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カマルアルディン・エピソード

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カマルアルディンのエピソード

掴みどころがない少年、いつも不吉なオーラが身を纏っている。人の心を見透かせるようで、自分を人の「心の影」と名乗っている。本当は力で身を隠して人を観察しているだけで、理知的で人の心を読むことに長けている。損得に敏感だが、心はまだ子どもで、些細なことで大喧嘩したり、口が悪く人を小馬鹿にしたりし、他人からは良い子なのか悪ガキなのか区別があまりつかない、自分の心に反することは絶対にしない性格である。

Ⅰ.公平の取引


「本当にこの水を手に入れるために、どんな代償を払っても構わないの?たとえ、最も危険な呪いにかけられても?」


「も、もちろんです!」


私はコトカケヤナギの木の粗い幹に横たわり、木の下にひざまずいている切実な男性を見て、楽しく足を揺らした。


もちろん、男は私の楽しさに気づかなかった。なぜなら、この瞬間、彼には粘り強い砂漠の木と、彼の空想が生み出した「神」である私しか見えなかったからだ。


「水がなければ、私は死ぬし、家族も死ぬでしょう……どうせ死ぬのだから、呪いをかけられてもかまわない。この一人もいないところではなく、家族の隣で死にたいのです!」


「家族?ははは、その言葉気に入ったよ!やるよ、この水はもうあなたのものだ」


どかんと古い水筒が砂に投げつけられた。すぐに砂埃に覆われたが、男は宝物を発見したかのように、急いでそれを拾って抱きしめた。


彼は喜んで灼熱の太陽を見上げ、水を入手したことを感謝するため、会釈した。


「ありがとうございました!本当にありがとうございました!じゃあ……呪いは……」


「呪いなんてないよ。今のはちょっとした試練だ。貴方が本当に家族を一番のお宝だと思っていたら、神はきっと守ってあげるよ」


男は笑いのあまり泣き出しそうになり、何度か額ずくと立ち去ろうとした。

私は急いで彼を呼び止めた。


「光るのはゴールドだけではない。毒蛇の牙の可能性でもある……もし困ったことがあったら、私のところに来ればいい」


男はその場に立って、私の言葉の意味をしばらく考えていた。最後には何度も感謝の気持ちを表し、走り去った。


それから、一日、二日、三日経ったが、男は二度と現れなかった。


代わりに女性の食霊が会いに来た。

「誰かを待っているかしら?」


おそらく私の目に失望を感じたのか、彼女は眉をわずかに上げて尋ねてきた。砂漠の真ん中に立っているのではなく、水晶の王座に座っている女王のような口調とオーラだった。


「ああ、3日前に私から水をもらった男を待っている」


「報酬を持ってくるのを待っているの?」


「いいえ……」


彼女は顎を上げて、私に続けるように合図した。


その態度がとても不愉快だったので、私は答えるつもりはなく、木の幹から飛び降りた。この女、私よりも高いのかよ。


「お前も、あの伝説の神を探しに来たのなら、諦めたほうがいい。神はお前たちを見捨て、もう旅に出てしまった」


「神ではなく、あなたに会いに来たのよ」


私は足を止め、戸惑いながら首を傾げて彼女を見つめた。


砂漠の真ん中で人々に命の源、ここで最も貴重な水を与えると言われている「神」は、目には見えないのだ。


初めて会うのに、人間が捏造した、やつらをからかう神が私だということは知らないはずだ……


「あの男にあげた水は、おそらく城から盗んだ水なのでは?」


おお~、「城」の人だったんだ。

私は思わず口角を上げてしまった。


「城にとって、ちょっとした水は大したものじゃないと思ったが、アビドスの数少ない食霊まで手を貸したのか?」


「城にとって水は確かに大したことじゃない。水の他にも、毒の入った瓶も盗んだんでしょう?」

「あれは私のものだ」

彼女は私に手を差し出した。私が直ちにその瓶を彼女に渡すと思っているようだ。


「残念なことに、毒物はすでに水とともにあの男のお腹に入った。おそらく、失禁により、空気中に蒸発したかもしれない」


「貴重な水を与えたのに、その水に毒を入れたの?」


「あいつ、私に嘘をついたから。家族のために水を求めに来たと言いつつ、自分で飲み干した。飲んだのが家族だったら、家族が中毒になり、やつは解毒剤を求めに私のところに来るはずだ……あの日、やつはとても元気だった。もしかして家族の血を飲んで、生き残ったのかもしれない」


