「真朱の案内嬢」ファーティ

主人公「あれ？紹介所にこんなパンフレット、置いてあったっけ。なになに……、『そうだ、観光都市行こう』。」

メルク「ものすごくインパクトがあるキャッチコピーなのですよ。」

主人公「この表紙の絵を描いたのは……リアットさんか。」

メルク「……ものふごくインパクトがある表紙なのですよ。」

主人公「中身は……すごいな。観光都市の見どころが、詳しくまとめられてる。」

主人公「季節のイベントから、一軒一軒のお店の特徴まで……。」

主人公「前に行ったことのある俺でも、知らないことがたくさん……。読んでるだけで、観光都市を歩いてる気分になるな。」

メルク「みゅ～、見ているだけで、観光都市に行きたくなってきたのですよ！とっても素敵なパンフレットなのですよ～！」

ファーティ「興味を持っていただけましたかっ！？」

主人公「うわっ！？だ、誰！？」

ファーティ「おっと、失礼いたしました。あたし、観光案内所のファーティです。」

ファーティ「癒術士の主人公さんですよね？どうですか？観光都市、行きたくなっちゃいましたか？」

主人公「あっ、ああ。俺、観光都市には前に行ったことがあるんだけど、これを見ていたら、もう１度行きたくなってきたよ。」

ファーティ「わあっ、本当ですか？やったあ！　お仕事、頑張った甲斐がありました！」

主人公「えっ？このパンフレット、ファーティが作ったのか？」

ファーティ「はい！　それ、全部あたしが担当したんです。リサーチに記事作成、宣伝、広報、それからツアーガイド。」

ファーティ「観光都市のピーアールは、まるごとあたしのお仕事ですから！」

メルク「ファーティさん、もしかしてそれは全部おひとりでやっているのですよ！？す、すごい働き者なのですよ～！」

主人公「そんなに色々な仕事を任されてるってことは、案内所の人たちからも、すごく信頼されてるんだろうな……。」

ファーティ「あっ、よろしければ、こちらのチラシもどうぞ！」

ファーティ「これはこの前、あたしが取材させていただいた、パン屋のおやじさん特製『とろとろ温泉卵パン』のチラシです！」

主人公「ぬ、抜かりない売り込みっぷり……！このチラシもファーティが作ったのか？」

ファーティ「はい！いやー、あれはとっても大変な仕事でした……！」

ファーティ「あの時は『とろとろ温泉卵パン』の取材のため、おやじさんの護衛として、温泉で有名なセンオン地方まで行ったんです。」

主人公「案内所の職員なのに、護衛まで買って出たのか！？」

ファーティ「あたしはおやじさんを護衛しながら、センオン地方まで向かい……。」

主人公「うんうん。」

ファーティ「疲労しきった足を足湯で癒し……。」

主人公「うん、うん。」

ファーティ「そのあと、おやじさんと共にセンオングルメ食い倒れツアーを敢行し……。」

主人公「うん……うん？」

ファーティ「とろとろ温泉卵をいろんな食べ方でいただき……。おやじさんの試作パンをたらふく試食させていただき……。」

ファーティ「所長たちへのおみやげを買いこんで、案内所に帰還……。」

ファーティ「いやー、本当に大変な仕事でした！」

メルク「いつの間にか、センオン地方観光ツアーの話になってたのですよ！？」

ファーティ「帰ってきた後、お怒りのリゼル先輩に山のような始末書を書かされちゃったんですよねー。いやー、あれは大変だった！」

主人公「大変だったのってそこかよ！」

ファーティ「『所長手当申請しまくりの先輩を癒す、素敵な雑貨屋さんツアー』へご案内するまで、先輩、全然許してくれなかったんですよー。」

ファーティ「もう、先輩ったらカタブツなんだから。素敵な雑貨屋さんに行くときは、あんなにかわいい顔するのになー。」

主人公「いや、今の話を聞く限り、どう考えてもファーティが悪いって！」

主人公「仕事だって言って遊んできたんだから、怒られるのも当然だろ！」

