「大樹の守騎士」ユーヴェンス_story
<村>
メルク「買う予定のものはこれで全部なのです。手伝ってくれてありがとうなのですよ~!」
ユーヴェンス「ん? あ、あァ。いや、これくらい気にすんなよ。主人公だけじゃ持てねェだろ。」
主人公「だってユーヴェンスが半分、持ってくれるっていうから……。」
メルク「しれっと買う量を増やしていたのですよ。」
ユーヴェンス「おい……。」
主人公「い、いやあ~、ユーヴェンスは頼りになるなあ~。いつもありがとう~。」
ユーヴェンス「まあ、いいけどよ。」
ユーヴェンス「……こういう、力の使い方もあったんだよなァ。」
主人公「そういえば、さっきなにか考えてたのか? 言いたいことがありそうだったけど……、」
メルク「言われてみれば、買い物の時からそんな感じだった気がするのです。」
ユーヴェンス「それは……、そのだなァ。」
メルク「なんなのです? そんなに言いよどむなんて生臭いのです!」
ユーヴェンス「今はちゃんとした風呂に入ってるっての!」
ユーヴェンス「そうじゃなくて……、俺も、お前らにちょっと頼みごとがあるっつーか……、」
メルク「みゅっ、頼み事!」
主人公「ユーヴェンスがそう言うなんて珍しいな。よし! 俺たちにできることなら、遠慮せず言ってくれ!」
ユーヴェンス「それは……、」
「ふえーん!」
ユーヴェンス「なっ……! 主人公!」
主人公「えっ、ど、どうしたんだ!?」
ユーヴェンス「俺はここから動かねェから、後ろに回って様子を見てくれねェか?」
メルク「みゅ? 後ろってなにが……、」
村の子ども「お、お兄ちゃん~っ!」
主人公「女の子!?」
メルク「ユーヴェンスさんの膝裏にしがみついてるのですよ。」
ユーヴェンス「やっぱりか。なにかがぶつかってきたと思ったら……。動いて大丈夫そうか?」
主人公「ああ、今は離れてる。けど……、」
村の子ども「お兄ちゃんじゃない~っ!」
ユーヴェンス「お、おい!」
メルク「お兄ちゃんを探している迷子のようなのですよ~っ!」
主人公「ユーヴェンスの顔を見て決定的に違うとわかったみたいだな……。」
ユーヴェンス「あーっと、な、泣くな。ほら、そうだ、飴でも食べるか?」
村の子ども「たべる!」
主人公「はやすぎる変わり身! 飴の力は偉大だな……。」
メルク「みゅっふっふ、それだけではないのです。きちんとしゃがんで一緒の目線になってあげたからこそなのですよ!」
メルク「ユーヴェンスさんがイシュトで子どもたちに人気なのも頷けるのです。」
ユーヴェンス「まァ……、俺みたいなデカいのが立ったままだとビビらせるだけだしな。」
ユーヴェンス「にしても、このチビッ子の兄貴はどこだろうなァ。俺を兄貴と間違えるくらいなら、それなりに目立ちそうな気もするが……、」
メルク「何歳くらいなのですよ?」
村の子ども「4さい~。」
主人公「4歳!?」
ユーヴェンス「そりゃ、このチビッ子の年齢だなァ。」
村の子ども「えらい?」
ユーヴェンス「ああ、えらいえらい。んで、お前のお兄ちゃんはいくつなんだ?」
村の子ども「えっとね、このくらい~。」
主人公「両手を広げてきたぞ! まさか、暗号!?」
メルク「って、そんなわけないのですよ。これは……、」
ユーヴェンス「10ってことか。」
メルク「なのですよ! ユーヴェンスさん、慣れているのですよ~。」
ユーヴェンス「だとしたら、イシュトのチビッ子どものせいだな。」
主人公「ユーヴェンスと間違えられるほどの10歳か……。」
メルク「そんな10歳はこの村では聞いたことがないのですよ。きっとこの子は……、」
「わあああ~っ!」
主人公「今度はなんだ!?」
ラビューン「キュイーッ!」
村の子ども「わあああっ!」
メルク「男の子がラビューンに追いかけられてるのですよ!」
村の子ども「お兄ちゃん!」
主人公「えっ、あの子が!? 普通!」
メルク「もーっ、そんなことを言ってる場合ではないのです! いくらラビューンとはいえ、小さな男の子にとっては大きな脅威なのですよ!」
主人公「ああ、そうだな! ユーヴェンス、止めてくれ! すぐに癒術を……、」
ユーヴェンス「よっと。」
ラビューン「キュイッ?」
村の子ども「あれ?」
村の子ども「わああ~っ! すごい、ひょいってしちゃった!」
主人公「もはや剣すら抜く必要もなかったか……。」
ユーヴェンス「癒されてないみたいだ。主人公、今のうちに癒術をかけてやってくれるか?」
主人公「あ、ああ!」
ラビューン「キュ、キュイッ!」
主人公「人の手の中で暴れるモンスターに癒術をかけたの、初めてかもしれない……。」
ラビューン「きゅきゅーっ!」
メルク「みゅっ、行ってしまったのですよ。でも、森に住んでいるラビューンがどうして村に?」
村の子ども「妹を探して、森に入っちゃって……。」
村の子ども「お兄ちゃん!」
村の子ども「お前~っ、勝手にいなくなるなよ!」
村の子ども「ひょいってすごかったねえ!」
村の子ども「ぜんぜん反省してないし……。」
ユーヴェンス「ご苦労さんだなァ。」
村の子ども「う、ううんっ! これくらい、平気!」
村の子ども「あの、さっきはありがとう。兄ちゃんって、なにしてる人?」
