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新春を迎え・ストーリー

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新春を迎え

特別祭り


ある日

「カーニバル」


アクタック:……ということで、「カーニバル」1周年記念の特別イベントについて、何か良い提案はあるか?

ガナッシュ:コロシアム!コロシアム!コロシアム!

アクタック:却下。

ガナッシュ:えーっ!なんで?

アクタック:血の生臭い匂いはなかなか消えないし、後始末も面倒だからだ。

シーザーサラダ:その通り、誰が毎日その屠殺場みたいな地下2階の掃除をしてると思ってんだ?

ガナッシュ:ええ?掃除のおじさんじゃないの?

シーザーサラダ:監督すんのも疲れるの。

ガナッシュ:そっか……じゃあいいや……

アクタック:はい、次。

フォカッチャ:折角の特別イベントだしよ、何から何まで全部タダにしねぇか?きっと大勢の客が来てくれるはずだ!

シーザーサラダ:……「カーニバル」を倒産させる気か?

レッドベルベットケーキ:ぷっ……フォカッチャちゃん……チャリティー活動がしたいのなら、レストランだけ一日タダにしたらどう?

ボロジンスキー:は?

レッドベルベットケーキ:メインシェフ、心配しないで。食材を買うお金がなくなったら、あたしが貸してあげるわよ~

シナモンロールボロジンスキー、絶対に受け入れないでください……レッドベルベットはきっと、お金じゃなくてもっと別の何かを求めて来ますわ……

ボロジンスキー:安心しろ、それくらいはわかる。フォカッチャ、バカなあんたは大人しく座ってろ!

フォカッチャ:ぐっ……さっき言った事は忘れてくれ……

アクタック:はい、次。

ブリヌイ:没入式無差別スナイパー体験会、とか?

アクタック:はい、次。

ブイヤベース:えっと……全てのフロアを温泉施設に改造するのはどうでしょう?

アクタック:……次。

レッドベルベットケーキ:珍獣オークショ……

アクタック:はい、次。

レッドベルベットケーキ:ちょっと、まだ喋ってるじゃないの!

アクタック:次だ!

シーザーサラダ:フンッ、どいつもこいつも何考えてんだか。1周年を祝う記念イベントなんだから、「カーニバル」に関連しているだけじゃなくて、普段の「カーニバル」とは違うものにしないとだろ。

ブリヌイ:あら、じゃあドアボーイくんは何か良いアイデアとかあるの?

シーザーサラダ:もちろんだ。「カーニバル」にとって一番大切なのは何だと思う?ほらそこの悪徳商人、言ってみろ。

レッドベルベットケーキ:一番大切な?そうね……お金じゃない?

シーザーサラダ:ブッブー!創始者だろ!

レッドベルベットケーキ:……

シーザーサラダ:創始者なくして「カーニバル」は存在しない、創始者の偉大なる功績をお客様に紹介する事こそ、この記念イベントの一番大切な役割だ!創始者を知っていただければ、お客様たちも「カーニバル」をもっと深く理解してくれるはず!

アクタック:創始者を知る?それは貴方の目的だろう……

レッドベルベットケーキ:あら、戯言にしか聞こえないけれど、確かにあたしもジェノベーゼの過去は気になるわ~でも、彼は自分の事を公にしたがるかしら……

レッドベルベットケーキ:そう言えば、ジェノベーゼは?

シーザーサラダ:あそこに座ってるじゃん……ってあれ?いつの間に……


 全員が上座の方を見たが、そこには誰もいなかった。会議が始まった頃はまだボーっと座っていた彼の姿は今やどこにもなく、決定権を持つ者がいない会議も意味を失ってしまった。

 一方、会議から抜け出した人物は、自分の部屋に戻り、不思議な形の椅子に座って黙って壁を見つめていた。

 長い時間が経ってから、彼は誰もいない背後に振り向いて、こう言った--


ジェノベーゼ:ここまでついてくるとは、貴方も僕のことが気になっているみたいだな……

ジェノベーゼ:僕の過去を……聞いてみる?


意外来客


数十年前

魔導学院


ジェノベーゼ:……重い……


 実験室から一歩外に出ると、彼は小さな声で呟き、性急に白衣を脱いだ。


ジェノベーゼ:ああ……スッキリした……

研究員:あ、あの……主任、貴方の実験品が……また貴方に会いたいと言っています。

ジェノベーゼ:……さっき、会ったばっかりだろう?

研究員:はい、私もそう言いましたが、彼は……痛い、と……言っていました。

ジェノベーゼ:痛覚神経がなくなっているのに、痛みを感じる訳がない……嘘をついてるだけだ、放っておけ。

研究員:しかし……

ジェノベーゼ:放っておけと言っただろう。

研究員:わかりました……

ザバイオーネ:なんて無情なんだ、あの子がこうなったのは君のせいではないか?

研究員:えっ?!おっ、お前は何者だ?!どうやってここに入った!けっ、警備……

ジェノベーゼ:騒ぐな……知り合いだ。

ザバイオーネ:ふふっ、久しぶりだな、もう俺の事は覚えていないのかと思った。

ジェノベーゼ:残念だが、僕の記憶力がそれを許さないんだ……もう貴方に用はない、戻って実験品を見張っていなさい。

研究員:はい、わかりました……


 研究員が去った後、ジェノベーゼは青年をしばらく見つめ、ようやく何かがおかしい事に気がついた。


ジェノベーゼ:どうして一人なんだ?サドフは?

ザバイオーネ:死んだ。

ジェノベーゼ:……

ジェノベーゼ:そうか。

ザバイオーネ:……流石に冷たいだろう、友だちだと思っていたのに。

ジェノベーゼ:人はいつか死ぬものだ、それより貴方は……御侍が死んだのに、悲しそうには見えないな。

ザバイオーネ:悲しい?そんなものより、俺が今必要なのは怒りだ。何しろ……彼は殺されたのだから。

ジェノベーゼ:誰に?

