シャンパン・エピソード
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シャンパンのエピソード
敗北を知らず、絶対的な自信とプライドを持つ。彼の銃が指し示す先は、必ず彼の領土となる。勝ち続けたがゆえに王の座についた彼は、民を傷つける者を許さない。
Ⅰ疑惑
御侍は俺が来たことを、勝利の祝いをもらったようにうれしかったと言った。
俺の御侍はこの国を守って数十年になる。この土地の侵略を狙うやつらと戦い、勝利した数は想像を超える。
御侍は少年時代に入隊して栄光ある兵士となり、この弱小国を守ってきた。戦役で身体には数え切れないほどの傷跡があり、その歳月には栄光ある功績が刻まれている。
すでに髪には白いものが混じり、本来なら老後を楽しむ年だが、今でも独り身で、食霊の俺だけがそばについている。
御侍はよく、笑いながら、この国は自分の子どものようなものだと言う。一番いいときにこの国を守り始め、少しずつ大きく強くなる国を見てきた。
道の両側で、彼の凱旋に歓呼する人々を見るたび、俺にこう言う。自分の人生を、この土地の人々に捧げてきたことを後悔したことはないと。
しかし、王は御侍の献身を裏切った。
軍隊の指揮権を握っていることで、御侍は王から疑いの目を向けられた。
何のことはない宴会が、御侍を絞首台に送る断罪の場になろうとは、誰が想像できただろう。
家族はすでになく、跡継ぎもいない。
御侍は俺を兄弟のように思ってくれている。決して優しくはないが、大切な人にすべてを捧げる人だ。俺は御侍が理不尽な断頭台に上っていくのを見ることなどできない。
御侍の育てた兵士たちや俺が、売国奴と言われるのは我慢できない。そこで俺は、守りの堅い牢獄に乗り込んだ。
いつも気力に溢れていた御侍は、重病の老人のようになり、普段は整えられている髪もぼさぼさになっていた。
御侍は顔を上げ、ぼんやりと俺を見ると、何か呟いた。
「早く……行け……」
それを聞いたとき、無数の兵士が武器を持って、その広すぎる牢獄へと雪崩込んできた。
俺はピストルを手の中でくるっと回し、武器を手にしても攻めきれない兵士を笑いながら、冷笑を浮かべた。
「ちゃんと考えたか?俺を敵に回すってことは、勝利を敵に回すってことだ。」
霊力が弾となって銃口から次々に吐き出され、牢獄の壁に当って火花を散らした。兵士は次々に倒れたが、援軍も次々に現れて終わらない。
枯れようとする植物から辛うじて絞り出すエキスのように霊力を送り出した。俺は目の前の光景にうっとりしたが、御侍の悲しげな叫びが一際はっきり聞こえた。
いや……俺は絶対……失敗できない……
Ⅱ援軍
俺は霊力が尽きてぐったりし、自分の身体を支えられなくなっている。
後ろにいる御侍を守ろうと、俺は歯を食いしばって弾を撃ったが、その痛みで今は身体が痺れている。
負けられないという思いだけが身体を支えているが、目の前が真っ赤に染まり始めている。
目を閉じるまいとしたが、ついに足を滑らせ、俺は前のめりに倒れた。
負けたと思った瞬間、なつかしい人影が俺の前に立ち、倒れた身体を支えた。
「シャンパン、お前は私たちの勝利の象徴だ。倒れるな。耐えるんだ!」
思考を停止させるような目眩が遠のき、少しずつ意識がはっきりしてきた。俺の身体を支えているやつがはっきり見えた。
「お前たち……来てくれたのか……」
「王者の称号は、お前一人のものじゃない。今玉座に座っている奴のものでもない!真の王者でなければ、平和は守れない!」
突然入ってきた仲間を見ながら頷き、俺は肩を借りて弱った身体を支えた。
