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普洱茶・エピソード

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作成者: 時雨
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普洱茶のエピソード

触れるもの全てを枯らしてしまう特殊な体質を持つ少女。生まれつきの呪いを解くため、絶境にやってきた普洱は、やがて時間を3分巻き戻すことができる砂時計を見つけた。しかし、現世に干渉しない原則のため、普洱茶は絶境に留まることを余儀なくされた。

Ⅰ.呪い


普洱茶、ここがうちの茶畑だ。近くにある茶畑の中で、俺たちの村が一番香りの良いお茶を作れるんだ。」


御侍は興奮の様子で前方を指差した。


指差す方向には、青々とした葉の芽が何枚も何枚も、青い波が幾重にも重なっているように見える。

葉の爽やかで甘い香りが長く続いている。


「まだ来たばっかりだから、まずは茶葉を摘むのを手伝いな。」


あたしはうなずき、村人たちがしたように手を伸ばすと、葉の柔らかさが指にすっと広がっていった。


しかし、竹籠に摘み取る前に、ほんの一瞬で無残に枯れてしまった。


どうなっているの……?


鮮やかな青色をしていた茶葉が、一瞬にして枯れ、散っていくのを見て。

糸で引っ張られるように、あたしの指先が宙に浮いたまま固まってしまった。


そして、慌てたような叫び声が聞こえてきた。


「そんな、茶樹が突然枯れてしまったの?」

「その子、何か変な魔法を使ったんじゃない?」


普洱茶……その手が……?!」


御侍のおどろおどろしい視線があたしに向けられ、思わずもう片方の手が触れた横の茶樹が、すっかり枯れてしまっていることに気がついた。


いや……


「みんな、気をつけろ!この怪物に近づいてはいけない!」

「化け物め!近寄るな!!」


いや……それは違うんだ……

言い訳しようとしたが、唇が淀んだ感じで、どうにもこうにも口が開かなかった。


その音はまるで苦い風のようにあたしの中を駆け巡り、骨の髄まで凍りつかせた。


次の瞬間、あたしはハッと目を覚ました。


額にはすでに冷や汗が浮かび、指先にはまだその冷たさの痕跡が残っている。

手を握りしめたが、その気配しかつかめなかった。


窓から朝靄に包まれた茶畑を眺めていると、またしても虚しさを覚えた。


いつからなのかわからない、あたしが触れている生き物は、すべて枯れてしまう。

理不尽だが、逃れられない呪い。


茶樹も、道端の草花も、あたしの手にかかると枯れてしまう。


人々の目は驚きから恐怖に変わり始め、あたしに少しでも近づけば、あの草木のように枯れてしまうのではと恐れた。


こうして半日の間に、不吉な呪いを持って生まれた女の噂は、あっという間に村中に広まってしまった。


その日、あたしを討伐に来た村人たちを落ち着かせた御侍が、クマを少しづつ深くしていったのを今でも覚えている。

普洱茶、これからは何も手伝わなくていい……茶畑にも近づくな……」


「うん……そんなつもりじゃなかった……傷つけるつもりじゃ……」


「はぁ、今になって、これ以上言っても無駄だ……」


ゆっくりと立ち去る御侍の後ろ姿を見ながら、心には淋しさの波が広がっていった。


それ以来、あたしは両手に包帯を巻き、誰にも会わないようにしていた。


周囲の人々はみな、あたしと重い障壁で隔てられているように、一人になったときにしか、安らぎの時間を得られなかった。


その日、あたしはいつものように山外の林の中を歩いていた。のんびりしていると、上から子どものすすり泣く声が聞こえてきた。


太くて高い木から降りられない2人の子が、言葉に詰まってむせび泣いている。


「うぅ……誰か、助けてくれる人いないかな……うう……」

「お兄ちゃん……誰か来たみたいだよ!」