ザバイオーネ:知らないのか?ハッ、君だと……思っていたよ。

ジェノベーゼ:僕にはそんな事をする理由がない。

ザバイオーネ:だったら何故、約束通り新しく発明したあの材料を渡さなかった?


 それまで微笑んでいた青年から突然優しさと笑みが消え、細長い目に氷のような冷酷さが輝いている。ジェノベーゼは彼を見て、戸惑ったように首を傾げた。


ジェノベーゼ:タルタロスの建築材料か?既に渡している。

ザバイオーネ:とぼけるな。

ジェノベーゼ:悪いけど、僕はとぼける事だけは苦手なんだ。僕の頭の良さを知っているだろう。

ザバイオーネ:……なら材料はどこに行ったんだ?サドフは材料を手に入れられなかったから、自分を犠牲にして計画の実行を進めたんだ。この件、そう簡単に終わらせる訳にはいかない。

ジェノベーゼ:そうか……その時は助手に仲介を頼んだ……そいつが盗んでお金に変えたんだと思う。

ザバイオーネ:……その助手は今どこだ?

ジェノベーゼ:辞職したばかりだ、僕に耐えられなくなって辞めたのかと思っていた。

ザバイオーネ:いや……たかが助手がそんな事をする度胸はない、誰かが裏にいるはずだ、まさか……


 青年の目に鋭い光が走り、その場を立ち去ろうとした。それを見て、ジェノベーゼは珍しく少し慌てた様子で口を開いた。


ジェノベーゼ:サドフの仇討ちをするつもりか?

ザバイオーネ:……もし、君の言うことが嘘だったら、また戻ってくる。

ジェノベーゼ:ああ……健闘を祈る。


 それを聞いた青年は、疑いの目でジェノベーゼを一目見て去っていった。相手が見えなくなると、ジェノベーゼはため息をついて呟いた。


ジェノベーゼ:タルタロスの建築材料は「あの材料」などではなく「禁石」という名がある……僕が命名したと、言えなかったな……

研究員:主、主任……あの実験品がまた……

ジェノベーゼ:だから放っておけ。

研究員:し、しかし……主任に会えないと、死んでしまうと……

ジェノベーゼ:……仕方ない、これをやる。

研究員:鍵?これは……

ジェノベーゼ:金庫の鍵だ、中に精神安定剤がある。あいつを騙して注射したらいい。

研究員:えっ?そ、そんな……私が殺されてしまいます!

ジェノベーゼ:契約があるから、そんな事は起きない。僕は忙しいんだ、あいつが死ぬまで邪魔しないように。

研究員:……


 困惑する研究員を無視し、ジェノベーゼはそのまま自室に戻り、壁の方に向いて椅子に座った。

 彼は長い間そこに座り、動かず、まばたきすらほとんどしなかった。耳を澄ますと、彼が何かをつぶやいているような声が微かに聞こえる。


ジェノベーゼ:どうして……変だ……まさか……ああ……

ジェノベーゼ:なるほど……わかった、そういう事か……


「カーニバル」形成


ガナッシュ:それで?どうなったの?

ジェノベーゼ:……どうしてここにいるんだ?

ガナッシュ:あれ?オレはずっとここにいたよ!ジェノベーゼ、さっきまでオレと話してたじゃん!

ジェノベーゼ:いいえ、貴方と話をしていた訳ではない。

ガナッシュ:あれ?じゃあ誰と?ここにはオレたち2人しかいないけど?

ジェノベーゼ:ああ……説明するのは難しい、そう言えば……

ジェノベーゼガナッシュ、貴方は「カーニバル」にいて楽しいか?

ガナッシュ:楽しいよ!いつまでもケンカできるし、たまにレッドベルベットとブリヌイが頭を撫でて褒めてくれるんだ!その時の笑顔はちょっと変だけど……でも、褒められるのは大好きだから!

ガナッシュ:あとは、すごく強いケンカ相手も見つけたんだ!いつもダークストリートに隠れて寝てるから、相手してくれないけど……でもアイツのところに行くと、アンソニーのお姉さんが美味しいデザートをたくさんごちそうしてくれるんだ!

ガナッシュ:それに、今は誰もオレのことを役立たずとかバカって言わないしね!フォカッチャがここで一番バカだからかな?えへへ……とにかく、ここにいてとっても楽しいよ!

ジェノベーゼ:ああ、それなら良かった。

ガナッシュ:うん?


 獣のような直感がガナッシュに、青年の笑顔の裏には膨大な隠し事があると告げた。彼が尋ねる前に、突然ドアの外から少女の叫び声が聞こえてきた。


シナモンロール:やっぱりここにいましたか!

ガナッシュ:わっ、シナモンロールに見つかっちゃった!

シナモンロールガナッシュ、これはかくれんぼではありませんよ。皆さんでジェノベーゼを探しているのに、どうして教えてくれなかったのですか?

ガナッシュ:あっ、ごめんなさい……ジェノベーゼの昔話を聞くのに夢中になっちゃった。

シナモンロール:昔話?ジェノベーゼのですか?

ガナッシュ:そうだよ、シナモンロール興味ないの?いつも訳がわからない事ばっかり言ってるジェノベーゼの過去だよ?

シナモンロール:うっ、気にはなりますけど、皆さんはまだジェノベーゼの事を探していますし……うーん……きっ、聞きたいです!

ガナッシュ:そうだよね!話を続けてよジェノベーゼ!それからどうなったの?何がわかったの?

ジェノベーゼ:貴方たちに言っている訳ではないと言っただろう……その後、この世界がただのゲームだと理解して、僕は魔導学院を離れたんだ。

シナモンロール:ええっ?わたくし、お話をたくさん逃してしまったみたいですね……

ガナッシュ:ううん、最初から聞いてたオレにもよくわからない……ゲームって……ボクシングの試合みたいなもの?オレたちはゲームの中に生きてるの?どうしてそれがわかったの?