ユーヴェンス「騎士だ。今は休暇中だけどなァ。」
村の子ども「騎士……。」
村の子ども「そっかあ。わかった、ありがとう! 妹のことも!」
ユーヴェンス「お、おお?」
村の子ども「じゃあ俺たち、母さんのとこに戻らないとだから。」
村の子ども「ほら、行くぞ。母さんに代わりにしかってもらうんだから!」
村の子ども「おなかすいたな~。」
ユーヴェンス「ありゃあ、なかなか大変だなァ。」
メルク「みゅふふ。もしかしたらあの男の子、これから騎士を目指すかもしれないのです。」
主人公「俺には目もくれなかったもんな。」
メルク「主人公さんはツッコミして、もたもたしてたからなのですよ。」
主人公「うっ、反論できない。」
ユーヴェンス「騎士を目指すって……、なんで、んなことがことがわかるんだよ?」
メルク「そういう顔をしてたのです!」
ユーヴェンス「どんな顔だァ……?」
村の子ども「お兄ちゃん~。」
ユーヴェンス「んなっ! お前、まさかこの短い時間でまた迷子になったのか?」
村の子ども「お兄ちゃんにあげる、さっきのおれい。」
ユーヴェンス「……、」
ユーヴェンス「ああ、ありがとな。」
村の子ども「おい、行くぞー!」
村の子ども「はぁい。騎士さん、ばいばーい!」
ユーヴェンス「おう。」
メルク「なにをもらったのです?」
主人公「花みたいだな。ち、小さい! ちゃんとしまっておかないとすぐ失くしそうだ。」
メルク「きっとあの子にとっては大きなお花だったのですよ。」
主人公「え?」
メルク「あの子は主人公さんよりもずっと体が小さいのです。相対的にいろんなものが大きく見えるのですよ。」
主人公「ああ、たしかに……。俺も、家に帰ったときに思ったもんな。母さんってこんなに背が低かったっけって。」
ユーヴェンス「俺を兄貴と間違えたのも、そういうことなんだろうなァ。」
主人公「それにしても、間違えすぎな気もするけどな……。」
ユーヴェンス「……。」
ユーヴェンス「主人公、メルク。さっきの話の続きをしてもいいか?」
<紹介所>
メルク「ユーヴェンスさんの家に一緒に行ってほしい……、なのですよ?」
ユーヴェンス「あァ。」
ユーヴェンス「もともとライアンがアルティスタの町を候補に挙げたのは、お前たちがそこに近かったってのもあるが、俺の実家からそう離れてないって理由もあったんだよ。」
主人公「それはいいけど、むしろ行っていいのか? 家族水入らずの方がいいんじゃ?」
ユーヴェンス「その……、機会があったら会いたいって、手紙に書いてあったんだよ。」
ユーヴェンス「今まで、俺に友だちなんていなかったからさァ。」
主人公「そうか……。」
主人公「それなら、喜んで行くよ。」
メルク「なのですよ!」
ユーヴェンス「……ありがとな。」
メルク「みゅ。もしかして、買い物の時に考え事をしていたのは、ご両親のことだったのです?」
ユーヴェンス「まあなァ。……ガキの頃、俺にとっても大人はデカく見えたが、それでも、触れば壊しちまうと思ってた。」
ユーヴェンス「こんな力じゃ、壊すことしかできねェと思って騎士団に入ったが……、」
ユーヴェンス「重い荷物を持ってやるって使い方も、できたんだなァって、ふと思ったんだよ。」
メルク「そうだったのですね……。」
ユーヴェンス「だが……、そう思えるようになったのは、イシュトでのことがあったからだ。」
ユーヴェンス「あの夜に、ライアンは俺はひとりじゃないから、もっと気楽に生きろと言った。その意味が今は本当の意味でわかる気がする。」
ユーヴェンス「迷惑をかけねェようにひとりでいた頃よりも、少しくらい手を貸してもらった方が、誰かのためにできることは、増えるもんなんだなァ……。」
メルク「みゅふふ。その訓練用の剣もライアンさんがお友だちに頼んで作ってもらったと聞いたのです。ライアンさんもまた誰かの手を借りているのですね。」
ユーヴェンス「……そういうことだな。」
主人公「うーん。日頃からいろんな人の手を借りまくってる身としては、それはすごくよくわかる気がするな……。」
ユーヴェンス「……ははは。お前たちはどこかライアンと似てる気がするぜ。顔が広くて、あと、手を貸したくなるところがな。」
主人公「ええっ?」
ユーヴェンス「さて、そろそろ行くか。この荷物もさっさと運んじまわねェとな。メルク、さっきの花を預かっててもらえるか?」
メルク「お安い御用なのですよ!」
主人公「この花、どうするんだ?」
ユーヴェンス「生花だからなァ。いずれはしおれちまうだろうし……、」
メルク「みゅふふ。では、今度はこの私が手を貸すのですよ! 上手な押し花の作り方を伝授するのです!」
ユーヴェンス「悪くねェな。さんきゅな、メルク。」
主人公「じゃあ、俺も手伝うとするか。荷物運び、手伝ってもらってるし。」
メルク「本当なのですよ。」
ユーヴェンス「いいぜ、言っただろ。困ったときは助けてやるって。」
ユーヴェンス「その先で、いつか俺の騎士道ってやつも見つかるような気がする。」
主人公「ええっ、荷物持ちで!?。」
ユーヴェンス「ははは、荷物持ちでもな。」
ユーヴェンス「そんな小さなことだっていいんだ。たぶん、俺が、やりたかったことは。」