「家族と一緒に水を分けて飲んで、中毒になり全員死んだという可能性もあるじゃない?死んだから来られなかったのかもしれない」


「いや、皆に分けて飲んだら、死なないよ。毒の量が少ないんだから絶対に私を騙したんだ。水をいっぱい飲んで、もがいて炎天下で死んだはずだ」


私は腰に巻き付いた赤いガーゼを外して体にかけ、微笑みながら徐々に彼女の目の前から消えていった。

「別の種類の毒も入れたんだ。ほんの少しだけで、飲んだ人は煉獄のような3日を過ごして死ぬのだ」


「あの男が嘘をつこうがつくまいが、結局死ぬはず。そんな強い毒を持っていたら、なぜ私の毒を盗んだの?」


目の前の空気に質問した彼女を見て、私は満足してその誇り高き頭の上に漂った。


「しょうがないよ。すごく興味を持ってるから……毒を使って尊い城主の命を奪おうとする者は、一体何者なのか、何のためなのか?」


「教えてくれれば、残りの半分の毒を返すよ。どう、公平でしょう?」


脅威を前にして、彼女の目には徐々に危険な影が差した。

しかし意外なことに、彼女は怒らず、かえって自信げな笑顔を見せた。


「私から提案がある。毒を私に返してくれたら、その変わりにカターイフを救けてあげるよ。どうだ?」


ひさしぶりにその名前を聞いて、私は固まり、手に持っていた短剣をゆっくりと彼女の首へと移動した。


命が危険だって感じたものの、彼女は嫌いな笑顔を止めなかった。

「あなたが自ら彼を城に送ったんだよね?彼がこのまま死んでも構わないのか?」


「……」

私は不機嫌に赤いガーゼを外し、木の上に座り、彼女の足元に横たわっている木片を短剣で指した。


「じゃあ、座って話しましょうよ。迷惑な食霊め」


Ⅱ.邪悪な神


カターイフのバカに出会う前、私はアビドスのスラムに住んでいた。


スラムは王都メンカウラーから遠く離れた砂漠の中心に近くにあり、烈日と灼熱の黄砂だらけの環境で、生死の境を彷徨う人間が多い。


従って、私が毎日やるべきことは、脱水で死にそうな人に水を与えて生き返らせる。そしてやつらをオアシスがあるとダマして、やつらが砂漠の中央で死んでいくのを見届けることだ。


「それは……意味があるの?」

めまいをした御侍は乾いた唇を開いて尋ねた。


そこで私は彼に砂を撒くのをやめ、シャベルの柄に顎を乗せて彼を見下ろした。


「まったく意味ないよ。貴方の言いたいことは分かるけど、残念ながら、人間をからかうことは楽しいと思わない。それは至って普通のことだ。人間はいつか死ぬし、神はその死に嬉しさを感じたり、意味のあることだと思うのか?」


御侍は答えなかった。神にとって、それはまったく意味のないことだと、彼ははっきりと分かっている。それでも神は人類がいつ、どんな悲惨な方法で死ぬのかを決めるのだ。


そして私は生まれた頃から人間より強かった。この灼熱で乾燥した荒野でさえ私を制することができない。私はここの主、すべての上に立つ神だ!


こんな私に人間を守ってくれ、人間に仕えろって言うの?冗談言わないで。始まりの神でも笑えちゃう。


だから御侍が死ぬ前に、墓を用意してあげたのは、私の最大の慈しみだ。


「もしかしたら、堕神もそう思っているかもしれない……」

御侍は死に際にため息をつき、冷静に最後の言葉を残した。


「いや、堕神とは違うよ。堕神が誰かに殺されるとき、きっと恨みの念を持って死んだでしょう?」

「でも、たとえ私はいつか誰かに殺されたとしても、死ぬことは誰もが経験することだ。今度は僕の番になったとしか思えない」

「この世界はそういうもんだ。輪廻転生、同じことを繰り返すもんだ。つまらないでしょ?死ぬ前にこれがはっきり分かったら、死んでも惜しくないよ~」


穴が埋まる前に、飢えと渇きに勝てなかったこの人間は永遠に目を閉じた。


私はため息をつき、彼の熱い額をそっと撫で、黄砂に埋もれていなかったその頭の上に、まだ花を咲かないサボテンを置いた。


御侍のいない人生はより自由で、より虚しくなった。また長年我慢して、ようやく「死」を迎えた。


それは飢えのあまりに、生存欲が最大に引き出され、攻撃力も数倍強化された堕神だ。私は不注意で首を噛まれてしまった。でもお返しとして、私もやつにトドメを刺した。


傷の治りは霊力の流失により、はるかに遅かった。霊力の加護がなくなると、徐々に高熱が内臓に侵入し、窒息するような灼熱の痛みを引き起こした。


これが死の感覚か?

