打倒蛇君 京海城の海を守ろう!・ストーリー
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目次 (打倒蛇君 京海城の海を守ろう!・ストーリー)
打倒蛇君 京海城の海を守ろう!
その一 海辺と少女
太陽は輝いていて、海風は吹いている。
浜辺は観光客でにぎわっている。
ここは京海城。
蘇生月初
桜の島 海辺のたこ焼き屋
たこ焼き:肉でんぶたこ焼きいっちょあがり、タレはどうします?
たこ焼き:お姉さんちょっと待ってて! もうすぐできあがりますんで!
たこ焼き:はー、キリがないよー! ……っと! いらっしゃいませー! 何名様で?
たこ焼き:……。
――ここは、桜の島。その海辺にあるたこ焼き屋は、海岸を見下ろす形で聳え立つ京海城のふもとにある大人気店だ。
この店の看板娘としてたこ焼きは、笑顔と情熱溢れる接客で皆を魅了している。
この店が人気なのは接客だけが理由ではない。彼女の作るたこ焼きはとても良い香りで、食感と味が良く、観光客のみならず、町の人にも人気だった。
店長:たこ焼き、締め作業はどうだ?
たこ焼き:はーい! 今ちょうど終わりました! えっと……今日の売り上げは――
店長:細かい話は大丈夫。たこ焼きのこと信用してるからね。今日はここまでにしようか。
たこ焼き:はー、店長。今日は疲れたよ。何かお捻り頂戴よー!
店長:んー、お捻りかぁ……。
店長は冷蔵庫からキンキンに冷えたお酒の缶を取り出した。
たこ焼き:ふむ……いいね、いいね! あとはおつまみが欲しいかな? これこれ! いっただきまーす!
たこ焼きはそう言って、棚に陳列していた乾物の入った袋を手に取った。
たこ焼き:イッヒッヒー! 今日はよく寝られそうです! ではまた明日っ!
店長:あ、たこ焼き! 明日は新人クンが入るから、よろしくな!
たこ焼き:えー!? そういうことはもっと早く共有してくださいよぅ! 調理に接客に新人教育までさせるなら、賃金アップを請求しますわっ!
たこ焼きは不満げに口先を尖らせる。
店長:はいはい! 考えとくよ! とにかく明日もよろしく~!
たこ焼き:店長の『考えとく』はあてにならへんけど……ま、ええです! 明日もよろしく~!
その二 不器用な新人
蘇生月初
桜の島 海辺のたこ焼き屋
新人の流しそうめんが、店の裏で仕事着に着替えている。それを横目に、たこ焼きは店長に歩み寄って訊ねた。
たこ焼き:なぁなぁ……彼が店長が言っていた新人クン?
店長:そうだよ。それがどうした?
たこ焼き:なんか……あの子、ちょっと苦手かも。今時の子って感じで、気難しそう。
店長:そんなことないよ。爽やかだし、いい子だと思うな! たこ焼きなら大丈夫だって!
たこ焼き:んんんーっ! 店長がそう言うなら……でもな、ウチはちょっと心配やわぁ……。
流しそうめん:あの……すみません。着替え終わったんですけど……。
たこ焼き:わっ! 新人クン!? ……も、もしや今の話、聞いてたっ!?
たこ焼き:ちゃうねん! 君が嫌なんやない、そこんんとこ、誤解せんといてな!?
店長:この子はたこ焼き。ウチの店を仕切ってくれてる子でね。君の先輩だ。
たこ焼き:あ、ああっ! えっと、さっきのウチの感想は忘れたってー! 仲良くしよな!?
店長:あはは! 素直な子なんだよ、たこ焼きは。じゃあ早速仕事だ! たこ焼きに教わりながら少しずつ覚えていってくれ。
店長:頑張ってね、流しそうめん! じゃ、たこ焼き、頼んだよ!
たこ焼きは、気まずそうな表情で流しそうめんを見る。店長は、そんなたこ焼きの背中をバシッと豪快に叩き、笑顔で奥へと下がっていった。
蘇生月初
桜の島 海辺のたこ焼き屋
たこ焼き:この鉄板はな、開店30分前には火をつけとくんよぅ。でないと、お客さん待たせてしまうかんね!
たこ焼き:まずはたこ焼きの焼き方を教えたる……こんな感じや、やってみ?
たこ焼き:……。
たこ焼き:客に出せるたこ焼きを作るんは、まだ無理みたいやね。あんさんには、焼き物を頼もうかな。
ため息交じりにたこ焼きが言った。
流しそうめんは申し訳なさそうに肩を落とす。一生懸命教えてくれるたこ焼きに申し訳ないと思ったからだ。
流しそうめん:ごめん、俺……不器用だな。
たこ焼き:今日は初日や、徐々に覚えていってくれればええよ! ……っと、お姉さん~! 今日も来てくれたんか!
お客:たこ焼きちゃんは相変わらず口が上手いねぇ。私みたなおばさんに『お姉さん』なんて。
たこ焼き:フッヒッヒー! お姉さん、むっちゃかわええやん? ウチはホントのこと言うたまでや!
