【非人類学園】Eii・ミッション-Ep4
流光が舞い落ちる夜
大注目のリング争奪戦が間もなくスタート!影に潜む黒幕はとうとう牙を剥く...
クローズドβテストが終わりに近づき、Code:【光斬り】ゲームコンテストは最終戦たるリング争奪戦に至ろうとしていた。
優勝者に与えられるという謎の豪華賞品が、参加者たちの好奇心を煽っている一方で、モニター越しに彼らを見つめる瞳があった。冷えたその瞳は、魚達が餌に食いつくのを待つ釣り師のようで。
瞳の主は、プレイヤー全員の戦闘記録をデータに収め、モデル化していく。『本当の敵』は、そのデータ群を糧にますます強くなっていくことを、プレイヤーたちは知る由もなかった。
このゲームの果てにあるのは、ゲーマー達の進化。あるいは……生物としての進化。なのかもしれない。
〔光追任務ホール〕
すっかりデジタルシティのマップを暗記したレムは、迷わず任務ホールに到着した。コンクリート壁に掛けられた任務札は残り僅かだ。
誰かと通話をしていた夸父は、それを途切れさせることなくレムに目を向ける。
夸父;NPC「ようお嬢ちゃん、また来たのか?」
レム「おっさん、一番新しい任務はどれ!アタシ、任務は全部一番乗りしないと気が済まないんだ!」
夸父:NPC「よーしその意気だぜ。っと、お嬢ちゃんがクリアしてない任務は……コレだけか」
夸父は晴れやかな表情で、任務札の掛けられた壁の中央を指し示した。そこにあるのは、少し埃のついた古い任務札。
夸父:NPC「『Code:【光斬り】ゲームコンテストチャンピオン獲得』って任務だ。丁度お嬢ちゃんは最終戦出場だろ?きっと勝てるさ!」
レム「えへへ~、その通り!トーナメント戦も順調に勝ち進んだよ!さすがアタシと相棒たちだよね!」
トーナメント戦を経て、いよいよ最終決戦。優勝賞品を掛けた【リング争奪戦】の日が迫っていた。メンバー全員の強さ(と強運)を以て、Eiiは見事に最終決戦に突入する。
今日までに小さな試合をいくつも経て、Eiiは快活な雰囲気にあふれていた。皮肉なことに、青少年のゲーム環境の保安官を自称していた楊戩本人が、群を抜いたやり込み度で超・流光の巓ランカーとなっていた。交流好きな大鵬も、誰もが自由に空を駆けるデジタルシティで自分の居場所を見つけていた。
同じく羽を伸ばしているのはゲーマーなレム。彼女はコンテスト外でも『ゲームライブラリ』のゲームに挑み、自己ベストを何度も塗り替えている。普段はクールな銀角も、最後のリング争奪戦を前に、胸の高まりを止められない様子だった。
〔超・流光の巓〕
WU:NPC「集まってますね皆さん!こちらにご注目!【リング争奪戦】はまもなく開始です、対戦チームをご紹介しましょう!」
WU:NPC「まずは、驚きの実力でここまで到達したチーム【Eii】です!恐れを知らないかのような、飛ぶ鳥を落とす勢いでもって対戦相手を次々に倒したこのチーム、果たして彼らはチャンピオンの座を獲得できるか!?お楽しみに!」
WU:NPC「そして相対するは金天堂内部チーム【臨】です!内部戦を不敗で勝ち抜き玉座を奪った最強チーム!Code:【天臨】不敗伝説は破られるのか!?彼らが優勝賞品の前に立ちはだかる最後の砦となります!」
レム「……あれ?最終ボスはてっきり、師匠みたいなゲーマー界のレジェンドプレーヤーが出てくると思ったんだけど」
大鵬「それよりもだ。内部チームってどういうことだよ。金天堂の身内が出てきて、賞品の前の砦になるってことは、そういうことだろ?」
レム「【天臨】ってのも面白くないなー。ならアタシ達は【天選】だよ!内部戦じゃなく本当の戦いを勝ち抜いてきたんだもん!」
大鵬「豪華賞品を渡さないために、ぽっと出の非プレイヤーチームを用意してくるとは、風紀に反した行いだな?」
奇妙な名目で出てきた敵チームに文句をつける二人とは逆に、残る二人は冷静だった。楊戩はヘルメットの通話装置を起動し、誰かとやり取りを開始する。そんな彼の様子を見た銀角は、次の対策について考えこみ始めた。
WU:NPC「さてそれでは、今回の対戦テーマはなんでしょうか!ルーレットスタート!」
LEDビジョンに踊るゲームライブラリの単語群。ルーレットはすぐに終わり、二つのタグが映し出される。
WU:NPC「今回のテーマは『タワーディフェンス+バトル』です!今回は4人参戦、味方チームの防御塔を守り、敵チームの防御塔を破壊していきます。また戦場中央の流光の巓からは、5分毎に輝晶がドロップ!これを用いて装備を強化し、敵側の防御塔を破壊したチームが優勝です!さあ、選手入場!」
