神隠し・ストーリー・彼岸之处6~10
第五章-異変
願いに惹かれるモノ、執念あるモノ。
朝
神国
天沼:貴方はまだ……「黄泉」のみんなを受け入れたくないのですか?聞いた話だと、あっちの食霊まで「神国」に立ち入り禁止になっていると……
羊かん:このような制限をつきたくなかったのだけれど……誰かが別の目的のために、「神国」の民の優しさを利用するのが許せない。
瓊子:別の目的?どういう意味ですか?
羊かん:ある「黄泉」でめったに見ない植物がこの「神国」では好きなように育てている。あれはある特殊な薬の原材料だと知ったのは、ついこの間だ。
羊かん:その薬は、「黄泉」の人々を瘴気の毒から救うことができ、彼らが憧れていた「現世」へ逃げるのを助ける。
天沼:……そんなことが……。
羊かん:「黄泉」に「救世主」になりたい人はたくさんいるけど……私はそう思わない。
羊かん:あの植物はほかのと同じく、「神国」で普通に生長し、花が咲き、枯れていけばいい。よそのことは関係ないことだ。
瓊子:貴方にとって、「神国」の人々も……同じであるべき、ですね?
羊かん:ええ、悪くないではないか。痛み苦しみのないきれいな国……私はみんなを永遠に幸せで純粋な生活を送らせる。
瓊子:しかし……「神国」は貴方一人のものではありませんよ。みんながそれぞれの考えがあります……
瓊子:何度浄化されても、それらの考え方はあの人々を救うことができる植物のようにすぐ鬱蒼に生えてきます。
羊かん:それは違う。みんなが外の汚れに染まりすぎただけなんだ……もしかしたら、昔の「神国」を封鎖したくない考え方は間違いだったかもしれない。
天沼:……「神国」が貴方の目を晦まし、貴方はある種の危ない執着心に操られています。
羊かん:貴方たちにはわからない。これは……ある理想への強い意志だ。
瓊子:……
天沼:……!!!
寒い風が吹き抜け、巫女たちの言葉は急に途切れ、上座に座る羊かんは神妙で知らぬ気配を敏感に感じ取った。
???:兄様……?!兄様なの……?!
???:あの女は誰ですか?!なんで……私のかわりにそこに立っているのです?あれは私の体なのに!
天沼:貴方は……いったいなにものです……瓊子?いや、違う……
瓊子:兄様……頭が、痛いっ……
天沼:瓊子……!!
???:兄様、どうして私のことを見ないのですか?私の方こそ、兄様の妹なのに……!!
巫女たちは苦しんで座り込み、不気味な女性の聞き慣れない声は一層狂気じみて鋭くなっていった。
ゴゴゴゴーー!紫の稲妻が神国の静かな空を横切り、美しかったオーロラが瞬く間に、割れたガラス玉のように裂かれた。羊かんの黒い瞳には荒れ狂う怒りがもはや抑えられなかった。
羊かん:侵入者ーー!おまえは巫女を傷つけ、「神国」を毀し……許せない!
数分前
神国の海辺
オーロラが空から海へ降り注ぐ。静寂な水面には永遠に近づくことのできない鳥居が海市蜃楼のようにそびえ立っている。
波が砂浜を洗い流し、表面に浮かぶ足跡たちを消し去ったが、砂礫に深く埋まっていた貝殻が露わになり、海辺を歩く者たちと鉢合わせする。
りんご飴:ねえかき氷、最中兄ぃは「現世の門」を抜けると「現世」へ行けるって言ったよ……それ、本当だと思う?
かき氷:そうかな……でもあの扉、どうしても近づけないでしょー。あっちょっと待って……「現世の門」「現世」……?!
りんご飴:ちょっと、どうしたの急に?
かき氷:「現世」……「黄泉」!あたしの記憶が間違ってるのかな?誰かがあたしたちに「現世」と「黄泉」のことを話したような……
りんご飴:「黄泉」……二つの桜ヶ島?!