彼らはあたしの顔を見ていないようで、迷いが頭をよぎったものの、今は人を救うことが一番。


「怖がらないで……」


呪いの力を木に使って、この子たちを助ける方法を考えていると、耳に入ってくる泣き声が大きくなってきた。


「うわーーお兄ちゃん……あの人、呪いの人だ!」

「な、な、何がしたい?!これ以上近づくんじゃねぇぞ!!」


「あたしは……」

あたしは、あなたたちを助けたいだけ……


その言葉が口から出る前に、鋭い痛みが頬をかすめた。

うずくまる子どもは枝を握りしめ、恐る恐るあたしを見た。


無意識に手をかばい、また枝が落ちてきた。


「ううぅ……お兄ちゃん、怖いよ……ママが……あの人に触られたら……灰になっちゃうって……うー……うう……」

「化け物!近寄らないで!!」


怯えた叫び声と罵声が圧倒的な勢いで押し寄せ、最後のかすかな思考を完全に飲み込んでしまった。


子どもたちの泣き声は、やがて木こりたちの注意を引き、叱責と罵声がうずまく。

あたしに対して刀を振り上げることはないが、体は鋭い刃物で刺されたように痛んでいた。


部屋に戻ると、御侍は相変わらず悲しそうな顔をして何か言いたそうにしている。

あたしは唇を噛み締め、ついに決心した。


「御侍……申し訳ない……あたしは、ここを離れる。」


そう、あたしは……ここにいる資格は全くない……


Ⅱ.出会い


雨は降り続き、濡れたベール越しに涼しさを感じて、裾を優しく引っ張られるのに気づいた。


「お姉さん、傘を持ってないの?私の傘をあげるから、花を買ってくれない?」

細い声がそばから聞こえ、竹籠を担いだ少女は澄んだ瞳をしていた。


竹籠の中には雪のような杏の花の枝が横たわり、軽やかで爽やかに咲き誇っていた。


しかしあたしは、指先がわずかに硬くなるのを感じながら、思わずその場で立ち止まった。


「あたしは……」


「お姉さん、付けてみてよ。髪によく似合うから!」


少女は何も気づかず、花の枝をあたしに手渡した。


わずかの距離で、一瞬、過去の記憶がよみがえった。


現実と悪夢が交錯し、消えゆく杏の花と少女の怯えた顔が、突然目の前に現れた。


苦々しい寒気が背筋を登り、あたしは思わず逃げ出してしまった。


こんなあたし……どこへ行っても迷惑をかけるだけだ……


どうして……


どうしてあたしはこんな呪いをかけられていたんだろう……


どれほどの時間が経ったのか、手足に冷たさが染み渡り、気がつけば身体はすでに雨に濡れていた。


途方に暮れて、ある声が耳に飛び込んできた。


「……あの仙宿仙人は不老不死を獲得し、この世を退いていた。伝説によれば、彼は知識豊富であり、あらゆる強力な方術を使いこなせる!」


「……全知全能と言われ、運良く彼の指導の息吹を受けた者がいれば、死者を蘇らせることもできそうだ!」


会場の拍手とともに、人々の声が断続的に聞こえてきた。


死者さえも蘇らせる……

この仙宿さんは本当に全知全能なのか……


思いが重なり、あたしはなんとなくその茶屋に足を踏み入れた。


もしかしたら、あたしの呪いさえも……


しかし、どう声をかけていいのかわからなかった。


「すいませんお嬢さん、道を譲ってくれないか、次を急がないといけないんだ。」


この言葉を聞いて、あたしは自分が楽屋の前に立っていることに気づき、そして話している相手は、先会場で話していたのと同じ男であることに気づいた。


「あの……仙宿という人の居場所を……知っているか?」


その言葉に、彼の顔には一抹の疑問が浮かんだようだったが、再び扇子を閉じ、食い入るような笑みを細めた。


「それが聞きたかったんだね……その服装からして、地元の人には見えないが……」


「はい、別の街から来た。」


「そっか……まぁ、仙宿の居場所を知りたいなら、少しは手がかりがあるんだけどね。でも……その手がかりは貴重だし、せっかく手に入れたんだから、その代わりに何かの報酬をくれないと。」


