過橋米線・エピソード
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過橋米線のエピソード
一見冷たく見えるが、主婦並みの生活スキルを持ち、御侍の世話をよく焼いている。
Ⅰ 断ち
朝、空が明るくなったばかりの頃、私は鞄を背負って河雲澗の傍らを歩んでいる。
河雲澗は河源村と雲崖村の真ん中を横切った山間の谷川、両岸を鶴橋吊橋一つだけで繋いでいる。
今私の目の前にあるのは、重そうな山石で塞いでいる橋先と、封鎖用の数本の錆びた鎖だけ。
通行禁止。
これを見て私は思わず首を振った。
後ろに振り返ると、御侍はそう離れていない場所に立っている。目が合うなり、彼は私に向けて手を振り大声で、
「米線、俺は先に帰るぞ!お前も気をつけろよ!」
笑いかけると、彼は頷いた。
しばらく離れていく御侍の後姿を凝視したら、私は振り返り、袖を振って、細い糸が毒蛇のように目の前の障害物に飛びついた。
パッと、鎖が断ち、石屑が飛び散った。
砂埃が散ると、吊橋の向こう側に何人かの人影がぼんやりと現れた。私は溜息をして、早足でそちらに向かった。
私は吊橋の封鎖を破った。
両村の『老いて死ぬまで往来はしない』をも破った。
昔、河源村と雲崖村は仲のいい村同士だった。
でも今は単純な交流すら絶とうとしていた……
いつからそうなったのかはわからない……少なくとも私が現れた時はすでにそうなっていた。
もし今回の突発な事件がなければ、私も御侍様と同じように、ここに立ち入ることはなかったでしょう。
そんなことを考えながら、私はいつの間にか吊橋を渡りきった。
迎えに来た数人の男女の中、リーダーらしき男が挨拶をしてきた。私は軽くお辞儀をして、
「私は過橋米線。これからしばらくの間よろしくお願いします」
Ⅱ 繋げ
「澈、これはみんなの分。櫻、これは御侍様の分。二人とも今日もよろしくね」
村中のある小屋で私はエプロンを解き、ご飯とおかずを包んでから二人の子供に渡して見送った。
「お疲れ。米線さん」
子供が行った後、一人の男が簾を捲りあげて入ってきた。
周りを見やると、申し訳なさそうに、
「堕神のことだけじゃなくて、こんな雑用まで……」
「大したことじゃないわ」
調理器具を片付けながら、私は気にしてないと軽く首を振る。
「今日はどうしたのかしら?村の入り口に……」
「はい……またお願いします」
男は更に申し訳なそうにする。
「今行くわ」
片付けを止め、私は男とすれ違いに小屋を出て、村の入り口に向かった。
河源村と雲崖村は山の両側に位置して、真ん中はそこが見えない谷川に隔てられている。
雲崖村は河源村よりも北に寄ってるせいで、堕神が出現してから、襲撃を受けるのはほとんど雲崖村だった。
でも両村唯一の食霊は河源村にいる。いろんな原因で村ごと引っ越すこともできない雲崖村は、地元の料理人ギルドに助けを求めるしかなかった。
ギルドは河源村の食霊とその御侍様と話し合った後、ギルドが他の御侍を派遣するまで、その食霊をしばらく雲崖村に住まわせて堕神にあたることを決めた。
その食霊というのが私だ。
村の入り口辺り、糸が舞い、数匹の小さい堕神は粉粉になって散った。
糸を回収して、周りに他の堕神はもうないと確認したら、私は村に戻った。
「今頃御侍様はどうしてるのかしら……」
Ⅲ 断ちそうで断てない
私はいつものように食事を用意して、子供たちが来るのを待っていたが、しかしなぜか、かなり遅くなっても子供たちは来なかった。椅子に座って私は呆然と空を見つめていた。
二つの村はそう離れていないから、吊橋を通れる今、食霊の速度であれば、たとえここに住んでも、毎日御侍様に食事を届けることぐらいはできると、最初はそう思ってた。
