金平糖・エピソード
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金平糖のエピソード
天然で明るい天文少女、星象を研究することが趣味。人助けが好きで、その優しい性格で多くの友達を作れそうだが、フラグを立てるとすぐにそれを回収してしまうせいで皆に避けられている。その後、館長最中の教えに従い、逆のお願い事をすることで皆に幸福をもたらせるようになった。
Ⅰ.変な館長
「星……星がどうかしたんですか……?全然見えないんですけど……」
あたしは滑り落ちてきた眼鏡を止め、頭を下げて木製の道しるべに書かれた文字を読もうとした。
光がゆらゆらと傾いた道しるべを照らし、ひび割れた文字が一層ぼやけた。
御侍さまが残してくださった手書きの地図と見比べながら、このまま進んでいいのか迷った。
星象館というところは……本当にここにあるかしら?
「……道に迷ったか?」
急に、厳粛な声が聞こえ、花や植物の入ったかごを持った見知らぬ人が現れた。
「はい……そうみたいです。あの、星象館というところを探しているんですけど……」
「最中館長に占ってもらいに来たんだね。どうぞこちらに」
彼の顔は花の茎に隠れていたが、すべてお見通しのような表情をしていた。彼は頷いて、ついて来いという合図をし、道しるべが示す人けのない道へとまっすぐに歩いていった。
「えっ、ちょっ、ちょっと待ってください!最中館長とはお知り合いなのですか?あの伝説の、尊い占星師、最中館長とお知り合いなんですか?」
「尊い……?」
気のせいかもしれないが、目の前にある彼の背中が数秒固まったように見えた……
「ああ……御侍さまがそう仰ってましたけど、何か問題でも?」
「……いや、何でもない。前の坂を登ると、星象館が見えてくるよ」
彼はそれ以上何も言わずに、前方の緑の木陰へと足早に歩いていった。
本当はもっと聞きたかったが、出発時の誓いが脳裏をよぎり、口をつぐんだ。
うかつな発言はしないようにつつしまないと……
彼と一緒に日陰の下の坂を通ると、竹林の中にぞんざいに「星象館」と書かれた看板が現れた。
あたしは少し不安になり、分厚い紹介状を握り締めた。そこには見慣れた御侍さまの丁寧な署名が書かれている。
星象館が目の前にある。
あのすごい最中館長に、あたしを受け入れてもらえるかしら……
「なんですって!最中館長!冗談はやめてください?あんな結構なメスブタが、子ブタ1匹しか妊娠してないなんて、ありえません」
最中館長はどんな人だろうと想像していると、雷鳴のような叫び声で、白いひげを生やした尊い顔がひび割れた。
「はぁ、お気持ちは分かるんだけど、占いの結果はそう言ってるんだよ」
庭に数人のおじさんが集まっている。真ん中にいる青い髪の男が笑顔で何かを説明している。
「数はイマイチだけど、占い結果によると、生産は非常に順調のようだよ。これは朗報でしょ」
「ああ……これがいわゆる神様の指示ということか……」
「落ち込むなよ!運にもバランスがあるのさ。今度こそきっとたくさん生むはずだよ!」
青い髪の男はリラックスした口調で落ち込むおじさんを慰めた。しかしどう聞いても……信憑性がない。
「最中館長!今度は私の番です。いつ種を蒔けば最高の収穫が得られるのか、占ってください!」
「おい、割り込むなよ!次は私の番だ!最中館長!羊が迷子になって帰って来ません、どこに行ったか占ってください!」
「焦らないで!順番を守って!おや、練切、帰ってきたのか?この子は?」
皆に囲まれている青髪の男が、頭を突き出して、何事もなかったかのように、あたしたちに向かって挨拶した。
練切という案内人は、とっくに慣れているかのように、穏やかに部屋に入った。
「最中館長、この子はあなたに会いに来たのです」
「予約してないのか?今日はもう無理かな。ぐぅ……佐藤さん、やめてよ。服が破けちゃうよ――」
「占ってもらいに来たのではありません……あたしの御侍さま、長谷川先生の紹介で参ったのです!」
「君は長谷川の弟子なのか!練切、和室に連れて行ってやってくれ。おい、みんな押さないで、ケガしちゃうよ!」
