グリーンカレー・エピソード
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グリーンカレーのエピソード
常に無表情、クールな態度でいるため、本性は謎に包まれている。
誰にも本心を明かさず、自らの信条と目的のためにのみ行動する
Ⅰ
僕は贈り物としてパラータに贈られ、王家の所有物になった。
パラータが食霊を召喚する技術を欲しているのは前々から知っていた。だがここの王家にとって人間のような外見で霊力も使える僕は、彼らが昔から弄んできた珍獣と変わらない、ただの見せびらかすための財産でしかないだろう。
ゆえに臣下が僕を研究に送ろうと進言した時、パラータの聖王が断ったのもおかしくはない。
ここにきた最初の頃は、ほぼ全ての王家の構成員や臣下たちが聖王に拝見しに来た。その間僕は常に聖王のそばに控えていた。
僕はこの人たちが王家の礼儀を繰り返すのを見て、この人たちに鑑賞されて、この人たちが聖王の『財産』を讃えるのを聞いてきた。
その中には重臣もいて、すでに王位継承者に指定された者も僕を見にやってきた。
僕は往来する人波の中で一人小柄な若者が僕を凝視していることに気づいた。
青色の瞳からは驚きと羨望が流れてきた。
聖王の叱責が飛んでくるまで、彼はそのままずっと呆然としていた。
「これは余の末っ子だ。もしこれに余の継承者の2割の聡明さがあれば、余もここまでこれを嫌うことはなかっただろう」
こんな事をあっさり僕に教えるということは、聖王にとってこの王子はなんの価値もないということだろう。
別の原因もあるかもしれない--庶子、病弱、臆病.....
これらの欠点の一つでもあれば継承者選抜から脱落するだろうに、この王子はすべてを備えてしまった。
だが、僕は彼の目の中から聖王が気付かなかった感情に気付いたーー自分の境遇に対する悔しさだ。
だから再び会った時、僕が見せた笑顔が彼を驚かせた。
Ⅱ
「僕は前からあなたのことを気に掛けていました。今周りには誰もいません。少しお話させてもよろしいでしょうか?」
「僕?」
僕の接触に、彼はさほど警戒していなかった。
話をすると、僕は彼の渇望が本物だと確信した——僕の期待通りだ。
「僕はある言い伝えを耳にしました。かつて、巨大な堕神の襲撃のせいで、パラータの民は遠く荒れ果てた土地への移動を強制された。彼らは今でもそこで苦しんでいるでしょう」
「.....どうか彼らに神のご加護を。」
「あなたはわかっているはずです。彼らに必要なのは神ではなく、彼らを守れる聖王です。そうでしょう?」
彼は唇を震わせて僕を見て、なにか言いたそうだ。
「あなたは次の王が民を助けられるとお思いですか?」
「あ、あなたはいったい何を.....」
彼は緊張し始めた。自分の期待通りの答えを僕から聞きたそうにしている。そのせいでこの話が聞かれてしまう恐れと期待の気持ちが衝突して、声が少し上ずってしまっていた。
「僕はあなたの力になれます。もしパラータの民を思う気持ちがおありでしたら.....」
「.....次の聖王になってください。」
兄上が言っていた。人間は利益のために道徳を捨てられる生き物だと。
王家では爪弾きにされ、僕が糸を垂らせば即掴むこの王子を見ればーーああ、確かにそうだな、と頷くしかない。
Ⅲ
身分を利用して僕は王宮であらゆる自分の噂を集め、それを濾して僕はいくつかの事実を大まかに把握した。
聖王はもう老いた。悠々自適な生活をしてきた彼は、外の刺激を少しも受けられない。実際、聖王と接触した人は、彼がいつ死んでもおかしくないことを知っている。
したがって、人々は彼に更なる忠誠を捧げなくなった。そのせいで彼は人生の最期に疑り深くなった。
継承者は若い頃に示した才覚で聖王に認められたが、身分が確立された彼は臣下達におべっかを使われ内心が腐敗し、まだ聖王になってない内から徒党を組み、権力を利用して僕利を図るようになった。
他の王家の人間はただの日和見主義者に過ぎない。
利益になる側につくのが常で、利益をもたらす人が居なかったなら、彼らは自分でとって変わろうとするだろう。
最も興味深いのは、僕の存在がパラータの王家で食霊の風潮を起こしたことだ。
彼らは闇市場から多くの尾侍が居ない食霊を買い、とある一族の助けを借りて契約を結び直した。
今は多くの王家メンバーは食霊を持っている。
「まるでシロアリに蝕まれた巨木のようで、強固なのは表面だけ。押せばすぐ倒れる。」
「それじゃあ、僕は本当に...?」
「ふふふ、あなたは喜ぶべきです。今は食霊の時代。正しく使用すれば僕達は人類の運命を変える絶対的な力となる」
「そういえば、ずっと気になってたけど…何故いつもお面を?」
「視線は内心を表す。これは敵に見抜かれないための手段です」
Ⅳ
その後、ほぼ一夜で食霊を持つ王家の人間は全員死亡、行方不明。このことは王家内部でパニックを引き起こした。もちろん、