「俺のいるところ、勝利あり!」
援軍を得て、御侍を無事に救い出すことができた。俺は安心して意識を失った。
目覚めたとき、御侍は心配そうに枕元に座っていた。手には刑を受けたときの傷が残っている。御侍はわずかに震えながら、大きな親指で俺の顔を撫でた。
「シャンパン、すまない」
御侍は一瞬、心配そうな様子を見せたが、すぐにいつもの厳粛さを取り戻した。御侍の目に、復讐の殺意が浮かぶのを感じた。
「私が傷つくのはかまわない。しかし、私の兵士たちを傷つけるのは許さない」
俺は御侍を救うために命を落とした仲間たちが横たわっているのを見て、拳を握りしめた。
御侍を振り返ると、その目の迷いは消え、決意がみなぎっている。
俺はわずかに口元を綻ばせ、手に持った旗を高く掲げた。
あなたが望みさえすれば、俺のいるところは勝利する。
俺の銃が指し示す場所が、あなたの領土だ。
Ⅲ 国家
国に数十年忠誠を尽くした将軍率いる軍が反旗を翻すとは、誰も想像しなかっただろう。
御侍は牢獄の暮らしで身体を壊し、戦地に着くと指揮権を俺に託した。
御侍を信頼する官兵たちも、俺を信頼してくれた。彼らにとって俺は勝利の代名詞なのだ。
俺のいた戦いは、一度足りとも負けたことがない。
絶体絶命に追い込まれても、俺には勝利を勝ち取る手段があった。
俺はシャンパンだ。俺こそ勝利だ。
反乱軍の鋭い矛先は、どこに行っても敵はいない。
貴族の搾取に耐えきれなくなった市民が俺たちに城門を開いてくれた。俺たちは何の障害もなく城に突入した。
愚鈍で貪欲で意気地のない王は、玉座の上でガタガタ震えている。
銃声が鳴り響き、鮮血が赤い絨毯を黒く染めた。俺は大広間の入り口で俺を見ている御侍を振り返った。
御侍の身体は衰弱しきって、どこにでもいる老人のようだ。
俺は手を伸ばし、御侍を玉座に座らせようとした。
しかし御侍の枯れ枝のような手は、俺の手をすり抜けた。御侍は俺の肩を掴んで、荒々しく突き飛ばした。
無防備だった俺は疲れて玉座に座った。
俺は眉をひそめ、御侍の老いた顔を見た。
「私は年を取った。もう、残された時間は長くはない。しかしお前は違う、シャンパン。お前は王になれる。お前が人間に好意を持っていないことはわかっている。しかし私の言いつけだと思って、この国を守ってくれ」
俺は驚いた。ずっと人間への冷ややかな思いをうまく隠してきたと思っていた。反吐が出そうな貴族にも、少女が赤面するような笑顔を見せてきたのだ。
御侍は俺の驚いた表情を見て、手を伸ばして俺の髪をぐしゃぐしゃにした。
「心配するな、お前はうまく隠してきた。私のために自分を長い間抑えてきたことを知っている」
「俺があなたの大切な国をダメにするとは思わないのか」
「お前はそんなことはしない」
「なぜそう言える?」
「お前を信じているからだ。私に代わってこの国を守れるのは、お前だけだ」
俺は御侍の願いを聞き入れ、新しい国王になった。
御侍は過労と昔の傷が祟り、すぐにこの世を去った。
反乱軍はその後、二派に分かれ、御侍に仕えていたやつらは断固、俺の即位を支持したが、もう一派は玉座を狙い始めた。
人間とは違い、食霊は容貌が変わらないし力も強い。俺たちにとって意味を為さない時間もある。
俺は御侍が子どもの頃からそばにいた。御侍はまだ小さかったが、俺は今と同じ姿だった。
御侍はすでに土の下に眠っているが、俺はそれでも同じ姿だ。
俺は何かを企んでいるやつらを見て、思わず笑い声を立てた。
これが、あなたの守ろうとした国だ。
でもいい、あなたの最後の願いを、俺は絶対にやり遂げる。