曖昧な記憶が泥を洗い流すように徐々に輪郭を現したが、まだ靄がかかっている。二人は驚きと困惑の表情でお互いを見つめあって、しばらくの間、言葉を忘れていた。
起伏する波が海岸を叩く。一方、砂浜の向こう側に、馴染みのある人影がのんびりと歩いていた。
最中:二人とも、ぼーっとしててどうした?呼んでたよ。
りんご飴:そうだ!最中兄ぃ!「現世の門」で「現世」へ行けるって言ったよね、じゃあ「黄泉」のことを聞いたことある?
最中:黄泉……貴方たち、覚えているのか……
かき氷:もしかして以前、本当に誰かがあたしたちに「黄泉」のことを教えてくれたことがあったの?
最中:巫女様たちの神力が衰えていて、浄化の儀もますます徹底的ではなくなっているようだ……貴方たちは確かに「黄泉」のことを知っている。
りんご飴:巫女様……?浄化の儀?
かき氷:待って……あたしたちの記憶って、わざと抹消されたの……?
最中:そうだ、だんだんたくさんのことを思い出すだろう。私がみんなにすべてを説明する……しかしその前に、絶対に神子様にバレてはならない。
ゴゴゴゴーー!紫の稲妻が予期せずに空を切り裂いた。最中は一瞬、言葉を止め、空を見上げると、空の果てまで続いていたオーロラが二つに割れた。
りんご飴:こ、これは一体?!!オーロラが割れた……
水無月:おーい!みんな、聞こえるかーー?
遠くの海辺で、水無月はすごく急いでいる様子で大きく両手を振っている。
水無月:さっき、「神国」に侵入者が入ってきて、巫女様を襲って逃げたって神子様が!!
最中:……どんなやつだった?!!
水無月:女の人だって神子様が言ってた、でも顔は見えなくて、声しか聞こえないみたいなんだ。あと、自分が天沼様の妹だって!!
第六章-真相
真実の下に潜む影。
神国の空の中央に広がる裂け目が不規則のブラックホールのようで、美しくて穏やかなオーロラと入り混じって互いを映し出している。
完璧だった偽りの均衡が崩れ、危険が機を伺っている。一堂に集まった人々も、異常な雰囲気を感じ取ったようだ。
草加煎餅:これは一体どういうことなんですか……
抹茶:巫女様方、すごくショックだったそうです。天象も異変が起きましたし、皆あの侵入者のせいらしいです。
ラムネ:天象に関することなら、星象館に聞くべきじゃないかな?最中兄ぃ、なにかわからない?
最中:まだわからないんだ……それに、今はまだ昼間で、星占いができない。
つじうら煎餅:この天才がさっき占ったよ、侵入者はまだ「神国」にいる!それに、一人だけじゃないみたいなの……
抹茶:もしかして、「神国」に入り込んだの、他にもいたのでしょうか……?
落雁:……お、お待ちください、今日私、見知らない食霊に出会いまして……
ラムネ:本当なの?!巫女様を襲った方?
落雁:ううん……カステラって言うらしいです。あの人、「館主」という人を探してて、瞬く間に消えてしまいました。
最中:……
草加煎餅:普通に「神国」に迷い込んだ食霊だったみたいですね……
ラムネ:ちょっと待って、なんか……空のあの裂け目に、何やら黒いものがサッと消えてったみたいだよ?最中兄ぃ、あれ何だったの?
ラムネ:え?最中兄ぃ、どこ行っちゃったんだろう……さっきまだここにいたのに。
この時
星象館
最中が足早に中庭を横切る。指先で跳ねる青い電弧が珍しい焦燥感を示した。彼は急いで和室の引き戸を開けたが、近くに潜んでいる人影に気づかなかった。
儚い水晶玉がついに掌に浮かび上がった。彼は声を低くし、水晶玉の中の画面に近寄った。
最中:鯛のお造り、よく聞け。百聞館の最後の神器の正体を……わかった気がした。
鯛のお造り:なに……?百聞館の神器?!
最中:そうだ。今日突然、謎の侵入者が襲ってきた。二人の巫女様が「彼女」のせいで心神が傷つけられ、「神国」も異象を発生した。
鯛のお造り:巫女の心神に直接影響できるなんて……何なんだ、あの侵入者は?
