スターゲイジーパイ・エピソード
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スターゲイジーパイのエピソード
一見優しそうな少女。裕福な生活をしてきたため自分でこの世界を見てこなかった。そのため金銭の概念が分からず、また自分のしたことの残忍ささえ理解できずにいる。全てのものに最高品質を求め、衣食住に華やかでないものはない。
Ⅰ 女王
私は生まれながらにして崇高な身分を持っていた。
皆私に教えてくれる、私がこの国の王女であると。
だからこそ私は皆の崇拝を受ける。
事実はこうだ。
私が生まれた日この国のすべての者が心から私を愛した。
毎日、彼らは私にこの国で最も美味な食事を用意し、華やかな礼服を着せた。
私がすることといえば、私の力を使ってあの怪物たちに処罰を下すこと。
それは私にとって難しい事ではなかった。
ただ腕を振る程度の労働だが、彼らにとっては恩恵を受けたかのような感動を受けるようだ。
御侍様は私を除いてこの国で最も地位の高い存在だ。
彼女は私よりも高貴で華やかな礼服を着て、数え切れないほどの美しい宝石が装飾された王冠を持てる。
御侍様には私たち以外出入りを禁じられている貯蔵室がある。
中には数え切れないほどの首飾りがあり、御侍様の美しい王冠もしっかりと手入れされた収納品の上に置いてある。
ある日、御侍様が私のために王冠を作ってくれたと言う。 私専用の王冠を。
私は彼女について貯蔵室に入る。何度ここを訪れても、これらの宝石や首飾りの数々は人の目を釘付けにする。
様々な王冠が薄暗い貯蔵室の中で輝きを放つ。
私は御侍様が宝石の装飾された箱から私専用の王冠をゆっくり取り出すのを期待の眼差しで眺める。
美しく光り輝く赤い宝石が私の注意を引く、私は口をわずかに開けたままで、そんな表情を見た御侍様は優しく微笑む。
「どうですか、気に入ってもらえました?」
私は御侍様の笑顔を見て、自分の呆けた表情を見られたと思い、急いで熱くなった顔を手で覆う。
「気に入ったわ!」
御侍様は優しく私の頭を撫で、頬に垂れた神を耳の後ろにかきあげて、優しく微笑む。
「私があなたのために戴冠するわ。あなたは私の後を継ぐ第二の女王になるの。この国はあなたの力が必要です。もちろん私にも」
私は御侍様が手に持った耀く王冠を見ながら、力強く頷いた。
Ⅱ 戴冠
私は私と共に生まれた武器があまり好きではない。それの外見はあまりに粗暴で、優雅な淑女が身につけるような物ではない。ただそれは最も優れた審判道具であることは認めざるをえない。
私だけが扱え、この国で唯一あの恐ろしく、醜い怪物を断罪できる道具である。
御侍はこれが国民を守るための道具だと教えてくれた。
赤色で野原に美しい絵を描く、そんな無断で国土に踏み入る輩に私は最後の審判を下した。
私は御侍様に最新の収納品を献上した。王冠の装飾として使える戦利品である。
御侍様はすごく気に入っているようで、下のものに精巧に細工させ美しい宝石としたが、どうしてかそれを自分の貯蔵室に入れなかった。
私は少し御侍様に疑いの目を向けたが、そんな時、御侍様は私の期待の眼差しを引き連れて、貯蔵室の側面の小さな扉を開ける。
私がそこで見たのは、まだ空っぽの新しい貯蔵室だった。そして私が献上したはずの戦利品が部屋の中央に展示されていた。
そこにはあの私専用の王冠もあった。
私が驚いて御侍様を見ると、御侍様は笑顔で私に教えてくれた。
「この貯蔵室はあなたへのプレゼントです。これからはここにあなたの戦利品を置いていいんですよ。あなたの好きなものと、あなたのための王冠と共に」
私は感激のあまり御侍様の懐に飛び込み、ぎゅっと抱きつく。
私はなんて幸せ者でしょう。これほど優雅で高貴な上、私思いな御侍がいるなんて。
私は華麗な礼服に身を包み、真紅の綬を身につけて、城の展望台の上に立ち、全国民の前で御侍様の戴冠を受けた。
その日、私は女王となった。
私は湧き上がる国民を見て、私への敬愛を直に感じ、同時に王冠をつける責任を感じた。
