「趨勢導く燎火」メアリローサ_story
<平原>
ノーズホーン「グルルルルッ!」
主人公「うわっ! こ、こっちに来たぞ!」
メルク「みゅわわっ! はやく逃げるのですよーっ!」
主人公「ええっと、誘い込む場所はどこだったっけ……!?」
主人公「こっち?」
主人公「それともあっちか?」
メルク「主人公さん! 落ち着くのですよ! 約束していた場所は確か……、」
メルク「こっち!」
メルク「もしくはあっちなのです!」
主人公「落ち着いてくれ! メルクもしっかり混乱してるぞ!」
メルク「みゅわ~っ! そうこうしている間に、ノーズホーンがーっ!」
ノーズホーン「グルルルッッッ!」
メアリローサ「ご安心なさい! 待ち合わせ場所は、こちらで間違いなくてよ!」
主人公「メアリローサさん!」
メルク「た、助かったのですよ!」
メアリローサ「身分の高い者はそれに応じて、果たさねばならぬ社会的責任があるのです! 私はその義務を執行するのみ!」
メアリローサ「さあ、迎撃なさい! 機鳥装衣(きちょうそうい)!」
主人公「メアリローサさんのスカートから、機械仕掛けの鳥が飛び出した……!」
メルク「みゅっ! あれがメアリローサさんの武器なのですよ!」
ノーズホーン「グルルッ!?」
主人公「……すごい! ノーズホーンを翻弄している!」
メアリローサ「主人公さん、癒術をかけるタイミングは、そちらにお任せしますわ!」
主人公「ありがとうございます! それじゃあ、いきますね!」
メアリローサ「いつでもよくてよ!」
ノーズホーン「ぐるるる……。」
メルク「みゅー! これで、このモンスターは、無暗に人を襲ったりしないのですよー!」
メアリローサ「私を射抜かんばかりに発していた鋭い気迫が、すっかり消え去っている……。これが癒術の力ですのね。」
メアリローサ「まさに新世代に相応しい奇跡の業……。癒術には未知なる可能性が眠っていると、言い切っても過言ではありませんわ。」
メルク(ものすごく熱心に、癒されたモンスターを見ているのです……)
主人公(たしか、癒術の現場を視察するのが、仕事だって言ってたからな……)
メルク(……みゅう、それにしても驚いたのですよ、急に依頼を受けた時は……)
主人公(ああ、ほんとに……)
<回想 - 紹介所>
主人公「さてと、今日もがんばって、新しく仲間になってくれる人を探さないとな!」
メルク「なのですよー!」
メルク「……って、みゅみゅみゅ? 豪華なドレスを着た女性が、こちらに近づいてくるのですよ?」
メアリローサ「主人公さんと、メルクさんで間違いなくて?」
主人公「えっと、そうですけど……、あなたは?」
メアリローサ「私はメアリローサ。機械の国で設計議会に属している議員ですの。」
メルク「設計議会なのです?」
メアリローサ「伝統的な名家から選出された議員が集まって、国の進むべき方針などを決定する議会のことですわ。私はそこで、国の発展に携わる仕事をしておりますのよ。」
メルク「みゅわわっ! なんだか責任のある仕事なのですよーっ!」
主人公「だよな、でもちょっと意外かも。だって……、政治の世界って、もっと年配の人が関わっているイメージがあったから……。」
主人公「だけど、メアリローサさんみたいな人もいるんですね。」
メアリローサ「私の場合は、少し異端かもしれませんわね。特に機械の国は、女性は男性に守られる存在である、という文化が根強く残っておりますもの。」
メアリローサ「だからこそ、私は変えたいと願ったのですわ! 身分や立場に関わらず誰もが得意な分野で、思う存分活躍できる世界や……、」
メアリローサ「古い文化を認めつつも、新しい文化を取り入れる時代を作りたいと!」
メルク「みゅーっ! とても立派な考えなのです!」
主人公「……でも、メアリローサさんが、それだけ変えたいと願うということは……、」
メアリローサ「ええ、まだまだ古い体制が残っておりますわ。実際、私の妹……、イムアちゃんも文化の壁に苦しみ、望む進路が絶たれかけたことがありましたもの。」
主人公「その壁というのは、いったい?」
メアリローサ「分かりやすく言うならば、階級ですわ。」
メルク「……つまり、イムアさんの身分には合わない夢を抱いてしまった、ということなのです?」
メアリローサ「ええ、イムアちゃんは機械技師を目指しておりましたの。ですが、私たち姉妹が生まれついた家は、名家と呼ばれる由緒正しき血統だった……。」
メアリローサ「そういった家の子女は、習い事をし、作法を学び……。やがて同じ身分の殿方の元へ嫁ぐのが、最も幸せだとされているのです。」
主人公「……なるほど。だからイムアさんが選ぼうとした夢は、身分に相応しくないと言われてしまったんですね……。」
メアリローサ「すべてを捨てて家を飛び出そうとするイムアちゃんを、私は何度も引きとめましたの。もちろん、父上と母上も……、」
メルク「みゅうううっ! それで、イムアさんはどうなったのです!?」