最中:姿は見えないそうだ。声だけで判断すると、女の人だったらしい……
最中:しかし今知ったのだが、百聞館のカステラも後を追うように「神国」に入ってきて、百聞館の館主を探しているそうだ。
鯛のお造り:百聞館の館主……ってことは……?
最中:こんなに大きなエネルギーのぶつかり合いは神器同士の共鳴しか生まれない。百聞館館主の正体は、巫女様たちと同じなはず……
鯛のお造り:館主が……神器の化身……?そうだったのか、だから私は彼女が作った夢の深くにあれを見ることができたのか……
最中:大事なのは今、彼女がまだ「神国」にいることだ!「神国」と「黄泉」をつなぐ通路はもう開いている。今が計画実施の最高のタイミングかもしれない。
鯛のお造り:ええ、なら私は月見の注意を引いて……
鯛のお造りが言い終わる前に、和室の外から意図的な軽い咳払いが聞こえ、最中はすぐに立ち上がって水晶玉を隠すようにした。
最中:誰だ……?
呼子イカ:最中館長、緊張せずに行こう〜僕だよ。館長が戸締まりを忘れててね、軽く触ったら扉が開けちゃった。
最中:……ずっと外で盗み聞きしてたのか?!
呼子イカ:ふふ〜そんなことないよ。僕ら、協力相手ではないか、ねえ、首座様?
鯛のお造り:……呼子、久しぶりだ。
最中:……
呼子イカ:ところで〜月見の注意を引くって言ってなかったっけ?お手伝いしようか〜
最中:貴方が?
呼子イカ:そう。普段から月見と付き合いがあるんでね、一回騙すぐらい簡単だと思うよ。ちょうど首座様もより重要なことに取り組むことができるしね〜
鯛のお造り:そうだな……じゃあ呼子、頼んだ。
最中:待て、鯛のお造り……あっさりしすぎないか?!こいつのこと……本当に信用できるの?
呼子イカ:最中館長、秘密話を大声で喋ると、僕、聞こえてしまうよ〜
最中:……
鯛のお造り:心配ない、最中。この件は呼子に任せるといい……ジジーージーー
電弧は再び不安定に跳ね始め、水晶玉の映像も雪のように崩れ落ち、消えていく。
最中:またか……
呼子イカ:はあ、やはり首座様のおっしゃる通り、君たちの間のコミュニケーションには障害が多いようだね。
最中:……残念そうな顔しなくてよい……そうだ、今回の通路はまだ貴方が来た時の森にあるが、道、覚えてるか?
呼子イカ:もちろん、覚えているとも。今向かうつもりだよ。
最中:待て。……気をつけていけ、絶対に羊かんにはバレぬように。
第七章-逃亡
守りたいモノ。
森
神国
裂けた空からゆっくりと暗闇が広がる。暗雲が本来輝かしいオーロラを覆い隠すかのように。神国の真の夜が、今迫り来ている。
枯れた枝葉が足元でキリッとした音を立てている。呼子イカは足を止め、注意深く音を発せられた場所を聞き分けている。
呼子イカ:誰だ……?
金平糖:呼子お兄さん、やっと見つけました!
茂みから出てきた小さな女の子が大きくホッとした。彼女の大きな帽子には落ち葉がいっぱい付いていた。
呼子イカ:おチビちゃん、どうした?
金平糖:最中兄さんから呼子お兄さんがお家に帰るって聞きました!また森で迷子になったら大変だから、あたしが送ろうかなと思ったんですけど……
呼子イカ:ふふ、自分が迷子になるところだったんだね〜
金平糖:うぅ……なんでわかるんですか……
呼子イカ:大丈夫〜今回は道を覚えてるから。この小道を数百メートル行くと通路が見えるはず。
金平糖:じゃあ早速向かいましょう!神子様は「神国」の隅々を探してまで侵入者をあぶり出すっておっしゃいました。もしここに来ちゃったら……
羊かん:闇に隠れる虫けら、まだ姿を現さんか?
金平糖:……?!!呼子お兄さん、はやく、逃げて!