ジェノベーゼ:……


 目の前にいる2人の食霊を見て、彼は仕方なさそうに首を横に振った。


ジェノベーゼ:貴方たちには理解できないと思ったから、僕の思考過程を省略した。

シナモンロール:……少し悔しいですが、確かにわたくしたちには理解できないのでしょう……

ジェノベーゼ:とにかく、魔導学院を離れた後、住むところが必要だったからビルを購入した。

シナモンロール:えっ?それってもしかして……

ジェノベーゼ:そうだ、この「カーニバル」だ。

ガナッシュ:なーんだ、あの頃からジェノベーゼはお金持ちだったのか!着る服を買うお金がないから、毎日裸で出歩いてるのかと思ってた。

ジェノベーゼ:魔導学院にいた頃はボーナスをたくさんもらっていたし、使い道がないから貯金なら結構あるんだ……それに、裸で出歩いている訳じゃない、服はちゃんと着ているだろう。

ガナッシュ:わかったわかった。それから?どうして実験室を出てすぐに娯楽施設を作ろうと思ったの?

ジェノベーゼ:いや、最初から娯楽施設を作ろうとした訳じゃない。最初は、ここは何もかも空っぽで、僕もただただ毎日床に横たわっていただけだった……


───


ジェノベーゼ:……静かすぎる。まさか実験室の騒音が聞こえなくなると、眠れなくなるとは……

ジェノベーゼ:とは言え、ここは本当に……何もないな……

ラザニア:なんだ、驚いた、生きているのか……誰かが先に手を出したのかと思った。

ジェノベーゼ:……


 ここはジェノベーゼが購入したビルだ、彼以外誰かがいる筈はなかった。しかし、彼は突然目の前に現れた見知らぬ青年に驚いた様子もなく、相手もそれを気にも留めず彼に話しかけた。


ラザニア:こんなところに寝て、何をしているんだ?

ジェノベーゼ:……思考だ。

ラザニア:おや?それなら、私が何のためにここにいるのか、思考してみたらどうだ?


 それを聞いたジェノベーゼは、青年が持つ輝く刃をちらりと見てから天井に視線を戻した。まるでファーストフード店でセットを注文しているだけのような、淡々とした口調で答える。


ジェノベーゼ:明らかに、僕を殺しに来たんだろう。

ラザニア:ビンゴ。


刺客の情報


ラザニア:おいっ、私は君を殺しに来たんだ、怖がらないのか?

ジェノベーゼ:何故怖がる必要がある。怖がったら、殺すのをやめてくれるのか?

ラザニア:誰かが殺しに来るのを知っていたのか?

ジェノベーゼ:ああ、魔導学院に雇われて来たのだろう。考えてみれば、そもそも僕を簡単に解放してくれる時点で、こういう事をするつもりだったのだろう。

ジェノベーゼ:殺さないのか?

ラザニア:なんだ、死にたいのか?

ジェノベーゼ:いや、貴方が先に手を出さないと、僕は反撃できない。

ラザニア:ハハッ、今は君を殺すよりも生かしておいた方が面白いと思っている。


 殺し屋は武器を仕舞い、まるで旧友のように横たわるジェノベーゼの横に座った。


ラザニア:さっき思考をしていると言ったが、何を思考していたんだ?

ジェノベーゼ:……この建物を何に使うかについてだ。

ラザニア:このビルを買ったのは君だと聞いたが、買う時に考えなかったのか?

ジェノベーゼ:ああ、僕はただ横になれる場所が欲しかっただけだったから。

ラザニア:……それなら、高層ビルを買う必要はなかったんじゃないか?

ジェノベーゼ:静かで邪魔されないためには、こうするしかなかった。

ラザニア:なら、私は君の邪魔をしているのでは?

ジェノベーゼ:ああ。

ラザニア:悪かったな?

ジェノベーゼ:気にするな。

ラザニア:ハッ……君は面白いな。邪魔したお詫びに、君と同じくらい面白い女を紹介してやる。

ジェノベーゼ:……女はいらない。

ラザニア:誤解するな。ただ、彼女ならこのビルを面白くする事ができると思っただけだ。それに、彼女に協力してもらうのは簡単だ。たくさんのアンティークが君に管理されるのを待っていると彼女に告げればいい。

ジェノベーゼ:僕はアンティークなんて持っていない。

ラザニア:でも金を持っているだろう?金があれば何でも買える、あの女が一日中見せびらかすように走らせている黄金馬車も同じだ。

ジェノベーゼ:……どうしてそれを僕に教えるんだ?

ラザニア:このビル、寝るだけじゃもったいないだろう。いつか私のような招かれざる食霊の居場所になれば、それも悪くない……

ジェノベーゼ:居場所……か……


───


レッドベルベットケーキ:待って、アンティーク?黄金馬車?その「面白い女」ってもしかして、あたしのこと?

ガナッシュ:あれ?レッドベルベット、いつからいたんだ?

レッドベルベットケーキ:ちょうどあのろくでなしの殺し屋が、他人の情報を「紹介」だなんて言って売っていた時からよ。

レッドベルベットケーキ:あらガナッシュちゃん、割り込まないで。ジェノベーゼ、最初確かキャンベルからあたしのことを聞いたって言ってなかった?さっきの話からすると、あの殺し屋が紹介したように聞こえるけど?

ジェノベーゼ:彼に、貴方に知らせない方がいいと言われたから。

レッドベルベットケーキ:ふふっ……あのクソ野郎、やっぱり信用できないわね!居場所が欲しいだって?だったらどうしてあたしが折角築き上げた「カーニバル」支部を潰したのよ!

ガナッシュ:「カーニバル」支部?何それ?