館長の無力な訴えは、おじさんたちの激しい争いに遮られ、誰も彼の存在など気にしていないようだった。
練切は仕方なさそうに、混乱している光景を見つめた。
「気にしないで……さあこちらに」
あたしは練切を追って廊下に入った矢先、なにやら後ろから、石のベンチから落ちて叫んでいる声が聞こえた。
最中館長は……御侍さまの言っているような方とは違うようだ。
Ⅱ.壊れた花瓶
静かな和室で熱いお茶を何杯も飲んでいると、退屈でお尻の下にある柔らかい畳の座り心地も悪くなってきた。
しかし、あたしの目の前にいる練切は、相変わらず花瓶の中の花の手入れに集中している。
「あのう、練切さん……」
抽象的な形になった生け花をしばらく眺めると、あたしはお茶の渋みのついた唇を舐め、躊躇った末に質問することにした。
「館長さんは……毎日のように、あの変な占いをなさってるんですか?」
「館長はああ見えても、占いの収入で星象館の切り盛りをしてるんだ」
練切はあたしに目もくれず、もくもくと松柏の枝の位置を調整している。
「うっ、そうなんですか……最中館長は御侍さまよりも年上の威厳のある年配者の方だと思っていましたわ……」
あたしは独り言を言って、雑談する気持ちを抑えるために、お茶をもう一口飲んだ。
練切は黙って、最後にカットした花の枝を花瓶に入れ、丁寧にハサミを置いた。
なんだか分からないけど、傾いた花たちは急に美しく見えた。
「へえ、すごいですね……練切さん!花があっという間に上品になった感じ!」
あたしは思わず叫んでしまった。繊細な花が褒め言葉を理解したかのように優しく揺れ、練切の厳しい顔に、珍しく和んだ笑みが浮かんだ。
「花道にはいろいろこだわりあるんだよ。興味があれば、今度教えてあげるよ」
「花瓶に入れた花は、どれくらい生きられるのですか?」
練切の熱心な表情を見て、あたしは遠慮なく質問した。
「花に霊力を入れたから、外力に破壊されない限り、冬まで咲き続けるよ」
「おお、そういうことですか!じゃあ、この花瓶は割らないように慎重に置かないといけませんね……」
言い終わるやいなや、あたしは急いで口を覆った。嫌な予感がまた、冷たい風のように私の体を駆け抜けた。
しまった……
また余計なことを言ってしまったようだ。
「金平糖、気分悪いの?」
練切が心配そうにあたしを見て手を伸ばしてくれた。するとその広い袖が斜めに伸びた花の枝にかかった。
ポン。
すべては一瞬の出来事だったが、私の目にはスローモーションのように遅かった。
透き通った磁器の花瓶が割れてしまい、水が畳を濡らし、花の枝は乱雑な絵筆のように床に散らばった。
不運が……またあたしの口から出てきた。
「ご……ごめんなさい……」
美しく優雅だった生け花がたった今壊れてしまった。あたしは罪悪感で頭を下げた。これは練切が数時間かけてやっと作ったものだったのに……
「気にしないで、私の不注意だ、あなたのせいじゃない」
練切は床に散らばった磁器の破片を拾い上げ、非難の言葉を言わなかったが、あたしはそれを聞いて、スカートを一層強く握り締めた。
これは……聴き慣れた言葉だ。
「大丈夫だよ、金平糖、あなたのせいじゃない……」
「たまたまだよ。あなたのせいじゃないから、そんなに緊張しないで……」
「あなたのせいにするわけがないじゃない。自分の不注意だよ」
ぼやけた顔が目の前に重なり、記憶の中で聴き慣れた声が練切の言葉を遮った。
彼らはあたしの頭を撫でながら、腰を屈めて私の涙を拭ってくれた。
しかし……徐々に彼らは遠く離れた隅に立ち、見慣れない目つきであたしを冷たく睨むようになった。
「おい、新人……彼女に近づかないほうがいいよ」
「疫病神……いつも悪運をもたらす」
「先生は優しすぎるんだよ……彼女の一言のせいで、足を骨折してしまい、動けなくなった!」
……
「ああ、今日は珍しく、客がたくさん来てくれた。ようやく終わった!みんな、一緒にご飯食べに行こうよ!」
障子の外から活発な声が聞こえてきた。引き戸が押し開けられるとともに、その声が大げさな叫び声になった。