「報酬……?でも、あたしは……お金は持っていない。」


「はは、それでいい。金や銀の飾りをたくさんお持ちのようだね……よければ……あぁ──イタタタ!!」


笑いながらしゃべっている男だったが、後頭部の長い三つ編みが急に激しく掴まれ、痛々しい叫び声を上げた。


彼の背後に突然現れた白髪の女性は、嗤いながら手首をわずかに動かすと、彼を投げ飛ばした。


男は頭を覆い、不服そうに怒鳴った。


「な、なんと無礼な女!俺に何の不満でもあるのか?」


「フンッ、よくも偉そうに仙宿の名を使って、若い娘から金をだまし取るとは。」


「そ、そんな!ふざけるな!俺が彼女を騙した証拠があるのか?!」


赤い服の女性は冷静に手にした扇子をくるくる回しながら、声は相変わらず冷静だが、少しばかり軽蔑の念を込めた。


「私の目が証拠よ。」


二人の取り合いの意味を理解する前に、その女性はすでに立ち去ろうと動いていた。

どういうわけが、あたしは焦りを覚えた。


「待て……!行かないで……」


「仙宿について聞きたい?」

お酒の香りが漂う優雅な部屋から、玉麒麟と名乗る女性がのんびりと語りかけた。

「ふふ、あの男のように、君を騙す心配はないか?」


あたしは首を振った。彼女の外見や振る舞いが普通でないことは知っていたが、あたしに対して悪意を持っていないこともわかっている。

もしかしたら……彼女は本当に何かを知っているかもしれない……


結局のところ、彼女に事の顛末を話すことにした。


「なるほど……どうりでそんな柔らかくきれいな手なのに、わざと厚い布に包まれているんだ。」


「……誰かを傷つけるかもしれないから……この厄介な呪いのせいで……」


「呪い?これは明らかに天からの贈り物だ。触れるだけで命を終わらせる……そんな便利な能力を欲しがる人がどれだけいることか。」


「でも、こんな力……あたしは欲しくない。」

「そうか……しかし、残念だが噂の全知全能の仙宿は、君の呪いを取り除くことはできない。彼はいつも行方がわからない、ただの怠け者だ。」


玉麒麟は変わらぬ表情だったが、あたしは次第に何かを理解した……


やはり、妄想にすぎない……この世には天の法則を覆すことなどできないんだ。

呪いを持って生まれたのなら、永遠に呪いと一緒にいる運命なんだ……


「何、そんなに落胆しているんだ?仙宿には無理だけど、私には君を助ける方法があるのよ。」


彼女の唇から柔らかい笑いが漏れた。あたしは唖然し、顔を上げると、玉麒麟の目がわずかにつり上がり、唇の端に不穏な笑みを浮かべていた。


「ただし、ひとつだけ条件がある。」


Ⅲ.絶境


雲は霞み、草は生い茂り、視界に入ってくるのは遠くの海だけ。

絶境と呼ばれるこの島に登ってからしばらく経つが、まだ少し信じられないような気持ちもある。


普洱茶さん、調子はどうですか?何か居心地が悪いと感じたら、私に言ってください。」

あたしが物思いにふけっていると、松鶴延年の温かい声が聞こえてきた。


「ありがとう……もう大丈夫……ここはとても静かで、落ち着く。」

それに……四六時中、呪いの力を恐れなくていい……


「それは何よりです。そういえば、普洱茶さんの砂時計、とても特別に見えますが、使っているところを見たことがないですね。それはどういう……」


松鶴延年の一見意図していないような問いかけに、思わずあの日の玉麒麟の言葉を思い出してしまった……


「『絶境』に行かせていい。そこにはクソ龍の残した砂時計がある、それを使うと時間を3分巻き戻せる。ただし、現世に干渉しないようにするため、絶境でしか使えないし、霊力もかなりかかる。」


「条件については……『絶境』で待っていてくれ、考えたら教えてやる。」


こんなにも骨の髄まで呪いに犯されたあたしが、本当に一筋の希望を得ることができるのか……

もし、この砂時計でさえ……あたしを呪いから解放できないのなら、二度とチャンスはないだろう……


望みが絶たれる瞬間を恐れて、砂時計は何日も前から持っているのに使っていない。


かし、このまま立ち止まっていても、どうにもならない……


普洱茶さん、どうしたんですか?私は何か変なことを言ったのでしょう……?」


「いいえ……この砂時計の使い方は……」


心臓が突然高鳴り、あたしは目の前の青松に擦り寄った。

一瞬にして、もともと青かった枝がたちまち枯れ、枯れ枝と化してしまった。


あたしは心の震えを押し殺し、玉麒麟が教えてくれた要領で砂時計を呼び起こした。


砂時計が光を放ち、奇跡のように、松の枯れ枝元通りになった。


松鶴延年の顔は驚きの跡を見せた、あたしも落ち着くことができず、ただ夢のような非現実のような気持ちを覚えた……


「実は……貴方の事情は、玉麒麟からの手紙ですでに説明されていたのです。何事も存在する以上、それなりのやり方がある。今は神君のモノの力を借りるのも良いことです。私も常々関係ある古書があるかどうかを確認します。普洱茶さんはあまり心配する必要はないでしょう。」