茂る木立からは威圧的で冷たい声が伝わってきた。まるで怒りに燃える神が罰を下すかのようだった。呼子イカは顔を引き締めたが、金平糖はもう何もかまわずに彼の手を引いて小道に沿って走り出した。
乱れた足音が見回りの者の注意を引いた。危険の風がしっかりと彼らの後を追いかけている。
金平糖:はやく……もっとはやく!通路はこの先です!キャーーー
呼子イカ:おチビちゃん、危ない!
地面に横たわっていたつるが奮起した血管のように突然に立ち上がった。つまずいて倒れる寸前の女の子は横の腕に支えられ、何とか立ち直った。
金平糖:ば、バレちゃう……呼子お兄さん、足を止めちゃダメです!
呼子イカ:焦らないで、もう通路が見えてるよ。
森の中の音が交差するつるを刺激し、数十メートルしかない道が非常に険しいものとなった。
「通路」が枝葉の交わる小道の先に現れた。そこの景色だけが「神国」とまったく違うものだった。季節が異なり、昼夜が異なり、気候すらも異なっている。
そこが、桜ヶ島が影に包まれた一角、忘れ去られた国ーー「黄泉」。
金平糖:つ、着いた……!呼子お兄さん、はやく入ってください!うわぁ――
立ち直ったばかりの女の子が急に、再び奮起したつるにつまづかされた。呼子イカはこの時に気づいたーーこの一連の出来事で、彼女の大好きな帽子がひどく傷んだことを。
金平糖:行きますよ!神子様はすぐに追いついてきます!
呼子イカ:君も……一緒に来ないか?すべてが終わってからまた戻ればいいだろう。
金平糖:ううん……「神国」は問題が起きているって最中兄さんが言いました。オーロラも消えそうになっています……「神国」はあたしのお家です、こんな時に離れられません!
呼子イカ:……
密林の枝葉が突然激しく揺れ出し、寒気が近づいているようだ。金平糖はなにか決断を下したように、頭を上げ、真剣な表情で目の前の人を見つめた。
金平糖:呼子お兄さん……出ていったあと、もしまた迷子になったら、頭の上のお星さまを見ましょう!あと、悲しい時、独りぼっちの時も、お星さまを見ると、元気が出ます。
金平糖:この間、ずっと一緒に遊んでくれて、ありがとうございました……
次の瞬間、呼子イカは不意にその異色の景色に押し込まれた。あらゆるものを蝕む黒雨は、ここには届かなかった。
女の子は叫びながら人の半分の高さある木立に転がり込んだ。わざと音を立てて追跡者をミスリードした。気狂ったつるが地面から勢いよく立ち上がり、一瞬のうちに「通路」は絡み合ったつるの壁に閉ざされた。
***
呼子イカ:……
呼子イカ:おチビちゃん、ありがとう……。
15分後
百聞館
闇夜が深まり、百聞館の入り口の紙提灯が淡い光を発している。予想通り、既に客人がここで待っていた。
月見団子:呼子……?やっと帰ってきましたね。
呼子イカ:えっ、月兎?どうして来たんだい……?館主を探しにか?
月見団子:ええ、ですが館長の姿がいないようです……そういえば、貴方は数日の間百聞館に戻っていないと聞きましたが?
呼子イカ:道に迷っちゃっててね、変な場所に行ってしまったんだ。そこの食霊たちがそれを「神国」と呼ぶんだ……
月見団子:神国……?
呼子イカ:ええ。特定の時間で特殊な通路を通らないとそこへは行けないらしい。ちょうど今日通路が開いたから、急いで戻ったんだ。
月見団子:その通路は……どこにあるんです?
呼子イカ:百聞館近くの森の中に……ちょっと待って、月兎、君も行きたいのか?「神国」に……
月見団子:館主はそこに行ったのではないかと思います……数日前、薬師が「神国」と呼ばれる場所からたくさんの薬草を持ち帰ってから、館主もそこに非常に興味を持つようになりました。
呼子イカ:じゃあ……早速行ってみようか?通路が閉じたら、館主はしばらくこっちに戻れないからね。
月見団子:なら道案内を頼みます。
第八章-破壊
壊滅と新生、伴う犠牲と苦痛。
森
神国
黒雨が森に降り注ぎ、緑の葉っぱが瞬く間に焦げ黒く変わった。神国の主はつるを指揮して大地を乱暴に掻き分け、木陰や草叢に潜む足跡を追跡しようとしている。
怒りが彼の両眼を覆い、まるで影が穏やかなオーロラを汚すように、次第にすべてを飲み込んでいく。
必死に逃げるその姿が、狂ったつるによってつまづかれ、地に倒れた。黒雨が鋭い刃物に変わろうとしたとき、一つの叫びが彼の意識を呼び戻した。
瓊子:やめてください!神子ーー貴方の民を傷つけないで……!