もちろん聖王を含めて。事が起きたその夜、一人の食霊が聖王の宮殿に侵入し「王太子殿下のために」と叫んで攻撃を始めたから。その後"偶然"駆けつけてきた我々の王子様に撃退された。
この夜の後、王宮の雰囲気は完全に変わった。噂を広める必要もなく、聖王は直ちに王太子を罪に問うた。
この事件は、次の聖王が決まったと思っていた人々に混乱をもたらした。
王太子側に付いた臣下たちは、直ちに聖王から王の座を奪うべきだと彼をそそのかした。
おかげで、我々の王子様は自然に聖王側に立つことができ、反王太子側の人間を傘下に入れて自分の勢力を成した。
無論この闘争は、心意気ばかりでなんの才能もない王子には任せられない。
彼が使ってた全ての謀略は僕が彼に教えたものだった。
一方、勢力の大きい王太子は、この役立たずの弟を簡単に倒せると思っていた。
聖王はもうすぐ死ぬが、王権というものがまだ残っている。
王太子の徒党は彼の傘下に名を残していただけで、実際はただ結果を待っているだけだった。
結局のところ、彼らにとって真理は勝者の側にしかなかった。
王太子が自分が本当は一人ぼっちだったと気づいた時には、もう全てが遅かった。彼のかつての臣下は彼に刃を向けていた。
僕が誘発したこの王位を巡る戦いは、王太子が毒を飲んだことで終結した。
民から遠く離れたパラータの王城はようやく静かになった。人々にとって結果は明白だった。
ーー
この闘争は新たな王太子を生み出した。それがかつて誰にも見下されてきた王子殿下だった。聖王ですらこの最も嫌いな息子に対する考えを改めた。
彼が王太子になった年に王が死に、彼は必然的に夢見た玉座に座ったーー闘争の末、全てが当たり前のように起きた。
...................
「ほ、本当にやり遂げられたなんてまだ信じられない。」
戴冠式後の真夜中、聖王となった王子は権力をその手に握った興奮に浸っていた。
「本当にどう感謝すればいいのか。」
「感謝など必要ありません。これはあなたが勝ち取ったものです」
「しかし.......なぜ?」
「なぜ.......それは、僕も人類に適切な未来を迎えてもらいたいからです。僕はあなたに可能性を見出しました。貴方もそう思いませんか?」
「人類の未来.....そうだ、その通りだ。僕は必ず自分が賢明な王になれると証明してやる!」
聖王は僕が食霊であることを忘れ、僕を腹心に抜擢した。いい事だ。
王権を巡る争いは終わったが、僕の仕事はまだまだこれからだ。
Ⅴ
聖王の宮殿の扉が開かれて緑色の長髪で仮面を被った男が入り、ベッドに横たわっている死に際の老人に向けて辞儀をした。
「グリーンカレー.......何処に行っていた.....」
「兄上が僕を訪ねてきたので、客間で少し。」
「兄.......?」
「話したことがありませんでしたか?」
グリーンカレーがゆっくりとベッドに近づき、年老いた聖王を見下ろす。
「彼は僕が最も崇拝している食霊です。更に言うと、数十年前パラータに僕を来させたのも彼の手配でした」
「て.......はい.......?」
グリーンカレーは聖王の痩せきった肩に手を置いた。唯一露になっている唇は微笑んでいた。
「だからこそ、僕たちが手を組んであの王太子を倒すことになりました」
「懐かしいな、あの時.......余が聖王になった.......ああ、そうだ」
彼がグリーンカレーを見て、手を挙げようとしたがその力すら残っていなかった。
時間が彼の残り僅かな命を蝕み、話し声すらかすれてきていた。
「余の.......後継者も.......頼んだ」
長年の後、聖王は依然としてこのような重要なことをこの仮面を被った食霊に任せようとしていたが、彼は軽く微笑んで言った。
「それはもういいです。」
「.......何?」
「ああ、忘れるところでした。聖王陛下、あなたのご家族の方々は上から下まで、あなたの玉座を巡って殺し合いをはじめ、既に全員死に絶えました...」
「パラータの聖王の血脈は、もうあなた一人しか居ません」
聖王の灰色の瞳は信じられないと訴えるような色になり、徐々に恐怖に染まっていった。
「そなた.....そなたは.......」
彼は苦しそうに喘いだ。まるでその息がもうすぐ止まるかのように。
「僕はただ、あの時あなたに言った言葉を繰り返しただけです。どうやらあなたの子孫は当時のあなたよりもずっとこの玉座を愛しているようです。」
そう言ったグリーンカレーは、ゆっくりとお面を外し、聖王の顔に近づいて言った。
「あなたはずっと僕の仮面を気にしていましたね。パラータ王家はもうすぐ滅びます。この仮面はあなたにプレゼントとして差し上げましょう。これは、あなたたち人類の未来でもあります」
グリーンカレーはゆっくりと目を開いた。魂を引き裂くような目が妖しく光った。
その視線に晒された聖王はまるで冷たい刃に心を突き刺されたかのように、痛みと恐怖の中で息絶えた。
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