お客:ふふっ、ありがとう! 焼きそば二人前、お持ち帰りでお願いできる?
そんなたこ焼きを見ながら、そうめんは少しだけ複雑な気持ちになった。
たこ焼き:で、次は焼き物や! 一回見本見せるから、よーく見とくんよ! あ、一発ですぐできるとは思ってへんから。そこは安心しとき?
流しそうめん:それ、安心してたらたこ焼きが困るんじゃないか?
たこ焼き:さっきのたこ焼きの手際見てたしな……しゃーないっ! サポートしたるから、一生懸命頑張ってや!
流しそうめん:(……すごく、いい人なんだけど、な)
その三 人を騙す
蘇生月初
桜の島 海辺のたこ焼き屋
数日経ち、不器用ながらも少しずつ仕事を覚えてきた流しそうめんは、汗を拭いながら必死に働くたこ焼きに、ひんやり冷えたジュースの缶を差し出した。
流しそうめん:少し休んだほうがいいよ。たこ焼き、今日はまだ休憩に入ってないよね?
たこ焼き:フッヒッヒ! お姉さんを気遣うことを覚えたんか? せやな、一本、いただこか。
流しそうめん:……。
流しそうめん:なぁ……たこ焼きはさ、毎日そんなで疲れないのか?
たこ焼き:は? 疲れるに決まってるやろ? できることなら、毎日扇風機の前で寝てたいわ!
たこ焼き:でも、そういう訳にもいかんやろ。人間、働かな生きてけん。稼がなあかん! それとも、あんさんがウチを養ってくれるんか?
流しそうめん:そういう事じゃなくてさ……。
流しそうめん:たこ焼きはさ、客と接するときに、自分を偽ってる……そういうの、疲れないか?
たこ焼き:は? ウチが何を偽ってるって?
流しそうめん:だから……いい子を演じてる。他人から良く見えるように振舞ってるだろ?
たこ焼き:ああ!? 演じたりせんでも、ウチはええ子や! 何が言いたいん!?
たこ焼き:あれは営業スマイルっていうんや! ウチはプロやよ、お世辞だって言うし、作り笑顔だって浮かべるわ!
流しそうめん:それって……お客を騙してることにならないか?
たこ焼き:はあ? アホ言うなや。接客をなんだと思っとるん?
たこ焼き:ほら、あんさんも笑うんや! スマイルやで!
たこ焼き:そんな仏頂面で客を出迎えたらあかんで? せっかくのええ顔が台無しやっ!
流しそうめん:……。
流しそうめん:わかった、努力する。
流しそうめんはそう答えるも、考え込んでしまう。偽り――嘘、その単語が彼を苦しめる。
流しそうめんの脳裏に水信玄餅の顔が浮かぶ。この絶望から抜け出せたら、彼に掛けるべき言葉が見つかるかもしれないのに――そう思って、流しそうめんはたこ焼きを見る。
流しそうめん:でも騙すのは、やっぱり良くないんじゃないか……?
たこ焼き:なんや? 若者特有の悩みごとか? その話はまたあとでな。ほら、お客が来たで!
流しそうめん:わかった……。
その四 悩み
蘇生月初
桜の島 海辺のたこ焼き屋
流しそうめん:……悩み、なのかな。自分でもよくわかってないんだ。
たこ焼き:良かったらお姉さんに話してみ? ちょっと、気になるんよ。
たこ焼き:初めて会ったときのあんさん、無表情で怖かったで?
流しそうめん:……それは、申し訳なかった。
たこ焼き:で? なんやの? なんでそんな難しい顔しとるん。
流しそうめん:難しい顔……してるかな。
たこ焼き:『騙す』とかなんとか。言うてたやろ? それか?
流しそうめん:……俺にはたこ焼きが客を騙してるように見えた。嘘は、良くない。
たこ焼き:ウチはお世辞は言うが嘘はつかん! 変な言いがかりつけんといて!
たこ焼き:……まぁそれはええ。でも、あんさんにはやっぱ笑顔が足りん! 仕事中は勿論、こういうときも、やで?
流しそうめん:……こういうとき?
たこ焼き:普段――日常、やな。沈んだ顔より笑顔のほうがええ。外面から作るっていうかな。ほら、こんな風に……
そこでたこ焼きがふわりと微笑んだ。その顔は可愛く見えたが、流しそうめんは思わず笑ってしまった。
流しそうめん:ははっ! その笑い方はたこ焼きらしくない。いつもの笑顔の方がずっといいよ。
たこ焼き:ん! ええやんええやん、その笑顔やで!
流しそうめん:……お前のはただの作り笑いだ。作り笑顔は――『嘘』だろ。嘘は、良くない。
たこ焼き:なるほど。だったらあんさんはウチが作り笑顔もせず、仏頂面で接客してた方がええと思うか?