互いに支え合いながら、壊された木々の間から出てくる巫女たち。その後ろには驚愕や困惑を隠せない顔が続いて出てきた。
ラムネ:ど、どういうことなの?どうして神子様が金平糖にこんなことをするの……
りんご飴:やばいやばい、怪我しちゃったのかな?はやくこれ解いちゃいましょう!
みんなが議論する中、羊かんは地面につるや棘に絡まれているのが邪悪な侵入者ではなく、小さな女の子だったと、ようやく気がついた。
羊かん:……どうして……私は感じたんだ……あの「声」と似た気配が……彼らは同じ場所から来たんだ……
天沼:神子……貴方には休憩が必要です。
羊かん:だめだ……!あの者たちはまだ捕まっていない。あいつらに私の「神国」を汚されてたまるものか!貴方達には見えていないの?オーロラが消えているんだ……
天沼:……
羊かんのめずらしい失態に二人の巫女は互いの顔を見合わせ、不安が彼女たちの青ざめた顔に浮かび上がった。
瓊子:「神国」は貴方の願いで築かれた国。彼は今、貴方に影響されているんですよ……
瓊子:あの「声」が入り込んだ瞬間、貴方も私たちを同じように……あの気持ちを感じたはず……あれが貴方を変えているんです。
羊かん:違う。私の願いは変わったことがない……「神国」は、いかなる者の踏みつけや汚しも許されない浄土ーー
ゴゴゴゴーー!稲妻が空を照らし、薄暗いオーロラはもろくくだかれた。幽霊のような女性の声が再び現れた。
???:兄様……どうしてまた私を捨てたのですか……?私、こわいよ……
羊かん:……!!!
天沼:……貴方はいったい……誰なのです?!瓊子……瓊子!
???:お兄様、約束しましたよね……?ずっと、ずっと一緒だって……
羊かん:汚らわしい「神国」の侵入者、代償を払ってもらう!
ゴゴゴゴーー!空を裂き続ける稲妻とともに、怒りに満ちた黒雨が再び降り注ぐ。黒雲は影のように神国を包み込んだ。
人々の驚きと悲鳴の中、目に黒い炎を宿した羊かんはすでにその声を追って森の奥へ行った。彼は気づかなかったーー空の巨大な裂け目から、蠢く生き物が激しく湧き出ていることを。
つじうら煎餅:うわあーーっ!神子様やめてください。雨が体に当たって痛いよぉ!!あの黒いものはなにぃ?!
りんご飴:堕神だ……!堕神がいっぱいいるーーっ!みんな気をつけて!
***
黒雨がすべてを溶かし、焦土に降り注いでいる。怪物が吠えながら人々に襲いかかる。最後の一筋のオーロラも汚された。
巫女は目を赤くして必死に地面に落ちた神楽鈴と龍笛を拾い上げようとしたが、無駄な努力でしかなかった。
咆哮を上げる怪物が彼らに向かって襲いかかろうとする瞬間、間一髪で駆け付けた最中が法印でその首を斬り落とした。
最中:瓊子様、天沼様!ご無事か?この怪物たち、いったいどういうことだ……!!
天沼:彼の心神が……乱されました。最初の「願い」が恐怖の色に染められ、破滅の力を呼んでしまいました……
最中:……
天沼:すみません、計画は実現できないかもしれません……今は、「神国」を……みんなを、守らないといけない……どうか、力を貸してください。
最中:わかった。私はなにをすればいい?
