バーボンウイスキー・エピソード
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目次 (バーボンウイスキー・エピソード)
バーボンウイスキーのエピソード
生まれつき不運体質だが、良き教育のため他人を怨むことなく、常に楽観的で毎回しっかりとトラブルを解決する実力派。「怠け者」に見えるが、強い信念と責任感の持ち主。ナルシストで派手好きな部分さえなければ、ほぼ完璧な存在と言える。
Ⅰ.甘い
「まさか有名なバーボン公爵が来られるとは…このような見ずぼらしい舞踏会でお見苦しいところを」
「とんでもない。僕はせいぜい有名な暇人ですよ。奥様主催の舞踏会に参加できて光栄です」
伯爵夫人はようやく笑顔を見せ、僕と軽口を交わしたが、すぐに話題が尽きた。
空気が気まずくなる前、彼女に気を遣わせないためにも、旧友と語らうと言って別れを告げた──これが元々の目的だった。
「サドフ、久しぶりだな。どうして…そんなに老けた?!」
旧友との再会の喜びは数秒で驚きと少しの恐怖に変わった。
そうか、サドフも御侍のように老いていく。そして…
「老けた?先月会ったばかりだろう。人間でもそんなに早く老けるはずがない」
ザバイオーネの声が僕の妄想をぶった切った。
彼はサドフの背後から現れ、手に持った酒を渡すと、わざとらしく不機嫌そうに僕を睨んだ。
「こいつが髭を伸ばし始めただけだ。以前より大人びたというだけ。お前は本当に口が悪い」
「四十歳になってようやく、ザバイオーネが止めなくなった…だが確かに老けて見える。公爵殿の言う通りだ」
サドフは顎の髭を撫で、相変わらず優しく笑った。
「そうか…だがサドフ、これは僕への仕返しか?公爵と呼ばないでと言っただろう。十年来の付き合いが水の泡だ」
「ましてこの称号は御侍から継承した『遺産』に過ぎず、僕を居心地悪くさせるだけだ」
「そうは言うが、我々は皆君が公爵の名にふさわしいと思っている。何より…ここは公の場だ。我々が親密過ぎると思われては困るだろう?」
サドフは僕にウィンクした。今ではこの茶目っ気ある仕草が彼の顔に似合わず、滑稽だが愛らしい。
僕は安堵の笑みを浮かべた。外見が多少大人びただけなら、サドフは御侍よりずっと長く、ずっと僕の傍にいてくれるだろう。
「ねえ、伯爵夫人と話す用事があったんじゃないか?ちょうど今一人でいるようだ」
「その通り。では失礼いたします」
そう言うとサドフは急ぎ足で伯爵夫人の方へ向かった。
僕は不思議そうにザバイオーネを見た。
「何かあったのか?サドフを退けてまで僕と話すとは…珍しい」
ザバイオーネは珍しく憂鬱そうな表情で僕をバルコニーに連れ出し、最近の出来事を駆け足で説明した。
「タルタロス計画…悪くないと思うし、君も賛成してたじゃないか?何が気がかりだ?」
「あの時は若かったし、彼の影響で熱くなってた…冷静になると計画の難しさに気付いた」
「だが君の言う通り、サドフの前で賛成した以上、撤回はできない」
「撤回?そんなに難しい計画なのか?どうして撤回しなければ?」
「本当に甘いだな…」
ザバイオーネは教師が出来の悪い生徒を見るように、呆れた様子で首を振った。
「費用と人員の問題はさておき、▫霊が人間と同等の権利を得るという計画目的だけで、この案は葬り去られる」
「最近サドフと各地を回ったが、反対票ばかりで希望が持てない…」
「希望が持てない…でも不可能ではないだろう?」
「?」
ザバイオーネの呆然とした顔に僕は思わず笑った。
「甘いは悪くない。美しい未来を想像し、可能性を信じる人間こそ最も勇敢だ…君も僕もサドフも、そういう人間じゃないか?」
「可能性があるなら実現すればいい。不可能だとしても…全てが終わるまで、本当の結末は誰にも分からない」