やはり、この痛みは小さいサボテンだけでは和らげることはできない。


私は目を閉じて、すべての感覚が消える瞬間を静かに待っていた。


その時、突然何かが空から落ちてきて、勢いよく私に当たった。


激痛により、心臓が高鳴り始めた……私は思うように死ねなかった。


不本意ながら目を開けると、若くて愚かな顔が近づいてきた。


「すいません……ちょっと転んでしまった……あなたは大丈夫だったか」


彼のほうが状態がひどかったため、私は叱る言葉を失った。


見知らぬ食霊は瞳孔が開き、目の焦点が合っていないが、それでも私を気にかけてくれている……

なんてバカなやつだ。


不思議に私もやつをからかう気になり、死にそうになったと言った。


これを聞くと、彼はもがいて立ち上がった。意識が朦朧として死に際を彷徨っていても、私を助けようとした。


「……じゃあ、水をくれ。喉の渇きで死にそうだ。水があれば延命できるかも」


それを聞いて彼は少し白目をむいて、真剣に考えだしたようだ。

すると、私は生涯忘れられない光景を目にした。


その男は、地上に落ちた、堕神を殺した短剣を拾い上げ、丁寧に汚れを拭き取り、手首を軽く切った。


真っ赤な雫は空に照りつける太陽よりも熱く、私の口の中に流れ込み、喉を通って、窒息するような灼熱の痛みを和らげた。


「一人しか助からなくても……いいんだ……」


こもった声を聞くと、血を失いすぎた食霊がどかんと地面に倒れた。それはスラムで毎日のように起こっている光景で、ごく普通のことだ。


でも、私にとっては珍しいことだ。


自分を犠牲にしても悪者を救う?なんてベタでドラマチックな展開だ。次は私がお返しする番か?態度を改め、全力で彼を救う?


大切だ!そんなの、当たり前じゃないか!


態度を改めるのは不可能だが、気が進まないながらも食霊を背負って、炎天下で砂漠の中心を離れ、王都メンカウラーを目指した。


メンカウラーを囲む塀の外で、私は簡単に水源を見つけ、半死半生の男をそこに放り込んだ。最初は窒息死しそうになったが、一応生き返った。


でも死にゆく人たち、最後に本当に死んだ人は、一生水を求めて生きているが、半日歩けば辿り着ける、同じくスラムと呼ばれた場所に


烈日と黄砂の他にも数週間ごとに降る雨があることを知らなかった。

十分な水源を確保するために、誰もが貧しい人たちにこの情報を教えなかった。


アビドス全体が神に見捨てられたわけではなく、スラムの中のスラムに住む人々、つまり真の貧しい人々だけが見捨てられたのだ。


「あの貧しい人々の中でも、瀕死になると食霊を召喚できる人がいる。でも……」


私は指を伸ばして、空を指した。


「彼らは利益関係のある人だけを気にして、ほかの人を砂漠に放っておいた。資源が限られているのに、人はたくさんある。命は偉いさんたちにもどうでも良いことだ」


しかし、私は奴らと違う。


私は貪欲な王族ではなく、他人の生死を決める権利を持つここの神だ。


たとえこの全てが、あの愚かな食霊が私に自分の血を与えているのと同じくらい無意味だったとしても。


そこで私は再び意識が完全に戻っていない食霊を背負って、砂漠の蜃気楼のような宮殿にやって来た。


赤いガーゼで姿を隠すと、私は食霊を兵士たちの前に投げつけた。そして彼が慎重に連れ去られていくのを見守った。


その時、やっと兵士たちの尋問から、その素朴で愚かで幸運な食霊の名前がカターイフであることを知った。


Ⅲ.愚かな救い

(登場人物のクシャーリは恐らくコシャリの誤翻訳だと思われますのでここでは「コシャリ」表記に統一します)


