キャビア・エピソード
◀ エピソードまとめへ戻る
◀ キャビアへ戻る
キャビアのエピソード
奇抜な思考回路の持ち主。高貴な身分にも関わらず変わった服を好む。
いつもパラレルワールドのことを話している。そこにもう一人の自分がいると信じて疑わない。
右目を常に隠している。わざとなのか、それとも傷を負っているのかは謎である。
Ⅰ虚空の神
僕は虚空の神に祝福されている。
僕は誕生とともに、右目に偉大なる虚空の神の祝福を宿した。
右目には普通のものは映らない。代わりにある光景が見える。
そのほとんどが、悲しく絶望的な景色。どろりとした闇に纏わり付かれたような気持ちになる。
これは呪いか。僕はかつてそう思っていた。
この能力のことを話しても、信じてくれる人はいない。
ただ一人を除いて。
「本当なんだ!この右目に封印された力に誓う!異なる世界の君は、出かけた先で怪我をしていた!だから行っちゃダメだ!」
「……はいはい分かったから、袖を引っ張らないで?晩御飯の材料を買いに行くだけよ。キャビアさん、昨日イチゴシェイクが飲みたいとか言ってなかった?」
「本当なんだ。からかってなんていない」
「また平行世界のお話?」
「そうだ」
「ふふっ……キャビアさんって、本当にかわいい。」
僕はいつも他人がなぜ笑うのかわからない。
「どうしたんだ?」
「あ、店長!キャビアさんがまた平行世界がどうこうって。私に出かけちゃいけないって言うんです」
「ふーん…………じゃ、今日はやめとけ。晩飯はカレーでどうだ?」
突然現れた男は僕をちらりと見て、何か考えたような素振りを見せたが、あっさりとこう言った。
「まったく御侍様はキャビアには甘いんだから…」
僕の話がどんなに荒唐無稽でも、御侍はいつでも信じてくれる。
それに僕を深い絶望の淵から救い出してくれたのも御侍だ。
御侍はこう言った。
「ふうん。じゃ、右目に感謝しなくちゃな。そいつは呪いなんかじゃない、祝福だよ。そのお陰で、君は守りたい人を守れるようになったんだろう?」
みんなには信じてもらえないが、僕は偉大なる虚空の神に、心から感謝している。
僕にこんな力を与えてくれたことを。
理解されなくても、誤解されても、守りたい相手を守れるなら、僕はそれでいい。
僕の力は、大切な人たちを守るためにあるんだ。
どんなに誤解されても、僕は気にしない。
ただ、右目の景色が、左目に映る現実に起きないように、願っているだけだ。
Ⅱ青天の霹靂
微笑みを浮かべ、僕に眼帯を取ってみろと言っていた人が、騒ぎと混乱の中、目の前で倒れる。
どす黒い鮮血がその口から吐き出される。僕は慌てて手を差し伸べ、胸に抱えた。
かつて、すべての闇を追い払えるほど暖かい眼差しを抱いていた彼の両目は、すでに光を失っている。
ハッとなって突然目が醒めた。
額と背中にじわりと感じる冷たい汗で、夢だったとわかった。
今まで右目に現れたことがない景色だ。
毎晩眠るたびに、僕の魂は肉体から切り離され、別の世界を彷徨って、右目の景色を見る。
手の中の生ぬるい感触がまだ抜けない。闇がまるで猛獣のように僕の魂を呑み込もうとする。
だが、僕は左目で見えている現実世界であの光景が再現されることを、何としても防がなければ。
なぜなら、彼は僕の一番大切な人だから……
僕は再び眠りにつこうとし、偉大な虚空の神にさらなる景色を与えてくれるよう祈った。どんな小さな手掛かりでもいい、あの人を救い、守りたいんだ……
偉大な虚空の神よ、あの人と巡り合わせてくれてありがとう。敬虔な信徒である僕に大切な人を守る方法を教えたまえ。
何度も試してみたが、いつも眠りの中から醒めてしまう。
どう祈っても、最後に映るのは、彼が目の前で倒れる光景だった。
だがついに、僕は違う光景を見た。
狩衣を着て、仮面を着けた男だった。
よく見ると、隣に全身真っ白な出で立ちの女の子を連れている。
はっきり見えなかったが僕は彼らのことを目に焼き付けた。
一晩中並行世界を歩き続け、日が昇る頃にはかなりの体力を消耗していた。
彼に、狩衣を着た男と、白い女の子に気を付けるように言おうと重い体を起こした。
だがその時、身も凍るような恐怖が足の裏から全身に伝わった。
あの女の子がそこにいたのだ。
「キャビア!ほら、新しい仲間だ。白子っていうんだ。真っ白だからちょうどいい名前だろう?先輩として、面倒を見てやるんだぞ!」
