串串香・エピソード
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串串香のエピソード
刺激的で強烈な性格は内側から溢れ出て隠せないほど。誰に対しても容赦しない強い女。
文句なしのプロポーションだが、それを褒めても却って怒らせてしまう。
Ⅰ 雪の夜
月もない夜に、私は一人で雪に覆われる山の中で歩いている。
山を通る風が高く長いうなり声を立て、洞窟を通る時にうううという響きが奥から聞こえる。まるで山の上から時々聞こえる狼の鳴き声に答えているかのようだ。
突然降ってきた吹雪を避けるため、私は洞窟に入った。
雪がますます大きくなっている。雪が止んだ後に出発することにしよう。
私は洞窟の隅々から乾いた草や木の棒を集め、篝火を立ててそこに座った。
その時、洞窟の外はすでにぼたん雪が舞っていた。
私は真っ白で静かになった世界を眺め、目の前に動く物はただ舞う雪しかなかった。
この冷たい世界を眺めると、一瞬だけだったが、串鍋は自分の存在も忘れた。
ボン――――
低くて鈍い音が私の思考を中断させた。
「雪崩が起きたのかしら。」
そう思った。
雪は相変わらず舞っており、まるで世界の終焉まで続くかのようだ。
今の私にできることは、洞窟に座って雪景色を見るだけ、退屈なことこの上ない。
突然、白い世界に大好きな赤色のものが出現し、私にゆっくりと近づいてきた。
目の前にあるそれは、魅力的で濃い赤だった。
「あら~もう先客がいたんだ。」
優しい声だが、なぜか色気に満ちる感じがした。
「わたしは辣条(ラーティアオ)。ここに座ってもいいよね?」
目の前のやつは危険要素の塊だ。身体が私にこう言っている。
「うん、どうぞお好きに。」
私は断れなかった。このような環境の中で、彼女を拒絶する理由はない。
彼女が食霊だとしても、結論は同じだ。
「こんな季節でも、これほど高い山に雪蓮花を摘みに行ったら、雪に遭うわよ。」
辣条は私が背負っている袋から突き出している雪蓮花の葉を見てこう言った。
彼女の言葉からなんとなく皮肉なものを感じた私は、ただ淡々と自分の目的を説明した。
「近くの村が堕神に襲われたばかり。何とかしないと、村人たちは死んでしまうかもしれない。」
「おほほ~本当優しい子よね、可愛がりたくなるぐらい優しい~」
辣条は私を眺めるが、顔が恐ろしげな笑いに満ちている。
「ほっとけばよかったのに~人類という存在は、最後まで生き残ったら『勝った』と言う、図々しい生き物よ。」
「自分が食霊で長生きするから軽々しくそんなことを言えるの?」
何故か知らないが、私は彼女の言葉に怒りを覚えた。
「人類の醜悪な一面はあなたの想像をはるかに超えているわよ。お嬢さん」
辣条は何か意味ありげに鞭を上げた。
「そんな言い方、所詮あなたの偏見よ。」
私は冷たい声で答え、視線を洞窟の外に向けた。
Ⅱ 寂しい雪
いつの間にか雪は止んでいた。
私は袋を背負って立ち上がり、火を消してから洞窟を出た。
一方辣条は偶然私と同じ道なのか、単に私といるのが面白いと思うのか知らないが、ずっと私の後ろについてくる。
私は思わず歩みを早めた。
下り坂に差し掛かった時、何かを踏んだような気がした。
雪と違い、柔らかい感じだった。
下を見ると、雪に覆われた灰色の何かが見えた。
私はしゃがんで雪を払った。
ふかふかしている灰色の皮の感触でそれが何かを悟った。
「ワンちゃんか~」
「ははは……あんた本当に面白い」
言葉が出た途端、辣条の笑い声が後ろから聞こえてきた。
「どうするつもり?この足手まといを連れて帰る?それとも見捨てる?」
「足手まとい?」
この時、子犬の腹部に雪で凍った血痕と血で固まった毛、血まみれの傷跡に気づいた。
「さっきの音は、子犬が落ちた時の音なのかしら?」
そう思っていた私だが、それを証明する方法はない。
雪のためか、子犬から体温をほとんど感じられない。
ただ微かに起伏する腹部から、まだ生きていることがうかがえる。
「この様子から見て、もう長くはないわ。いっそ今殺してあげた方がいい。そうすれば苦しみも少ない」
辣条は言いながら鞭を取り出そうとする。
「何をする気?」
「もちろんいいことよ」
「私はこの子を助ける」
辣条がこれ以上近づけないように、私は体で彼女の道を遮った。
「あんたの力でできると思う?ふん~」
辣条は鼻で笑った。
「あんたが見つけた雪蓮花を使えばなんとかなるかもしれない。しかし、あんたさっき雪蓮花で村人たちを救うと言ったわよね~」
私の反応を試しているように、辣条は続けて言った。