「王室は強くて健康な若者を募集していると聞いたが、その大げさな振る舞いから判断すると、従者を募集するほど簡単なものではなかったんだろう」


「王宮に住んでいれば、たとえしかとされても、暴力を振るわれても、なんとか生きていくことはできる。だからカターイフをそこに送った」


それを聞いて、黙っていた私の向かいに座っていた食霊のコシャリが頷いて話し始めた。

「あなたは人をからかうだけの悪人ではないようね。皆を救えないと分かっているなら、無駄な努力なんてしないのでは?」


「勝手に決めつけるな。誰もが良い人になりたいわけではないし、ただ、楽に暮らしたいんだ。それが善か悪かとは関係ない」


「なるほど……カターイフを王宮に送り込んだら、目障りな存在が消えるから、確かに楽になるわね」


もう一度その名前を聞くと、私はイラっとしてきた。コシャリの偉そうな顔を前にすると、一層不快に思った。


「で……彼を王宮に送り込んで、何の問題があるの?またお宝みたいに、丁寧に城に送られ、王子になったのではないか?「彼を救う」はどういう意味?」


「ふん、炎天下で数多の人が亡くなったというのに、何事もなかったように水源を占領し、砂漠で唯一オアシスを有する城を作った王室……やつらがあなたよりもやさしい存在だと思っているの?」


コシャリの言葉から怒りを感じたが、私に対する怒りではないようだ。

城の方向を見つめる彼女の姿は、まるで鋭く硬い石のように見え、すべてをかけて共倒れになる覚悟をしているようだ。


「あなたが救済だと思っているかもしれないけど、実は自ら彼を絞首台に送ったんだ……愚かな食霊」


「はあ?!」


アビドスで長年悪事を働いてきて、数え切れないほどの人に狂人、クズと呼ばれたが、愚かと評価されるのが初めてだった。


傲慢なやつ……何様のつもりだ?!


私は思い切って、手に握った赤いガーゼをコシャリの首に投げつけた。もちろん100%の殺意を込めた。深く考えるのが好きじゃないから。


城に隠された秘密とか、カターイフを救う方法とか、この女を殺してから考えよう!