御侍は上機嫌で僕に手を振り、そう言った。
御侍は優しくて、帰る家のない食霊たちを自分のレストランに連れて帰ってくるような人だ。
そしてこの太陽のような優しさで、僕を右目の暗黒の世界から救い出してくれたのだ。
いや、今は言わないでおこう。ともかくこの女の子には要注意だ。隙をついて正体を暴いてやる。
それにしても、もっと気になるのは昨夜夢で見た景色……
この女の子は、泣いていた……
Ⅲ 監視
あの子は変わっている。
他の女の子みたいに、鮮やかに着飾ろうともせず、いつもその真っ白な服を着ている。
他の女の子みたいに、かわいいスイーツを食べ御侍様に甘えて絵本をねだったりしたこともない。
他の女の子から遊びの誘いが来ても彼女は何も言わず、作り物のような笑顔でしげしげと彼女らを眺める。女の子たちが怖がって走り去っていくのを、ただ眺めていた。
だから、御侍様と一緒にいる時間以外、あの子はいつも一人だった。
いつも頬杖をついて、静かに遠くを見やっている。
何を考えているのか、僕にはまったく分からない。
呪符を描くことのほか、彼女の趣味と呼んでよいものは、御侍様が放っておきがちな花壇の草花の面倒を見ることのようだ。
萎れている庭の草花が、彼女の甲斐甲斐しい世話のおかげで、続々と息を吹き返した。
その時だけあの子は作り物の笑顔を浮かべることを忘れる。
そして、日差しの下に美しく清らかな微笑みをたたえる。
僕はあの子を誤解していたのかもしれない。
そう思い始めていた。
しかし、警戒を説いたわけではない。
その日、御侍は外出中に堕神に襲われた。
調味料を仕入れるだけなので、ついていく必要がないと言われた。
幸いにも、襲ったのは酩酊状態の暴飲王子だった。
御侍は、いい酒を持ってくるからと言い、その場を切り抜けた。
いつものような能天気な口調でそのことを教えてくれたが、聞いている僕たちは気が気じゃない。
みんな、御侍を心配している。僕も自分を責めずにはいられなかった。最近は白子のことを気にしすぎて、御侍を守るという使命を、おろそかにしてしまっていた。
そう思いながら、僕はちらりと白子のほうに目をやった。
それは、わずか一瞬だった。
彼女はいつもの笑顔ではなく、自責の表情を浮かべていた。
すると、彼女はその場から離れ、どこかに向かった。
何を……しに行くつもりだ?
しばらくして戻って来た彼女は、妙な色のお粥が入った鍋を両手に抱えていた。
一体どんな食材を使ったのか、紫と緑が入り混じり、この世のものとは思えない異臭を放っている。
お粥を抱えたまま、彼女は御侍に近づいていく。御侍の表情が、どんどん険しくなっていくのがわかる。
「精魂込めて作ったよ。全部食べてね!これでまた、私と遊べるね!」
お粥を前にして、御侍は悲鳴を上げた。
でも、僕は白子に、毒物のようなお粥とはいえ、御侍を気遣う気持ちを感じた。
この子に、御侍を傷つけられるわけがない。
胸につかえていた何かが、やっと取れた気がした。
Ⅳ 決意
誰も予想できなかっただろう。白子が持ってきた、見栄えも匂いもおぞましいお粥はとても良く効いた。元々一か月休養しないと治せない傷だったが、お粥のおかげでなんと一週間で回復したのだ。
僕は右目が見た光景を疑い始めた。
そしてもう一度よく彼女を観察しようと決めた。
その夜、僕はもう一度虚空の神の助けを求めた。
でもこの前の光景と同じで、話の進む方向は変わっていなかった。
平行世界で倒れた彼の体はまだ体温が残っている。僕は頑張って自分のこころを安定させて、状況を注意深く見た。
————白子が御侍に近寄っていった。御侍は彼女の髪を撫でた。
「白子、ありがとう。君のおかげでいい情報がつかめたよ」
「あんなにならない……ならないと言って……」
「ん?白子何か言ったか?」
「……いいえ、なにも」
最後にその言葉を聞いた僕は目を覚ました。
なんで……本当に彼女だ……しかし……いや、彼女にはっきり聞かないと。
靴も履かない状態で、僕は白子の庭に走って行ったが、彼女はそこにはいなかった。
僕は、最近彼女はいつも徹夜で粥を作っていると思い出し、すぐ台所に走っていった。
そこで僕は信じられないものを見た。
白子は自分の袖を口に挟んで無表情で自らの腕から、一片の肉を切り取ってお粥に入れたのだ。
その瞬間に、彼女があの日に言ったことを思い出した。お粥の材料は、彼女自身の血肉ということなのか!?