「何より君とサドフは奇跡を起こせる人間だ。必ず成功すると信じてる。必要なら僕も協力するよ」
「…ふん、金を出すだけの鴨にはぴったりだな」
サバヨンは少し嘲るように笑った。
※サバヨン:ザバイオーネのこと
抗議しようした瞬間、彼の拳が僕の胸元に軽く触れた。
「殺して金を奪う気か?」
「とんでもない…」
彼は僕の肩を叩くと、杖を軽く振りながら、舞踏会の喧騒を見下ろした。
「その甘さは感謝する。世界で最も珍しい宝物だ。大切に使わせてもらう~」
軽薄で真摯なその様子は初対面時と変わらず、僕が最も評価する彼の姿だった。
ドアが閉まり、騒音が遮断された。
ザバイオーネは確かにかっこよかったが…
「僕はこれを甘いとは思わない」
「不当な扱いを受ける者を助け、世界をより良くする…当然の事ではないか?現実的とは金と権力のために努力することだけを指すのか?」
「いやいや…世界はまだそこまで汚れていないだろう」
手すりにもたれ夜空を見上げる。星々が頷いているように瞬いていた。
そう、こんな美しい景色がある限り、世界が醜いなどとは言えない。
批判するより、信じていたい…
ザバイオーネと時間をずらして舞踏会に戻るため――公爵と陛下の臣下が密接でないという証拠作りのため、僕はしばしバルコニーで夜風に当たっていた。
舞踏会場に戻ろうとした時、足元から物音がした。
「野良猫?でもここは4階だ…」
好奇心に駆られ音の方向を見ると、銀色の閃光が走った――
「死ね!」
Ⅱ.暗殺
椅子に縛り付けられ身動きできない少年を見て、僕はため息をついた。
「子供ですよ、そこまでしなくても」
ザバイオーネは驚くべき発言を聞いたかのように、テーブルに並べていた「道具」の手を止め、目を見開いた。
「そこまで?このガキに殺されかけたのはお前だぞ」
「まだ死んではいない」
「おお、なら余計なお世話だったと?」
ザバイオーネは立ち去る素振りを見せたので、慌てて袖を引いた。
「そういう意味ではない。子供は大人と違って威嚇や誘惑が通用せず、拷問にも耐えられない。逆に信頼を得れば何でも話す」
「ふふ、善人かと思えばなかなかの悪党だ」
そう言いながらザバイオーネの顔に満足げな表情が浮かんだ。
僕もつい笑ってしまった。
「ん?僕は善人ではないのか?」
「子供を騙しておいて善人面か?」
「必ずしも嘘とは限らない」
ザバイオーネは呆れたように目を白黒させ、僕の手を振り払った。
「なら親切なおじさん役はお前に任せる。子供の相手は苦手だ」
これは嘘ではない。
今でこそザバイオーネとサドフは仲が良いが、召喚された当時は幼いサドフに手を焼いていた。
納得して頷き、少年から「拷問道具」の見える位置を遮るように数歩近づいた──タルタロス計画への準備を既に進めていたとは、さすがザバイオーネだ。
「坊や、君は…」
「死ね!」
ザバイオーネに困ったように視線を投げると、「信じてるよ」と適当な目配せが返ってきた…
仕方なく視線を戻し、笑顔を維持しながら続けた。
「君の目的は十分理解した…だが質問がある」
「僕が誰か知っている?あるいは、殺すべき相手が本当に僕だと確信している?」
予想外の質問に少年は驚き、いや軽蔑の色を浮かべた。
「当たり前だ!親を殺した貴様を間違えるわけがない!」
「残念な話だが、ご両親はいつ亡くなった?」
「忘れたのか?!去年の復活祭!貴様が開いた邪悪な宴で!」
「申し訳ないが、昨年の復活祭は一日中王子主催の舞踏会に居た」
「え?」
「幸い特殊な日だったので記憶が確かだ。参加者全員が証言できる」
「ふん、貴族どもの仲間内だろう!」
「王子が王位継承のため親民姿勢を見せる特別舞踏会だった。平民も多く招かれていた」
「…間違えたと言いたいのか?」