「ニャーニャー」


しかし、私の攻撃は中断された。どこからともなく黒猫が飛び出してきて、赤いガーゼの反対側に噛み付いた。

コシャリの伴生獣のようだ。牙を剥いた姿はチーターのように獰猛に見える。


「バスト、戻ってきなさい」


主の命令を聞いた伴生獣は、しばらく躊躇したが、おとなしくコシャリの元へ戻った。


「喧嘩するためにここに来たわけではない。どうしても喧嘩したいなら、……私の話を聞いてからでも遅くないわ」

「とても公平でしょう?だって、私もあなたの話をずっときいていたのですから」


私は一応同意した。単なる話だから、大したことではない。


しかし、結局コシャリは嘘つきだということが判明した。まったく公平ではない。


彼女の話がティアラの誕生から、とてつもない長かったから。




始まりの神がティアラを創造したことは、ほとんどの人が知っている事実だ。


この星上のすべての命は始まりの神が生み出したのだが、最初から平等ではなかった。


神が適当に手を振ってできたボロボロの山河もあれば、完璧さを求め、試行錯誤して丁寧に育んだ命もある。


そして彼は明らかに丁寧に育てられた命のほうだ。


始まりの神が最初に生み出した食霊として、彼は究極の「善」、聖潔、輝き、純粋無垢を代表火、始まりの神とティアラの架け橋であり、創世神の唯一の使者だ。


彼は至高無上の権利と地位を持ち、すべての生き物が彼を愛し、尊き、憧れている。


でも彼にとっては、渓流だろうが海だろうが、窪地だろうが山だろうが、花だろうが棘だろうが、鳥だろうが獣だろうが……


この世のすべては、始まりの神の気まぐれに作り上げられた楽園に過ぎない。


どんなに美しい命であっても、神が手を挙げれば万物は成長するが、神が掌を返せば全ては滅びてしまう。


彼は自分を1つの命だと考えなかった。彼は「善」の化身なので、強いて言えば「善」の文字が刻まれた美しい石碑に近い。


虚しさと寂しさは「善」という殻の中で、ゆっくりと延々と大きくなっていく……


ついに「悪」の化身が誕生した。


それはまた神の気まぐれだ。神の加護を受け入れる生命を威圧する必要もある。この世界にはいわゆる「バランス」が不可欠だから……


しかし、「悪」の誕生は、予期せぬ形で運命的に、「善」にこれまでになかった、創世神ですら与えられなかった新鮮な活力を与えた。


しかしある日、神は「善」に「悪」の撲滅を命じた。


神は行動の理由を誰にも説明しない。「善」にも同じだ。

しかし今回、「善」は自分を作り出した主に従わなかった。


始まりの神が混戦に陥ったティアラに疲れて、深い眠りについた後、「善」は自分に体を奪われた「悪」の魂を丁寧に集めた。


これから経験する長い孤独の中で、最初から最後まで彼の目的はただ一つ。


自分と同じように囚われている「悪」の魂を蘇らせることだ……




「だから彼には、若くて健康で逞しい体が必要なの。できるなら不死身がいいんだけど……カターイフなんかピッタリだと思わない?」

コシャリは少し嘲笑するような目でこちらを見た。

「自分をバカだと思わない?」


「……あたなの言うことが本当だったら、あの「善」の化身はこの城主ってこと?ふん、バカなのはあいつだ」

カターイフを救うのに苦労した。どんなに偉大な神の使者であっても、今回は……愚かな判断をした」


私は怒って短剣をしまった。その剣はかつて堕神の喉を切り裂き、カターイフの血管を切った。

そして間もなく……


「あいつの思い通りにさせるもんか。自ら彼を終わらせてやる」


Ⅳ.危険な計画


「ダメよ」

コシャリが行く手を阻んで、黒猫も攻撃態勢をとった。


「私が何をするかなんて、貴方に関係ないでしょう?それに、元々城主を暗殺するつもりだったんじゃないの!」


「堕神はそんな簡単に殺れないわ!あなたが死ぬはどうでもいいでも、勝手に行動したら、私の計画が台無しなるのはゴメンよ」


「計画?あの薬のことか?あのさ」


「あの男にやった水には、毒なんて入ってないんでしょ?お見透しよ」


私は驚いてコシャリを見て、不服に瓶を取り出して彼女の目の前で振った。


「毒が入ってないですって?ほら半分しか残っていないじゃん?」


「これは毒じゃないわ」


「毒だよ!おい」


コシャリがいきなり私の手から瓶を奪った。


まるで計画していたかのように素早かった。彼女は瓶の栓をこじ開けて中の液体を飲み干した。

私はそれを止める暇もなく、ただ見ていた。


「ふ、やっぱり毒なんかじゃない。『悪』は『善』を染める。同じように『善』も『悪』に感化されることだってあるの。おそらくカターイフと出会って、人を傷つけることができなくなったんでしょう」


「勝手にぬかせ。人間に毒を使うのがもったいないと思っただけだ」


「そう強がらなくていいわ。どっちにしろ、今のあなたではあいつには勝てないわ。さあ毒を返しなさい」


「……そういえば、今何を飲んだか、気にならないのか?」


「話を逸らさないで、さあはやく──」


「ふふ、薬が効いてきたみたいだね~」


顔を曇らせてしゃがんだコシャリを見ながら、私はゆっくりと赤いガーゼをかぶった。


「念のために言っとくけど、ここから一番近い宿はあそこだよ。人間の速さで歩いても、ほぼ一日は掛かる。食霊なら半日もあれば十分かな。何か特別な能力があれば、ワープして行くこともできるが……」


コシャリに睨まれ、私は再び姿を消した。


「お腹を壊した女王様が、はたして体裁を維持できるかな。せいぜい頑張って、幸運を祈るよ」


去る前に、コシャリが歯ぎしりしながら、誰かに騙されたような言葉が漠然と聞こえた。


あれ?もしかすると、誰かが彼女に私のことを話した?