レッドベルベットケーキガナッシュちゃんが「カーニバル」に来る前の事よ、あたしの苦労の結晶なのに、ううう……

シナモンロール:グルイラオの支店のことですか?でも、確か……僅か2日で閉店したはずじゃ……それに……

シナモンロール:店内から有毒ガスが検出されて、通報されたから閉店したと記憶しています……

レッドベルベットケーキ:普通の客が有毒ガスなんてわかる訳ないでしょう、きっとあのクソ野郎の仕業よ!

シナモンロール:しかし、いずれにしても有毒ガスだらけのお店は、閉店するべきですよ……

レッドベルベットケーキ:何よ、シナモンちゃんもあの頃うちに入ったじゃないの……

シナモンロール:「入った」だなんて……騙されたんですよ……

シナモンロール:しかし、言われて思い出しました、あの頃色々ありましたね……


「カーニバル」出会い


半年前

「カーニバル」本部


 ドンッ!


ジェノベーゼ:……こんなにキレているのは久しぶりに見たな。

アクタック:安心しろ、もしドアを蹴り破ってしまったら、自腹で修理する。だから、まずはグルイラオ支店の件を説明してくれ。

ジェノベーゼ:ああ、支店を出せばもっと儲かるとレッドベルベットが言っていた、だから……

アクタック:それで納得したのか?

ジェノベーゼ:ああ。

アクタック:……賃貸料、改装費、運営費、それにスタッフの雇用費、あとどれくらい掛かるのか考えた事ないのか?

ジェノベーゼ:儲けるためには、まずは投資しなければならない……レッドベルベットがこう言ったんだ。

アクタック:……わかった。なら、責任を持って支部の改装を監督したらいい。

ジェノベーゼ:しかし、支部はグルイラオに……

アクタック:だったらレッドベルベットと一緒にグルイラオに行けばいいだろう!承諾した事には責任を取れ!今度は死んでも助けないぞ!絶対にな!


 バンッ!

 自分が選んだ「カーニバル」管理者が怒り狂っているのを見て、ジェノベーゼは何も言い返せなかった。ただ、相手が大きな音を立ててドアを閉めて去っていくのを見ている事しかできなかった--


ジェノベーゼ:レッドベルベットがしつこいから承諾したんだが……まさか、さらに面倒な事になるとは……

ジェノベーゼ:はぁ……


 そして、彼はやむを得ずレッドベルベットケーキと共にグルイラオに行き、退屈の表情を浮かべながらまだ改装が終わっていない「カーニバル」支部の前に立った。


レッドベルベットケーキ:フフーン、この支部を盾にすれば、帝国連邦の連中はそう簡単にあたしの隠れ家を見つけられなくなるはず、あたしってば天才だわ~

ジェノベーゼ:……いつ帝国連邦と揉めたんだ?

レッドベルベットケーキ:いやいや!念のためだから、えへへ~

レッドベルベットケーキ:そうだジェノベーゼ、あたしはこれからクルーズに……コホンッ……近くの商店を調査して来るわ!支部を円滑に運営するため、色んな準備をしないといけないのよね~もうすぐ荷物が来るはずだから、忘れずに確認しておいてね!

ジェノベーゼ:ん?待て……

レッドベルベットケーキ:まあ、誰しも成長しなければならないわ。この機会に人との付き合い方を学んだらどう?最高じゃないの!

レッドベルベットケーキ:ちなみに、2階にはまだ片付けていない部屋がいくつかあるから、そこに入っちゃダメよ!じゃないと、あたしは「仕方なく」、「カーニバル」を継ぐ事になっちゃうかも~じゃあそういう事で、また後で!


 赤い姿は騒がしいグルイラオの街に一瞬で消えていった。ジェノベーゼは口を閉ざし、緊張からくるものと思われる喉の乾きを急に感じる事に。


ジェノベーゼ:また意味のわからない事をしに行ったようだな……はぁ……荷物の確認か……

ジェノベーゼ:コミュニケーションなんて、この世から消えればいいのに……

シナモンロール:あっ、あの……すみません……ここは「カーニバル」でしょうか?

ジェノベーゼ:……ああ……荷物は?

シナモンロール:えっ?荷物ですか?わっ、わたくしはこのチラシを見たから……


 それを聞いたジェノベーゼは、少女の手にあるチラシに目をやった。チラシに書かれたカラフルな文字を組み合わせると「ウソ」という2文字が浮かび上がった。


ジェノベーゼ:貴方は騙されたんだ。

シナモンロール:ええっ?!騙されたのですか?だから……ここには幸せの香料はないという事でしょうか……

ジェノベーゼ:……これからある可能性はある。

シナモンロール:えっ?どういう意味ですか?

ジェノベーゼ:このチラシを作った者が帰って来たら、直接聞くといい。

シナモンロール:そうですか……あの、あなたがここのオーナーですか?

ジェノベーゼ:一応。

シナモンロール:なるほど……その、ずっとこのまま立ちっぱなしで待つのですか?

ジェノベーゼ:……来た。

シナモンロール:えっ?


 警戒している彼の表情を見て、少女も緊張し始めた。視線の先を追うと、近くの路地から薄黒い影が現れた。そしてその影が近づいてくると、それは荷車を運転している御者であることがわかった。


シナモンロール:ふぅ……配達の方なんですね……

nil:オーナー!荷物が届いたぞ、確認お願いします!

ジェノベーゼ:……わかった……


 青年が荷物を少しずつゆっくり運んでいる様子を見て、隣にいたシナモンロールは気まずくなってしまった。


シナモンロール:おっ、お手伝いします!

ジェノベーゼ:ああ、助かる。

シナモンロール:よいしょ……あれ?そんなに重くないですね……よいしょっと……

シナモンロール:あれ?うっ、うわー!

ジェノベーゼ:どうした?

シナモンロール:どっどどどうして……子どもが2人いるんですか?!