でもここに来てようやくそれが不可能だとわかった。
他でもない、雲崖村に助けが必要なところは多すぎた。堕神はそのうちの一つでしかなかった。
災害後の復興工事、基本的な防御工事……などなど、一連の問題は常にこの村を悩ませてきた。
人間離れな能力を持っている私は、この状況を見過ごすことはできなかった。
その結果、私は堕神の退治と災害後の復興だけじゃなく、毎日子供たちの食事も作らなければならなかった。御侍様へ食事を届けることは子供の内の一人に頼むしかなかった。
この忙しい生活はもはや日常となった……
今日までは。
「米線お姉ちゃん……今日は……御侍のお兄ちゃんにご飯を届けなくてもいいの?」
櫻は私の前に立ち、恐る恐る私を見上げた。
「……どうしたの?」
その難しそうな表情を見て、私は困惑した。
「ご飯を届ける時、あ、あの人たちは……いつも僕にひどいことを言うの」
いつも陽気な櫻は泣きそうになった。
「米線お姉ちゃん、ごめんなさい……櫻は……もうあそこに行きたくないの。あの人たち、怖い」
私は少年を抱きしめて慰めた。内心苦しかった。
二つの村の間の悪い関係を忘れてしまった。
普段からそれとなく聞いていたが、誰も私の前で言わなかった。でもそれは、私に助けを求めてるからだろう。
そういえば、河源村に居たときも、雲崖村を言及したときの皆の態度もこのように……厳しかった。
一回戻ろう。
私は心の中で溜息をついて、自分に言い聞かせた。
翌日の朝、私は河源村の家に戻った。
「……大丈夫だ。雲さんが飯を作ってくれるから心配するな」
御侍様は私の目の前に座り、太ももを叩いて笑った。
「その子、櫻だったな。悪い事をしたな、俺はできるだけ止めたが、おまえも知ってるように、そう簡単にはいかなくてね」
「私はただあなたにご飯を作ってあげたいだけだけど、今はそうもいかないわね」
私は散らかってる部屋を片付けながら、安心できずに言い聞かせた。
「塾の仕事はあってもあまり自分を追い詰めすぎては駄目よ。体に気をつけないと」
「……」
その後私は雲崖村に戻ったが、意外に村の入り口に櫻と、よく私を訪ねたあの男が居た。
「米、米線お姉ちゃん……ごめんなさい。櫻はもうわがままを言わない、ご飯届けるから、お姉ちゃんは行かないで」
櫻は私の服を掴んで泣き付いてきた。
「すまない、過橋米線さん。私がしっかり叱ったから、もう許してやってくれ……」
男は卑屈そうにそう言ってきた。
「私は別に帰るつもりじゃないから
私は彼を遮って、櫻の手を取って村に戻っていった。
「御侍様の方はもう片付いた。仕事を引き継ぐ人が来るまで私はここに滞在するつもりだわ」
「だからもう子供を虐めないであげてください」
最後に、私は遠慮なくそう言い放った。
「え……」
男はぽかんとして、すぐ謝ってきた。
「すまない……てっきり河源村のほうが……」
「あなたたちがどう思ってるのかわからないけど、御侍様は協力をやめるつもりはないわよ」
「う……」
そうして、私は再びここで住み始めた。
これで私はすべてが正常な軌道に戻ったと思ったけど……
Ⅳ 連結
ある日、私は復興現場で食事を用意していたとき、一人の青年が遠くから私に駆けつけてきた。
彼のことは知っている、御侍様の教え子だ。
「どうしたの?」
青年の表情を見て、私は不安を覚えた。
「堕神が村に入ってきた早く戻ってくれ米線さん」
青年は急かした。
「かなりまずい状況になっている。あんたの助けが必要だ」
そう言って、彼は私の手を引っ張って戻ろうとした。
その時、傍に居た一人のおばさんが声を出した。
「河源村のことなんてどうでもいいだろう?」
「そうだそうだ」
たくさんの人がそのおばさんに同調した。
私は突然悲しくなった。目の前のいつも気のいい村人たちを見て、私は何故か少し気持ち悪く感じた。