「わあ、何が起こっているの!練切、君が金平糖をいじめたのかい?」
「わたし……」
「泣かせちゃったのかい!いつものように厳しい顔で、怖がらせたのか?」
「これは……私のさっきの話し方で誤解させたかも。ごめんなさい、金平糖」
「なんだ、誤解か?金平糖ちゃん、泣かないで、もう練切を叱ったから」
耳元の声がそよ風のように、重なり合う幻の情景を吹き飛ばした。午後の光が和室に差し込み、頼りなさそうな館長が笑いながら親切に私を見つめていた。
「とはいえ、練切は厳しそうに見えて実はいい人なんだよ」
「ち……違います。あたしのせいです」
「まあ、長谷川から聞いてるよ。これから、あなたも星象館の一員だね」
「でも……」
「わかったよ。一つだけ覚えておいてもらいたい。星象館のみんなは家族同然なんだ。だから自分のせいとか、彼のせいとかいうのはなしだよ!」
Ⅲ.悪運と才能
星象館の夜は特に平和だ。
階段に座って夜空を眺めると、星が空に並び、何気なく秘密と予言を明らかにした。
星象によると、今日は何でもうまくいかない日のようだ……
「金平糖、夜遅く、星を見ているのかい?」
気だるい声がゆっくりと伝わり、しばらくすると、声の主がやっと暗闇からゆっくりと歩きだした。
「館長さま……」
「そんな水臭い呼び方はしなくていい。最中お兄さんでいいよ!」
彼はあたしの隣に座り、しばらく袖の中を探り布袋を取り出した。
「女の子はみんな、お菓子が大好きらしい。どうぞ。毎日楽しくいられるといいね」
「ありがとうございます……最中お兄さん」
色とりどりの小さな飴が口の中でとろけ、心の苦みを一瞬で消し去った。
静かな庭は真っ暗で、飛び交う数匹のホタルが、輝く星のように芝生に落ちた。
「そうだ、長谷川の手紙は読んだよ。貴方はとても特別な子だと言ってた……」
しばらく星を眺めていた後、最中お兄さんは姿勢を変え、ドア枠の前に半分身を乗り出し、雑談のように何気なくあたしに話しかけてきた。
「……その通りです。あたしの周りではいつも悪いことが起こるんです」
あたしは頭を下げて、袋いっぱいの真珠のような飴を見て、口の中の甘みも酸っぱくなってきた。
「兄弟子が長い旅に出る時、彼に気をつけて行ってらっしゃいと言ったら……家を出たとたんに土砂崩れに遭遇して、危うく命を落とすところでした」
「占星術の試験の直前、良い成績が取れますようにとみなさんに言ったら、みんなが発熱や下痢になり、やむを得ず試験を欠席することになってしまいました」
「御侍様還暦を迎えた時、ご健康を祈りますと言ったら、彼は訳もなく転んでしまい、長い間ベッドで休んでいました……」
「そして今日も、練切さんの花瓶も……私の発言のせいで割れてしまいました」
……
最中お兄さんは何かを考えながらじっと聞いていた。
「不思議に思えるが、本当に偶然ではないのか?」
「最初、みんなもそう言ってましたが、不吉なことが次々と起こるので……偶然ではないという結論になりました」
「不吉な人といってみんなあたしを避けるようになりました、御侍さまを除いては……でも、前回御侍さまが転んで以来、体調がどんどん悪くなっていて」
泣きながら鼻をすすっていると、ホタルが手に飛んできて、手のひらの飴をやさしく暖かく照らした。
かすんだ視界の中で飴が幻となり、御侍さまの優しい顔が浮かび上がり、柔らかく温かい光を放っていた。
「金平糖、私も年だ……遅かれ早かれ、貴方の世話をできなくなってしまう」
「ここでの生活は愉快なものではないことは分かっているよ。でも貴方のせいではない……貴方ちょっと特別な子だってだけさ」
「貴方にもっと合った場所があるはずだ。そこには貴方と同じような食霊が住んでいるし……よりすごい占い師もいるんだよ」
ホタルは飛んでいくと、ぼやけた画面も消え、チラチラと温かい飴に溶けていった。
御侍さま……星象館を見つけることができました。でも前のように初日にトラブルを引き起こしてしまいました。
不運をもたらすだけの才能は……変える方法がないようだ。
星象館のみんなもだんだん、私のことを嫌いになっていくのかなぁ?