可笑しいの子


 何層にも重なった荷物の陰で目を固く閉じている2人の子どもの姿に、シナモンロールは叫び声を上げた。しかし、彼女はすぐに状況を理解し、銀髪の子どもの肩にそっと触れる。


シナモンロール:起きてください!だっ、大丈夫ですか?

フェタチーズ:かっ、彼に……

シナモンロール:えっ?なんですか?

フェタチーズ:彼に触るなー!

シナモンロール:?!


 水色の髪の子どもが突然暴れ出し、シナモンロールに襲いかかったが、彼女は驚きのあまり身動きが取れなかった。間一髪のところ、彼女は誰かによって後ろに引っ張られた。


ジェノベーゼ:避けろ。

シナモンロール:?!


 シナモンロールが荷車から引きずり降ろされると、ジェノベーゼは片足を荷車に乗せ、片手で必死にもがく少年を押さえつけた。


フェタチーズ:触るな!消えろ!彼に触るな!

ジェノベーゼ:少し、静かにしろ。


 ジェノベーゼは何処からともなく注射器を取り出し、それを少年の首に突き刺した。少年はやがて力を失い、動かなくなった。その時初めて、ジェノベーゼは彼の顔が見えた。


ジェノベーゼ:貴方は……!

フェタチーズ:彼に……触るな……


 少年はやがて昏睡状態に陥った。ジェノベーゼは、彼のぐったりした体を受け止め、少し考えた後、2人を一緒に荷車から下ろした。


シナモンロール:こっ、これは一体どういうことですか?

ジェノベーゼ:……

nil:にっ、荷物の中に生き物がいるなんて聞いてないぞ?!それにこんなに危険な食霊だなんて……何かあったらどうしてくれるんだ?!

ジェノベーゼ:何かあったら?ケガしていないだろう。

nil:なっ、ないですけど……

ジェノベーゼ:なら問題ないだろう。

nil:別問題です!当初は荷物の重量に応じて報酬を決めたんですよ、こっそり荷物を増やすだなんて?!人をバカにするのもいい加減にしろ!

nil:やはり食霊とは取り引きなんてするんじゃなかった……同族を商品として売買する奴が良い奴な訳がないだろう?チッ、まるで悪魔だ!


 食霊に対する暴言は、2人の目の前で吐き捨てられた。少女の顔は少し青ざめていたが、青年の表情からは相変わらず感情が読めない。


ジェノベーゼ:……わかった。ただ、僕は現金を持っていない、追加報酬は少し待ってもらう事になる。

nil:踏み倒そうとしているだろ!ここで待たせてもらう!

ジェノベーゼ:ああ、なら中で待つといい。

nil:フンッ、わかったよ……


 御者は唾を吐き捨て、2人の子どもを持って建物に入って行くジェノベーゼを追った。シナモンロールも一瞬躊躇したが、後をついて行く事に。


ジェノベーゼ:1階はまだ改装できていないから、2階の客室で寛いでいてくれ。

nil:ああ、わかったよ!


 御者は不機嫌そうにドアをバンと閉めた。それでもリアクションのないジェノベーゼは、2人の子どもを再び1階まで運び、ある部屋のドアを開けた。


シナモンロール:あの……彼らに、何をするつもりですか?

ジェノベーゼ:治療だ。

シナモンロール:治療?この子たちはどこか悪いのでしょうか?そう言われると、確かに様子が少しへっ、変ですね……それに、どうして……

ジェノベーゼ:これらの質問には後で答える、今は治療を始めなければ。他人に見られても構わないが、黙っていてくれると……助かる。

シナモンロール:はい……えっと……ごめんなさい、もう一つだけよろしいでしょうか?

ジェノベーゼ:ああ。

シナモンロール:治療って……痛いですか?

ジェノベーゼ:……

ジェノベーゼ:体験した事がないから、わからない。

シナモンロール:もっ、もし痛いのなら、香料を焚いていいでしょうか?もしかしたら、彼らの痛みを少しでも和らげる事ができるかもしれません。

ジェノベーゼ:……ああ。


 そう言って、シナモンロールはしゃがみ込んで、癒し効果のある香料を静かに焚き始めた。その間、彼女は時折薬作りにいそしむジェノベーゼの横顔を見上げた。

 痛みを和らげる必要があるのは、意識を失っている2人の子どもなどではなく、むしろこの感情がなさそうな青年の方ではないかと、どういう訳か彼女はこの時思ってしまった。


万引きの罰


 静かな時間がしばらく続いた。シナモンロールが香りを嗅いで眠ってしまいそうになった頃、突然、ジェノベーゼの声が聞こえてきた。


ジェノベーゼ:終わった。

シナモンロール:うっ……治ったのですか?

ジェノベーゼ:いや、しばらく発作が起きないだけだ。

シナモンロール:そうですか……そう言えば、この子たちはどうして荷車の中にいたのでしょう?それに、あの子の様子は……流石におかしいです……

ジェノベーゼ:以前、良くないものを注射されたから、あんな風に暴れてしまうんだ。薬でそれを取り除く必要がある……

ジェノベーゼ:ただ、ここでは道具が揃っていないから、完全には取り除けない。

シナモンロール:なるほど……つまり、彼らとは知り合いなのですか?

ジェノベーゼ:ああ……彼らは、僕の犯した過ちだ。

シナモンロール:えっ?過ちって?もしかしてこの子たちはあなたの……子どもですか?

ジェノベーゼ:……

ジェノベーゼ:そんな訳がないだろう。

シナモンロール:そっ、それもそうですね……ビックリしましたわ……

ジェノベーゼ:彼らはかつて、僕の実験品だった。

シナモンロール:えっ?!