それぞれのチームメンバーが出揃った後、両チームは戦場の両端、防御塔の傍にワープする。流光の巓を挟んだ南北の位置に、それぞれ赤青の『防御塔』が設置されていた。『塔』というよりは、それは浮遊する巨大なクリスタルめいている。
【3】【2】【1】
【スタート】
戦闘開始が告げられた直後、流光の巓は光を湛え始めた。
戦場となるのは、ビルの屋上や、それをつないで張り巡らされた空中回廊。落下は脱落を意味するため、攻めるのは難しいが防衛は容易くなっている。それゆえに両チームは短期決戦でなく、輝晶を見据えた長期戦を選択した。
ゲーム開始から5分後、流光の巓から1つの輝晶が打ち上げられ、空に輝く。
楊戩「俺が防衛に回る。輝晶は任せた!」
天目カメラで周囲の地形をマッピングしていく楊戩を背に、残る3人は輝晶を求め戦場中央へ駆け抜けた。
戦場中央、自由と征服の象徴たる流光の巓はすぐに彼らの前に現れる。Eiiの司令塔たるレムは、空中戦に長ける大鵬と、突破力を持つ銀角に輝晶の獲得を指示した。
レム「ゲーマーとしての経験からいうけど、相手も輝晶獲得に手を割いてるはず!出来るだけ敵との交戦を長引かせてね!その間にアタシがバシッとタワーを壊しちゃうから!我ながらいい戦略!倒されないでね?それじゃ頑張ってね~!」
早口に告げて、レムは匕首を投擲する。電流と化したレムは一瞬のうちに彼方へとワープした。
一方、残された大鵬は銀角の襟を掴んで上空へ飛び立つ。敵の気配を感じた二人は、流光の巓の屋上に到達するや否や着地した。それぞれの得物を抜き放つ二人の前に立ちはだかるのは、【臨】の二人。
白虎「よう、お前らの敵は俺だぜ」
鈍い銀色が駆ける。その瞬間、金属の拳が銀角に向けて振り抜かれた。銀角は本能的に剣を構え、間一髪でその一撃を逸らす。彼の援護に回ろうとする大鵬だが、追撃を放とうとする朱雀の動きを制するのが限界で。
光の翼をはためかせる者同士、どこか相性の良さそうな構図。しかし朱雀の瞳に宿る異様な焔に、大鵬は寒気を覚えた。
朱雀「……ああ、離火が揺らめくのを感じるわ」
大鵬「なにを……?」
〔【臨】赤の防御塔〕
防御塔が設置されたビルの屋上は、玄武の異能によって低温の沼が張り巡らされている。彼女は仲間とのテレパシーを行い、司令塔兼防衛役として待ち構えていた。
青竜〈報告する。敵の防御塔に接近した〉
朱雀〈やるじゃない!〉
白虎〈はー?こっちだってすぐ仕事終わらせてやんよ〉
玄武〈……〉
個性が強いメンバーたちと異なり、武器に徹する玄武は口を挟まない。しかし、急速に自陣に近づいてくる電流を検知した彼女は即座に報告を飛ばした。
玄武〈報告。防御塔に敵接近。【流光の刃】だ。戦闘の第一段階は終了。個々の戦闘に移る〉
〔【Eii】青の防御塔〕
警官として長年勤めあげた楊戩にとって、タワーに忍び寄る青竜を補足することは造作もなかった。自分自身の護衛を哮天に任せた彼は、自分に搭載した装備を用い、天眼と自分の視界を共有することで、周囲の監視を完璧にしていたのだ。
楊戩「1vs1への固執……やっぱりこいつら……」
〔超・流光の巓〕
摩天楼の玉座を舞台に、4人のバトルは続いていた。
銀角は白虎の隙を突いて1つ目の輝晶を奪い、装備にエネルギーを注入することに成功した。だが白虎も負けじと2つ目の輝晶を奪い、戦局は互角。
翡翠の燐光を残し加速していく銀角に対し、白虎は紫電を零す鎧を纏って追走する。
白虎「観念しやがれ雑魚め!いい加減気づいただろ?てめえが強くなるほどに俺も強くなる!そういうゲームなんだよこれは!」
咆哮。直後、空間を捻じ曲げる程の膨大なエネルギーが白虎の左腕から溢れ出す。異常をきたしたステージは、徐々に傾き始めた。
白虎「ほら、全力を出せよ。追い縋ってみろ。そのうえで俺はお前を踏みにじるからな」
挑発を繰り返す白虎から視線を外し、銀角は頭上を見上げた。
朱雀は出力を抑えるための安定装置を外し、吹き上がる焔を大鵬に向けていた。大鵬は近寄ることもできず、じわじわと飛翔装置を破壊されつつある。輝晶が絡まずとも、戦力差は明確だった。
――バグか仕様か、【臨】は輝晶を用いなくても戦闘力を引き上げる手段を持っているらしい……
考え込む銀角に向かって、白虎は再び接近してきた。その身から迸る紫電は、先ほどよりも鋭さを増している。
銀角は歯を食いしばり、オーロラの剣を握りしめた。
→バグに違いない、開発チームに連絡するべきだ。
→立ち向かうしかない。覚悟を決めるべきだ。