「夜を泳ぐ魔物」アレッツ

「まいどありー！」

メルク「ありがとうなのですよ、アレッツさん！おかげでこんなに値引きしてもらえたのです！」

主人公「こんな暑い買い物についてきてくれてありがとうございました。それにしてもあんな交渉術、どこで学んだんですか？」

アレッツ「ふふっ、お褒めに預かり光栄だね。監獄都市にいた頃、囚人のひとりに教えてもらったのさ。」

主人公「監獄都市！？いったいどうしてそんなところに……」

アレッツ「…。」

主人公「アレッツさん？」

アレッツ「ん？ああいや、なんでもないさ。それで、何の話だったかな？」

メルク「みゅっ！？アレッツさん、顔色が悪いのです！大丈夫なのですよ！？」

主人公「うわっ、ほんとだ！汗もすごいし……、きっとこの暑さのせいですよ！早くどこか室内に入りましょう！」

～(紹介所へ移動)

主人公「アレッツさん、大丈夫ですか？紹介所で荷物を預かってもらったので、しばらくここで休んで……、」

主人公「って、うわっ！」

メルク「アレッツさんが溶けたチーズみたいに……。」

アレッツ「やれやれ、情けないところを見せちまったな。どうにも最近は、前にもまして暑さに弱くなってきたみたいでね。

メルク「何か変化があったのですよ？」

アレッツ「ああ、もどかしいほど緩やかに。つまりモンスターへと近づいてきてるってわけだ。」

主人公「あ、それで……。いつかアレッツさんが姿を変えるモンスターは暑さに弱い種類なんですね。」

メルク「もしかして、それでそんな厚着をしてきたのです？」

アレッツ「ふふっ、その通り。陽射し除けでね。はあ、暑さと乾燥にはどうにもまいるな。」

メルク「そういうことなら、さっきのお礼なのです！しばらくの間、私が扇ぐのですよ！」

主人公「って、メルクに扇は持てないだろ。」

メルク「みゅーっみゅっみゅっみゅ。扇でなくても薄い紙があれば、事足りるのですよ！とうっ！」

主人公「そよ風！」

アレッツ「ふふっ、涼しいな。悪いね、礼を言うよ。」

メルク「ふふん！アレッツさんは喜んでくれてるのですよ！」

主人公「そよ風ならそよ風って言ってくれていいんですよ……。」

主人公「あ、荷物を置くついでに果実水もらってきたのでどうぞ。紹介所にちょうど魔法使いの人がいたみたいで、ラッキーなことに冷たいですよ。」

アレッツ「……。」

主人公「どうかしました？」

アレッツ「いや……、面白いなと思ってね。人間とこうして過ごしているオレがさ。」

主人公「え？」

アレッツ「昔はオレを親父から引き離した人間が嫌いだったよ。だから人間社会に馴染めず、監獄都市に連れていかれることになったりしてね。」

主人公「それでさっき、監獄都市にいたって……。」

メルク「なんだか想像つかないのです。」

アレッツ「ふふっ、オレだってやんちゃな時期はあったんだぜ。だが、暴れてるばかりじゃ、いつまでたっても親父を探しに行けねぇことに気づいたわけだ。」

アレッツ「だから監獄都市で人間の習慣や文字やらをお勉強したのさ。人間社会に溶け込めるようにね。」

主人公「そうだったんですか……。」

アレッツ「だが、ひとつだけ誤算があった。そうして……、人間の社会に溶け込んで、人間を知るほど、人間と関わるほど、昔と同じままの怒りは抱けなくなったのさ。こんなふうにね。」

主人公「アレッツさん……。」

アレッツ「オレも年を取って丸くなったのかもしれないね。」

主人公「年って……、アレッツさんはまだ若いじゃないですか。」

アレッツ「モンスターとしてはな。」

主人公「えっ。」

アレッツ「ふふっ、オレの居場所は変わらないけどね。でも、モンスターの不利益にならない限りは、気が向いたときに手を貸してやってもいいぜ。」

アレッツ「この果実水と、そよ風のお礼にでも。」

メルク「アレッツさん！って、やっぱりそよ風だと思ってたのですよ！？」

アレッツ「夜は涼しくていいね。……、今夜は星がよく見える……。

アレッツ「(……オレたちはなべて、孤独の星か。だけど、あんたはきっとオレと同じ孤独を知っているから）」

アレッツ「(この旅の間くらいは手を伸ばしていたいね。届かないからこそ、星の輝きが美しいのだとしても）」

アレッツ「……ふふっ。さよならを先延ばしにするのは、人間のずるいやり方だな。」