ファーティ「遊びは仕事のうちに入るのでオッケーです。」

メルク「何をどうしたらオッケーが出るのですよ！？」

ファーティ「あたしがオッケーを出しました！」

主人公「それじゃダメじゃないかな！？」

ファ－ティ「ダメじゃないですよ、これも立派なお仕事なんですから。」

ファーティ「それに、全部経費で落ちましたもん！経費で落ちたってことは、仕事として認められたということです！　えっへん。」

主人公「(い、一体どんな手を使ったんだ……！？)」

主人公「ていうかファーティ、仕事の途中に遊んでたっていうより、はじめから遊びに行く気満々だっただろ！しかも全然反省してないみたいだし！」

ファーティ「何言ってるんですか、主人公さん！いいですか？遊ぶことは、仕事をすることなんです！」

主人公「……。」

メルク「……。」

ファーティ「遊ぶことは、仕事をすることなんです。」

主人公「２回言っても無駄だからな！？その揺るぎない信念は一体どこから湧いて出てくるんだ……。」

ファーティ「それはですねー。１年前、あたしが故郷を出て、初めて観光都市に旅行に来た時のこと……。」

ファーティ「遠路はるばるやってきたはいいものの、観光都市のカラフルっぷりにはしゃぎすぎたあたしは、うっかり財布を無くしてしまったのです。」

メルク「財布を！？」

ファーティ「所持金、０ゴルドです。」

主人公「絶望的だ……。」

ファーティ「おのぼりさんだったのです。」

主人公「き、気持ちは分かるけども……。」

ファーティ「泊まる宿もなく、困り果てて案内所に飛び込んだあたしを、リゼル先輩は優しく丁寧に案内してくれました！」

ファーティ「あたしの財布を探してくれて。あたしの宿屋も手配してくれて。」

ファーティ「それだけじゃなくて……、先輩自身が観光都市を案内してくれたんです。」

ファーティ「すっごく、楽しい１日でした！あたし、その時のことが忘れられなくて。だから案内所の採用試験を受けたんです！」

ファーティ「観光自体も楽しかったけれど……、リゼル先輩を見て、誰かに楽しいって感動を知ってもらうってことは、すごく素敵な仕事だって思ったから。」

ファーティ「だから、あたしも楽しみたいんです。だって、案内をする人自身が楽しまなくて、どうしてお客さまが楽しめるって言うんですか！」

ファーティ「お客さまは、旅行を楽しむために案内所を訪れているんです。案内をするあたしたちが、お客さまに全身全力で寄り添うのは当然！」

主人公「ファーティ……。ごめん、お前のこと勘違いしてたみたいだ。」

主人公「ファーティは自分の考えを持って、自分の仕事に真剣に向き合ってるんだな。」

ファーティ「いいんです、主人公さん。あたしたちの職務は、観光都市に来たお客さまに、旅行をめいっぱい楽しんでいただくこと。」

ファーティ「主人公さんの旅に同行するのも、仕事の一環なんです。」

ファーティ「王国の外にも足を運んで、いろんなことを体験して、それをお客さまのガイドに生かそうと思って！」

メルク「ファーティさんが紹介所に来たのには、そういうわけがあったのですね……。私、ファーティさんのことを応援したいのですよ！」

ファーティ「ありがとうございます、メルクさん！それじゃあ、今すぐ出かけましょう！」

ファーティ「『主人公さん＆メルクさんと行く、王国３人旅ツアー』開始です！」

主人公＆メルク「えっ？」

ファーティ「あっ、その前に経費の申請しとこう。」

ファーティ「えーっと、『あたしたちのグルメツアー代』、『あたしたちのショッピング代』、『あたしたちの宿泊代』、それからそれから……。」

主人公「やっぱ全力で遊んでるよこの人！」

ファーティ「『案内所のみんなへのおみやげ代』……。うーん、みんなに何買ってあげようかなー！」

ファーティ「おふたりとも、どこかおすすめのお店ってありますか！？」