「実は…それほど深刻なものではないと思う。もしかしたら、何らかの方法でその特性を変えられるかもしれないよ」
最中お兄さんが何気なく手を差し伸べると、無方向に飛んでいたホタルがその指先に止まり、あたしの混沌とした思考も一瞬止まった。
「……本当に変えられるのですか?」
「もちろんさ。この世界のあらゆる問題はすべて解決できる。私はそう信じている」
「物事がいつも貴方の期待に反してしまうなら……逆のことを言ってみようか?」
「逆のこと?」
「その通りだ。いわゆる逆言霊さ!私を対象に試してみようか?」
「え……?」
逆言霊……あたしは突然ひらめいて、期待の表情を浮かべた最中お兄さんを見上げた。
「それでは……最中お兄さんが明日、占い代金がもらえないように!」
「はぁ……これでいいの?明日、うちの庭が占いの客に踏み荒らされそうだわ……」
最中お兄さんの笑顔は、出会った頃と変わらなかった。何気なく、頼りなささえ感じさせたが、この瞬間は、なんとも言えない温かさと安心感を与えてくれた。
あたしも思わずつられて笑った。びっくりしたホタルが羽ばたき、遠くへと飛んでいった。
Ⅳ.祈りと助け
「最中館長、私の番ですよ!先月に予約してるんですけど」
「なら、なんで今日に来たのよ!昨日の夜に予約したんだから、私が先よ……」
「おい、部屋の中はどうなってるんだ?列がぜんぜん動いてないぞ!」
星象館は早朝から大賑わいだ。まるで一番の市場のようだ。
あたしは朦朧とした目をこすり、混み合った庭をぼんやりと眺めた。その一方、庭の外の長蛇の列はすでに数キロ離れた坂まで伸びていた。
「ねえ、金平糖、見たかい?逆言霊の方法は効果があったみたいだよ!」
人の波の中で、最中お兄さんはみんなを引き離して、あたしに元気よく手を振っていた。しかし、すぐに次なる波に飲み込まれた。
逆言霊の方法は……効果があった!
彼の耳をつんざくような言葉は、まるで砕氷船のように、心の氷を割り、まばゆい結晶があたしの心の片隅を照らした。
ウソじゃない……最中お兄さんの言ったとおり。逆言霊の方法は本当に効いたんだわ!
