クリスマス・ストーリー
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クリスマス
目次 (クリスマス・ストーリー)
【一章 王子の悩み】
クリスマスイブ
とある宮殿
暖炉の明かりが、執務に打ち込む王子の顔を照らしていた。窓の外は一面雪に覆われ、静かな夕闇が広がっている。
ドアが開き、冷たい風が流れ込んできた。部屋に足を踏み入れたエッグノッグは、王子の曇った表情を見て、軽くため息をついた。
エッグノッグ「… お疲れのようですね。何かお困りごとでも?」
ローストターキー「フン、大したことじゃない!… おい、書類を勝手に見るな。」
ここのところ、ローストターキーはどんどん王子らしくなってきている。
彼の真剣な眼差しを見て、エッグノッグは誇らしいような、からかいたいような気持ちになった。
エッグノッグは、まとめられたファイルを手に取ると読み始めた。
エッグノッグ「浮浪者や宿無しの子を教会で保護する… なるほど。悪くないないお考えですね。」
エッグノッグ「もうじき冬も本番… この要請文書、僕が提出しておきましょう。」
ローストターキー「ま、待て!まさにそのことで、悩んでいるのだ…」
ローストターキーは顔を膨らませて、自分の髪をぐちゃぐちゃに掻いた。
ローストターキー「うーー… 一体どうすれば…」
エッグノッグ「… 何に悩んでいるのです?この要請が許可されれば、多くの人々が凍えずに済むのですよ。」
ローストターキー「でも……でも……もし教会が…………」
エッグノッグ「……教皇庁がこれを機に発言権を得て、勢力を伸ばすことを恐れている、ということですか。」
ローストターキー「… 何事も万が一を考えておけと、シャンパンに言われてるんだ。でも、この提案も悪くないし、いったいどうすれば――――」
エッグノッグ(まだ、シャンパンの言葉に傷ついているのか……)
エッグノッグ「では、この案は却下しましょう。」
ローストターキー「ま、待てエッグノッグ!!本当に助けが必要な者たちがいるんだ…… 堕神の対策資金に手をつけるわけにはいかないし、教会に頼るしか…」
ローストターキー「ああああーーどうすればいい!!!シャンパンならきっといいアイディアを……」
エッグノッグ「分かりました。気晴らしに行きましょう。」
エッグノッグ「いいアイディアなんて、すぐには出ないものですから。ちょうど今、兵士から視察の依頼が来ています。」
ローストターキー「……わかった。」
【二章 ふたりの旧友】
暖炉の淡い光に照らされた書斎の中、あるひとつの書類に、王子は未だ頭を悩ませていた。
エッグノッグ「ローストターキー… まだ決められないのですか。」
ローストターキー「も、もうすぐ決まる。もうすぐ…… あああーーーー分からん!!」
エッグノッグ「……そう言われても、僕が決めるわけにもいきませんよ、ローストターキー。」
どうすればいいのか悩んでいると、ドアが軽くノックされた。
「報告です!殿下!」
ローストターキー「どうした?何かあったのか?」
「殿下とエッグノッグ閣下の友人と称する女の子が、謁見を申し出ております!これを見れば、誰か分かるとのことなのですが…」
ローストターキー「見せてみろ。」
兵士が持ってきたのは、小さなお札のような物だった。
ふたりは、そこに刻まれた紋章を見るなり、顔を見合わせてニンマリと笑った。
ローストターキー「謁見を許可する!案内しろ!」
あの紋章は、赤ワインか、ビーフステーキか。どちらも来たのだろうか。ところが、やって来たのはふたりの見知らぬ女の子だった。
女の子は、自分の体と同じくらい大きな剣を抱え、壁際に寄りかかっていた。なんだかイライラしているようだ。
ローストターキー(何事だ?あの紋章は騎士団のシンボル…)
ローストターキー「あの…… 貴様は……?」
ジンジャーブレッド「あ……あんたらがあのアホ二人が言ってたやつらか。あたしはジンジャーブレッド。赤ワインの使いで来てやった。久しぶりにいい酒をおごってやるって。」
そういうことか。ローストターキーの表情はすぐさま綻び、前に出ようとした。ところがエッグノッグに襟首を掴まれ、引きずり戻された。警戒の眼差しで、彼女を見据えている。