 大きな衝撃と好奇心でシナモンロールは目の前の青年の横顔を見つめ直す。優しい顔をしている訳ではないが、こんな幼い子どもに実験をするような人には見えなかった。

 しかし、言いたくなさそうな雰囲気があったため、シナモンロールはそれ以上追及しなかった。


シナモンロール:わかりました……お疲れ様です。ここにティーセットはありますか?良ければ、お茶を淹れようかと……


 カランコロンッ--ドンッ!

 突然、ドアの外で騒がしい音がした。正門入口の方から聞こえてきた音のようだ。


ジェノベーゼ:トラブルは続くようだな。


 ジェノベーゼシナモンロールが正門に来ると、ある青年が御者を地面に押し倒しているのが見えた。御者のズボンのポケットからは金色に輝く宝石が転がり出た。


ラザニア:ん?この店は偽物だと思ったが、まさか本当だったとは。

ジェノベーゼ:貴方か……

シナモンロール:ぎょっ、御者さん!何があったんですか?!

ラザニア:この宝石を見てもまだわからないのか?この男が宝石を盗んで逃げようとしていたところ、現行犯で捕まえたんだ……露出狂、君のところの新入社員は頭があまり良くないようだね。

ジェノベーゼ:彼女は僕の社員ではないし、僕も露出狂ではない。

ラザニア:そんな格好をして露出狂じゃないと?私はターゲットを殺す前に、そのターゲットの変装するのが好きだって知っているよな?そんな恰好をされたら、君に手出しできなくなるだろう。

シナモンロール:えっ?こっ、殺すって……!

ラザニア:そうだ、私は名の知れた殺し屋だ、ビビったか?

nil:いっ、いつまで世間話するつもりだ?!早く放せっ!

ラザニア:それはダメだ。悪い事をしたら、それなりの罰を受けなければならないぞ。

ジェノベーゼ:貴方が言うと説得力がないだろう……

ラザニア:お互い様だ。

nil:なっ、何が悪い事だ!俺はただ自分のものを取り戻しているだけだ!俺が貰うべき報酬なんだ!

ラザニア:ハッ、露出狂、いつからそんなつまらない借りを作るようになったんだ?

ジェノベーゼ:露出狂ではないと言っただろう……埋め合わせをするとは言ったが、それは「彼のもの」ではないし、そこまであげるつもりはない。

ラザニア:ほらな。

nil:てっ、てめぇら食霊みんな同じ穴の狢だ!全員クソ野郎だ!クソ野郎!

ラザニア:うるさいな……おいっ、ぶん殴って闇市に流しても文句ないよな?

nil:てめぇ……

シナモンロール:そっ、そんな事しないでください!

ラザニア:ん?

シナモンロール:物を盗んだだけなのに、そこまでする必要はないでしょう……暴力は怒りの発散にしかなりませんし、彼の恨みを買うだけで、良い事はないです……

シナモンロール:そっ、そうでしょう?


 少女は、宝石の持ち主の承認を得るかのように、緊張した表情でジェノベーゼを見つめた。しかし、彼は我関せずといった冷たい表情で、そっとその決断権を拒んだ。


ジェノベーゼ:そいつのやり方に納得がいかないなら、この人間をどう処分するかは、貴方が決めるといい。

シナモンロール:えっ?わたくしですか?!

ジェノベーゼ:そうだ、貴方だ。


因果ゲーム


ジェノベーゼ:そいつのやり方に納得がいかないなら、この人間をどう処分するかは、貴方が決めるといい。

nil:しょっ、処分だと?!狂ってやがる!食霊め、何の権利があって俺を処分できるんだ!

ジェノベーゼ:どうする、決めたか?

シナモンロール:それは……やはり持ち主か保安官に任せるべきでしょう、わたくしが決めるだなんて……

ジェノベーゼ:考えがないのなら、そいつの言う通りにしよう。

シナモンロール:ダッ、ダメです!わたくしは……

シナモンロール:……御者さん、報酬の補償は確かに必要ですが、盗みはどうやったって悪い事ですよね?もし、自分の非を認め、悔い改める気があるのなら、持ち主に許しを請いてください!

nil:許しを……請うだと?

シナモンロール:はい!そうすれば、悲惨な目に遭わずに済むかもしれません!もしかしたら、保安署に行けば……

nil:保安署?保安署は行けない……でも、てめぇら食霊に頭を下げるのもありえねぇ!

シナモンロール:?!


 御者を危険な状況から救う事だけを考えていた少女は、まさか自分が人質になって危険に陥るとは思ってもみなかった。

 ジェノベーゼは、人質を取ってますます暴れまわる御者と、何故か急に御者から手を放した若い殺し屋を、相変わらず無表情で見ていた。


ジェノベーゼ:わざとだろう。

ラザニア:私は悪人だから、悪い事をしないと。そうじゃなければ、君たち善人に正義を貫くチャンスを与えられないだろう?

ジェノベーゼ:だが、僕も善人ではないだろう……

nil:この嘘つきめ、現金を持っていないって言っていたのに、荷物には金になるものがたくさん入っていただろう!嘘つき!

nil:さっさと金になるものを出せ!さもないと、この女を殺す!

シナモンロール:うぅ……


 御者が自分を脅す武器にしている宝石をちらりと見て、ジェノベーゼは相変わらず無表情だった。


nil:金を出せ!じゃないと女の命が危ないぞ!

ジェノベーゼ:イヤだ、出さない。

nil:てめぇ……この女が目の前で死んでもいいのか?!

ジェノベーゼ:ああ。どうせこの世界は、ただのゲームなんだから。

nil:てめぇ……

ジェノベーゼ:でも……もうそろそろ時間かな……


 その言葉の意味を理解する前に、御者は突然盗んだ宝石を入れたズボンのポケットから、溶岩が太ももから膝まで流れるような焼けつく感覚を覚えた。

 宝石を持つ手のひらにまで焼けるような痛みが届き、彼は正気に戻って、叫び声を上げた。


nil:あああああ--!