おかしいな。


不思議に思ったので、私は早めに宿に着き、彼女を待つことにした。

赤いガーゼの飛行速度に比べて、コシャリはそれほど遅くなった。しばらくすると、リラックスした表情で再び私の前に現れた。


「……なぜここに?私の毒を持って、逃げたんじゃないの?!」


「そんなに怒らないでよ。無理やりあの下剤を飲ませたわけじゃないし。ラッキーだね、食霊でなかったら、丸三日は下痢してるよ」


「……なんのようなの?」


「おお~こわ~。貴方のような女性と手を組みたいなんて、私も焼きが回ったかな?」


「手を組む?」


コシャリは眉を上げ、ようやく少し機嫌を直した。


「あなたは城の出身だから、そこの主のことをよく知っているはずだ……そして、私は聡明だから、身を隠すこともできる。手を組んだら、無敵じゃない?」


「身を隠す能力は認めるが、頭がいいとは……まあいい。協力してくれる人はそう見つからないし」


「後ろの言葉は聞かなかったことにするよ。但し協力する前に聞きたいことがある……毒を盗んだのが私だとなんでわかったの?」


「ある人から聞いたのよ」


「誰に?」


「そんなに根掘り葉掘り聞く必要ある?どうせ、その人はとっくにアビドスを離れていないわ」


「それは残念だったわ。私の隠身の術を見破るほどの人に会ってみたかったのに……まあいいわ、では我々の計画の話をしましょうか」


その瞬間、コシャリの冷たい顔に狡猾な表情が浮かんだ。


彼女は黒猫の顎を引っ掻きながらも、王座に座る女王のようなオーラを出している。


カターイフを救うには、城主を暗殺すればいいというものでもないわ……カターイフは今あの男をとても信頼していて、兄のような存在だと思っているの。彼を殺そうとすれば、カターイフは絶対に同意しないわ」


「あのバカ……邪魔できないように縛って暗い部屋にでも閉じ込めちゃうのはどう?」


カターイフはメンカウラーと城の仲介人、つまり王子よ。彼を閉じ込めたら、計画がバレてしまうんじゃ?」


「……」


「実は、カターイフの問題はそんなに難しくないわ。まずは彼と友達になり信頼を得る、その後に兄の正体を教えてあげればいい」


「はあ?友達になる!?」


「そうよ。なんか恥ずかしいこと?たった今、カターイフのために戦うこと誓ったばかりでしょ!」


「もう……あまり煽りたてないで。わかったわよ、行くから!」


そこで、コシャリの計画どおり、私はアビドスに存在しないものを探す「オアシス探索隊」を視察する名目で、こっそり王宮に忍び込んだ。


カターイフに近づくのは難しいことではない。あいつは相変わらず無邪気で、私のことをすっかり忘れていたが、警戒心ゼロで、追い払おうとしなかった。


彼は無数の邪悪な計画を隠しているかのような目を開け、誇らしげに苦労してやっと城から抜け出したことを笑顔で話した。


その得意げな表情を見て、何か偉大なことでもしたのかと思った矢先、目の前に黄色の花束出してきた。なんと花を買って来たのだ!


しかも薄暗い城では絶対に生気を失うヒマワリだった!なんというバカ者だ!


まあ、とにかく、私は計画どおりに城に入り、カターイフの部屋に泊まれることになった。

彼とコシャリ以外に、誰も私の存在を知らない。


全てが順調に進んでいると思っていた矢先、予想外の事態が起こった……


カターイフが「お兄さん」をそこまで信頼しているとは思わなかった!


まるで「片思い」の相手を慕っているかのように!「お兄さん」の悪口を言ったら、すごい剣幕で怒られた!


「なにこれ!私こそがあのクソガキの救世主じゃないの!」


「しー、騒ぐなら別のところに行って。バストが起きちゃうでしょ」


他人事のように振舞っているコシャリを見て、私は怒りをこらえて彼女に歩み寄り、その膝の上で眠っている黒猫の耳を掴んで叫んだ。


「言え!貴方の素晴らしい計画を教えて!できるだけ早くすべてを終わらせたいんだ!友情ごっこはもううんざりだ!」


それを聞いたコシャリはお前おかしいと言わんばかりに、顔を曇らせた。私は噛みついた黒猫を振り払って返事を待たずに立ち去った。


次に蹴り開けられたのはカターイフのドアだった。


カマルアルディン……何度も言ったはずだ。入るときは静かにと……」


「ついてこい」


「え?どこに?」


「オアシスを探しに行く。あなたの救世主がそう言った」


Ⅴ.カマルアルディン


アビドス、始まりの神が住んでいる場所だと言われているが、神様の恵みを少しでも受けておらず、人々を苦しめるために特別に作られた煉獄のようなものだ。


煉獄にいる人でもちゃんとした身分の階級がある。最下級は砂漠に捨てられた貧しい人々、次は王都郊外のスラム、王都メンカウラー、王宮、最上級は揺るぎないピラミッドの頂上に立つ城だ。