流しそうめん:そうは思わないけどさ……でも、やっぱり俺は嘘は良くないと思う。
たこ焼き:ふむ……真面目やねぇ、あんさんは。ウチからしたら、そっちのがよっぽど疲れるわ。
たこ焼き:沈んでるときはな、作り笑顔でも笑ってた方がええよ。そしたら、自然と心から笑えるようになる。
流しそうめん:そんなことないだろ。作り笑顔は『嘘』だ。『本当』には、ならない。
たこ焼き:ほー。そこまで言うなら勝負や。とにかく笑え! それでもウチの言うことがわからんかったら、土下座して謝ったるわ。
流しそうめん:そんな賭けして、なんの得がある? 俺は……嘘は嫌いだし、作り笑顔なんてしたくない――
たこ焼き:うっさい! これは先輩命令や! プライベートはともかく、接客中はもっと笑え! 嘘くさくってもいいから満面の笑みやで! わあったな!?
その五 作り笑顔
蘇生月初
桜の島 海辺のたこ焼き屋
それからまた数日が過ぎる。先輩命令と言われ、仕方なく流しそうめんは作り笑顔を浮かべて接客をした。
たこ焼きは迷うことなく作り笑顔を浮かべる。そうしていたら自然と楽しくなるという……だが、流しそうめんにはやはり実感できなかった。
流しそうめん:(でも、少し前とは違う。『作り笑顔』に嫌悪感はない……何故だ?)
そのときだった。流しそうめんの手元から焦げ臭い匂いがする。どうやら焼き物を焦がしてしまったようだ。
たこ焼き:しゃーない。これはウチがなんとかしとくから!
流しそうめん:す、すまない……つい。
たこ焼き:考えごとは禁物やで! と、お客さんや! いらっしゃいませー!
お客:浜海セット一つ。お嬢さん、いつも威勢がいいね!
たこ焼き:イッヒッヒー、おおきに! 毎日頑張っとるからねー!
流しそうめん:……。
流しそうめん:(そうだ、きっと俺は『作り笑顔』も悪くないって思い始めてる……)
お客:みんな、あなたの笑顔が大好きなのよ。たこ焼きちゃんの笑顔は、この店の看板だからね。
流しそうめん:(俺がたこ焼きの笑顔を嫌だと感じないのは……)
たこ焼き:ならウチのこと、娘だと思ってくれてええよ?
お客:あら、そんなこと言って。おばさん本気にしちゃうわ、ふふふ。
たこ焼き:あははっ! 本気にしたってええで?
流しそうめん:(たこ焼きの『作り笑顔』で客が喜んでるから……?)
おばさんの姿が見えなくなったあと、たこ焼きは真顔になって流しそうめんに振り返った。
流しそうめん:悪かった……本当にすまない。
たこ焼き:大方、昨日話した『嘘』のことで悩んでたんやろ?
たこ焼き:あんまし思い詰めたらあかんよ? ほら! スマイル、スマイル!
流しそうめん:……そうだな。
その六 幸せ者
蘇生月初
桜の島 海辺のたこ焼き屋
たこ焼き屋で働くようになって、一か月が過ぎて――流しそうめんは、自身の変化に驚いていた。
かつての自分と今の自分は違う……そう実感せざるを得ない。笑顔が増えたような気がするし、明るくなったようま気もする。
流しそうめん:なんだ?
たこ焼き:あそこに座っとる女の子、あんさんのことずっーと見とるで?
流しそうめん:え……?
たこ焼き:ほら、ウチの言うた通りやろ? 笑った方がええって。
流しそうめんは頷かざるを得ない。最初は無理に作っていた笑顔だが、今は客が来ると自然と笑顔になっていた。
『嘘』だと思っていた作り笑いが、今では『本当』になっている……自分の努力で、状況が変化したのだ。
流しそうめん:『沈んだ顔より、笑顔の方がずっといい……』
流しそうめん:(……こんな風に自然と笑えるようになるなんて)
流しそうめんは記憶の奥に焼き付いているおばあさんのことを思い出す。彼女もたこ焼きと同じだ。自ら笑って――前を向いていた。
たこ焼き:うん? なんか言うた?
流しそうめん:俺は……。
『嘘』は嫌いだ。それは今でも変わらない。だが、前に進もうとする気持ちは『嘘』じゃない……流しそうめんは少しだけ悩みが晴れた気がした。
流しそうめん:お前の言う通りだったな。俺は笑えるようになった……ここに来て、お前に会えた俺は幸せ者だ。
たこ焼き:……。
きっとわかっていないのだ、この青年は。今自分が、どれほど女泣かせな台詞を吐いたのかを。
たこ焼き:(……こいつのこれからが、ウチは不安や)
たこ焼き:変な顔なんかしとらんわ! 阿呆が!
たこ焼き:言葉にも尺度があるんや! 行き過ぎた言葉は誤解を生むで! 肝に銘じとき!
流しそうめん:俺、何か悪いことを言ったのか……? だったら申し訳ない――謝るよ。
たこ焼き:そうやない。あのな、あんさんの笑顔は人を癒せる! 笑ってた方がみんなが幸せや! だからこれからもそうやって笑っとき! わぁったな!
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