「いったいどういうこと……今日のお客さん、ちょっと熱狂的じゃない?」
空の花かごを抱えた練切は、人だかりの庭を見て、戸惑いながら和室を出ていった。
「生け花用の花を探しに行くんですか?」
「うん……そうだけど。昨日の花瓶の件は、本当に気にしなくていいよ」
「よかった!全然気にしていませんよ!醜くて変な花がたくさん取れますように!」
「なんだって?」
「早くいってらっしゃい!ほら、あのへん人が少ないですよ。今なら通れます!」
あたしは、訳が分かっておらず、固まっている練切を強く押した。人ごみに反対方向に押され、星象館を出た彼を見て、あたしは満足そうに笑ってしまった。
予想通りなら……今日彼はみんなを驚かせるほどの花を持って帰ってくるはず。
……
夕暮れ時、木陰の蝉の鳴き声が、ようやく庭に集まっていた人の声より聞こえるようになった。
階段に座っていたあたしもゆっくりと目を開けた。
客人たちが引き潮のように、足跡だけ残して静かに消えていった。
「ふぅ……やっと終わった!」
最中お兄さんは、斜めに引っ張られた襟を正し、ほっと一息ついた。
「金平糖ちゃん、貴方のおかげで、今日はいつもより3倍以上の占い代金を稼げたよ」
「ふふ……今日はだいぶ疲れたようですね。明日は、庭が埋まるほどのお客様を迎えますようってお祈りしておきますよ!」
あたしは少し恥ずかしそうに舌を出して祈りをした。
「すみません……ここは星象館ですか?」
最中お兄さんがあたしの頭を優しく撫でて、何か言おうとしたとき、半分閉まったドアの外から老人の声が聞こえた。
「星象館の館長の占いがとても当たるとお聞きしてやってまいりました……占っていただけないでしょうか?」
「仕事はまだ終わっていないようね……お入りください。ここにおすわりください!」
夏の夕方の天気は不安定で、瞬く間に暗雲が星象館の上空を覆い、その雲の奥で雷鳴が轟いているようだ。
もうすぐ雨が降りそうだわ……
あたしは階段前の屋根の下に立ち、暗い空を見上げた後、また庭に座っている二人に目をやった。
最中お兄さんが顔をしかめている。一体どんな占断結果がでたのか?
「最中館長、教えてください……妻の病気は治りませんか?」
「すみません……何度も占ったんですが、確かにいい卦象ではありません」
「ああ、やっぱり……」
老人は震えながら目の前の杖を握り、暗く重苦しい沈黙が庭を包んだ。
あたしは口を開いたが、何も言えなかった。今日習ったばかりの逆言霊が喉の奥に引っかかった。
あたしの言葉は幸運と偶然の出会いをもたらせるが、人間の寿命を変えることはできない。
まして、老人の寂しそうな表情を見ていると、縁起の悪い言葉はどうしても言えない。
「館長、ありがとうございます……そろそろ市場へ和菓子を行かなければなりません。出かける前に妻と約束したんです……」
老人がうなずいて、つぶやきながら立ち上がろうとした矢先、大きな雷が落ちた。
「ちょっ……」
最中お兄さんが声をかけようとしたとき、あたしが先に声を出した。
「待って、おじいさん!もうすぐ雨が降ってきますよ。その和菓子屋の名前を教えてください。あたしが買ってきます!」
……
夕焼けが消える前に、雷雨はすぐに止んだ。鮮やかな夕焼けが空に広がり、かすかな虹が出ていた。
ずぶ濡れのあたしは夕日を追いかけるように、星象館へ戻った。懐から食料箱を出して、最中お兄さんに手渡すと、彼は頷いた……
「金平糖、髪を乾かしなさい、風邪をひかないようにね」
誰かが扉をノックする音で、あたしは現実に戻った。
「おじいさんは?もう行ってしまったのですか……?」
「うん。手伝ってくれてありがとうと、君に伝えるように言っていたよ」
「あたしにできることなんて、これくらいしかありませんから……最中お兄さん、一つわかったことがあります……」
あたしが丁寧に最中お兄さんを見つめると、彼は真剣にうなずき、話を続けるよう励ましてくれた。
「どんな祈りでも不適切な場合があります。言葉で願いより直接行動するの方が……」
「これも……ほかの人の願いを叶える一つの方法なんだって」
「なんだか、今日の金平糖ちゃんは、いつもと違うね……」
最中お兄さんはわたしの頭を撫でて、安堵と感慨を込めた笑顔を見せた。
「うん……分かった。金平糖、成長したのね」
Ⅴ.金平糖