ラザニア:おや、どうやら私の出番はなさそうだな。

シナモンロール:御者さん!どうしたのですか?

ジェノベーゼ:大した事ない、こいつの「選択」からくる必然的な「結果」だ。

nil:俺の手が!足が!俺の足!たっ、助けてーー!


蝶々


 激痛で御者は人質から手を離し、叫びながら地面に倒れ込んだ。ジェノベーゼは、まるで退屈な芝居を見ているかのように、彼の焦げた手のひらと足首を静かに眺めていた。


ジェノベーゼ:レッドベルベットが特別にオーダーしたその宝石は、少し特別な素材でできている。空気に触れれば他の宝石と変わらないが、人間の皮膚に直接触れたり、人間の体温を感知すると、腐蝕性を持つようになる。

シナモンロール:なっ……

ジェノベーゼ:心配するな、その対象は人間だけだ、それに進行速度も遅い。レッドベルベットは苦痛にも儀式感が必要だと言っていたからな……つまり、腐蝕の広がりを止めるのに十分な時間がある。


 軽やかな衣服の下から突然蝶が飛び出した。彼の指先につままれ、その一見柔らかい羽根は何故か鋭利になり、御者の体の腐蝕した境界線に沿ってゆっくりと滑っていく……


nil:あああああ--!

ジェノベーゼ:腕と足を1本ずつ失ったが、幸い命は残った……お礼は結構だ。

nil:そっ……そんな……

ジェノベーゼ:言っただろう、それらは貴方のものではないと。つまり、この「結果」に繋がったのは貴方自分自身の「選択」のせいだ。

nil:いや……違う!あの女が悪いんだ!あいつがくだらないことばかり言ったから、俺にチャンスをくれようとしたから、俺の足は……それに保安署を使って俺を脅そうとした!全部あいつのせいだ……!


 痛みによって狂った御者は、少し離れたところで固まっている少女を指さし、その目は恨みで真っ赤に染まっていた。

 しかしすぐに、ジェノベーゼは何の気なしに少女の前に立ち、恨めしい視線から少女を庇った。その姿は、まるで彼にもう限界である事を宣言しているかのようで、御者は憎しみを抱きながら、ついに気絶してしまった。


ラザニア:フッ、あれこれと責任を転嫁していたけど、宝石のせいだと言えばいいことを、こいつらは確かに魅力的だな……どうだ、優しい天使さん、この結末にご納得いただけたか?

シナモンロール:……

ジェノベーゼ:気にするな、そいつの「結果」は、最初から決まっていたのだ--僕の前で唾を飛ばした瞬間から。

シナモンロール:えっ?

ジェノベーゼ:彼を待たせていた部屋には毒ガスが充満している。ああ、わざとやったんだ。だから、例え宝石を盗まなくても「結果」は同じだ。

シナモンロール:それはつまり……初めから彼の処置は決まっていたのですね、なら何故わたくしに……

ジェノベーゼ:貴方に知っていて欲しかったからだ。過度の善意は良いものではないと、相手を許すと、相手は貴方の寛容に付け込んで新たな過ちを犯すかもしれない。

シナモンロール:わたくしに教えるために、こっ、こんな事をしたのですか?!

ジェノベーゼ:「カーニバル」に入るには、これを知っておかなければならないから。

ラザニア:ハッ、まるで狂人のようだ、流石だな。

シナモンロール:待ってください……どういうことですか?「カーニバル」に……入るって?!

ジェノベーゼ:そうだ。「カーニバル」にいると、必ずに多くの選択肢を突きつけられる事になるだろう。そして、全ての選択は、例え昼食に何を食べるかを決める些細な選択だとしても、恐ろしい結果を招いてしまうかもしれない。

ジェノベーゼ:なんせ、蝶が空中で数回羽ばたいただけで起きてしまう津波も、この世に必ず存在しているから。


 話している間に、一匹の蝶がひらひらと彼の手のひらに止まった。彼はその儚く鋭い生命を見つめている、まるで小さな世界を見るように。


シナモンロール:羽ばたく……蝶……

タイガーロールケーキ:綺麗事を言いやがって、俺たちを実験していた時は、どんな結果になるか考えなかったのか?

シナモンロール:?!


 背後から知らない声が聞こえてきた。シナモンロールが振り返ると、荷車の中で蹲っていたまだ弱っている少年が、その目に憎しみを光らせていた。


ジェノベーゼ:目覚めたか。

タイガーロールケーキ:どうしてそんなに落ち着いているんだ、俺は君を殺そうとしているんだぞ。

ラザニア:ハハッ、露出狂、君を殺したいと思っている人がこんなにいるとはな。


エピローグ


 虎の鋭い爪が、ジェノベーゼの首元に届いた。次の瞬間にも首の皮が切れそうになっているのに、ジェノベーゼは危険など存在しないかのように、恐怖どころか慌ててもいなかった。


タイガーロールケーキ:フェタから聞いたんだ、君は俺たちを実験したクソ研究員の一人なんだろう?

ジェノベーゼ:研究員の一人?いや、僕はそいつらとは違う。

タイガーロールケーキ:はぁ?何が違うんだよ?

ジェノベーゼ:僕はそいつらのリーダーだ。僕がいなければ、この実験は実現しなかったし、今の貴方たちもなかっただろう。

タイガーロールケーキ:この野郎……フェタは実験のせいでどんだけ辛い目に遭って来たと思っているんだ!まさか感謝でもしろと言うのか?!

ジェノベーゼ:それは結構だ、僕は単純に事実を述べただけだ。

ジェノベーゼ:僕があの実験をしたから、貴方たちはこの世に生まれ、そして実験室を抜け出してこの人間の荷車に乗り込み、彼に宝石を盗み、怒りをぶつける口実を与えた。

ジェノベーゼ:これが、バタフライエフェクトだ。

タイガーロールケーキ:ふざけるな、そんな事どうでもいい!