「ありがとう……」


その後、あたしは安心して絶境に滞在した。

砂時計があたしの呪いを本当に変えたわけではないことは分かっていたが、あたしのせいで、取り返しのつかない結末をもたらすことはもうないでしょう。


青龍神君と仙宿さんが無事に帰ってきたら、他に呪いを解く方法を聞くことができるかもしれないと、松鶴延年から言われた。

しかし、結局は死傷者が出て別れることになるとは、誰も想像していなかった。


どんな争いに巻き込まれたかは分からないが、青龍と仙宿がどこにもいないことと、玉麒麟さえも昏睡状態に陥ったことだけは確かだ。


しばらくは絶境の主がいない状態になってしまい、松鶴延年も悩みを隠せなかった。


あたしを引き取ってくれた絶境に報いるために、いまできることは、彼の仕事を分担して手伝うことだけだった。


この日、いつものように松鶴延年の代わりに結界のメンテナンスをしていると、後ろからビャクシの香りがしてきた。


見なくても、数日前に大急ぎで島に帰ってきた碧螺春とわかった。


ただうろうろしているだけかと思いきや、緑色の影はどんどん近づいてきて、メガネの向こうには、ひときわ目を引く青い瞳があたしを見つめている。


普洱茶さん、なぜ一目散に私から隠れようとするのか?お互い絶境の人なのに、どうしてこんなによそよそしいだろう〜」


「……そういう訳じゃ……」


「しかし、玉麒麟が攫う子、皆美人だね、それはいいことだ〜そうだ、お香を作ってあげようか?きっと、貴方に良く似合うよ。」


答える間もなく、碧螺春は独り言で喋り続けた。


「このところずっとあの堅物を助けているのは、貴方なんだね。あいつの仕事っぷりに疲れてるんじゃない?」


「いいえ……みんながあたしを助けてくれた、あたしもみんなを助けたい。」


「ふふ、やはり。玉麒麟が貴方を島に招いたのは、退屈で気晴らしを探していたからだけじゃなかった。」


彼は笑顔でそう言ったが、あたしは彼の言っている意味がわからなくなった。

そして、あたしの混乱を見て、彼の笑顔が深まった。


玉麒麟は悪い人ではないが、かつて『女魔王』と呼ばれたことがある。そのような人が、理由もなく貴方を助けるわけがないだろう?」

「人の心は分からないもの。自分の能力を呪いとみなしていても、それを欲しがる人は必ずいるから、気をつけないと利用されかねないよ〜」


「しかし、この力は……災いをもたらすだけなのに……」


「ある人によっては、災いはいいことだよ。」


碧螺春の口調はゆっくりとしものだったが、あたしの背筋を震わせた。


玉麒麟が親切に呪いを解いてくれたのだとばかり思っていたが、こんな理由は思いもよらなかった。

もし、この力が下心のある人に使われたら、その結果は想像するだけで……


「ごめんね、怖がらせちゃったかな?怖がらないで。貴方が善良な心を持っているなら、たとえ玉麒麟が何もしなくても人を殺すようなことはしないってわかっているよ。そうでなければ……今まで平和に暮らすことはできなかったでしょう?」


その言葉に、あたしの心は微風のように揺れ動いた。


「彼の言うとおりだ。もし、君に悪への欲望があるのなら、最初からこの島に招き入れなかった。」


?!!


Ⅳ.帰路


懐かしい颯爽たる声が急に聞こえてきて、思わず固まったが、いつの間にか玉麒麟松鶴延年が歩いてきていた。


「ああ、幸いにも君は正しい道を選んでくれた。そうでなければ、私が眠ったこの数日間、あの堅物は苦労するだろう。」



あたしが……選んだ道?