御侍様は政治方面の管理が得意ではなかったので、それらの事に対する決断を自身の兄分に任せていた。
私たちの国は度々良からぬ者に狙われることがある。その時こそ私の出番だ。
王城での景色とはまた違い、荒原にはまた違った景色が広がる。もしその粗暴な輩が私のティータイムを邪魔しないのであれば、意外に好きな景色かもしれない。
私が勝利を飾る度、高らかに私の名を叫ぶ。
そして戦利品を自分の貯蔵室へ持っていく。
ただ、わたしはずっと私の王冠に似合うネックレスが見つけられずにいた。
Ⅲ ネックレス
私は欲しかったネックレスを見つけた。
今はまだ私のものではないが。
御侍のお兄さんが言っていた。かつて、私たちの国は弱小で、他者に頼ることしかできなかった。
だが私たちのような食霊の出現によって、自分を守る術を得たと。
これを私はとても誇らしく思えた。
今では私たちの国もこの大陸で地に足をつくことができ、それに伴って各国の客人も招くようになった。
彼らはそれほど離れていない隣国から助力をもらおうとする者や、かつての非礼を詫びたいと申し出に来る者もいた。
私と御侍様は寛容にその申し出を受け入れた。
ある日、御侍様の姉様が国へやってきた。彼女はかつて他国からの保護を受けるために愛しい人から引き離され他国へと嫁いで行ったらしい。
悲しいかな。彼女が嫁いでいった後に私たちの国は欲していた力を手に入れた。
御侍の姉様はとても優雅な淑女で、赤色の礼服を身にまとい、背後には爽やかな青年が立っている。
御侍様は私にその青年も私と同様に他者を守る力を待っていると教えてくれた。
彼は御侍様の姉様の食霊であり、彼女が最も信用する人物だ。
私が興味津々にその青年を見ていると、彼はそれに気づいたのか笑顔でこちらへやってきた。
「こんにちは、お嬢さん。ブラッディマリーと言います。あなたは?」
御侍様の姉様はしばらくお城に住むようだった。
その他同様に御侍様の誕生日を祝いに来た者たちが続々と国へやってきて、御侍様に素敵な贈り物を届けにくる。
あの日、私は御侍様のそばに座っていた。そんな時、一つの真紅の宝石が私の目に止まる。
それは隣国から来たお姫様の首にかかっていて、眩く輝いていた。
部屋へと戻るまで、私は王冠の宝石を触りながら思った。そうだ、やっと私の王冠に合うネックレスを見つけた。
私はその少女のいる客間の前へとやって来て、礼儀正しくノックをして部屋に入る。
そして、彼女はなんと私を拒んだのだ。
今まで、私の申し出を拒んだ者なんていなかった。私は落胆と共に部屋を後にして、花園で紅茶でも飲んで落ち着こうと考えた。
いつから見ていたのかもわからないが、ブラッディマリーが私のもとへやってきた。彼も御侍様の姉様のように気配りができ、私の感情を察知したのか、小さな声で問いかけてくる。
「どうしました。なにかお悩みですか?」
「うう……お姫様のネックレスが欲しかったのだけど、それは大切な物だから私には渡せないと」
「それほど欲しいのですか?」
「うん!長い間探したもの、私の王冠に合うのはあれだけだもの!……御侍のお兄さんは私たちが欲しいものはみんななんであろうとくれるって。なんであろうと……」
「そうですとも、我が女王陛下。あなたを拒める者などいません。またあなたの落ち込んだ表情を放っておけるものなどいませんよ。私があなたの願いを叶えましょう」
ブラッディマリーは私の手を持ち、手の甲に軽くキスをする。私は自分の顔が少し熱くなるのを感じた。
Ⅳ 審判
私はブラッディマリーの言う通り、あのお姫様を招待した。
ブラッディマリーは私にそのお姫様に収納室を見せたらと言った。
もし彼女の気分が良くなれば私の欲求を聞いてくれるかもと。
私は彼女を連れて自慢の収納室へと向かう。
中には私の貯蔵品が多く置かれており、きっと喜んでもらえると思っていた。
だが私は後ろで険しい表情をするお姫様の姿に気付いた。
「……殿下?貯蔵室はお気に召さなかったですか?皆良いと言ってくださるのですが……」