「お尋ねしたいのですが、あなたのご両親を殺害した人物が私であると、あなたは確信しておられるのですか?容姿だけでなく、声までそっくりだとのことですが。」
「遠くから一度見ただけ…違う!間違えるはずがない!貴様が嘘をついている!」
「そろそろいいだろう?子供相手に夢中か?」
ザバイオーネが会話を遮った。わざとらしいほど大袈裟な不快感を顔に浮かべている。
「ガキ相手に騙す必要があるか?仮に悪事を働いていたとしても、今この場にいるのは三人だけ。殺してしまえば済む話だ」
ザバイオーネは適当に道具を手に取り弄んだ。少年の顔に緊張が走った──
そう、命を大切にすべきだ。
満足そうに笑い、肩を叩いて慰めた。
「伯爵邸に単身潜入できるほど賢い君なら、現状を理解し、少しは疑いを持ったはず…」
「ほんの少しの疑いで十分だ。真相を話してくれれば、真犯人を必ず見つけてみせる」
簡単な言葉で信じさせられるほど少年は甘くないが、瞳に動揺の涙が浮かんだ。
「ほ、本当か?」
「千真万確。子供に嘘はつかない、これが僕の人生信条ですからね~」
Ⅲ.苦難
「『子供に嘘はつかない』を人生信条にするとは…つまり大人には自由に騙していいと?」
ザバイオーネは杖で鬱蒼とした枝葉を掻き分けながら、独り言めいた口調で言った。
僕は彼が切り開いた小道を楽しみながら後をついた。
『大人同士は対等に騙し合えるが、子供の嘘には導く責任があるからね』
『政治家にならなくて残念だな、人を煙に巻く言葉がすぐに出てくる』
『ん?僕は本当のことを言っているだけですよ』
『…本当にあのガキの仇探しをするつもりか?』
ふと二人で立ち止まった。
『なぜしない?』
僕の問いにザバイオーネは疲れたように額を押さえた。
『あのガキは犯人の顔も見てない。両親が死んだ時間と場所しか知らない。言わせてもらえば、単なる事故かもしれない』
ザバイオーネが誰かを心配する時、口調が酷くなるのは今に始まったことではない。
『手掛かりが少なすぎる。しかもお前には関係ない話だ。巻き込まれただけの被害者だろう』
『僕を殺すリスクを冒すより、架空の犯人を作り出した方が合理的だ。あの子の言葉を信じたい。何より──犯人が僕に似ているのが最大の手掛かりでは?』
『勝手にしろ。元々貴様は暇人だ…深入りするなよ』
『安心して。ただ…タルタロス計画の手伝いは少しお預けだ』
『ふん、僕を馬鹿にするか?金さえ準備しておけば十分だ~』
『もちろん~』
小道の終わりでザバイオーネは公爵邸の庭園の外に立ち、この「表立たぬ」友人を複雑な眼差しで見た。
『そろそろお前も挫折を味わう時が来たようだ…互いに頑張ろう』
僕は頷き、彼を見送った。
この調査に時間と労力がかかるのは承知していた。だが諦める理由にはならない。
手掛かりは少ないが、この世に真の秘密などない。起こった事実は必ず痕跡を残す。
少年の住む町は公爵邸から近く、住民の協力で「邪悪な宴」の概要が判明した。
一年前、ヴィートと名乗る紳士がこの町を訪れた。
彼は各地を旅して商売をして、
その優雅な物腰で人々の信頼を得た。
ある日、ヴィートは「永生」を得る秘術を「偶然」漏らした。
だが純朴な人々は興味を示さず、彼は話題を「廃品から金を作る術」に変えた。
貧しい人々は心を奪われた。
人々の懇願に「やむなく」開催された宴で、廃品を金に変えると約束したヴィート。
希望に満ちて宴に赴いた者で生きて帰った者は一人もいなかった。
永生と金…錬金術師の所業かもしれない。
だがなぜあれほどの犠牲が?あの宴で何が?
更なる謎は、町の住人が僕をヴィートと間違えない点だ。
疑問を抱きながらヴィートの行方を追うと、彼は幾つもの町や国を転々としていた。
後追いでは常に一歩遅れる。
無数の苦しみを目の当たりにしながら、何も阻止できない。
諦めるべき…か?