「なんだ、君は呪いをとく方法を見つけるつもりじゃなかったのか?」


「君や私がどんな力を持つかは選べないが、生まれてからこの世界で起こることは、幸か不幸か、私たちの選択でしかない。」


言いようのない感動が胸からこみ上げてくると、松鶴延年の声が耳に入った。

普洱茶、ここ数日、貴方おかけで絶境を混乱から救われました。玉麒麟が目覚めた今、ようやくお礼を言えるようになりました。ありがとうございます。」


「あたしはただ……」


「おい、堅物、そう言うなら私もいぶん助けたんじゃない?玉麒麟が昏睡状態になったと聞いて、すぐに戻ってきたんだ。そのためスパイスの取引がいくつも取り消したんだよ。」


「……口をつぐんだ方が助かります。」


「へぇ、それどういう意味?私を必要としたとき、親切にしてくれたのに、私を利用した挙句に捨てるのか?この薄情な男!」


「なっ、な、何を言っていますか!」


「ほら、二人ともうるさいぞ。ずいぶん眠っていたから、そろそろ美味しいお酒を飲もうかな。この間埋めたお酒、今飲むのにぴったり。」


「まだ完全に回復していないでしょう?酒は健康に悪い……」


「いいから、それくらいなら大丈夫。そういえば、まだ普洱茶の歓迎会を開けなかったな。」


その時、ふと、あの日、玉麒麟が言っていたことを思い出した。


「ところで……麒麟島主、まだ絶境に留まるための条件を教えてくれない……」


「んん?そうだな……私が好きな時に、いつも一緒に酒を飲めってこと、いいよな?」


「ただ……それだけでいいのか?」


「ふふ、君には無理かなとも思ったけど、君が嫌じゃないなら、そう決めよう、さぁ、行こう。」


「うう、普洱茶ちゃん、今日はあの薄情な男に痛い目に遭わされたから、お酒いっぱい付き合ってくれ。」


碧螺春!そう言ってる場合じゃないです!ゴホン……またそのお香でむせるつもりか、そこで止めてください!」


呪いはまだ解けていないが、もうそれに圧倒されることはない。

もしかしたら、あたしは別の意味で癒されたのかもしれない……

「麒麟島主、今回のお酒を酌み交わした後、あたしはしばらく絶境を出てもいいでしょうか?」


「なんだ、ここでの生活に飽きたのか?」


「いいえ、ちょっと行きたい場所が……」


緑の木々が木陰を作り、鳥がさえずり、碧い波のような茶畑が広がっている。

あたしはこの村に帰ってきた。


絶境での日々は瞬く間に過ぎ去り、再び外の世界に足を踏み入れると、まるで隔世のよう。


しかし、周囲を見渡すと、すべてが記憶の中にあるものと同じに思えた。


白菊を御侍の墓碑の前にそっと置いて、あたしは背を向けて田舎から市場まで歩いて行った。


今まで見向きもしなかった村が、今となっては新しく思えた。


通りにはお茶の香りが漂い、行商人の声が響いていた。

あたしはすぐに子どもの声で呼び止められました。


「お姉ちゃん、お茶をいかがですか!」


餅茶を手にしたその子はそう呼びかけ、あたし無意識に手を伸ばそうとしたが、ふと、ここは絶境でないことに気がついた。


昔のように臆病ではなくなったけど、やはり軽率な行動は取りたくない故、やむなくお断りすることにした。


子どもの顔に失望の表情が浮かんだとき、背後から二人の人影が出てきた。


「いらっしゃい!お嬢さん、お店には採れたての春先のお茶があるんですよ!」

「そうそう!今日はお茶の無料試飲もあります!ぜひ……あ、あなたは……」


顔を上げると、目の前の男女が信じられないような顔をしている。


「あなたは……あの時の、食霊……」


「あなたたち……」


彼らは少し複雑な表情を見せ、苦笑いを浮かべた。

「お忘れかもしれませんが……私たちは……あなたに枝を投げつけた、あの時の子どもです……」


一瞬にして記憶がよみがえた。

そうか、彼らだったのか……


「実はあれから、あなたに謝ろうとしていたんです……妹がは、あなたがおばあちゃんを助けて山の怪物を追い払うのを見たって言っていました……だからあなたは悪い人じゃないって……」