そうだ、もうわかってたはずだ、人間同士の争いは簡単に解決できないことを。
たとえある意味で河源村の代表といえる私が彼らを助けたとしても、その結果は変わらない。
苦悩する気持ちが心に蔓延って、私は青年と共に村に戻った。ちょうど堕神が跋扈している場面に遭遇した。
苦戦のあと、私は堕神を退治した。
村の混乱と村人たちの悲しい顔を見て、私はどうすればいいのかわからなかった。
雲崖村と違って、河源村の平和は長すぎた。
ここの人々は徹底的に危機感と危機の時に自分を救う能力を失ってしまった。
何をすればいいのかわからず、亡くなった家族を抱きしめて泣くか、家の残骸を眺めて嘆くか、彼らはまるで何もできない。
周りで慌てふためく村人たちを見て、私は突然無力感に襲われた。
雲崖村に長く居たけど、そちらには有事の際対応するためのマニュアルがあるから、私は指令に従って行動すればよかった。
いったいどうすればいい……
御侍様を落ち着かせた後、私はこの問題を悩みながら混乱する人々を指揮した。
高強度の戦闘を終わらせたばかりで、復興のことも考えなくてはならない。
私の精神はすでに過労の淵に瀕しており、すぐにでも気絶しそうだった。
実際私の視界はすでにぼんやりし始めた。
その時、慣れ親しんだ声が聞こえた。
「俺がやろう」
振り返ってみると、雲崖村のあの男がいつの間にか私の側にやってきていた。
彼の後ろには、雲崖村の村人たちがたくさんついてきた。
彼らは道具や薬草を持っていた。
「助け合おう」
まるで私の心を読み取ったように、彼は言った。
Ⅴ 過橋米線
光耀大陸はノース大陸の北方に位置して、後ろには神言八峰がある。
八峰の地形は起伏して、内最大の裂製け目はすでに玉京に塞がれた。その複雑な内部構造がゆえに、未だ誰もその全体像をつかめられていない。
八峰の裂け目は本当に玉京に塞がれたものしかないのか、誰もわからない。
玉京のことはさておき、この土地には古くから暮らしてきた村々が存在している。 その村々は八峰に付近に位置して、八峰の中の様々な怪奇を知るものはたまに居た。
八峰の反対側にいったい何があるのかは、玉京の主以外誰も知らない。少なくとも、八峰の反対側には堕神を生み出す源泉の一つがあることは広く知られていた。
その原因は堕神の出現後、八峰から堕神が湧き出し始めた。
この世はいつもそう、問題の解決策は常に問題より遅れてくる。
堕神が急に湧き出し始めた頃、ほとんどの場所ではまだ自衛の手段を持っていなかった。
六・七峰の交差点にある二つの村がそうであった。
関係の悪い二つの村には、偶然召喚された食霊は一人しか居なかった。
その食霊は比較的安全な村の方に所属していた。
堕神が進入し始めた頃、料理人ギルドの支援はまだここに来る途中、そういう絶望的な状況下で、その食霊の御侍様は昔からの遺恨を忘れて、支援が来るまでの間、彼の食霊を向こう側の防衛に貸し出して、もっとも困難な時期を何とかやり過ごした。
が、その間、御侍の所属している村も堕神に襲われた。このような状況なのに、北の村の多くの人は彼らの不幸を喜んで見てるだけだった。
幸いなことに、誰もがそのような良し悪しのわからない人間ではなかった。一人の男と何人かの子供が、その御侍の恩を返すべく駆けつけた。彼らの行動が恩知らずの同胞を諭して、お互い怨恨を忘れて、南村の災後の復興に協力した。
そのことで、ニつの村が和解した。
『彼女はまるで一本の糸』
北村でその時期を生きていた老人がこの出来事を話すとき、いつもこのような感慨に浸ってた。
『すべてを繋ぐことができた』
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