エッグノッグ「どうして赤ワインかビーフステーキが来なかったの?」
ジンジャーブレッド「あいつらか。あいつらなら、どっちが来るかでもめて第726回目の試合をすることになった。」
ジンジャーブレッド「決着がつくまで時間がかかるから、結局あたしがあの紋章を持ってやってきたってわけだ。」
エッグノッグ「だ、第726回?」
ジンジャーブレッド「そう。赤ワイン300勝、ビーフステーキ301勝、125回引き分け。いつもの流れなら、今回は赤ワインの勝ちだな。」
ローストターキー「あははは……相変わらず仲が悪いな。」
ジンジャーブレッド「そういうことだから、ついてくるかどうか今すぐ決めろ。ま、あたしは決着がつくまで待っても構わないけど。」
エッグノッグ「……あの二人のやりそうなことですね。分かりました。貴方についてきましょう。」
【三章 酒宴】
城下外のとある飲み屋。人間も、食霊も、みな一日の終りに立ち寄ってご褒美の一杯を傾ける。
しかし…… 今日はここに、いつものような静けさはなかった。
ビーフステーキ「この野郎!!もういっぺん言ってみろ!」
赤ワイン「二回言わないと聞き取れないのは、貴様自身のがなり声に耳がやられたからか?いいだろう。せめてもの慈悲でもう一度言ってやろう。この無知で、愚鈍な、アホが。」
ビーフステーキ「野郎……!!!」
店のドアを開けるなり響き渡った怒声に、エッグノッグは苦笑いするしかなかった。
ジンジャーブレッドは慣れた様子で店内をかき分け、今にも殴り合いを始めそうな二人を無視してカウンターに座った。
ジンジャーブレッド「入れ、この店の果実酒はうまいぞ。」
ローストターキーが店に足を踏み入れた途端、ビールジョッキが彼の髪をかすって壁に叩きつけたれた。
ジョッキの残骸が、ガチャガチャと不快な音を立てて床に散らばった。
ローストターキー「…………」
エッグノッグ「…………」
ジンジャーブレッド「何突っ立ってんだ、早く来い。オヤジ!果実酒三つ!」
お互いの襟を掴んだまま睨み合う相変わらずの二人を、ローストターキーとエッグノッグは無言で見ていた。
すると、ビーフステーキは入口で呆然と立ち尽くしている二人に気づいた。赤ワインの襟を放すと、両腕を広げて歩み寄り、二人を抱きしめた。
ビーフステーキ「久しぶりだな二人とも!おおチビ!背はまだ伸びてないみたいだな!はははは!」
ローストターキー「だ、誰がチビだーー!」
ビーフステーキ「おーおー、よしよしよし。それより二人共なぜここに?今から行くところだったのに。」
赤ワイン「誰かと思えば貴様たちか。久しぶりだな。」
エッグノッグ「二人はもう城下を出たと聞いたけど、また戻って来たのか?」
赤ワイン「依頼を受けてな。城壁修理の安全警護を任された。堕神退治は、俺様のカナン傭兵団が受け持つ。」
ビーフステーキ「聖剣騎士団だ!」
赤ワイン「そこの野蛮人は放っておくとして。ローストターキー、最近はよくやってるじゃないか。依頼で各地を回るが、どこに行っても貴様は大した評判だぞ。」
ローストターキー「ほ、本当か……」
ビーフステーキ「ああ。あの貴族連中も最近じゃ大人しくなったそうじゃないか、やるなチビ!」
久しぶりの挨拶を済ませ、五人はテーブルを囲んでグラスをかざした。
ローストターキー「かんぱーい!!」
【四章 懐かしい歌声】
いつの間にか、店にいた客は皆帰り、残るはこの五人のみとなっていた。
ローストターキー「今日は楽しかったぞ、ジンジャーブレッド!あのバカ二人を頼む!」
後方で大きな音がした。酔っ払ったビーフステーキが、すでに倒れた赤ワインを起こそうとしたが結局二人して倒れていた。
赤ワイン「えぐっ、ビーフステーキ……このバカ野郎……ゲッ……」
ビーフステーキ「…バ…バカって言う方がバカなんだぞ……」
エッグノッグ「……」
ローストターキー「……」
ジンジャーブレッド「いつものことだから大丈夫だ。こいつらはあたしに任せておけ。」
エッグノッグ「……力になれることがあったら、いつでも王宮を訪ねて来てね。」
エッグノッグ「ところで、明日の王宮でのパーティー!必ず来てくださいよ!」
ジンジャーブレッド「忘れないから安心しろ!気を付けて帰れよ!」