『貴様…貴様だ!』
12歳ほどの少女が指差し、憎悪に満ちた目で僕を見つめた。
『父さんを床に就かせた張本人!この詐欺師!』
怒りで瞳を赤くした少女が僕に飛び掛かり叩くが、僕は思わず笑みを零した。
『お父様はご存命なのですね!』
少女の怒りは驚愕に変わり、僕の喜びに満ちた視線に後ずさりした。
『どうかお会いさせて!最悪の事態を防がせてください!』
Ⅳ.奇跡
僕がヴィートではないと繰り返し説明し、ありったけの証拠を提出した後、少女はようやく半信半疑で自宅へ案内してくれた。
ごく普通の狭い家だったが、かつての温もりを感じさせる面影があった。
ペンキが剥がれた外壁にはまだらな色が刻まれ、雑草と枯れ枝の影に覆われた奇妙な廃園のようだ。
『母さんが亡くなってから、庭は父さんと二人で手入れしてたの。昔はこんなじゃなかった』
「あの男がここへ来るまで…彼は、お母さんを生き返らせる方法があると。お父さんがすべてを捧げるなら…」
「それは、お父さんのせいじゃない。ただ、お母さんに会いたいだけ…すべてはヴィットのせい。彼は私達の貯金を持ち逃げした上に、お父さんをこんな状態にした。約束も守らなかった…絶対に許さない!」
少女は竹かごを握り締めた。中には粗末なパンと傷だらけのリンゴ──これが数日分の食料だろう。
『その通りだ。君が許す必要はない』
『…変な人ね。さっき叩かれても怒らなかったくせに、赤の他人のために怒ってる』
不覚にも険しい表情で少女を怯えさせたことに気付き、慌てて口角を上げた。
『僕は…命を軽んじる行為が許せない』
彼女は複雑な視線を投げかけ、黙ってドアを開けた。
薄暗い室内には丹念に掃除した痕跡があった。
だが少女の努力も虚しく、日々荒廃が進んでいる。
『足音気にしなくていい。父さんは寝てばかりで目を覚まさないから』
そう言いながら少女はベッドの男の顔を優しく拭った。
『ご尊父は…どうされた?』
『…わからない。薬も医者も買えない…あの日何があったかさえ』
『あの日とは儀式の日?』
『どうして儀式を知ってるの?』
疑いの眼差しに慌てて手を振った。
『似た境遇の子から聞いた。僕はヴィートじゃない』
『とりあえず信じる…儀式の日、父さんに使いを頼まれて留守にした。戻ったら父さんが…』
『儀式はこの家で?何か残されていない?』
『気持ち悪い液体の瓶は捨てた…あっ』
突然何かに気付いた少女が庭の枯れ木へ駆け寄り、樹洞から壺を取り出した
『…蛇の抜け殻?』
『実際、あの男が残されたものかどうか、私も確信がありませんでした…しかし、私はここですでに長い間暮らしていますが、蛇を見たことがありません。近所の人も見たことがないと話しています。』
「蛇の抜け殻が病気に効くという話を聞き、捨てていませんでした。しかし、父の病気の治療にどのように使うべきか、わかりません…」
嗚咽が漏れそうになり、
彼女はそれに気づくと、いくらか腹を立て、さらには投げやりに、手に待っていた壺を投げ捨てようとした。
私は少し乱暴に壺を奪い取った。
『ヴィートのものなら手掛かりになる』
『ふん、見つけ出しても何だ、お父さん…私たちの生活は…枯れ木のように、どれだけ水をやり、肥料を与えても、もう直らない』
彼女は庭の中央にある木を見つめていた。枯れ木は彼女の目に深い影を落とし、まるで彼女自身も老いていくように見えた。
その瞬間、無数の似た境遇の人々が視界を掠めた──
苦しみから逃れられぬ人々。そして…
いつも後追いしかできない僕。
諦めるか?
