「燈光の銀杖」クート

クート「……。」

主人公「……。」

クート「あ。」

主人公「あっ。」

クート「ちょうちょ、とんだ。」

主人公「飛んだな。」

クート「うん、とおくにいった。」

クート「ねえ、主人公。ちょうちょのはばたきはちいさなちいさなじしょーだけど……、」

クート「これがもしかしたら、おおきなできごとをひきおこすかもって、おもったりしない？」

主人公「大きな出来事……？ いや、思ったことはないな。例えばクートだったら、どんなことを考えるんだ？」

クート「たとえば。ちょうちょのはばたきが、よくじつ、おおあめをふらせたり。」

主人公「お、おお。」

クート「ちょうちょのひとこきゅうが、せいてんをめぐんでくれたり。」

主人公「な、なるほど……？」

クート「クートはそんなことをかんがえてる。」

主人公「……壮大な考え方をするな、クートは。俺、そんなこと思いもつかなかった。」

クート「たぶん、まだ、あまりひろまってないかんがえかただとおもう。クートがよんでるずかんにも、のってない。」

クート「いつか、おなじかんがえのひととあってみたいな。」

主人公「きっと会えるさ。世界にはいろんな人がいるんだから。」

クート「主人公……。ありがとう。」

クート「主人公はちょうちょがとぶまで、クートのかんさつに、つきあってくれたし……。うれしかった。」

主人公「ちょうど暇だったからさ。気にしないでくれ。でも、まさか窓辺の花から蝶が飛び立つまで、半日かかるとは思わなかった……。」

クート「クートにとっても、よそーがいのできごとだった。これは、かきとめておかないといけない。」

クート「よいしょっと。」

クート「あうっ。」

主人公「だ、大丈夫か、クート！？ 今、立ち上がった時にテーブルの角に頭ぶつけたよな！？」

クート「……。とてもいたい。」

主人公「怪我は？」

クート「ない。だいじょーぶ。それにクート、おにーちゃんだから、なかない。」

クート「あと、いまは、ちょうちょのかんさつができてクートごきげんだから。」

主人公「クートがそこまで蝶が好きだとは思わなかったよ。」

クート「ちょうちょは、クートのいえのシンボルだから。」

主人公「クートの家の？」

クート「そう。クートのいえ、こじいんなの。こじいんのシンボルが、ちょうちょなの。」

主人公「そうだったのか……。でも、なんで孤児院のシンボルが蝶なんだ？ いまいち、孤児院と蝶が結びつかないんだけど……。」

クート「さいしょのこじいんちょーさまがね。」

クート「『こどもたちのじんせいが、よいほーこーにへんかして、すこやかにせいちょーしてはばたいていけるように』ってねがいをこめたから、らしいよ。」

主人公「へえ。クートは自分の家のことをよく知ってるんだな。」

クート「ルスにぃがよくこのおはなしをしてくれるから。あとルクねぇもエルねぇも、このおはなしをしてくれる。」

主人公「あらたな登場人物たちについていけなくなりそうなんだけど……、」

主人公「ルス兄とルク姉とエル姉っていうのが、クートが一緒に暮らしてる人たちなのか？」

クート「そう。ちはつながってないけど、みんな、クートの『かぞく』だよ。あと……、」

主人公「あと？」

クート「ノンノっていう、じつのいもーとがいる。」

主人公「な、なんで急に表情が暗くなるんだ！？ 実の妹ってことは、ノンノはクートと血が繋がってるんだな。」

クート「そう。ぐまい。」

主人公「どこでそんな言葉覚えてくるんだ……。」

クート「ノンノとクートはふたごなの。かおはにてるけど、でもせーかくは、ぜんぜんちがうの。」

クート「ノンノはいつも『ふるぱわー』でクートにたたかいをいどんでくるし、いつも、はしってる。」

主人公「確かに、そこだけ聞くとクートとは正反対の性格だな。蝶の観察はしなそうだし。」

クート「そうなの。クートのちょうちょリロンも、ノンノはきいてくれない。ルスにぃたちは、きいてくれるけど……。」

主人公「俺は１人っ子で、きょうだいがいたことがないから、わからないんだけど……。兄って大変なんだな。」

クート「そうなの。おにーちゃんをやるって、たいへんなの。だからクートは、ルスにぃをそんけーしている。ルスにぃみたいな、すごいおにーちゃんになりたい。」

クート「そこでかんがえたのが！」

主人公「急に声が大きくなったな！？」

クート「これを、ルスにぃいがいにはなすのは、はじめてだから、ちょっと、こーふんしてしまった。」

主人公「そ、そうだったのか。」

クート「うん。……そこでかんがえたのが、『すごいおにーちゃんけいかく』なの。」

主人公「『すごいおにーちゃんけいかく』？」

クート「そう。りゃくして『すごおにけいかく』だよ。」

主人公「あれ、あんまり略せてないような……？」

クート「そういうところは、おとなのじじょーなの。つっこんだら、まけ。」

主人公「はい。」

クート「『すごおにけいかく』はこう。ノンノが『ぷるぱわー』で、はしってきたとき……、」

クート「クートが、ルスにぃみたいに、かっこよく『ノンノ、はしっちゃだめだぞ』ってノンノをりょーてでうけとめるの。」

主人公「おお、それは確かに兄っぽいな。」

クート「でしょ？ でも、まだ１ども、せいこうしていない……。」

クート「ノンノはあしがはやいから、ぜんぜんつかまえられないし、クートに『えいっ』ってあそびで、ぶつかってくるから……、」

クート「けっきょく、クートは『ノンノにはかてないせんげん』をしてしまう。クートはよわい……。」

主人公「クート……。」

クート「でも、ノンノのことはだいすきだよ。クートがこまってたら、まっさきにかけよってきてくれるのは、ノンノだから。」

クート「ルスにぃのことも、ルクねぇのことも、エルねぇのこともクートはだいすき。みんなやさしくて、あったかいから。」

主人公「そっか。大事なんだな、家族のこと。」

クート「せかいでいちばん、だいじなたからものだよ。」

クート「だってクート。『かぞく』がいるおかげでまいにち、たのしいから。」