エッグノッグとローストターキーは、並んで夜の城下町を歩いた。突然悠長な歌声が、ローストターキーの耳に届いた。
ローストターキー「この歌声……エッグノッグ、見に行ってみよう、ビールが帰ってきたかもしれない!」
二人は歌声のする方向に向かった。同じように歌声に惹きつけられてきた子供たちが、静かに歌声に聞き入っている。
曲が終わりると、優しい笑みを顔に浮かべた男は、隣に座っている子供の髪をそっと撫でた。
女の子「ビールさん、さっきの歌でたくさん「しんこう」って言ってたけど、しんこうって何?」
ビール「信仰が何か……いい質問だ……。それは、君たちに幸せをもたらす存在だと、僕は信じているよ。」
女の子「えっ、じゃあ幸せになるには、しんこうがないといけないの?」
ビール「幸せになるためには、他にもたくさんの方法があるんだ。信仰はそのうちの一つ。今日はもう遅い、お家にお帰り。」
女の子「いやだいやだ!今日は、海の向こうの大陸のおはなしをしてくれるって、約束したもん!」
ビール「そうだったね。でも今日はもう遅い、明日にしよう。」
女の子「えーーーー、わかった…… じゃあ約束ね!」
ビール「うん、約束だ。気を付けて帰るんだよ。」
女の子「わかった!さよならビールさん!」
ビール「さよなら、また明日。」
子供たちに手を振っているビールの後ろ姿をみて、ローストターキーは突然何かを考え込み始めた。
ローストターキー「……ビール、帰ったのか。旅は終わったのか?」
その声でようやく二人に気づいたビールが、微笑みながらローストターキーの前にやってきた。
ビール「久しぶりだな!二人とも元気か?」
ローストターキー「……聞きたいことがあるんだが、いいか?」
ビール「いいけど、今日はもう遅いからお家に帰ったほうがいいよ。ビールお兄ちゃんに質問するのは明日にしようね~」
エッグノッグ「プ……」
ローストターキー「……ガキ扱いするな!!!」
【五章 信仰】
ビールは興味深そうに、真面目な目をしたローストターキーをしげしげと眺めると、けっきょく我慢できず彼の髪を撫でた。
ローストターキーの悩みを見透かしたエッグノッグは、少し離れた場所で城下の景色を眺めることにした。彼はローストターキーの気性をよく知っている。自分が隣にいては、勝ち気なローストターキーは聞きたいことを口にできないだろう。
ビール「ではぼっちゃま、聞きたいこととは何かな?」
ローストターキーはしばらくためらうと、頭を上げてビールの顔を見つめた。
ローストターキー「笑わないで教えてほしいんだが……信仰というものは、権力者が更なる権力を得るための道具なのか、それとも……幸せをもたらすものなのか?」
ビール「……それは、なぜ僕に聞く?エッグノッグに聞いたほうがいいんじゃないのか?君のそばにいるのは彼だろう。」
ローストターキーはエッグノッグのほうを見ると、高い場所で遠方を眺めているエッグノッグがこっちに気づいて手を振った。ローストターキーはため息をついて続けた。
ローストターキー「ずっとそばにいるからこそ、彼が助けたいのは僕…余であって、この国ではない。」
ローストターキー「ビールはたくさんの場所を歩んで、広い世界を見てきた、だから、ビールの意見を聞きたい。」
ビール「…僕が旅をするのも、信仰の意味を見つけるためさ。それは目に見えない、触れないものだから、いいものなのか、悪いものまのか僕にもわからないんだ。」
ビール「僕自身の信仰ですら、実はよくわからない。」
ローストターキー「じゃ……じゃあ、国にとってそれはいいものなのか、それとも悪いものなのか…?」
しょんぼりした様子のローストターキーを見て、ビールは少し戸惑った表情を見せた。
ビール「その問いには答えられないかもしれないけど、旅での見聞を聴かせるくらいできるよ。」
ローストターキーは、顔を上げてビールを見つめた。城下の町の明かりは、まるで星空のように輝いている。
ビール「信仰のために滅んだ国を、僕はたくさん見てきた。君の言う通り、それらの国では、信仰は掠め取るための道具に過ぎないだろう。」
ビール「でも同時に、信仰を持っているからこそ、強く生きている人たちも、星の数ほどいるんだ。」