資源が平等に配分されないがために、メンカウラーに統治された人々は、飢え死するよりも前に、灼熱の太陽の下で喉の渇きで死んでしまう。


そこで城が干上がったアビドスに新たなオアシスを見つけるという幻想のような計画を打ち出したとき、貧しい人々は半分強制、半分自発的に「オアシス捜索隊」に入隊した。


彼らには選択する余地などないのだ。


メンカウラーと城の間の仲介人として、カターイフはもちろん分かっている。あの青ざめた顔の戦士たちが、烈日に耐えながら果てしない砂漠を抜け、存在すら不明のオアシスを喜んで探すわけがない。


しかし、カターイフも彼らと同じように、城主の指示に従うしかない。


しかしカマルアルディンは彼らと違う。城主が大嫌いで、彼のことを考えるだけで機嫌が悪くなるのだ。


「あいつ、大騒ぎを起こして、本当にオアシスを探すつもりなの?」


「そんなはずはない……長年ここに住み、アビドスがどんなに広くても、足を踏み入れていない場所などない。アビドスに2番目のオアシスなどないことはとっくに知っているはずだわ」


コシャリは黒猫のサラサラの毛を撫でながら、目つきを鋭くさせて。


「彼が探しているのはアビドスのオアシスではなく、彼自身の『オアシス』よ」


コシャリの言ってることは「オアシス捜索隊」では秘密ではなかった。しかし選べない運命を前に、自分たちが駆けつけるのは希望ではなく処刑場だと誰もが思いたくなかった。


そのため、城主一人で支配された、古くて無知な国を変えられるのは、カマルアルディンしかいない。


カマルアルディンだけが生死を気にせず、権威にも屈しない。彼だけが狙われたカターイフを全力で救うことができる。


彼だが狂気的で情熱的で、偏執と言えるほど、カターイフに執着している。


そこで彼は、カターイフに間もなく王宮から出発する「オアシス捜索隊」に潜入するように提案し、実際にもその潜入に協力した。そして設置されていた数十個の爆弾を爆発させた。


王宮が灰になっても「勇士」が死んででも、カマルアルディンにとってもどうでもいいことだ。


そしてアビドスでは、死は新たな始まり、人間の魂は不滅だというふうに、何も知らないコシャリを慰めた。


しかも、その「勇士」たちはしばらく生き残ったとしても、捜索隊が出動したら、確実に水不足による高温で死ぬだろう。


今死なせたら、兄が誰の犠牲も気にしない残酷な人だとカターイフに証明できる。彼は絶対にまた人を派遣して、死に向かせるのだ。


あの明るく神聖で孤高の神の使者は、実は目的を達成するためには手段を選ばない残忍で冷血な暴君だった。


彼はアビドスの人々を救いたいと一度も思ったことはなく、ただ邪悪な仲間を救いたいと思っている。彼に比べれば、むしろカマルアルディンの方が神に近い。


カマルアルディンカターイフにその事実を証明したいがために、アビドスを揺るがすほどの爆発を計画した。


どうせ、彼は人間でもないし、人間の道徳倫理に縛られることもない。しかも「神」が人間の議論に怒るわけがない。彼の前に突進して叫ぶ者たちを、カマルアルディンは簡単に殺せる。


とは言え、カマルアルディンコシャリに教えなかった。王宮に仕込んだ爆弾の狙いは実は腐敗した王室メンバーだけだった。


国王が立つところを除いて、他の爆弾は遠く離れた場所に埋められた。これでも捜索隊の人が爆弾に当たったら、運が悪いとしか言えない。


カターイフの影響を受けて、いい人になったね」というコシャリの言葉を聞きたくなかったために、カマルアルディンはずっと黙っていた。


彼はまだ思うがままに人間を弄ぶ神をやりたいと思っている。遠く離れた城から水を盗み、その中に下剤を入れて、幸運で運の悪い人類をイジメて、永遠に子供みたいに無邪気でいたいのだ。


彼にとって「救い」はとても恥辱的なものだ。いつの間にか芽生えた「善性」を、ティアラの反対側の地下深くまで埋めたいと思うほどだった。


しかしなぜか、その爆発で生き残ったのはカターイフ一人だった。


目に涙を浮かべたカターイフに叱られ、カマルアルディンは反論する余地もなく、部屋から追い出された。


彼は城の隅で身を縮ませながら、カターイフが爆発現場から拾ってきた金色の腕輪を手に、一生懸命考えたが、何がいけなかったのか分からなかった。


やがて白金色の姿が暗い城に現れ、優しく、神聖で偉大なる笑顔を彼に見せた時、彼はすべてを理解した。


「こんにちは、カマルアルディン



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