「歌楽壇の唱帝」アンテル

主人公「あれ、アンテルさん？なにしてるんですか、そんな隅っこに隠れて……、」

アンテル「シッ！ファンに見つかって隠れてるんだ……。」

主人公「そ、そんな戦々恐々としなくても……。」

アンテル「君が僕の公演を見たのはパルティシオだけだろ？あそこは歴史ある町だから、それだけ聴衆のマナーも公演のやり方も洗練されてるんだ。」

主人公「はぁ……、」

アンテル「僕がまだディーヴァになる前はあちこちの地方を巡ってコンテストに出てたんだけど……、大変な目にあったよ。いや、歌い方をわかってなかったのも悪いんだけど……、」

主人公「歌い方？」

アンテル「知ってるだろうけど、鳥族の歌声には力がある。歌声が技術によって、洗練されればされるほどその力は強くなるんだ。……僕が学んでいた歌唱法は最も歌の力を強くするもので、まだその力の本質も分からないまま、コンテストに出た。そうしたら……、」

アンテル「……歌い終わった瞬間、観客の人が殺到してきた。」

主人公「えっ。」

アンテル「歌ってる間はおとなしく聞いてくれるから、どうにか歌いながらその場から逃げて……、後日、僕が優勝したと風のうわさで聞いた。自然の力さえも従えることができるんだ、それも当然だと今は分かったけど……。」

主人公「でも、アンテルさんの歌声に聞きほれてたのにどうしてその観客の人たちはアンテルさんに殺到したんですか？もっとこう、大事に扱いそうなのに……、」

アンテル「前にも言ったことがあっただろ。美しさは、人を惑わし、魅了し、従えることができるものらしいけど……、同時に、求められ、縛られ、食われるものなんだろうって。それを別の意味でも実感した。パルティシオの人々は美しいものに対して敬意を抱き、称え、祭り上げる……、だけど、そうじゃない人たちもいるんだ。美しいものに触れたい、手に入れたい、征服したいと思う人たちも。」

主人公「それはもはやファンじゃないのでは……？」

アンテル「歌の力で魅了された人たちは普段はあるストッパーをなくして、心のままに美しいものを各々の方法でめでようとする。奉仕したい人もいれば、征服したい人もいる。」

主人公「従えるって言っても、操るっていうのとは、また違うんですね……。」

アンテル「全ッ然違う、まったく操れなんかしない。下手におだてたり、時に偉そうにしてお願いを聞いてもらったり、襲われないようにしてるんだ。」

主人公「た、大変ですね……。」

アンテル「それでも全部、計画のためだと耐えられたよ……。君たちの存在も支えになってくれたしね。それにその件の後すぐ、鳥族の歌の力だって気づいて公の場では鳥族の力を抑えた歌い方に変えてからはそこまでの大事には至ってないし。まぁ、それでも完全には抑えられなくてたまにこうして追いかけられるんだけどさ。」

主人公「ま、まあ！追っかけの人たちもそろそろあきらめたと思いますし……、」

「いたわーっ！」

「きゃーっ、触りたい！」

主人公「……、」

主人公「どうにか逃げられたか……。アンテルさん、無事……、じゃなさそうですね、服が。」

アンテル「……服１枚であの場を切り抜けられたなら安いものだよ。でも、これでわかっただろ、僕があれだけ戦々恐々としていたわけを……。」

主人公「服とボタン引きちぎられて半裸状態で言われるとすごい説得力がありますね。」