俺にはすべてを変えるに十分な時間がある。あなたを失望させた国を変えるだけの時間が。
こう心に決めた俺は、国の改革に着手した。
俺は御侍とは違う。御侍は同じ戦場に立った戦友たちに、切っても切れない感情を持っている。俺はそいつらとなじみがあるが、それ以上の感情は持っていない。
そこで俺は、法律を守らない貴族を容赦なく処罰し、裁判官たちを悩ましてきた高官を処理し、城にいる悪の根源になっている勢力を一掃した。
こうした権力者たちの間でひっそり生きてきた人々は、これで胸を張って暮らせる。
俺は城壁の上に立ち、人々の笑顔を見ながら、これが御侍の求めていた国だと思った。
Ⅳ 反論
人間には、俺がどうしても理解できないところがある。その最たるものは権力だ。やつらは利益のためにすべてを捧げ、苦難に苛まれる仲間さえ顧みない。
すべての人が俺の国家改革に賛同したわけではなかった。
やつらは自分の権力のために、繰り返し俺の命令に背いた。国がみるみる元気になっているのをその目で見ていたにもかかわらず。
無謀にも侵略を企てた隣国が、俺にとって改革を継続するための最良の手駒になった。
王朝交替がもたらすのは戦争と混乱だ。御侍が死んだという噂を聞いた隣国はこのチャンスに乗じ、元々苦難の多かったこの国からもっと多くのものを略奪しようと企んだのだ。
このときだけは、貴族たちは勝利を勝ち取った俺の定めた法律を大人しく守り、俺の命令を聞いた。
戦争、法律の公布、動乱の鎮圧、政策実施、俺の計画の中でこれらが粛々と進められた。
これは長期計画ではないが、目の前の混乱を一時的に安定させるには十分だ。
互いに牽制し合うのは、人間がよく使う方法だ。
すべての隣国はついに俺の国が想像していたより軟弱ではないと悟り、動乱も最後の戦争の終了とともに収まっていった。
戦争で棚上げになっていた戴冠式が、再度日程に上がってきた。
戴冠式が終われば、俺はこの国の本当の君主になる。
反対派は、忘れ去られた神権を持ち出して、俺に反対する理由にし始めた。
突き詰めれば、俺は王位の正当性などどうでもいい。俺が本当にやりたいのは、この国の君主になることじゃない。
しかし焦った大臣たちは、教会による神の認定さえあれば、俺に反対するやつらも文句は言えないと俺をつついた。
大臣たちは再三再四、俺は生まれながらの王者だから、ここに座るべきだと言う。
波風の立っていないように見える水面下は暗い渦が巻き、すべての人がこれにかこつけて大騒ぎをし、目立とうとしていた。
しかし思いがけず、その神子は自分からやってきた。
驚いたことに、そいつは俺と同じ食霊だった。
玉座に座ってそいつが恭しく礼をするのを見ていると、記憶の中にある、教会の前にいたやつらと重なった。
その時、そいつの服に見覚えがあることに気付いた。
彼女が頭を上げたとき、俺は不意にかつて通り過ぎた小さな町を思い出した。
騎兵隊が城門を破ったとき、彼女が教会の前に立ち、自分一人で市民を守ろうとしていたのだ。
俺は自分の顎を支えながら、興味深く彼女を観察した。
「陛下に申し上げます。小さなお願いがございます。どうかお聞き届けくださいますよう」
俺に対する手助けと引き替えに、何か願い事をするのだと思った。
しかし、彼女が言ったのは、俺に対する反論だった。
「いいえ、陛下。私の願いは、法律を少し緩めていただけないかということなのです。厳しい法は国を治める基本です。しかし人情に関わることも多うございます。一刀両断では、人情味に欠けるのではありませんか」
俺はそいつを見ながら、様々な理屈で貴族の権力復活を求めるやつらを思い出した。不満と苛立ちが俺の語気を荒くした。