ジェノベーゼ:もちろん、知っておかなければならないのは……バタフライエフェクトは止まらないという事だ。自分の将来をもっと考えるためにも、この瞬間の選択は大切だ。

タイガーロールケーキ:何だ?

ジェノベーゼ:魔導学院の実験室は他にもある。何年も掛けて大切に育ててきた実験品がそこのまま逃げてしまっては、どんな研究者も大人しくしていないだろう。

タイガーロールケーキ:来れるもんなら来いよ!今度こそフェタを守ってみせる!

フェタチーズ:タイガー……

ジェノベーゼ:ガッカリさせるつもりはないが、貴方は戦いに向いていない、これは実験の結果だ。それに、彼の中にあるものは貴方がコントロールできるものではない。

フェタチーズ:……

ジェノベーゼ:言うまでもなく、魔導学院の人たち以外にも、貴方たちーー大勢の研究員を惨殺した2人の容疑者を狙ってくるだろう。正義でお節介な「ヒーロー」はたくさんいるからな。

ジェノベーゼ:だから、貴方たちに今必要なのは怒りではなく……居場所だ。

タイガーロールケーキ:……俺たちを受け入れるつもりか?

ジェノベーゼ:ああ、償いとして。

タイガーロールケーキ:償い?フェタの苦しみはそんな簡単に償えるとでも思っているのか?!

フェタチーズ:タイガー……まだ……殺しちゃダメ……

タイガーロールケーキ:……わかってる、俺はただ……

タイガーロールケーキ:おいっ、殺さないからって許した事にはならないぞ、君が言うバタフライエフェクトの通り……

タイガーロールケーキ:君のした事は、遅かれ早かれ「結果」が纏わりついてくる。

ジェノベーゼ:それはもちろんわかっている。僕の周りで連鎖反応が止まることはなかった……それでも、もう一つ聞きたい事がある。

タイガーロールケーキ:何だ?

ジェノベーゼ:どうやって逃げ出したんだ?

タイガーロールケーキ:……何が起こったか俺にもよくわからない、実験室は何故か廃墟になったんだ。全身真っ白で血まみれの男を見た、君を生かしておいてやると言ったのも、あの男だった……

タイガーロールケーキ:チッ、なんでこんな事教えなきゃならないんだ!フェタ、行くぞ!

ジェノベーゼ:僕の提案を、検討してくれないのか?

タイガーロールケーキ:元凶である君に頼りたくない、俺たち2人で何とかなるはずだ。

フェタチーズ:うん……タイガーを、信じてる。


 そう言って、少年たちは支え合いながら、しっかりと前を向いて歩き出した。大人たち3人は、それぞれ違う表情でその背中を見送った。


ラザニア:意外だな。いつも「世界はただのゲームだ」なんて言っている君が、子どもなんかのために、こんなに時間を費やすなんて。

ジェノベーゼ:……負けたいのか?

ラザニア:どういう意味だ?誰だって負けたくはないだろう。

ジェノベーゼ:僕だって同じだ。この世界がただのゲームだとしても、僕は負けたくない。

ジェノベーゼ:自分が創り出した実験品に恨まれ、報復されるのは……面倒だ。そんな事を解決するために魔導学院を出た訳じゃない。

ラザニア:フッ、相変わらず非情だな。

ジェノベーゼ:非情?そうか……これは一般人が熟慮の末に行う必然的な選択だと思った。とは言え……

ジェノベーゼ:蝶は何度も羽ばたいた……津波は、もう遠くないはずだ。

シナモンロール:津波……


───


シナモンロール:そう言えば……ジェノベーゼ、あの時話していた津波とは何ですか?もう来ましたか?

ジェノベーゼ:まだだ……だが、もうすぐ来るはずだ。

ガナッシュ:うーん……「幸せな香料」が本当に実在するか気になるのはオレだけ?シナモンロール、まさかずっと騙されたままなの?

シナモンロール:えっ?確かに……まだ「幸せな香料」を見つけていないですわ……

ジェノベーゼ:何を言っているんだ……貴方がここで作っている香料はすべて「幸せの香料」ではないか?

シナモンロール:えっ……!

シーザーサラダ:あっ!ここで何しているんだ?ジェノベーゼ様の研究室は立ち入り禁止だろ?!


 ようやくジェノベーゼを見つけたシーザーサラダは、人で埋め尽くされた実験室を見て驚きの声を上げた。


ガナッシュ:シーザー、オレたちはジェノベーゼの昔話を聞いてたんだ!

シーザーサラダ:なっだってー!

レッドベルベットケーキ:ふふっ……ジェノベーゼの大ファンは色々のがして、壊れちゃったみたいね。

ブイヤベースジェノベーゼの昔話……わたしも聞きたいです……

ボロジンスキー:ちょっと気になるが……でも、どうせ半分以上は常人には理解できない内容だろう。

フォカッチャ:なんだ、じゃあシェフにもわからねぇのか、バカは俺だけじゃなかったんだな、アハハッ!

ブリヌイ:ええ……物語を聞くのはわたしの趣味じゃないわ……もっと趣味に合うカジノに戻るわ。

アクタック:そうだ、もうすぐ開店時間だ、サボってないで、各自の持ち場に戻って準備しろ!


 管理者の怒号と「カーニバル」のメンバーたちの不満の声が聞こえなくなり、研究室は再び静寂に包まれた。

 ジェノベーゼはそこに座り、壁に向かって、何もないところを見つめている。まるで未来の軌道を変える運命の存在を見ているかのように、その穏やかな瞳に静かな光を走らせていた。


ジェノベーゼ:僕の物語……気に入ってくれたか?

ジェノベーゼ:聞いているのだろう……全てが僕のワンマンショーだったら、つまらないと思わないか?

ジェノベーゼ:ゲームは、まだ始まったばっかりだ。


 「バタフライエフェクト」完




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