その光景に驚いた僕は不意に音を立ててしまった。
「誰!?」
僕はゆっくりと白子の前に姿を現した。
化けの皮を現した白子に、僕は冷静な態度で質問した。
「これが君が作った粥の正体か?」
やはり図星だった。白子の表情は途端に険しくなった。
「お前には関係ない!余計なことをするな!」
「じゃ御侍に伝える」
「やめろ!」
「では、教えてくれ。あの狩衣を着て、マスクを着けている男は誰だ?」
「なんでお前が知っている!?」
Ⅴ キャビア
キャビアは他の食霊と比べて変わっている。
彼は未熟な子供のようだと言われていた。
もうとっくに妄想を抱く歳ではないのにキャビアは今だに「虚空の神」という言葉をいつも口にしている。
その眼帯は何かの封印であって、彼は封印された右目を通して他の世界の光景が見えるそうだ。
だが、そんな話は御侍のような、おおらかな人しか信じてもらえない。
キャビアのこの虚言癖を除けば、みんなが彼のことが好きなのだ。
彼は喋りが下手で、世間のこともよくわかっていなくて、いつも急に訳のわからない話を言っている。
だからみんなは、キャビアのいないところで忍び笑いしたり、彼に付き合って適当にあしらったりしている。
キャビアは虚言癖こそあれ、みんなにはとても優しい。
彼に助けを求めに来た人には真摯に向き合う。しかし彼はシャイだ。他人からお礼を言われたら自分のマフラーで顔を隠して恥ずかしがってしまう。
一見、暗い彼であるが優しくシャイな性格で女の子のファンも多い。
しかし、白子という食霊が来た日から、キャビアの表情はとても重々しくなった。
シャイな表情も消え、ずっと眉をひそめている。
彼自身はまだ気づいてないようだが、彼はその白子という少女に深い関心を持っているのは、誰が見ても明らかだった。
いつも御侍にのみ付き従うキャビアであったが、御侍が外出して傷ついた後、その白子という少女にもついてまわるようになった。
白子はとてもイライラしていた。
「なんで御侍を助けた?」
「私の勝手だろう!」
「自分の肉体を切り刻んで痛くないか?」
「お前には関係ないだろう!」
「痛いなら言ってくれ!そうでないと助けられないじゃないか!!」
「お前の助けなどいらない!」
「もう身を削ってお粥を作るのは止すんだ!」
「……お願いだから見逃して…」
「だめだ!じゃないとみんなに言いに行く!」
「……………………」
白子はこれまで誰にも見せたことのない表情をして黙り込んだ……
そんなことがあったのを全く知らない御侍は。
「あの二人は仲がいいのかな?黒と白だが、物静かな性格は似ているし二人はお似合いなんじゃないかな?」
御侍の言った言葉を聞いた白子は騒ぎ出した。
「わぁぁ!!白子!冗談!冗談だよ!そんなに騒がないでくれ!キャビア!早く彼女を止めてー!」
関連キャラ
◀ エピソードまとめへ戻る
◀ キャビアへ戻る
Discord
御侍様同士で交流しましょう。管理人代理が管理するコミュニティサーバーです
参加する