳び上がりそうになったが、どこを見ても虫はなかった。そして、レイチェルサンドも姿を消した。
パンドーロ:あれ?
パンドーロ:姉さんなんかおかしかったな……まるで、別人みたい……
パンドーロ:うぅ……お腹痛い、とりあえずヴィーナーを探しに行こう……
夢の世界Ⅲ
夜
宴会場
商談をレイチェルに一任すると、ルーベンは宴会場を後にした。
湿った暑い外気に、ネクタイを緩め、大きく息を吐いた。
ルーベンサンド:レイチェルが早く成長して、我慢できるようになって、二度とそんなことがないように……
そんなこと……
彼は急に頭が痛くなった。過去の映像が波のように頭を打つので、彼はますます息苦しくなった。
光のない空、生臭い空気、冷たい風、そして……
ルーベンサンド:トマホーク……
目を見開き、眼球がちくりと痛んだが、筋肉は動かず、血まみれのトマホークを眺めるだけだった。
ルーベンサンド:あなたは……何を……
ルーベンサンド:気でも狂ったの?!止めて!
無駄、彼の叫び、もがき、窒息、苦痛、すべて無駄。
ルーベンサンド:どうして……私にこんな目を……見る以外、何もできない……
目を閉じても見える。そんな残酷な未来を見て、どうすることもできない苦しみに圧倒されて……
苦しい、苦しい……苦しくて……目を捨てようとした……
ルーベンサンド:見えない……解放されるだろう……
トマホークステーキ:馬鹿なことを言うな。
ルーベンサンド:!
回想から目を覚ました。
ルーベンサンド:また……
彼は「ああいうこと」を何度も何度も思い出し、それがもたらす苦痛や抑圧を思い出したが、すべてはトマホークが現れたところでぴたりと止まった。
その強い生命力に満ちた強い声は、何度も何度も、息もできない記憶から彼を呼び覚ます。
ルーベンサンド:あの野郎、あれからずっとわざと俺を避けて……何か聞かれるのが怖かったのか。
ルーベンサンド:どうして……思い出させてくれない……
彼は密かに答えを知っていたーー彼を守るために、トマホークステーキは自分を守るために、すべてをやっていた。しかし……
ルーベンサンド:あなたの後ろに立って守られるよりも、私が……
ルーベンサンド:あなたと一緒に戦ってほしい。
奥歯を嚙み、以前のようにトマホークの脚を蹴飛ばしてはいけないと怒った。
でもそれは昔のことで今じゃない。
ルーベンサンド:……もう考えたくない。まだしなければならないことがたくさんある……
ルーベンサンド:早く帰ろう……
捨てられ、忘れ去られⅧ
戦争は勝利を創り出せない。
戦争が創り出せるのは、破滅だけ。
例え、硝煙なき戦争という正義を掲げてもだ。
破滅以外は、何ももたらさない。
トフィープディング:……
戦争が何も生み出さない事を彼女は知っていた、彼女はそのために召喚されたのだ。
彼女は座り込んで、ぼんやりと何もない遠方を見た。仲間を抱えている手は痩せ細り、傷だらけだが、力を緩める事はなかった。
ヴィーナー・シュニッツェル:……この傷は私の能力ではどうしようもありません、それにルーベンとレイチェルも……
ヴィーナー・シュニッツェル:トフィー……
トフィープディング:……わかったわ、ありがとう、ヴィーナー。
ヴィーナー・シュニッツェル:……私に感謝を告げる必要はありません、永遠に。
ヴィーナー・シュニッツェル:これからは……どうします?
トフィープディング:……
彼女は天を仰ぎ、暗い空を見た。たくさん経験して来た彼女の表情は依然として優しさに満ちているが……今は笑えなくなっていた。
彼女はずっと無理をして来たのだ、もうこれ以上作り笑いが出来なくなっていた。
トフィープディング:ダメだ……やらなければ……
ヴィーナー・シュニッツェル:トフィー……
トフィープディング:人間に捨てられた私たちは……お互いを捨ててはいけない。
トフィープディング:現実は、裏切りと苦痛だけを残した……なら、私は……
トフィープディング:私は全く違う世界を創造するわ。
彼女はゆっくりと拳を握り、腕の中で弱弱しい息を吐いている仲間を見た。
トフィープディング:大丈夫……私には出来るわ……
トフィープディング:皆のために痛みのない世界を創る。
ヴィーナー・シュニッツェル:……ルーベンとレイチェルを回復させるのも……この方法なら出来るかもしれません……ただ掛かる霊力も……
トフィープディング:気にするな。
トフィープディング:彼らは私の全て、私は彼らのためなら何だってするわ……
トフィープディング:ヴィーナー、貴方も私を信じてくれる?
