「鞭打つ火莨」フラゲルム

フラゲルム「あぁー。」

フラゲルム「うわあぁああああ……。」

フラゲルム「煙草吸いてぇ！ でも、我慢だ、俺！ 俺ならできる！」

フラゲルム「せっかくあの大佐から離れられたんだ！ これを機に、絶対禁煙するって決めただろ、俺！」

フラゲルム「元カノも、俺が煙草やめたらもう１度付き合ってくれるって言ってるし……！」

フラゲルム「……。」

フラゲルム「でも、１本くらいなら喫煙のうちに入らねえんじゃ……、」

主人公「フラゲルムさん、あの……、」

フラゲルム「うわっ！？」

主人公「えっ！？」

フラゲルム「な、なんだ主人公かよ、驚かせんな。」

主人公「す、すみません。」

主人公「って、煙草！」

主人公「フラゲルムさん、出会った時に禁煙するって言ってましたよね？ それに紹介所で煙草を吸っちゃだめですよ。」

フラゲルム「わ、わかってるって～。今のはちょっとした気の迷いだからさ！」

フラゲルム「今の俺は、超絶ストレスフリー！ 禁煙するにはぴったりの状況なわけ。」

主人公「それならいいですけど……。」

主人公「あっ、そうだ。これ。フラゲルムさん宛てです。」

フラゲルム「ん？ なんだこれ？」

主人公「今さっき届いたみたいです。ディスノルドさんって人からの手紙で……、」

フラゲルム「げ。」

フラゲルム「主人公。その手紙、届かなかったことにしてくれ。」

フラゲルム「どこかで失くなったってことにしてくれても構わねえ。」

主人公「えっ、そんなの無理ですって！ せっかく届いたのに読まないんですか？」

フラゲルム「……それを読んだら。」

主人公「読んだら……？」

フラゲルム「……俺の禁煙生活は終わる。」

主人公「な、なんでですか！？」

フラゲルム「その手紙の差出人……、ディスノルドっていうのは、俺の直属の上司だ。上司からの手紙ときたら、仕事に決まってんだろぉ！」

主人公「いや、そうとも限らないんじゃ……、」

フラゲルム「あの人からの手紙だ！ 絶対に仕事に決まってる！」

フラゲルム「俺は！ ようやく！ 大佐の魔の手から逃れて悠々自適な国外任務がこなせると思ったのにぃ～！」

フラゲルム「国外に出ても追加の仕事だよ！ 旅に出てる部下に、自分の仕事をさせる気かよ！ 冷徹か！ 冷徹だな！ 知ってた！」

フラゲルム「だけど、ここで俺が断ったら、置いてきた部下たちにしわ寄せが……！」

主人公「フラゲルムさん！ いったん深呼吸しましょう！ そうしたら少し落ち着くんじゃ……、」

フラゲルム「……空気吸うより、煙草の煙を思いきり吸いたい。大佐から手紙がきたことを忘れてぇ。」

主人公「重症だ！」

フラゲルム「マジ、ムリ。ストレスフル。」

主人公「えっと、ディスノルドさんっていう上司の人とは、あまり仲が良くないんですか……？」

フラゲルム「いや、仲がいいとか悪いとか、そういう問題じゃねえ。あの人は『おじいちゃん』しか見えてねぇからな。」

主人公「おじいちゃん……？」

フラゲルム「大佐の祖父は常夏の国で１番偉い人なんだよ。元帥って役職だ。大佐の元帥ラブっぷりは軍の中でも有名でさ……。」

フラゲルム「大佐は、定期的に『おじいちゃんタイム』っていう元帥に思いを馳せる時間を取らねえと不機嫌になる。」

フラゲルム「それはもう、手がつけられないくらいに。」

主人公「……その上司のディスノルドさんっていくつなんですか？」

フラゲルム「２６だな。」

主人公「わりといい大人だった！」

フラゲルム「そうだよ。いい大人なのに部下に自分の仕事を押し付けてくる！ 主に俺に！ 大量に！」

主人公「うわあ……。で、でも、それはフラゲルムさんが優秀だから、頼ってるってことじゃないんですか？」

フラゲルム「それはどうだろうな……。」

主人公「あ、あと、そんなディスノルドさんにも良いところがあったり……、」

フラゲルム「……。」

主人公「……。」

フラゲルム「あー、そういえば。」

フラゲルム「前に、美味いかき氷屋が港の近くにあるって話をしたら、『かき氷好きのおじいちゃんに教えよう♡』って喜んで、なぜか俺の仕事減らしてくれたな……？」

主人公「ほ、ほら！ ディスノルドさんにも良いところあるじゃないですか。」

主人公「本当は冷徹なんじゃなくて、ちゃんと感謝の気持ちを持てる人なんですよ、きっと！」

フラゲルム「そ、そうかもな！ 俺が気づけてねぇだけで、大佐にも実は優しいところが……、」

フラゲルム「……ある、のか……？」

主人公「そこはあるってことにしましょうよ……。ほら、手紙にも労りの言葉が書いてあるかもしれませんし。」

フラゲルム「うーん、嫌な予感しかしねえけど、ひとまず封を切ってみるか。」

主人公「そうですね。はいこれ。」

フラゲルム「ああ、どうも。なになに……？」

フラゲルム「『オレからお前に重要な仕事を追加で送るから、いつもみたいに処理しとけよ。サボろうとしても無駄だからな！』」

フラゲルム「……。」

フラゲルム「やっぱり仕事じゃねぇか！ 主人公、大佐からの追加の仕事が来る前にここを出るぞ！」

主人公「えっ、まだ旅の打ち合わせも済んでないのに！？」

フラゲルム「いいから！」

主人公「わ、わかりました！」

紹介所のお姉さん「フラゲルムさん！ フラゲルムさん宛てになんだかすごく分厚い封筒が届いたんだけど……！」

フラゲルム「ま、まさか……。」

紹介所のお姉さん「送り主は……、ディスノルドさんって人みたいね。」

フラゲルム「遅かったぁあああ！」