「……陛、陛下、少し気分が優れないみたいで、先に……失礼しても。ううーー」
彼女は空嘔吐であわてて口を手で塞ぐ。すぐにでも吐いてしまいそうな様子に、慣れない食事で食あたりを起こしたのではと考えた。どうするべきか分からずにいた時、いつの間にかブラッディマリーがそばに立っていた。
「陛下、素晴らしいです。あとはおまかせください」
ブラッディマリーはこのあとに行う事を見られたくないらしく、彼の優しい印象から私はそれを信用した。私はドレスを軽く上げて二人に礼をする。
「それでは、王女殿下、ブラッディマリー閣下、わたくしはこれで」
私が御侍様とお茶をした短時間の間に、ブラッディマリーは私の前へ戻ってきた。彼は満足気な笑みを浮かべており、その笑顔は余計に人を惑わす。
彼は優雅に私の後ろへと歩み寄り、あの待ちに待ったネックレスを首にかけてくれた。
「私の小さな陛下よ。もし貯蔵室に行って頂けるなら、さらに喜んで頂けるかと」
私は嬉しさを一旦抑え貯蔵室へやってきた。私の貯蔵室には他のどの戦利品よりも精巧な像が増えていた。
しかし、私は考えもしなかった。この貯蔵品が私と御侍様に災厄をもたらすと。
考えもしなかった。私が審判を受ける日が来ると。
「スターゲイジーパイ並びに女王陛下、いや、罪人マリーと呼ぶべきか」
罪!?私たちが!?何をしたっていうの?!
ありえない!私はいつも礼儀を欠かしてきたことはないのに、私はこの身分に泥を塗るような行いはしていない!!
「私ーー」
「まだ言い逃れをするつもりか?あの残虐な行い、凶悪な律法、これら全てお前たちが成したことだろう!」
「私は……そんなこと……」
「スターゲイジーパイ、俯いてはなりません、私たちの身分を忘れないでください」
混乱の中落ち着いた御侍様の声が聞こえた。その声で私も不安な気持ちを抑えて落ち着くことができた。
私は大きな声で私たちの名前を叫びながら、憎悪の表情を向ける人たちを見る。
どうして……こんなはずじゃ……以前は……あなたたちはこんな顔はしなかったはずなのに……
この状況に私は何も考えられず、無意識に後ろに半歩下がる。
だが、御侍様がそれを止める。
彼女の体も少し震えていたものの、端厳さを保っていた。
「愚かな民たちよ、それはあなたたちが私たちの庇護を得るのに当然の代価!私たちに何の罪があろう!」
「お前ーー何と言う事を!執政王様!この狂った女二人への審判をお願いします!」
私は一歩一歩審判台に登る御侍様の兄分の姿を見る。
彼は冷酷な態度を向けながら、御侍様の玉座に腰掛ける。
「私たちは庇護を求めたが、このような残忍な行為を要求したことはない。お前たちは、全ての敵の首を刎ね、他国を呑み込み、更には隣国の王女まで手をかけるとは。そのような残虐な守護者は必要ない!」
彼女らに審判を!彼女らを駆逐しろ!
これは全部……あなたたちがやれと言った事なのに……どうして……
「お前たちの傲慢、お前たちの残虐な行い、その全てが女王として不合格だ。民意のもと、これより国の管理を私が継ぎ、お前たちに裁きを下す」
御侍様は信じられないと言う顔で彼を見る。この時だけは伸ばしていた背筋が曲がり、目は潤んでいた。だが、すぐに姿勢を戻し彼らに言う。
「たとえ私から王冠を奪い、玉座から追いやったところで、私が女王であることは変わらない。そして、あなたたちこそ卑劣な罪人であることも!」
「言葉が過ぎるぞ罪人!この二人を処刑台へ連れていけ!彼女らの鮮血によって帝国の怒りに火を鎮めようではないか!」
私たちは乱暴に血が滲んで残る気味の悪い処刑台へと連れていかれる。御侍様の兄分は他の者の制止を無視して、私たちの間に来る。
「親愛なる妹よ。私が玉座に登り詰めるために尽力してくれて感謝する。見返りとして、このために切れ味の良い刀を用意した。必ず苦痛なく逝けるだろう」
「……」
「ああそうだ、スターゲイジーパイは人間ではなかったな。だが安心してくれ。一人の紳士として、淑女を疎かにはしないさ。大金をはたいて食霊を裁くための武器と睡眠薬を手に入れた。効果は折り紙つきさ。それにこれらがなければお前たちを捕まえる事もできなかったからな。安心してくれ、あまり痛くはしない」