ビール「信仰があるから、彼らは何事にも寛容な態度で接することができる。」
ローストターキー「……」
ビール「だから僕も、自分の信仰を探して旅をしている。僕も、信仰の持つ本当の意味を知りたいと思う。」
ビール「でもね、この美しい土地で見てきた人々は、信仰のあるなしにかかわらず、皆幸せに暮らしていることも事実だ。」
ビール「この城下町のようにね。君はもっと、自分を誇りに思ってもいい。」
しばらくして、エッグノッグが戻って来た。三人は座って、町の明かりを眺めていた。
【六章 温かな手】
最後の明かりが消えたころ、ようやく三人は立ち上がった。ローストターキーがためらいがちに口を開いた。
ローストターキー「ま……また訪ねていいか?なんだかまだ、何かがはっきりしないんだ……」
ビール「いつでも会いに来ればいい。こんな遅い時間じゃなければもっといい。」
ローストターキー「も、もうこんな時間か!エッグノッグ、至急城に戻るぞ!」
ローストターキー「明日王宮でパーティーがあるから、ビールも来てくれ!」
ビール「は~い!夜道に気を付けるんだよ、おぼっちゃま~!」
帰り道、ローストターキーは相変わらず、何かを考え込んでいる様子でゆっくりとエッグノッグの後ろを歩いていた。エッグノッグが突然立ち止まったことにも気付かず、ぶつかってしまった。
エッグノッグはローストターキーの文句を気にも留めず振り返ると、屈んで両手でローストターキーの頬を挟み、眉をひそめてじっとローストターキーを見つめた。
じっと見られて気まずくなったローストターキーは思わず半歩退いた。
ローストターキー「……な、なに?」
エッグノッグ「最近、無理しすぎだと思います。」
ローストターキー「い……いきなりなんだ。」
エッグノッグ「最近の貴方は、少しも貴方らしくありません。わざわざ自分を、シャンパンと比べなくたって、いいんじゃないでしょうか。」
ローストターキー「…………」
ローストターキーはうつむいたまま、拳を強く握り締めた。
ローストターキー「……余はまだ未熟で頼りないのだ。どんなことでも貴様らを頼らないとできない。」
ローストターキー「余は立派な王者になりたい。この土地を守りたい。」
ローストターキー「でも、貴様らの助けがなければ何もできない……シャンパンは違う。彼は自分ひとりで全てをうまくこなせる。教会のことだって……」
エッグノッグ「……」
【七章 城門にて】
二人の間の重苦しい雰囲気は、王宮に着く頃まで続いた。ローストターキーが城門を潜ろうとした時、エッグノッグが突然口を開いた。
ローストターキー「……どうした?まだ何かあるのか?」
エッグノッグ「貴方がなかなか決められないいのは、教会が何かをしでかしたとき、止める術がない事態を、恐れているからですか?」
ローストターキー「……余はまだ無力だ。シャンパンのように上手く挽回することもできないだろう。だからもし、余の決定が皆を間違った未来に導いてしまったら、その時は…」
エッグノッグ「僕たちがいるじゃないですか。」
ローストターキー「貴様だけじゃない。シャンパンも、フォンダンケーキも、皆、余を助けてくれている。でもいつか、余が一人で立ち向かわなければならないときが来たら、余に何ができる?」
それを聞いてエッグノッグは眉をひそめた。そしてローストターキーの頬を、赤くなるまでつねった。
エッグノッグ「ほんとうに、おバカさんですね。」
高い高~い!突然、エッグノッグはローストターキーをひょいと持ち上げた。ローストターキーは顔を真っ赤にして、されるがままになっていた。
そう言い残すと、エッグノッグはローストターキーを地面に下ろして走り去った。
離れていくエッグノッグの後ろ姿をみて、ローストターキーはようやく我に返った。
ローストターキー「エッグノッグーー!!!今謝れば許してやらんこともないぞ!!」
ローストターキー「余を持ち上げるなといつも言ってるだろ!!!」
エッグノッグ「謝りません!!ローストターキーは、大馬鹿者です!」
【八章 市場にて】
翌日
市場
これ以上エッグノッグを心配させたくないローストターキーは、何かを考えている風を装いながら、一人で市場まで来ていた。
ドンっ!