瓊子:勾玉です……その力で……空を直します……
最中:だめだ!そんなことしたら、貴方たちは……
瓊子:この方法しかありません。急がないと、羊かんとあの怪物たちが……「神国」を壊してしまいますよ……
天沼:心配しないでください。私たちは体がなくても……ずっと「神国」を見守っています……形を、変えただけです。
最中:……
最中:……わかった。
***
殺戮の音と悲鳴が焦げついた森を充満し、かつて活気に満ちた故郷は血に染まった煉獄となっていた。
ゆらゆらと崩れそうな空の裂け目は、まるで泥を吐き出すようなブラックホールのように怪物をどんどん出してくる。
みんながもう耐えそうにないという時に、森の隅から柔らかな光がゆっくりと昇り、暗闇の空に広がっていった。一瞬、強烈な光が人々の瞳に突き刺さり、怪物は激しく喚き、焦げた土を散らした。
しばらくすると、微かな破裂音とともに、やさしい霧雨が降り注ぎ、涼しい雨のしずくがきれいな光を反射した。
りんご飴:怪物が……消えた?
つじうら煎餅:ほんとだ、みんな見てーー空がもとに戻った、オーロラも!
ラムネ:助かった、のか……?あれ、なぜなのかな……急にいろんなことを思い出したような……
つじうら煎餅:変だね……あたしもよ……あっ、最中兄ぃ?あんなところにひとりで座ってる……ビックリしちゃったのかな……
みんなが互いに見つめ合う中、最中は彫刻のように固まって離れた場所に座り込んでいる。彼の周りには、巫女たちが持ち歩いていた神楽鈴や龍笛、そして輝く勾玉の欠片がわずかに散らばっている。
この時
森の奥
やさしい霧雨が血に染まった大地を洗い流す。カステラは足で動けなくなった怪物に一蹴りを入れ、目を細めて再び輝き始めたオーロラの空を見上げた。
狂暴なつるが既に消え去り、黒雨に侵された森は貧弱で原始的な姿を晒し、細かいことが次第に明確になった。
小道の先のこことはまったく異なる光景や、足元の焦土に反射している小さな輝く欠片など……。
カステラ:……欠片?勾玉のもののようだ。
カステラ:勾玉……フフッ、そうか。無駄足じゃなかったようだね。
カステラがオーロラに向かって手に持つ欠片を回転させ、何かを考えているように微笑みを浮かべた。欠片をきっちり集めて収めた後、彼は立ち上がり、乱れた服を整え、その馴染み深い風景の中へ踏み入った。
最終章-忘却
すべてが原点に帰る。
和室
観星落
静かな和室の中で、鯛のお造りは絶えずに水鏡につながろうとしている。そばの寒ぶりも何度も何度もみくじ筒を振る。
寒ぶり:……二十回占ったが、全部大凶じゃ。鯛のお造り、今日はやるべきじゃないぞ、本当に……
鯛のお造り:私の占い結果もそうだった。さっき何度も出かけようとしたが、邪魔されて……しかし水鏡がずっと反応がないから、「神国」の方でなにかあったのかもわからない。
鯛のお造り:このままだと、向こうの通路が閉じてしまう……
鯛のお造りが眉をひそめて考え込んでいる中、穏やかだった水鏡が突然、映像を浮かべてきた。
最中:状況が変わった。計画を立て直す必要があるようだ……
鯛のお造り:なにがあった……そっちがなぜこんな様子になったんだ?
水鏡の中の最中は苦笑しながら周りを見回す。焦げた大地、満身創痍の森、まるで天災が終わったばかりのようだった。
彼は何か言おうとしたら、遠くから近づいてくる騒がしい音で彼は険しい顔で急いで手に持っていた水晶玉をそっと隠した。
最中:またの機会で説明する。とにかく、近くはそちらでも気をつけておけ……
最中は声の方に向かって枯れ木が横たわる隅から出ていった。みんなが輪となっていろいろ議論しているが、なにやら焦っているように見えた。
みんなの真ん中には、両目を閉じたまま微弱な呼吸をしている羊かんがいた。漂う彼の意識は焦げた大地の上にさまよい、帰り道を忘れてしまった。
***
純粋で光のない暗闇の中、馴染みのある声が聞こえてきた。
???:哀れな人ですね。この国を作った神と自称しているのに……ここのすべてをコントロールできないなんてねぇ。
羊かん:貴方は……誰だ?瓊子か……?