桜の島の人里離れた山奥に、未来の吉凶を占う「星象館」があると言われている。
館長の最中は偉大なる陰陽師に師事した天才占い師で、世の中のどんな難解なことでも、彼の占いですべてが解けるのだ。
冠婚葬祭、病気、金運、ギャンブル運から、天気予報、落とし物探し、旅の吉日まで、どんなことでも占える。
手頃な占い料金で、館長は客の質問に丁寧に答える。
しかし、かつて有名だったこの星象館も、いつの間にか、人々に忘れ去られてしまった。
やがて、占いと天体観測に精通したあの館長の名前を知るものはいなくなった。
彼と山の中にある星象館は、どこかに消えてしまったようだ。
……
神国。
華麗なオーロラは太陽や月のように万物を照らし、決して落ちることはない。
永遠のオーロラは時間の変化の概念を消し去り、光が明るく輝くときを昼、明るい星が現れるときを夜と呼ぶようになった。
晴れた夜には、星が黒いベルベットの上にこぼれた小さな宝石のように、美しくカラフルなオーロラを反射する。
そして、この幻想的な美しい星空に浸った人々は、あまりにも多くのことを忘れてしまっている。
「最中お兄さん、特別な星を見つけたんです……ほら、あれです!」
広い展望台で、金平糖は柵の前でつま先立ちで立ち、ワクワクして遠くの空を指差した。
彼女の後ろの石テーブルにいた数人が一斉に彼女の指差した方向に視線を向けたが、見えたのはほんの一瞬の赤い跡だった。
「あれ、流れ星か?一瞬で消えちゃったね……」
「うっ、あまり良い星象ではないようだ」
最中は盃の酒を飲み干し、用意しておいた占い道具を取り出し、石テーブルの上に広げた。
カチャカチャという音とともに、案の定、そそっかしい館長が盃と箸をひっくり返した。酒が練切の服にかかり、不機嫌な表情になった。
「もう最中館長……」
「しー、練切、最中館長占いに集中していますよ」
長い説教が始まる前に、最中に主導権を握られた。練切は仕方なさそうにため息をつき、またかといったようなそぶりで片付けだした。
「今日の星象は確かに少し変ですね。一部の星の位置が変わっています!」
金平糖がパンパンと手のホコリ払いながら飛び降りた。彼女の指は、柵のホコリで真っ黒だった。金平糖が石テーブルに近づき、黒い手を伸ばして皿の中の和菓子を取ろうとすると、練切が厳しい顔で行動を止めた。
「……最中お兄さん、占いの結果はどうなっていますか?」
金平糖が練切に渡されたハンカチを受け取ると、練切の厳しい表情を見て、彼女はそそくさと指を一本一本丁寧に拭き始めた。
「不穏な兆しだ……」
最中は卦象を見つめ、その表情は徐々に真剣になってきた
「不穏な兆し?」
「ちょっと……急用を思い出した。みんな、私のことを気にせず続けてください」
「えっ?最中お兄さんは……明け方まで星を見るって言ってなかったっけ?」
暗闇の中に消えていった最中を見て、金平糖は首を傾げ、困惑しながら手に持っていた和菓子を一口食べた。
「練切さん、……最中お兄さんはきっと、水晶玉で遊びたいから、帰ったんですよ!」
「水晶玉……?なにそれ?」
「ある日、夜中に星を観察した後、最中お兄さんのところに行ったら、変なボールと話しをしてたことがあるんです!」
金平糖は一度話を止め、丁寧に声を小さくした。
「あの光るボールの中には……最中お兄さんと会話している小さな人がいるようです!まるでおとぎ話に登場した魔術師の水晶玉のようです」
「……」
「魔術師の水晶玉……?『バラの魔女と水晶玉に閉じ込められた恋人』ですか?」
優しい声が聞こえ、最初から本に没頭していた花びら餅が真剣に尋ねた。
「うっ、すっかり忘れてしまいました。花びら餅お姉さんもいるんですね。バラの魔女、水晶玉に閉じ込められた恋人ってどんなお話ですか?聞きたいです!」
「ああ、これは魂を揺さぶる魔法の伝説だよ……伝説によると、薔薇の魔女は異世界と交信できる魔法の水晶玉を持っているそうだ。ある日……」
物語に没頭する二人に、練切は静かに熱いお茶を注いだ。夜が深まり、オーロラの中で星が瞬いた。
そして、誰も気づいていない星空の片隅で、淡い赤い跡が静かに横切り、一瞬のうちにまばゆいオーロラの中に消えていった。
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