勢いよく誰かにぶつけて顔を上げると。偶然にも、相手は最近知り合ったばかりの友人だった。
ジンジャーブレッド「ちっ、あんた頭硬いな。」
ローストターキー「す、すまん、わざとじゃないんだ。」
ジンジャーブレッド「まあいいけど、なんで一人でここに?」
ローストターキー「あれだ……少し散歩を……」
ジンジャーブレッド「ふーん。この後、どこかに行くのか?」
ローストターキー「それは……そういうわけでもないのだが……」
ジンジャーブレッド「ならちょうどよかった。ついて来い、ちょうど買い物に行くところで、荷物持ちが必要なんだ。」
ローストターキー「お、おい。赤ワインとビーフステーキはどうした?女の子一人で買い物に行かせたのか?」
ジンジャーブレッド「あいつらなら酔っ払って、宿のベッドを一つ壊してな。誰が残りのベッドで寝るか、喧嘩の真っ最中だ。」
ローストターキー「……ベッドを壊した?」
ジンジャーブレッド「そう。あ、弁償する金はあるから、余計な心配はいらないからね。足りないならあいつらに皿洗いでもさせるし。」
ローストターキー「そ、そうか。」
ジンジャーブレッド「なんか、ご機嫌斜めだな。エッグノッグと喧嘩でもした?いじめられた?あ、やっぱ赤ワインが言ってたみたいに、あいつにからかわれてるのか!あたしが代わりにとっちめてやるぞ?」
ローストターキー「ち、違う。ただ少し……悩みがあるだけだ。」
ジンジャーブレッド「だったらなんでエッグノッグに相談しないんだ?」
ローストターキー「……」
ジンジャーブレッド「なんだ?あいつ、あんたを助けたくないのか?」
ローストターキー「いや、もうたくさん助けられた…… ただ、彼を頼ってばかりではよくないと思って。」
ジンジャーブレッド「……お前な…」
ガンっ!!!
ローストターキーの脳天に、ジンジャーブレッドのゲンコツが炸裂した。ローストターキーは頭を抑えてしゃがみこんだ。
ローストターキー「イタタタ!うぅ……余が何をしたとい言うのだ?」
ジンジャーブレッド「望んで助けてくれる人が居るのに、まだ足りないってわけ? クソ不愉快なやつだな! フン! 早く行くぞ!」
ローストターキー「うぅ、わ、わかった!」
【九章 救済】
ジンジャーブレッドの後ろをついて歩くローストターキーは、相変わらず何かを考え込んでいる様子だった。
ローストターキー「……」
ジンジャーブレッドに言われたことを考えていると、突然騒ぎが起きた。
見に行くと、なんと二人のチンピラが、一人の少女にたかっている!
ローストターキー「あーー!ジンジャーブレッド!あそこを見ろ!」
ジンジャーブレッド「なあに?大の男ふたりが寄ってたかって… おいあんたら。ぶっころすぞ。」
剣を引っ提げて簡単にチンピラどもを撃退したジンジャーブレッド。ローストターキーは口を開けたが、何も言えなかった。
ジンジャーブレッド「フン!逃げ足だけは褒めてやる。大丈夫か。」
少女が礼を言って去ったあと、ローストターキーは少女の後ろ姿をみて沈黙した。
ジンジャーブレッド「ローストターキー?どうした?思いつめたような顔をして。」
ローストターキー「……こうやってあいつらを追い払って、もしあとで、あいつらが女の子に報復したらどうするつもりだ。」
ジンジャーブレッド「仮にやり返しにくるとして、見て見ぬふりをしろってわけ?」
ローストターキー「しかし……」
ジンジャーブレッド「馬鹿かあんた!助けたくても、助けられないときもあるんだ。行こう。」
ローストターキー「行くって、どこに?」
ジンジャーブレッド「あの二人をぶちのめしに行く。彼女が報復されるのを防ぐために。行くよ。」
ローストターキー「え?!えーー!!!ま、まってくれ!」
あちこちで騒ぎを起こしていたチンピラたちを牢屋にぶち込んだときには、もう日も暮れようとしていた。ローストターキーは晴れ晴れとした様子で、大きく伸びをした。
ローストターキー「あーースッキリしたぞ!」
ジンジャーブレッド「へへ! そうだろ! あたしは鬱がたまると、こうやって憂さ晴らしをする!」
ローストターキー「……」
ジンジャーブレッド「これであの子が、やり返されることもなくなった。来るとしても、あたしのところだな。」
ローストターキー「それは…ないと思うけど。」
