「誰が為の涙」パルシャ

主人公「いたっ！」

メルク「主人公さん、どうしたのです？」

主人公「あ、足の小指をぶつけた！痛い！　すごく痛い！なんというか……痛い！」

メルク「あまりの痛さに語彙力を失っているのですよ！だ、大丈夫なのです？」

主人公「駄目っぽい……。今すぐにでも泣きたい気分だ。というか、もう涙がこぼれて……、」

パルシャ「おーいおいおいおい！」

メルク＆主人公「……！？」

パルシャ「おいたわしや！　おいたわしや！なぜこのような年端もいかぬ少年が、不幸に襲われないといけないのでしょうか！」

パルシャ「太陽の神よ！　月の神よ！そして愛深き太鼓の魚よ！　我が弟よ！この少年を苦しみより救ってくださいまし！」

パルシャ「おーいおいおいおい！」

主人公「え、ええっと……？」

パルシャ「おろろ？顔から悲しみが失せていますね。祈りが届いたのでしょうか……？」

主人公「い、いや、面食らってしまって、泣いてる場合じゃなくなったと言うか……。」

メルク「あの……、あなたは、どこのどちら様なのです？」

パルシャ「おろろ！も、申し訳ありません！わたくしったら、また感情のままに泣いてしまって……、」

パルシャ「申し遅れました。わたくしの名はパルシャ、踊り子でございます。」

主人公「へぇ、踊り子を……。あっ、俺は主人公っていうんだ。」

メルク「私はメルクなのですよ！どうぞよろしくなのです！」

主人公「それで、どちらかというとこっちが本題なんだけど……、パルシャはどうしてあんなに泣いてたんだ？」

パルシャ「あぁ、お恥ずかしいかぎりでございます。わたくしは生まれつき感受性が強いらしく、特に悲しみの感情には敏感なのです。」

パルシャ「この度も貴方様の悲しみを察知してしまい、その心中を思うと涙が止まらなくなった次第でございます。」

主人公「な、なるほど。つまり俺の痛みに共感して泣いてくれたってことか。」

パルシャ「おっしゃる通りでございます。見ず知らずの女が急に泣きだしてさぞ混乱されたでしょう。深くお詫び申し上げます……。」

主人公「あ、謝ることじゃないから！とりあえず頭をあげてくれ。」

メルク「知らない人のことをそこまで思いやれるのは、素敵なことなのですよ！パルシャさんは優しい方なのですね。」

パルシャ「お、おろろ……！許していただけるばかりか、お褒めいただけるなんて！」

パルシャ「ああ、遠き異国の地にも、我が弟のような聖人はいらっしゃるのですね。わたくし、痛く感動しております……！」

パルシャ「うう、ぐしゅ！本当に、感動して……！」

パルシャ「おーいおいおいおい！」

主人公「嬉しくても泣くんだな……。」

パルシャ「た、たびたび申し訳ありません。ひとり旅をしておりますと、どうも心が弱ってしまい、昔以上に涙もろくなってしまったのです。」

メルク「パルシャさんはひとりで旅をしているのです？」

パルシャ「はい。未熟な己を鍛える、修行の旅でございます。」

パルシャ「ですが、わたくしにひとり旅は無理があったようです。今日まで涙無しには語れない苦労の連続でございました。」

主人公「わかる！旅ってお金の管理とか、その日の食事のこととか、考えないといけないことがたくさんあるよな。」

パルシャ「おろろ？そこは特に苦労はしませんでしたが……？」

主人公「えっ。」

パルシャ「故郷では家事を一手に引き受けておりましたし、その日の宿泊費、食費程度なら踊りで稼げますので。」

パルシャ「わたくしが苦労したのはその……、弟を愛でられないことなのです。」

パルシャ「以前であればそれはもうラブラブイチャイチャな毎日を過ごしていたのですが、旅に出てからはそれも叶いません。」

パルシャ「１日、２日なら何とかなったのです。しかし、３日を過ぎたあたりから体調が悪くなり、最近では年下の男の子がみな弟に見える始末……、」

主人公「かなり重症だな……。」

パルシャ「正直に申し上げますと、主人公様も弟に見えております。」

主人公「かなり重症だな！」

パルシャ「ええ、このままでは修行もままなりません。なので弟の代わりになるような仲間を求め、この紹介所へとやってきた次第でございます。」

メルク「とんでもない理由なのですよ！」

パルシャ「お、おかしいのは重々承知していますとも！しかし、このままでは取り返しのつかない事になりそうで……、」

パルシャ「……。」

メルク「パルシャさん？急にぼーっとして、どうしたのです？」

パルシャ「申し訳ありません。あそこにわたくしの弟がいたので見守っていたのです。」

パルシャ「おろろ、飛びまわって危ないですね。怪我をしないうちに連れて帰らないと……、」

メルク「落ち着くのですよ！パルシャさんが今見ているのはちょうちょなのです！」

パルシャ「おろろ！？」

主人公「もはや、虫すら弟に見えるのか……。あんまり猶予はないみたいだな。」

主人公「……パルシャ。弟代わりの仲間を探しているなら、俺はどうだ？」

パルシャ「お、おろろ？」

メルク「いいのですよ、主人公さん？」

主人公「このまま放っておいたら危なそうだしな。それに、俺たちも仲間を探してただろ？」

メルク「たしかに、聞いている話だと家事なども得意なようなのです。仲間になってくれればとても助かるのですよ！」

パルシャ「おろろ。申し出はとても嬉しいのですが……、本当によろしいのでしょうか？」

主人公「勿論。パルシャが嫌でなければ、だけど。」

パルシャ「とんでもありません！願ったりかなったりのお話でございます！是非、同行させてくださいませ！」

主人公「ああ、これからよろしくな。」

パルシャ「ああ、慈悲深い方……。わたくしは、なんと幸運なのでしょう。本当に、幸運で……ぐしゅっ！」

メルク「泣かないでほしいのですよ！これ以上泣いたら干からびてしまうのです！」

パルシャ「そ、そうですね。ああ、わたくしったらすぐに泣いてしまって、お恥ずかしい……。」

パルシャ「メルク様、感謝しますわ。わたくしのような者を心配してくださるなんて、なんとお優しい方なのでしょう。」

パルシャ「本当に優しくて、おそらくわたくしより年下で、目がふたつあって、口があって……、」

パルシャ「おろろ？もしやメルク様は、わたくしの弟なのでは？」

メルク「ついに性別も無視しだしたのです！違うのですよ、しっかりするのです！」

パルシャ「おろろ！？」

主人公「完治には時間がかかりそうだなぁ……。」