メアリローサ「イムアちゃんは夢を諦めませんでしたの! 結果、私や父上たちも彼女の情熱に打たれ、今では家族全員でイムアちゃんを応援していますわ!」
メルク「みゅーっ! 良かったのですよー!」
主人公「……そっか、メアリローサさんは、過去にそういった経験をしているから、余計に国を変えたいと思うようになったんですね……。」
メアリローサ「仰る通りですわ。だから私は……、国に巣食う古き体制という病巣を治療すべく、国内外問わず、優秀な人材を集めることにしましたの。」
メルク「なんだか小説で活躍する、知的で活発な女性みたいなのですよ! それで、どんな方をスカウトしたのです?」
メアリローサ「学者に技術者、とにかく大勢の方に会いにいきましたわ。その中でも、特に私を驚かせたのが、新時代の医療を取り扱う、イノセンタですわね。」
主人公「新時代の医療? それって、どんな……?」
メアリローサ「薬草や薬樹が持つ治癒力に、最新医療を組み合わせて、安心で安価な治療を、誰もが平等に受けられる仕組みを、イノセンタは作ろうとしたのですわ。」
メルク「……誰もが平等。メアリローサさんの描く理想と、どこか似ているのですよ!」
メアリローサ「彼もまた、挫折を知るものでしたわ……。植物の国で志を共にする仲間と、イノセンタは夢の治療法を広めようとしたのですが……、」
主人公「……上手く行かなかったんですか?」
メアリローサ「人は時に、新しいものを怖がる時がありますの。そのため、残念なことに投資家や病院からの出資を、受けることができなかったのですわ……。」
メアリローサ「でも、私は自分のためではなく、人のために情熱を燃やすイノセンタに、どうしても夢を実現して欲しいと思ったのですわ!」
メルク「みゅ~っ! だから、スカウトしたのです!」
メアリローサ「初めて会いに行った時、私は彼が落ち込んでいるのではと、考えておりましたの。」
メアリローサ「……なぜなら、私が植物の国を訪れたのは、彼が最も期待を寄せていた投資家から、断りの連絡を受けた直後だったのですから……、」
主人公「どんな風に、声をかけていいか迷いますね……。」
メルク「なのですよ~……。」
メアリローサ「ですが、すべては杞憂でしたわ。なぜなら、彼は寝る間も惜しんで新しい薬を開発し、それを再び広めようとしていたのですもの。」
主人公「逆境にめげないなんて、すごいな……。」
メルク「イノセンタさんは、本当に立派なお医者さんなのです!」
メアリローサ「新薬の開発を終えた彼は、睡眠不足で目の下に隈があるのに笑っていましたわ。『この薬があれば新しい風が吹くはず』と言って……。」
主人公「新しい風……、か。イノセンタさんなら実現できそうですね。」
メアリローサ「イノセンタがいれば医療の現場は変わる……。そんな彼の情熱に負けないよう、私も歩み続けなければなりませんの。」
メアリローサ「だからこそ、貴方たちに会いに来ましたのよ……。」
主人公「俺とメルクに……、ですか?」
メアリローサ「……ええ、モンスターを癒し、人との関係を一変する癒術には、新しい時代をもたらす可能性があります。」
メアリローサ「その奇跡を間近で視察し、肌で感じるために、このメアリローサをお二人の仲間にして欲しいのですわ!」
メルク(みゅわわわっ! なんだか責任重大な旅になりそうなのですよ!)
主人公(仲間になってもらえるのは嬉しいけど、俺たちでいいのかな……)
主人公&メルク(自信ないかも……)
<平原>
メアリローサ「あら、もう陽が暮れて来ましたわね。今日はこちらで野宿ですの?」
主人公「いや、貴族のメアリローサさんに、野宿をさせるのは、さすがに……、」
メルク「みゅ? 主人公さんが癒した、ノーズホーンがメアリローサさんのスカートを引っ張っているのですよ?」
ノーズホーン「ぐるる……!」
メアリローサ「あらあら、貴方ったら、すっかり懐いてしまいましたわね。」
主人公「んっ? メルク、あれ……。茂みの向こうに果物がなってる。」
メルク「みゅーっ! きっとノーズホーンは、野宿するメアリローサさんを想って、果物の場所を教えてくれたのですよ!」
メアリローサ「モンスターが私のために? ふふっ、ありがとう……。こんな幸せな経験をしたのは、初めてですわ。」
ノーズホーン「ぐるる! ぐるるる!」
メルク(メアリローサさんも、ノーズホーンもとてもうれしそうなのですよ!)
主人公(新しい時代を追い求める議員……、か。俺たちがどこまで役に立てるか分からないけど、出来ることをがんばってみるか……)
メルク(なのですよーっ!)
主人公「……あの、メアリローサさん!」
メアリローサ「はい? どうかしましたの?」
主人公「俺、まだまだ駆け出しの癒術士ですけど、精一杯がんばりますので、よろしくお願いします!」
メアリローサ「ふふっ、新しい風が吹きそうな気配がしますわね。主人公さん、メルクさん……、こちらこそ、よろしくお願いするのですわ。」