ジンジャーブレッド「どっちにしたって、助けを求めている人を見過ごしたら、きっと後悔する。だから、どことん助けてやる。それだけだ。」
ローストターキー「とことん助ける……か… それが悪い結末をもたらすとしても?」
ジンジャーブレッド「悪い結末が訪れる前に何とかする。今あたしたちがしたように。」
ジンジャーブレッド「でも、目先の苦しみは変えられない。」
ジンジャーブレッド「あたしたちができるのは、できるだけ、その苦しみを追い払ってやることだ。」
ローストターキー(……苦しみを……追い払う……)
ローストターキー「ジンジャーブレッド、先に帰ってくれ!!!そうだ、今晩のクリスマスパーティー忘れるなよ!」
ジンジャーブレッド「ちっ、せわしないやつだな。」
【十章 友よ】
ローストターキーが急いで駆けつけた時、ビールはちょうど今日の歌を歌い終わったところだった。
ビール「ローストターキー、どうしたんだい。夜に会う約束だろ?そんなに僕に会いたかったのか。」
ローストターキーはビールのからかいには答えず、膝を突いて何とか息を整えた。ビールに渡された水を飲んでようやく落ち着いた。
ローストターキーの真剣な様子を見て、ビールも少し引き締まった表情になった。ローストターキーの隣に座り、彼の話を聞いた。
ビール「…つまり、君は自分が力不足だから、力を持ってしまった教会に対抗できない。」
ビール「教会と王家の平衡を維持できず、戦火でも起こして皆を苦しませてしまうんじゃないかと心配で、決定を下せずにいるということだね。」
ローストターキーはうなだれて、肩を無気力に落とした。ビールは彼の髪を撫でた。
ビール「僕には、どうすればいいのか明確に答えられたない。教会の人たちが、たとえこのままでも、永遠に悪に染まらないことを保証できないのと同じように。」
ビール「君に助けが必要なとき、君の友人たち、エッグノッグ、シャンパン、フォンダンケーキ、赤ワイン、ビーフステーキ、ジンジャーブレッド、僕も含めて、きっと皆がすぐに駆けつけてくれるはずだ。」
ビール「でもこれだけは保証できる。」
ローストターキー「でも……皆がいないときには……」
ビール「シャンパンが一人でできるのは、フォンダンケーキがそばにいたからだ、助けが必要のない人なんて、存在しない。」
ビール「他人の助けは、君の能力を否定するものではない。だから僕は信じているよ。たとえ僕たちがいなくても、君は上手くできるさ。」
ビール「ローストターキー、君はシャンパンではない。彼にすべてを習う必要はないよ。彼の国は君の国とは違う。君も彼とは違う。」
ビール「彼はすごい人だけど、君も君らしい、この国らしいやり方を見つけるさ。」
ビールの澄んだ瞳に映る自分の姿を見て、ローストターキーは徐々に意志を固めた。
ローストターキー「この国らしいやり方……余は、教会と共存していきたい。ビールはどう思う?」
ビール「悪くない考えだと思うよ。手を取り合ってやっていけばいい。」
ビール「シャンパンのように、一人で国を支えることがすべてじゃないよ。」
【十一章 王子の決意】
エッグノッグは、城内中駆けずり回ってローストターキーを探していた。ビールの隣に佇む彼を見つけて、ほっと胸をなでおろした。
エッグノッグ「ローストターキー!どこに行ってたのです!まったく、外出する時は僕に声をかけてください。攫われたと思ってしまったじゃないですか!」
ローストターキーは振り返って手を振ると見せかけ、まるで子ども扱いなお説教に対する反撃の意味で、彼の腹めがけてパンチを繰り出した。
軽く攻撃をかわしたエッグノッグは、笑いながら彼の髪を撫でた。
エッグノッグ「はいよしよし、戻りましょうね。パーティーは主催者がいないと始まりませんよ。」
ビール「へ~、二人は仲がいいんだね~」
エッグノッグ「ビールさん、よかったらパーティーご一緒しませんか。もうまもなく始まります。」
ビール「あ、僕はまだやることがあるから~ 終わったら行く!」
王宮への帰り道、ローストターキーは上機嫌だった。エッグノッグは意外そうに彼の様子を見ていた。
エッグノッグ「どうしたんですか? かなり機嫌がいいみたいですね。」
エッグノッグ「決めた?何をですか?」
ローストターキー「直下の全教会に、保護施設を増設する!もう冬だ!こんなにも美しい雪景色は、悲しみを生むために存在してはいけない!」