「でもあの時すっごく怖くて……あんなふうになってしまい……本当に申し訳ありません、普洱茶さん。」


思いがけない言葉が一語一語私の耳に流れ込んできて、喉には少ししこりがあったが、心の中の何かが溶けていくような気がした。


ただ、彼らの顔に悔しさが湧き上がるのを見ながら、あたしは口調を緩め、慣れない微笑みを浮かべた。


「大丈夫……あなたのせいじゃないだから。あたしはもうとっくに気にしない。」


「今のあたしは……自分の居場所を見つけたけど、これからも、呪いを解く方法を探し続ける。」


Ⅴ.普洱茶


はるか南西の片隅に、普洱茶茶を豊富に生産する村がある。

しかし、ある年は天候に恵まれず、土地は長い干ばつに見舞われ、茶畑も焦土と化していた。


茶農家が天に向かって雨乞いをしたところ、偶然に普洱茶という食霊を召喚してしまった。


天災のためか、普洱茶は取り返しのつかない呪いにしまった。

しかしそれでも、少女はいつまでも元気がなく落ち込んでいるわけでもなく、もっと遠くに行こうと決意していた。


いつか呪いは解け、何かいいことが起こるかも知れない。


日を改め、絶境。

雪の薄い晴れた日、普洱茶碧螺春は中庭でぼんやりと座り、お香を作っている。


数枚の香の葉をくるくると回りながら、碧螺春はなんとも心地よさそうに感心している。

「堅物はお香を知らないし、玉麒麟も酒を飲むことしか興味ない。お香を作るのを手伝ってくれて嬉しいよ、普洱茶ちゃん。」


「……それは、あなたがしつこいだから。」


「エヘン、そんなことないよ。春節に夢回谷の人たちからもらった贈り物を返すだけだから、少しは努力しないとね。出来上がったら貴方にも1箱あげるから、穢れを祓うのに使ってね〜」


「……前に試せと言われたお香が、もうたくさん溜まっているけど。」


普洱茶はそっと言いながら顔を上げると、碧螺春が微笑んで視線を投げかけているのが見て、少し緊張した。


しかし、相手の次の言葉に、彼女は唖然とした。


「ふと気づいたけど、貴方は以前ほど無口じゃなくなったようだね……ここに来た当初はあまり話したがらなかったのに、今は冗談を言うようになった。」


「……」


彼女は一瞬口を開いたが、言葉を飲み込み、かすかに微笑んだ。


「あの堅物も、貴方と同じように変わったよ。この絶境が一体、どんな不思議な宝地なのかな〜」


「――そういえば、如意巻きはどこに行った?物を取りに行くように頼んだのに、またいなくなっちゃったか……」


碧螺春が話し終えた瞬間、中庭の扉の外で足音が響いた。

松鶴延年は少し困った様子でゆっくりと入ってきて、傍らについてきた霊鶴は、背中に如意巻きを背負っている。


「おっと、鶴の背中に如意巻きを乗せるなんて〜」


「すみません……碧螺春さん……帰りにまた道に迷って……地面の穴に落ちてしまったのですが……先生に助けられたんです。」


「でも、その穴の中に小さな赤い花が咲いていたんです!まだ冬で、周りは岩だらけの荒れ地なのに、その花だけはきれいに咲いているなんて不思議ですね!」


如意巻きは、また鶴の背中から落ちそうになりながら言った。しかし、普洱茶は何かに気づいたように目を見開いた。


「それは……本当なのか?」


「もちろん、あんな可愛い花なので、はっきり覚えています〜先生も見たでしょう!」


「確かにあの穴の中には小さな赤い花が咲いていました、とても特別なものですね。」


二人からはっきりとした答えが返ってきたとき、普洱茶は言葉を失い、その目には無数の思いが込められているように輝いた。


しばらくして、温かく静かな声がみんなの耳に流れ込んできた。

「あの花の種は……あたしが少し前に埋めた。もともと……試しただけで、まさか本当に花が咲くとは……」


「おや?なんて素晴らしいこと、やはり絶境って宝地だよな〜」


普洱茶姉さんが植えたものなんですね!では、一緒に行って見ましょう!――あっ、痛い!」


「……鶴の背中で動くなと言ったでしょう。花は満開なので、ゆっくりでいいです。」


歓喜の声に包まれ、少女の頬もめったにない喜びに満ちていた。


その時、空から明るい光が雲を突き抜けて少女の手のひらに落ちてきた。

彼女は軽く微笑み、その温もりをゆっくりと握りしめた。



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