彼女の連れてきた大臣は、その後に続く俺たちの言い争いになす術もなかったが、俺は逆にそいつへの見方を少しずつ変えていった。
そいつは御侍のように人間に対する包容力と優しさを持っていた。
言い争いの最後に、俺は突如沸いてきた何とも言えぬ感情を抑えられず、大笑いした。
彼女の笑顔を見ながら、俺は知らぬ間にこう言っていた。
「そういうことならお前はここにいるがいい。お前が俺を言い負かすのか、俺がお前を言い負かすのか、見てみよう!」
Ⅴ シャンパン
シャンパンは傲慢なやつだ。
彼を召還して間もなく、将軍である御侍は彼の人間に対する冷ややかさを感じた。
御侍以外、誰も彼の目には映っていない。
将軍自身でさえ、御侍でなければ、シャンパンの見る眼は別のものになっていただろう。
シャンパンはすぐに自分の態度には問題があると気付いた。彼は笑顔で自分の冷たさを隠し、ほとんどの人がそれに騙された。
御侍は、シャンパンには自分より遥かに卓越した軍事の才能があると気付いていた。
そして自分にはない、王としての素質も。
シャンパンは戦局にあって、彼よりも果敢に決断し、他人が躊躇するときにも、理性を持って、より効果的で残忍な方法を選んだ。
だから、彼は反旗を翻されたとき、将来玉座に座る最有候補は自分ではないと思った。
彼はうまく自分が負うべき責任をシャンパンに託した。シャンパンは年を取ることがなく、無限の力を持ち、勝利を象徴する。
彼に託せば、この国は、年を取って愚昧になる君主を持たないで済む。
この国を、信頼するシャンパンに託せば、安心してこの世を離れられる。
多くの人が心配する中、シャンパンはすべての人が求める玉座に座り、誰も想像しなかった手腕と、歴代の王が求めても得られなかった軍事の才能を発揮した。
シャンパンは勝利の名に恥じず、彼のいる戦局で負けることはなかった。
シャンパンは歴史上のどの王よりも、その地位にふさわしかった。
貴族たちに蹂躙され続けたこの国は、もうこれ以上戦乱に耐えられない。
このことをよく知る年老いた臣下たちは、国を災難から救うことのできる人を手放したくなかった。
自尊心さえ許せば、いつでも玉座を離れて自由に外を巡り歩きたいと思っている人の足を掴み、弱り切ったこの国に留まるよう懇願したいほどだった。
シャンパンは国に押し留められた。
実情を知っている臣下たちは心配した。御侍を失ったシャンパンを留まらせるものは、御侍との約束の他何もない。
プライドの高い貴族は一度ならず王の権威に挑戦し、臣下たちは戦々恐々として戴冠式が無事に済むことを祈るしかなかった。
神子の登場は彼らにとってうれしい驚きだった。
反対派の最後の因縁も、神子の委任さえあれば、シャンパンの王位継承は神の意志に反する行いではなく、逆に天の意志となる。
しかし……
神子と国王陛下の関係は、さほどよいとは思われなかった。
「シャンパン!言ったでしょう!領土の災害支援が最優先です!なぜお金を軍隊に注ぎ込むんですか!」
「こいつめ!まったく理屈が分かってないな!海賊が来たら防御を強化しないと、市民がいわれのない災難を受けるんだぞ!」
「この――!」
「やるか!」
「汚い言葉を使わないで!一国の王にはふさわしい姿があるんですよ!そんな態度を子どもが真似したらどうするんですか!」
傍らの臣下たちは二人が言い争う様子を見て、満足そうに自分の髭を撫でた。
彼らは、神子と国王陛下が協力して、この国がもっとよくなっていくと信じていたのである。
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