ずっと胸を張り続けていた御侍様も遂に姿勢が崩れてしまい、憤怒の目で彼を見る。後ろで縛られた両手に幾度も力を入れ、自身で噛んだ唇からは鮮血が流れ、顔も少し青白くなっていた。そして、決して下ろさなかった頭を下ろしてしまう。
「どうか……スターゲイジーパイだけでも……彼女はまだあなたの武器となるでしょう」
「いいだろう。約束しよう。なんせお前は最愛の妹なのだしな」
御侍様は軽く私の額に口付けをする。
「スターゲイジーパイ、あなたなら大丈夫」
その後、白い閃光とともに御侍様が私を倒してきた敵のようにその命を落とし、二人の繋がりが一瞬にして途切れる。
「いやああーー!!」
Ⅴ スターゲイジーパイ
遠い昔、遥か遠方の国で、本来強大なはずの国は堕神の出現によって、食霊を持たないが故に他国に庇護を頼むしかなかった。
長い年月の果てに、彼らのもとについにその力を持った少女が生まれる。
人々はその力を恐れて国を離れ、そうやって、彼らはその少女をこの国の女王とさせた。
女王陛下はこの飢饉の時代においても、ミルクを用いて入浴し、数え切れないほどの高価な素材を使った礼服に身を包んでいた。
彼女は戦利品を用いて自身のネックレスを飾るのが好きで、この習慣を自分の食霊にも教えた。
彼女からすれば、それはこの国を守った証拠、女王の責務を全うした証明だった。
国の統治に関する知識がなく、それらを兄上に任せていた彼女からすれば、兄上の要望に従って敵を裁いていただけだった。
彼女たちの努力が、彼女らの国はある男の策略の中で次第に大きくなる。
世間を知らない女王様は自身の行いのどこに問題があるかわからず。
彼女の食霊と同様に自分たちの要望を拒まないものばかりではないことを知らない。
彼女らの行いは、隣国の王女の死によって表に出ることとなり、国民の怒りが爆発する。
彼女たちは野心に満ちた兄の踏み台にされたのだ。
それを理解した時、女王はすでに処刑台の上にいた。彼女は初めてその高貴な頭を下げ、兄に求める。
「どうか……スターゲイジーパイだけでも……彼女はまだあなたの武器となるでしょう」
俯く女王はこの世を去り、だが分からないことに、スターゲイジーパイに飛んだ血がまだ冷めきる前に、その兄は天真爛漫な食霊に向かって手斧を振り上げる。
その後の事は誰も知らない。もしかしたら、その時代の生存者があまりの衝撃にそれらを全て忘れてしまったのだろう。
この一切は、パスタたちによって各地から集めた経緯でしかない。
雨が降る中、赤い液体が地面を染め上げ、彼はしゃがみこみ、自身の霊力を消えかかったスターゲイジーパイに注ぎ込む。
スターゲイジーパイが再び目を覚ます時、生まれたての子供のように過去の記憶を思い出せず、彼女はじっと手元の王冠を見て、どうしてか涙を流す。
彼女は鏡の前に立ち、無表情の少女の体には傷を受けた後が残っている。針で縫われたその傷跡たちにはすでに痛みはない。彼女は首元の傷を触りながら、困惑気味に後ろの青年の方へ振り向く。
「こ……れは……なに……」
「これは卑劣な人間が私たちに反旗を翻した証明だ」
赤髪の青年は落ちた王冠を拾い上げ、その後しばらく姿を消した。
スターゲイジーパイは何度も赤い服の美しい少女に尋ねたが、それでも青年がどこへ行ったかは分からなかった。
数日後、帰ってきた青年は精巧な箱に入った王冠を取り出す。
王冠は完全に修復されており、壊れた形跡もなくなっている。
彼はぼんやりしている少女のためにその王冠を被せる。王冠上の真紅の宝石は輝いていた。
彼女は王冠を触りながら少し心を奪われた気分になる。記憶の断片が少し過ぎったものの、それ以上は何も思い出せない。手がゆっくりと青年に持ち上げられ、青年は優しく頭を下げ、その手の甲に口づけをする。
「ともに人間に復讐をしよう。我が女王陛下、あなたの力が必要ですーーあなたが」
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