…
とんでもない。
可能性が低くても挑戦する「馬鹿」が、僕の本質だ。
『もし直ったら?』
少女の瞳が一瞬輝き、すぐに消えた。
『冗談はよして。父さんの世話があるの』
『冗談じゃない。枯れ木だって蘇る可能性がある』
『…ヴィートと同じ口先だけの詐欺師』
彼女はドアを蹴破るように閉めた。
しかし、彼女も私も分かっているように、私は詐欺師ではない。
閉まる前の視線が全てを物語っていた。
二日後、町で有名な医師が訪れた。貴族の依頼だと説明された。
四日後、奇跡的に父の容態が好転し始めた。
正しい治療さえあれば治る病気だった。
六日後、柔らかいパンと新鮮なリンゴを抱えて帰宅した少女を、新緑の庭が迎えた。
枯れ木は芽吹き、緑の息吹に包まれ──
少女の温かい涙と共に、鮮やかに蘇った。
Ⅴ.バーボンウイスキー
公爵邸。
ザバイオーネは杖を弄りながら、豪華な内装に不釣り合いな枯れ木に向かって口笛を吹いた。
『人生信条の「子供に嘘つかない」も嘘だったのか?』
片手に盆を持つバーボンは、ザバイオーネの杖の先端を掴みソファへ誘導し、紅茶を差し出した。
『あの子に嘘はついてない。こっそり庭に木を移植しただけ。枯れ木の再生とは言ってない』
『ふーん、汚い大人だ』
友人のからかいに、バーボンは慣れっこで気にも留めなかった。
しかしそれでも彼は笑みを抑え、いくらか沈痛な声で言った。
『すまない。この間調査に夢中で…サドフの件を知らなくて』
『げっ、サドフはまだ生きてるぞ』
『この立場でもっと助けられれば、過労で倒れることも…』
『こちらが彼を助けるので、お前の出番ではない。自分の仕事に集中すればいい』
ザバイオーネの冷たい言葉は自責を和らげるための優しさだと理解していた。
だが楽をする理由にはならない。
『僕の御侍、覚えてるか?爵位を継いで享楽に明け暮れた男』
波本の顔には、再びあの穏やかな笑みが戻った。遠い目で往事に浸るように話し始めた。
(※波本:バーボンの誤字だと思われますが原文のまま書き出していますご了承下さい)
『まさにその怠惰な人物が、私が政治学の授業をサボってパーティーに出席したことに激怒した。』
「私は生まれながらに人間が一生かけても得られない力を持っているだけでなく、多くの食霊が羨むような身分を持っているーーそのような無能だが裕福で高貴な御侍を持ちながら、なぜそのような平凡の愚かなことをするのかと彼は言った。」
「神が僕にこれらのものを与えたのは理由がある。それは、僕が凡人にはできないことをし、凡人にはできないものを創造し、その力を最大限に活用することだと言った。」
『そしてその本人は?』
ザバイオーネが割り込んだ。
『自分は遊び呆けて、お前にだけ偉人を強要?』
『「才能ない自分が動けば失敗する。創造の機会は優秀な者に委ねる」と』
『凄いだろう?己の凡庸を認め、他人に希望を託す…尊敬に値する』
『神は信じないが、彼は信じたい。』
『だから凡人にできないこと──君たちの計画も、ヴィートの阻止も』
『奇跡を創り続ける。一つならず、無限に』
ザバイオーネは複雑な表情で聞いていた。
彼は実際には、バーボンの御侍を気に入っていました。
彼も相手の言葉に一定の共感を感じてはいましたが、それでも…「期待」を背負ったバーボンにとっては、残酷すぎる。
『その奇跡に、君自身のものはあるか?』
ザバイオーネは思わず尋ねた。
『もちろん。全てが僕のもの』と、
バーボンは答えた。
その柔らかくも確固たる笑顔をたたえた瞳を見つめ、ザバイオーネも思わず微笑んだ。
『まあいい。だがこれを庭に植えるとは…枯れ木にも家を?』
『逆だよ。この家が枯れ木を必要としてる』
庭中央の枯れ木は朽ち果てながら、塀を越え天へ伸びようとしている。
『奢侈に溺れたこの場所に、現実の苦しみを教えてくれる』
『…君は神か?』
『寂しい職業はごめんだ。ただ、止まれない』
その表情を見たとき、ザバイオーネはもはや何を言っても無駄だと確信した。
こうなったら、最悪の結果であっても、こいつにはまだ自分が友だちとして寄り添っている。だから、それほど悪い状況にはならないだろう。
『分かった。これから忙しいが、必要なら連絡しろ』
『一つお願いが』
『図々しい』
『あの孤児の世話を頼む』
『保姆を手配するだけだ』
『感謝する。では、互いに幸運を』
別れの後、バーボンは荷物をまとめ邸宅を後にした。
この時まだ知らない──サドフの早逝、ザバイオーネの指名手配、ヴィートの行方不明、灼熱の地で待つ災厄…
仮に知っていても、彼も歩みを止めない。むしろ不幸が背中を押す…
止まらず、進み続ける。
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