エッグノッグ「はい……!すぐに、要請を提出します!でも、どうしてそのおつもりに?」
ローストターキーは、しんしんと舞う雪の結晶を見上げて、目を細めた。
ローストターキー「余は、シャンパンではない。教皇庁、教会のジジイたちも、もしかすると、共存共栄の道を探っているかも知れない。」
ローストターキー「我々の目的は同じ。人々がより良い生活ができるように、頑張っているだけだから。違うか?」
傍らの路地で見守っていたビールは、ほっと胸をなでおろした。顔を上げると、エッグノッグが雪玉を作ってローストターキーの襟に放り込んでいた。
ローストターキー「つ、冷たっ!!おいっ!!!エッグノッグ!!!」
はしゃぎながら走っていった二人を、ビールは笑って見ていた。その時、一つの影が彼の背後に現れた。
「閣下。」
ビールの表情から笑みが消えた。彼はため息をつきながらこめかみを押えた。
ビール「閣下と呼ぶなと、何度も言っただろ。」
「閣下、長い間、お探ししました。」
ビール「わかった、わかった。話があるなら後にしてくれ、これから友人のパーティーに参加するから。」
【十二章 聖夜】
ふたりは、はしゃぎすぎて雪まみれになった衣装を整えていた。すると後ろのドアが突然開いた。
ビーフステーキ「サプライズだ!」
豪華絢爛なパーティー会場に、ふたりは目を丸くした。赤ワインとシャンパンはもう酒を楽しみ始めている。ジンジャーブレッドは、チキンの足を貪っている。皆が集まって来て、二人にグラスをかざした。
赤ワイン「ようやく来たか、待ってたぞ!」
エッグノッグ「わあ、これ誰が作ったんですか?美味しい!」
ビーフステーキ「シャンパンだ。ビールさんは野菜煮込みを作ったぞ。というかお前らはビールさんより先に戻ってきたんじゃなかったか?」
ビーフステーキ「なんでこんなに遅いんだ?あそうだ!あの野郎は何の役にも立たなかったぞ!ははははは!」
赤ワイン「どの野郎だ?俺様は少なくとも酒を選べる。お前はキッチンを燃やすこと以外何かしたか?」
ビール「おいおいおい、喧嘩するなよ!はいはい、やめ!野菜!野菜食え!」
キッチンから出てきたビールは、慌ててふたりを引き離した。再びグラスを手に持って、高くかざした。
ローストターキー「かんぱーい!!!」
エッグノッグは、酔うとしつこく絡んでくるビールを宿まで送った。戻ると、マントを羽織り、ベランダに座って城下を見ているローストターキーを見つけた。
エッグノッグは、ベランダに出て隣に座った。
ローストターキー「この国と、ここに住んでいる人々を見ている。」
エッグノッグ「何か、見えましたか?」
ローストターキー「やはり余は未熟だ。」
エッグノッグ「……」
ローストターキー「でも、未熟でよいと思えたのだ。」
エッグノッグ「……」
ローストターキー「余は、すべてをシャンパンのようにこなすことなど、できはしない。永遠にな。」
エッグノッグ「……」
ローストターキー「それでも余は、助けられる人々を、助けないわけには行かない。」
エッグノッグ「おぼっちゃま、なんだか悟ってますね。何があったのかな?」
ローストターキー「フン。」
エッグノッグ「……それと、貴方に話したいことがあります。」
ローストターキー「な、なんだ。」
エッグノッグ「僕は、誰かが未熟だから助けやるわけではない。貴方を助けるのは、貴方がローストターキーだから、それだけです。」
ローストターキー「……」
エッグノッグ「皆だってそう、貴方を助けたのは、貴方が上手くできないからではなくて、僕たちが、貴方を助けたいからです。」
エッグノッグ「この国の平和と幸せは、僕たち食霊にとって、重要なことではない。貴方がそれを望むから、僕たちは、貴方とこの国を助けたんです。それは、貴方にしかできなことだからです。」
ローストターキー「…うん。」
ドッッシャアァアアアン!!!
突然何かが割れた大きな音がした。振り向くと、ボトルごと酒を持ったビーフステーキが、フラフラと階段から落ちてきたのだった。
ビーフステーキ「……さあ飲め!…あれ…誰もいない…えぐっ………」
倒れ込んだまま、いつまでも起き上がれずにいるビーフステーキを見て、ふたりは顔を見合わせて弾けたように笑った。
(終)
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