「ただ、救う対象はいずれにせよクズね~」
私は躊躇せず、雪蓮花を数枚取り、子犬の傷口に当てた。
私の行動を見た辣条は口を止め、手を振って離れた。
「せいぜい祈ることね~」
Ⅲ 噂
ここは麓にある小さな村。人家は十数件しかない。
数か月前、ここは堕神に荒らされたばかりだ。
村人たちは堕神がもたらした災難に苦しめられた。
しかし、わずか数か月後の現在、村はすでにかつての平和を取り戻している。
村にはある小さな店がある。店には九つに隔てられた鍋が用意され、人々は串に食べ物を刺して、鍋に入れて温めて食べる。
そしてこの店のオーナーが私だ。
常連たちがいつも店に集まり、酒を飲みながら歓談する。
これは私が一番好きな風景だ。
涼しい季節がやってきて、爽やかな風が山の音を送ってくる。
初秋は最も居心地がいい時期だろう。
ほっとできる時間は、営業時間までの静かな朝だけだ。
私は一人で裏庭に座り、あの日に拾った子犬が私のそばにいる。
「あの日捨てなくてよかった、寂雪。」
私は足元で腹ばいになっている寂雪の頭を軽く撫でて言った。
寂雪の傷口はほとんど治ったが、歩くのはまだ遅い。
寂雪がいないと、私は今でもさびしく生きていただろう。
そう思うと、自分は多少は運がいいのだと感じるようになった。
ドンドンドン――
珍しく裏庭の木の門が叩かれた。
門を開けると、外に一人の老婦人が立っていた。
老婦人は笑顔で私に言う。
「無理なお願いだとは重々承知しているけれど、おばあさんのことをかわいそうに思うなら、もう少し雪蓮花を分けてもらえないかしら?うちの主人は心臓の病気があって、もし……」
老婦人が雪蓮花で最も大事な人を救いたい気持ちはよく分かる。しかし、今の私には、彼女を助ける余裕がない。
始めは、傷を負って倒れた人たちを救うため、高度数千メートルの山に行った。
あの日に持って帰った雪連花が少しだったけれど、適切な量を使えば、当時の重症者を治療するには十分だった。
「ごめんなさい、私にはできない。」
私はいつも通りの口調で答えた。
「お願い、少しでいいから、あの人がこのまま亡くなるのを見過ごせない。」
老婦人は精一杯頼んでいる。
こんな場面は見るに耐えない。私はどうしたらいいかわからなくなり、ただ茫然とそこに立っていた。
次の瞬間、柔らかい感触が足元から伝わり、頭を下げると、ちょうど寂雪と目が合った。
たぶん私がなかなか帰ってこないのを不思議に思って、こっそりとついてきたんだろう。
「ああーーーー狼!!!」
老婦人はお化けでも見たかのように逃げ出した。
その場に、呆然と寂雪を見ている私だけが残った。
「狼???」
数日後、私が「狼を犬だと思って飼っている」という噂が村中に広がった。
Ⅳ 守護
元々私は村人の言葉を気にしなかった。
そして彼らの言う狼がいかに恐ろしいかも理解していなかった。
寂雪と過ごす日々、寂雪は体の成長こそ早いが、とても穏やかな性格で、めったに人を襲わない。村人たちが言う、殺さなければならない猛獣のはずがないじゃない?
幸い、こんな噂が広がっても、店の商売はいつも通りに維持できる。
この店の人気は元々かなり高く、特に夜になると、たくさんのお客さんがいつもここで涼みながら食事を楽しむ。
私が村のために貢献したことをみんな覚えてくれているのかも。
村のみんなは私にとても優しい。毎日無表情な私にも、いつも笑顔で接してくる。
私は毎日感謝の気持ちを抱いて厨房で食材を準備し、そして自ら料理をみんなの席に届ける。
私にとって、これは多分一番幸せなことなのだろう。
一人で店を経営するのが大変だとみんなも分かっている。だから、私を催促する人はいない。たまに冗談を言ってくるだけだ。
「女将さんはいつもお美しいね!」
「女の私が見ても羨ましいスタイルだよ~」
「もういいわよ。これだけの食べ物があったら喋ってる暇ないわよ!」
冗談に慣れてはいるけど、こんな話ばかりではうんざりだから、ちょっと怒って言い返した。
私が他のテーブルに料理を運んだ時、ある貧相で険悪な顔をした男が私の後ろに近づいた。
男はふらふらして酔っているみたいだ。
彼が軽薄な顔で手を私の肩にかけた時、私は反射的にその手を払おうとした。
しかし私が男の手を掴む前に、細長い影が目の前に現れた。
ああ――――
胸を切り裂くような悲鳴が店内のお客さんたちを驚かせた。
一滴、二滴、粘りのある赤い液体が地に落ちた。
一瞬の沈黙の後、お客さんたちはみんなお化けでも見たかのような顔をして逃げ出した。
「狼!狼がいるぞ!」
この瞬間、私は普段決して見せない恐ろしい表情をした寂雪を見た。