ヴィーナー・シュニッツェル:ええ……貴方が私の過去を気にする事なく、私を信じてくれているように……
ヴィーナー・シュニッツェル:いつまでも貴方を信じます、いつまでも。
殺意の波動Ⅱ
「スペクター」
厨房
レイチェルサンド:チッ……こんなに広い厨房が、半分以上燃やされているのはともかく、食べ物すら見つからないのか。
レイチェルサンド:この服も着心地が悪い……あいつ遅いな……催眠にどれだけ時間掛けているんだ?
厨房で何も得られなかった彼は、怒りを込めてドアを閉めた。しかし、何歩か歩いただけで、幼い声に呼び止められた。
パンドーロ:あれ?レイチェル姉さん?パーティーに行ったんじゃないの?どうして……
レイチェルサンド:ああ……ついてないな。
気付かれたと思った彼は、袖の中でナイフを構えた。しかし少女は異変に気付いていなかった、彼はこのまま逃げようとする。
レイチェルサンド:次は、メイドさんに私を見つけてもらわないと……
デビルドエッグ:ん?レイチェル姉さん、ヴィーナーを探しているの?
レイチェルサンド:本当に、会いたくない人にばかり会っているな……
デビルドエッグ:えっ?
レイチェルサンド:なんでもない。チビ、あたしは今気分が悪い、騒ぐな。
デビルドエッグ:……フンッ!騒いでないし!レイチェルのバカ!
彼は男の子の怒りを無視し、振り返らずに足を進めた。
レイチェルサンド:やっとメイドを探しに行ける……
ヴィーナー・シュニッツェル:レイチェル様、お探しですか?
レイチェルサンド:来た……
レイチェルサンド:ああ、パーティーで少し疲れたから、部屋に戻って寝てる。朝食もいらないから、起こさないでくれ。
ヴィーナー・シュニッツェル:……はい、ゆっくり休んでください。
バンッ!
ドアを閉めて、彼はホッと一息をつき、変装を解いた。
捨てられ、忘れ去られⅨ
ある日
「スペクター」邸
ルーベンサンド:……
トフィープディング:トマホークは用事があるから……私たちで……
気まずい雰囲気を緩和しようとした言葉が出る前に、ルーベンサンドは立ち上がって外に向かって歩き始めた。
ルーベンサンド:処理できていない資料があります、どうぞ私に構わず食べてください。
トフィープディング:……
ヴィーナー・シュニッツェル:……はぁ……
レイチェルサンド:兄貴はどこに行ったんだ?今日は正式に家族になった記念日なのに……
レイチェルサンド:ルーベンサンドのやつも今日のために、たくさんの取引を断ってきた……きっと今頃部屋でキレ散らかして、テーブルを投げてるんだろ……
ヴィーナー・シュニッツェル:あら、では新しいテーブルを早く注文しなければいけませんね、ルーベン様はテーブルに対してこだわりが強いですし。
クリームチキン:……こんな時まで冗談を言うなんて。
トフィープディング:いいのよ、執事さん、料理を下げて。
クリームチキン:……承知しました。
パンドーロ:兄さんのバカ……またどこで喧嘩してんじゃないの?前もよく消えたけど、やっと落ち着いたと思ったのに、更に酷くなった気がする……
デビルドエッグ:そうだ!フンッ、あとですごいイタズラを仕掛けてやる!
ヴィーナー・シュニッツェル:坊っちゃん、粉々にされたおもちゃの蜘蛛をもうお忘れですか?
デビルドエッグ:うっ!
パンドーロ:兄さんが悪いんだ!こんなに大事な記念日なのに、あたしも……みんなも楽しみにしていたのに!いないなんて!
トフィープディング:……トマホークにはやらなければいけない事があるの、わざと帰って来ない訳じゃないわ……どうか彼を許してあげて。
レイチェルサンド:姉貴もこう言ってるだろ。ガキ共、怒ってるのを言い訳に夜更かししようとすんな、早く寝ろ。
パンドーロ:だっ、だけど……
反論が出る前に、レイチェルサンドとクリームチキンはトフィープディングに促され、パンドーロとデビルドエッグを部屋に連れ帰った。
トフィープディング:はぁ……
ヴィーナー・シュニッツェル:お嬢様、疲れましたか?
トフィープディング:いや……私はただ……家族に嘘をつくような日々に、早く終わって欲しくて……
トフィープディング:特にトマホーク、彼は皆のために頑張っているのに、誤解されなければいけないなんて……
ヴィーナー・シュニッツェル:お嬢様……
トフィープディング:大丈夫よ、心配かけてごめんなさい。
彼女は長い息を吐いた。自分を鼓舞し、背筋を伸ばし、しっかりと前を見た。
トフィープディング:「スペクター」ファミリーは私が背負う、守れるなら、私は何だってするわ。
トフィープディング:ところでヴィーナー、執事さんが厨房に残った最後のお皿まで割っていないか、見てきてくれるかしら?
ヴィーナー・シュニッツェル:ええ……確かに、それは私の担当ですね。
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