「片恋の情報屋」フォールゼン

＜街中＞

紹介所のお姉さん「あら、このパン、新作ね。１つちょうだい。」

パン屋のおやじ「おう、いつもありがとよ。」

主人公「あの、フォールゼンさん、本当にやるんですか……？」

フォールゼン「もちろん！ これがおれたち、情報屋の仕事だからな！」

主人公「声でかっ！」

フォールゼン「ああ、悪い悪い。癖でな。」

主人公「いや、それはいいんですけど『おれたち』って……。」

主人公「俺はただフォールゼンさんに手伝って欲しいことがあるって言われたからついてきただけで……。」

フォールゼン「なんだ、主人公。お前は乗り気じゃないのか。」

主人公「当たり前じゃないですか！ だってまさか、その手伝いっていうのが、紹介所のお姉さんの尾行だとは思わなくて……！」

主人公「うう、尾行してるのがバレて、怒られたらどうしよう……。というか、尾行って……。」

フォールゼン「大丈夫だ。情報屋の先輩として、俺がバレない尾行の方法を教えてやるから！」

主人公「あの、フォールゼンさん！ やっぱり声がでかいですって。これじゃあ尾行してるのがバレちゃいますよ……！」

フォールゼン「ああ、うっかりうっかり。つい熱が入ってしまったな。」

主人公「は、はあ……。」

主人公「そもそも、なんで紹介所のお姉さんを尾行するんです？」

フォールゼン「あっ、ああ。依頼があったからだ。」

フォールゼン「『紹介所のお姉さんに彼氏がいるかどうか調べてほしい』と。」

主人公「そうなんですか！？」

フォールゼン「ああ、お姉さんは美人だからな。告白する前に事前に調査しておかないと……。」

主人公「え？ 告白？」

フォールゼン「あ、いやその、あれだ！」

フォールゼン「依頼主が紹介所のお姉さんに告白したいけど、彼氏がいたら困るから、事前に調査して欲しいって話だったんだ。」

主人公「ああ、そうだったんですね。」

フォールゼン「おっ。向こうから若い男が来るぞ。あれはもしかして……、彼氏か？」

村のお兄さん「このあいだはありがとうございました。これ、すごく面白かったです。」

紹介所のお姉さん「あら、本当？ それならよかったわ。」

主人公「あの男の人、一昨日、紹介所で見かけましたよ。」

村のお兄さん「また、続きを貸してもらえませんか？」

紹介所のお姉さん「もちろんよ。」

フォールゼン「うーむ。どうやら本の貸し借りをしているだけのようだな……。」

フォールゼン「いや、待てよ。これは実はカモフラージュ！ 実はこっそりふたりは裏で付き合っているとか……！？」

主人公「フォールゼンさん！ また声が大きいですって！」

フォールゼン「ああ、すまんすまん。どうもおれは、喋り声がでかいらしくてな。」

主人公「えっと、それって尾行するのには致命的なんじゃ……、」

フォールゼン「おっ。お姉さんが移動するぞ！ おれたちも後を追いかけよう！」

主人公「は、はい……。」

＜紹介所＞

フォールゼン「おや。紹介所に戻ってきてしまったな。」

主人公「結局、なにも成果はありませんでしたね……。」

紹介所のお姉さん「あーなーたーたちー！？」

フォールゼン＆主人公「ひっ。」

紹介所のお姉さん「さっきから私の後をつけてきていたみたいだけど、一体何なの？」

主人公「す、すみません！ これには訳があって……！」

＜時間経過＞

紹介所のお姉さん「私に告白を……！？」

主人公「ですよね、フォールゼンさん。」

フォールゼン「えっ、ええ。ぜひ調べてほしいと依頼がありまして……。」

紹介所のお姉さん「ふ……、」

フォールゼン「ふ？」

紹介所のお姉さん「ふふふっ。」

紹介所のお姉さん「びっくりしたわ！ そんなことを言ってくれる人がいたのね。一体誰がそんなことを依頼したの？」

フォールゼン「そ、それは言えません！ 依頼主の秘密を守るのは情報屋の基本ですから！」

紹介所のお姉さん「あら、残念。その人と話をしてみたかったのに……。」

フォールゼン「え？」

紹介所のお姉さん「だって、私に興味を持ってくれるなんて、すごく嬉しくって！ どんな人なのかしらって気になったのよ。」

フォールゼン「それは……、」

主人公「ん？ フォールゼンさん、どうしたんですか？ 急に声を小さくして……。」

フォールゼン「なんだ……、直接聞いたら良かったのか……。」

紹介所のお姉さん「あっ、フォールゼンさん。もしかして、あなたが言う依頼主って……、」

「あーっ！ そうだ！ 別の依頼が入っていたんだ！ 主人公、おれはまたちょっと出かけて来るよ！」

主人公「ちょ、ちょっと、フォールゼンさん！？」

紹介所のお姉さん「ふふ、素直じゃない人ね。」

主人公「えっと、どういうことですか……？」

紹介所のお姉さん「主人公くんには内緒よ。」

紹介所のお姉さん「……フォールゼンさんが帰ってきたら、紅茶の１杯でもごちそうして、話をしてみようかしらね。」