【非人類学園】Eii・ミッション-Ep4b
選択肢:B
銀角「お前の罠に付き合う義理はない」
吐き捨てて、銀角は踵を返し楊戩との合流を急ごうとする。しかし彼が駆けだすよりも早く、広目天は彼の眼前に立ち塞がった。
彼の瞳に宿るのは、侮蔑と冷笑。
広目天「愚かだな」
銀角が反射的に放った翡翠の一閃はしかし、広目天に届かない。逃走者の立場でありながら、彼は完全にこの場を支配していた。
広目天「さあ、僕を捕えてみせろ。さもなくば君の仲間もろとも、数分後には捕まえてしまうぞ」
戦いの舞台と化したこの街では、見知らぬ人影はすべて敵に等しい。遊び気分だった大鵬や、犬に勝てない白骨とは異なり、楊戩は己を追う足跡に迷わず戟を向けた。
楊戩「イケメン警官を追いかけるとは、良い度胸だな?」
構えた裁きの戟から鋭い紫電が迸る。切っ先の向こうにいた人影は宙を舞い、その一撃を鮮やかに回避した。舞い踊る白金の髪が、ネオンに照らされ円を描く。
白霊「ふふふ、久しぶりね楊戩警官。今から怪盗と警官の追いかけっこなんてどうかしら?私を捕まえるチャンスよ?」
宣言し、白霊は残光を残してネオンの光の中に溶けた。
楊戩「怪盗Q、この俺がお前を必ず逮捕する!哮天、行くぞ。俺とデジタルシティの真相を突き止めようか!」
駆けだそうとする楊戩を、急に哮天犬が制した。思わず楊戩は振り返り――
楊戩「……なんじゃこりゃ」
果たして彼の背後に居たのは白霊だった。精巧に作られた、白霊の等身大のモデルデータの群れ。髪色やポーズこそ違えど、そのすべてが白霊本人を完璧に模倣している。
楊戩「分身……いやモデルデータの設置か。流行りのトラップか何かか?」
隠れた白霊を探す楊戩より、広目天に対峙した銀角の方が、よほど追い詰められていた。
広目天「遅いな、もっと早く動けるだろう」
自身の異能による高速移動や透明化を用いず、ただ体捌きだけで、彼は振り回される刃を避け続ける。
広目天「納刀は潔く。躊躇いは禁物だ」
それは生徒を指導する教師か、子供を躾ける親か。銀角の目に映る広目天の視線は、実験サンプルの数値を見つめる冷徹な厳しさに満ちていた。
10分というリミットが近づく中、銀角は広目天から逃れることを諦めて、彼を討ち取る為に剣を握りなおす。
広目天「さあ、君の全力を見せてみろ」
実験の終わりを前に、広目天は軽快に指を鳴らして【煉獄】の陣を張った。他者の魂を捕まえ、逆に広目天の力を増幅させる必殺の陣。
ハンターの立場でありながら獲物に追い詰められ、苦境に立たされた銀角にとって、肉体を戒める煉獄の陣は重すぎる枷だった。
銀角「――クソッ!!」
広目天に向けて振るわれる剣。その勢いは凄まじく、けれど精彩に欠けていた。広目天は悠然とそれを捌き切り、逆に彼の左腕を捕まえ握りしめる。
広目天「ふむ、悪くはないが良くもない。奴らにぶつけるにはもっと準備が必要か」
誰に向けたわけでもない言葉を零し、広目天は銀角の左手に自分の左手を重ねた。自動的に、銀角が広目天を捕まえた、という判断が下される。
WU:NPC「【逆鱗】、アウト!」
終ぞ広目天に弄ばれ、挙句、どういう訳か勝ちを譲られた銀角は、身体を苛む煉獄の陣の上で、訳も分からず立ち尽くした。
WU:NPC「現時点で、Eiiには人間2人と犬1匹が残っています。対する逆光者は人間1人と無数のモデル!次の交代まで後1分、Eiiは無数の偽物に潜む【自由】を見つけ出すことが出来るでしょうか!視聴者の皆さん、ぜひお見逃しなく!」
楊戩「くそっ、本物はどこだ!?哮天の嗅覚まで誤魔化すとは……お、銀角!丁度良いところに来たな、手伝ってくれ!」
接近してきた銀角に、楊戩は大声で呼びかけ近くに寄るよう誘導する。
銀角「ああ、僕は何をすれば――って、なんで俺を捕まえるんだよ」
間合いに銀角が入った途端、楊戩は鋭く手を伸ばし銀角の手を掴もうとする。素早く銀角は手を引っ込め、後ずさった。
楊戩「焦ったな、【自由】。もとい怪盗Q」
しかしその直後、無数のモデルをすり抜けて出てきた哮天犬が銀角に飛びかかり、押し倒して無力化する。
楊戩「お前はかくれんぼをする気なんて無かった。攻守交代のタイミングで銀角に成りすまし、合流すると見せかけて俺を捕まえるつもりだったんだろう。計画も偽装も完璧だったな。だが、俺の強化し続けた探知機能は、お前の偽装を容易く見抜いたよ」
『銀角』が意味深な笑みを浮かべると、その姿の偽装が解除され、華奢な女性が現れた。
白霊「あら、ご名答。さすが警官さんね。正解のご褒美に、今回は貴方の勝ちとしてあげるわ!ま、現実での戦いは、こんなふうに甘い採点してあげないけどね」
WU:NPC「【自由】アウト!これを以てチーム【Eii】の勝利が決定しました、おめでとうございます!」
つづく…