寂雪は決して私に見せない鋭い牙で、あの男の腕を咬んでいる。
血が止まらない。男が痛みで悲鳴を上げ、反対の手で寂雪の頭を強く叩いている。
しかし寂雪は口を開けるどころか、男の手を食いちぎろうとする勢いでより力強く咬んだ。
「早く離して!私は大丈夫…彼は私を傷つけなかった…だから早く離して~」
私はようやく何が起こったのかを理解した。寂雪は私を守ったのだ。
私は寂雪の背中を撫でて慰める。寂雪の体が硬くなって、緊張で震えている。
騒ぎに駆けつけた村人たちが店の外に集まり、武器を持って寂雪を殺そうとする者までいる。
この時の寂雪は普段の優しさなど微塵もなく、私の言葉を全然聞かない。
私はどうしたらいいか分からないまま寂雪に飛びかかり、強く抱いてあげた。
「お願い、早く離して~」
ようやく、寂雪が口を開けてくれた。
寂雪はきっと私の気持ちを察してくれたのだと思う。
幸い、寂雪はまだ幼い狼に過ぎない。
あの男の傷は重くない。
寂雪が口を開けると、険悪な顔の男は慌てて逃げ出した。
しかし、村人たちは引き下がる様子がない。
今の彼らには、いつもの優しい笑顔などない。
「本当だったのか~本当に狼を飼ってたなんて~」
「信じられない、狼と同じ部屋に住むなんて、どうかしてるだろ!?」
「やはり食霊は人類と違う……」
村人たちがひそひそと喋っている。
彼達は武器を手に持ち、今にも寂雪を殴り殺しそうな勢いだ。
「人を傷つけるものは、今まだ幼くても、将来必ず禍をもたらす」
私は寂雪を自分の後ろに隠し、みんなに哀願する。
「分かってる、だから……」
その瞬間、みんな黙り込んだ。
私だけが声の限り哀願し続けている。
「私は寂雪と一緒にここを出ていくから!」
Ⅴ 串串香
(※串鍋→串串香に変更して記載しています)
見慣れた景色だ。山を覆う白はすでに消え、緑に飾られている。
串串香と寂雪は洞窟ですでに一か月以上暮らした。
この山の山道で寂雪を拾ったことを、串串香は今でもはっきりと覚えている。
人類が醜い一面を持つのは本当だ。
人類の悪を知っているからこそ、串串香は村人の善意に感謝の気持ちを抱く。
すべてが悪なのではない。
人類の善意が分かるからこそ、串串香は今こんなに悲しいのだ。
洞窟で生活すると、時間の経過が速い気がする。時間が経つのをほとんど感じられない。
このまま寂雪と一緒に山の中で生活しても悪くない。
やはり自分の料理の夢を捨てられない。
考え抜いた結果、串串香は寂雪を狼の群れに帰すことにした。
ずっと自分の隣にいると、寂雪は狼であることの意味まで忘れてしまうだろう。
寂雪にとっても自由にするのが一番だ。
そう考えた串串香は、ずっと自分に飼いならされた寂雪が他の狼と仲良くできないのを心配した。
そこで寂雪に山で狩猟をさせた。寂雪にとって、生きるために覚えなければならない能力なのだ。野性を失い、仲間にいじめられないようにしなければ。
寂雪は山の中で走り続ける。
夜になると、月の光は銀灰色の皮を照らし、寂雪の体は白く輝く。
本物の雪のような色だ。
寂雪はスタイルがいい。走っているときには、身体は美しい弧を描く。
幸いここの山は木が少なく、視線を遮る障害物がないから、狩猟地として最高だ。
串串香はただ傍に立って見ていて、できるだけ寂雪の姿を目に焼き付けようとする。
寂雪を狼の群れに帰す日もそうだった。
かつて懐に収めることができた小さな身体。
もはや凛とした狼の顔となった可愛らしい顔。
それでも、寂雪が串串香に向ける視線は相変わらずだ。
夕方になり、山々は別れの赤色に染まっていた。
それは串串香が大好きな赤色だった。
近かった二つの影が、だんだんと離れていく。
串串香はただそこに立っていた。視線の向こうには小さな狼の帰るべき場所――狼の群が見える。
小さな狼は緩慢な動きでゆっくりと歩き、二、三歩踏み出すたびに、串串香を顧みる。
今呼べば、寂雪はきっとすぐに帰ってくるだろう。
しかし串串香は何も言わなかった。もうあの瞳を見るのがつらい。
串串香は向きを変え、帰路についた。
「これが寂雪にとっても一番。」
串串香は自分にこう言った。
こうするのが正しい、串串香は何度も何度も同じ言葉を繰り返した。
いつもあまり笑わない自分に、今は笑わなくちゃだめよと言った。
串串香はもう一度向きを変え、何度も眺めた瞳に視線を向けた。
串串香は無理やり笑顔を作ったが、唇は震えている。
彼女は自分の感情を必死に抑えようとした。
しかしその表情こそ感情を表しているのだ。
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