羊かん:いや、巫女たちはもう逝った……彼らの破滅を感じ取ったんだ。
???:そうですね……何もかもが消えてゆきます、隠された未知の中へ……
???:月や、兄様みたいに……みんな突然、なのにとても自然に、消えていきました……
羊かん:……
???:こわいでしょ……?ふふ……これが世界の真実なの、誰も変えられません……
???:全部消滅しますわ、貴方の巫女たちも……今度は貴方の神国の番……
羊かん:黙れ。
???:本当は貴方だってこわいんじゃないのですか……?私に会ってから、貴方は「恐怖」を感じました……
???:わかりますよ、その感じ……闇に喉元を掴まれたように、烈火に内蔵を焼かれるように、逃げられず、自分を救うこともできません……
羊かん:消えろ!貴方になにがわかる……!
???:ふふ、わかりますよ……勾玉が願いの象徴なら、私が「恐怖」。
羊かん:貴方が……私の「神国」に不幸をもたらした。
???:私がもたらしたと言うよりむしろ……貴方の心の奥底に潜む「恐怖」がそれを呼んだのではないでしょうか……
???:永遠に存在できるものは何一つないのです、月すらできません……フフッ、貴方がこの国を創ったときにはすでに、すべてを失う可能性を埋め込んでしまったのです。
羊かん:貴方はいったいなにがしたい?「神国」を潰すつもりか?そんなの許さない……
???:いいえ、破壊には興味がありませんわ……私はただ、絶え間ない「恐怖」を味わいたいだけです……人が強いほど、彼が持つ「恐怖」がよりおいしいのですよ。
羊かん:貴方は殺す。
???:できませんね。なぜなら……貴方には私の力がまだ必要だからです、不幸に遭ってしまった巫女たちの代わりに……
羊かん:……
???:さあ、民のところへ戻りましょう、神子様……苦しい経験をした彼らには浄化を必要としていますよ。
***
昏睡中の羊かんが急速に眼球を動かし、ゆっくりと目を開けた後、目に飛び込んだのが黒焦げになった木々と薄暗いオーロラだった。
手元で異様な触感が伝わり、見やると、そこには精巧に作られた人形があった。
最中:神子様……ご無事だったか?
羊かん:うん……大丈夫。
金平糖:よかった……神子様が正気に戻りました。でも、巫女様たちが……
みんなが悲しみを耐えきれず頭を下に向いた。幼い子供たちはヒソヒソと泣き始めた。羊かんは小さな人形を強く握りしめ、彼の目には何の喜びも悲しみもなかった。
羊かん:大丈夫……
羊かん:よくないことは、私がみんなのために消してあげる。
金平糖:消すって……?!ま、待って……!
つじうら煎餅:だ、だめっ!神子様!せっかくいろいろ思い出したのに……
最中:神子様、とりあえずみんなの意見を聞いてくれないか……みんなは浄化を嫌がっているようだ……
羊かん:いいえ、苦しみは……覚える価値などない。
みんなの意見を聞かずに、羊かんは力強く人形を掲げた。そして、淡い黒い煙が広がっていく。最中は慌てて数歩後ろに下がり、いつもの清明呪を繰り返し唱えた。
***
一瞬の間、焦げた森が急速に元の状態に戻り、人々の顔には戸惑いと茫然が浮かんだ。
金平糖:あれ、なぜみんなここにいるんですか……?
つじうら煎餅:そうだね、おかしいね……全然思い出せないや!
最中:意は散る花のように、流れる水のように、気まぐれな雲のように……
最中:雲のよう……雲のよう……雲が?雲がどうした?
羊かん:よかった……覚える価値がないものは、忘れていいんだ。みんなも疲れたから、帰って休みましょう。
金平糖:はーい。ねえねえ最中兄さん、今日、星がいっぱいですよ!
金平糖:え?あたしの帽子……穴、空いてる?なんで……いつの間に……?
最中:ああ、めったに見ない良い星象だ……行こう、観星台に見に行こう!
雨上がりの森は爽やかな香りを漂っている。人々の心の中の疑念もそれと共に消え去った。安らかなオーロラと星の川がともに、この幻想的で美しい土地をいつまでも照らし続けていく。
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